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■オープニング本文 ※注意 このシナリオは舵天照世界の未来を扱うシナリオです。 シナリオにおける展開は実際の出来事、歴史として扱われます。 年表と違う結果に至った場合、年表を修正、或いは異説として併記されます。 参加するPCはシナリオで設定された年代相応の年齢として描写されます。 このシナリオではPCの子孫やその他縁者を登場させることはできません。 ●もふらがたり とある資料室――一人の青年が、過去の報告書を整理していた。 足元には暖房器具の中で宝珠が熱を発し、もふらが丸まって暖を取っている。 彼は眠そうな瞳をこすりながら紙資料の山をめくり、中に少しずつ目を通していく。 そこに記されているのは、遠い昔の出来事だ。 それはまだ嵐の壁が存在していて、儀と儀、地上と天空が隔てられていた時代の物語。アヤカシが暴れ狂い、神が世界をその手にしていた時代の終焉。神話時代が終わって訪れた、英雄時代の叙事詩。 開拓者――その名は廃されて久しく、彼らは既に創作世界の住人であった。 「何を調べてるもふ?」 膝の上へ顔を出してもふらが訊ねる。 彼が資料の内容を簡単に読み上げると、もふらはそれを知っているという。 「なにせぼくは、当時その場にいたもふ!」 そんな馬鹿なと彼は笑ったが、もふらはふふんと得意満面な笑みを浮かべ、彼の膝上へとよじ登る。 「いいもふか? 今から話すのはぼくとおまえだけの秘密もふ。実は……」 全ては物語となって過ぎ去っていく。 最後に今一度彼らのその後を紡ぎ、この物語を終わりとしよう。 ●大アヤカシ『那岐』 その日、天儀から地上世界に赤い星が堕ちた。 瘴気の森に落ちたそれはアヤカシも、森も大地も全てを焼き尽くすように瘴気の炎を巻き散らす。 『フフフ…感じる、感じるわ。この世界にはまだ力を失っていない護大の欠片がいくつもある』 炎の中央に立つ女アヤカシはそう言って楽しげに笑った。 彼女の笑い声は業火の炎となり、森を大地を焼き尽くす。 『私は全ての護大の欠片を手に入れて新たな護大となる。そして…この『那岐』が大地そのものになるのよ』 目を閉じ、そして次の目的を定める。 「見つけたわ。これを手に入れれば…四つ目!」 朱色の長い髪を翻して『那岐』は跳ぶ。 「護大…? 護大の欠片…?」 それを、空から一人の開拓者が見ていたことに、気付くこともなく…。 「地上世界 護大派より依頼が来た。 大アヤカシが地上世界に現れた、と」 開拓者ギルドの係員が、集まった開拓者に説明する。 地上世界との交流が始まって10年余りの時が流れた。 自らを護大派と名乗り、天儀の開拓者と敵対関係にあった古代人と呼ばれた者達は今もその多くが、地上世界で静かにつつましく暮らしている。 若い世代は天儀との交流も行われ、互いに情報交換なども行われているが 「自然のままに生きること」 を望む古代人達は緩やかに静かに、変わっていく世界そのものを受け入れようとしていた。 だが、そこにやってきたのが謎の「大アヤカシ」であったのだ。 『那岐』と名乗る大アヤカシはあちらこちらに残る瘴気の森を焼き尽くしながら、地上世界を彷徨っている。 元よりアヤカシに抵抗を持たない護大派だ。大アヤカシともなれば護大の力を受けた護大の子と言える。 「『那岐』様。 この地上世界で何をお望みなのでしょうか? 我々がお力になれることであれば…」 彼らは慎重に『那岐』接触し、そう問いかけた。 だが返ってきたのは 『お前らの力など必要はない! 我が前に跪け!』 圧倒的な意思による命令と、地獄の業火であった。 使者は瞬く間に焼き尽くされ『那岐』は護大派達に嘲笑う様に告げる。 『私はこの世に存在する護大の欠片を全て手に入れる。 そして、世界全ての意思…新たなる護大となるのだ。 我が前に跪き、地上世界全ての護大の欠片を捧げよ。 さすれ私は天儀に残る大アヤカシ達を凌駕する力を得る事が出来る。 奴らの持つ護大の欠片、ひいては世に存在する護大の欠片を全て手に入れる。 そして、世界全ての意思…新たなる護大となるのだ!』 「護大派は『那岐』を倒すべき敵と定めました。 偽りの護大に従う事はできません」 護大派が派遣してきた使者の青年陰陽師はそう開拓者に語る。 「ですが、『那岐』の力は強大です。 現在、推定ではありますが4、ないし5つの護大の欠片をかの大アヤカシは所持しているものと思われます。 またその瘴気で、地上世界の魔の森の一つを拠点に周囲の原アヤカシを支配下に置き、勢力を増大させつつあるのです。 地上世界には我々、護大派の管理するものも含めて複数の護大の欠片があり、それら全てを『那岐』が手にした場合、おそらく手が付けられない存在となる筈です。 どうか、お力を貸しては頂けないでしょうか?」 そして、深く、深く頭を下げた。 「今、『那岐』は彼が言った通り地上世界 奥地にある魔の森の一つに居を構え、周辺を探って護大の欠片を探している。 キズナ…、ギルドから先行調査に出た開拓者の報告では、真紅の長髪、朱色の瞳の白い肌の女性型。 額に角を持つ鬼の亜種であるらしい。 炎を操る強敵で、体内に複数持つ護大の欠片によって無尽蔵の瘴気を持つ。 放置すれば、地上世界は勿論、いずれは天儀もその脅威にさらされることになる筈だ」 護大派も出来る限りの協力をしてくれるという。 また魔の森周辺は人も殆どいない。 天儀が戦場になるよりも、少なくとも戦いやすい筈だ。 …天儀で最後に行われた大アヤカシ討伐から10年。 かくしてそれぞれの国で、それぞれの道を歩む開拓者達が今、再び結集する。 新たなる伝説を作る為に…。 |
■参加者一覧 / 柊沢 霞澄(ia0067) / エルディン・バウアー(ib0066) / 无(ib1198) / 蓮 神音(ib2662) / マルカ・アルフォレスタ(ib4596) / 蓮 蒼馬(ib5707) / ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905) / 星芒(ib9755) |
■リプレイ本文 ●戦士 集結 大アヤカシ襲来。 その報は瞬く間に天儀各地を駆け巡った。 護大が消失し、冥越も人の手に戻って十年あまり。 開拓者の中にはそれぞれ武器を置き、静かに暮らしていた者達もいた。 「やれやれ、まだこんなのが出てくるとは。開拓者引退出来ませんねぇ」 柔らかい聖職者の笑みを浮かべるエルディン・バウアー(ib0066)は依頼のチラシにため息をつきながら肩を竦めて見せた。 熱い魂の神父と呼ばれ、姿は煌びやかな神父だが、実年齢は40半ば。 渋みが増し、周囲からも頼りにされている彼は。 「ちょっと散歩に出かけてきますね」 妻にそう告げて教会を出た。 相棒である輝鷹の白い背を撫でながら彼は前を向き歩き出す。 真剣な眼差しで何かを強く見据えて。 「早く帰らないと怒られますよ。行きましょうか、ケルブ」 「大アヤカシ…那岐…」 マルカ・アルフォレスタ(ib4596) は手に持っていた本を置き、静かに目を閉じた。 驚異的な力を持つ大アヤカシ 那岐の登場は各国の開拓者ギルドに伝えられていた。 そして力と意思を持つ開拓者や元開拓者にも…。 地上世界での話。すぐに天儀に脅威が及ぶわけではないかもしれない。 しかし…十年の時を経ても忘れられないものがある。 あの日あの時、地上の子供達と手を繋いで見た、眩しい太陽の輝きを。 「見捨てておくことはできませんわね」 そしてマルカは武器を手に取って立ち上がった。 十年ぶりに握る槍は彼女を待っていたかのようにしっくりと手になじんでいた。 図書室の本の海。 静謐なこの空間を愛する无(ib1198)もまた大アヤカシ出現の報にため息をついた者の一人だ。 この十年あまり地上世界には幾度となく足を運んだ。 交流が盛んになり「知らない世界」ではなくなった。 やはり、見捨ててはおけないだろう。 「厄介ですねぇ…」 相棒のナイの背を撫でながら彼もまた決意する。 そして彼は彼の武器を取る。 本。 知識という名の武器を。 久しぶりの地上世界。 かなり瘴気の雲も薄れ、深い青も覗くようになった空を見上げていた星芒(ib9755)はその彼方。 遠くからこちらに近づく小さな影を見つけ 「ヤッホー」 と嬉しそうに手を振った。 遠くても「解る」 旧知の友の姿は。 「キズナちゃん、ひさしぶりっ☆」 「星芒さん…」 相手の方も彼女に気付いたのだろう。 相棒の背からひらりと飛ぶように舞い降りると 「…久しぶり。また会えてうれしい」 かつて見せた花が開くような美しい笑顔を見せたのだった。 「偵察ご苦労さん。久しぶりだな。…うん、いい女になったじゃない…いてっ! 何するんだ?」 そんな二人の再会の風景を楽しげに眺めていた蓮 蒼馬(ib5707)は突然頬を押さえて横を向く。 そこにはぷうと、頬を風船のように膨らませる蓮 神音(ib2662)がいた。 「どこ見てるのよ!」 「そんなんじゃないさ…やれやれ」 肩を竦めて蒼馬は肩を竦めてキズナの方を見た。 キズナの方はといえば目の前の二人の行動の意味がよくわからないという様にキョトンとした目をしていた。 (随分大人になったように見えるが、まだまだお子様ってことかな) ぽんぽんと宥めるように神音の頭を撫でた蒼馬は苦笑する。 神音自身はといえば、頬こそまだ膨らんでいるが、目にはなんとも表現しがたい色が浮かんでいた。 愛情と嫉妬と、反省と…。 「とりあえず、相談を始めましょうか。 彼方さん、でよろしいですよね。状況の説明を頂けますか?」 そんな彼らに微笑みながら柊沢 霞澄(ia0067)が集まった「仲間」達に声をかける。 空気を変えるように。 戦況は一刻を争うというわけではないが、時間は多分、あまり無いだろう。 「解りました」 護大派と開拓者の連絡役を務める青年、彼方は開拓者達の前に進み出て頭を下げる。 「大アヤカシ 那岐は現在、地上世界の魔の森。 その一角で力を溜めているようです。 地上世界には天儀と異なり大アヤカシの存在しない魔の森がいくつかあります。 そこには護大の欠片があり、それが瘴気を発しているらしいと言われていますが、我々自身それを積極的に確かめているわけではないので。 那岐はその中でも特に大きな魔の森を拠点とし周囲の原アヤカシを支配下に置いて勢力を拡大しつつあるようです」 「大アヤカシなんて珍しくもないわ! サクッとやっつける!」 明るく元気なルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)の笑顔に暗くなりかけた空気がパッと明るくなるが 「でも、こちらには攻め手が足りません。戦力を一か所に集中し一気に攻撃を仕掛けないと危険だと思われるのですが…」 「確かに、数で押されたらまずいよね〜。…ねえ、彼方君?」 霞澄の言葉に何かを考えていた星芒はそう名を呼んで護大派の青年に問いかける。 「なんでしょう?」 「護大派の術者さんとかの力は借りられるかな?」 「それは勿論。我々の大地を守る戦いです。出せる戦力は全て…」 「少し、作戦があるんだ。皆もちょっと聞いて」 手招きする星芒に開拓者達は頭を寄せ、頷きあった。 そして、意見を出し合い、相談、調整し一つの作戦を定めたのだった。 ●結集 いかに炎を操る大アヤカシ 那岐とはいえ、流石に自分の拠点と定めた魔の森全てを焼くことはできないのだろう。そう考えながらルゥミは滑空艇で舞う。 でも、敵の能力からして開けた場所が欲しい筈だ。 森の最奥に近いところに一角の開けた場所がある。 キズナの情報通りだ。 「多分、あそこ…かな?」 滑空艇を操り、空から思いの外、静かな魔の森を見下ろしたルゥミは思う。 「霞澄ちゃんの言う通り、こっちは数が足りないもんね。 勝負は一気に。火力集中して速攻撃破しないとジリ貧でやられるわね」 既に仲間の大半は森に潜み、機を伺っている筈だ。 そして、今、森の周囲に集まっているのは護大派と彼らが使役するアヤカシ達…。 「あっちの用意はできたみたい。こっちは大丈夫? ルゥミちゃん?」 鋼龍 錘旋と共に旋回してきた星芒はルゥミの滑空艇に近づいて問う。 「大丈夫だよ。いつでもオッケー!」 指を立てるルゥミに頷いて星芒は、視線の向こう森の上空で待つキズナに向けて高く、武器を掲げる。 それに応えるように 「ピーーーーッ!!」 高い音が空に、森に響いた。 知らなければ意味の解らないそれは開拓者の宣戦布告だ。 森の奥に向けて氷龍が舞い、雷撃が飛ぶ。 「二度目のチャンスはきっとない。 那岐が敵襲など想像もしていない、今しか…。行こう!!」 「うん!!」 そして星芒とルゥミは頷きあうと魔の森に向かって飛び込んでいった。 それとほぼ同時刻、魔の森の周囲を取り巻いた護大派達は 「一斉斉射! 森を囲むように隙なく術を!」 彼方の指示の元、アヤカシ達と共に魔の森に向けて術を放つ。 その全てが氷系の術である。 『魔の森を囲んだ護大派のみんなに氷系の術をガンガン使ってもらう。 大量の冷気が那岐の炎による上昇気流で森内へ吸引される状況を作って欲しいんだ』 開拓者にそう指示されていたからだ。 那岐は炎を操るアヤカシである。 氷系の術が有効であろうことは想像がつくがなぜ、こんなに遠くからという理由については詳しくは語られていない。 けれど…護大派の殆どはその説明を求めなかった。 「那岐に操られているアヤカシ達を引き付けて開拓者を援護する!」 キズナが空から誘導してきた原アヤカシも近づいてくる。 護大派にとってアヤカシは同じ大地を生きる仲間のようなものではあるが…、彼方は躊躇わずその一体を手に持った剣で切って捨てる。 「…手加減はするな! この戦いは開拓者と、僕達の故郷を守る戦いだ。力を…結集させるんだ!!」 そして魔の森、その奥に進んであろう開拓者達に向けて祈るのだった。 「どうか…ご無事で…」 と。 その頃、魔の森の奥で那岐は異変に気づき始めた。 『…なんだ?』 温度が下がり、周辺の空気の色が変わっている。 見れば森に相当数いた筈の原アヤカシ達も姿を消している。 『護大派どもの犯行か?』 那岐は小さく笑って瘴気を高めた。 近くにいた原アヤカシ達を呼び集め、炎をその身に纏う。 正にその瞬間であった。 那岐の周囲で風が渦巻いたのは。 バシッ! バシュバシュ!! 上空から放たれた魔弾がアヤカシ達の脳天を直撃! 瘴気に返していくと同時、開かれた道を空と、大地、二陣の風が吹き抜けた。 「那岐! 覚悟!!」 「我がアルフォレスタ家の銘と誇りにかけて、貴方を滅します!」 『なに?』 先制攻撃は開拓者。 マルカの鋭い槍の一撃に切断された那岐の右腕が空に舞い錘旋で飛び込んできた星芒の前で砕け散るように消えた。 小さな、骨の欠片を一つ残して。 『ぐ、…うわああっ!! 私の…欠片が…!』 がくりと膝を崩した那岐は、その時、見ることになる。 目の前に立つ開拓者達を…。 ●小さな大アヤカシ 『おのれ…貴様らは、何者だ…』 「我々は開拓者ですよ。大アヤカシ 那岐」 静かに、微笑さえ浮かべて告げるエルディンに 『開拓者が…何故、地上へ…』 那岐は腕を押さえながら悔しげな顔を見せた。 「天儀も地上も関係ありません。どちらも共に人の生きる世界、ですよ」 そう語りながら无は目の前の「大アヤカシ」を見つめる。 このアヤカシには今まで戦ってきた大アヤカシ…例えば生成姫や黄泉、於裂狐のような狡猾さを感じない。 おそらく護大の欠片を手にしてまだ間もない。 「成りたて」なのだろう。 その身に複数の護大の欠片を持っていると聞く通り巨大な瘴気を感じはするが…それを、まだ使いこなしてはいないように思えたのだ。 『私は、護大の欠片を集め、新たな護大となるのだ。邪魔をするな!』 「何言ってるの?」 星芒が呆れたような、そしてどこか同情するような声で言い放つ。 「護大は護大。そう生まれ、そう在った者。他の誰も護大になんかなれっこないのに!」 『そんなことはない! 世にまだある護大の欠片を全て集めれば護大の力は甦る。 世界の全てを我が者とする力が。 この那岐がそれを手にし、新たな護大となって世界を炎と瘴気に包むのだ!!』 「…なるほど、よく解りました。 貴女は…小さい」 『な…なんだと?』 无は那岐に小さく笑って見せた。 「確かに護大の欠片を複数手に入れ、持つ瘴気の量は他の大アヤカシに勝るとも劣らないでしょう。 ですが、他の大アヤカシ達はそれぞれが、強力な『自分』を持っていた。 少なくとも護大の力に過度に頼ったり、自分以上の存在になろうなどとは思っていなかった…」 「自分を愛せないものに何ができるでしょう? ただ…哀れなだけですよ」 エルディンも静かに笑う。 『だまれ…、だまれだまれだまれだまれだまれだまれ、だまれーーーっ!!』 怒りに我を忘れたかのように、那岐はその身を灼熱の炎に包むと残った片手を大きく広げ、炎を空に周囲にまき散らした。 正に煉獄の炎が森を焼き、開拓者達をに逃げ道を塞ぐ。 「神音! 大丈夫か?」 「平気よ!」 炎の雨が降りしきる中、開拓者達は那岐を見据えた。 那岐の炎は森や開拓者だけでなく、那岐に従っていた原アヤカシさえも焼き尽くさんばかりだ。 「力は強いけれど、无さんの言った通り、使いこなしてない。 しかも怒りに我を忘れてる。今が、きっとチャンスだよ」 星芒がさっき切り落とした手から取り出したおそらく、護大の欠片を見る。 「皆は波状攻撃を続けて那岐を消耗させて!」 そして龍の背に再び跨って空へと舞い戻る。 「解った。行くぞ! 神音!!」 「了解!!」 二人並んで那岐の前に飛び込んでいく蒼馬と神音。その背後から 「無理はなさらず! 傷ついたら戻って下さいね!」 「我々は彼らの援護だね。炎の影響が気流の関係で限定されている今しかない」 「おそらく氷系の術が効くでしょう。…ナイ、タイミングを見て同化して下さい」 エルディンと无が術を放つ。 「麗霞さんは、私や他の後衛職の方々の護衛をお願いします」 『解りました。霞澄様を護るのが私の使命ですから』 「皆無事に帰れるように、それが私の役割です…」 くすりと相棒を見つめ霞澄は微笑む。 そして空に、大地に開拓者達は走り始める。 大アヤカシ 那岐との決戦の幕が今、正に上がったのである。 じりじりと炒られるような灼熱の中、開拓者達はそれでも、一進一退の戦いを繰り広げている。 那岐の力は恐るべきものであった。 おそらく分類としては鬼族、炎鬼の亜種に属するのだろう。 かつていくつもの国と、開拓者が総力を挙げて倒した大アヤカシ 炎羅。 体格こそ女性体で鬼としては細身であるが、口から放つ炎の息吹。 身体全体からまき散らす煉獄の威力はかの大アヤカシに勝るとも劣らないだろうと開拓者達は感じていた。 僅かに幸いなのが、彼女が炎羅ほどの武器を扱う力を持たない事だろうか。 しかし… 『お前らも…地上も、この世の全て、全てを…炎の海に沈めてやる…』 那岐は昏い目で炎を放ち続けていた。 体内に複数持つとされる護大の欠片が尽きる事のない瘴気を供給し続けているのか、力と炎は一向に収まる気配を見せない。 こちらの戦力はキズナを入れて十人足らず。 「チャンスは…一瞬」 空から深呼吸をして星芒は地上を見た。 蒼馬と神音が那岐を挟む形で対峙しながら攻撃を続けている。 那岐の攻撃を八極天陣で躱す二人の様子は、阿吽の呼吸と言ってもいいだろう。 さらに前方ではマルカが那岐にオウガバトルを発動させる。 合わせての聖堂騎士剣は那岐の足元、その動きを封じていた。 そこにタイミングを合わせての神音が絶破昇竜脚。 こちらからの攻撃を、身体を炎に変化させて躱す那岐に、しかし今度は逆方向から蒼馬の攻撃が合間を開けずに入る。 『おのれ!!」 ダメージは確かに入るが、同時に蒼馬の身体も炎に包まれた。 「うわあっ!」「くっ…神音!」 「ブリザーストーム!!」 エルディンは正確な術が炎を掻き消し、即座に霞澄が治癒をした。 「大丈夫ですか?」 「まだ、大丈夫だ…でも」 蒼馬は那岐と周囲と空を見る。 「長引けば…それだけ危険だ。…ここで、勝負をかける!!!」 視線を向けた蒼馬さんから目配せに気付いたのだろう。 神音が一歩、後ろに下がる。そして次の瞬間、 「フォローを頼む!」 蒼馬が、飛び込んでいったのだ。 詩経黄天麟を発動させ、那岐の懐へと。 時間にすればほんのわずかだが、彼に那岐の意識が集中する。 『貴様!!!』 炎の息吹が蒼馬を包む。 『うあああっ!』 龍から飛び降りたキズナが蒼馬を背後に庇い、離脱した。 「くっ!!」 「今よ!!」 神音が告げたのは相棒の神仙猫への勾玉呪炎、しかし、蒼馬が生み出した一瞬にして値千金の隙をその場の開拓者、誰一人として見逃しはしなかった。 「いっくよ!! ルゥミちゃん最強モード!!!!」 アウトレンジからの連続射撃を援護するように霞澄の精霊砲も放たれる。 蒼馬にとどめをと伸びた手が、斉射から身を守るように掲げられた瞬間 「逃がさない…から!!!」 星芒は相棒錘旋の体と自らの祓魔霊盾を隠れ蓑に蒼浄焔戈を準備した、那岐の懐に飛び込んだ! 炎の身体に手を触れ、力を注ぎ込む。 「空へ…還れ!!」 『な、なにを!?』 「そうか! ナイ!!」 相棒と同化して十六夜を発動させた无も同じように背後から那岐に手を伸ばす。 精霊力・練力・気力の全てを注ぎ込み、護大と那岐の結びつきを崩す為に! 『ぐ…、うああああっ!!』 那岐の身体が瘴気の炎となって一際高く、大きく燃え上がる。 しかし、さっきまでの無尽蔵の瘴気の気配は消えていた。 「護大の欠片の力を切り離せた!」「今しかない!!!」 間近にいたせいで星芒と无のダメージは大きい。 周囲の炎も、開拓者達の間近まで迫っている。灼熱の苦しみの中、 しかし…開拓者はもはや姿さえ失ったアヤカシに最後の意思と武器を向ける。 「この身砕けても最後まで諦めず戦いますわ」 「これが私達夫婦の愛の炎よ! 炎煌阿修羅拳!!!」 開拓者達の渾身にして最後の攻撃が那岐であった炎に吸い込まれると同時、真紅の瘴気は渦を巻き、 「!!!!」 高く弾けて散っていった。 疲労と灼熱の業火の中、意識を手放した開拓者達。 『わたし…は、那…、わた…し…は、護…大…、わ…しは、全て……を』 「大アヤカシよ、あなたの時代は終わりました。もう眠りなさい。永遠に…」 そんな声のようなものを聞いた、と感じたのが彼らの最後の記憶。 だから、エルディンは静かに、祈るようにそう告げたのだった。 ●日が、昇る 「蒼馬さん!」 神音が目を覚ました時、最初にあげた言葉がそれだった。 そして勿論、安堵のため息と共に 「良かった。気が付いたんだな」 その言葉を受け取ったのも蒼馬である。 「那岐は? みんなは??」 「大丈夫だ。無事倒した。 那岐が消えたから、森の炎も消えて、護大派が助けてくれたんだ。 お前以外はみんな目覚めて、治療も終えている。 今は護大派と宴会、というか食事中だ」 「! ホント…に?」 ああ、静かに頷く蒼馬を見て神音は 「やったわ! 蒼馬さん!! 大アヤカシを倒せたのね!」 蒼馬の胸に飛び込んだ。 愛しげにそれを抱きしめると蒼馬は神音の頭をそっと撫でる。 「流石、俺の妻だ…」 優しげに、愛おしげに…。 地上世界、ひいてはこの世界を滅ぼすかもしれなかった大アヤカシの消滅を成し遂げてくれた開拓者達に護大派達は心からの感謝を宴にして表したのだ。 天儀と和解し、調理技術や植物などの交流も行われている今、 「あ、これ美味しい♪」 出された食事もなかなか美味で、温かい思いが込められている。 甘菓子の皿を引き寄せるルゥミは幸せそうに微笑んでいた。 「助けて下さって…ありがとうございます」 霞澄は酌をしてくれる護大派に笑いかける。 「いいえ、助けていただいたのはこちらです」 二人は顔を見合わせて、くすりと笑いあった。 外見の違いはあっても、こうして話せば何も変わりないと解る。 「未来への歩みは止めてはいけません。これからも…」 「ええ、共に歩いていければと思います」 気が付けばもう紫紺に染まった空を彼らは共に見つめていた。 ふと、マルカは人の動く気配に瞬きした。 いつしか寝てしまったらしい自分の肩には毛布がかけられている。 それを畳んで外に出ると、そこには彼方に星芒、そして仲間達が空を見上げていた。 遠い昔、この地上で子供達と見た初日の出。 朱の衣を纏った太陽はまた空に美しく浮かぶ。 その美しさにまた涙が出そうになったのは内緒の話である。 「また、この太陽を、見られて良かった…です」 目元を潤ませるマルカを、その肩をマルカはポンポンと叩いていた。 抱きしめるように…優しく。 十年という時は長いようで、短かったと无は思う。 那岐消滅後に表れた護大の欠片は、護大派の調査ののち地下施設に保管されると決まった。 だが、そのうちいくつかの護大の欠片は瘴気を散らせ力を失いつつあるという話も无 は聞いていた。 護大の欠片についてや地上世界について、学べば学ぶほど、思えば思うほどに知りたいことが増えていく。 「この世はまだまだ面白いですね。ままならないからこそ面白いのですよ。 全てが自分のものになる世界など、つまらないと思いませんか? 那岐?」 返答は勿論返りはしない。 无は小さく微笑み、白さを増した空を見上げるのだった。 そして彼らは帰路につく。 別れ際。 星芒はもう少女とは言えない歳になったキズナにそう問いかけた。 「キズナちゃんは、どうするの?」 「もう少ししたら…世界を、旅してみたいと…思う。 護大の欠片。いろんな人達や世界をもっと知りたいから…」 「じゃあ、またきっと会えるね。その時まで!」 高く上げた手と手が打ち合わされる。 「…ありがとう。また会いましょう」 神音の微笑みに、照れくさそうに、でも、心から嬉しそうにキズナは頷いていた。 「さあ、帰りましょう。 あるべき場所へ 」 エルディンは相棒にそう声をかけ、そして開拓者達は故郷に、帰っていく。 いつか同じ世界の、同じ空の下。 再会できることを祈り、信じて。 それぞれの道へと…。 |