【朱雀】大地の声【震嵐】
マスター名:夢村円
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: やや難
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/05/06 18:55



■オープニング本文

 人間は火という存在を操れるようになったことで、他のケモノと一線を画する存在になった、という説がある。
 その真偽はともかく人は火を使って灯りをともし、料理を作り、身体を温め、生きて来た。
 火は人間にとって欠かすことのできないものだ。
 しかし、別の意味において火は人にとって最大の脅威でもある。
 火はあらゆるものを燃やし尽くす。それに飲み込まれればありとあらゆるものが失われてしまう。
 …命ももちろん例外ではない。
 全てを天に帰す力に神聖な力を感じる者は少なくないが、火事とは人間にとって恐るべき、本来、避けうるべき災害の名なのだ。
「その火事を、人間の手によって大規模に起こす…」
 話を聞いた時、陰陽寮朱雀の二年生、そして予備生達は複雑な表情をそれぞれの顔に浮かべていた。
「東房国において大アヤカシ黄泉の討伐が成功しました。
 現在、その戦後処理の一環として東房に広がる魔の森を焼却しようという計画が出されています」
 そんな寮生達を前に朱雀寮長 各務 紫郎は静かに続ける。彼の寮生を見る表情に変化はない。
「大アヤカシを失った魔の森は拡大と成長を停止するものの、自然消滅するわけでは無いというのが現在、いくつかの事例によって有力視されている見解です。
 一度魔の森となった場所から瘴気を払うのに火による焼却が有効であるということも。
 ただ、大アヤカシが生存している間は魔の森を焼いても瘴気が一時的に散るだけで数か月もすれば再生してしまいますが、大アヤカシが滅んだ今であれば魔の森を焼き払う事で、魔の森を完全に人の手に取り戻せる可能性は低くないので東房国は他国の協力も仰ぎ、魔の森の焼却と言う大作戦を実行しようとしているのです」
 東房国の魔の森は広大だ。
 現在、合戦でそのアヤカシの多くがチリジリになった今でも孝佐間ノ森、卦谷ノ森、紙結ノ森の三つは瘴気に包まれ魔の森として人の侵入を拒んでいる。
 そこを人の手に取り戻せれば、戦乱で村を焼かれたり、故郷に戻れなくなった人達にも新しい道が生まれる可能性がある。
「とはいっても、そこは火災を起こすわけですからかなりの危険が予想されます。
 その為東房国は事前調査の為の人員派遣を、五行国に依頼してきました。五行国は陰陽寮生を含むいくつかの調査団を派遣して魔の森と周辺の調査を行うことになっています。今回、皆さんに課題として与えるのもその一環のものです」
「先輩達は魔の森の調査をすることになったと伺っていますが、僕達は?」
 一年生の問いに寮長は頷き、地図と資料を配布する。
「皆さんには魔の森周辺の調査を行って貰います。調べるのは主に魔の森焼却が周囲に及ぼす影響です。
 魔の森に隣接している山や、森。村や町にどのような影響が出るか。です。
 そして影響をどうすれば最小限に抑えられるかを検討して欲しいと思います」
 現状東房の魔の森は本夛山脈、日野山脈などの山々に遮られる形で東房の東側に大きく広がっている。
 一番人の住む町や平野に近く影響が大きいのは孝佐間ノ森だろうか。
 魔の森の規模としては紙結ノ森が一番大きく深い。
 冥越と東房を遮る一番大きな壁でもある。
 この辺の簡単な地形くらいであれば地図からでも確認はできるが、陰陽寮生に期待されている『調査』はそういうことではないだろう。
 と寮生達は思い、それは当たっていた。
「火を消す為の水利はどうなっているか。村や町はどのくらいまで近くにあるのか。
 魔の森近辺にはどのような動物やケモノがいるか。火災でどのような影響を受けると思われるか。
 魔の森の焼却で周囲にあまり悪影響が出るようでは本末転倒。
 故にその地に住む者とは違う視点から、調査をしてきて下さい。
 どこでなにを、どのくらい調査するかは皆さんにお任せします。
 但し、丁寧に。正確な調査を行う事が第一です」
 相棒の同行には自身で責任を持つこと。協力者を要請しても構わない。
「但し、皆さんへの課題の注意点として原則、魔の森そのものに入ることは禁止とします。
 近隣でアヤカシと戦う事は問題ありませんが、各森にはそれぞれ五行の調査団が入っていますので、彼らの邪魔にならないようにすることが絶対条件です」
 その他いくつかの注意点を告げて後、寮長は寮生達に告げた。
 それは先に出発した魔の森調査の三年生に告げた言葉と同じもの。
「魔の森の森の焼却が成功し、東房の大地を人の手に取り戻すことが出来れば、人はアヤカシとの長い戦いの歴史を大きく変える一手を打つことができるでしょう。各国も我が国も…本格的に魔の森焼却に出ることができるようになるかもしれません。
 また、この勝利の勢いをかってアヤカシに支配された冥越に攻め込もうという流れもあります。
 調査隊は皆さんだけではありませんが、皆さんの調査の結果が今後の流れを占うものであるということを忘れず、真剣に挑んで下さい」

 東房での戦乱は人の勝利に終わった。
 しかし、本当の戦いはこれから。
 真実の勝利はアヤカシから大地を取り戻し、そこに人や生き物が戻り根付いた時にこそ得られるものだろう。
 寮生達は気持ちを引き締めて、課題と言う名の依頼に向かう。
 
 本当の勝利を目指して。
 大地の声を聞く為に。


■参加者一覧
雅楽川 陽向(ib3352
15歳・女・陰
比良坂 魅緒(ib7222
17歳・女・陰
羅刹 祐里(ib7964
17歳・男・陰
ユイス(ib9655
13歳・男・陰


■リプレイ本文

●広がる森
 目の前に広がる深く濃い緑。
 これは魔の森ではなく本当の自然の森である。
「キレイな緑…だね」
 豊かな森林資源と、鉱山と、肥沃な土地に恵まれた場所であった東房国。
 でも、今はその恵みの多くを魔の森に奪われている。
「森を焼く…か」
 その言葉に仲間達は相談や準備、考え事を止めて顔を上げる。
 彼、ユイス(ib9655)の見つめる視線の先にあるのは『今は』その彼方にある魔の森だ。
「仕方のないことだとはわかっていても、胸が痛むね」
 深く、噛みしめるように呟くユイスに仲間達がかけられる言葉は少ない。
 多分、ユイスもそんなことは望んではいないのだろうし。
「ユイスさん?」
 心配そうに、伺う様に顔を覗き込む雅楽川 陽向(ib3352)に大丈夫、と微笑んでユイスは魔の森に背を向ける。
「さあ、僕達は、僕達に与えられた仕事をしっかりとやろう!」
 仲間達にそう向かい合って。

 陰陽寮朱雀、二年生達に与えられた仕事は「東房の魔の森焼却計画に先立ち、周辺の確認調査を行う事」であった。
 無論、東房国そのものは周辺住民の避難などを行っている筈だが、当事者には解らなかったり、気付かなかったりする点もあるだろうからその点を陰陽師の視点から確認調査するようにというのが今回の課題である。
 一応五行国から派遣された調査団の一員でもある。
「恥ずかしい調査はできないな」
 羅刹 祐里(ib7964)の言葉にうむ、と比良坂 魅緒(ib7222)も頷いた。
「なんと言っても山火事を起こす訳だからな」
「魔の森を灼くのは簡単だ。ただ後始末は大変だ」
 いくつかの国では実際に小規模ながら魔の森の焼却を行い、成功例もあるらしい。
 ただ、今回は規模が桁違いである。
「一気に、一度で全部焼くのか、それとも様子を見ながら少しずつ焼くのか…それによって対応も違って来るだろうがなるべく二次被害が発生しないようにしたいな」
 祐里がそう言いながら広げた地図を寮生達は見る。
 佐間ノ森、卦谷ノ森、紙結ノ森。三つの魔の森の周辺を調査する。
 指示された調査区域はかなり広範囲だ。
「これは手分けして調べないとかなり難しそうだね」
 少し考え込んだ後ユイスは
「二手に別れようか?」
 と仲間に声をかけた。森の北と南に別れて調べる。
「安全のためにも集団行動を取った方がいいんじゃないか?」
 祐里はそう提案したが効率、その他の問題を考えると確かにその方がいいかもしれないと納得する。
 勿論単独行動は危険だから二人と二人。それに予備生の桃音がどちらかに同行することになる。
「それでは、妾は北に向かう。ユイス、一緒に来てくれるか? 南は祐里と陽向でな。桃音は…」
「とりあえず、僕らと一緒においで。何かあったときに連絡役をしてくれるといい。強君、連れて来たんだよね」
「うん!」
 桃音は陰陽寮を卒業した先輩から譲られた皇龍をとても大事にしている。
 皇龍の方も多分にこの小さな主を被保護者のような気分でいるのかもしれない。
 優しい眼差しで見つめつつ良く言う事を聞いている。
「森には入らないことは徹底だね。夜になったら中間地点である不動寺近辺で合流しよう」
 今回は全員が移動系の相棒を同行させているから集合にそう不便は無いはずだ。
 全員が顔を見合わせ頷く。
 後は少し細かい打ち合わせをして彼らは動き出した。
 自らの役割を果たす為に。

●森の意味
 寮生達がそこで出会ったアヤカシはケタケタと高笑いにも似た声を上げる大首であった。
 戦乱の群れから逸れたのか、一匹のみだ。
 人と見て襲い掛かってきたアヤカシを魅緒は冷たい目で見て言った。
「このような所に迷い出たか? 疾く、消えよ!」
 放たれた魅緒の氷龍であっさりとその動きは止められ、砕かれる。
「大丈夫?」
 心配そうに近寄ってきた桃音に魅緒は軽く手を振って見せた。
「心配はいらん、複数であるならともかくこれくらいの相手に後れを取るほど怠けてはおらぬ」
「でも、まだこの周辺にはアヤカシがうろついてるってことだよね」
 手元の地図に書き込みながらユイスは周囲を見回した。
 横には彼の駿龍、風牙が静かに控えている。
 ここは紙結ノ森の南方向に位置する平原。
 戦乱の時、空に、大地に、海にアヤカシが溢れていた事を考えると夢のように静かだ。
 とはいえ、所々で今もアヤカシと遭遇することがある。
「やっぱり、アヤカシ達の残存勢力は紙結ノ森方面に集結しつつあるようだね」
 ユイスの言葉に魅緒もうむと頷いて見せた。
 北に上がってくるにつれてアヤカシと遭遇する確率も上がっている。
 その多くは知性も高くないアヤカシの、しかもおそらくは逸れではあるが。
「指揮を執る者がいなくなって、奴らも混乱しているのかもしれぬな」
「それで、冥越に逃げ込む為に北に向かってるのかな?」
 冷静に分析しながら敵と出会った場所や、種類を、周辺地形を地図に書き込んでいく。
「この紙結ノ森あたりはまだいいかな。魔の森近辺にそんなに普通の森や集落が無かったから」
「避難も進んでおるようだしな。一刻も早く彼らが故郷に戻れるように手を打ちたいところではあるが…」
 地形を見ながら考え込む様に魅緒が森を見る。
「どうしたの?」
 小首を傾げる桃音にうむと頷いて魅緒は続ける。
「東房国の魔の森と言うのが想像以上に広いということを実感している。これは術頼りには出来ぬな。
 ここまで大規模な火災では個人での消火は難しい」
「そうだね。多分、火をつけて後は焼けきるまでそのままってことになるだろうね。
 普通の森や集落に燃え移らないように人員を配置しつつ…かな?」
 ユイスも同意見だ。自然の強大な力の前に、人間のできることはそう多くない。
「それでも水利やどこに人を配置したらいいか、とかは調べておかないといけないから……どうしたの? 桃音ちゃん?」
 真剣に話をしていた二人はふと、桃音の表情が明らかに精彩を欠いていることに気付いた。
 うつむく桃音は何かを噛みしめる様な顔をして頭を上げる。
「…魔の森って、焼かなければならない程嫌なモノなの?」
 ハッと二人は顔を見合わせる。
 生成姫の子であった桃音にとっては魔の森は故郷に近い。
 複雑な思いがきっとあるのだろう。
「桃音…」
「あ、心配はしないで。今回の戦争でアヤカシが私達の味方じゃないってのもよーく解ったし。
 おかあさまがいてくれたから、私達はアヤカシと一緒にいられたんだってのも解ってる。ただ、ちょこっと思っただけ…。
 アヤカシってどうして人を襲うのかなって。一緒に生きることってできないのかなって」
「…桃音ちゃん…」
「ごめんね。変なこと言って。早く先に行こう!」
 空気を変えるように両手を振って笑う桃音の頭を魅緒はくしゃくしゃと、優しく撫でた。
「な、なに?」
「僕も思ったよ。魔の森とはいえ、瘴気に侵された場所とはいえ、アヤカシとはいえ木や生き物を焼くのは楽しい事じゃない」
 照れたように頭を押さえる桃音にユイスも笑いかける。
「ただ…ね。森は生命の源なんだ。木々は動物を守り育て、その木の実は生き物を養い、落ち葉は大地の恵みを育てる。人にとって森はとても大事なものなんだ。アヤカシにとっての魔の森もそうかもしれないけれど…魔の森は人間にとっては何も生み出さない場所だから」
「果実もキノコも山菜も、魔の森では獲れなかったであろう?」
 魅緒の言葉に桃音は押し黙る。
「桃音ちゃんの疑問は変な事じゃないよ。とっても大事な事。だから、これからも一緒に考えて行こう」
 優しいユイスの言葉に桃音は
「うん」
 小さく、だがはっきりと答えた。彼女を見守る様にしていた皇龍も側で顔を摺り寄せる。
 桃音の様子に安堵したようにユイスと魅緒は微笑むと、空を見上げた。
「さて、行こうか。もうじき夕方だ。暗くなる前に陽向君や祐里君とも合流して情報交換したいよね」
「うん」「ああ、行こう。アヤカシが出るとやっかいだ。行くぞ。カブト」
 三頭の龍が空を舞う。
 紫色に染まりかけた空にまだアヤカシの姿は見えなかった。

●一つの提案
 南に降りるに従ってアヤカシの数は少なくなっていくようだ。
「おかえり〜。どないやった?」
 地上を走龍ダフで先行していた祐里が戻って来たのを見て、陽向は明るく手を振り出迎えた。
「この先では集団行動をするようなアヤカシはもう殆どいないみたいだ。森の瘴気も薄くなっているしな。ここまで来るのにもアヤカシとの戦闘、全くなかっただろう?」
「そやね。一方で魔の森に隣接した森なんかもある。…う〜ん、そんなにケモノや動物も住んでないのがせめてもの救い、なんやけどなあ」
 二人で情報を纏めて整理する。
 幸い、一番心配であった周辺の小集落の避難は完了している。
 そして森や隣接する山なども、思う程多く生き物などが住みついてもいなかった。
 動物と、ケモノとアヤカシ。
 確認できたそれらの生息範囲を色分けしてみる。
 そうすると魔の森近辺には動物も、ケモノも本当に少ないことが解る。
「なんだかんだで危険だから生き物も本能的に避けてるんだろうな。きっと」
「ちゅうことは、魔の森焼いても、最悪近くの森に燃え移っても住処を追われたケモノや動物が暴れるってことは少ないかもしれへんな」
「ああ」
 焼却が魔の森だけですめば、被害もそう多くは出ないかもしれないと祐里は少しホッとしていた。
 とはいえ、山火事を起こすのだ。被害や生態系の変化は避けられない。
 今まで生えていた植物が無くなるとか、その逆もあるだろう。
「…でも、きっとそれに倍する戻りがある」
 祐里は自分自身に言い聞かせるようにそう告げた。
 元々、東房は豊かな国であった筈なのだ。
 今も立ち入ることができる僅かな森には広葉樹の豊かな林がある。
 魔の森に遮られて入れない山にもまだ鉱山資源が眠っているのだと言う。
 陽向もそれをこの目で見て来た。
 駿龍琴と共に空から見た春の東房は魔の森さえなければ、見惚れる程にきっと美しい地なのだろう。
 それを、人の手に取り戻す事が出来れば…、きっと東房の人々はもっと豊かに生きることができる筈。
「だから、魔の森は焼く。それは重要な事なんだ」
「なあ? 魔の森の一部、先に斬り倒すんはどうや?」
 陽向が、ふと、思いついたというように提案する。
 祐里は数度目を瞬かせながら意味を考える。
 そんな祐里に陽向は改めて説明をした。
「一番の問題は、延焼被害を食い止めることやろ? ほら、家が密集しとる所って、火事になったとき燃え広がらんように一部倒壊させるやん。
 あれ応用できんかいな」
「ああ、そうか…」
 祐里も顎に手を当てる。焼畑などでそういう方法があると聞いたことがあるような気がする。
「倒した樹を予備的に焼いて、どういう影響が出るか試してみる手もあるな。あとは近くの森も焼いておけば、さらに延焼と、万が一の魔の森化を防げるかも…」
「理穴とかでは既に小規模やけど、魔の森焼却の実績がある、って聞いたで。その資料も貰って実験とかしてみれば…」
「そうだな。より被害を少なくして魔の森焼却ができるかもしれない。提案してみよう」
 二人は顔を見合わせると微笑み合った。
「そろそろ、皆と合流しよう。あちらの情報をこちらの情報を纏める。
 そしてさっきの提案にユイス達の意見も貰って具体化してみるんだ」
「そうやね」
 準備を整える二人は、なんの気なしに二人一緒に振り向いた。
 背後に広がるのは毒々しい魔の森。
「早く、この森の無い東房を見てみたいものだな」
「そうやね」
 互いに頷いて彼らは仲間の元へと戻って行く…。
 そして…。

●作戦への第一歩
 それから数日の後、陰陽寮に戻った寮生達は報告書を寮長に提出する。
「なかなか、良く調べてありますね」 
 一通り目を通した朱雀寮長 各務 紫郎はそう褒めてくれた。
 寮生達は嬉しそうに笑って顔を見合わせる。
「近隣の避難は終了。魔の森を焼却しても事前に対応をしておけば周辺への被害や影響は最小限に食い止めることができそうですね」
「はい。現在、アヤカシはその多くが集団的な行動ができる状態ではないようで冥越方面にバラバラながらも集結しつつあるようです。
 冥越に進行するのであれば、ボクはやはりここが一番の難関になり、魔の森の焼却を行う場合でも大規模な反抗が見込まれます」
「逆に、南の方の森は早急に焼却できれば、民の生活に大きな実りを与えられる可能性があります。水利などについては地図に…」
「ただ、その為には準備が必要やと思います。延焼による山火事などが起きないように注意することは絶対に必要ですんで」
「その為の提案が、この魔の森の伐採と近くの森の伐採と予備焼きですね」
 寮生達の説明に紫郎は頷く。
「そうなる。これだけの規模の火災になると個人消火は不可能だろう。
 術や水での対応も予備的なものにしかならない。火は燃え種が無くなれば消える。
 その為に事前にそれらの準備をしておくことを提案する。避難民や、周辺住民もそれらが行われる時は協力してくれるだろう」
「森から一時的に動物を逃がす意味合いもあります。我達の調査ではそこまで多くの動物達は魔の森近辺にはいませんでしたが…やはり犠牲になる命は、少ない程意味があると思うので…」
「なるほど」
 資料を机の上でトントンと整えると寮長は、机の上に置いた。
「良い調査であったと思います。この資料はこのまま東房国に提出します。
 最終的にどのような決断を東房がするかどうかは解りませんが、この調書が提出されれば周辺地域や生態系に対する影響も、考慮して頂けると思います。
 今回の調査は合格です。お疲れ様でした」
 寮長にそう告げられた寮生達は安堵の笑みを浮かべ、部屋を出た。

 冥越への侵攻作戦が開始されれば戦乱が優先されて東房国の実りを取り戻す、と言う意味での「魔の森の焼却」は後回しになるかもしれない。
 けれどいつか…この国は蘇るだろう。
 魔の森が、あの日見た森のように深く濃い緑に包まれる日が来ることを。
 寮生達は信じ、その日が一刻も早く来ることを願い、祈るのだった。