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■オープニング本文 【これは陰陽寮 朱雀 二年生+予備生優先シナリオです】 三年生が東房に向かったらしいと二年生達が聞いたのは六月も終わろうというある日の事であった。 今月は合同ではなく、各学年ごとの授業が行われる月。 彼らが東房に行く事になったのは間違いなく課題絡みの事だろうと推察できる。 現在、東房とその先にある冥越はかつてない戦闘の舞台となっている。 攻めるは人。 開拓者ギルドと天儀のみならず秦国、ジルベリア、アル=カマルが総力をあげて組織した連合軍。 敵はこちらも大アヤカシの連合軍。 今まで互いに関わりあうことを避けてきたような大アヤカシ達が三体。 初めて共闘と言う形で迎え撃つ。 その戦場には今まで確認されていなかったアヤカシも多く目撃され、陰陽師にとってはある意味最高の研究場所であると言えた。 だからもしかしたら、自分達も東房、もしくは冥越に行く事になるのではないだろうか? 課題授業の課題発表の日、集められた二年生達はそんな事を考えながら緊張にその背を伸ばしていた。 しかし 「…というように、アヤカシという言葉一つとっても単純ではなく、言って見ればこの世に存在する、イヌ、ネコ、クマ、ムシ、サカナ、トリ、人など全てを合わせて動物というように、瘴気より出でて人に害をなすもの全てをアヤカシと呼んでいるだけでそれぞれ様々な種類、能力を持っています。 また同じ個体であってもまったく同じではなく個性や能力の違いがみられることもありますし、先の蟲アヤカシのように未知の敵が発見されることもしばしばあります。 陰陽寮の把握しているアヤカシの情報量は世界でも指折りと自負して、そうなるべく努力もしていますが、その調査に果てはありません」 寮長 各務 紫郎はいつもと変わらない様子で講義を行っている。 アヤカシの体系論から始まって、術の概論にも話は広がっていく。 「術の分野も同様です。既存の同じ術を活性化させても術師によって使い方は違いますし、工夫次第で様々な応用も可能です。 また新たな術も日々、研究開発されています。 どの分野も同じであるとは思いますが、こと陰陽術の道に終わりはないのです。 日々、目の前の事象について考え、これでいいのか、と疑問を持ち、より良い方法を考える。 学徒として、陰陽師として今の自分の行動が、考えが未来に繋がるものである事を常に意識して欲しいと思うのです」 そう静かに語る寮長の言葉に寮生達が頷いたのを見て満足そうに笑うと、寮長は 「では、これから今回の課題を発表します」 普通と変わらぬ声で告げた。 「今年度の終りに提出する進級論文の課題を見つけ、提出する事。 ただし、朱雀寮で、ではなく東房、具体的には先月皆さんが向かった廃村で行う事」 あまりにも変わらない口調で言われたので、一瞬意味を捕え損ねた二年生達は、一度瞬きをして問い返す。 「東房で…ですか?」 「そうです」 もう一度頷いて寮長は説明を開始する。 「朱雀寮の進級課題は基本的に、どの学年も実技と小論文です。 実技の課題は例年違います。特に三年生の卒業試験はその時々の寮生にあった課題が精査されて選ばれます。 二年生の実習はアイテム作成になることが多いですね。昨年とその前の年は陰陽人形作成でした。 そして二年生の論文は術、もしくはアヤカシに関して一つのテーマを決め、調べ考察を纏めて貰う事になります。 例年ですとアヤカシ研究と術応用に別れて、それぞれが自分に合ったテーマを絞り込むのですが、今年度は授業内容や人数の関係から、選択授業は行いませんでした。 ですので、基本的に誰が何を研究するかは問いません。 アヤカシをテーマに選んだ場合、自分が興味を持ったアヤカシ一種について調査、研究、考察を行って下さい。必要とあれば申請の上ですが、アヤカシ牢にいるアヤカシでの実験も許可されています。 術をテーマにした場合、自分の興味のある術について、いろいろ試し、その可能性を探ることになります。このような場面でこう使い、このような結果が出た、など実践を基に纏めその術を今後より発展させるにはどうしたらいいか考えて下さい。年度の終りに発表をして貰います。 共同研究は可、途中でのテーマ変更は原則不可です」 進級試験については解った。しかし、それを何故戦場で。 寮生達の口で語らぬ問いを読み取ったように、寮長は続ける。 「先月の実習で皆さんがアヤカシ蟲の群れと遭遇した廃村は、現在蟲達が村中を食い荒らして通り過ぎ、現在廃墟になっています。 戦乱が人の勝利で終われば人々が村に戻り復興を始めるでしょうが、その前に村に蟲が残っていないか、現在の建物の状況はどうかなどを調べて来てほしいと言う要請が出ているのです。 アヤカシという存在を現実と共に再度意識し直し、彼らに勝利する為にはどうしたらいいか。 未来に向けて何を残すべきか考えて欲しいと言うのが今回の課題の意図です」 そうして寮長は先に寮生達が提出した村近辺の地図と白紙の調査用紙を寮生達に手渡す。 「現在、蟲の集団は女王蟻である山喰の呼び声に応えてか北に向けて移動し、ほぼ残ってはいません。 ですが僅かでも蟲が残っている可能性があるので注意する事。 期間を終了して戻ってきたらそれぞれ調査用紙に記入、提出して下さい。 以上」 陰陽寮 朱雀の教師が必要な事だけ言うと去ってしまうのはいつもの事。 だから寮生は自分で考えなくてはいけないのだ。 自分は、自分達は何ができるか、何をしなくてはならないのかを…。 今年ももう半ばを過ぎた。 新年まであと半年。 それは三年生が卒業していく日まで残り半年ということでもある。 自分は何かを見つけて、何かを残して行けるだろうか。 寮生達は目の前の真っ白な紙を目に彼らは改めて向かい合うのであった。 未来へ繋ぐ何かを、自分自身の目標を、見つけ出す為に。 |
■参加者一覧
雅楽川 陽向(ib3352)
15歳・女・陰
比良坂 魅緒(ib7222)
17歳・女・陰
羅刹 祐里(ib7964)
17歳・男・陰
ユイス(ib9655)
13歳・男・陰 |
■リプレイ本文 ●滅んだ村での課題 目の前にアヤカシに喰い散らかされ滅んだ村。 当然、気分のいいものではない。 「…村の地図、新しゅう作らなあかんかもしれんね」 雅楽川 陽向(ib3352)は尻尾をへにょりと垂れさせて小さな吐息を吐き出した。 朱雀寮二年生達は課題を与えられて東房のある村にやってきている。 ここに彼らが来るのは二度目だ。 一度目はやはり課題で、三年生達と一緒に蟲に占領されていたこの村の調査にやってきた時。 あの時は調査が課題であったとはいえ、村を埋め尽くす蟲の群れにほぼ為す術なく、ある程度数を減らす以外の事はできなかった。 思い出すと小さくない空虚が胸に広がって行く。 「どうした? 陽向。一人でいると危ないぞ。蟲アヤカシは去ったというが油断はできぬ。注意していかねばなるまいて」 ぼんやりとしていた事を気にしたのかもしれない。 後ろから声をかけてきた友に 「あ、おおきに。分かっとるよ。魅緒さん。何でもないんや。ただ、ちょいと考え事を、な」 陽向はそう返した。 生真面目な比良坂 魅緒(ib7222)はその言葉にうむと頷いて、横に立ち、一緒に考えようとしてくれる。 「…考え事、か。確かに状況は刻一刻と厳しいものになっておるようじゃし、論文の事もある。 考えねばならぬことは山積みか…」 「やらなあかんことも山積みやしね。うん、考えるのは後にするわ。キャンプの準備しとるんやろ?」 気持ちを切り替えるように頭を振って笑う陽向に魅緒は、ああ、と小さく微笑む。 「村の中央に割と大きな館があってな。そこを拠点として回ろうと言う話が出ておる。 設営の準備は男達に押し付けるとしてもやらねばならぬことも山積みじゃ。行くぞ。陽向」 「うん」 そうして二人は課題と仲間の待つ村に本格的に足を踏み入れるのだった。 「二手に別れていこうか」 集まった仲間を前にユイス(ib9655)はそう提案した。 「ざっと見た限りだけど、寮長が教えてくれたとおり蟲アヤカシの本隊はもうこの村を離れていると思う」 「確かに、ほぼ村中喰い尽くされているからな〜」 頷く様に答えたのは羅刹 祐里(ib7964)だ。 家畜、畑、家、ほぼ全てが蟲達の餌となってしまったこの村に残されているのは僅かに残る建物の残骸や獣達の死骸くらいなものだ。 「出来る範囲で片づけながら、村を捜索。取り残された生存者…はいないと思うけど、もしかしたら蟲がいなくなったと聞いて戻ってきている村人とかはいるかもしれない。 そう言う人がいたら保護を優先。 アヤカシに遭遇したら分類と外見名称、出会った場所を書き記して退治。難しい敵と出会ったら呼子笛で合図…。どうかな?」 「うむ、異論はない」 「流石、ユイスさんやな」 自分達の首席に信頼の笑顔で頷く陽向と魅緒。 その曇りない笑顔に照れたように微笑みながら 「それじゃあ、班分けしようか。二対二だから男二、女二、でとりあえずいい? 軽く回って危険が大きいようだったら別の組み合わせにするけど」 「いや、当面大丈夫やと思うで」 「ああ、こちらも異論はない」 「もし、怪我をしたりしたら直ぐに連絡を。救急箱や薬は持ってきているから」 「よし、じゃあ行こうか」 副保健委員長の頼もしい言葉に頷いて、彼らはそれぞれペアを組み『課題』を始める。 調査だけではない朱雀寮の『課題』を…。 ●魅緒と陽向 二人は村をゆっくりと歩く。 「魅緒さん。何か気付いたことあったらこれに書いて」 陽向はそう言って魅緒に手描きの地図を差し出す。 「これは?」 「この間の地図を新しゅう書き直したんや。崩れかかって危ない家とかは、地図にしるして、分かりやすくな」 「うむ、解った」 頷いて魅緒は地図に書き込みを始める。また人魂も放ち不意打ちなども警戒する。 「それにしても、蟲アヤカシとはやっかいなものよ。地に群れ溢れるかと思えば空を飛ぶ。 毒をばら撒き、家も砕く。普段は煩いと感じる蝿や小虫が可愛らしく思える程よ。…まあ、かと言って好きになるわけではないがの」 冗談交じりにそんな事を言う魅緒にくすりと微笑んで陽向は 「そうやね」 と頷いた。 蟲達の女王、大アヤカシ山喰が滅んだ今、かつてのように蟲が大地を埋め尽くす事はもうそうはないだろうけれど…。 「そう言えば陽向は進級論文のテーマは決まったのか?」 少し感傷のように思っていたせいだろうか。魅緒の言葉に反応が遅れた陽向は 「あー、まあ、一応、やろか」 少し言葉を濁す様に答えた。 「魅緒さんは?」 「妾か? 正直、どこから手を付けようかと思っておったのだが、この村に来て決まった」 「もう決まったんか? そんで、この村に来てから、ちゅーことは…」 「ああ、テーマは蟲アヤカシと決めている。せっかくなのだ。それを研究しようかと思ってな」 陽向の問いに魅緒ははっきりと、そう答えた。 「蟲アヤカシって行っても色々あるやん? 何にするん?」 魅緒なら術関連かと思っていた陽向はそう問うてみる。別に聞いてはいけないことではないだろう。 「色々考えたがどれか1つに絞るならやはり、蜘蛛じゃな」 「蜘蛛? この村におったっけ?」 「いや。だが、山喰を失って散った他の蟲どもと違い蜘蛛などはまだ東房や冥越で幅を利かせておる。知能も高めで厄介な敵なのでな。 今後のこの国の復興に役立つやもと思ったのじゃ。ちなみに生家での教えは「陰陽術は自らの為に磨くものである」じゃ。 じゃが何故であろうな。今の私は他人の為にこれをしたいと思うておる。朱雀寮で、学んだせいやもしれぬ…」 「なるほど。魅緒さんらしいな〜」 褒められて魅緒は小さく微笑する。 「そう言う陽向はどうなのじゃ? 聞いても良いなら教えては貰えぬか?」 「うちは術研究にするつもりなんや。内容には暫く迷っとったんやけどな。ほら、 砕魚符の対象を複数に広げるとか、めっちゃ面白そうやけど」 「陽向よ。それは寮長が渋い顔をせぬか?」 「うん。多分…寮長センセ怒るやろからな。で、うちもやっぱり実習で東房来た事がきっかけの一つなんやけど炎術系の可能性を追求するんも、ええかも、って思ってるんや」 「炎系?」 「これから、東房や冥越はごっつい魔の森燃やすやろ? 周りに引火することなく、対象だけを燃やす術やったら、魔の森を燃やす時に燃え広がりを気にせんでもようなるやん!」 「なるほど。そういう視点か。陽向らしいの」 「おおきに」 陽向も魅緒に笑みを返す。 こうして言葉に出すと自分の気持ちの整理もつく。 目指す道もおぼろげだが見えてくるようだ。 「ん、気を付けよ。陽向。向こうに蝗の残りがおるようじゃ」 「ほんま? 数が多くないんならうちが雷獣ぶちかますで」 「解った。取り零しは岩首と氷龍で妾が受け持とう。蝗ではあまり研究にはならんが、これも実験、実践、練習よ」 二人は信頼と笑顔を交差させ、真っ直ぐに未来と敵を見つめるのだった。 ●ユイスと祐里 こちらも二人で注意深く村を巡るユイスと祐里。 時折蟲アヤカシの残りがいるにはいるが、数は少なく元より弱い。 さしたる危険を感じることもなく彼らは探索を続けていた。 「ふう。このあたりにはもういないかな?」 壊れかけた建物の影から飛び出して来た似餓蜂を切り捨てて息を吐き出すユイスはふと、物陰にあるモノを見て眉根を寄せる。 それは、白骨と化した人の亡骸だった。 最初の調査の時に見た蟲に操られた人間の果てかもしれない。 ユイスは目を閉じて膝をつき、そっと手を合わせる。 彼が立ち上がるのを待って 「なあ、ユイス」 祐里は声をかけた。 「なに? 祐里君?」 人魂を放って周囲を確認しているのだろう。 少し空を仰ぐような視線のユイスは、それでも祐里を見て返事をしてくれた。 「解毒と、浄化は全く違うものだよな」 「なに? 課題の話?」 突然の、脈絡のない話であったろうに聞く様子を見せてくれたユイスに感謝して祐里は頷いた。 「ああ…進級論文の課題って奴だ。我は術、解毒符にしようと思ってるんだが…本当にやりたいことは違うんだ。 本当にやりたいのは陰陽術による瘴気浄化…、除去なんだ」 「…それは、難しいんじゃないのかな?」 祐里の言葉にユイスは陰陽寮での授業を思い返す。 瘴気回収の名を持つ術も実際は瘴気を減らす効果は無いと学んだ。 かつての先輩達も、さらにその先達も陰陽術で瘴気を浄化する事はできないか研究を行い、成果を出せなかったと聞いている。 「解ってる。それでも、調べてみたいんだ。 何故、陰陽師が瘴気と言う分野で結果的に出遅れる事になったのか。 後陣を走る事になった切っ掛けや、浄化研究や瘴気についてどの様に成されてきたのか。成果を出せなかったということはそれだけ研究していた人がいたってことだ。 方法論は、有るはずだろうし残されているはずだ。それをなるべく、陰陽師だけによらない情報収集を、行って調べて行こうと思っている」 「どうだろう?」 言葉にしない問いを目に浮かべる祐里にユイスは 「いいんじゃないかな?」 微笑んだ。 「それぞれが自分で決めた研究に口出しする事はしないし、できないけどいいと思う」 「ありがとう」 「そっか、色々考えてるんだね…。他の皆はどんな選択をするのかな? 後で聞いてみよう」 主席の優しさに頭を掻いた祐里はふと、気付いて友を見る。 「そういえば、ユイスは、もう決まったのか?」 「…ボクは鬼にしようと思う」 「鬼?」 祐里は瞬きした。 自分もそうだが修羅という種族を語る時「鬼」という表現は避けられないものであると同時に、嫌な思いをかきたてるものでもある。 陰陽寮や開拓者の世界ではそうでもないが一般人からは時に忌避され、差別の対象になることもある。 事実、ユイスが鬼、と告げた時の声音はいつものどこか優しい、仲間を見守るようなそれとは違う冷え冷えとしたものであった。 祐里の心配を読み取ったのだろう。 「うん」 とユイスは頷く。 「正直な所、ボク達の様な修羅はよく混同される事があるから、特に嫌いなアヤカシなんだけどね。だからこそ、向き合ってみようかって思うんだ…!」 ユイスはそう言うと片手を真っ直ぐに前に上げた。 小さな呪文詠唱の後、彼の手から炎の獣が駆け出す。 「!?」 祐里は振り向いた。いつの間に追ってきたのだろうか? また似我蜂の小さな群れが迫ってきたようだ。 「やっかいだから片付けるよ」 「ああ」 敵を迎え撃つ為に肩を並べる。 その時、祐里は聞いた。 一瞬白骨の方を見て 「まあ、好きなアヤカシなんていないけど」 と肩を竦めて見せたユイス。 その声と眼差しに潜んだ氷の刃のような鋭い思いを…。 ●それぞれの研究課題 東房の廃村調査を終えた寮生達は寮長に、まず村の状況を報告した。 「村は完全に食らいつくされていました。生存者は無し。でも、逆に言えばもうアヤカシに狙われる事はほぼ無いということであり、今後村人が戻れば復興できる可能性はあると思われます」 「残っていた蟲は可能な限り掃討してきた。現時点では村に残っている蟲アヤカシは0の筈だ」 「壊れた家とかの状況は別に纏めておいたで。壊れてない家なんてなくて大変やと思うけど人がおれば家は建て直せるよってな」 そして、その後、課題の報告と共に研究課題を提出したのだ。 「炎術の可能性に、蟲アヤカシ、それに瘴気浄化の可能性、ですか」 寮長である各務 紫郎はそれぞれの提出された課題を確認しながら頷く。 「炎術の可能性については面白い視点であると思います。 特に引火せずに対象へ炎を当てるというのは面白い考え方であると思います。 これができるのは、確かに式による炎術だけ、でしょうからね」 「おおきに」 褒められた陽向は嬉しそうな笑顔を見せる。 「魂魄みたいに、盾をすり抜けていくようなイメージやと思うてます。 あとは弓術師の月涙のように、武器自体が対象をすり抜けて攻撃できるスキルとか。 炎術にも障害物をすり抜けて、対象のみを燃やせる可能性があるかもしれへん。 もしも、開発実用可できれば、魔の森を焼くときに近隣の村への延焼を防ぎつつ、魔の森のみを焼き払うなんてことも可能になるんやないかと思うんです」 「攻撃の一瞬、だけではないとなると難しいかもしれませんが、とにかく炎術の解析や研究などから進めてみるといいかもしれませんね」 「はい」 寮長のアドバイスをメモしながら陽向は頷く。 「蟲アヤカシ、蜘蛛種。餓鬼蜘蛛というのも問題ありません。特に今、冥越、東房を苦しめている敵でもありますからね」 「うむ、故に選んだと言っても良いと思っている」 魅緒は思いかえす様に手を握り締める。 「数が多く、毒なども使う厄介な奴らであったからな。 論文を書くのなら後世に役に立つ方が良いに決まっておる」 「その姿勢は素晴らしいと思いますよ。期待しています。 …ただ、羅刹君、陰陽術に寄る瘴気浄化の可能性については長年研究が続けられながらも見通しのつかない研究であるということは承知していますか?」 寮長の問いを向けられた祐里は、はい、と真剣に応える。 「今までの先輩達の研究なども研究した上で、決めた事なので一応理解しているつもりです。 何故、瘴気の専門家である陰陽師が、瘴気除去と言う分野で結果的に出遅れる事になったのか。 その原因や要因について調査し、可能性を探って行きたいと思っています」 「解りました」 寮長はそれ以上、何も言わなかった。 元より二年生の研究に求められているのは形になる「結果」ではないものなのだから。 そして、今まで黙っていたユイスを寮長は見る。自然、仲間達の視線も集まった。 仲間と寮長の視線を受けユイスは決意を込めて告げる。 「僕のテーマは”鬼”です」 と。 「理由を、聞いてもいいでしょうか?」 そう問う寮長にはい、とユイスは答えた。 「基本的なイメージは特異な能力こそ少ないものの、力の強い、アヤカシの典型の一つ、という所。 一方で、影鬼、阿傍鬼といった奇妙な種もいるので侮れない。 多数種のいる鬼、その基本的な生態をつきとめれば他の鬼アヤカシに対しても今後の参考になるのではないかと考えます。 角という共通項を持つ事も興味深いです。 鬼というアヤカシはいくつかありますが、その中でも最もポピュラーであろう鬼を選択します」 噛みしめる様な一言一言に込められた意思の強さ、深さを仲間達は感じる。 そしてユイスの、いや一人一人の思いを受け止めた寮長は告げる。 「解りました。問題は無いでしょう。調査の件も含めて今回の課題は合格とします。 それぞれ、今後の授業でも自分の目指す方向をしっかりと持って、研究を進めて下さい」 寮生達は頷いて退室し、歩き出す。 目標に向けて。それぞれの決意と思いを胸に…。 残り半年と言う時間を、大切に生かしていく為に。 |