【彼方】銀杏の茶椀蒸し
マスター名:夢村円
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/12/07 20:17



■オープニング本文

「そういや、お師匠好きだったよなあ〜」
 彼方はそういいながら足元のぷよぷよした実を拾い見つめると、鍋に入れた。
 彼は五行の街に住む少年彼方。
 開拓者の真似事や手伝い、近隣の人々の頼まれごとなどをしながら生活費とお金を貯めている。
 目標は来年の陰陽寮入学試験までに入学金を自力で貯めること。
 今日も、その一環で家の大家に頼まれて近くの山に銀杏を取りに来たのだ。
「おーい、彼方。こっちにもあるぞ〜〜」
「うん! わかった。今いく」
 今日銀杏拾いに来ているのは彼だけではない。
 近所の子供たちが十人弱。
 最近仲良くなった彼らは年下も年上もいるが、共通するのは普通の子供達であるということ。
「最近物騒ですからね。護衛についておあげなさい」
 大家の言葉に彼方は素直に従った。
 銀杏を拾ってきたら茶わん蒸しを作ってあげる。
 その言葉に釣られたことも否定はしないが。
「あんまり散らばるなよ〜。迷子になったら大変だぞ〜〜」
 引率役らしくそんな声を上げると子供達がはーいと返事をした。
 腐りかけた果肉の強烈な匂いは叶わないが、それでもその先にある美味を知っているから子供達は一生懸命銀杏を集めていた。
 ふと、彼方はある気配に気付き顔を上げた。
 と、同時に走り出す。
「危ない! 動くな!」
「えっ?」
 急にかけられた声に首を傾げる子供達は、背後に立つそれに気づかない。
 遠くから見ている子供達の方が気付いて、悲鳴を上げた。
「キャアアア! 鬼!!!」
「えっ?」
 振り返る子供達の後方でガシャンという大きな音と、
『グギャアア!』
 豚のような声が上がった。
 彼方が中に入った銀杏ごと、鍋を投げつけたのだ。
「早く立って走れ。逃げるぞ!」
「う、うん」
 腰を抜かした子供の手を強引に引っ張ると彼方は一目散に逃げ出した。
「うっ!!」
 鬼が力任せに振り回した棍棒が足に当たるが、痛いと思っている暇はない。
「あ! 銀杏の鍋!」
「そんなもん後だ。とにかく逃げる!!」
「は、はい!!」
 そうして子供達は逃げ出した。
 なんとか森から逃げ出すことができたのである。

 そして、依頼はある婦人から出される。
「五行近くの森に鬼アヤカシが出る様なのです。退治をお願いできませんか?」
 その森に現れるのは武装した鬼が数匹。
 目撃証言の限りでは子鬼や赤鬼、豚鬼が主らしいがもしかしたら率いる者がいるかもしれないという。
「あの森は五行からそれほど遠くもなく、子供達が良く木の実取りなどに行くのです。現に子供達の何人かが襲われ怪我をしてしまいました」
「怪我?」
「はい。友達を守った少年が。大したことは無いのですが‥‥。冬にも薪集めなどで森に入る者も多いのでこのまま鬼を放置しておくのは危険です。なんとか冬までに退治をお願いしたいのです。受理していただけますか?」
 依頼内容に問題はない。
 受理した夫人はありがとうございますと、丁寧に頭を下げた。
「よろしくお願いします」
 と。

 さて、その頃の五行の街。
「だから危ないんだってば!」
 彼方は集まって自分を見つめる子供達に何度目かの繰り返しになる言葉を告げた。
「だって、お前は行くつもりなんだろ? 鬼退治」
「それは‥‥その、僕は開拓者の見習いみたいなもんだし‥‥、開拓者さん達が来たら一緒に連れて行って貰おうかと‥‥」
「だったら俺らも行く。お前より俺らの方が年上なんだ。志体持ちだろうが年下にいいカッコばかりさせられるか!」
「開拓者さんってカッコいいでしょ。私、一度でいいから側で戦うの見てみたかったんだ」
「それにお鍋置いてきちゃったもの。あれがないとうち、みそ汁も炊けないのよ。取り戻さなきゃ」
「雪が降ったら銀杏はもう拾えない。大家さんの銀杏の茶わん蒸しが食べられないのは嫌だ!」
「そうだそうだ! 茶わん蒸しの為に!!」
「「「おう!!!」」」
「だから‥‥さあ〜」
 意気上がる子供達を前に
「そっかあ、僕も開拓者さんにこんな迷惑かけてたのかあ〜」
 彼方は大きく肩を落としてため息をついたのである。


■参加者一覧
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
紗々良(ia5542
15歳・女・弓
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
朽葉・生(ib2229
19歳・女・魔
リン・ローウェル(ib2964
12歳・男・陰
鳳珠(ib3369
14歳・女・巫
ルー(ib4431
19歳・女・志
運切・千里(ib5554
15歳・女・砲


■リプレイ本文

●ほのかな期待と足手まとい
 そろそろ秋と呼ばれる季節も終わり。
 すっかり裸になった木々を見ながら
「銀杏か〜。いいわねえ〜」
 葛切 カズラ(ia0725)はどこかうっとりした表情でそう呟いた。
「焼いた銀杏で熱燗を一杯。考えただけでも楽しみだわ」
「そうなのか? 銀杏というのは美味いものなのか?」
 僕は良く知らないがとリン・ローウェル(ib2964)は腕を組む。
 確かに好きでないと自分から食べることは少ない食材かもしれない。
「薬効も高いですし、美味しいとは思いますよ。‥‥少し食べられるようにするまで手間はかかりますが」
 朽葉・生(ib2229)は苦笑した。
 銀杏は殻に包まれているので調理に手間もかかる。実にしてしまえば大したことはないが収穫するときの匂いは‥‥まあ、体験してみないと解らないだろう。
「‥‥好みはあると思うけど、‥‥私は好き。茶わん蒸しに入れたりすると‥‥美味しいの。私も村にいたころよく拾いに行ったわ」
「あの触感と微かな苦みがたまらないですよね〜。美味しい銀杏の茶碗蒸しと、子供や近隣の皆さんの平和の為、ルンルン忍法を駆使して、鬼達を一網打尽に退治しちゃいます!」
 紗々良(ia5542)やルンルン・パムポップン(ib0234)は子供らしい期待でやる気を十分に見せている。
「子供達もよく立ち入る場所で、実際に子供から被害者も出ているというなら、はやく何とかしないといけないね。うん‥‥こういう鬼退治なら、酒天達と違って、躊躇うような理由はない」
 くす、とルー(ib4431)は小さく笑った。微かに竦められた肩の理由を誰も聞くことはしない。
「確かに。せっかくの実りの森を鬼に奪われるわけには参りません。一刻も早く退治して森に平和を取り戻さねば。‥‥千里さんも、その時には一緒に銀杏拾いをしませんか?」
「えっ? ボク?」
 はい、と鳳珠(ib3369)は運切・千里(ib5554)に笑いかけた。
 初仕事で緊張気味だった千里はその笑顔に、少しだけ、頬を緩ませる。
「うん。そうしたいな。銀杏の茶わん蒸しも楽しみだし。初めてのお仕事だから、お手伝いくらいしかできないかもしれないけど、頑張るからよろしくね」
「まあ、そう緊張することもないと思うわ。シンプルな鬼退治みたいなものだもの。相手は普通の鬼っぽいし、リーダー格がいたとしてもそんなに強くは無いでしょうしね。さっさと行って、さっさと片付けちゃいましょう」
 カズラはそう言って肩を上げた。
 歴戦の開拓者にとって鬼退治そのものは、それほど難しいと感じる事ではない。
 だから依頼人の元に向かう彼等の足取りは軽かった。
 今だけは‥‥。

 そして彼らは困り顔の依頼人の側で開拓者を期待に満ちた目で見つめる子供達と出会うことになる。
 彼らは言ったのである。
「僕達も鬼退治に連れて行って下さい!」
 と‥‥。

●二つの戦い
 潤んだ瞳で子供達が開拓者を見る。
「どうしても‥‥ダメ?」
 開拓者達は根気強く繰り返し言い聞かせていた。
「よく考えて。ねぇ、勇気と無謀は違うよ」
 と。

 森に踏み込んだ開拓者達、特にリンは、周囲に漂う強烈な匂いにあからさまに顔を顰めた。
「なんだ? この匂いは?」
 最初からある程度の覚悟をしていた者達はそこまで気にしない。
 カグラはくすりとほほ笑んでからかう様に言った。
「なにってこれが銀杏の匂いよ〜。果肉が熟れるとね凄い匂いを出すのよ」
「この臭いのを食べるのか!」
「何言ってるのよ。食べるのはこの中の種よ。種‥‥」
 足元を見ると潰れた果肉から白っぽい種が、確かに飛び出ている。
「種にして洗っちゃえば、そんなに匂うものでもないんだけどね」
「確かにこの臭いは、‥‥いいえ! これも茶碗蒸しの為です!」
 自己完結したルンルンと違い
「だが‥‥」
 それでもまだ何かを言おうとしたリンであったが、それ以上の言葉は、今は止まる。
「静かに。来ましたわ」
 鳳珠の言葉に開拓者達は気配を木々の影に隠した。
「五つ‥‥、いえ、六つですわね。他には‥‥感じられません」
「奥の方で少し重そうな足音を立てているのがボス、ですかね?」
「とすると‥‥あれか」
 開拓者達が視認できるくらいまで鬼達はもう近づいてきている。
 子鬼と赤子鬼の奥にいる、鎧を纏った鬼。
「ん〜。この人数でもなんとかなりそうかな?」
「そうだね。僕は援護に回るよ。紗々良さんも一緒で良い?」
「うん‥‥、あ‥‥」
 紗々良が小さな声を上げた。鬼の足元に銀杏の葉に埋もれたあるものを見つけたのだ。
 それは、紗々良の心配通り蹴り上げられ、ガラランと音を上げる。
 鬼達の警戒がピンと音を立てる様に張りつめ、木陰の開拓者達に気付く。
「ちっ! 仕方がない。一気に片づけるか!」
 二人の陰陽師と、シノビが前に飛び出していく。
 それが合図となり、森の戦いは幕を開けたのだった。

 森の戦いよりいくらか早く街での戦いは始まり、一応の終わりを告げていた。
「鬼退治に行きたい!」
 敵はそう言って纏わりつく子供達。
 倒すわけにも乱暴するわけにもいかない彼らに、開拓者達は辛抱強い説得を続けた。
「山にはこわーい鬼が出るんでしょ? 彼方君だって怪我したんだから‥‥危ないから着いて来ちゃ駄目。よい子は真似しちゃ駄目なのです」
「でも、にーちゃんやねえちゃんだって、彼方だって、子供じゃないか?」
「そうだ。ずりーよ」
 偶然というか今回依頼を受けた開拓者達に若い者が多かったことも手伝って、彼らはなかなか納得しようとはしなかった。
「確かに僕はまだ子供だ。子供だが‥‥この程度なら造作も無い。僕には術があり、戦う術がある。容姿のみで相手の力量を想定するなど愚か者のすることだ」
「軽く考えないで。きついこと言うけど君たちに何が出来るの? 足手まとい、来られても困るの」
 きっぱりと言いきった二人に、子供達の多くはシュンと頭を下げる。
 言いすぎではないかと、生は軽く眉を上げるが言うべきことは同じである。
 ルーと顔を合わせて子供達に静かに語りかけた。
「年下のお子様達の面倒を見るのも年長者の役目と思いますが如何でしょうか?
 鬼退治の後でも、森で皆さんが安全に銀杏やどんぐり等を採取するよう気配りや面倒を見る役割は重要だと思います」
「目の前で鬼を見て、怪我人まで出て、それでもなお森に行こうというのは勇気があるとも言えるのかもしれないけど。だけど、それを認める訳にはいかない。危険を失くすために呼ばれた私達が、君たちを危険にさらすわけにはいかないからね」
「あなた達が、鬼が近づいても、気づかなかった、みたいに‥‥森の中は、視界が悪い、から。あなた達を、守れないかも‥‥しれない」
 彼らを慰めるように紗々良は言うと、優しく頭を撫でる。
「死んでしまったら、茶碗蒸しも、食べられなくなる‥‥のよ? 銀杏も、お鍋も、気兼ねなく、取りに行けるように、するから‥‥。鬼を退治したら、ちゃんと呼ぶ、から。少しだけ、待っていて?」
 その思いが通じたのだろうか。いざ、出発となった開拓者達をそれでも追おうとする子供は表向きいなかった。
 念の為、生とルー、そして彼方が残って子供達を守ることになった。
 子供達のほとんどはルーや生など開拓者と遊ぶことによって満足したようであるが、一人、最年長の少年だけは、その顔にまだ不満を浮かべていた。
「ダメだよ。危ないんだから」
「うるせえ! 年下のくせにでかい顔するな!」
 苛立ったような様子を見せて彼方の手を払うと厠に行くと出て行ってしまった。
「彼方さん。さっきの子は?」
「厠に‥‥」
「いけません! 追って下さい! 目を離さないで」
「えっ?」
 彼方が生の言葉の意味に気づいて厠の戸を開けたときにはもう遅かった。
 少年は一人、家を抜け出し森へと向かっていたのである。
「ここは私が預かりましょう。お二人は彼を追って下さい」
 生の信頼を背にルーと彼方は全力で走り抜けた。
 目的地は、一つ。あの森である。

●勇気と無謀
 森での戦いは終局に向かっていた。
 同人数同士の戦いであるのなら、鬼との戦いは圧倒的に開拓者が有利である。
 前衛が撹乱し、後衛が後ろから強い攻撃を放つ。
 巫女が怪我の治療と防御を担当する。
 そのフォーメーションで敵の殆どは既に瘴気に還っていた。
「葛切さん、陰陽師さんなのに前に出れるのすごいよね尊敬。ルンルンさんもすごいや、ボクも頑張ろう」
 後方から文字通りの援護射撃をする千里の前で
「ルンルン忍法、ダブルステルス! ‥‥影と私、簡単には見抜けないんだからっ」
「行け! 霊魂砲!」
 ルンルンとリンが鬼の一体を瘴気に返す。
「これで、残るはアレ、だけね」
 アレと指差した鎧鬼をカズラはじっと見つめ、間合いを開けながら鞭と蛇神を打ち込んだ。
 金棒で反撃されるので飛びのいたが、手ごたえは十分にあった。
「‥‥イケる。この場で潰してしまいましょ」
 カズラの言葉に身構えなおしたリンは、
「よしっ。一気に‥‥な、なに!!!」
 その場にとつぜん現れたものに驚きの声を上げた。
 鎧鬼の背後の木陰から一人の少年が現れたのだ。
「見つけ‥‥うわああっ!!」
 自分の真横に鬼がいる。
 腰を抜かした少年は悲鳴を上げ逃げようとするが、一瞬の隙に少年の腕は身体ごと鎧鬼に持ち上げられてしまった。
「た、助けて〜〜!!」
 泣き出しそうな少年の声が森に響く。
 だが、鬼は人質のように少年を高く掲げた。
 このままでは攻撃もできない。
 唇を噛んだ開拓者であったが、ふとあることに気付く。
 鬼の後方に見えた‥‥あれは‥‥
 開拓者達は目くばせをしあって気付かれないように場所を移動する。
 先頭に立っているリンは、鬼を睨みつけたままだ。勝負は一瞬。
 彼は深く深呼吸をして声を上げる。
「彼方。今のお前は見習いでは無くただの陰陽師だ。‥‥この意味が分かるな? なら、今だ!!」
 シュン!
 術の発動。それは鬼の後方から放たれた呪縛符だった。
 自分のモノではない術の発動を確かめて、リンはカズラと一緒に鬼の懐に飛び込むと、手に持った匕首でその心臓部を深く突き刺した。
『ぎゃあっ!』
 悲鳴を上げた鬼が少年を振り落す。それをカズラが抱き留め鳳珠へと託した。
 その頃にはもう鳳珠の援護でさらに素早さを増したリンリンが鬼の背後に迫り、ルーもまた顔面に宝珠銃を炸裂させている。
 逃げようとする鬼の足元は紗々良の矢と千里に縫い止められ動くこともままならない。
「このおおっ!!」
『ぐああっ!』
 やがて鎧鬼は再びのカズラとリンの攻撃が致命傷となって、瘴気に還って行った。
 震える少年と、開拓者達を残して。


●銀杏の茶わん蒸し
 差し出されたのはほかほかに湯気の上がった小さな蓋付きの器。
「熱いから火傷しないようにね」
 注意を受けて静かに蓋を取ると開けると中からつるんとした卵色の生地が顔を出した。
 ふんわりと漂う柔らかい香り。
 木さじですくうと美しい緑の小さな木の実が顔を出す。
 そっと口に入れた。
「美味しい〜〜」
 思わずルンルンは声を上げた。千里も、紗々良も、鳳珠も銀杏初体験であろうリンですら、その美味しさに頬を緩ませる。
「確かに、これは美味ですね」
 生も納得したように頷く。それを見て、まるで我が事のようにえっへんと彼方は胸を張って見せた。
「でしょう? 大家さんの茶わん蒸しは天下一品!」
「‥‥うん、本当。お相伴できて幸せ♪」
「あらあら、褒めてくれてありがとう。さあさあ、遠慮しないでいっぱい食べて」
「いただきま〜す!」
 大家が言った相手とは多分違う、子供達も元気な声を上げて次々茶わん蒸しに手を伸ばした。
 一応、開拓者達が食べ始まるまで待っていたのが子供達なりの感謝、なのであろうか。
 一人を除いて。
「確かに、採れたて銀杏の茶わん蒸しは美味しいね。ほら、君もどうぞ」
 ルーはその一人に意味ありげに笑いかける。茶わん蒸しを差し出した手を少年は、取ろうとはしなかった。
「‥‥なさい」
「どうしたのです?」
 生の問いに
「ごめんなさい。言うこと聞かなくて」
 精一杯の少年の、でも囁くような声で答えた。
 一人で森に行ったこと、危機を招いたことを反省しているのだろう。
 大きな傷は無く小さな傷も鳳珠と生に治してもらった。
 けれど事が終わり皆で銀杏を拾う間も、ずっと彼は生の横で落ち込んだ顔をしていた。
「まあ、勢いだけでどうにかなるという安易な考えを改めてみてほしいものだな」
「色んなモノが見えるようになりたいよね。大切なモノ守れるように」
「守るということは敵と戦う、ということだけではないのですよ。貴方にもできること。貴方にしかできないことがあるのですから、無茶はいけませんよ」
 責める様子はないが優しく、厳しい開拓者の一言一言。噛みしめるように手を握り締めた少年はもうもう一度深々とその頭を下げた。
「はい‥‥。本当にごめんなさい」
 自分の失敗を心から後悔していると解っているからルーは微笑んでくしゃとその頭を撫でた。
「もういいよ。解ったんならね?」
「ほら、お前も茶わん蒸しを食べないか? 美味いぞ」
 リンが差し出した椀に少年は、
「うん!」
 笑みを取り戻したようである。
「よかったわね」
 少し離れた所でその様子を見守っていたカズラは側に控える彼方に片目を閉じた。
「この翡翠色、綺麗ね〜。いいわよね〜。苦労したかいがあったわ〜」
 炭火で焼いた銀杏をつまむカズラに彼方は熱燗の酒を注いだ。
「で、どう? 彼方君? 今回の感想は?」
 唐突な呼びかけではあったが、どこか苦笑いに似た笑みを浮かべて静かに答える。
「一生懸命、と言えば聞こえはいいですけれど、力がないのに突っ走るというのは困るというのが解りました。自分が、今までどれほど迷惑をかけてきたかも‥‥。本当にすみません」
「あら、意外。自分がしてきたことが間違いだと思うの?」
 悪戯っぽく笑うカズラに彼方は目を瞬かせる。
 パチンと銀杏の殻を剥きながらカズラは片目を閉じる。それは優しい目で。
「過ちを気に病むことはないの。ただ認めて次の糧にすればいい。それが大人の特権だ。ってね」
『今のお前は見習いでは無くただの陰陽師だ』
「はい」
 依頼の中、かけられた言葉と共に彼方は彼女の優しさを受け止め静かに頷いた。
「志体は生まれ持った、力だけど『周りと違う』事は時には、仲間はずれの原因にも、なる‥‥のよ。強いことは、いい事ばかりじゃない、けど。今は‥‥大切な人を、守るために、精霊様が、くれたんだと、思ってる。彼方さんは‥‥どう?」
「今はまだ解りません。でも、いつか‥‥必ず、答えを見つけて見せます」
 少年の決意。
 開拓者達はそれを黙って見つめ、そして静かに微笑んだのであった。

 炭火の爆ぜる音に柔らかい湯気の香り。
 その日、家からは子供達と開拓者達の笑い声と共に長く、それは消えることが無かった。