【五行】陰陽寮新年会
マスター名:夢村円
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 28人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/01/14 19:35



■オープニング本文

 いろいろ、本当にいろいろあった一年が終わり新しい年がやってきた。
 特に昨年入学した陰陽寮の一年生達には特にいろいろなことがあって思い出深い一年であったであろう。
 だがそんな感慨に浸る間もなく年末は実習に参加し、何やら意味深な出来事もあって気が付いたら新年である。
 だが悩みや苦しみを新年に引きずってはいけない。
 新しい年を迎え、気持ち新た。
 陰陽寮にやってきた一年生達を
「新年会をやるぞ!!」
 元気な声と手が引っ張った。
「はあ? 新年会?」
「なんなのだ? さぶろー」
 三郎と呼ばれた陰陽寮三年、西浦三郎は楽しげに笑って腕を腰に当てた。
 手には何やらチラシを持っている。
「新年会は新年会だ。年に一度、陰陽寮の皆がわいわい集まって騒ぐんだ。今年は朱雀寮がその開催当番のくじ引きに当たっていてな。準備に大忙しなんだ。皆、手伝え!」
 今にも問答無用で引っ張って行きかねない三年生に、ちょっと待ってと一年生は問いかけた。
「陰陽寮合同の新年会、の準備ですか?」
 一年生の言葉に、そう。と三郎は頷く。
「新年会は他の寮の連中や、家族や友人も呼んでいいことになっている。人がたくさん集まるから用具委員会はゴザや火鉢とかの道具、用具の準備に大忙しだし、保健委員会は薬草茶と酒の準備をしている。調理委員会は言わずとしれた宴会の料理を作ってるし、図書委員会は新年用の飾りや書の準備と、あと出し物の小道具を用具委員会と一緒にいろいろ用意してるらしいぞ」
「出し物?」
「そうだ。新年会では人を傷つけない範囲での術の使用は許可されている。だから、宴会の余興芸とかは有志が皆でいろいろやるんだ! 劇だったり、踊りだったり、楽器演奏もなんでもありだ。人魂の美人コンテストとかもやったりするな」
「人魂の美人コンテストって、委員長。それ、言葉、変」
「そうか? まあ、とにかく皆で、ワイワイ騒ぐんだ。楽しいぞ。お前達も友達とか家族を呼んでぱーっと騒ごう」
 明るく笑う三郎の顔には影など欠片も見えない。
 見せようとしない。
 だから一年生達は、先の実習の終わり。
 誰もが思ったことを誰も、何も言わず問わなかった。
「ちなみに三郎先輩。体育委員会の役割は?」
「勿論、新年会の司会と運営。そして出し物の披露だ。体育委員会は合同でも個人でも構わないから出し物必須な。行くぞ!!」
「わあっ! 待って下さい!!」
 走り出していく寮生達。

 彼らの通った後にはこんなチラシが落ちていた。

『陰陽寮 合同新年会 開催!

 場所 朱雀寮 大仮眠室 
 参加費 陰陽寮生 無料 招待客の分は一人100文 陰陽寮生負担の事
 飲み放題、食べ放題 但し、酒は飲んでも呑まれるな
 余興自由、出し物自由。寮生としての品位は失わないこと
 術の使用は可。朋友は室内に入れられるものなら同行可
 人を傷つけるようなことをした奴は簀巻きの刑

 同時開催 人魂美人コンテスト うちの人魂世界一!
 優勝賞品 多分なし

 新しい年の始まりを、仲間達と明るく楽しく過ごしましょう!』


■参加者一覧
/ 薙塚 冬馬(ia0398) / 俳沢折々(ia0401) / カンタータ(ia0489) / 青嵐(ia0508) / 玉櫛・静音(ia0872) / 胡蝶(ia1199) / 露草(ia1350) / 御樹青嵐(ia1669) / 喪越(ia1670) / 瀬崎 静乃(ia4468) / 平野 譲治(ia5226) / 紗々良(ia5542) / 樹咲 未久(ia5571) / 鈴木 透子(ia5664) / アルネイス(ia6104) / 劫光(ia9510) / 尾花 紫乃(ia9951) / ユリア・ソル(ia9996) / マテーリャ・オスキュラ(ib0070) / ヘスティア・V・D(ib0161) / アッピン(ib0840) / 琉宇(ib1119) / 无(ib1198) / 真名(ib1222) / 尾花 朔(ib1268) / 晴雨萌楽(ib1999) / 幼夢(ib5880) / メイス・ムゥ(ib5882


■リプレイ本文

●新年最初のお仕事
 朱雀寮の寮生達にとって、新年最初の仕事は新年会の準備と幹事であった。
 それを聞き「うえ〜」と思った者と「やったー!」と思った者。どちらが多いかなどは自明の理。
 何故なら朱雀寮は陰陽寮きってのお祭り好き‥‥。
「今年は朱雀がお当番なんだね。やった! 楽しそうー」
 こういう反応が圧倒的多数であったのだ。
「‥‥良かった。ちょっと、うれしい」
「何がです? いいんちょ?」
 腕いっぱいに巻物や絵を抱えていた図書委員長源 伊織の足元に巻物が落ちる。
 それを拾って手渡しながらアッピン(ib0840)は首を傾げて聞く。
「楽しそうって‥‥言ってくれたこと。お祭り、嫌いだったらどうしようって、‥‥思った」
「やだなあ。そんなことあるわけないじゃない? 仮にもこの朱雀寮で半年やってきたんだよ。楽しいこと、面白いことは大好き♪ ってね」
 図書室の一角、机が避けられた床の上で紙と向かい合っていた俳沢折々(ia0401)は笑いながらそう言うと、ふう、と息を吐き出して、やっと書き上げた『自分の作品』を嬉しそうに見つめた。
「ねえ、どう? 巨大書初め。結構うまくいったと思わない?」
 幾枚もの半紙が繋げられたその上には、見事な行書で
『陰陽寮、合同新年会』
 と書かれてあった。
「上手ですね〜。流石日々俳句で鍛えているだけのことはありますか?」
 アッピンの素直な賛辞に照れたように折々は指で鼻を擦った。
「あ、顔に‥‥墨、付いてる」
 白いハンカチで鼻の頭を拭いた伊織もまた、折々の書を見つめ微笑んでいた。
「‥‥とっても、ステキ。凄く、楽しそう。‥‥字が、笑ってる」
 自分の事のように嬉しそうな笑顔を見せる伊織に、折々もまた笑顔を返す。
「ありがとう。それは、きっとここでの毎日が楽しいからだね」
「よかった」
 二人は、目線を合わせると、弾けるように笑って頷きあう。
 そんな二人をアッピンがぽんぽんと突いた。
「いいんちょ。私、天儀に来て初めてのお正月なんです。飾り物のさほーとか教えて貰えます? とりあえず鏡餅や門松を出してあとは、宴会場に金屏風や色とりどりの布で飾りつけしとけばいいでしょうか〜」
「うん。鏡餅は一番奥。門松は入口の脇に二つ。それから‥‥案内状も受付に届けてね」
「了解です。来客にくばりましょ〜ね。用意ができたら私は案内の手伝いに行きますよ」
 忙しそうに仕事に向かう図書委員達。
「じゃあ、よろしく。ね♪」
 信頼の眼差しで片目を閉じた伊織に、りょ〜かい! と手を振って折々はもう一度腕まくりをした。
「さ〜て、頑張るよ〜〜。せっかく書を任せて貰ったんだから面白カッコいいものをばっちり用意しないと! これだけだとちょっと真面目すぎるかな。駿龍のうがちにも手伝ってもらって、龍の足型を四つぽんぽんと押すのも良いかも」
 たっぷりと墨を含んだ筆が、再び紙の上を元気よく踊り始めた。

「お〜い。青嵐(ia0508)〜。委員長〜。舞台の垂れ幕はこれでいいか?」
 広い広い朱雀寮仮眠室。畳の上に丁寧に茣蓙を敷いていた用具委員長七松 透と青嵐が自分を呼ぶ声に顔を上げた。
 彼らの視線の先、壁沿いの梯子の上では長身の一年生が紅白の垂れ幕を鋲で止めていた。
「上出来です。喪越(ia1670)さん。後は二年生達と、仮設舞台組み立てて、演台を運んで下さい」
「りょ〜かい。っと。まあ、タダ酒の前にはちった〜労働しないとな」
 委員長の指示に、梯子から飛び降りて外へと駆け出していく。
 思いの他真面目に仕事に取り組む喪越に意外そうな目を向けながらも、青嵐は笑みを浮かべながら手を動かし続けると
「性が出るなりね〜」
 そんな明るい声がまた彼を呼び止めた。
『おや、譲治さん。それに体育委員会の皆さんも、司会や進行の確認ですか?』
 自分を呼んだ平野 譲治(ia5226)の向こうには、体育委員長の西浦三郎や二年生。そして劫光(ia9510)にアルネイス(ia6104)がいた。
「まあ、そういうことだな。メインの司会は私がやるけど、一年生にも進行や盛り上げを手伝って貰わないといけないから」
「それで、それでなりね! 新年会でカルタとりや餅つきをしたいと思うのだ! 道具貸して貰えないなりか?」
『大丈夫だと思いますよ。委員長! 体育委員の方が相談があるみたいです〜〜』
「解りました。今行きます」
 打ち合わせを始めた先輩達を見ながら劫光は、一人それに背を向け仮設舞台上で何かをしようとしていた喪越の側にそっと、気配を消して近づいた。
「何をしてるかは知らんが、簀巻きの刑にだけは気を付けろよ」
「うわっちぃ!! 脅かすなって。わ〜ってるから♪」
 彼が仕込んでいた者が何か気付いた劫光だが、とりあえず見なかったフリをすることにした。
 何故なら『それ』は体育委員会も用意しようと思っていた事だったからだ。
「まあ、楽しいならいいのかもな」
 彼の言葉に今のところ意義を申し立てる者はいなかった。

 そこは朱雀寮の中においては毎日戦場であるのだが、今日はさらに特別であった。
「野郎ども! 気を抜くんじゃねえぞ! 他の寮の連中共に朱雀寮の力、見せてやれ!!」
「「「「おう!!!」」」」
 響く気合。轟く雄叫び。
 手に持った鍋を抱えなおしながらほう、と感心したような声をカンタータ(ia0489)は上げた。
「青龍とはまた違う雰囲気の厨房ですねえ。いや面白いものです」
「そう? 驚いたんじゃない? 朱雀の調理員は皆、結構パワフルだから」
 くすりと笑いながら朱雀寮の調理委員の一人真名(ib1222)は手招きした。
「は〜い。カンタータさん。こっちの竃使ってって。向こうのあたりだと委員長や料理長のおじさん達にひかれちゃうかもしれないから。でも、大丈夫そう?」
 勝手の知らない厨房。だが招きよせられた場所はその隅であったが水場も台も近い。
 そして何より丁寧に整えられた台所は青龍の料理隊長と呼ばれるカンタータにも満足が行くものであった。
「どんな料理を作るつもりか聞いてもいい?」
 控えめに問う真名にそうですねえ、とカンタータは考えるそぶりを見せた。
「ボルシチとパンプーシュカを作りたいですね。それにスメターナを添えて」
「えーっとボルシチは何となくわかるんだけど。パンプーシュカってなに? スメターナってどういう料理?」
「パンプーシュカは確か揚げパンですよね。大蒜汁を振りかけた。スメタナはサワークリームのことですよ」
「あら? 朔。そちらは?」
「マテーリャ・オスキュラ(ib0070)と申します。カンタータさんもお久しぶりです」
「厨房を使いたいと言う事なのでご案内していたんですよ。改めまして。尾花朔(ib1268)と申します」
 挨拶をした朔にカンタータは親しみを込めた眼差しを向ける。
「貴方もなかなかお好きのようですね。何を作るおつもりですか?」
「ペリメニを。それからお正月らしく雑煮やぜんざいをと思っています」
「ペリメニって?」
「水餃子みたいなものだ。ほら、真名。何をしている? おせちの作り方を習いたいんじゃなかったのか?」
「わっ! 委員長? どうしてここに?」
「勿論、おせち作りの仕上げをするから呼びに来たんだ。それに保健委員が料理に合うお茶をって言うから手も貸して欲しくてな」
 突然背後に現れた調理委員長 黒木三太夫に真名は驚いて後ずさるが、他の者達は丁寧にお辞儀をする。
 その態度に満足したのだろう。三太夫は委員達以外の招待客にも歯を見せた豪快な笑いを見せた。
「新年会開始まであと少しだ。料理の準備はありすぎて困るものじゃない。それにいろんな料理があると嬉しいしな。楽しみにしてるぞ!!」
 真名を引きずられるようにして委員長は去っていく。その先には彼のさっきの言葉通り、
 保健委員達。玉櫛・静音(ia0872)や瀬崎 静乃(ia4468)、泉宮 紫乃(ia9951)が保健委員長綾森桜と一緒にいくつもの瓶や袋を抱えて立っている。
「では、やるとしますか。お客さんの到着も、もう始まっているようですからね」
 厨房の窓から龍の飛翔が見えた。青龍寮生かそれとも、招待客か。
 楽しい新年会は準備から楽しい。準備からもう新年会は始まっている。
 笑顔いっぱいの朱雀寮生達を見つめ、少し肩を竦め微笑んだカンタータは今日の為に用意された新鮮野菜や肉魚、そして料理に向かい合おうとしていた。
「でも、マテーリャさん。それ、なんです?」
「酒のつまみに鰤の西京焼きなどを」
「えっ? どうして鰤の西京焼きが、ピンクに焼きあがるんですか!? そんでもってドロドロ〜?」
「フフフフフ、味見なさいますか? おいしーですよ♪」
「‥‥‥‥」
 ちなみにこの料理。流石の強者料理人達も試食の勇気は無かったようである。

●陰陽寮合同新年会開催
 朱雀寮の門を潜った来客たちはアッピンの案内に従って奥に進んでいく。
「は〜い。迷子にならないで下さいね〜〜」
 暫く行くとある建物の入口に受付が設けられているのが見える。
「これは。なかなかの達筆ですね」
『陰陽寮、合同新年会』
 と大きく書かれた書は四隅に龍の足跡などが押されてあるのがなんとも可愛らしかった。
「ご招待客の皆様と他寮の方々はこちらに名前の記入をお願いしま〜す」
 呼びかけるアルネイスの元にやがて若い二人がやってきた。
「青龍寮の樹咲 未久(ia5571)です。本日は宜しくお願いします。こちらは義弟の薙塚 冬馬(ia0398)です」
 記帳を促しながらアルネイスは目の前の二人をよく見た。弟は青を基調にした紋付き袴に華やかな髪飾り。しっかりとしたハレの日の着付けだが一方の兄は作務衣の上着に野袴姿。どうも普段着の延長に見える。と、思ったがそれ以上は気にしない。それぞれの思いや個性であるのだから。何より似合っているのだし。
「こんな奴ですが、本年もよろしく頼みます」
「はい。これは簡単な進行などが書かれた案内状です。良ければどうぞ」
 頭を下げた冬馬に図書委員会が用意したパンフを渡すアルネイス。
 それを見ながら未久が財布を出しながら小声で聞いた。
「招待客の参加費100文は?」
「ああ、それはご心配なく。一応書いてありましたが、なんか徴収するつもりはもともとなかったみたいです〜。では、どうぞ中にお入りになって楽しんで下さい〜」
 パンフを受け取った二人が開かれた扉から中に入り、少し歩くとすでに大きく開かれた扉があった。
 そしてその先には‥‥忙しく働く朱雀寮生や見知らぬ他寮生と一緒に
「おお〜! 青龍の皆もだいぶ揃って来たようですね」
「やっほー。未久さん。いらっしゃあ〜い!」
 見知った青龍の一年生の姿もあった。
「无(ib1198)さん、モユラ(ib1999)さん。おや、露草(ia1350)も。皆さん、不束者ですが今年も宜しくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願い致しますね」
 可愛らしく頭を下げた露草の手にはとても可愛らしい兎が抱かれている。
「おや、可愛らしい兎ですね」
「それが変なんです。人魂の美人コンテストがあると聞いたので、人妖を象った人魂で出ようと思ったのに人形に造れないんです〜。人妖が欲しくて欲しくて仕方ないから、せめて人魂で表現しようと思ったのに。‥‥うちに来る子なら、そりゃあもちろん、顔や姿がかわいくてかわいくてかわいいのは当然で長い黒髪に桜色の瞳、自分の着物と同じく着物+赤い袴の上に桜色の振袖と黒い帯を重ねて、でも袴はミニ丈で、そうだ桜の髪飾りを忘れちゃいけないし、人妖なら羽衣着させるのも楽しそう‥‥って、妄想いっぱいで考えていたのに〜〜」
 今にも泣きだしそうな露草に横を通りかかったのだろう。荷物をたくさん抱える譲治が首を傾げた。
「あり? 人魂って小動物を作る術だから人型はできないって習ったなりよ」
「「「えっ??」」」
 意外な真実に驚いたのは露草だけではない。
「そうだったとは? なら、予定は変更ですね」
「へえ? 知らなかったわ。じゃあ、私はどうしようかしら?」
 唸るような声を上げた无の後ろでも声が上がる。
「! 胡蝶(ia1199)さん。新しい服ですか? とても良くお似合いですね。透子さんも」
 笑いかける仲間の言葉通り腕組みした胡蝶の横には
「青龍寮の鈴木透子(ia5664)です。おめでとうございます。皆様、今年もよろしくお願いします」
 控えめに微笑む透子がいた。
「お褒めに預かり光栄です。お姉さま方と衣装を借りてまいりました」
「随分、悩んだ割には水干よね。もう少し華やかなものにすれば良かったのに」
「お姉さまのようにはいきませんから」
 実際胡蝶の装束はいつもと違い、天儀風の裾の長い着物である。紫の服と大きな花が金の髪に生えて美しい。
 眼福眼福と囁いた声が聞こえたがそれは一体、誰だったのか?
「こういうのは初めて着たけど‥‥なんだか動きにくいわね。でも、そう言って貰えるなら、まあいいわ。でも‥‥本当に人魂コンテスト、どうしましょうか?」
 青龍寮生同士が楽しげに笑いあい、話し合う頃には他のお客も揃いはじめていた。
「昨年はお世話になりました、今年も宜しくお願いします」
 お茶や酒の杯を並べながら頭を下げる静乃。
 見知った顔を見つけ笑いあう声も聞こえてくる。
「‥‥久しぶり。元気そうで良かった。清心さん」
「紗々良(ia5542)さん。お会いできて嬉しいです。今日は、いつにも増してお綺麗ですね」
「‥‥お正月だから少しおめかし。いつもは、袴だから‥‥ちょっと、窮屈‥‥かも」
「いえいえ、お綺麗ですよ」
「‥‥ありが‥‥とう」
 頬を真っ赤に染めて俯く紗々良の向こうでは
「やっほー、来たわよ。紫ちゃん、朔くん!」
「よお! 会いに来たぜ〜。元気だったか? 今日も可愛いねえ〜」
 屠蘇の準備を始める紫乃の元に明るい声がかかっている。
「ユリアさん、フレイアさん。あけましておめでとうございます」
 ぺこりと頭を下げた紫乃にユリア・ヴァル(ia9996)もヘスティア・ヴォルフ(ib0161)も楽しげな笑顔で答えていた。
「さっすが、朔のいる朱雀寮。料理も酒もなかなかに充実してるねえ〜〜」
「姉さん‥‥食べ過ぎ、飲みすぎ注意ですよ。ほどほどにしておいて下さいね」
 厨房から料理を運んできた朔は姉を軽く諌めながら、でも整った新年会場に満足げに微笑んだ。
「もう、大体終わりですか? 朔さん」
 紫乃の言葉には朔の代わりに真名が答える。
「うん。大方の準備は終わったの。追加は料理長が受け持ってくれるって。そろそろ開会だろうからって今、追い出されてきたとこ」
「そうですか? よかった。皆で始められますね」
 心からの笑顔に見える表情で紫乃は二人の横に並ぶが、笑顔の影に見えた小さな陰りをフレイアもユリアも見逃さなかった。
 だが声にかけて問うことはまだしない。
「紫ちゃん。あの人は青龍寮生だった?」
 ユリアが指した人間を見て紫乃は首を横に振る。
「青嵐さんは朱雀寮生です」
「そう‥‥」
「よっしゃあ〜。タダ酒、タダ酒っと。まだか?」
 奏でられたリュートの調べに、ざわめいていた会場がいったん、静けさを取り戻す。琉宇(ib1119)の音楽に合わせながら舞台上に出てきた譲治は、くるりっと一回転して見せると、胸に手を当てて寮生達に向けてお辞儀をした。
「今日は、皆さん、よくぞお集まり下さいました。今日は陰陽寮の新年会。どうぞ親しき友、新しい友と一緒に楽しい時間をお過ごし下さい、なのだ」
 元気で明るい声と口上に人々の拍手喝さいが沸き起こる。
「よ〜し、よくやった」
 舞台袖で体育委員長にぐりぐりと頭を撫でられて嬉しそうな譲治。
 やがて大きな拍手が響いて、陰陽寮の大新年会は幕を上げたのであった。

●祭の始まり
 新年会の始まりは朱雀寮長各務紫郎の挨拶で始まった。
 各寮の寮長なども集まっているが今回は開催主催寮が朱雀だから、朱雀寮長が代表なのだろう。
 緊張の面持ちの寮生達を前に寮長は眼鏡を軽く押し上げた。
「皆さん、あけましておめでとうございます。新しい年が始まりました。昨年はジルベリアの乱に始まり、さまざまな事がありました。新しい開拓地の発見などに関わった者も多いでしょう。ですが、変わらないことが一つ。それはアヤカシの恐怖です」
 多くの人がいる筈なのに、場はシンと静まり返る。喪越でさえふざけることなく神妙な面持ちで話に耳を傾けていた。
「今まで確認されていなかったアヤカシの発見。魔の森の拡大など我々人間にとって安堵できる状況は何一つありません。ですが、この五行において陰陽師であり、陰陽寮という最高学府で学ぶ以上我々は人々のように恐れる慄くことなど許されないのです。己を磨き、そして覚悟を持って生きる。それは陰陽寮生ならだれもが持って然るべき心構えだと忘れないで下さい」
 厳しく鋭く聞こえる言葉にかつての入寮式を思い出した者も多かったようだ。
 けれど、そこまで言って後、各務紫郎は小さな微笑を浮かべた。
「と同時に陰陽寮は皆さんにとって、帰る場所であり、家であり、灯火でもあります。陰陽師は闇と共に生きる者。しかし友や先輩、後輩と共に学び、過ごした日々や思い出は迷った時、闇に溺れそうになった時、きっと、皆さんを照らし導く光となる筈です。皆さんが今年、この新しい年、陰陽寮でそんな光を少しでもたくさん得てくれることを願っています」
 寮生達は顔を見合わせた。
 他の寮の者達は競い合う敵と言われたこともあった。
 だが、同じ道を行く仲間でもあるのだと、知っている‥‥。
「堅い話はここまでにしましょう。せっかくの料理が冷めることを気にしている者や酒が気になっている者もいるようですしね」
 そう言って明るく笑ってお辞儀をすると彼は段を下りた。
 それを合図に朱雀寮生達が、客に、各寮生達に、そして仲間に杯を渡していく。
「劫光!」
 そんな中、体育委員長が一年生主席を手招きした。
「なんだ?」
「お前が乾杯の音頭をとれ」
 寝耳に水の命令に劫光は瞬きをする。
「はあ? 俺?」
「私は司会担当。一平は閉会の言葉担当。アルネイスは受付やって、譲治が開会の言葉やったんだ。お前以外誰がやる?」
 とっとといけ、と、舞台に押し出された劫光であるが、仕方ないと決めてしまえば多少の視線など気にする彼ではない。
『ちょっと‥‥劫光様?』
 大きく深呼吸した後、自分の人妖も舞台に引っ張り出すと彼は会場を見回して、高く杯を掲げた。
「堅苦しいのは無しだ。せっかくの機会、楽しんで行こうぜっ!」
 強く、鮮やかな声に仲間達の間からくすくすと笑みが零れる。
「朱雀寮一同、もてなす準備は万全だ。なあ、皆?」
「「「「おおおっ!!」」」」
 会場を揺らす返答に今度は朱雀寮生以外も笑み崩れた。
「では、この場に居合わせた全員にとって良い年になるように」
 劫光は自分の人妖を見る。そして彼女の手と自分の手を重ねて高く掲げさせる。
『はい、解りました。では‥‥かんぱい!!』
「「「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」」
 カチン、カチン。
 ぶつかり合う陶器が軽い音を立てる。そして大きな拍手と共に陰陽寮の新年会は始まったのだった。

 陰陽寮朱雀の料理は学生食堂の料理長と、料理委員会の存在によってレベルが高いと定評がある。
「うわ〜。おいっしいい!!」
 そして今日の宴会料理もその評判を崩さぬものであった。
「これは、手作りのおせち? この錦糸卵と伊達巻最高! エビの姿焼きもいいけど、うわ〜止まんない」
 モユラは嬉しそうに料理を頬張り、无も嬉しそうに手作り蒲鉾や煮しめに舌鼓を打っている。
「よかった。美味しいって言って貰えた。私が委員長や副委員長に教えて貰って作ったの。伊達巻にはねエビやカニのすり身とか入ってるのよ。蒲鉾も手作り」
 ホッと胸を撫で下ろした真名は、もっとどうぞと重箱を差し出していた。
 その重箱にアッピンも箸を差し込む。
「天儀の正月料理は面白いですねえ〜。それに美味しいですし」
 なかなかに満足そうだった。
「あれ? モユラさん? 今日は飲まないの?」
 料理をパクつくモユラが持った杯は意外に小さい。だからそんな声をかけた者もいた。
「あ、今日は‥‥ウン、がぶ飲みはやめとく」
「青龍はお酒が強い人が多いって聞きますけど? その、こんな異名の噂もあって‥‥」
「青龍の赤い大樽? ヤダナー誰ですかそんなウワサ流したの、うふふ」
 なんとも形容しがたい笑みを浮かべながらも杯を離さないモユラに、静音は首を傾げる。
「お酒って美味しいのでしょうか‥‥?」
「さあ‥‥? 多分、人それぞれ。不安なら無理には飲まないのが‥‥多分、吉。飲み物なら、たくさん用意したし」
 静音は薬草茶の用意の整った机を横目に見ると、もくもくと料理を口に運びはじめた。
 準備もひと段落ついたので、ようやく朱雀寮生達も一息だ。
「ん〜、ペリメニ美味しい♪ 暖まるし♪ いいわね〜」
 歌う様に微笑みながら料理を食べるユリアに朔は微笑みを返し、胡蝶も
「人の作る料理はいいわね。うん、美味しい」
 酒と一緒に黒豆や料理を摘まんでいる。
「お屠蘇をどうぞ?」
 赤い銚子を持って屠蘇を注いで回る紫乃にひゅうと、ヘスティアは口笛を吹いた。
「まるでお雛様みたいだ。可愛いねえ〜。そう思わないかい? 朔?」
 薄紅色の振袖に花かんざし。
「へ、ヘスティアさん」
 照れたように頬を染めた紫乃は
「紫乃さんが可愛らしいのはずっと変わりませんが、確かに今日はより素敵ですね」
 そう、まっすぐに告げた朔の言葉に花かんざしの梅よりも赤く染める。
「ところで、姉さん。何を食べているんです?」
「いや、このショッキングピンクが気になって食ってみたんだけど、意外に美味くて後を引くんだ」
「フフフフ‥‥皆さんもおひとついかがですか?」
 マテーリャの料理は、見かけの問題もあってなかなか減らなかったが、もう一人のクッキングゲスト。カンタータの料理の前には人が列になって集まっていた。
「よかったらどうぞ〜」
「このボルシチ温まる〜〜」「パンプーシュカも美味しい。どうしよう。食べ過ぎちゃったら〜」
 大鍋、大皿で用意した料理が順調に減っていくのを嬉しそうに見ながらカンタータは、自分の料理よりも朱雀寮生達の料理を口に運んでいく。
「他の方が作ってくれる料理を知り食べることは明日への糧。今度、料理の作り方を教えて頂きたいものですね」
「おお! お前さん、解ってるなあ。ぜひ、今度一緒に料理など作りたいな!」
 朱雀寮の調理委員会委員長と青龍の料理隊長が楽しげに歓談する中、奥の舞台の上ではいつの間に大きなうすと杵が運び込まれていた。
「さ〜て、皆の衆。正月料理と言えばやっぱり餅が不可欠だ。そしてやっぱり餅は搗き立てが一番。というわけで、これから餅つきをする。我こそはという力自慢、ぜひ協力してくれ!」
 司会役の体育委員長が言うのにタイミングを合わせたかのように、料理委員会の副委員長が、蒸かしたての米を持ってきて臼に入れる。
「よし。では私が」
 无がまず腕まくりをして壇上に上がった。慣れた手つきで水を入れるこね取り役の指示に従って、彼は上手に米を潰している。
 そしてやがて
「よっ!」
 トントンとリズミカルに餅をつき始めた。
 その手並みに喝采が上がる。
「面白そうなり! 次はおいらがやるなりよ〜」
「俺も手伝うか?」
『喪越さんも手伝ったらいかがです?』
「いや、最近腰がなあ〜〜」
「よっしゃ〜。じゃあ、私も手伝うか?」
 腕まくりする体育委員長を副委員長が心配そうに止めていた。
「委員長。臼や杵を壊さないで下さいよ」
「‥‥善処する」
 舞台の脇には念の為、と薬草と治癒符を用意して待機する静音がいて二人の会話はまるで漫才のようだ。
 出来上がった餅は手早く丸められて、既に用意済みの善哉や雑煮の中に入れられていった。
 みそ味、澄まし仕立て。他にもいろいろだ。
「あんこや、きなこ、しょうゆに海苔もあるわよ〜」
「ねえ? この真っ赤なのは‥‥なあに?」
「ああ、それは唐辛子。美味しいから食べてみて!」
「いいっ!?」
「でも、搗きたてのおもちは美味しい!!」
「さぶろ〜〜。もっと追加なのだ〜」
「任せておけ!」
 美味しい料理と酒と人。
 会場には間違いのない笑顔が溢れていた。

●人魂美人コンテスト?
 宴も佳境を過ぎた頃、司会役の体育委員長が舞台に上がって頭を下げた。
「え〜っと、まずは謝っておく。美人、なんて表現は人魂にはあんまり正しくなかったな。人魂自慢コンテスト、くらいにしておけば良かった」
「三郎。人魂では人型は作れません。美人は無いでしょう。後で古文の書き取りの補習しましょうか?」
 杯を持って意地悪な笑みを浮かべる寮長の言葉に
「寮長。それは勘弁して下さい。もう一年生じゃないんですから」
 わざと顔を顰めて見せた後、彼はでもと言葉を続けた。
「とはいえそれぞれ、得意や自慢に思う人魂があったり、こだわりがあったりすると思う。それを良ければぜひ、見せて欲しい!」
「さあさあ〜、始まるよ。始まるよ。楽しい楽しいコンテスト♪」
 琉宇が偶像の歌に合わせてリズムを取ると、観客達の頬にも笑みが浮かぶ。
 そうして、それに誘われるかのように寮生達の術披露が始まったのだった。
「まずは最初に朱雀寮生から」
 そう言って出てきたのは朔と劫光であった。
「行くぞ。朔」「はい」
 二人はそれぞれ手を広げて人魂を展開させる。劫光が出したのは黒い龍のような蛇、そして朔が出したのは青いそれであった。
 二匹が空に向けて絡み合い登って行く様子はさながら昇り竜。それは見ごたえのある光景であった。
 満場の拍手が二人に贈られる。
 次に前に進み出たのは喪越であった。
「ちゅーか、俺の『人魂』の定番はサルの『藤吉郎』なんだけど、ホントに召喚していいの? エロい猿だぜ。めーわくかかると思うけど。特に女の子に」
『ダメに決まっています。簀巻きの刑にされたいんですか?』
 げしっと、まるでのノリとツッコミのように人形に喪越を退場させて、青嵐は優雅に舞台上でお辞儀をした。
『私の人魂は蛇ですが羽根を持たせています。人形と仲が良いのですよ』
 そう言うと人魂の前に人形を置いた。人魂は楽しそうに羽根を持った蛇は人形で、いや、人形と遊んで見せた。
「人型がダメなら私の子はこの子です。ウサギさん♪」
 露草の足元でウサギは楽しそうに飛び跳ね、
「じゃあ、俺は尾無狐で。俺の相棒だ」
 无は狐と共にお辞儀をした。
「私は‥‥あんまり拘っている子はいないんですよね。では‥‥お正月にふさわしいものを」
 白い布を広げた透子の合図で美しく鶴が踊る。
「あ。胡蝶さん」
「一緒にお願い」
 鶴の上では蝶が舞う。鶴と蝶の舞はいつの間にか奏でられた音楽に乗って拍手が鳴りやむまで続いていた。

 その後も人魂コンテストは賑やかに続いていく。
 上級生が出す鷲や可愛いらしい猫など。意外なところではカメムシもあった。
 動物型の人魂を楽しそうに操るモユラや寮生達。
「楽しいものですね。皆さん、なかなかに拘りがあるようで」
 それを酒と肴片手にニコニコと見ていた義兄未久に
「あんたはやっぱりやらないのか?」
 何かを呑みこんだ口調で冬馬は問いかけた。
 帰ってくる答えは言葉ではなく、変わらぬ笑みだけ。
それを見つめて
「なあ」
 彼は再び言葉を紡いだ。
「あんたの思いは否定はしないが、あんな風に笑って式を俺達に見せてくれていた日々を忘れないでくれよ」
 今、彼は式に形を持たせることをしない。だが昔はあったのだ。
 亡き義姉や義弟達に鳥や蝶といった姿の人魂を披露していた平穏だが輝いていた日々が‥‥。
「忘れないでくれ。もう戻ることのできない、今尚眩く光り輝くあの日々を」
 後で冬馬は思う。この時の自分は泣きそうな顔をひょっとしていたらしていたのではないだろうか。と。
 何故なら未久はいつもと違う微笑みを見せていたからだ。
 抱きしめるように優しく、でも素直に従ってはくれないだろうという強い何かを持った笑みで。
 それでも彼は頷いてくれた。
「そうですね、忘れない様にしますね」
 俯きながら、懐かしむ様に微笑した義兄の言葉とその笑顔を彼は、強く胸に焼き付けたのだった。

 その後、人魂コンテストは審査の時を迎えた。
「本当は、順位など決められないけれど、今回一番の拍手を集めたのは青龍の胡蝶! そして鈴木 透子!!」
 蝶と丹頂鶴。どちらも見るに美しい、正月を盛り上げるに相応しいものだったので、反対する者などはいない。
 盛大な拍手が二人に贈られた。
「大したものではありませんが‥‥」
 そして多分なし、と言われていた優勝賞品が差し出される。なしだけに梨、という落ちは流石にない。
「へえ? おせち?」
「私はタイの姿煮つけ?」
「はい。タイだけにオメデタイ、ということで」
 朔の言葉に皆が微妙な笑みを見せるが、正月料理など考えてみればそんな語呂合わせばかりである。
「おせちはともかく、姿煮は持ち帰れませんね。皆で、食べましょう」
 わあと、上がる歓声。
 宴はまだまだ留まる事を知らず、盛り上がっていく。

●新しい年、新しい友
 コンテストが終わっても、新年会会場はまだまだ賑やか。
「は〜い! カルタ取りやるなりよ。スキルは三回まで使用可能なのだ! 攻めるもよし。守るもよし。では、いくなりよ!
 え〜、人が歩けばアヤカシに当たる〜〜。‥‥当たったらいやなりね」
「はい!!」
 賑やかなカルタ取り大会があったかと思えば
「そういえばここって陰陽寮だよね。『怪の遠吠え』も奏でてみようか?」
「それは止めた方が‥‥」
「ハハ。冗談だよ。じゃあ、『心の旋律』を〜」
 甘い歌声も響いたりする。
「念の為とはいえ、手当の道具を持ってきてよかったです。カルタ取り大会で落とし穴に落ちるなんて、何をやってるんですか? ご自分が作ったものでは無かったのですか」
「さあて、何をやったんだろうねえ〜。ま、座布団も敷いといたからけが人は出ないだろ。ま、笑って、泣いて、飲んで、吐いて。今この時を懸命に生きる。難しい事はさて置き、ヒトの生なんてその連続じゃねぇか? とりあえずは楽しまないと」
「そうですね」
 笑いながら、怪我の手当てを静音にしてもらう喪越。
「‥‥お酒、強そうだけど、飲み過ぎは、良くないから。お茶も、飲んで‥‥」
「ありがと」
「いただきま〜す。ここはお茶も美味しいねえ〜」
「保健委員会の薬草園から取った特製薬草の茶葉で作ったから」
 静乃の差し出した薬草茶を飲む胡蝶やモユラの身体には暖かいお茶と心が沁みこんでいく。
「保健委員会かあ。そういえば朱雀寮は委員会とかやってるんだっけ? 陰陽寮の仕事するの、大変?」
「うん。でも、勉強になるし、楽しい」
「でも、本当に朱雀寮と青龍は授業形態とか違うわよね」
 酒が無くても、授業の事、術の事。肴となる話題は尽きない。
 一方露草は同じ寮の仲間を見つけて何事か絡んでいるようだ。
「私はね〜。私の運命の人妖さんと早く会いたいんですよ。陰陽寮で人妖が作られている筈なのに‥‥」
 ぐだぐだ。どうやら酒量が限界を超えたのかもしれない。完璧な絡み酒である。
 彼女の為に酔い覚ましのお茶を用意しようとした紫乃に
「紫乃〜」
 赤い顔でヘスティアが寄りかかった。
「ごめん、俺が教育間違えたぜ」
 囁いた言葉は冗談めいているが目に宿る光は真剣なものだ。
「燃えるような恋より、穏やかな愛何てことを昔から朔が憧れててな。つか婆ちゃんたちがそうだからな〜。あいつにとって護りたいが精一杯の主張なのかもしれね、鈍いからな」
 許してやってくれ。言外にそういうヘスティアのに紫乃は首を横に振って微笑んだ。
「今が、幸せなんです。朔さんも真名さんも二人とも大好きでどちらも失いたくない。今がいつまでも続かない事は解っていますけど‥‥」
 視線の先には楽しげに笑う調理委員達。
 彼女は無意識に目元を擦っていた。
 透子も、空いた皿を片づけながらカルタ取りや司会の手伝いが終わった譲治、劫光などと楽しそうに歓談している。
「寮長。いかがかなでしょう。一献。とはいえ、こちらの酒ではあるのですが」
 各寮長に无は酒を注いで回る。
「これはありがとう」
「今年も皆様よろしくお願いします」
 杯が何十度目かの音を立てた。
「うちの人魂はカエルさんなので、コンテストには出なかったのですがカンタータさんのは?」
「ボクのはこれです。金色の蝶」
「うわ〜。綺麗な子ですねえ。あ、お酒いかがですか?」
 酒と、料理と暖かい祭りは、寮生同士どころが学年や年、立場の垣根さえも取り払ったようだった。
 とはいえ、一人一人の間には垣根も微かに残る。
「久しぶりね、竜家の次男。元気そうじゃない。可愛い子猫が行方を捜してたわよ、会いに行かなくていいの?」
『私は「青嵐」ですよ、ヴァル嬢。彼女が、自分の護るべきものを正しく定めるまでは彼女に会うつもりはありません』
 そんな会話を交わす二人。
「実際手強いのよね。何をしても暖簾に腕押しだし。自信無くすわ」
 どうなの? と問われ肩を竦める少女。
「ところでこの髪飾りとっちゃだめか?」
「ダメですよ‥‥折角可愛いのにもったいないですよ」
「何か言ったか?」
「いえ、別に」
 並びながら互いの思いを交差させる兄弟。
 しかし、垣根さえもまた絆にして、それぞれが、それぞれの思いと共に宴を楽しんでいた。
「‥‥清心さんたら」
 どこかで酒でも舐めたのだろうか? 酔って横で寝てしまった少年に服の上着をかけると紗々良は、手に弓と矢を持って立ち上がった。
「寮長さん、嚆矢を‥‥許してもらえる?」
「どうぞ、お願いします」
 頷いた紗々良は部屋の外向きの襖を大きく開き開けた。そして空に輝く星に向けて高く、矢を放ったのだった。
「皆さんが、今年一年、健康で、過ごせます、ように」
「いい光景だなあ。俳句ができそう♪」
 いつの間にか暗くなってしまった外の空は、満天の星が輝く。
 降るような星空を見つめ、寮生達は火照った体に夜風と、友と過ごした時が楽しく優しい思い出になるのを確かに感じていたようだった。

 その夜、寮生達は希望者全員一つ屋根の下に泊まった。
 皆で団子のように、集まって、肩を寄せ合って。
「皆さんの今年が、実り多く、楽しいものになりますように‥‥」
 新年会の最後、二年生が告げた言葉は全員の祈りと願い。
 それを抱いて眠りについた。

 今日の思い出がいつか、暗闇の中で自分達を照らし輝く灯火となることを確信しながら。