【震嵐】希望の冬野菜
マスター名:夢村円
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/03/24 18:11



■オープニング本文

 子供の頃から災難体質だと言われていた。
 勿論、今も大人になったとは思っていないけれど、それは、どうやら変わっていないのかもしれない。
「油断、したよなあ…。誰かと一緒に来るべきだった。皆さんにあれほど言われていたのに…」
 はあ、と溜息をつきながら彼は背中に担いだ人を背負い直してゆっくりと、気配を消して雪を踏む。
 カシュッ。
 少し硬く締った雪の音が響くと
『キキッ!』
 その音を聞きつけたように幾匹かの雪鎌鼬がその尻尾を立てた。
「しまった!」
 走り出す少年を鼬達は追う。雪山を含め、山歩きには慣れているつもりだ。
 だが、自分より大きな人間を背中に背負っての雪道行はあまりにも不利だった。
 しかも相手は小さいとはいえ、10数匹を数える雪鎌鼬。そして空には夜雀や怪鳥までも見えている。
『キーッ!!』
 飛びかかってくる鎌鼬をとっさに避けて術符を構える。
 放たれた火炎獣が狙い違わず一匹を焼きつくすが、今度は二匹、いや三匹が同時に襲ってくる。
 とっさに避けて後はとにかくひたすらに逃げた。
 すると、突然足元が崩れる。
「うわああっ!」
 彼は背中に背負った人に衝撃が及ばないようにするのが精一杯。
 崩れる残雪と共にまっさかさまに沢に落ちていった。

 本当であるならその依頼は翌日に出される筈であったらしい。
「あのね。山にお父さんが行って帰って来ないの」
 少女はそう言って依頼書を持ってきていた。
 ただ、正式な依頼形式にのっとった依頼書は多分、彼女が書いたものではないのだろう。

『山の中に畑を持っている男性が「戦乱で大変な思いをしている開拓者や兵士の皆に食べて貰いたい」と冬野菜を取りにでかけました。
 普段であるなら山の中腹にある畑まで往復してもそうかかることは無い筈なのですが、急に降った雪のせいか一日たっても戻ってこないと奥さんに相談を受けました。
 心配なので捜しに行くつもりです。
 もし、僕が山に行って一晩経っても戻ってこなかった場合はどうか探しに来て頂けないでしょうか?』

「この依頼書を書いたのは誰だ?」
「開拓者のお兄ちゃん。野菜を買いに来たって言ってたんだけどお父さんを探しに行ってくれたの。
 朝になっても帰って来なかったらこの手紙を開拓者ギルドに持って行きなさいって…。
 でも…、でも、心配なの…」
 泣き出しそうになる少女を宥めながら係員は依頼書を見た。
 心配で朝まで、という言葉に従えずに持ってきたのだろうと係員は思った。
 だが…、それが正解だったのかもしれないと、外を見る。
 間もなく、日が暮れる。
 雪もまた降り出してきた。
 山に男を探しに行ったという開拓者はそれなりの準備を整えて行ったらしいが、雪山は危険で何が起こるか解らない。それに冬には春や夏には出ないアヤカシやケモノも出る可能性がある。
 開拓者はともかくこの寒さの中、消息を絶ったという男性が誰の助けも無く二晩目を過ごせる可能性は少ない。
 朝まで待っていたら最悪の事態になっているかもしれない。事は一刻を争うと思われた。
 そして雪山捜索の依頼が貼りだされたのだった。

 沢のくぼみに彼は小さな天幕を貼っていた。
 雪に足を取られ谷に落ちたのは不運だったが、そのおかげでアヤカシ達から逃れることが出来た。
 男性も、意識を失っているが呼吸ははっきりしているようだ。
「良かった…うっ!」
 彼に荷物の中の毛布を掛けながら少年は小さく唸り声を上げる。
 どうやら足をくじいたようだ。ここまで無理をしたせいもあって熱を持ってジンジンと痛む。
 帰りの遅い男性を助けに来たつもりだったのにこれでは動けない。
 アヤカシに襲われ隠れていた男性を、なんとか見つけられたまでは良かった。
 でも男性の連れてきた馬は死んでいたし、馬車は壊れていた。
 彼を自分が運ぶしかなく、なんとか山を降りようとすればアヤカシに襲われる始末だ。
「本当。しくじったなあ。…でも、明日になればきっと誰かが助けに来てくれる。きっと…」
 そう呟いて彼は天幕の下で身を抱えた。
「だから…明日までがんばらなくっちゃ…」
 静かに、だが、確実に降り積もる雪を見つめながら少年は自分に言い聞かせるように呟くのだった。



■参加者一覧
芦屋 璃凛(ia0303
19歳・女・陰
青嵐(ia0508
20歳・男・陰
尾花 紫乃(ia9951
17歳・女・巫
サラターシャ(ib0373
24歳・女・陰
真名(ib1222
17歳・女・陰
比良坂 魅緒(ib7222
17歳・女・陰
八壁 伏路(ic0499
18歳・男・吟
三郷 幸久(ic1442
21歳・男・弓


■リプレイ本文

●一人の少年
 この依頼がギルドに並んだ時、雪山に消えた少年開拓者が誰であるのか知る者は少なかった。
 だから
「おや、妙に陰陽師が多いと思ったら…」
 ギルドから借りたかんじきの確認をしながら三郷 幸久(ic1442)は依頼を受けた開拓者の顔ぶれを見て少し目を丸くする。
「お初にお目にかかる。三郷殿、八壁殿。妾は陰陽寮朱雀の陰陽師 比良坂 魅緒(ib7222)と申す。
 この度は我らが友を助ける為の依頼に参加頂き、心から感謝いたす。ご迷惑をおかけしないように全力を尽くすのでよろしくお願いしたい」
「なるほど、陰陽寮の寮生であったのか。災難であるな。吹雪とアヤカシさえなければのう」
 魅緒の丁寧な挨拶に八壁 伏路(ic0499)は頷きながら答えた。
 二人はほんの少し前まで魅緒が上げていた声を思い出す。
「全くなにをしておるのかあのたわけは!」
 言葉だけ聞いていれば怒った様子であるが、その声には明らかな心配が見て取れる。
「最初は誰かと思ったのじゃ! 委員会活動の打ち合わせをしようと陰陽寮に行ってみれば料理長は買い出しに出たまま連絡がないと言う。
 まさかと思ってギルドに行ってみれば手紙が来ていると…いつもいつも面倒事に首を突っ込みおって!」
「同感ね。まったくもう、あの子は…」
 頷くのは真名(ib1222)、二人を宥める優しげな女性はサラターシャ(ib0373)。どちらも陰陽寮の仲間であるらしい。
「彼方さんも事情がお有りだったのだと思いますよ。でも、心配なのは確かです。一刻も早く救出に向かいたいですね」
 彼女達は皆、行方不明になった少年、彼方の事を心配している。
「……なんじゃお主ら……。これではただの合同授業ではないか。いや、遠慮せずに済むのは助かるか…」
 照れた様に言う魅緒。それを見て
「…恵まれているな」
 幸久は思った。
「とはいえ、二重遭難を起こしては意味がありませんからね。十分な準備と下調べは必要だと思いますよ」
 冷静に告げる青嵐(ia0508)の元に
「失礼します」
 微かに息を切らしながら泉宮 紫乃(ia9951)は走り寄ってきた。
 手には幾枚かの紙が握られている。
「山の畑までの簡単な地図を頂いてきました。それから男性の特徴も…」
「ふむ、名前は平助氏。五十代も半ば、体格はいい方。これは彼方殿の体格などにもよるが場合によっては一人で連れ帰るのは大変やもしれぬな。
 彼方殿はお初にお目にかかるが、どのような御仁か?」
「彼方はまだ童じゃ。身長は妾とそう変わらぬが、線は細い。おそらく一人で難儀している筈じゃ」
「結構歩くのね…。範囲も広いし…手分けしたほうがいいかもしれないわ」
 相談は手早く、そして着実に進められていく。
「背負子とソリの借り出し、してきました! どうしてもの時は用具委員会から借りてこようと思ったけど、男性の家の人が貸してくれるそうです」
 背筋を伸ばして告げる芦屋 璃凛(ia0303)に青嵐は静かに頷いて
「ありがとう。かんじきとロープなどは手配済みです。呼子笛などはありますか? 連絡には音を使いましょう。
 雪崩などを引き起こさないように注意は必要ですが。後は防寒対策と、これから暗くなるので灯りの用意と…」
 的確な指示を出す。
 話を聞き見捨てておけず依頼に参加したが、彼方の事は仲間達に任せておいて大丈夫かもしれないと幸久は微笑む。
「では、それぞれ二人組になって捜索を。三郷さん。私が貴方と同行させて頂けますか?」
「青嵐さん、だっけ。よろしく」
「八壁さんとは私、泉宮が。よろしくお願いします」
「ああ。こちらこそ」
「真名、妾と組んでくれるか? 共にあやつを見つけ出そう」
「勿論よ」
「璃凛さん、ご一緒頂けますか?」
「ああ、了解や。サラターシャ」
 外は夕闇に染まりつつある。
「先に行方不明になった親父さんが心配だな。一刻も早く助けよう」
 幸久の言葉にそれぞれが、それぞれの思いで頷いて、彼らは冬の雪山に向かって行った。

●闇の中での遭遇戦
 カンテラを上げながら前方を歩く紫乃が声を上げる。
「あ! あれは!」
 殆ど雪に埋もれてはいるが道の横に何かがあるようだ。
 その声に他の仲間達も気付いたのだろう。
 集まって来て、雪を払う。
「壊れていますが…馬車ですね。こっちは馬…死んでいます」
「ふう〜。一瞬肝が冷えた。ふむ、鋭い切り口からの出血。アヤカシにやられたのは間違いなさそうだな」
「ここで何かあった、と言う事でしょう。つまりスタート地点。馬を殺した存在、アヤカシもいるでしょうから注意が必要ですね」
 青嵐に告げられて開拓者達は周りを見る。
 夜の闇と雪が手伝って、前もろくに見えない状況だ。
「雪が積もって足跡なども消えています。犬に匂いを追わせるのも難しいようです」
「とりあえず四組に分かれたのだから分担し捜索しようか」
「じゃあ、私達はこのまま上に登って畑を探してみるわ。何か、手掛かりがあるかもしれないから。時々呼子笛を鳴らしてね」
 そして彼らは方角を分担し、山に入って行く。
 その道すがら
「ふう〜」
 大きなため息が聞こえて真名は後ろを振り向いた。
「どうしたの?」
 見れば魅緒が息を吐き出している。
「いや、少々緊張した…。開拓者として仕事をするのは合戦で小隊の手伝いをした以外では初めてなのじゃ」
「あれ? そうだった?」
 首を傾げる真名に魅緒は頷く。
「思えば自分から開拓者と名乗った事も無くてな。だから飛び出してきたものの皆がいて正直心強かった」
「…そう。でも。誰かを助けたいっていう思いが開拓者の精神だから、そういう意味では魅緒は十分開拓者だと思うわよ」
 真名は優しく笑うと前を見た。
「あ、ここが畑ね。本当。雪の下に野菜があるわ。人参に、白菜…こっちは大根にカブ、水菜かしら」
 畑に辿り着いた真名は雪を微かに見える緑色を頼りに手で掻いてみる。
 柔らかい雪の下から色々な野菜が現れる。
「何故にわざわざ雪の下に野菜を…」
 もっともな疑問を口にする魅緒に
「聞いたことがあるわ…雪の下に野菜を埋めると…」
 説明しかけて真名は言葉を止めた。笛の音が聞こえたのだ。
「あれは!」
「アヤカシ遭遇の音色ね。行きましょう!」
 真名は魅緒を促し、畑に背を向け走り出した。

 闇の中に白い影が走る。雪鎌鼬だ。
 数は三匹。
「ちっ! 動きが早い!」
 陰陽刀が空を切った。璃凛は舌打つと刀を収めた。
「璃凛さん!」
 背後で身体を起こした鼬に反応してサラターシャは璃凛の背後に結界術符「白」を立てる。放たれた術は吸い込まれるように阻まれ消えた。
「ありがとな。サラ」
「いいえ。でも雪鎌鼬だから、心の属性かと思えば体の術である火輪は思ったほど効果を発揮しない。厄介な相手です」
「ああ、そやな」
 頷きながらもどこか楽しげな様子の璃凛にサラターシャは小さく首を捻る。
「どうしました?」
「いや、その、サラ。遠雷が、楽しみにしとったで、レオに会うことを。…その、うちも…な」
「璃凛さん…」
 二人は顔を合わせ微笑みあう。信頼をその瞳に乗せて。
「サラ、結界術符、もう少し出せるか?」
 放たれた空気の刃を巴で回避し璃凛は友に問う。
「はい。…でも、どうするんです?」
「敵が捕らえ辛いなら攻撃を一か所に集中させればええ。こっちから仕掛けに行ったら思う壺や」
 璃凛は刀をしまい人形を取り出す。紫の目をした雪豹…。
「サラ、これがうちの守護猫人形「昴宿」や」
 そうして彼女は雪鎌鼬に向けて己の心、その結晶をぶつけるのだった。

●発見
「討伐は今でなくともよろしかろうて」
 雪原に倒れる雪鎌鼬を見つめる伏路。その言葉に紫乃は静かに頷いた。
 瘴索結界で敵を先行発見できた時、伏路は彼等に不意打ちで「夜の子守歌」をかけたのだ。
 全部の敵を眠らせられた訳ではないが、数が少なければ二人でも対応可能だ。
「後はこれらを起こさぬようにここを離れるとしようか」
「はい」
 二人はそっとその場を離れる。
 広がる冬の森の地面はどこまでも白く平らに続く。
「冷えるのお。こういう時、冬野菜の鍋がうまいのだな」
「そうですね」
 身震いのような仕草をしながら言う伏路に紫乃はまた頷いた。
「話は変わるが彼方殿は料理がお得意なのかな? いや、少し耳にしたが」
「はい。朱雀寮の調理委員長なので得意だと思います。無事救出できれば多分、料理をふるまってくれるのではないでしょうか」
 笑顔で告げる紫乃に伏路も微笑む。
「それは重畳…ん? 何か聞こえたようだな」
「ええ、向こうの方ですね」
 静寂の雪原で耳を澄ませるともう一度音が聞こえた。
「あれは、発見の合図か?」
「行ってみましょう」
 二人が辿り着いた先には青嵐と幸久がいて、同じ地面を見つめている…。
「どうした?」
 問う伏路に幸久が地面を指差す。いや、彼の指先には地面が無い。
 その先は崖のようだ。
「水の流れる音がします。地図によるとこの辺には沢があるようですが、もしかしたら下に落ちたのかもしれません。それらしい痕跡もありましたし」
「では、確かめないと!」
「陰陽術で偵察とかできないのかい?」
 紫乃の声に頷きながら幸久は青嵐を見る。
「陰陽術は、そこまで便利なものじゃないですよ」
 青嵐は眼下に広がる闇を見つめ…
「でも、やってみましょうか?」
 人魂の鳥を紡ぎだすと闇に向けて放つ。
 光の無い闇の中では人魂の視界も闇。
 けれど青嵐は目を見開く。闇の中、小さく揺れる灯を見つけたのだ。
 あれは松明か、カンテラか。とにかく人の灯した灯り。
「どうだった?」
 顔を上げた青嵐は答える。
「それらしいものを見つけました。私が降りて確認しますので…ここをお願いできますか?」
「解った。気を付けてな」
 ロープを近場の木に結び、荷物を持って青嵐は慎重に崖を降りていく。
 その時。
 チッチッチッ!
 背後から聞こえてきた微かな声に紫乃は振り返った。
 とっさに瘴索結界を発動。
「あそこ! あの木の上に何かがいます!」
「!」
 闇の中。
 しかし幸久は弓に矢を番えると引き絞り、慎重に放った。
 キィキュッ!
 正確に胸元を射抜かれ夜雀は地面に落ちる。
「…敵を呼ばれたか?」
「解りません。でも早くここを離れた方が…」
 心配そうに顔を見合わせる開拓者達の横で、縄が動いた。
「青嵐さん!」
「二人を見つけました! 引き上げるのを手伝って下さい!」
「良かった!」
 待っていた三人の間に歓喜の笑顔が浮かぶ。
「見つかったの?」
 やがて音を聞きつけた真名達と璃凛達も合流し、彼らはロープを引き上げた。
 まずは籠に乗せられた男性が上がってくる。ぴくりとも動かないが…
「…お亡くなりになっとらんだろうな。馬の時より心臓に悪い」
 とりあえず生きているようだ。と安堵し伏路は閃癒をかける。
 次に身体にロープを結びつけられてゆっくりと小さな身体が上がってくる。
「彼方! このたわけ! 何をしておるのじゃ!!」
 それが誰か解るが早いか、魅緒は駆け寄り身体を揺さぶる。
「…あ…魅緒さん、皆さん…、本当に…すみま…せん」
 それだけ言うと彼方はがくりと膝を落とす。
「おい! 彼方! しっかりせい!」
 さらに揺さぶる魅緒を宥め真名はその背に毛布をかけた。
「大丈夫。気を失っただけよ。まずは急いで山を降りましょう」
「魅緒、後で彼方に野菜いっぱいのけんちん汁でも作って飲ませたり」
「…解った」
「まったく…心配させるんじゃないわよ」
 こつんと真名は彼方の頭を叩く。
「親父さんは俺が背負おう。その子、彼方さんは任せて大丈夫かな?」
 幸久は頷く寮生達に微笑んで背負子と男性を背負うのだった。

●感謝の味
 上がる湯気と暖かい出汁の匂い。
「できました! 冬野菜たっぷりの特製ユリ根鍋です。どうぞ召し上がれ!」
 明るい彼方の声にほほう、と伏路は顎に手を当てた。
「これはこれは…」
 くつくつと煮える鍋の中央にはたっぷりの百合根。それに人参、ネギに干し椎茸、水菜が入っている。
「いただきまーす!」
 嬉しそうに箸を伸ばした璃凛は
「な、なんや。この野菜。甘い。こんな甘い野菜初めてや!」
 驚きの声を上げた。他の開拓者達もその味に目を見開く。
「雪に当たった野菜は何故か甘くなるのですよ。この辺では昔から雪の中に野菜を保存したり、畑に野菜を置いて冬越させる方法が良くとられていました」
「この百合根もまた美味い。とろりと溶けかけたところがなんとも言えないな」
 まさに舌鼓をうつ味だ。
「こっちは豚汁、白菜の蕾のお浸し。ふろふき大根。百合根と白子のかき揚げに百合根饅頭。美味しいですよ」
「この度は本当にありがとうございました。皆さんがいなければ生きて帰ることはできませんでした」
「ありがとう。お兄ちゃん、お姉ちゃん」
 娘、妻と共に頭を下げる男性に開拓者達は微笑む。
 男性 平助氏は衰弱し、凍傷を少し負っていたが塩分、水分の補給と応急手当という開拓者の対応が良かったのか数日で回復した。今日は助けて貰ったお礼がしたいという彼の招待による野菜の宴である。
「僕も…本当ご迷惑をおかけしました」
 しゅんと俯くのは料理を担当した彼方だ。
 彼方も寒さに衰弱はしていたがそこは開拓者。
 一晩寝た翌日には微かに足を引く程度までに回復した。真名と魅緒の暖かいけんちん汁も効果抜群だったのだろう。
「畑近辺のアヤカシは退治してきました。でも今後、十分注意して下さいね」
 サラターシャは男性に告げ、彼ははいと頷く。
 平助の回復を待つ間、開拓者は何度か山に赴き、野菜の収穫とアヤカシ退治を行った。
 そのおかげで東房に贈る野菜は梱包が完了している。
「親父さん 気持ちは本当にありがたいし、きっと喜ばれるだろう。けど、今回の怪我を治して養生する分も加えて十分手元に残してほしいな」
「立派な志だ。東房で戦う方々も喜ぶであろう。だが無理はいけない。ご家族が悲しむ」
 開拓者達の言葉にもう一度平助は頷き、深々と頭を下げた。
 そして彼方も
「一人で救助に向かったと聞いて心配していました。人助けも立派ですが、ご自分も大切にして下さいね」
「吹雪の雪山に一人で登るなんて無茶です。彼方さんが怪我をしなくても、動けないかもしれない男性をつれてどうやって下山するつもりだったんですか。
 アヤカシもいるのに。
 ……本当に、無事で良かった」
 優しく叱るサラターシャと紫乃に目元から小さな雫を零す。
 照れたように顔を背ける魅緒、微笑む真名や青嵐に璃凛。
 そして伏路と幸久に彼方は
「本当に…ありがとうございました」
 心からの感謝と共にお辞儀をすると
「今日は料理いっぱい食べて下さい。まだまだ作りますから!」
 涙を拭き、明るく、元気に笑うのだった。

 かくして、東房の戦地に冬野菜が届けられる。
 ほんの数箱だったが、雪の下で力を蓄えた野菜の甘さは戦地で戦う者達に元気を与えた。
 それは人がアヤカシから守るべき大地への思いを新たにさせる奇跡の味だった。