【彼方】汚されたふきのとう
マスター名:夢村円
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 不明
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/04/19 14:46



■オープニング本文

 その災厄は、海からやってきた。
 黒い血の流れる人馬。毒をまき散らすアヤカシが浜辺からゆっくりと上がって来たのである。
 それを最初に見つけたのは近くの丘でふきのとう取りをしていた子供達であった。
「…あれは、まさか…血祟鬼?」
 子供達を引率していた少年は息を飲み込むと同時、叫んだ。
「みんな! 早く逃げて!! アヤカシだ! あのアヤカシは毒と瘴気を周囲にまき散らすんだ!」
 声を聞きつけた大人に子供達を預け、少年は村中を走り回って急を知らせた。
 もしかしたら、あのアヤカシは東房国の戦乱から流れてきたものであったのかもしれないと思ったのは後の事だ。
 村人達はなんとか全員が命からがら近くの山に逃げ出した。
 山から見下ろす村には、黒い瘴気の霧が渦を巻いて見えた。
「俺達の家が…、村が…海が…」
「なんという事じゃ…」
 悔しげに拳を握りしめる男達。膝を落す老人達。
 そして…
「お兄ちゃん。私達…もうおうちに帰れないの?」
 泣きじゃくる子供達とその手の中の籠を抱きしめながら少年は決意の眼差しを浮かべていた。

「血祟鬼の退治に力を貸しては貰えないでしょうか?」
 彼方と名乗った少年は開拓者ギルドにそう依頼を出した。
「血祟鬼?」
 かなり強敵と言えるアヤカシの名を確認するように問う係員に彼方は静かに頷いた。
「はい。先日知り合いに頼まれて、遭都との国境近くの村に届け物をしたんです。そうしたら村にいきなり血祟鬼が現れて…村に居座って…なんとか住民は避難したものの、毒と瘴気に侵されて村に帰れなくなってしまったんです」
 ほぼ着の身着のままで避難した人々は現在、近くの村に身を寄せているという。
 依頼主は村人達。
 しかも報酬は少ないし、血祟鬼の退治に成功した後の成功報酬であるとのこと。
「血祟鬼という強敵相手に失礼な事であるとは思います。ですが村人達は本当に今、何も持っていないんです。…代わりにこれを、と預かってきました」
 彼方は小さな口広の瓶を差し出した。
 蓋を開けると不思議な…それでいてどこか懐かしいような、香りがする。
「これは、味噌か?」
「はい、ふきのとう味噌と言われているものです。村は海と山が近くてとても豊かな所でした。
 特にこれを獲りたての魚につけて焼いた料理は絶品です。これ、ご飯に乗せて食べても美味しいんですよ。
 …でも、このままだとそれも食べられなくなります。
 村の案内その他は僕が手伝います。これでも陰陽師ですから足手まといにはなりません。
 どうか…よろしくお願いします」
 そう言って、彼方は深く、深く頭を下げるのだった。

 自分にできない約束をしてはいけないと解っている。
 約束を守れなかった時、相手を余計に傷つけてしまうからだ。
 でも…あの時。彼方には他に告げられる言葉が無かったのだ。
 泣きじゃくる子供を腕にして…。
「大丈夫。必ず帰れるよ。僕…ううん、開拓者の皆さんがきっと助けてくれる」
 そうして彼方は祈るような、願うような思いで張り出された依頼を見つめるのだった。


■参加者一覧
星鈴(ia0087
18歳・女・志
芦屋 璃凛(ia0303
19歳・女・陰
俳沢折々(ia0401
18歳・女・陰
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
レティシア(ib4475
13歳・女・吟


■リプレイ本文

●約束を果たす為
「ありがとうございますっ! そしてごめんなさい!!」
 真っ直ぐに下げられた少年の頭。
「僕が勝手に受けてしまった依頼で、皆さんにご迷惑をおかけすることになって…」
 依頼主でもある陰陽師彼方。彼には見えないだろうが、開拓者達は少年を優しい、柔らかい眼差しで見つめる。
「こーら。そう言う事は言いっこなし」
 ぽんぽんと、俳沢折々(ia0401)は彼方の頭を叩く。撫でるように優しく。
「そういうことや。それに腹を立てるようなら最初からここには来とらんさかいな」
「先輩…、璃凛さん」
 陰陽寮の先輩である折々と同輩である芦屋 璃凛(ia0303)の言葉に彼方はどこか申し訳なさそうな顔をしている。
 それは、彼方が村の住人や子供達としてしまった『約束』を気にかけているからなのだろう。
「…一人で背負い込まなくていいの」
 レティシア(ib4475)もそっと微笑む。
 彼方は三年前。本当に悩み困っていた時に支えてくれた時と同じ優しさに胸がぎゅっと音を立てるようであった。
 彼は、村の子供達に約束したのだと言う。
『大丈夫。必ず帰れるよ。僕…ううん、開拓者の皆さんがきっと助けてくれる』
「へへー、いい約束したじゃねーの」
 照れたように笑うルオウ(ia2445)は少年の背中を叩いた。
 満足げに何度も頷きながら
「不誠実かもしれないって思ってても泣くのを止めてやりたかったんだろ?
 そんなら間違いじゃねーよ。少なくとも今回は間違いにはさせない。決してな」
 明るく笑って見せる。
「そう…。報酬とかここにいる皆は納得して依頼を受けたんだから気に病まないの」
「そういうことや。後は自分のできることをしっかりやる。それでええんや」
 優しく告げるレティシア。そっと片目を閉じる星鈴(ia0087)の暖かさに彼方の目元が濡れた。
「…皆さん…」
「ほらほら、泣いてんじゃねえって。これからが本番なんだからな。さ、案内してくれよ。約束を果たすんだろ」
「はい!」
 肩をぽんぽんと叩くルオウに頷いて彼方は顔を上げる。
 確かに泣いている時間はない。これからが本当の仕事なのだから。
「ご案内します。行きましょう!」
 目元を擦って仲間達を見ると、彼方は先頭に立って歩き出した。

●黒い災厄
 彼方が最初に案内した場所は村を見下ろせる丘の上、だった。
「あ〜、本当に血祟鬼だ。こんなところにも来てるんだ。
 これは大アヤカシ討伐後の、中級以下の生息域を再度確認しないとなあ」
 膝をつきながら折々は村の中央に立ち上る黒い影と、その中心に立つ災厄を見つめため息をつく。
 むき出しの筋肉に、黒い血の流れる血管が脈打っている。
 人間の上半身に馬の身体、地面まで届くほど長い腕、一つ目に耳まで裂けた口。
 見ているだけで吐き気がしそうな程に醜い幽霊型中級アヤカシは、村の中央に蹲るようにしていた。
 周囲を取り巻く瘴気の毒煙。
「…えろう…やってくれたようなやな、あの鬼野郎…」
 苛立つように星鈴が呟く。
 村を見下ろすと良く解る。
 綺麗に整えられた海に向かう道。網が干された棚。
 豪奢ではないが、素朴に作られ年を重ねてきた家々が軒を連ねる。
 所々に小さな畑があって、今はまだ作物は植えられていないが畑を肥やす三つ葉やレンゲが絨毯のようにしきつけられていた。
 ここは、幸せな村だったのだろうと見ただけで解るのだ。
 しかし、それらが今、瘴気に染まっている。
 足元に広がる泥も真っ黒、小さな畑のみならず道端の雑草、菫や花までも黒く染まって立ち枯れていた。
(住み慣れた土地や苦労して育てた作物とか突然奪われたら…、自分の故郷が…真黒く染まってしまったら…)
 レティシアは思いと一緒にきゅっと手を握り唇を噛みしめる。
「大事なのは海にアレを海に逃がさないようにすることだと思うんだ。毒も被害もまた広がる」
 折々の言葉に開拓者達は頷く。
「血祟鬼の情報は十分に分かっているし、現在の戦力で倒せる相手だとも思う。
 懸念材料があるとしたら二点。不利を悟った相手に逃亡されることとー、もたもたしている内に、他のアヤカシが寄ってきちゃうことだね」
「そうだな。戦闘時間はなるべく短い方がいいよな。皆で奇襲して一気に決めようぜ」
 朱雀寮元首席で知望院研究員補。折々の指摘は的確かつ正確だ。ルオウは頷く。
「確かに。水中に逃げられると厄介ですねぇ。では、こういう作戦はどうでしょうか?」
 レティシアが少し考えて仲間達を手招きした。ここからあのアヤカシに気付かれるとは思わないが、声は自然と小さくなる。
「なるほど。うちはええと思うよ。なあ? 星鈴?」
「後ろは任せるで、そんかし前は、うちん仕事や!!」
「彼方君。血祟鬼に気付かれないように海側に回り込める場所、あるかな?」
「はい。ご案内します」
「俺も行く。タイミング、合わせて行こうぜ」
 心と行動は直ぐに一つに纏まった。
 そこに…
「あの…開拓者の皆さん…」
 小さな声が聞こえた。
「ん? あれ? なに??」
 立ち上がり、振り返った折々がもう一度膝を地面につける。
 そこには数人の子供が立っていたのだ。
 手に小さな包みを抱えて。
「! みんな!? どうしたんだい?」
 彼方が瞬きして声を上げた。
 彼の様子からして子供達はこの村に住んでいた子なのだろうと察した開拓者達は子供達を見る。
「…あの、これ、良かったら…食べて下さい。お母さんが…作ってくれたんです」
 差し出された竹皮の包みを折々は受け取り、広げる。
「うわあっ〜」
 そこには三角に握られたおむすびが並んでいた。
「…しかもこれは…」
 折々はくんと鼻を動かすとおむすびを一つ手に取った。見ると混ぜご飯のように何かが混ざっている。
 後ろの仲間達にも渡し、それを口に運ぶ。
「おおっ! うまいじゃん!」
 思いをまっすぐ口に出したのはルオウだったが、それは開拓者皆の気持ちだった。
 ほろ苦いふきのとう味噌が入ったおむすびは独特の味とコクで開拓者の舌に直接、春を知らせてくれるようだ。
「うん、美味しいね」
「美味しいです。そして嬉しいですよ」
 レティシアはおむすびを食べ終えると折々と共に子供達の頭をそっと撫でた。
 子供達は目を細めて微笑みそして
「…あの…皆さん。ぼくたちの村を…」
 祈るように言う。
「大丈夫、任せとき!」
 遠慮がちな子供達に皆まで言わせず璃凛が胸を叩いて見せた。
「よし、気合も入った! 行くで。故郷奪う、なんてぇアホたれを絞めたろうやないか」
 星鈴が手と拳を己に誓う様に顔の前で打ちあわせる。
 開拓者達もそれぞれが、それぞれに強い意思と共に頷く。
「目指すは短期決戦! 行くよ!!」
 折々の言葉を合図に仲間達は弾ける様な行動で答え走り出して行った。
 手を振り、見送る子供達の思いを背に受けて…。

●奪還作戦
 先手は開拓者。狙いは血祟鬼。
「行くで! 星鈴!!」
「了解や。璃凛。さあ! とっととその首置いて、いてまええぇぇ!!」
 血祟鬼に向かって放たれたのは璃凛の眼突鴉だ。
 一つ目への攻撃に意識を取られている隙を突き、息を合わせた星鈴の大薙刀が桜色の燐光を放ちながら円の軌跡を描いて血祟鬼、その腕を狙う。
 レティシアのファナティック・ファンファーレと泥まみれの聖人達。
 二重の援護を受けて、いつもより軽く、勢いを増して打ちこまれた筈の攻撃は、だが血祟鬼の長い腕を半ばまで切り裂いて、止まった。
「チッ!」
 星鈴は小さく舌を打つと、とっさに後方へと下がった。
「星鈴さん!」
 レティシアの声に反射的に星鈴は身体を逸らす。
 その頭上を黒い塊が飛んでいき、近くの家の壁に当たった。
 ジュウと焼け付くような音に璃凛は息を呑み込む。
「あれが瘴毒弾…。ぶつかったらタダじゃあすまへんな」
「璃凛さん! こっちへ!」
 レティシアの呼び声に璃凛は更に続く瘴毒弾の連続攻撃を星鈴と一緒に躱し避け、レティシアの広げる大鉄傘の内へと隠れた。
 相手は中級アヤカシ。
 巨体と外見からは想像ができない程俊敏に攻撃を仕掛けてくる。
 ビシッ!
 音を立てて長い腕が星鈴を薙ぎ払った。まるで鞭のようにしなる腕から星鈴は篭手払で逃れる。
「やってくれるな…」
 元より一人で前線を支えきれないのは解っている。
 璃凛やレティシアの援護がなければもう倒れているだろう。
 しかし
「悪いな。うちは、うちらは一人やないんや」
 にやりと笑う星鈴が再び血祟鬼に肉薄、大薙刀を突き刺した時。その薙刀を星鈴ごとへし折らんと血祟鬼がその両腕を伸ばした時
「一気にいくぜぃ! うおおおっ!!」
 大地を揺るがすような咆哮が響いた。
 丁度、星鈴達と正反対。
 血祟鬼にとっての背後。海の側から一直線にルオウが踏み込んでくる。挟み打ち。それが開拓者の作戦だった。
 天歌流星斬。
 ファナティック・ファンファーレによって上昇した行動力全てを使い間合いを一気に詰めて切り込むルオウ。
 今まで戦っていた星鈴と、どっちに攻撃するべきか。
 惑う様に、迷うように一瞬動きを止めた血祟鬼は標的をルオウに変更。攻撃を仕掛けてきた。
「ルオウさん!!」
 声と共に当たる筈だった攻撃は、何故か逸れる。
 続けざまに彼方から放たれた呪縛符と雷獣が血祟鬼の動きを阻害したのだ。
「ありがとよ!」
 振り返らずルオウはそのまま敵の間合いに踏み込みさらに攻撃を仕掛ける。
 放たれる毒ガス。広がる瘴気の毒煙の中で、それでもルオウは一歩も引くことがはしない。
「行け! 白面の者よ。奴を決してあの場から逃がすな!」
 折々の真横に現れた白い面を被った式が主の命令のままに動いて血祟鬼足止めの攻撃を放つ。
「あれが、白面式鬼か…、いつか、うちも」
 先輩が指し示す陰陽師の一つの到達点。それを少し眩しげに見つめながらも璃凛は敵を見据える。
 既に相棒とも言える星鈴はルオウと共に再度の血祟鬼との攻撃に入っている。
 毒にも怯まず連続攻撃を続ける前衛二人と折々の黄泉より這い出る者。
 白面式のそれと共にダメージは血祟鬼に溜まっている筈だ。
「!」
 全体の把握に努めていたレティシアが最初に気付いた。
 そのすぐ後に仲間達も。
 血祟鬼がその膝にバネのように力を貯め、跳躍疾走。逃亡を計ろうとしていることに。
「海に逃げられたら!」
 ならば、今は自分のやるべき事を。
「逃がさへんで!!」
 白面の攻撃を受けてなお全力を回避に注ごうとした血祟鬼であったが、開拓者の囲みを抜けたその先で
『!!』
 足止めを受けた。
 血祟鬼にとっては足元にばら撒いた撒き菱は効果が薄かったろうと璃凛は思う。
 けれど逃亡コースを狙って立ち上げた結界術符『黒』は血祟鬼の顔面と動きを歪ませ、仲間を追いつかせる黄金にも等しい一瞬を作り上げたのだ。
「もう、逃がさないよ!!」
 折々と白面が畳み掛けるように術を仕掛ける。
「これで決めるぜ!!」「とっとと…いね!!」
 そこに、風のように切り込み放たれたタイ捨剣と紅焔桜の連続攻撃が止めとなった。
『ぐあああぅ!!』
 断末魔の悲鳴と共にうねる波のように瘴気の毒霧が放たれる。
 それが、血祟鬼の最期の攻撃であった。
 崩れ、溶けて瘴気に還るその姿を毒に軋む身体を互いに支え合いながら開拓者達は静かに見つめていた。

●帰ってきた故郷
「血祟鬼の放った毒は瘴気由来のモノですからね。血祟鬼を倒すことで徐々に消えていき後に大きな影響は残らないと思います」
 レティシアの説明に村人達は嬉しそうに頷く。
 血祟鬼の退治から数日。
 避難していた人々は全員、村に戻ってきていた。
 戦いのダメージからの回復を兼ねて開拓者達は念の為村に残り、追加の敵が来ないか。
 瘴気毒で村の作物や大地、海に影響が出ないかどうか調査を行っていたのだ。
 レティシアは精霊の聖歌を繰り返し使用し、瘴気の影響を除去しルオウや星鈴は村の修理なども手伝った。
 そのかいあって、村は血祟鬼の影響から完全に立ち直りつつあった。
「人っていうのは、たくましいねえ〜」
 抱きしめるように言う折々を璃凛は見つめ頷く。
 諦めず、前を向いて生きようとする人は強い。
 どんな状況でも希望さえあれば諦めず、自分にできる全力を尽すのだろう。
 勿論、その過程で彼らにはどうしようもできないことも発生する。
 けれど、その時こそ自分達の出番なのだ。
 人がそれぞれ自分のできる全力を尽くせば、きっと道は開かれる…。
「そろそろお昼ですよ〜」
 向こうから彼方の呼ぶ声がした。
「行こうか。おなかぺこぺこだよ」
「はい」
 二人は頷きあい、歩いて行く。
「やっほー!」
 村の桜の木の下で彼方と、子供達が準備をしている。
「今日はいい天気だし、桜の花も綺麗なのでお弁当にしてみました」
「待ってました! これが楽しみなんだ」
 ルオウが顔を輝かせる。
「美味しい御飯、期待してるぜ」
 との声に答えるように彼方と村人は連日腕を振るってくれている。
「うわあっ。今日のお昼も美味しそうですね」
 レティシアも声を上げる。
「そろそろふきのとうも終わりです。だから、今日はふきのとうメインの山菜料理教えて貰って作りました」
 広げられた毛氈の上に並んだお弁当には春の息吹がぎっしりと詰められている。
「うわっ! このふきのとう味噌の焼きおにぎり最高!」
「ふきのとう味噌とひき肉のお焼きもいけるぜ」
「天ぷらのほろ苦さが…たまりませんね。筍の天ぷらもしゃきしゃきとして…」
「これが彼方が言ってた鰆のふき味噌焼きか…。今度寮でも作ってくれへん?」
 嬉しそうに箸を進めていく開拓者に、子供の一人がお茶を差し出す。
「あの…ありがとう」
「うまいもんもろたんや。その分働かせてもろただけや」
 お茶を受け取りながら星鈴は子供の頭をくしゃくしゃと撫でる。
 子供達だけではない、村人全員が折に触れ彼らに感謝の言葉をかけてくれる。
「ありがとう」「またこの桜を見られるなんて…」
 それが何よりの報酬であったと思うのだ。
「報酬なんか関係ないってのは、プロとしてどうなんだよ? って話だから言えねーけどさ。時にはそれよりも大事な事があるって話だよな!」
 もぐもぐと口を動かしながら笑うルオウ。
「こんなに美味しいふきのとうが食べられなくなっちゃうのは惜しいものね。 
 毒と瘴気の汚染被害はきっちり伝えておくし、その対策も出来る限りの事はしておく。汚染されて枯れちゃったものはどうしようもないけど…この村はまだまだだいじょうぶ、任せておいて」
 折々も笑顔で頷いた。
「本当に…ありがとうございました」
 頭を下げる彼方に微笑むと、開拓者達は空を見上げた。
 丁度桜が満開。ひらひらと舞い散る花の中の春の膳。
 そして人々の笑顔。
 命を懸けて戦い、守るだけの価値のある宝であったと開拓者達は深く心に思うのであった。

 例え大地が汚れても、人がそこにいる限り、諦めない限り希望は消えない。
 絶対に…。