【殲魔】過去の鎧、未来の道
マスター名:夢村円
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/06/30 23:57



■オープニング本文

 貴族とは言え、まだ見習いがとれて間もない騎士が皇帝と直々に会話できる機会は少ない。
「緊張する必要は無い。面を上げるがいい」
 そう言われてようやく顔を上げた青年騎士は今まで遠くから見るしかなかったジルベリア皇帝。
 ガラドルフの前で、初めてその視線を合わせたのだった。
「先に行われた騎士達によるアーマーの模擬戦で優秀な成績を収めたのだそうだな?」
「あ、いえ、まだまだ未熟ではありますが、運よく…」
 柔らかい口調では決してないが皇帝から褒め言葉を給わることはジルベリア騎士として最高の誉れでもある。
 胸の中が喜びでいっぱいになる。
 母や祖父母、尊敬する叔父も喜んでくれるだろうか…。
 そんな事を考えていたからであろうか?
 続く皇帝の問いに少し反応が遅れた。
「そなた…ジルベリアや世界の為に命を捧げる覚悟はあるか?」
「えっ?」
 意味を一瞬理解できず瞬きした彼であったが、即座に返答する。
「勿論です」
 その答えに満足そうに頷いた皇帝は小さく笑って彼に告げる。
「ならば、そなたに命令を与える。
 この命はジルベリアのみならず天儀の運命、如いては冥越との合戦をも左右する重要な役目であると心得よ!」
 皇帝から与えられた命令に、彼は息を呑む。
 皇帝自身が言う様に実戦経験の殆ど無い騎士に与えられるには重要過ぎる命令。
 だからこそ
「謹んでご命令をお受けします」
 彼は深く、深く頭を下げてそう告げたのだった。

「「彩雲」って聞いた事ありますか?」
 開拓者ギルドにやってきたジルベリアの青年騎士はオーシニィと名乗って後、最初に係員にそう問うた。
 係員達は少し考えてからもしかして、と思い出す。
「天儀で発見されたというオリジナルアーマーの事か?」
「ええ、そうです。彩雲っていうのは開拓者の方が付けた名前だそうですけど、アーマーとよく似ていますが今までのそれとはまったく違う思想と技術で作られた特別なアーマーなんだそうです」
 古代の遺跡から発見されたオリジナルアーマーは今は失われた、ロストテクノロジーでできていると、発見者である教授は語っていたらしい。
「発見場所が天儀なんで、多分所属は開拓者ギルドになります。
 とはいえ、アーマーの事でしたらジルベリアの知識は随一ですので調査や実験はジルベリアも加わって行われています。
 それで現在、ジルベリアから整備に帝国機械ギルド、調査に帝国アカデミーが入ってますが、今度、僕は操縦者として数名の騎士と共に調査をすることになったんです。
 場所は天儀に作られた開拓者ギルドによって用意された特設の調査場所。
 主に僕の仕事はオリジナルアーマーを起動させての動作確認と起動方法、そして戦闘能力の確認、調査の取り纏め、なんですが、開拓者の皆さんにも手伝って貰えないかなあと思いまして」
 オーシニィはそう言うと依頼書を差し出す。
「主な仕事としては第三者の目から見たオリジナルアーマーの調査。特別な文様があるとか構造や性質が独特だとかいう報告がありますから、色々と知識や経験の豊富な皆さんの目から見てオリジナルアーマーがどのようなものか見て欲しい、というのが第一です。
 第二にオリジナルアーマーを起動させた後、動作確認の後、戦闘能力を確認したいと思っています。
 オリジナルアーマーと言えど、アーマー。戦う為のものでしょうから。
 アーマーをお持ちの騎士の方がいたら、僕や騎士が操縦するオリジナルアーマーの対戦相手になって頂けると助かります。勿論、あくまで模擬訓練ですから、アーマーを破損させる事などはしませんし、壊れた場合には責任を持って修理しますから。
 そして…」
 少し、言いよどむ様な様子を見せたオーシニィであったが何かを決意したように顔を上げると続けた。
「オリジナルアーマーは三体発見されています。
 もし、可能であるなら他の機体も起動させて、オリジナルアーマー同士の性能なども確認したいと思うのです。ジルベリアの騎士同士ばかりだと操縦方法などが偏りますし、実戦での使い方でいうなら開拓者の皆さんを超える者はそういません。だから……その……
 つまり、オリジナルアーマーに搭乗して欲しいんです」
 係員はオーシの話に目を瞬かせた。
「オリジナルアーマーに乗れる、のか?」
「勿論、それはアーマーの操縦技術を持つ方に限りますが。
 ただ、オリジナルアーマーの搭乗はまだ安全性が完全には確認されていないので、危険が伴う可能性があります。
 最悪の場合、動かした途端に大爆発、なんてことが絶対ない、とまでは言いきれないと報告を受けてます」
 ……つまり、目の前の青年や同行の騎士はそれを承知の上でオリジナルアーマーに搭乗するというわけだ。
 押し黙る係員にオーシニィは暗くなりかけた空気を払おうとするように手を横に振る。
「でも、そんな事には多分ならないですよ。オリジナルアーマーは以前、叔父…、南部辺境伯が対戦した魔神機と共通点が多いみたいですし、そんな乗っていきなりドッカーン! なんてことをこれを作った人はしないだろう、ってくらい丁寧に作ってあるみたいです。皆さんは、僕達が試しに乗って大体の操作方法が解ったら乗って頂く予定ですし。だから…」
 そう言って彼はニッコリと笑う。
「まあ気楽に、珍しいものが見れると思って来てくれればいいです。
 勿論、アーマーの操縦をしない方も歓迎します。宜しく、お願いします」
 人懐っこい笑顔で依頼を出して行った青年騎士であったが、長年依頼を出す「人」を見続けて来た係員にはなんとなく解った。
 彼自身も、かなりの覚悟でこの任務に挑もうとしていることを。
 折しも、冥越への進行が本格的に始まった今。
 もし、オリジナルアーマーの調査が進み、実戦に投入できるようになれば人間にとって大きな力になるだろう。
 こうして依頼は貼り出された。

 過去から届けられた鎧は、未来への希望になるのか…。
 今はまだ誰も、知る由もない。



 


■参加者一覧
芦屋 璃凛(ia0303
19歳・女・陰
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
レイラン(ia9966
17歳・女・騎
サーシャ(ia9980
16歳・女・騎
雪切・透夜(ib0135
16歳・男・騎
ヘスティア・V・D(ib0161
21歳・女・騎
ニクス・ソル(ib0444
21歳・男・騎
フィン・ファルスト(ib0979
19歳・女・騎
エルレーン(ib7455
18歳・女・志


■リプレイ本文

●太古からの遺産
 それを間近で見た時、誰もが言葉を失った。
「さいうん…」
 エルレーン(ib7455)は感慨深げに大きな機体を見上げる。
「はい。これがオリジナルアーマー『彩雲』です。仮称ではなく名前も正式採用になりました」
「おおおお、おおおおおおお……スゴイ!」
 目をキラキラ輝かせて、彩雲の周りをぐるぐる回るフィン・ファルスト(ib0979)に依頼主で、現在ジルベリア騎士代表として彩雲の実験纏め役をしている騎士。
「随分テンション上がってませんか?」
 オーシニィは小さく肩を竦めて見せた。
「だってー、ジルベリアの巨神機、三つはボフォラスにぶっ壊されて、ケニヒスは反乱軍で運用されて結局ぶっ壊して貰って、ですよ?
 あたしの代で動かせる日が来るなんて…!」
 感激! と顔に書いてあるフィンの様子はさておき、心境的には他の開拓者達もかなり同意ではあった。
 遺跡から発見された今は失われた技術で作られたオリジナルアーマーを前に
「オリジナルアーマーに触れる機会なんて、滅多に無いもんね、未知のその力試させてもらうんだからなっ!」
 目の輝きで言うなら天河 ふしぎ(ia1037)も大差ない。
 もっとも最初に彩雲と聞いた時は、ぴんとこず。
「新型のグライダーのことかな?(ワクワク)」
 と思ったりなんかしたことは内緒である。
「これがそうですか…ふふ、宜しく、彩雲」
 挨拶するようにそっと手を触れる雪切・透夜(ib0135)。
 憧れの目で見る訳ではないが、一人の開拓者としての興味は尽きない。
「これに合った武器はなんでしょう? やはり天儀系統でしょうか?」
「今のところはスピアを使ってます。後は近接戦闘用に刀ですね」
「オリジナルですか〜。
 ケニヒスや私達の量産型との違いが気になりますね〜。ドキドキしてきましたよ〜」
 サーシャ(ia9980)も楽しそうだ。
 そう見知らぬ世界の欠片。心、踊らない訳がない。
「新型は新型で浪漫ですが
 発掘兵器は発掘兵器で浪漫ですからね〜〜」
「? たつにー、どうした?」
 ヘスティア・ヴォルフ(ib0161)の呼び声に顔を上げ
「大昔の遺産って奴か…何を伝えたくて「こんなもの」を作ったのやら」
 竜哉(ia8037)は真剣に彩雲を見つめる。
「なんだかんだ言っても武器、やからな。アーマーって。古代の人間は何を考えとったんやろうな?」
 噛みしめるように言う芦屋 璃凛(ia0303)をからくり遠雷は黙って見ている。
「簡単な起動実験は完了しています。アーマーと同様の通常起動、動作であるなら今の所、問題なく動くようです。
 ただ、そうなると前線では早く戦力にしたいらしくて起動させた一機持って行かれてしまいました。レイラン(ia9966)さん、貴女が動かされたものがそうです」
 レイランは頷き、彩雲を見上げる。
「そっか、君は…あっちの子とは別の子なんだね」
 乱戦の中、助け、助けられた者同士特別な感慨があるのかもしれない。
「ふーん、役に立ってる、んだ。それなら…あのぶりーふも、喜ぶだろうね」
 別の意味で感慨深げにエルレーンも側に立つすごいもふら、もふもふと彩雲を見つめる。
 彼女は彩雲を教授と一緒に発見し、運んで来た一人である。
「大アヤカシ三体を相手取る今回の戦役はやはり厳しいものがありますので、彩雲の早期戦闘投入が望まれています。
 ですから前置きは抜きにしてさっそく始めたいと思います。ご協力を願えますか?」
 開拓者達の返事は勿論決まっている。
「よし、やろう!」
 ニクス(ib0444)はアーマーケースを降ろして開けた。
「…私自身は、騎士じゃないし、騎士になったこともないから、…乗れないけど」
 少し寂しげにエルレーンは彩雲とその前に集まる開拓者達を見つめるが 
「じゃあ、いろいろ今回の実験のことを書いて手紙で送ったら、きっとぶりーふ、よろこぶね」
 気を取り直すように拳を握り、駆け寄るのだった。

●彩雲 起動
「…よし、作動確認、ゆっくり動かしてみてくれ」
「了解! 天河ふしぎ、彩雲起動するよ…機関起動、コンタック」
 竜哉の声に彩雲に乗ったふしぎは、まず右手をゆっくり動かす。
 次に左手。静かに上下させ、そして
「大丈夫ー。通常のアーマーと同じように動かせるみたいだよ」
 と答えた。
「よし、じゃあ、次は歩行だ。レイラン。操縦方法はアーマーと大差なかったんだよな」
「うん」
 レイランの言葉を受け、ふしぎもゆっくりと脚を前に出す。右、左、右。
「違和感とかはあるか?」
「なーい! 寧ろ動作はスムーズだね。このまま走れそうだよ。空、飛べないかな?」
 ふしぎの明るい声に周囲にホッとした空気が広がる。
 念の為サーシャは自分のアーマーに乗って待機していた程、最初の起動には皆が慎重になっていた。ジルベリア騎士達が動作を確認していたとはいえ何が起きるか解らないからだ。
 万が一にも暴走なども無いように開拓者達はジルベリア騎士の調査隊と協力体制を敷き、万全の準備をしていた。
 起動は一台ずつ。軽く拘束をかけ、何かあった時に止められるように他のアーマーも待機しておく。
 そのかいもあってか二台の彩雲は今の所どちらもジルベリア騎士、開拓者、誰が操縦しても問題なく起動した。
「よし、一度落して、それから再起動。少し動いたら交代だ。
 次はヘスティア。その後は向こうの機体を起動させる。フィンの次にサーシャ。俺達は後で模擬戦風にやってみよう」
「オッケー」「了解!」
 今回調査に参加した開拓者騎士、アーマー操縦技能所有者のほぼ全員が彩雲への搭乗を希望したので、まずは一人ずつ動作条件などを確認しながら搭乗する形をとる。
「お疲れ様です。どうでしたか?」
 ヘスティアと交代して降りてきたふしぎに透夜が声をかけた。
「面白かった!」
 シーン。
 静まる周囲にそれは、冗談だけどと笑って後、ふしぎは正直に感想を告げる。
「さっきも言った通り、アーマーとまったく同じ感覚で動かせた。流れはスムーズ。大きさの割に軽かったね。力もかなり強いと感じた。
 ただ迅速起動も効率稼動も機能しなかったんだ。これは…僕が現役じゃないからかなあ?」
「いや、違うみたいだ」
 ふしぎの言葉にニクスがくいと首を向ける。今、操縦しているのはヘスティアの筈だが起動はとてもゆっくりだ。
「あいつも迅速起動を試してみるって言ってた。多分、機能しないんだろう」
「あ、じゃあ私も後で試してみるね」
 フィンの言葉に開拓者達は頷く。
 その後、開拓者達が二機の彩雲に順番に搭乗し、確実に判明した事が二つあった。
 一つは起動、操縦方法。
 現在のアーマーとほぼ同じように技能を持つ者であれば稼働させることができた。
「操縦席の作りなども、酷似しています。これは…むしろ逆で現在のアーマーがこれやジルベリアのオリジナルアーマーを元にして作られたからかもしれないですね」
 オーシニィがジルベリアのオリジナルアーマーの資料と共に告げた事が真実であろうと開拓者達も納得する。
 機密があるとかで全てを見せて貰えたわけではないが、ジルベリアのオリジナルアーマーと彩雲も共通点が多いらしい。
 加え能力に関して言えば現在のアーマー、最新型の戦狼と比較してもこちらの方が高い。
 特に材質の関連で硬度が段違いだ。
 大きさと比較した重量はあまり変わらないのに反応速度も早い。
 走る事やジャンプなどもスムーズにできる。
 物を持つ、運ぶなどにも支障は見られない。武器は発見されなかったので今は現在のアーマーの技術を応用して作ったスピアや大剣を使用しているがその操作も問題無さそうだった。
「流石に毬や卵は持つには小さかったけどね」
 フィンはそう言って笑っていた。
 そして第二。
「迅速起動は使用できなかった。効率稼働の方もいまいち。だから起動に時間がかかるし練力消費も早いかな。長期戦にはむかないかもしれない」
「簡易整備も通用しない…というか、できない」
「肝心なところで構造が今一つ理解しきれてませんからね」
 フィン、ヘスティア、サーシャが顔を見合わせる。
 騎士のアーマー操縦スキルが彩雲に通らないものもあったのだ。
 調査のまだ済んでいない個所が何か所も有り、そこは専門の技師でも手出しできない場所だった。
 ただ、彩雲は宝珠を通して稼働すると言う点では既存アーマーと同じであるということが判明しており、オーラを身体からアーマーに伝えることはできそうだった。
「この辺は後で戦闘しながら試してみるか」
「それから…この子は量産型なのかもしれないね」
 小さく、呟かれたレイランの言葉に開拓者達はいっせいに顔を向けた。
「根拠があるわけじゃないよ」
 と前おいてレイランは自分の感想というか、意見を話し始める。
「この子、ね。あっちで出会った子と同じなんだ。似てるってレベルじゃなくて殆ど同じ。パーツとか座席の感じとかも」
「確かに、三体の彩雲はどれもほぼ同じ機構で同じ機能を持っているようだという技師達の報告がありましたが…」
 オーシニィにうん、と頷いてレイランは愛しげに彩雲を見る。
「例えば普通のアーマーだって、操縦者が決まって乗っていればそれぞれの癖とかが出てくるけど、この子達にそういうのがない。
 僕を最初に受け入れてくれたあの子のように、皆を受け入れて素直に応えてくれる。
 これはある程度数が作られて運用されていたからじゃないかと思うんだ」  
 戦場で彩雲を実際に動かし、戦ったレイランだからこそ気付いた事だろうか。
 開拓者達は顔を見合わせた。
「でも、それは敵がいた、ってことですよね。このレベルのアーマーが量産されなきゃあかん程の敵が…」
 璃凛の疑問にエルレーンはハッと顔を上げた。
 彼女は遺跡で「翼を持つ者がアヤカシと共に人間を攻撃する」絵を見た。
 このアーマーは彼らと戦うための物?
 だとしたら…。
 張り詰めたようにピンと鋭くなった空気を振り払う様に竜哉は告げる。
「とにかく、今はこいつらに関しては解らないことだらけだ。今の所、大きな危険はなさそうだし、後半は積極的に動かして対戦の具合とかを見よう」
 頷き合う開拓者達。
『どうしたもふ? エルレーン?』
 心配そうに顔を覗き込むもふもふにエルレーンは
「なんでもないよ」
 精いっぱいの笑顔で笑って見せた。

●その力
 調査の後半戦は竜哉の提案で実戦形式で行われることになった。
 まず最初にオーシニィが彩雲に搭乗し、開拓者がそれぞれのアーマーで迎え撃つ形をとる。
 これも竜哉の提案であった。
「前進する彩雲を既存のアーマーで正面から抑えてみたい。彩雲の力がどのくらいのものなのか数値で表してみたいんだ」
 彩雲の前に竜哉の「人狼」改 NeueSchwert。サーシャの「戦狼」アリストクラート、ニクスの「戦狼」 エスポワール、透夜の「人狼」シュヴァルツと四機のアーマーが並んだ。
 まずは武器を置いて純粋な力比べだ。
「反撃はしてもいい。衝撃などがどのくらい通るか計ってくれ」
「はい!」
 オーシニィは頷いて搭乗口を閉めた。
「行くぞ!」
 最初に竜哉のアーマーが地面を蹴る。オーシニィは彩雲で受け止めるように腰を落す。
「!」
 竜哉は目を見開いた。訓練の為加減はしているがそれでも突進に近い攻撃は彩雲の片手で止められた感覚だ。
 反撃に返された蹴りの衝撃をタクティカルコンバットで逃がし、後退、着地する。
「次は俺だ! ニクス、エスポワール。出る」
 ニクスにしてみれば模擬戦で相手が伝説クラスのアーマーとはいえ負けるつもりはなかった。
 エスポワールはかつての愛機からの戦闘データを基に設計し、苦楽を共にしてきた真の意味での相棒。
 流してきた血と汗の分、馴染み一体化できる絆があると信じている。
「その性能、どれほどのものか、確かめさせて貰う!」
『効率稼動』で動かしつつ、『オーラチャージ』でエンジン全開、フルパワーで挑んでいく。
 今度は彩雲もスピアを持ち腰には接近戦用の刀も帯びている。ニクスは盾でそれを止めると角度を調節してスピアの軌道を大きく逸らした。
 刃先の上がったスピアの軌道を戻そうとする彩雲に向けて剣を打ちつける。
 カン!
「なに!?」
 関節近くを狙い、通常のアーマーであれば確実にダメージを与えられる筈の攻撃は、乾いた音共に弾かれた。
 機体には傷一つない。
「なるほど、堅さはバッチリってことですね。その他の機能はどうでしょう? ちょっと、打ち合って貰えますか?」
 サーシャの言葉に応えるように彩雲がスピアを構える。サーシャもリベンジゴッドを上段に構えた。
 互いに踏み込み、打ち合う事数合。武器が先に落ちたのはサーシャの方が先であった。
「攻撃の一撃一撃が重いです。この剛剣がスピアに力負けするなんて…」
「機体の性能そのものが高いんですね。竜哉さん、オーシニィさん、複数でかかってみませんか?」
 透夜の言葉に二人だけでなく、サーシャ、ニクスも無言で同意し武器を構えた。
 四対一の攻撃をどう彩雲が凌ぐのか、見ている者達にも手に汗握る展開である。
「はあああっ!!」
 三体のアーマーがまずは彩雲を足止める。一体では困難、二体でも難しい。
 そう判断した開拓者達は透夜を除く三体で、彩雲を足止めする方法をとったのだ。
 その狙いは当たり彩雲の動きは明確に止まった。
 彩雲は防御を高める様にオーラの光を纏ってなんとか押し込まれるのを防いでいる。 
 力比べとなった三体と一体。
 間を開けた透夜は援護するように彩雲に向けてクロスボウを放つ。でもこれは牽制の意味でしかない。矢は軽い音を立てて彩雲のボディで跳ね返っている。
「でも、矢に気を取られた隙に!」
 透夜は弓を投げ置き青銅巨魁剣を握りしめ、オーラダッシュで踏み込んだ。
 そのタイミングに合わせ三体がさらに力を込めて彩雲を押す。彩雲がバランスを崩すように転倒した。だが踏み込んでさらなる攻撃をしかけるつもりだった透夜は足を止める。
 周囲に煙幕が上がり前にいた三体の視界が遮られたのだ。
 ポジションリセット。
 既存アーマーにはそう呼ばれるスキルがある。それと同じか、近い効果の技を見せた彩雲は即座に間を開け、武器を構え直したのだった。
 戦闘仕切り直し、そう思って四体のアーマーが身構え直した時、彩雲のハッチが開いた。中ではオーシニィが両手を上げている。
「すみません。彩雲に力を全部持って行かれた感じです。これ以上は多分、まともに動かせないと思います」
「やはり消費がずいぶん激しいな…」
 オーシニィの言葉に戦闘訓練は一時終了となり、アーマーの四人と共に他のメンバーも集まってくる。
「さっきのあれは彩雲のスキル、ですか? オーラを纏ったり、ポジションリセットしたり。あれは機体に登録されていたのでしょうか?」
 透夜の問いにオーシニィは首を横に振る。
「解りません。アーマーを使う感覚でできないかと思って動かしたらできた、というか…。皆さんも、試してみて貰えませんか?」
「よーし! 次は僕がやるよ。 空が飛べないか、試す!」
「おいおい」
「冗談だって。ちゃんと武器や機能を推測して動かすから。でも、アーマーが空を飛ぶ…浪漫なんだけどなぁ。僕の滑空艇、星海竜騎兵と彩雲合体! なんて!」
 ふしぎの言葉にハハハと明るい笑い声が被さる。
 そして、彼らは再び彩雲とアーマーの実験を続けるのだった。

●希望と信頼
「いいか。芦屋。そこを…そう、そうすればアーマーは動くんだ。どうだい?」
「う〜ん、アカンな。うんともすんとも言わへん」
「そうか、やっぱり無理か」
『うちのマスターが迷惑をかける』
『別にそれはかまわないんだけどね』
 騎士以外の人間が起動できるか。実験を行うヘスティアと璃凛を下でふたりのからくりD・Dと遠雷は見守っていた。
 模擬戦の後、実戦形式でいろいろな実験を行い、彩雲に関して様々な事が確認できた。
 一番の収穫はアーマーのスキルにあたる技が使用できそうだと解った事だろうか。
 模擬戦で使用されたポジションリセット、ライドスラッシュの他琥珀牙斬、ヴォルフストラークなどが近い形で、しかもより強力に使用できた。
「ふむ、つまり彩雲は火竜とかよりも遠雷から人狼の形態で作られている、ってことでしょうかね」
 フィンの言葉にふしぎは頷きながらも続ける。
「というよりもこっちがベースなんじゃないかな。火竜は別の思想で作られてるっぽいし」
「確かにな。人を護り、強化するというのがアーマー製作の基本骨子なら、それも理解できる」
 ニクスは彼らの会話を書き止めている。
 開拓者と騎士達はその後も実験と検討を時間の限り繰り返していた。
 今回改めて確認できた彩雲の一番の特徴はその防御力と、機動力だろう。
 現在の技術者にも再現、解析が困難という特殊な金属で作られたボディは格段の防御力と滑らかな駆動を可能とする。
 盾での防御を考えつつも、その耐久性を生かして敵に攻撃をしていくことも有効。
 だから軽さを生かしたスピアと剣を武器にという技術者の思想は十分に理解できた。
「ただ、もっと相性のいい武器がありそうなんだけど…武器は見つからなかったもんね。もしかしたら強力な対空兵器とかがあるんじゃないかな」
 呟くエルレーン。この点は今後検討してくしかない。
「後は、燃費の問題ですね。アーマーは元々長時間の戦場での運用に適しているとは言えませんが、彩雲はさらに消耗が激しそうです。
 能力に比較すれば十分なレベルではあるのでしょうが…」
「通常の駆鎧が使用できる者であれば、普通の運用はできる。操縦者が交代したりすればそこは補えそうだが…」
 オーシニィが最初に言った通り、連合軍はなるべく早い彩雲の実戦投入を求めている。
 今回の実験の報告を元に、もしかしたら次の戦闘では彩雲が戦場に立つことになるかもしれなかった。

 活発な議論や意見交換が続く中、レイランはそっと場から離れ二体の彩雲の前に立った。横では炎龍マティナがレイランを気遣う様に見つめている。
「君たちは…いい子だね」
 冷たいボディに触れながら静かに告げる。
 戦闘実験の中、彩雲は本当にレイランに、開拓者に良く応えてくれた。
 水中運用は難しいようだった。迅鷹との同体化も一般人の起動もできなかった。
 しかし、走りもすれば体操もする。
 自分達の求めに素直に応じて従ってくれる彩雲。
 オーシニィや開拓者が心配したような危険な機構は何も見つからなかったのだ。 
「昔教わったことがあるの」
 レイランは彩雲に語りかける。友達に話すように。
「アーマーは「もう一つの身体」だって。
 信用してこそ、初めて意味があるって。
 ねぇ、彩雲。ボクは君を信じるよ。
 君が何のために創られたのかは知らない。
 オリジナルアーマーは何なのか、ボクは知らない。
 でも、遺された以上、遺した人は何かの思いを託したんだと思う。
 ボクは、君を信じる。君を遺した誰かの思いを信じるよ」
 彩雲がレイランの言葉に答える訳では無い。
 そんな機構は備わってはいない。
「だから、行こう、彩雲。君を作った人の思いは判らない。でも、いつかそれを理解する為に。ボクは戦場で君を待っているから」
 でも、レイランは信じることにした。
 彩雲に自分の気持ちは伝わったと。

 そんなレイランと彩雲の「会話」を少し離れた所でエルレーンは見ていた。
『エルレーン、なにしてるもふ?』
「なんでもない。暇ならぶりーふに送るから…彩雲の絵でも描いてよ」
『も゛っ?!わ、我輩がもふか?!』
 慌てる相棒に小さく笑ってエルレーンはよかった、と思う。
 彼が見つけ出したアーマーは紛れも無く役に立っているのだから。
 人々の希望となって。
 実験後、エルレーンは博士に手紙を送る。
『拝啓、ぶりーふ様…』

 彩雲の起動実験報告の結果を踏まえ、合戦への投入が本格的に決まったと開拓者が知るのはその後、直ぐの事であった。