【朱雀】送別と感謝の宴
マスター名:夢村円
シナリオ形態: イベント
EX
難易度: 易しい
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2015/03/28 22:08



■オープニング本文

 卒業論文を終え、進級の製作も完成し、朱雀寮生達は残る卒業、進級までの日々を静かに過ごしている。
 そんなある日、在校生達から卒業生に向けて一通の招待状が送られる。
 それは、所謂「三年生を送る会」の案内であった。

『間もなく卒業を迎えられる先輩達に感謝の会を開きたいと思います。
 お忙しいかと思いますが、ぜひご臨席下さい』

 その丁寧な筆跡と文章に後輩達の優しさが見えるようである。
 朱雀寮の各委員会もそれぞれに多くが引継ぎなどを終えている。
「この場所をよろしくお願いします」
 引継ぎ資料と図書室の鍵を受け取った二年生は、そこに込められた思いも一緒に受け取った。
「用具委員会は、この間作ったまとめ冊子をを引き継ぐだけやしね。
 うちの卒業後は、寮長センセに引き継ぐんかいな? 」
「またきっと後輩も入ってくるさ」
 委員長は寂しげな後輩の頭をぽんぽんと優しく撫でていた。
 体育委員会は一年生として残る桃音がその後を引き継ごうと、一生懸命に頑張っている。
 保健委員会の二年生も薬草園の手入れや、薬の確認など地味な作業を手を抜かずしっかりと続けていた。
 去る者と残る者。
 思いは受け継がれ、続いていくと、その背中に三年生達は未来を信じることができたのだ。
 そんな日に届いた後輩の思い。
「人数は少ないけど、心を込めたいよね?」
「料理は任せよ。腕によりをかける」
「彼方先輩、卒業生なのにはりきってるよってな…」
「皆は、三年生の事をどう思っている?」
 招待状に込められたそれを受け取った三年生達はふと思う。
 自分達も何かを返せないだろうか…と。

 朱雀寮は思い返せば毎日が祭りのようであった。
 宴会もしょっちゅうだった。
 共に食事をし、共に笑い、共に試練に挑み、そして一緒に乗り越えてきたのだ。
 これが、皆で食事をする最後の機会かもしれない。
 卒業式はもう間もなくに迫っている。

 終わりの時を前に、送る側も送られる側もそれぞれが、それぞれの思いを胸に抱きしめるのだった。


■参加者一覧
/ 芦屋 璃凛(ia0303) / サラターシャ(ib0373) / 雅楽川 陽向(ib3352) / カミール リリス(ib7039) / 比良坂 魅緒(ib7222) / 羅刹 祐里(ib7964) / ユイス(ib9655


■リプレイ本文

●それぞれのその日
 その日。
 3月にしては暖かく、でも風の強いある日。
「いい匂いがここまで漂ってきますね」
 図書室の窓枠に腰かけたサラターシャ(ib0373)はそう言うと静かに微笑んだ。
「今日は、三年生を送る会、ですからね」
 応えるのは優しい目をした図書委員会の後輩だ。
「魅緒君や陽向君が、彼方先輩と一緒に朝から準備に張り切っているようです。
 彼方先輩、三年生なのにいいのかな? とも思うのですが…」
 少し、困ったような笑顔を浮かべるユイス(ib9655)に大丈夫ですよ。
 とサラターシャは笑う。
「最後までやりたいこと、やるべきことがあるのは、いいことだと思います。
 私は、全て引き続きを終えましたので思い残すことは無いのですが…」
「そう言えば、先輩は知望院の試験に合格されたそうですね。おめでとうございます」
 目の前に立つサラターシャはユイスにとっては委員会の直属の先輩であり、尊敬すべき人物である。
 ユイスは心からの祝福を込めて告げる。
「ありがとうございます…」
 一方のサラターシャはそこまで言って、大きく深呼吸するように息を吐くと
「ユイス、さん」
 サラターシャはユイスを、直属の後輩をじっと見つめる。
「はい」
 夢見る様な菫色の瞳。
「まだパーティまで時間はありますよね。
 少し、私の話を聞いて頂けないでしょうか?」
「はい、喜んで」
 ユイスはその眼差しを込められた思いごと、そっと受け止め、先輩に向かって頷く。
「ありがとうございます」
 サラターシャはそう言って、静かに語り始めた。
 ユイスはその話を聞く。
「私は、昔、犬を飼っていたんです。ソール、という名の犬でした」
 サラターシャの過去、心の起源を…。

 びゅうびゅうと音を立て吹きすさぶ風は、頬をなぶり髪も乱していく。
「今日はもう無理だな」
 薬草園の手入れを早々に諦めた羅刹 祐里(ib7964)は息を吐き出し、保健室に戻った。
 人気のない保健室は静かで、シンと静まり返っている。
 本来なら使われることの少ない方がいい部屋であるが、それでもここは朱雀寮生にとって大事な部屋だ。
「…後に続く誰かの為に、何か俺にできることは無いかな…」
 祐里はそう言って息を吐き出した。
 今の一年生に保健委員会はいない。
 今年、開拓者対象の朱雀寮試験は無かったが、話に聞くところによると一般には入寮希望者がいるらしい。
 来年度、いや、今後もしかしらたそういう開拓者になっていない志体持ちが入ってきて、保健委員会に入ってくれるかもしれない。
 だから祐里は後進の為に何かできないかと思うのだった。
「とりあえずは、受け継いできた薬草園の木々や、薬草に関する詳細図の充実、かな?
 誰が見ても解るようにしておけば、今後やりやすいだろうし…。
 あとは育てる際の注意点や留意点を書き記して…」
 祐里は自分の考えを整理するように言葉にすると、机の上に置いた小さな荷物を軽く見やり、机に向かう。
 宴まで時間はある。
 その時まで、今、自分にできること。やるべきことをやっておこう、と。

 調理委員会が仕切る厨房と台所は、その日もまた戦場だった。
 そこに遠慮がちに
「こんにちは〜」
 芦屋 璃凛(ia0303)は声をかける。
「はーい、ってあれ? 璃凛? どうしたの?」
 声を聞きつけたのだろう。
「彼方」
 料理の手を止め厨房から出てきた調理委員長に璃凛は小さな包みを差し出した。
「これ、机の端っこにでもおいてもらえへんかない?」
 解いた風呂敷包みの中には北面の料理や、菓子、醸造酒などが用意されていた。
「それは構わないよ。好きなところに並べて」
「あと、お茶をたてたいんだけど」
「それは、向こうのテーブルに色々なお茶を置いておくから、そこでやったらどうかな?」
「ありがとう」
 いつも見慣れた食堂が、もう少し経てば宴の場所となる。
 最後の宴。
 璃凛は様々な思いを胸に大きく息を吐き出すのだった。

『こーんばんわ。いますか〜?』
 明るい声とノックが扉から聞こえてくる。
「はーい。入っていいですよ〜」
 促されて中に入った声の主は
『そろそろ用意ができたので来て下さい、ってことなので呼びに来ました〜。って何してるんです?』
 とニッコリ笑う。
「朱里さん。お疲れ様です。…ちょっと書き物をしていました」
 机に向かっていたカミール リリス(ib7039)は立ち上がり自分の周り周囲を目で見る。
 机の上に重ねられているのは手書きの原稿であった。
 何枚か周囲には書き損じも転がっているが、何度も思い返し書き綴られた紙は少しずつ厚みを増している。
『書き物…卒業論文は終わったのでしょう?』
「ええ、これはそれとは別に私達の思い出を書き記したものなんです。卒業論文よりある意味大変です。
 三年半分のつもる話、ですからね」
 重なったそれを苦笑するように見つめてリリスは呟いた。
 自分達が入寮して来てから体験した事件や、授業についてを随筆風に纏めていたのだ。
 ちょっとした読み物になるようにアレンジなども入れながら。
 勿論授業内容の機密や試験内容については書いていないが、書くことで自分自身の過ごした日々がどの様な物だったかを伝え、遺していきたいと思ったのだ。
 それが、もしかしたらいつか、後進へのアドバイス、支えになるかもしれないと思ったからだ。
「まあ、殆ど自分の為の覚書のようなものですけどね」
 書いてみて改めて解った。
 本当にいろいろな事がこの三年間以上の時にあったことを。 
 それが、自分達に色々な事を教えてくれたことを…。
『リリスさん…』
 陰陽寮の世話役、人妖の優しい眼差しを感じながらリリスは、目元を拭い胸に溢れてくる感傷にも似た何かを横に振った首と一緒に胸から払った。
 これを噛みしめなければならない時はまた来る。
 今は、まだ早い。
「それじゃあ、行きましょうか」
 用意しておいた荷物の入った袋を持ってリリスは歩き出した。
『はい、行きましょう。皆さん、待ってますよ』
 入寮の時、自分達の前を歩き、案内してくれた朱理と肩を並べて…一緒に…。

●三年生を送る会
 いつにもまして丁寧に掃除された食堂には早咲きの桃の花と、花開き始めたばかりの水仙が美しく咲きそろう。
 テーブルにはいっぱいに作られた料理が美しく並んでいる。
「もう、こっちは春なんだなあ」
 感慨深げに言うのは西浦三郎だ。
「西域はまだ雪が残っていますか?」
 問いかけるのは陰陽寮長 各務紫郎。
「ああ。春まであと少しってところかな?」
 今日は、名目上は三年生を送る会。
 とはいえ、三年生、彼方も調理に携わった、一種の謝恩会でもあるので、招待を受けて職員なども集まっているようだ。
「さて、先輩方」
 皆がそろったをの確認して、
「まずは卒業おめでとう、じゃ」
 今日の調理委員会の代表として比良坂 魅緒(ib7222)が前に進み出た。
「今日は、皆の為に我らが腕を振るった。
 存分に食べて、そして存分に楽しんでほしい」
「うちも手伝ったんやで」
「お茶をどうぞ」
 えへん、と胸を張る雅楽川 陽向(ib3352)。
 その横では祐里が用意した湯呑に入れたお茶を、桃音がくるくると笑顔で配り、手伝いをしていた。
 優しい湯気と香り。
 そして鼻孔を擽る料理の香りは否応なしに期待を膨らませてくれる。
 全員にお茶が行きわたったのを確認して、仲間達の視線を受けたユイスが一歩、前に進み出た。
「先輩方。今まで、本当にありがとうございました。
 今日は楽しんで行って下さい。
 乾杯!」
「乾杯!!!」
 掲げられた杯がそれぞれに楽しげな音を立てる。
 それが合図になって送別の宴は幕を開けたのだった。

 今日の料理は和洋折衷。
 見事なものであった。
「こっちはな、春らしい一品、エビしんじょの吸い物や!
 剥きエビ、卵白、山芋、一番だしをすり鉢で混ぜるねん。
 混ぜたもんを桜の葉に包んで、道明寺風桜餅みたいにしたものを蒸すやろ。
 お椀に入れて、吸い地を加えたら完成やで♪」
「とても手間がかかっているのですね。優しくて…素敵な味がします」
 朱塗りの椀を両手に持ってそっと啜ったサラターシャはホッとしたような息を漏らす。
「握り寿司の隠し味は柚果汁や、寿司酢に混ぜる
 あ、バラの花風に盛り付けた鯛と帆立の刺身は、そこの煎り酒に浸けて食べたらええよ。
 日本酒と梅肉を煮詰めてつくる調味料や、白身魚に合うで
 しょう油は鮪とか赤身の刺身に向いとるな」
 調理委員会顔負けの腕を披露した陽向の料理もあっという間に皆の胃袋へと吸い込まれていく。
「意外だな。こんなに料理が上手かったんだ。
 掃除も完璧で、いい嫁さんになれるな、って言ったら怒るか?」
「怒りはせんけどな。お嫁さんでなくても料理は大事や!
 食べ物は人生の基本や!」
 他にも別皿で、桜餅や花見団子もちゃんと用意してある。
 茶化すように言いながらも清心は後輩の成長を眩しげに、そして嬉しげに見つめている。
「陽向が和食を整えてくれたので、妾は食欲の出る味の濃い目のものを用意した」
 一方で魅緒は思い出の料理を用意したようだ。
 ピリ辛チキンに辛み肉味噌の冷やしうどん、激辛麻婆豆腐、ピリ辛たれの豚肉しゃぶしゃぶ。
 自分達が歓迎会の時に出してもらった料理を再現したものであった。
 他にもかつての卒業生が謝恩会の時に出したアル=カマル風の菓子にポトフもある。
「とても美味しいよ。先輩達の味にだいぶ近づけたんじゃないかな?」
 魅緒の料理を食べながら笑いかける彼方。少し照れたように顔を背けながらも 
「確かに…二年近くの間、この寮で、皆には様々な事を教えて貰った」
 汚れないように細心の注意を払いながらも席を用意して置いたノートをそっと見つめる。
「それを受け継ぎ、次に伝えていくのが我らの役目、ということなのだろうな」
「うん。きっと新しい子供達もまた入寮してくるよ。地上からも来るかもしれない。
 その時はよろしく頼むよ」
「ああ、任せておくがいい」
 彼方からの思いに魅緒は強く胸を叩き、心からの思いで、そう誓っていた。

「凛ちゃん、久しぶり! 元気しとった?」
 陽向は本当に久しぶりに出会ったからくりの少女の手を取り、ぶんぶんと大きく振った。
『ご無沙汰しておりました。陽向様』
 丁寧に頭を下げる凛は無表情ながらも微かに微笑を浮かべたように見えた。
「今まで、何しとったん?」
『三郎様と共に西域に戻っておりました。懐妊されておりました伊織様のお手伝いを…』
「ってことは、西浦センセお父さんになったん?」
『はい、先日元気な男の子が…』 
「! こら! 凛! 余計な事言うな!!」
 真っ赤な顔をして慌てた三郎は、ふと小さく作られた舞台の方を見る。
「あいつ…」
 そこにはいつの間にか、一人の三年生が静かに立っていた。

●思いと想い
 始まりの音も、伴奏もなく璃凛の演武が始まる。
 人の声もやがて静まり、場の客達はその動きに見入っていた。
 今までの集大成の演舞を披露する。
 高い空を舞う鳥のようなその動きは、虹とそれに沿う朱雀を表しているのだろうと解った。
 美しく、気高い鳥の舞。
 だが、そこにはどこか今にも、倒れ、消えそうな儚い何かを纏っていた。
「…桃音! 凛!!」
「あ…はい!」『解りました』
 璃凛の舞が終わろうとする、その瞬間。
 舞台の上にシュッと音を立ててもう一つの影が降りた。
「三郎…センセ」
「立て、璃凛!!」
 膝をついた璃凛を立ち上がらせ、向かい合うと三郎は蹴りを放った。
 と言っても演武用の目を閉じていてもはっきりと解る、気配を示してくれる、ゆっくりしたものだ。
 璃凛はそれを受け止め、拳で返す。
 気が付けばそれに合わせて笛と謡が重なって、いた。
 テーマは同じ「虹と朱雀」
 けれど、一人ではない事で彼女が表そうとしていたものがより、強い意志と説得力を動きに与えていた。
「…俺が言うのはこれが最後だ。自分一人で抱え込むんじゃない。
 取り戻せない失敗、許されない過去、罪はどうしたってある。
 けれど、未来は変えられる。それを忘れるな」
 三郎から贈られた言葉は璃凛だけのものである。
 彼女の耳と心がそれをどう受け止めたかは解らない。
 しかし、全てが終わった時、彼女は
「ありがとうございました」
 深く三郎と、皆に頭を下げるのだった。

「アル=カマルのチャイに緑茶、抹茶、紅茶も。皆、元は同じ茶葉なんですってね」
 リリスは演武を終えた璃凛にチャイと、祝い菓子を差し出す。
「お茶いうのは、元はおんなじなのにこうも違うんやな」
 自分が立てた抹茶とリリスのチャイを並べ、璃凛は大きく息を吐き出した。
「自分がこうなりたい、と思ってもなかなか思い通りにはいかへんってことやな」
「でも、環境と努力次第で人も何にもでなれるってことかもしれませんよ」
「…うん」
 璃凛は手の中で冷えた抹茶椀を温めながら、そっと、目を閉じるのだった。
 

 宴の中、常に皆に囲まれ、優しい笑顔を人々に向けるサラターシャを、ユイスは少し離れたところから見守るように見つめていた。
 そして、一区切りがついたところで
「お茶でもいかがですか?」
 とそっと誘い掛ける。
「ありがとうございます」
 椅子を引き優しくエスコートしてくれたユイスにサラターシャはふんわりと笑って見せた。
「では、これでお願いできますか。さっき祐里さんから頂いたのです?」
 手作りの湯呑を差し出すサラターシャにユイスは頷いた。
 そして彼もさっきリリスから貰った硝子製の茶器で、暖かい紅茶を入れてサラターシャに差し出す。
 ぬくもりが手の中に柔らかく伝わってくる。
 後輩の思いを手の中で感じながら
「先ほどは、ごめんなさい。…ご心配をおかけしてしまいましたね? お話したのに他意は無かったのです。
 ただ、誰かに聞いて頂きたくて…」
 サラターシャはユイスの顔を見つめ、そっと頭を下げる。
 慌てて手を横に振るユイス。
「いいえ…。嬉しかったですから」
 彼は本心でそう告げ、さっきのことを思い出していた。

『昔、私はソールという名の犬を飼っていました。
 お気に入りの金のリボンを首輪にあげて、とても仲良くしていたのです』
 サラターシャはユイスに思い出話を聞かせてくれた。
『アヤカシに襲われた時にソールは私を庇って亡くなりました。
 でも、大人に助けられた私は翌朝、ソールを忘れていたのです。
 つい最近まで、思い出すことができず…、でも心の中でずっと気になっていました。
 アヤカシがなぜ命を奪うのか…初めての人魂である金の蝶に何故、涙が流れたのか』

 贈られた金の蝶の襟留めに無意識に手が触れる。
 そう、本当に嬉しかったのだ。
 サラターシャがユイスに、自分の過去を話してくれたこと。
 自分の起源というべきものを教えてくれたことが。

「ユイスさん」
 サラターシャはそっとユイスに微笑みかける。
「私は先に帰省した時にソールのお墓参りに行くことができました。
 それに合わせて知望院の試験にも合格し、これから色々な意味で、前に進めそうな気がします。
 子供達の為の学び屋の夢に、もしいつか手を貸して頂ければという気持ちは真実ですが、ご負担に思う必要はありません」
 そして、手を取った。
「貴方の蝶が未来に羽ばたきますように。それを心から祈っています」
「先輩…」
 ユイスはその笑顔を噛みしめながら、
「卒業おめでとうございます。先輩」
 小さな色紙を差し出した。
 額装されたそれをサラターシャはつっと手でなぞる。
「これは、私ですか? 背景は朱雀寮、ですね?」
 サラターシャの言葉にはいとユイスは頷く。
「御祝いとして渡すにも恥ずかしいものだけれど、ぼくには他にできる事もないですし。
 今後はぼくらが最上級生。
 先輩らに恥じる事の無いように頑張ります。
 お返事は、いつか僕らが先輩達の後に続き、学び舎を巣立ったその先で…」
「はい」
 二人はそう言うと、静かに手を重ねあい、笑顔とぬくもりを交差させたのだった。

●未来に向けて
 宴の中、思い出を語り合った夜が終わり、朝が来る。
 …卒業の日が、やってくる。

『妾達のことも忘れん様にな』
 お開きの前、魅緒が告げた言葉が卒業生達の心にふと灯りをともす。
『これで最後とはいわぬ。むしろ先輩たちにはここからがはじまり。
 それが卒業というものじゃからな。

 たくさんの贈りものと、心と、思い出を胸に。
 彼女らは踏み出していく。
 未来に向けて、その一歩を…。