【夢々】大規模作戦 妖儀!
マスター名:夢村円
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2015/01/15 21:24



■オープニング本文

※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。

※このシナリオは、シナリオリクエストにより承っております。

●悪夢の発見
 彼の目の前には悪夢が立っていた。
『……忘れていた。これほどのものであったとはな……』
 空中に貼り付けにされ身動き一つとれない彼は目の前に伸びる手に目を閉じた。
 ここは古い迷宮の最奥。
 巨大な岩山をくりぬいたような大空洞であった。
 彼の背後には強大な蛇と巨人。
 人など足の下の蟲としか見えないだろう巨大な二体のアヤカシが揃ってその頭を折っていた。
 その敬意を受けるのもアヤカシ。
 女の形態をとるそれは人の十数倍の身の丈であり小山のような大きさでこそあるが一見すれば美しく、背後の二体に比べればいくらか華奢にさえ思える。
 しかし、その半身を土壁に埋め妖しく笑う姿は背後の二体さえも子供に見えるような圧倒的な瘴気を放っていた。
『人の恐怖、絶望…この地に眠りし後、長らく忘れていた…。この甘美な味を…』
 舌なめずりするように音を立て女は彼に触れた。
「うあわあああっ!」
 その瞬間、全てを吸い取られるような衝撃が彼の全身を貫いた。
『お前らは、我が身の上に紛れ込んだ餌。
 我が名は妖儀。この大地そのものが我が体である。
 全て喰い尽くすは容易いが、この味を思い出した以上、このまま終えるのは余りにも惜しい』
 そんな声が響いた次の瞬間、彼は地上に叩きつけられ骨と力が砕かれる衝撃と共に意識を失った。
『帰り…そして告げるがいい。災厄の復活を…。
 そして再び舞い戻れ。この地に新たなる餌を運ぶのだ!!』
 次に気付いた時、彼はただ一人飛空船の中で横たわっていた。
 悪夢だと思いたかった。
 だが、周囲に散らばる物言わぬ仲間と、彼の砕けた全身の骨がそれを許してはくれなかった。
「う…う…うわあああっ!!!」
 絶望だけがそこにあった。
 悲鳴と雄叫びだけが彼に残された全てであった。


 開拓者達が護大との決着に終止符を打ってから十年後。
 主を失った魔の森はいくつかが再生した、一方で残された魔の森から今もアヤカシが生まれている。
 新たなる大アヤカシの存在も無く、人とアヤカシは人間やや有利で変わらぬ微妙な共存を続けていた。
 開拓者の力は今も必要とされてはいるが、その力を集結させなくてはならないような合戦はなくある意味、平和で、ある意味退屈な時を彼らは過ごしていた。
 そう、その日まで。

 実に十年ぶり。
 開拓者ギルドに『合戦』の旗が翻った。
「開拓者の力を集結させなければならない、一大事だ」
 ギルドの係員は訪れた開拓者達にそう告げる。
 新しい儀が発見されたのだ。
 天儀とジルベリアの交易船が迷い込んだその地は、天儀のほぼ真下にあり、今まで発見されることがなかった。
 そして恐ろしいことに規模こそ小さいものの恐るべきアヤカシの溢れる大地であったという。
「周囲を闊歩するアヤカシ全てが巨大で恐ろしい力を持っている。
 小型の飛空船が小鬼に似たアヤカシの棍棒攻撃であっさり砕かれたそうだ。
 そして、さらに巨大な2体のアヤカシがいて、それらを従わせる大アヤカシは自らを妖儀。
 儀そのものを身とするアヤカシと名乗った…」
 それが真実かどうか。
 アヤカシ達がどんな力を持っているかは解らない。
 けれどもただ一人、生き残らされ妖儀のメッセージを伝えた開拓者は言う。
「…妖儀はこの地に人を運べと告げていた。
 アヤカシ達の餌となる人を連れてこい…と」
 彼らは、その巨大さゆえに今まで天を超えることができず、儀に閉じ込められていた。
 かつては妖儀にももしかしたら人がいたのかもしれないが、今はもう誰も住んでいないのだろう。
 人の苦しみ、絶望、血肉と言う最高の美味の味を悠久の果てに思い出した彼らは、再びその味を求めて行動を開始したのだ。
 勿論そんな要求を呑むことはできない。
 しかし妖儀はこうも告げる。
「要求が聞き入れられぬのなら、妖儀そのものを天儀にぶつける…と」
 そんなことになれば、天儀の人々はどうなるだろう。
 地が砕かれ、海が溢れ…ヤカシの襲撃以上の大災害が世に広がるのは容易に想像ができた。

「今こそ、皆の力を結集させる時だ!」
 ギルド長の激に開拓者達は立ち上がる。
 更なる進化により、上級アヤカシをも一撃で葬る力を得た相棒たち。
 それらを駆る開拓者たちもまた、神技とも呼べる必殺の術理を得ることで
 山を砕き、大地を割るほどの力を手に入れた。
 いかな強大な相手といえど恐れる理由などどこにも無いのだ。

「大規模作戦【妖儀】、始動!」
 さあ、今一度戦場へ。


■参加者一覧
/ 芦屋 璃凛(ia0303) / 羅喉丸(ia0347) / 俳沢折々(ia0401) / 鬼島貫徹(ia0694) / 胡蝶(ia1199) / 湖村・三休(ia2052) / カルナックス・レイヴ(ib0067) / 无(ib1198


■リプレイ本文

●アヤカシの大陸
 大型飛空船からその儀を見下ろす。
「これはまた見事な…」
 无(ib1198)は相棒 玉狐天 ナイと嘆息と共にそれを見つめた。
「妖儀」
 それが新しく発見された儀、いや大アヤカシの名前であった。
 一見、それは普通の儀にしか見えない。
 天儀の真下にあり、今まで発見されなかったと聞く通り、それは天儀から見れば本当に小さな儀であった。
 おそらく大きさで言うなら北面や陰殻程度。
 しかし、それは儀としていうなら小さいというだけで、一国程度というのであれば戦うに十分な広さを持っていると言えた。
 さらにかなり上空にいるというのに肉眼で眼下の森を蠢くアヤカシ達が見て取れる。
 棍棒を掲げる鬼達が群れを為し、別方向には怪狼に似たアヤカシが唸りをあげている。
 涎を流しながら息を荒げるその様子は正に餓狼という言葉がふさわしい。
 あちらこちらにアヤカシの姿が見えるが、そのいずれも天儀では考えられない巨大さであった。
 そして儀全てが魔の森と言える圧倒的な瘴気。
 地上世界さえもこれに比べれば住み易い世界だと言えるかもしれない。
「う〜ん、話には聞いてたけど凄いね。あの子鬼っぽいのですら天儀のそれの3倍はありそうだ」
 望遠鏡で地上を見ていた俳沢折々(ia0401)が息を吐き出した。
「しかもあれは雑魚。本命は他に三体もいて、しかも儀そのものがアヤカシっていうんだから。
 どこまで信じるかはともかく、これは、ちょーっとばかり本気出さなきゃいけない相手みたいだね。
 で、どうする? 隊長、いや、総大将?」
 そして船首に立ち腕組みして下方を見つめるに問いかける。
 小隊【豺狼山脈】の隊長にして、天儀王朝軍、総大将補佐。
 そして、今回の妖儀討伐部隊の総大将 鬼島貫徹(ia0694)は豪快に笑い返す。折々の心配を吹き飛ばすかのように。
「決まっている。ただ真っ直ぐに敵に向かい、倒す。
 ただ、それだけだ」
「旦那は相変わらずだねぃ。昔からちーっとも変わってねえな」
 けらけらと笑う湖村・三休(ia2052)に肩を竦めるカルナックス・レイヴ(ib0067)であるがその瞳に映る思いには三休と似たものがある。
「ずいぶんとご無沙汰しちゃってたけど、またこうして会えて何よりだ。
 皆も変わりないようで、それも何より」
 最後に共に戦ったのはいつだったろうか?
 遠くなった思い出を胸に浮かべレイヴは小さく笑う。
 小隊【豺狼山脈】の一員として幾多の戦場を駆け抜けた日々は、安寧とは遠いものであったが、それでも今なお胸に一際輝く宝であった。
「皆、それぞれ選んだ道を進んでいるんだよね。
 積もる話もあるし、その……妖儀、だっけ? をちゃちゃっと片付けたら、ゆっくり飲み交わそうじゃないか。」
「おおっ! いいね、いいね。旦那の奢りで飲み明かそうぜ!」
「うむ、悪くない」
 これから戦場に、死地に向かうかもしれないというのに実に明るい【豺狼山脈】隊士達。
 その姿にどこか呆れるように息をついて
「それで、さっきのは本気にしても多少の作戦はあるのよね? 聞かせてもらえないかしら?」
 胡蝶(ia1199)は貫徹に問いかけた。
 横には芦屋 璃凛(ia0303)がその弟子と相棒を伴って立っている。
「俺も聞かせて貰いたいな。雑魚はともかく、相手は未知の敵だ。
 作戦の概要は知っておきたい」
 羅喉丸(ia0347)の問いにうむと、貫徹は頷いた。
 この作戦には【豺狼山脈】隊士だけではなく多くの兵士、開拓者が参加している。
「さっきの話は別に冗談ではない。
 今回の戦い。眼下の雑魚は愚か、途中に在るといういう巨獣、巨人さえも相手にするつもりはない。
 目指すは首魁、妖儀、ただ一体のみである」
「確かにそれは理に適っていると思うわ…でも」
 胡蝶は眼下の森を見る。
「解っているのよね。それは誰かが妖儀以外の敵を食い止めなければいけないということ…」
「無論、承知している。この船に乗っているのは天儀王朝軍より厳選した精鋭達。
 我らが船も現在天儀において最高の技術を結集した戦艦。機能は八咫烏にも決して見劣りはせぬ。
 この船で一直線に敵の本拠地とされる遺跡に向かう。
 雑魚アヤカシどもをこの船と精鋭達で足止めし、主力が先に向かう。
 巨獣、巨人どもとも戦いを避け、妖儀の元にたどり着き、これを討つ! これが一刻の猶予も許されぬ戦いにおける最善手である」
「だけど!」
 胡蝶は息を吐き出した。
 死を恐怖している訳ではない。そんな事なら10年間培い築いてきた交易商人としての地位を捨ててまでここに来たりはしない。
「足止めする者は死ぬことも許されない戦いを強いられるわ。
 妖儀の能力も解っていない。
 貴方達の力は理解している。
 大アヤカシでさえ恐るるに足りないでしょう。でも、それが二体、三体であったら?
 それでも倒せると信じるの?」
「信じている」
 貫徹は即答した。
「共に戦う者達の力量は、他でもない自分自身がよく知っている。
 故に倒せる。勝てる。間違いはない」
 歴戦の勇者が魅せた揺るぎない意思と信頼。
 胡蝶は心が震える自分を感じていた。
 それはきっと自分だけではないという確信と共に。
「前方に巨大な遺跡発見! その門の前に…巨人がいます!!」
 兵士の声に貫徹は頷いて声を上げた。
「これより、我らは妖儀討伐作戦を開始する!
 着地と同時に巨人と船を追ってきたアヤカシどもが攻撃してくるだろう。
 それぞれが己の役目を果たすのだ!」
 漆黒の翔馬に跨り飛翔した。貫徹は剣を高く掲げ仲間を鼓舞する。
 掲げた神剣がきらりと光を放つ。
「よっしゃあ! 妖儀だかなんだか知らねーが、俺っち達のパゥワーを見せつけてやろうぜッ。
サンキュッ!」
 意気上がる開拓者達。
 彼らの存在と、思いをまるで狙い、見定めたかのように赤い熱線が放たれ、戦艦の上部を掠めた。
 ある開拓者は相棒と共に空に舞い、ある者は衝撃とタイミングを合わせ、地面に着地する。
 ほぼ墜落に等しい衝撃と共に地面に着陸した船にアヤカシが迫ってきた。
 後方には巨大なアヤカシ達。そして前方には見上げるような巨人が。
「進める者は先に進め! ここは…」
 放たれかけた貫徹の言葉は、唯一甲板に残り、巨人と向かい合い…一歩を前に進んだ男の右手に遮られる。
 見れば巨人の周囲が薄いガラスのようなドームに包まれていた。
「瘴気の檻…」
 高位の術者によって、見惚れるまでに美しく研ぎ澄まされた術であるがかつて陰陽寮 玄武で開発されたこの術で叶うのはほんの一時の足止めだ。誰もがわかっている。
「行け!!」
 普段の飄々とした口調からは想像もつかない激しさで彼、无は叫んだ。
 刹那、開拓者達は巨人の横をすり抜け背後に穿たれた大きな洞窟へと飛び込んでいく。
 彼らが闇に消えたとほぼ同時であった。
 パリンと軽い音と共に瘴気で紡いだ檻が砕けると同時、巨人が唸りをあげた。
 手に持った巨大棍棒が天儀最高技術で作られた戦艦の甲板に大きな穴を穿つ。
「ナイ!!」
 主の呼び声に応えるように足元にまとわりついていた玉狐天は攻撃より一瞬早く光と化して主と同化し无に回避の恩寵を与えている。
 それが間に合わなかったら死んでいたかもしれない、と思いながら
「さて、信頼とやらに応えるとしますかね」
 身体の埃を払うと无は巨大な敵に向かって飛ぶような一歩を繰り出すのだった。

●命を懸ける価値
 名前も解らない目の前の敵を无は心底恐ろしいと思った。
 ぶんと、片手で振り回される棍棒はその余波だけでも開拓者の身体を吹き飛ばせるような威力を持っている。
 直撃を受ければ、当然即死だ。
 元より非力な部類に入る陰陽師。
 体を鍛え、相棒との同化を果たしても貫徹や羅喉丸ほどの直接戦闘における攻撃力や耐久力を得ることは不可能だ。
 さらに時折、口から吐き出される炎の息吹は一度でもその身に食らえば一瞬で黒こげになる。
 それは推察ではなくまぎれもない確信であった。
「ぐっ!!」
 息もつかせぬ巨大な拳のラッシュ。その最後の一撃を躱しきれず无の身体は大きく弾き飛ばされた。
 そのまま戦艦の甲板に叩き付けられる。
「大丈夫ですか?」
 心配して、駆け寄ってこようとした兵士を
「来るな!」
 无は身を起こすと腹から絞り出すような声で制止した。
 身体全体がバラバラになりそうな苦痛にみまわれているが、ゆっくり寝ている時間など、当然目の前の巨人が与えてくれる筈などない。
 現に无がその場から離れた直後、彼が打ち付けられた甲板は棍棒の一撃で粉々に砕け散っていた。
「持ち場を…離れないで…。この状況で…雑魚とはいえ敵が増えれば…この戦場を支え切ることは…できない」
「…解りました。ご武運を」
 巫女であったらしい兵士は无に回復の呪文を放って雑魚の喰い止めに戻っていく。
 それを満足そうに見送ってから无は再び眼前の敵を見据えた。
 自分は目の前の敵に勝てない。
 それは確信であり、そう遠くない先自分は奴に殺される。
 无はそれを十二分に理解していた。
 だが
「ナイ! 狐の嫁入り!」
 諦めない。そう、その目が言っていた。
 伊達に10年の時を過ごしてきた訳ではないのだ。
 世界を、時に地上世界を旅し、文献、伝承、神話や言い伝えを調べ研究を重ねて瘴気の自在操作を習得した。
 この儀程濃い魔の森の中、強化した瘴気回収を使えば身体が動かなくなるまで練力を切らさずに戦い続けることができると思う。
 だからこそ!
「出し惜しみは…しない!! ナイ!」
 无はこの日何度目かになる相棒との憑依同化をすると手に持った魔刀を握りなおすとこの日、何度目かの奥義、十六夜を放った。
 自分達の勝利は仲間達が首魁の元に辿り着くまで敵をここに引き付け続ける事。
 その目的は、もう達成されつつある。
 後は仲間が妖儀を倒すのが早いか、自分が死ぬのが先か…。
 小さく笑って无は巨人に向かって走り出す。
「我らが力、思い知れ!!」 
 そう渾身の思いと声で叫びながら。

 何か聞こえたような気がした
 胡蝶は一瞬だけ敵から目を反らす。
 次の瞬間、冷気の雨が胡蝶の上に降り注いだ。
「きゃあああ!!」
 直撃の一歩手前
『お嬢! 気を反らすな!!』
 胡蝶は巨大な腕に抱えられていた。
 高く飛び上がったその腕の中から胡蝶は、自分が半瞬前までいた近辺が氷柱で埋め尽くされているのをみる。
 ぞくりと背中が泡立つのを感じながら
「ありがとう…ゴエモン」
 自分を助けてくれた相棒にお礼を言う。
『礼などを言っている暇はないぞ』
 やれやれと人間だったら肩を竦める仕草で大ジライヤ ゴエモンは敵を見た。
 人の数倍の身の丈を持つ大ジライヤでさえ、目の前の大蛇の前では子供も同然である。
『久方ぶりの出番と思えば相手が蛇とはな!』
「無事に帰ったら天儀酒の一斗樽を付けてあげるわよ。頑張って!!」
 ジライヤを宥めながら胡蝶は自分の言ったことを噛みしめる。
 無事に帰ったら…。
 果たして無事に帰れるだろうか。
 遺跡の内部に侵入し、途中の敵を蹴散らしながら進んだ開拓者達は途中に開いた大空洞で強大な敵と相対することになった。
 城、丸ごと一つと比べても引けを取らないそれは大蛇であった。
 全身を銀青色に染めたそれは龍さえも小鳥にしか見えない巨体と、恐るべき力を持っていた。
 振り回される尾の直撃を受ければ下手したら即死、運が良くても重傷を免れないだろう。
 だから躱せばいい。
 そんな当たり前の戦略も、しかしこの常識外れのアヤカシには通用しなかった。
 口から吐き出される冷気。
 それが白い皮膜となって地面を歩む者の足を凍らせ、行動を阻害するのだ。
「先に行って!」
 足を止められた胡蝶は空に向かって叫んだ。
「こいつは引き受けるから、折々達は先を急ぎなさい!」
「でも…」
 陰陽寮の旧知。心配そうに告げる折々に
「妖儀を倒さないと天儀は救えない。優先順位を間違えないで!」
 声をかけて後、胡蝶は笑って見せた。既に胡蝶の最初の声を聴いた時点で貫徹や羅喉丸は先に進んでいる。
 大蛇の背後にある巨大な通路。
 それがおそらく妖儀に繋がる道だ。
「…解った。気を付けて!!」
 置き土産のように折々の手から炎の乱舞が放たれた。
 炎羅の煉獄にも似たそれは胡蝶の足を溶かし、大蛇の攻撃を止め彼女を救ってくれたのだ。
「とはいえ、さすがに手が足りないか。仕方ないわね…」
 巨体に似合わないスピードのある攻撃をギリギリで躱した胡蝶は符を構え練力を練った。
「出てきて! ゴエモン!!!」
 そして召喚した大ジライヤに移動と回避を任せ、胡蝶は敵を見据えていた。
「無理に倒そうなんて思わなくていいわ。私達の目的は時間稼ぎ。死なないで躱し続ける事だけが仕事よ」
『簡単に言ってくれるな。それさえも容易いことではないぞ』
 相棒の言葉に胡蝶は思わず唇を噛む。
 ジライヤを呼び出している間、胡蝶は術が使えない。
 さらに胡蝶を抱えている間、ジライヤは本気の攻撃が難しい。
 万が一にもぶちかましなどを仕掛ければ胡蝶は簡単につぶれてしまうだろう。 
 故に逃げの一手。しかしこの場から逃げ出すわけにはいかない。
 そんなギリギリの回避と均衡は、
『しまった!』
 いつの間にか足元に迫っていた白い呪縛によって破られてしまった。
 ジライヤの足がパキパキと凍っていく。
 振りほどくには時間がいる。もしくは炎。
 だがどちらよりも早く大蛇の尾が迫りくる!!
『お嬢!』
「ゴエモン!!」
 胡蝶は相棒から投げ捨てられるように空に舞った。
 と同時。
 ぐしゃりと何かがつぶれる様な音と共に相棒が吹き飛ばされた。
「戻って!!」
 符にギリギリで戻したが間に合っただろうか?
 そんな事を考える余裕さえなく、胡蝶の前に大蛇の顔が迫った。
 蛇に睨まれた蛙。一瞬そんな言葉が頭に浮かび、胡蝶は動かぬ身体のまま死を覚悟した。
 しかし突然目の前に不思議なものが現れたのだ。
 それは巨大な駆鎧であった。
 ガシャン!
 不思議な色合いの駆鎧は、巨大な蛇の尾を両手で押さえ抱えると、一気に投げ飛ばした。
「大丈夫かいな?」
 駆鎧の影から見知った顔が覗く。胡蝶は声を上げた。
「璃凛?」
「やっぱり胡蝶さんやったんやな?」
 朱雀の刺繍の旗袍を着た彼女は目を閉じたままニッコリと笑う。
「貴方…どうして?」
「今はこいつを足止めするのが先や。二人とも! このまま阿修羅絡繰りを維持し続けるんや!
 一歩たりとも先に進めさせるわけにはいかん!」
 傍らに背後に控えていた弟子たちに声をかけると彼女自身も弟子達の方に駆け寄り、符を構える。
 そこで胡蝶も気が付いた。
 さっきの駆鎧は本当のアーマーではない。と。
 弟子達と、彼女。
 おそらくあれは彼女らの秘儀。
 三位一体でこそ生み出し、動かすことができる式なのだ。
『下がっているといい…。敵は我々が食い止めてみせる。』
 璃凛のからくり遠雷が胡蝶を助け起こす。
 しかし、その手を静かに断って
「大丈夫。まだ戦える」
 符を構えなおした。
「信頼には、応えないと…ね!!」
 掲げた符から放たれた白い狐が蛇の身体を這うように駆け上り、爆ぜた。
 その隙を見逃さず阿修羅絡繰りの技が蛇の脳を揺らす。
 グオオオーーーーッ!!
 身を捩じらせるように蛇はのたうった。
 やがて鎌首を上げる大蛇。怒りを顕わにして。
 まだ、勝利への道筋は見えてこない。
 一人が二人に。
 いや何人に増えてもこの圧倒的不利は変わるまい。
 しかし
「ここでこいつを止めてさえ置ければ、皆はきっと妖儀を倒してくれる。
 彼らが信じるように、…私達も信じるの」
 笑顔さえ浮かべて、彼らは一歩も引かず向かい合うのだった。
 
●決戦 妖儀!
『愚か者!!』
 天地が引っくり返るような感覚と共に、彼らは地面に相棒ごと叩き付けられた。
「ぐはああっ!」「うくっ!!」
 骨が砕け、内臓が裂かれるような衝撃が彼らを襲う。
『小さき人の分際で、我に逆らうか!』
 嘲笑う大アヤカシの前で、自然災害そのもののような圧倒的な力の前に
「クハハ、まだこのようなモノが眠っておったとはな。世界は広いわ!」
 それでも開拓者達は決して膝を屈しようとはしなかった。

 暗いどうくつをどこまで進んだろう。
 やがて彼らは広い、広い空洞へと辿り着いた。
 さっき大蛇が待ち構えていた場所よりもさらに広いそこは祭壇のような人工物と、むき出しの岩肌が入り混じった不思議な空間であった。
 そして奥の奥、岸壁に溶け込むように『それ』は立っていた。
 外見だけを見るなら美しい女に見えなくもない。
 だが半身を大地に埋めたその身の丈は巨人よりも、大蛇よりもなお大きく人はおろか羅喉丸の相棒である皇龍でさえ小鳥にしか見えないほどだ。
『歓迎しよう。人間達。我が餌よ! なかなかに質のいいものを揃えたようではないか?』 
『それ』は心からの笑みを浮かべ開拓者達に手を差し伸べる。
『我が名は妖儀。この地の全てにして至高のアヤカシ。
 さあ、我の前に跪き、その甘美な絶望の音色を、命の飛沫を我に捧げるがいい』
 この地に彼らが訪れたのは餌になる為。
 自分に開拓者達が膝を折ると信じて疑わなかった妖儀は
『なに?』
 彼らの様子に目を瞬かせる。
 その場に辿り着いた人間の誰一人として妖儀の前に跪くことをしない。
 むしろ挑むようにこちらを見つめている。
 そしてその中央でギラリと輝く刃が掲げられた。
 世界が映し出すような不思議な輝きを持つその切っ先を貫徹は真っ直ぐに妖儀に向けた。
「妖儀!」
 意思の籠ったそのただ一言で妖儀は察した。
 この者達は自分に喰われる為に来たのではない。
 自分を、倒しに来たのだと。
「我らは天儀の開拓者。全てを切り開く者の名において…貴様を討つ!!」
 高らかな宣告と共に彼らの意思が炎より熱く燃え上がるのが目に見えるようであった。
『おのれ! 身の程知らずどもめ!』
 思いもよらない『反逆』に妖儀は肩を震わせた。
『思い知れ! 大地に、世界に逆らう愚かさを!!!』
「! 石の礫、いや嵐が来る! 躱して!」
 レイヴの声と同時に降った岩石の嵐が戦いの始まりを告げる鐘となり、開拓者と妖儀の決戦が始まったのだった。

「ちっ!」
 羅喉丸は戦闘開始から何度目かの舌を打った。
 開拓者を志してからの日々、修練を続けてきたし依頼も受けてきた。
『武をもって侠を為す』
 遠き日の理想に近づく為の日々。
 開拓者としての力は決して誰にも遅れをとらない自負もあった。
 しかし、この敵は今までの敵とは明らかに次元が違っている。
 間断のない攻撃を続けているというのに、攻撃が通り、相手にダメージを与えているという感覚が感じられないのだ。
 まるで大地に向かって拳を叩き付けているような…。
 加えて巨石の乱舞、砂による目くらまし。
 地震による移動阻害。時には地面が割れ開拓者達を地の底に引きづりこもうとすることもある。
 満身創痍。身体中痛みを感じないところない無いほどに。
 致命傷をギリギリで避けられるのはレイヴの的確な攻撃予測と、三休の回復あってのことだ。
「妖儀…自らを大地、世界というだけの事はあるか。だが…」
 だが、戦いの中で羅喉丸は何かを掴みつつあった。
 初撃、鋼激突で胸元に突撃した時の妖儀の余裕。
 大地に身体を埋めたあの姿。
 もしかしたら…。
「頑鉄、もう少し頼む」
 自分を守ってくれる相棒の背中を労うように叩いて、羅喉丸は地面を蹴り、妖儀の身体へ駆け上っていった。

 空中戦というのはある意味難しいものだ。
 多数に紛れるならともかく、一人であるなら狙い撃ちの的になる。
 故に仲間達の多くは地上と空中を使い分け、妖儀を翻弄しているのだ。
 それが正しい戦い方だと勿論解っている。
 しかし…
「悪いな。サルサ。もう少しの辛抱だぜ。
 …俺っちがここを離れるわけにはいかねえんだ!」
 三休は相棒に囁くと錫杖を高々と掲げる。
「十年かけてたどり着いた、カグラダンスの極み。
 人は勿論、魑魅魍魎たちと繰り広げた幾多のダンスバトル……。
 その成果を披露する時こそ今! 胸がスーパー高鳴るぜッ」
 足場の悪い龍の背で、三休は踊り続けた。
 彼の身体からあふれ出る金の光が雨のように大空洞に広がっていくと、光に触れた仲間の傷が回復する。
 広範囲、継続治癒。
「人を癒すためだけに修練を重ね、身につけた俺っちの究極奥義。
 その名も神楽舞・極楽浄土!」
 指を立てた三休の背後に巨石がふわふわと舞う。
「俺っちが竜の上で踊り続けてる間は、誰も死なせはしねえってな!
 さあ、旦那、嬢ちゃん。…みんな、後ろは任せて、あのデカブツを黙らせてきてくれやッ。サンキュッ」
 三休の掲げた錫杖がシャランと音を立てたと同時、石はまるで生き物のように三休に襲い掛かっていった。

「みんな、凄いな」
 戦いの中レイヴは思っていた。
 天儀有数の戦闘系小隊【豺狼山脈】
 常に最前線で戦う彼らは、戦いを潜り抜けるごとに強くなっていく。
「俺なんかはついていくので精一杯、だね。でも…」
 だからと言ってこの場を離れるつもりはレイヴにはなかった。
 彼らの仲間であることこそが誇り。
 そして仲間の助けになることこそが自分の役割と彼は知っているからだ。
 レイヴは杖を掲げる。
 由来も素材も解らない不思議な杖は攻撃力など無いに等しいが意識を集中させると敵の次に仕掛けてくる攻撃が『見える』のだ。
 それが、今仲間達を助けている。
「ふう! ありがとさん!!」
 三休が上空から手を振った。
 巨石の乱舞の進路を読んでレイヴがはった光の盾が三休の踊りを守ったのだ。
「良かった」
 ホッとした刹那、レイヴは稲妻のように『感じた』。
 …勝機を。
「みんな、とにかく攻撃して! 軽くていい、とにかく手数を!」
 レイヴは仲間達と目を合わせると自身も光の矢を放った。
 彼の目に何かを感じた開拓者達は、言われた通りの攻撃を続ける。
 勝機を引き寄せる為に。

 幻術はダメ。炎はいまいち効果が薄い。
「…ほんっと、やっかいな相手だねえ。…でも精神に作用する技を使ってこないだけマシかな。それに…」
 折々は妖儀を見つめながら小さく笑う。
 レイヴが感じていた勝利の気配を、折々も見出しつつあったのだ。
「あの女王様は我慢を知らない。
 私達の攻撃なんか、羽虫も同様なんだろうけど…羽虫ってけっこう鬱陶しいんだよ…ねっ!」
 そして目を閉じた折々は術を紡いだ。
 秘術裏鬼門。
 大アヤカシ達の力を一瞬、引き出せる技。
 彼女が引き出したのは文字通り、蟲の女王山喰の羽虫と、強烈な酸!
 それを妖儀の顔面に叩き付けた。
『ぎゃああああ!!!』
 それは妖儀がはじめて上げた悲鳴、そして怒りの叫びであった。
『おのれ…愚かな人間風情が我に傷をつけるとは…許さぬ!!』
 大空洞が吠えるように揺れた。
 崩れ落ちる岩や割れる大地の中から、大地を纏った女アヤカシが揺らめき立つ。
『お前らは、私自身の手で引き裂き、潰してくれるわ!!!』
 わああっ!
 妖儀の怒りが大気を揺らし、その波に折々は、三休は、レイヴは叩き付けられる。
 だが、次の瞬間、妖儀は動きを止めた。
 同時にパリンと何かが砕ける音がする。
『な、なんだ…と』
「真武両儀拳」
 笑みを浮かべる羅喉丸の周囲で紅玉に似た赤い欠片が踊るように散っていた。

 妖儀の急所を隠すために地に身体を埋めていた。
 弱点はおそらく背中。
 羅喉丸は戦いの中、それに気づき機を伺っていた。
 そして圧倒的な力を持つが故に、今まで誰にも弱点を隠す必要の無かった妖儀は開拓者の攻撃に生まれて初めての怒りを持ち、頭に血が上って弱点を隠すことを忘れたのだろう。
 その隙を羅喉丸はついた。
 無防備な弱点は羅喉丸が詩経黄天麟から全てを込めた真武両儀拳に砕け散ったのだ。
『おっ、おのれええええ!!』
 驚愕と怒りの入り混じった妖儀の叫びを聴きながら羅喉丸は意識を失った。
 自分を庇うように寄り添う相棒に触れながら、もし妖儀が自分に攻撃を向ければ死ぬだろうと確信していた。
 そして、それは絶対にないということも。

…共に戦う者達の力量は、他でもない自分自身がよく知っている。
 もはや後顧の憂いなし。ただ己に課せられた役目を全うするのみ…
「行くぞ! 日高!」
 貫徹は翔馬日高と共に大空洞を天井間際まで駆け抜けた。
 そして、そのまま一直線に降下する。
「おおおおおっ!!!」
 目指すは首魁妖儀。
 その首!!
 貫徹の全てを込めた一刀は妖儀の大木よりも太く、そして白い首を両断する。
「我らの、勝ちだ…妖儀よ…」
 断末魔も最後の言葉も恨み言も残す暇なく落ちた首はごろりと転がり…次の瞬間、色を失い土塊となった。
「妖儀の…最期だ」
 身体もまるで水をかけた泥が崩れ落ちるように溶けていく。
 不思議で大きな護大の欠片を残して…。
 と、同時。
 開拓者達は周囲が揺れるのを感じた。
「大地が…? まさか!」
 貫徹は疲労と苦痛に軋む身体に鞭打ち仲間達に叫んだ。
「この儀が崩れるかもしれん! 全員、全速力で、退避だ!!」
 そして、彼らは助け合い、大空洞を後にする。
 一度たりとも、振り返ることなく…。

●続く未来
 无が目を覚ました時、最初に見たのは白い天井であった。
 微かな振動を感じながら顔を横に反らすとそこには、腕を白い包帯で吊る胡蝶がいた。
「良かった。気が付いたのね。ここは迎えの飛行船の中。とりあえず治療は終わったけど、傷は重いから動かないでね
 静かに告げる胡蝶に」
「た、戦いは?」
 无は問う。
「勝ったわよ。大アヤカシ 妖儀は討ち取られ、儀は静止し、二度と動くことはない。
巨人や大蛇、アヤカシは残っているけれど、彼らは儀を出ることはできないでしょう。
私達は天儀を…守れたのよ」
 良かった、とそれだけ思いながら无は目を閉じた。
 身体の骨という骨は粉々。左右に曲がる首以外に動くところはない。
 でも、生きて、いる。
 不思議な程、心は晴れやかで静かだった。

「世界は、広い…」
 貫徹は空を見上げて思う。
「この世にはまだまだ、あの妖儀のようなアヤカシが潜んでいるのであろう…な。
解らぬこと、ままならぬ事が多いからこそ、世界は面白い。
 名を上げる機会もまだまだある。退屈せずにすみそうだ!」
 透き通る天儀の空に彼の笑い声が、高く、高く響く。
 そして彼は仲間同士の約束を守るために踵を返すのだった。

 かくして一つの戦いは終わる。
 しかし、開拓者の夢と開拓は終わることなく続く。
 人が、生きる限り…。