【師弟】荷物を届けに
マスター名:夢村円
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/03/01 18:42



■オープニング本文

 二月も半ばを過ぎるというのに空気はなかなか春を感じさせない。
 特に一昨日から降り続いている雪はまだ止む気配を見せず、旅人達を難儀させているという。
 そんなある日、一人の商人が開拓者ギルドにやってきた。
 外には大きな一抱えもありそうな樽が四つ乗った荷車が一台。
「これをある場所まで届けて欲しいんだ」
 という彼に届けものの依頼かと軽く引き受けかけたギルドの係員は指定された場所に目を瞬かせた。
 場所は石鏡の外れの山中。それも頂上付近。と書かれていたのだ。
 それほど高い山ではないがそれなりの標高の山。
 周囲に街などもない。めぼしい施設も無い。
 要するに人も通わぬ雪山である。
 普通で近くの村から徒歩まる一日、だがこの雪では倍以上かかるだろう。 
「実はその山にはある陰陽師が弟子と一緒に住んでるんだよ。この品はその人から頼まれた生活用品や食糧なんだ」
 一つ目の樽は酒、二つ目、三つ目の樽は食べ物。四つ目の樽には衣服やその他、こまごまとした物が入っているそうだ。
「その陰陽師は以前は名のある術者だったそうだが、あることから町を離れ山に篭るようになった。まあ、そんな相手には良くあるように偏屈でちょっと変わり者なんだが、以前命を助けてもらったことがあってね、頼まれて定期的に食べ物とかを届けているんだ」
 金払いは悪くない相手であると笑った後、だがと彼は続けた。
「今年はこの雪だろう? その上別の大きな仕事も入ってしまってね。ちょっと届けるのが遅れてしまいそうなんだ」 
 だから今月中に荷物を届けて欲しい。それが依頼の内容であるらしかった。
 ただ荷物を届けるだけであるが、山の中であるということから簡単ではない。
 しかもこの大雪で下手に歩けば腰まで埋まってしまうだろう。
 かといって竜の朋友で空から、という手は使えない。
 着陸する場所がないし、雪はまだ完全に止んではいないからだ。
 故に地上から行かなければならない。
 地上から行くのであれば、朋友その他は使ってもいいらしい。
「と、いうより使わないと大変だろ。この荷物だから」
 報酬は高めである。また成功すれば追加報酬も出すと商人は言う。
「今日明日で食べ物が切れる、というわけではないだろうけど、残っている食料の備蓄もそんなに多くは無いはずだ。この雪で山を降りてくるのも簡単じゃない筈だし弟子はまだ子供だし、なんとか受けてもらえないかな」
 大荷物を抱えての雪山登山はやはり楽な仕事ではない。
 だが、山奥で空腹に耐えている者がいる。
 なんとか食料を届けてやりたい。という気持ちは解らなくもない。
「山には陰陽師がいるからアヤカシはそんなに居ないはずだ。いたとしても獣くらいだと思う」
 彼は目印であり彼の使いである印にと青い旗を渡して頭を下げた。
 よろしく頼むと‥‥。

「ねえ〜、お師匠様〜〜。俺、腹へりましたよ〜。街に行きましょうよ〜」
 恨めしげに師を見上げる少年の腕の中で同意するようにもふらが鳴いた。
 だがそれを受ける者は振り返りさえしない。
「行きたければ一人で行け。お前一人で山を降りられるならな」
「そんな〜〜」
 机に向かい、巻物を広げたその人物はふと目を閉じた。
(「何かが来る。運命を動かす何かが」)
 そんな言葉にならない、しない、予感を感じながら‥‥。


■参加者一覧
当摩 彰人(ia0214
19歳・男・サ
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
奏音(ia5213
13歳・女・陰
白蛇(ia5337
12歳・女・シ
紗々良(ia5542
15歳・女・弓
和奏(ia8807
17歳・男・志
劫光(ia9510
22歳・男・陰


■リプレイ本文

●雪山登山
 雪はまだ降り続いている。
 一時期よりこれでも大分、空の雲が薄くなったようだと人々は話すが、こうして目を開けて上を向いていると雪が目の中に入ってきそうだ。
「これはやっぱり、空から行くのは難しいかもしれません。
 場所があの山というならなおのこと‥‥。すみませんね。颯。
 留守番をお願いします。なるべく早く帰ってきますから」
 ため息をついた和奏(ia8807)は駿龍、颯の首を撫でる。
「できれば荷物を持って欲しかったんですけどね」
「確かに、まったく、雪の中に輸送とは‥‥物好きというのかね‥‥、住んでる奴の顔が見たいってもんだな。というわけでお前も留守番だ、大人しくしていろよ。火太名」
 劫光(ia9510)もまた自分の龍を横目に見て息を吐き出す。
 龍を朋友とする者達にとって、この天気と寒さは確かに大きな敵と言えた。
「清廉。寒いけど、少し、待っててね‥‥?」
 自分の駿龍清廉を毛皮でぐるぐる巻きにして言い聞かせる紗々良(ia5542)は過保護の感があるかもしれないが、ここから先を歩かせるのは酷である。
 待たせるしかないだろう。
「商人が手配してくれた人が見てくださるそうですから」
 寂しげな和奏も気持ちを切り替えて前を向く。
「オトヒメは‥‥だいじょうぶ? だいじょうぶ、だよね?」
 ぎゅっと大事そうにミズチを抱きしめる白蛇(ia5337)や
「雪山に荷物か! 寒そうだなー。雪、よろしく頼むぜ」
「クロちゃんもよろしくおねがいなの〜」
 猫又達を抱いて言い聞かせるルオウ(ia2445)と奏音(ia5213)の方の準備はいいようだ。
「あの‥‥ちょっと、こちらを手伝って頂けますか?」
 柚乃(ia0638)が助けを求めるように仲間を呼んだ。
 紗々良が近寄ったのを見て、慌てて当摩 彰人(ia0214)も駆け寄る。
「ユノちゃん、こう言う仕事は任せてよ」
 もふらの八曜丸へ荷運びのソリの紐をしっかりと結びつける。
「雪はもうすぐ止んで、これ以上酷くはならないと思うけど、その分、空気は冷え込みそう‥‥。大丈夫でしょうか?」
 天候の様子を見た柚乃は心配そうである。 
「犬ぞりや他のもふらさまは借りれなかったしね。一匹じゃ大変だと思うけど‥‥よいしょっと」
 四つの樽の乗ったソリが八曜丸に紐で結わえられた。
 このもふらソリが今回の依頼の要となる。
「今回はお願いね、八曜丸。お仕事が終わったら、ご褒美に美味しい食べ物をあげるからね」
「雪ん中を大変かもしれねえけどよろしくな!」
 優しく撫でた柚乃や仲間達の激励に答えるように、八曜丸は頷く。
 それを確かめてにっこり笑うと
「よーしっ! 頑張っていこうぜ!」
 ルオウは声を大きく上げた。
 大きな荷物と共に行く、開拓者の雪山登山はこうして始まったのであった。

●純白の敵
「本当に、どうして‥‥こんな山奥に住んで‥‥いるのかな‥‥」
 はあはあ、と息を切らせながら紗々良は一歩、また一歩と雪を踏みしめて歩く。
 周りを見れなくても、仲間達もまったく同感という顔でいるのが彼女にもよく解った。
「雪は好き‥‥赤い血の跡を‥‥覆い隠してくれるから‥‥。山頂に住んでる子も‥‥そうなのかな」
 ちょっと楽しげなのは白蛇くらい。
 後の開拓者達は想像以上に体力を要する雪山での歩きに体力をかなり消耗していた。
 そして、それは一人で荷物を運んでいたもふらさまも同じこと。いやそれ以上だったのだろう。
 ピタ。
「? どうしたの? 八曜丸?」
 突然足を止めてしまったもふらさまの顔を柚乃が覗き込んだ。
「えっ? 疲れた? どうしましょう‥‥」
 疲れて足を止めてしまったもふらさまに、開拓者達は青ざめる。
 依頼人から聞いた目的地まで、まだかなりある。
 ここでこの仕事の要であるもふらさまに機嫌を損ねられてしまったら‥‥。
 その時、先行偵察に彰人がおーい、と仲間達を呼んだ。
「この先少し行ったところに広場みたいなところがあるからさ、そこで今夜は休もう!」 
「もふらさま、頑張って。あと少し‥‥ ね?」
「奏音もお手伝いするの〜。だから頑張るの〜〜」
 開拓者達の後押しや、柚乃のお願いにもふらさまはなんとか機嫌を直し、歩を進めてくれたのだった。

 そして小半時程の後。
「よっしゃあ! やるぜい!」
 雪と戯れる少年の姿があった。
「遊びじゃないんだぜ、ルオハム」
 彰人の笑うような声がルオウをからかうが、ルオウも完全に遊んでいるわけではない。
「雪、ちょっと警戒頼むな」
 猫又を放すと腕をまくる。野営用のかまくらを作る事にしたのだ。
「かまくら作るの、けっこう大変なの〜。木が〜いっぱいある〜おやまなら〜、木のあいだに〜ロープをはって〜ぬのとかで〜やねが〜つくれたら〜ゆきが〜ふせげる〜かも〜だよ〜」
 心配そうに言う奏音に大丈夫、とルオウは笑ったが、実際に作ってみると、確かにかまくら作りというものが一人の、遊び感覚ではとても大変なことがよく解る。
「私も手伝います〜♪ やっぱり雪が好き〜」
 もふらさまを休ませた柚乃が手伝い始めたのを見て、手が開いている開拓者の多くがかまくら作りを手伝い始めた。
 雪を集め、固め、中を削り穴を開ける。一つのかまくらを作るのに実は半端ではない量の雪が必要で‥‥
「できた〜〜」
 やっとこのことでなんとか、かまくらを二つ。完成させたときにはもう夕暮れに近かった。
「あー、疲れた。しんど〜」
 そんな彼らに
「お疲れ様です。暖かいものをどうぞ?」
 和奏は暖かいスープを差し出した。
 それは、寒さに冷え切った開拓者の身体と心にじっくり、じんわりと心に染みていくようだった。
「美味しかった。ありがとう」
 火を囲み、食事をし、彼らは今後について話し合った。
「しかし、雪、というのは思った以上に体力を消耗させますね。少々甘く見ていたかもしれません」
 和奏の言葉に開拓者達の異論は無い。野宿は覚悟していたが、もう少し上まで上がれるかと思っていた。
 寒さは殆ど感じない。むしろ汗をかくほどである。
「‥‥多分、あと半分‥‥ってところ。頑張れば‥‥、明日の夜には‥‥着ける?」
 式を使って偵察していた白蛇の言葉に、でも、と柚乃が心配そうに言う。
「八曜丸がまた拗ねたら大変だし‥‥無理はさせたくないです」
「それは勿論。皆で手伝いながら行きましょ?」
 ね? 男性陣に笑いかける紗々良。その横にいつの間にか彰人が座っていた。
「勿論だよ! ササちゃん! 明日の為に早く寝ようか? 人肌でぎゅーっとして‥‥」
 腕を広げかけた彰人に
 ぼかっ!!
 劫光の拳骨が飛んだ。
「頼まれているからな。下手な手出しはさせんぞ!」
「ちぇーっ。じゃあいいや。でも、夜の見張りは一緒にしよう? ね?」
「! だから!」
 明るい笑い声が夜の森に響き渡った。

●狙われた荷物
 深夜。開拓者達の野営地。
「?!」
 ルオウは顔をあげ、振り返った。
「どうかしたのか?」
 劫光の問いにルオウの雪、奏音のクロ。二匹の猫又が威嚇で答える。
「何かの気配がする‥‥ケモノ‥‥か?」
 ルオウの言葉に和奏、奏音も耳を欹てる。
 確かに風の音に混じり、何かの唸り声が聞こえるような気がする。
「確かにアヤカシでは、なさそうですね。ケモノ‥‥おそらくは狼か何かでしょうか?」
「えっと〜、えっと〜、ケモノなら〜、できればやっつけたくないの〜。おどかしたら、にげてくれるかもしれないの〜」
「俺も以下同文」
 奏音とルオウ。二人の子供達の意見に気持ちも解るし同感だ‥‥と前置いて
「だが‥‥どうする? 暗闇の中、どこにいるかまでは解らないぞ。襲ってこられたらこちらが後手に回る」
 と劫光は冷静に答えた。
「だったら、こんなのはどうなのかな〜。いいのならクロちゃんにおねがいなの〜〜」
「?」
 突然指名されたクロが首を傾げる。
 そして‥‥数分後。
 ピーーーーッ!
 甲高い呼子の音が、森に響き渡った。
 一瞬、動揺を見せた闇の中に向けて、影が走り抜き着地と同時、地面を足で叩いた。
 突然盛り上がる地面と、雪。
 ぶあっ! 音を立てるように舞い上がったそれは、ケモノ達の視界を奪い‥‥そして足の機敏さを奪った。
 ギャウン! ギャウン!!
 悲鳴を残しケモノ達の気配は消えていく。
「とりあえず、逃げてくれたようですね‥‥」
 たいまつを森に向けながら和奏がホッとしたように微笑んだと同時、
「どうしたの? 何かあったの?」
 かまくらの中から眠っていた仲間達がやってくる。
 それを見つめ、役目を果たした見張り役第二班は楽しげに微笑んだのだった。

 昨夜の攻防はなんとか、互いに傷つけあう事無く終えることが出来た。
 だが、今度はそうはいかないかもしれないと紗々良は荷物の後ろを守りながら唇を噛み締めた。
 夕刻。
 目的の場所まで、あと僅かのところで彼らは狼達の群れに囲まれていた。
 数は10匹前後。
 それらは一様に飢えた様子で、開拓者を。
 正確には彼らの守る荷物を狙っているのだ。
「匂いでも嗅ぎつけたのかな?」
「この数だと少々の干し肉じゃ収まらないでしょうね‥‥」
 紗々良と目線を合わせた彰人はそうだね、と頷くと
「ユノちゃん!」
 強くそう呼んだ。
「は! はい!」
「もふらと後ろに隠れてて。うごいちゃダメだよ」
 こっくりと頷いた柚乃は八曜丸の首を抱きしめて座る。
 それを合図にしたかのように、狼達は開拓者達に向かって飛びかかり、彼らはその迎撃へと移ったのだった。
 
 開拓者の基本姿勢はケモノを殺さず、倒すこと。
 それは手加減なしに向かってくる餓狼との戦いには僅かな不利となった。
 しかし、その不利はほんの僅かなもの。
「っとお、大人しく倒されておけって!」
 ルオウは飛び掛ってきたケモノを峰討ちにし、彰人もまた回転切りをなるべく致命傷にならないように使っていた。
 荷物と柚乃を背に紗々良は狙い、矢を放つ。
 いざ、討つとなれば彼女は躊躇いはしなかった。
 無駄な殺生はできる限りしたくない。だが、仕事もまた優先だからだ。
 昨日やったと同じように奏名は猫又と共にケモノ達を足止めさせる。
 そこを和奏が巻き打ち、劫光が呪縛符で動きを縛った。
 一刻経たないうちに、動いているケモノは最後の二匹となった。
 だがそれはまだ逃げようとしない。
 一直線に向かって獲物を狙う。
 それを‥‥
「えっ?」
 開拓者達の背後から飛んだ炎が、包んで燃え上がる。
 彼らが振り返った先には二つの人影が見える。
 ギャン!!
 悲鳴を上げて転げる狼。燃える毛皮。それに
「オトヒメ!」
 今度は水柱が叩きつける様に襲った。
 炎と水の連続攻撃に半死半生のそれらは白蛇の円月輪で本当の死体となる。
「‥‥君は、だれ?」
 紗々良は白蛇と一緒に現れた人物に声をかけた。
 まだ白蛇とそう大差ない少年に見えたその子供はくるりと踵を返し走り去っていく。
「あ! 待って!」
 追いかけようとした紗々良を白蛇が止めた。
「‥‥あの子。目的の家の子‥‥。あと少しだから、行こう‥‥」
 死んだケモノを一度だけ見やってから、
「行きましょう‥‥」
 紗々良は仲間達を促して歩き始めた。
     
●山奥の陰陽師
「荷物を運んでくれたのか? ご苦労じゃったな」
 やっとのことでたどり着いた山頂の小屋。
 そこで開拓者達を出迎えたのは、陰陽師とその弟子。
 情報どおりであった。
「出迎えが遅くなってすまなかった。苦労をかけたようじゃ」
 さっきの少年は想像通り、陰陽師の弟子であり、師匠の後ろに隠れるようにして立っている。
 おまけに小さなもふらさまもいて、荷運びに疲れきったもふらさまとなかよくじゃれあっているのは、見ていてほほえましくもある。
 だが開拓者達の多くはそれを見ている余裕は無かった。
「あなたが、この山の陰陽師?」
「そうじゃが‥‥なにか?」
「あ、いえ。ちょっと想像していたのと違うから‥‥」
 ごめんなさい、と素直に言って頭を下げた紗々良に彼女、桂名と名乗った陰陽師はなんのと豪快に笑う。
「いろいろと人の世はわずらわしくてのお。これ! 彼方! お前もちゃんと挨拶をせよ」
 ぼかっと、弟子の頭を叩いて前に押し出す。
 しぶしぶ顔で前に出てきた彼方、と呼ばれた少年は、明らかに膨れた顔で
「どうも‥‥」
 と小さく頭を下げた。
「なんという態度をしておる! 食べ物を持ってきてくれた恩人じゃぞ! 腹が減ったと煩かったのはおまえじゃろう?」
 もう一度ぼかっ! 鈍い音がする。
「いてっ! ばばあ! 解ったよ。ありがとうございました!!」
「これ! ばばあとはなんじゃ! この美女に向かって!」
 棒読みの礼を言って逃げ去るように奥の部屋に隠れてしまった少年を見て、桂名ははあ、と大きくため息をついた。
「すまぬのお。こんな山奥で暮らしているが故、礼儀が行き届いておらぬ」
「いや‥‥それは構わないが。どうしてこんな所に住んでるか聞いてもいいか?」
 彼もまた想像していた『山奥の陰陽師』とは違うイメージを目の前の人物に持ったようだ。
 本人がさっき言った美女というのは彼女の冗談も含んでいるであろうが、目の前の人物は少々大柄ではあるが、妙齢の、かなり美しい部類に入る女性であったのである。
 だが劫光の問いに桂名はただ、困ったような笑顔だけで答えた。
 それはつまり、答えたくないという事。
「雪が‥‥好き?」
「奏音と〜おんなじ〜おんみょ〜じさんなの〜♪ かなたくんも〜おんみょ〜じ〜なのかな〜? おともだちに〜なれたら〜うれしいかも〜なの〜」
「ああ、雪は好きだ。だが、ここは春や夏も美しいぞ。またおいで。それから、彼方と友達になってくれると私も嬉しいな。あの子は殆ど山を降りたことが無いから友達がいないんだ。お願いするよ」
 図らずも話題を逸らしてくれた少女二人を、歓迎するように笑いかけた彼女を見て、開拓者達もそれ以上の追及はとりあえず止める事にした。
「とにかく、今日はゆっくりしていってくれ。君達が持ってきてくれたおかげで食べ物は豊富になった。私が手料理をご馳走しよう」
 扉の奥から顔だけ出して少年は捨て台詞を残す。
「師匠の手料理は最悪だぞ〜、覚悟しろよ〜〜」
「彼方!」
 二人のかけあいは心から楽しそうで開拓者達は、笑顔を見せた。
 それは本当に心からの疲れを癒せる幸せな笑顔であった。

 翌朝、追加の報酬と礼にと貰った符を持って冒険者は下山した。
「帰りはソリ空だから楽だからね。八曜丸」
 嬉しそうな柚乃の声に、ルオウは目を輝かせる。
「なあ、これでソリすべりして降りたら楽じゃね?」
 楽しげな二人の反面
「かなたくんと〜、おともだちになれなかったの〜〜」
 残念そうに奏音は俯いた。
 師匠に言われた事とは別の思いで彼方と友達になりたいと思った奏音は滞在の間、何度か呼びかけ近寄ろうとしたのだが、その度少年は素早く逃げ出してしまい結局、話も出来なかったのだという。
「照れてたのかもしれないよ」
 彰人が沈む奏音の肩をぽぽんと叩いた。
「また機会はあるさ」
「そうですね。彼らとはまた再会の予感がします」
 呟いた和奏に他の開拓者達も同感の頷きを返す。

 開拓者達の帰路を送るのは手を振る桂名とその後ろの彼方。
 そして‥‥
 〜〜♪ 〜〜♪
 清冽な白蛇の笛の音と青空。
 次にこの山に来るときはどんなことが起きるのだろうか。
 それを微かな楽しみにして、彼らは静かに山を降りたのだった。
 
 余談
 予定より一日遅れで雪山から戻ってきた開拓者達を出迎えたのは、置いてけぼりにされ、不機嫌になった龍たちであった。
「ゴメンネ。寒かった?」
 暴れたり、逃げたりこそしなかったものの拗ねたような彼らと絆を取り戻すのに、開拓者達が少なくない時間を要したのは後の話である。