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■オープニング本文 合同新年会の大騒ぎから数日の後。 今年最初の合同講義は、いろいろな術の再確認から始まった。 朱雀寮の寮長、各務紫郎は新年会のことを話題に出しながら術の基本的な知識を教えようとしている。 「合同新年会で、三郎にも注意しましたが、常日頃日常的に使っている術でも意外に解らない事や勘違いしていることがありますから、改めて再確認してみましょう。例えば、人魂です」 そう言って講義の言葉を止めた寮長は手の中に式を具現化させた。 燃え上がるような朱の鳥。朱雀である。 「人魂は小動物を具現化するモノです。人、または人型のものを象ることはまずできません。イメージをしっかり持つことによって、多少の外見のアレンジが可能ですから空想上の生き物を形造ることはできますが、現実に存在する生き物は、あまり巨大過ぎると具現化が難しくなります。例えば実寸大のもふらは勿論、駿龍、炎龍などは縮小しても作ることはできません。どうやら原型が人と同じくらいかそれ以上に大きいものは縮小具現化もできないようです。いいところこの辺りが限界ということですね」 寮長の手の中で朱雀がフッとかき消すように消えて今度は手のひらサイズのもふらが現れる。 「人魂を一人の人間が複数同時に出すこともできません。普通、一体作り上げた後、新たな人魂を構成しようとすると前の式は消えて新たな式が現れます。サイズは多少の誤差はあっても最大で手のひらに乗るくらいが限界でしょう。逆にあまり小さすぎる式も具現化できません。カメムシの具現化を得意としていた人がいましたが、それ以下になると難しいでしょう」 もふらの形をした人魂が空中に投げ上げられ、消えると同時、小さな指先ほどのてんとう虫が羽を広げ講義室をくるりと飛んで回った。 「とはいえ、人魂が便利な術であることには変わりありません。偵察などをする時、自分の目の代わりになってくれる上、いざという時、敵やアヤカシの目を逸らすこともできます。陰陽師にとってある意味、一番基本の技ですから、良く知り、上手に使うことが大事ということです」 てんとう虫を自分の差し出した手の甲に乗せた寮長は、指で弾いてそれを消すとさて、と朱雀寮生達に向かい合った。 「皆さんが入寮してちょうど半年。そろそろ進級を視野に入れておいて下さい。三月頃から本格的に試験が始まりますが、その準備は徐々に初めておくといいでしょう」 「寮長。準備って言われても、どんな試験か解らなければ用意のしようがない。どんな試験なのか、教えて貰うことはできないのだろうか?」 勿論、試験内容を教えろ、というわけではない。ただ何をするのか。 入寮試験のように口答問題に答えるのか、術を見せるのか、それともアヤカシ退治をするのか。 心配そうな顔で前を、つまりは寮長を見る寮生達に、寮長は微笑んで答えた。 「別に隠す必要があることではありません。進級試験の課題は小論文と、実技です。実技はアヤカシ退治や術使用ではなく、皆さんで新しい符を作成して貰うということになります」 「符の作成〜〜〜!?」 寮生達の間にざわめきが走る。 それは彼らにとってまったく未知の領域であった。 「ちなみに一人で作るのではなく、皆で意見を出し合って一種類の、まったく新しい符を協力して作るのです。本来個人で簡単に作れるものではありませんが‥‥まあ、詳しくはおいおい話していきます。そして、今回の課題ですが人魂や、術の使い方の基本と応用確認ということで行きましょうか」 紫郎の浮かべた笑みに寮生達は背筋を伸ばした。 この笑みの油断なさはよく知っている。 寮生達の緊張を知ってか知らずか、いつも以上に楽しそうに笑って彼は続ける。 「現在、陰陽寮の三年生達の中、委員長を務める五人にあるものを預けています。彼らにはその品物を一週間、守りきるように命じました。彼らが持つその品物を手に入れることができれば合格とします」 「品物を、手に入れる?」 「そうです。方法は自由ですが、陰陽寮の規則は生きていますので、術で相手を傷つけることは原則として禁止します。どうしたらいいか、よく考え工夫して下さい」 「寮長!」 寮生の一人が手を挙げた。 「その品物はなんですか? また、五人全員が同じものを持っているのですか? 誰から手に入れてもいいんですか?」 いい質問です。そう質問主を褒めた上で寮長は答えられる答えには答えてくれた。 「品物が何かは言えません、ですが、複数持ち歩けるものではないので、どこかに置くか隠すかしているでしょう。全員に同じものを預けています。誰から手に入れても構いません。とはいえ、一人が持っている数は数個ですから同じ人物から全員が手に入れることはできないでしょうね」 そこまで言うと、寮長はもう一度、楽しげに笑う。 「三年生にとってもこれは試験です。数が減ると減点になるので、そう簡単には渡しては貰えないでしょう。つまり三年生との勝負とも言えますね。また、その品物は今後の皆さんの進級試験に使う品物ですので、誰も入手できないと進級試験そのものが危うくなりますよ。ああ、壊した場合は不合格です。頑張って下さい」 三年生との勝負。寮生達は身震いした。 委員長達とは短い付き合いだが委員会で何度か顔を合わせている。 皆、一筋縄ではいかない者ばかり。 しかもどんな術が得意か、戦闘スタイルなども解らない。 ある意味アヤカシよりも強敵かもしれないが逃げることはできないと手を強く握りしめた。 ちなみに、後日、ある寮生が廊下で委員長達のこんな会話を聞いたという。。 「おい、皆。あれをどう隠すつもりだ?」 「まあ私は隠す必要もありませんからね」 「確かに、用具委員会はいいよなあ〜」 「私は、そうねえ〜。保健室に紛れ込ませておきましょうか?」 「俺は調理用具と一緒においておくつもりだ。そう違和感あるものじゃないだろう」 「‥‥新年だから、上手く飾れば‥‥きっと大丈夫だと思う」 「確かに。そう考えると体育委員会は不利だよ。気を付けないと壊してしまいそうだ」 「ちょっと! この前みたいな騒ぎはなしにしてよ」 「? 大丈夫だろ?」 「うん。今回は中身入ってないし」 「そうですね。とにかく頑張りましょう。一年生達との戦いは楽しみですからね」 「ああ。そうだな。私達は負けられない。陰陽寮三年の実力を見せてやろう!」 朱雀寮の新年最初の課題。 陰陽師同士の『戦い』の幕が今、切って落とされようとしている。 |
■参加者一覧
俳沢折々(ia0401)
18歳・女・陰
青嵐(ia0508)
20歳・男・陰
玉櫛・静音(ia0872)
20歳・女・陰
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
瀬崎 静乃(ia4468)
15歳・女・陰
平野 譲治(ia5226)
15歳・男・陰
アルネイス(ia6104)
15歳・女・陰
劫光(ia9510)
22歳・男・陰
尾花 紫乃(ia9951)
17歳・女・巫
アッピン(ib0840)
20歳・女・陰
真名(ib1222)
17歳・女・陰
尾花 朔(ib1268)
19歳・男・陰 |
■リプレイ本文 ●推理と作戦 一月実習の課題発表から間もなく。 一年講義室には今回の実習に参加する朱雀寮生の殆どが集まっていた。 今回の実習は三年生から一年生が品物を奪う事。 「いいねえ。うん、こういう勝負はいいやね。実にラヴ&ピースだ。たのしくなっちゃうねえ〜」 楽しげに笑う喪越(ia1670)を見ながら微かに泉宮 紫乃(ia9951)は眉根を上げた。 「三年生の先輩達との真剣勝負なんですよ。遊びじゃないんですから‥‥」 課題発表の時 『あの‥‥委員長の減点って、沢山減点されるのでしょうか?』 紫乃は心配そうな目で、寮長にそう確認していた。 寮長は勿論、答えてはくれなかったのだがそれが紫乃の心配の種になっているのは間違いないだろう。 「紫乃」 そんな友人の様子を見て小さく息を吐き出しながら劫光(ia9510)は言った。 「三年生の成績云々を俺達が気にするのはかえって不敬だろう。同じ寮生、同じ陰陽師同士、全力で行くのが礼儀だ」 「それは、解っています。皆さんにも、委員長にも失礼になりますから手を抜くつもりはありません。でも‥‥委員会の後輩として心配するくらい、ダメ‥‥ですか?」 俯く紫乃の頭に優しく尾花朔(ib1268)が触れた。 顔を上げた紫乃に朔は優しく微笑んでいる。 「そんなことはありませんよ。紫乃さんの優しさを知れば、先輩達はきっと嬉しいと思います。‥‥でも、お二人の言うとおり手は抜くべきではありません」 「そうね。頑張りましょう!」 明るい真名(ib1222)の笑顔に俯いていた彼女の心も前を向く。 「はい‥‥」 「陰陽寮‥‥一年って訳じゃないなりがお世話になったなりねっ! また一年、お世話になるなら頑張らないと、なりよっ! それに‥‥」 「それに?」 紫乃は横を見た。 「きっと三年生との時間は最後じゃないなりが、終わりは近い‥‥」 机の上に座って話を聞いていた平野 譲治(ia5226)はぶらぶらと揺らしていた足をパッと閉じて、飛び降りる。 「なれば全てを全力に触れるが手なりよっ!」 寮生達は微笑した。いつも彼の真っ直ぐな瞳と結論は、寮生達に力をくれる。紫乃ももう迷ってはいないだろう。 「それで! 皆! 今回委員長達が持っているのは何だと思うなりか?」 そう言って譲治は、仲間達に問うた。 寮生達の何人かが顔を見合わせる。 困り顔というわけではない。 それぞれがそれぞれに推理、推察をして自分なりの答えを出してきたのだろう。 お互いがちょっとだけ遠慮しあい‥‥そして 「じゃあ、私から言ってもいいかな」 俳沢折々(ia0401)がそっと手を挙げた。 「どうぞ」 促す青嵐(ia0508)と合わせこの二人は、朱雀寮の実質的な司令塔になることが多い。 じっと見つめる仲間達の視線を受けながら、少し笑って折々は指を立てた。 「隠しているものについては、封印壺だと予想してるんだよね」 彼女はまず結論をはっきり言う。 話し方がうまい証拠だ。 「理由は二点、まずひとつめは『今後の進級試験に使う品物』だってこと。無いと試験ができなくなる可能性があるってことは、普通にお店で買えるものじゃないよね。つまり特殊な、用具委員会が管理するような術道具、かなって思う」 うんうん、と瀬崎 静乃(ia4468)は首を縦に振る。他の寮生からも否定の声は上がらない。 「ふたつめは『朱雀寮の課題は常に、今までの講義の中にヒントが含まれている』って点。今回もいきなり未知の物を探せ、って無茶振りはしないんじゃないかと踏んでいるよ。委員長達の話の内容からも大きく外れてないと思うし」 「確かに。先日の件で記憶に新しくもありますね。他のものである可能性もあるので安心はできませんが、可能性は高いと思います」 「今回の課題は人魂や、術の使い方の基本と応用確認。進級試験に使う品物で壊した場合は不合格。壊れ物と言うことは瀬戸物系と考えて封印壷、墨壷、筆入れ等小物と私も考えていました」 真面目な顔で肯定してくれた玉櫛・静音(ia0872)や朔の言葉に安堵の笑みを浮かべながら 「どう思う?」 折々は青嵐と劫光にも首を上げて問いかける。 『私も同意見です』 「確かに、可能性は高いな」 「だよね? 良かった〜」 胸に手を当てて笑う折々であったが、劫光は釘を刺すのを忘れない。 「まだ、安心するのは早いがな。メインは三年生達からどう奪取するか、だからな」 「それで、ものが封印壺だとして、皆さんはどの先輩に挑むつもりですか?」 アッピン(ib0840)の問いに寮生達はそれぞれが微妙な笑みを浮かべる。 「それが、確かに問題ですね。委員長の縛りは無いと言われましたけど、やっぱり自分の先輩が、頼みやすいと言うか挑みやすいと言うか、そういうのはあると思うのです」 そう答えるアルネイス(ia6104)は体育委員会の委員長 西浦三郎に行く気らしい。 「私達も、とりあえずは保健委員長に挑んでみようかと」 保健委員の三人娘は顔を合わせ、 「私は料理対決するつもり。調理委員長とね」「私もです。まあ、物の正体に確証を持ってから、の話になりますが」 調理委員達も頷きあう。 「私達はどうします?」 アッピンに問われた折々は、う〜んと唸って腕組みをする。 「やっぱり図書委員長かなあ? いろいろ目星も付けやすいと思うし〜」 「そうですね〜。どう喧嘩しないで品物を手に入れるか、考えどころですねえ〜」 そんな仲間達の会話にえ〜っと喪越は不満げだ。 「せっかくのお祭りなんだぜぇ〜。もうちっと楽しくだなあ〜。ついでに珍しく真面目に言わせて貰えば、一週間の長丁場なんだ。あんまり最初から本気出すと続かないぜ」 「あ、それは同感。最初に多く見つけてしまうと、委員長達が本気になって阻止してくるかも」 「おいらは、全員に挑んでみようかなあ」 仲間達の話を聞いていた劫光が主席らしく結論をまとめる。 「まあ、その辺を考慮しつつ、それぞれ動こうか。あまり連携し過ぎても動き辛くなるが、互いの連絡は密にしておこう。確証を得たり、それらしいモノを見つけたり、入手できたら仲間に報告するように」 「解りました。ほうれんそうですね」 「ほうれんそう? 野菜なりか?」 「違いますよ」 首を傾げる譲治に朔は優しく説明する。 「報告、連絡、相談‥‥合わせてほう・れん・そうです」 「なるほど〜〜〜」 「まあ、とにかく相手が三年であろうと、怯んではいられない。目標は完全勝利。全員での品物奪取を目指そう」 「「「「「「「「「「「「おおお!!」」」」」」」」」」」」 控えめだったり、小さかったり、逆に大きすぎる声もあったのだが、全員の鬨の声が上げられた腕と共に講義室に響き、戦いの始まりを告げたのだった。 ●保健委員会の作戦 その日も保健委員長 綾森 桜はいつもと同じように仕事をしていた。 「あの‥‥ちょっといい、ですか?」 「朔さんと真名さんがお料理で食べすぎに効く薬草を使いたいそうなので‥‥」 入ってきた三人の一年生達に特に気にする様子もなく、何やら忙しく働いている。 「ああ、よく来たわね。今、ちょっと手が離せないの。暇なら手伝ってちょうだい? 薬草なら好きに持って行っていいから」 あまりにも何の警戒も無しに招き入れられたので、ちょっと拍子抜けしたように顔を見合わせながら三人の保健委員達は保健室に足を踏み入れた。 「風邪が朱雀寮生や、働いてる人の間に出始めているのよ。彼等の看病お願いね」 「あ、はい‥‥」「解りました」 指示に慌てて動き出す三人。見れば確かに奥の方に具合が悪そうに布団に横たわる人がいる。 「大丈夫ですか?」 心配そうに近寄った静音が手をその人の額に当てる。かなり熱は高そうだ。 「布もだいぶぬるくなっています。委員長、お水はどこですか?」 「そこの壺よ。汲み置きがあるでしょう?」 こちらを見ないまま、桜は忙しそうに薬包紙を折っている。薬の調合中、というところだろうか? 「はい、解りました」 紫乃は指し示された壺に手ぬぐいを浸す。 「‥‥随分、模様替えをされていますね? この間の大掃除から随分品物が増えているような‥‥」 道具棚から新しい桶と手ぬぐいを取り出した静乃の問いにああ、と桜は顔を上げた。 「この時期はいろいろと忙しいからね。水もなるべく汲み置きしておくし、道具も借りれるものは借りて置いておくのよ‥‥っと、できた」 手早く手に持った袋に薬を入れた桜は、よいしょと立ち上がって三人に告げる。 「私はちょっとこの薬を届けに行くから、留守番宜しくね」 「は、はい‥‥」 無防備に委員長は去って行き、三人は病人と保健室に残される。 「なんだか‥‥あっさり、チャンス到来、ですか?」 「油断はできません。ほら、あそこ」 戸惑い顔の紫乃に静乃は目で部屋の隅を指した。そこには小さな蜘蛛が一匹いる。 「この季節‥‥しかも委員会が清潔を徹底している保健室に蜘蛛がいる訳ない。見張られてる‥‥きっと」 三人は囁くような声で話し合うと、仕事を始めた。 フリではなく一生懸命に。それに安堵したのかやがて蜘蛛はかき消すように消える。 そのタイミングと病人が寝付いたのを確認して、彼女達は行動に移った。 「図書室で調べた結果、やはり壺の可能性が高いと思われます。朱雀寮には壺封術という術式もあるそうですから」 「というと‥‥やっぱり、これでしょうか?」 静乃が壁際に並んだ水壺を見つめた。慣れた部屋の中、気になる品物は多いが、これが一番怪しいと彼女達は思った。 水壺は備品がいくつかあったが、ここまで数は多くなかった筈。 「あ、‥‥見て。これと、これ、底に術符‥‥」 「本当です。水壺に術符を使う訳はないから‥‥やはり、これ、でしょうか?」 「念の為、確かめて‥‥みる?」 それから暫くの後、戻ってきた綾森委員長に挨拶を帰ろうとした三人は小さく、通りすがりに呟いたのだった。 「‥‥意外とあっさり見つかりましたね」 本当に微かに目を瞬かせた保健委員長の変化を三人は見逃さなかった。 素早くその場を離れ目を閉じる。保健室に残してきた式が何を見ているか確かめる為だ。 角度を変え見つからないように隠した三人の式は、それぞれ別な方向から、同じものを見た。 つまり水壺のいくつかを確認し、中の水を捨て戸棚にしまう桜を、だ。 「間違い無いようですね」 「皆に知らせましょう」 そうして、その日のうちに寮生達に一つの情報がもたらされたのだった。 『品物はおそらく底に術符の貼られた壺である』 と。 翌日、保健室から壺が三つ消えていることを知った保健委員長は、 「委員長! お手伝いと勝負に来たのだ!」 元気に言った譲治を笑顔で出迎えた。譲治はその笑顔に何故か不思議な何かを感じたと言う。 ●調理委員会の勝負 ちなみに朔と真名が薬草を求めていたというのは嘘である。 彼らは別のものを求めていた。 「黒木委員長。勝負して頂けませんか?」 ランチタイムの戦争が終わって一区切りついた時間を見計らって、朔は調理委員長 黒木三太夫の前に立ちそう、告げる。 「勝負? 何の話だ?」 とぼけた様子で顔を背ける三太夫であるが、顔は楽しそうだ。 「ご存じの筈です。我々の試験の事。私が勝てたら品物を戴きたいのですが‥‥」 「その品物の目星は付いているのか?」 さらに破顔した三太夫にはい、と朔は頷く。 「倉庫の食器棚に増えていた壺ではないか、と」 正直に真っ直ぐに自分を見る朔に、満足そうに笑って彼は頷いた。 「よし! いい度胸だ。さっそく料理勝負をしようじゃないか! 勝負の内容は? どう決める?」 「この籤を引いてください。それに書いてある食材を、こっちの籤に書いてある調味料で料理して、その味を皆さんに食べ比べて貰う、という形ではどうでしょうか?」 「楽しそう! 私も混ぜて!」 会話に突然混ざってきた真名に朔は驚きを隠さない。 「真名さん! この隙に、と言った筈ですが‥‥」 声を潜める朔に大丈夫、と真名は笑う。 「倉庫で見つけた符が貼ってある壺の事や特徴はもう、伝えてあるわ。蒼空音に伝言頼んだの。後は皆次第。だから、私も料理勝負に参加するわ。蒼空音に美味しいものご馳走してあげるって約束しちゃったし」 ね? 片目を閉じた真名に大きく息を吐き出してから、朔は解りました、と笑う。 「では、勝負を始めましょうか?」 かくして、壺を賭けた調理委員会の料理対決、という名のパーティが始まった。 味噌と魚を引き当てた三太夫は魚のみそ汁を作り、野菜と酢を引き当てた朔は、浅漬けサラダを完成させた。 正直に言えば三太夫のみそ汁は絶品。骨から出汁が良く出ていて甘く、時期的にも最高の料理であると、味見をした朔は素直に負けを認めていた。 だが、三太夫はと言えば 「このサラダは美味いぞ。野菜も皆、ひと手間以上かけてある。皆も食べろ〜〜」 と大絶賛。各委員会委員長達や生徒達を呼んでパーティにしてしまった。 それに真名の特製春巻きも加わって、パーティは大賑わいになった。 勝負はいつの間にかうやむやになってしまったのだが、片付けが終わった食堂で 「ほら! 持ってけ!」 三太夫は二人に、壺を差し出したのだった。 ●用具倉庫での戦い さてその日のパーティに、用具委員長は参加してはいなかった。 なぜなら、用具倉庫で 「ほらほら、動きが鈍いですよ!」 青嵐との勝負を楽しんでいたからである。 その勝負とは、陰陽人形を使った傀儡操術勝負である。 青嵐は常に人形を持ち歩き、腹話術でしゃべるという人形遣い。 その彼は、用具委員会の倉庫の一角で 『用具倉庫から、封印壺の貸し出し許可を頂けないでしょうか? ダメならぜひ、勝負を』 用具委員長に勝負を挑んだのだった。 『『術による押し合い相撲』です。用いるのは同じ式神人形です。それなら公平でしょう?』 人形の操作には自信があったから挑んだ勝負であるが、こと陰陽師同士の傀儡操術では、その勝手が違うことに彼は戦いが始まってから気づいたのだった。 傀儡操術の効果は一瞬。だから、思っていた人形相撲はできず、人形を互いに繰りながら相手の人形を落とす、本番さながらのバトルになってしまったのだ。 とはいえ、青嵐が人形の操術に自信があったのは変わらない事実。 けれど彼は知らなかった。目の前の男、七松 透もまた陰陽寮指折りの人形遣いであることを。 繊細に、そして大胆に人形を繰る。品物に対する愛情があるからこそ、信頼するからこその扱いであると青嵐には解った。 (なかなか、手ごわいですね。でも、一瞬でもバランスを崩せれば‥‥!) 練力の限界を感じながら、青嵐は勝負の時を見計らっていた。そして、彼は最初で最後のタイミングを見つけ出す。 (今です!) 傀儡操術の発動と同時。青嵐は人魂を発動させて透の目の前に飛ばした。 一瞬、視界を奪ってその隙を、と思ったのだ。 だが、彼の術が透の視界を奪ったのとこれも同時。 「うわっ!」 腹話術も出来ないほどの驚きと手元にぶつかった衝撃で青嵐は、大きく尻餅をついた。人形が床に落ちる。 『今のは?』 瞬きする青嵐の横で、白く、小さなイタチが首をかしげていた。 「なかなか、いい線行っていましたよ。でも、あと少し、ですね。もう少し術を理解して、それから人形を信頼しないと」 ひゅんと、人形を手元に戻した透はにっこり笑うと、青嵐に背を向けた。 遠くから 「委員長〜。お手伝いと勝負に来たのだ〜〜」 「白雪委員長〜。何か仕事はありませんカ? 年度末も近い、準備をしておくだけでも違いまショウ。この薄汚れた手で良ければ、存分にお手伝いさせて下サイ」 明るい声が聞こえる。 それに答えながら透は横の机に人形と、カギを置いた。 「青嵐さん、用具倉庫の戸締りをお願いします。ああ、奥の棚は先日逃げたアヤカシの封印壺の棚ですから扱いに気を付けて」 『そ、それは?』 振り返らずに去っていく委員長の顔は見えない。 だが、青嵐にはその背中が微笑んでいるように見えたのだった。 ●図書室の事件 折々とアッピンは真面目に図書の整理作業に挑んでいた。 図書室のあちらこちらに早咲きの梅が美しく活けられていた。 「なんだか、図書室が明るい気がするね〜」 「本当に。花がある図書室っていいですねえ」 さりげなくそんな会話をして反応を伺うが、花を生けた張本人、図書委員長 源 伊織は本の整理と書き物に余念がない。 「う〜んとね、皆の調査結果を調べ合わせてみても、やっぱり、封印壺の可能性が高いんだ。既に入手した人もいるみたいだからね」 「となると、やっぱりあれ、ですね。いいんちょの性格からしても」 寮生同士の情報交換は最初の約束通り、密にされている。 前半に入手に成功したものは、自分の持つ情報を仲間に伝え、その情報をもとにまだ手に入れられていない寮生はその情報をもとに作戦を練る。 そして課題の締め切りをいよいよ明日に控えた日、図書委員会の二人は最後の勝負に出ようとしていた。 「いいんちょ。ちょっとお話があるんですけど〜〜」 「‥‥なあに?」 「好きな甘味とか男の子のタイプはなんですか〜? あと、趣味とか〜、生け花が上手なのは解りましたけど〜〜」 手招きしたアッピンに無防備に近づいてきた伊織は、突然の質問に頬を赤らめていた。 「なんで、そんな‥‥話? 趣味とか、甘味とか‥‥はともかく、好きな‥‥タイプって‥‥」 「あ〜、でも〜〜」 さらに話を続けようとしたアッピンは、目の前の光景に目を見開く。 伊織の背後、図書室の本棚に何かがいる。あれは? その時、がらりと扉が開いた。飛び込んできたのは劫光だ 「源委員長! またアヤカシ鼠が出た。こっちに来てないか!?」 「ね、ねずみ?」 その言葉に伊織は豹変する。 「図書室に鼠を入れる事は許さない!!」 身構えた彼女の足元を別の鼠がすり抜けて行く。鋭い目つきでそれを追おうとする伊織を劫光が後ろから、抱えるように止めた。 「待て! 向こうにもう一匹いる!」 俊敏な動きで鼠を蹴り飛ばした伊織は止めを刺さんばかりに足を上げていたのだ。 見ればもう一匹は窓際の花瓶の方へ。 「待て!!」 「うわっ! 待ってよ。委員長、花瓶が壊れる!!」 鋭い正拳突が壺の横、壁を走っていた鼠を正確に叩き潰す。 と、同時。 「危ない!!」 崩れ落ちるように倒れた伊織を劫光が抱き支えた。 「お〜、筆頭。やりますね〜。ひゅーひゅー、じゃなかった。大丈夫ですか? いいんちょ」 「伊織委員長に水をでも持ってきてあげないと。お願いできませんか?」 二人が他の図書委員達を言葉巧みに追い払うと、部屋の中は伊織と一年生三人だけになった。 「今のうち、かな?」 「そうだね」 三人は、そっと図書室の中を探した。そして、 「あった。多分、やっぱりこれだよ」 底に術符を貼った壺を見つけたのだった。 伊織が花を活けていた花瓶の中に紛れ込まされていた。 「じゃあ、悪いが頂いていくな」 花を抜き取り、手近の花瓶に挿すと、劫光は壺を抱えて去っていく。 「ごめんなさいです。いいんちょ」 「僕らも貰っていくね」 すやすやくうくうと眠る伊織に、アッピンと折々もそう言うとそっと手を合わせたのだった。 廊下からはトタトタという軽い足音と 「大丈夫なりか? 委員長!!」 そんな声が聞こえている。 ●体育委員会の攻防 そして、野外、実践練習場。 「ほーい、ほいっと、やっぱり、体育委員長は強いねえ〜。もっさん頑張っちゃうぞ〜」 「それだけ体術に自信があるなら、体育委員会に入れば良かったのに!!」 そこでは楽しげに、実に楽しげに組手を交わす体育委員会委員長、西浦三郎と喪越の姿があった。 「ずいぶん、楽しそうなりね〜〜」 「そうですね〜。あの規格外な人と渡り合えるなんて喪越さんも、けっこうやるんですねえ〜」 それをぼんやりと観戦しているのはアルネイスと譲治。 彼らは既に体育委員長に挑み、完敗を喫していた。 「まったく常識外れもいいところですよ〜」 アルネイスはさっきの対戦を思い出す。委員会室に委員長を訪ねた時、彼はのんびりと寝そべり、本を読んでいたのだった。部屋は一面ゴミの山。傍らには読み散らかされ積み重ねられた本、その向こうには脱ぎ散らかされた服。食べ散らかされた食べ物。 粗雑に見えて意外に几帳面だと思っていた先輩の思いがけない姿に驚きながらも、アルネイスは三郎の顔を覗き込んだ。 「あの〜、委員長?」 「なんだ?」 「単刀直入にお聞きしますけど、寮長から、私達の試験の品預かっておられますか?」 「ああ、預かっているけど?」 あっさり、きっぱり三郎は答える。 拍子抜けするほどの簡単さにアルネイスは大きく息を吐き出すが、問題はここから、である。 「それを見つけたり、当てたりしたら持って行ってもいいとかは、できませんよねえ〜」 なるべく可愛らしく聞いてみるが、三郎の答えは同じくあっさりきっぱり。 「正しく見つけて、ついでに私に勝てたらな」 「ついでって、そっちの方が明らかに難問じゃないですかあ?」 と言っても意味がないことは解っているので、アルネイスは三郎にこう提案したのだった。 「じゃあ、勝負しましょう。でも、私が体術で勝てるわけありませんから、ちょっとハンデを頂きます。結界呪符「黒」か「白」をお互いに出して、その壁を先に壊した方が勝ちという物です」 「術は使ってもいいんだよな?」 「勿論」 「じゃあ、いいぞ!」 そうして外に出た二人は互いに、結界呪符を出し合った。 どちらもかなり強固な壁である。 「でも、負けませんよ。術の威力には、ちょっとは自信が〜〜って、委員長!!?」 蛇神を発動させようとしていたアルネイスは横を見た瞬間、驚きで動けなくなっていた。 横に立っていた三郎が瘴気を纏わせているのだ。彼がつむいだ術が拳に集まりそして‥バキン!! 「はあ?」 一撃でアルネイスの結界呪符を打ち砕いたのだ。 彼が使ったのはおそらく、爆式拳。自分の攻撃力を高める術。だが、それにしたってまさか、一撃とは。 正直アルネイスは言葉も出なかった。 「馬鹿力‥‥。あんなのに敵うわけないじゃないですか?」 膝を抱えるアルネイスの肩をアルネイスがぽんと叩く。 「アルネイスはまだいいなりよ。おいらなんか、相も変わらず子ども扱いなのだ」 入寮の時に比べればだいぶ成長したとは思う。 でも、目の前で繰り広げられる戦いは相変わらず、まだ別次元のものだ。 「おや、終わりましたね?」 ふと、アルネイスが肩を上げる。まるで、柔術の一本背負いのように投げられた喪越の背中が地面に着いている。 「ふ〜。負けちまったか。でも、たまには青春の汗もいいかと思ってな。楽しかった」 「こっちもいい汗かかせて貰ったかな。で、探し物は見つかったか?」 悪戯っぽく笑う三郎の意表をついた言葉に、喪越はやれやれと頭を掻く。 「品物は委員会室の中にある。見つけたら持ってってもいいから」 「えっ?」 その言葉はくるりと頭をまわして見物していた二人にも降る。 「ホントなり?」「いいんですか?」 「まあ、どっちも頑張ったし。このテストは一年生育成の為みたいなものだから私達が納得すれば渡していいんだ。ただし、掃除はしてもらうけどな」 ニッと笑った三郎はぽんぽんと譲治の頭を叩く。 「随分頑張ってたみたいじゃないか? 全部の委員長に挑んだんだって?」 「あ、でも、あんまり相手にして貰えなかったなりよ。勝負というのもちょっと違ったし」 「まあいいんじゃないか? そういうの嫌いじゃない」 優しい笑顔と大きな手に褒められて譲治は照れたように笑い返した。 そして、委員会室に入った彼らはそこに、仁王立つ劫光の姿を見つけたのだった。 「委員長! なんだこの部屋の散らかしようは! 肝心の品物がどこにあるか解らないじゃないか!」 「それも作戦なんだから、当たり前だろう? お前こそなにをこそこそしてる。本気で挑んでくれるかと楽しみにしてたのに」 「俺だってできれば模擬戦で奪いたかった。でも傷つけるのが無しなら仕方ないじゃないか」 「喪越は術なし肉弾戦挑んできたぞ」 「ああ、そう言うのもアリなんだと解って悔しかった。だから、勝負だ。三郎!!」 ちなみにこの会話は室内で、術を放ちながら行われている。 「ちょっと、お二人とも。壊れものがあるんですから、止めて下さい」 「あ〜、ほっとこうぜ。二人ともそれくらい解ってるだろ」 「そうなりね。とばっちり食わないように気を付けて品物探すのだ。あ、これかな。ゴミいっぱい入ってるなりけど」 二人の真剣かつ楽しそうな戦いを見ながら、そんな会話と共に三人は部屋の掃除をする。 式で互いをけん制し、呪縛符をかけあうバトルはやがて 「止まれ!!」 三郎の一言で止まった。 「劫光、今日の所は諦めておけ。この部屋から私がいない隙に品物を見つけられなかったお前の負けだ。引かないならこの部屋ごと品物ぶっ飛ばす」 「な、なに!!」 「私は、本気だぞ」 にやりと笑う三郎の手には既に瘴気が集められている。劫光はチッと舌打ちすると仲間の方を見た。既に三人はそれらしい品を見つけ終わっているようだ。自分はもう一つ確保している。 仕方ない、と部屋を出る。 「‥‥解った。だが、次は負けないからな」 「おう! いつでもかかってきなさい!!」 彼らの退場と同時に、三郎が瘴気を壁に向けて放つ。 それは‥‥もちろん大龍符だった。 「しまった。掃除させるの忘れてた」 さて、課題提出期限間近。 「あれ?」 抱えた壺を最後まで注意深く調べていた一人の寮生はあることに気付く。 「た、大変だ!!」 彼女は慌てて品物を放り出して駆け出した。 そして‥‥ ●結果発表 そして、課題提出日の翌日。 一年寮生達は講義室へと集められた。 集合から間もなく、朱雀寮長 各務 紫郎が現れる。 手には書類数枚。 間違いなく、今回の課題の結果発表だろう。 寮生達が背筋を伸ばす。そんな緊張を知ってか知らずか。 寮長は演台に立つと笑って、彼らの方を見た。 「まずは課題お疲れ様、と言っておきましょう。三年生相手に良く頑張りました」 素直な賛辞、まずはホッと胸を撫で下ろす。 「皆さんも気付いた通り、今回の課題の品物は『封印壺』でした。アヤカシや瘴気を封じる陰陽寮独自の品で、封じられたアヤカシや瘴気は符の作成や式の生成、実験などに使用します。とはいっても、普段は多少術力を秘めている以外は特段変わったところがない壺で、特別な術を使用した時のみ、瘴気を封じることができるようになります」 「はーい! 質問なのだ。それは、おいら達も覚えることはできるなり?」 譲治の質問に紫郎はそうですねと、考えるように顎に手を当てる。 「術そのものもですが、何より力のバランスが難しいのです。今の寮生でも二年生で習得しているのは一名のみ。三年生でも多くはありませんから、来年以降の皆さん次第ですね」 そして、そう答えた後、 「いよいよ今回の課題の結果について、ですが‥‥」 彼は寮生と、書類を交互に見ると‥‥微笑んで言った。 「今回の課題の品物を突き止め、全員がそれの入手に成功した。とりあえず合格です」 「やったああ!!!」 寮生達は手を取り合って喜ぶが 「ただし!」 寮長の言葉が浮き上がった彼らの頭上に冷や水をかける。 「全員の中で五名。三年生に偽物を掴まされた者がいます」 「に、偽物!!」 寮生達は顔を見合わせる。 「あ、やっぱり」 と呟いたのは折々である。彼女は最後の最後でそれに気づいたのだが、流石にそれを既に提出を終えていた仲間には言えなかった。 「誰であるとは公表しませんが、今回の実習は知恵比べと騙しあいの意味も含んでいます。中級以上のアヤカシは人間以上の知性を持つ者もおり、その思考は残忍かつ、非情です。陰陽師たるもの、相手を常に疑え‥‥とまでは言いませんが、相手の二手三手先を読む思考の力や、複数の手を考え対応する発想力と行動力、そして成功に安堵せず常に最善を目指す向上心を忘れないで下さい。以上!」 退室する寮長にお辞儀をして見送った寮生達は顔を見合わせる。 「三年生に‥‥してやられたか〜」 「誰が‥‥偽物を掴まされたのかな?」 寮長が口をつぐんだ以上、寮生達に知る術はない。 やはり一筋縄ではいかない朱雀寮三年寮生を思いだし、一年生達はその背筋を震わせたのだった。 「まったくもう! 男ども甘すぎ! 負けた勝負はともかく。勝った相手にまで素直に品物渡してどうするのよ!」 「だって、一生懸命作戦立てて、挑んでくるんだから。可愛いじゃないか〜」 「彼はどうも、他人と思えなくて‥‥ついつい甘くなってしまいますね」 「いや、料理勝負は明確な勝ち負けなどないからな! 勝ちとも言えるし負けともいえる‥‥というより、桜に伊織。お前達の方は酷過ぎないか? 一年生全員に偽物掴ませたんだろ?」 「品物を手に入れて安心しているようじゃ、まだまだよ! 知らない品物を探すんだから、注意深く見ないと。ちゃんと品物の底を良く見れば、術符の下に『朱雀寮 保健室備品』って書いてあるの解ったのよ。それに気付けば本物渡してあげたのに」 「うちは‥‥一人、気付かれちゃった‥‥、みたい。でも‥‥最後の方に仕掛けてくれて、‥‥良かった。それに、人魂とはいえ‥‥図書室に、鼠、入れるなんて‥‥いけないから。ちょっとおしおき♪」 「桜も伊織も怖いなあ〜。私はお前達だけは敵に回したくないよ」 「お二人は戦術の授業の双璧ですからね」 「女は怖い。一年生も気の毒に‥‥」 そんな会話を一年生は知る由もない。 |