【朱雀】一人の為 皆の為
マスター名:夢村円
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/12/14 22:52



■オープニング本文

 ある秋の日。気が付けば
 開拓者ギルドにこんな張り紙が出されていた。

【陰陽寮 図書室解放
 
 朱雀寮生の研究発表会を兼ねた図書室解放を行います。
 陰陽寮や陰陽術に興味のある方はぜひ、足をお運び下さい】


 今年度における朱雀寮の進級、卒業試験は全て終了している。
 本来であるならその後間を開けず、入寮試験が行われ、卒業式、そして現学年の進級が行われるのであるが、今年度はアヤカシの陰陽寮襲撃の関連から卒業試験が大幅に遅れたこと、そして入寮試験が行われなかった事を考慮し試験後、少し新学期まで間が置かれることになった。
 課題も無いのんびりとした時間をそれぞれに過ごしている。
 …と、言っても二年生に関しては少々事情が異なる。
 事情によって進級保留、追試を受けている者がいる為である。
 彼が受けた補習は二つ。
 進級申請書へ規定人数分の署名を集める事。
 そしてもう一つは欠席した論文発表会に提出する予定であった論文の再提出である。
 いろいろあったが申請書への署名には成功しており、後は論文の再提出のみとなっている。
 彼は今頃、論文の作成に苦慮している頃だろうか。
 朱雀寮長 各務 紫郎が彼を含む二年生全員を講堂に呼びだしたのは、そんなある日の事であった。
「論文発表会を行います」
 彼は集まった二年生達の前でそう告げる。
「えっと、それは全員ですか?」
 手を挙げた二年生の質問にまあ、そうです。と寮長は珍しく言葉を濁す。
「メインは補習対象生の論文発表です。前回のような上層部を呼ぶことは流石にできないので陰陽寮内の行事としますが、興味がある人は外部の人でも見学可とするつもりです。場所は陰陽寮 一年生用図書室。
 発表会前後、本来は寮生にしか閲覧資格の無い陰陽寮の図書を一部自由に閲覧できるようにするつもりなので一般の人や開拓者も来るかもしれませんね」
 つまりは前回のように陰陽術のことが解っている人間相手ではなく、誰にでも解るように発表を組む必要があるということだろうか。
 対象となる二年生の顔色が少し変わる。
「会の計画概要はこちらに。
 既に発表を終えている寮生も、改めて研究を纏め直したり、発表したいというものがあれば一緒に発表しても構いません。結果次第では三年時の成績に加味します。無論、対象者をサポートする方向でも構いません。
 この発表会を無事終了させ、合格を得られた場合、補習対象生は正式に進級生と同じ資格を取り戻すことになります。
 既に進級が決まっている寮生達にとっては必修の授業というわけではありませんが、もし、可能であれば会の運営、その他を手伝ってあげて下さい」
 寮長は書類を置くとさらりと言ったが、その言葉に 寮生達の目に真剣なものが宿る。
 逆に言えばこの発表会が終らないと進級生としての資格を取り戻せないということでもあるのか…。
「間もなく三年生は卒業、皆さんが陰陽寮の最高学年となります。
 それは簡単な事ではないのだというのは先にも告げた通り、二年生全員が力を合わせてこの課題を達成して下さい」
 いう事だけ言っていつものとおり去っていく寮長。
 部屋に残された書類を二年生達は確認した。
 期日は一週間後。
 場所は陰陽寮 一年図書室。
 お昼を挟んで六時間程の開放時間の中で陰陽寮生の研究発表が行われると書いてある。
 逆にそれ以外の事は決められていない。
 この時間帯のいつ発表が行われるかも書いていない。
 それは寮生達に任せるということだろうか。

「…これは簡単に見えて、結構難しいかもね」
 誰かがそう囁いた。
 二年生達に与えられた「課題」は陰陽寮最高学年への最後の壁。
 決して容易くは超えられないそれに彼らは今、向かい合おうとしていた。


■参加者一覧
芦屋 璃凛(ia0303
19歳・女・陰
蒼詠(ia0827
16歳・男・陰
クラリッサ・ヴェルト(ib7001
13歳・女・陰
カミール リリス(ib7039
17歳・女・陰


■リプレイ本文

●進級論文発表会
 そっと、物陰から覗き込む。
「うわっ、さっきよりも人が増えたみたい」
 クラリッサ・ヴェルト(ib7001)が思わず声を上げた通り、そこには結構な人が集まっていた。
 数で言うなら30人、いや40人を超えているだろうか?
 普段、陰陽寮生以外の人がいることが少ないというか、ない図書室でこれだけの人がいるのは滅多にないことだ。
「さっき、椅子を並べ直した時はもう少し少なかったのに」
「それだけ、注目の度合いが高いと言う事ですかね…。あ、先生達も…」
 カミール リリス(ib7039)が自分の草稿から顔を上げて答える。
「僕、もう一度、お茶出してきますね」
 彼方が暖かい薬草茶の乗った盆を持って給仕に向かう。
「注目が高いのは陰陽寮の図書室か、それとも陰陽寮生の論文か…」
「どっちにしても本を読みに来たということはそれだけ知識に関する興味を持っている、ということやから甘くは見れへんで」
 清心の言葉を引き取り、腕組みをしながら芦屋 璃凛(ia0303)は横を見た。
 そこにはどこか青ざめた顔の蒼詠(ia0827)がいる。
「開始から二時間。クラリッサの言うとおり、そろそろええ頃間だと思う。用意はええか? 蒼詠?」
 司会進行役を担当する二年主席の言葉に彼は微かに震えながらも
「はい」
 と答えたのだった。

 陰陽寮、朱雀の図書室が一部とはいえ解放され、その来客達を前に二年生が発表を行うと本人達が聞いたのは日程が半ば決定してからのことであった。
 開催までの時間は約一週間。
 ほぼ図書室の住人になって資料の再確認と、纏めにかかりきりになっている蒼詠がいる。
「うぅ…、知恵熱で倒れてしまいそうです」
 寝食を忘れて励む蒼詠。
 おそらく彼は発表会の準備まで、頭は回っていないだろう。
「だから、集中して貰う為にうちらが準備はしたろう思うんやけど、どうやろか?」
 蒼詠以外の二年生が集まっての話し合い。璃凛の提案に
「そうだね。蒼詠くんに無事進級してもらう為に、私は私にできることを頑張ろう」
 クラリッサは勿論異議は無かった。頷き、そして微笑む。
「僕もできる限りお手伝いします」
「せっかくですからみんなでやるとしようか」
 彼方や清心からも同意の声が重なり暖かいモノが広がっていく。
 誰一人として仲間の為の手間を惜しむ者などいないのだと嬉しくなる。
「このタイミング逃すわけにはいきませんね。私も盛り上げを兼ねて発表をしたいと考えています。
 とは、言ったものの何をすべきでしょうかね?」
「確かに…。う〜ん。直ぐには思いつかないなあ」
「って…、思いつかんのか? 時間ないんやない」
 考え込む二年生。
「あのな…」
 静止した空気を動かす様に璃凛が彼らの思考に一石を投げ入れる。
「今回のポイントは論文を聞きに来たって人ばかりやない、って思うんやけど、どう思う?」
 彼女の言葉は閃きとなって波紋のように広がって行く。
「ああ、なるほど…『気軽に陰陽寮の空気を味わってみたい』『本を読んでみたい』って人も来るかもしれないんだ」
 ポンとクラリッサは手を叩いた。
「そして、その人達は陰陽寮の事を知らない一般人…」
「だったら、図書委員としてできることや、やるべきことはいろいろありますね。
 まずは、図書室の清掃と蔵書の整理…。
 その後は、陰陽術をわかりやすく説明した本が無いか調べてみますか。
 もちろん、基礎的なことがしっかりと書かれた物も必要ですね」
「うん、お勧めの本を選んでおこう。それから、地図や案内板も作ろう。
 立ち入り禁止の場所もあるし、許可範囲を分かりやすく」
「その辺はクラリッサ、リリスに任せるで。主役はうちや無いしな…、なんや、その顔は」
「その為の道具なら任せて下さい。倉庫から必要なだけ持ってきますよ」
「あと、普通の人が触ってもそんなに危なくない呪術道具とかあったら、一緒に展示したら面白いかも」
「了解!」
 一度、転がり出せば相手は基本お祭り好きの朱雀寮生である。話は早い。
 どんどん意見も出てくる。準備も進み始めた。
 それらを全体で纏め指揮を執りながら
「全くみんな頼りにしとったんやな」
 ぽつりと空を見上げ、璃凛は呟いた。
 改めて前主席の偉大さを思い知ったのだ。
「元気に、しとるやろか?」
 答えの返らない問いを風に乗せて…璃凛は目を閉じた。
 彼女がいつか戻ってくる時の為にも、今は自分達のやるべき事をしなくては。
「でも…はぁ…、向かん事しとるから眼が疲れるな。なんか、気分が悪くなって来た」
「何をしているんです? こっちをお願いしますよ。まだまだ仕事はいっぱいあるのです」
「うわっ。人使い荒いなあ」
 でも、悪い気持ちでは無い。どこか、くすぐったい思いを感じながら、璃凜は準備と仕事に戻っていく。
 仲間達と共に…。
  
●一人の為、皆の為
 そして迎えた当日。
 集まった人が少なかったらどうしようか。
 会場となった図書室には、そんな寮生達の心配を他所に割と早くから人が、それもかなりの数、集まっていた。
「ようこそ、陰陽寮へ」
 入口でクラリッサが来客を出迎え、案内のチラシを差し出す。
 寮内の解りやすい個所に案内の看板が出されており、殆どの人物が迷うことなく目的の場所、図書室へとたどり着く。
 そして僅かに迷った人物も
「会場はこちらです」
 と誘導を買って出た清心が案内する。
 辿り着いた客は図書室に入って感心するだろう。
 室内は完璧な清掃が為されており、埃一つ落ちていない。
「何か、お探しの本はありますか?」
 カウンターに座ったリリスが笑顔で利用者を迎えていた。
「あれ、眼鏡が…、カーム止しなさい」
『俺様に、あいつさせない奴がよく言うぜ。俺様は、カームだ。お前らよろしくな』
 陰陽寮の仲間にするのと同じように利用者達にも振舞うのはリリスの管狐であった。
 管狐など一般人は見る機会も少ない。
 それは図らずも場を和ませる良い機会となっていた。
 図書室には図書委員会が用意したと言うお勧めの本が何種類か、棚に横置きで並べられており、目当ての本がない人物が手に取りやすい仕組みになっている。
 目当ての本がある人用に壁や棚には本の分類が貼り出されていて、リリスの案内と合わせれば容易く狙いの本が探せる。
 滅多に入れない陰陽寮の、滅多に見られない蔵書を手に取った利用者達に、
「良ければどうぞ。朱雀寮の薬草園で採れた薬草で作った香草茶です」
 なんと本を濡らしたり汚したりすることないように別コーナーではあるが茶も振舞われていた。
 至れり尽くせりの対応に、利用者達は驚き、喜んだが、ある意味誰より驚いたのは蒼詠であった。
「皆さん…いつの間にここまでの用意を…」
 蒼詠は言葉もなく仲間達が作り上げた『場』を見つめていた。
 たくさんの努力の末に作り上げられたこの場は、他の誰でもなく、自分の為に…。
「礼とか、謝罪はとりあえずあとでな。うちらはできることをやっただけやから」
 後ろから聞こえた声に蒼詠は振り返る。そこに立つ璃凛、案内から戻ってきたクラリッサ、清心達が彼を見つめていた。
「皆さん…」
「研究は、纏まった?」
「はい。なんとか…」
 クラリッサの問いに蒼詠は頷く。
「じゃあ、そろそろ新しい客も途切れて来たし、もう少し経ったら発表会を始めたらと思うけどどうかな? 本を読みに来た人も一通り、目当ての本を見つけ堪能しただろうし、あんまり遅くなると疲れが出てくると思うから。それとも何か、考えてる?」
「いいえ…」
 蒼詠は首を横に振って俯く。
「それじゃあ、準備始めてええな。皆に声をかけて机の並べ直しや。…それから」
 仲間達はてきぱきと動いて場を整えていく。
 彼らにかける言葉も見つからないまま、蒼詠は胸に抱いた草稿に力を込めるのであった。

●未来へ繋ぐ思い
 机と椅子が並べ替えられ、ちょっとした舞台が作り上げられた陰陽寮の図書室。
 ざわついていた会場に寮生が進み出た瞬間、場の空気が変わった。
「お忙しい中、お時間を頂き、ありがとうございます」
 璃凛は人々の目視が集まる中、丁寧に頭を下げた。
 ここからが本番なのだ。息と唾をごくりと飲み込み続ける。
「うち…いえ、私達、朱雀寮の二年生はそれぞれに研究課題を持ち、その課題を一年間の授業の中で纏めていきます。
 今日は、そんな課題研究の成果の一部を皆さんにお見せします。
 これをきっかけに「ああ、朱雀寮生はこんなことを考えて学業などに取り組んでいるのだな」などと思って頂ければ幸いです」
 璃凛の言葉に場から拍手が上がった。
「まずアヤカシ研究の観点からカミール・リリスが発表を行います。
 それから、蒼詠が瘴気回収について。では、最後までどうぞ、よろしくお願いします」
(なかなか大したものですね)
 司会者としての役目を終えた璃凛がお辞儀をして戻ってくるのとすれ違う様にリリスが前に進み出た。
「璃凛さんも、変わりましたね」
「えっ?」
 すれ違いざまの言葉の意味を確認する時間は無く、その頃にはリリスは場の中央に立っていた。
 彼女の発表は蛇アヤカシの種類について。
 それに各儀における陰陽師や陰陽術の普及状況などを掲示して加えそこから、地域における認識やイメージの違いや知識格差を客観的に知って貰うというものだった。
 絵などの図解も取り入れた解りやすい発表は、さらりとしたものでありながらも客の興味を引いたようであった。
 発表を終えて戻るリリスの背には大きな拍手が贈られていた。
「ふう」
 息を吐き出すとリリスは蒼詠を見る。
「次ですよ」
「は、はい…」
 返事をしながらも蒼詠の足はなかなか前に進まない。
 その時、何かが蒼詠の背を押した。文字通り大きな手のひらでトンと押したのだ。
「そう固くならないで気楽に行けよ」
「大丈夫ですよ。思うままにやれば」
 それは彼方と清心。二人の同級生からの励ましであった。
「そうそう。こればかりは本人次第。だから…頑張って。蒼詠君」
 クラリッサも頷き、リリスも微笑んだ。そして
「蒼詠がんばるんやで、これが最後なんやからな」
 璃凛がひまわりのように笑い、励ます。
 蒼詠は仲間達の思いを受け
「はい。行ってきます」
 自らの意志と、足で観客の前に歩み出たのだった。

 集まった人の前でお辞儀する蒼詠。
 ふと上げた顔の向こうで朱雀寮長 各務の顔を見つけた。
 観客の顔を見れば一般の人に混じり、おそらく幾人か。高位の陰陽師も。
 心臓の音が否応なしに高まる。でも、やるべき事は誰の前であろうと同じだ。
 大きく息を吸い込んで彼は発表を始める。
「僕は瘴気障害を陰陽師が治療する事が出来ないかと言う所から始まり、「瘴気回収」を上手く利用出来ないかと考えました」
 まず、最初に論点を述べる。
 それから説明に続ける。それが論文の基本だと学んだ。
「このテーマを選んだ理由は、元々陰陽術による治療・回復の分野に興味があった所へ身近に瘴気障害の発症、回復を経た方が居たからです。
 当時の話を聞き、現在は専門の治療師のみ治療が可能ですが時間が明暗を分けるこの病を、開拓者として現場に赴くことも多い陰陽師の術による治療が可能になれば助かる人も多くなるだろうと思いました」
 言いながら蒼詠は自分の手を握り締めた。
 この研究思想には実際問題大きな穴がある。前提が崩れ、最初の予定や目指していたものをこのまま実現することはできないと解っているのだ。
「しかし、「瘴気回収」について調べていく内にこの術は「回収」と言う名前とは裏腹に「周囲に満ちた瘴気を集め取り込み、練力に変換して瘴気を消し去る」と言う訳ではない事がわかりました。そして治療師の方とお話しする機会を得て、彼らが扱う術は精霊力を利用していることも知りました。
 周囲の瘴気を減少させる術というのは陰陽術には無いと言うのが現状です」
 陰陽術は何故、瘴気を減らせないのか。瘴気と言うのはいったい何なのか。
 長年、研究を続ける者が多いのにまだ解っていない。
 微かに感じる無力は自分自身に感じるそれとどこか似ている。
 しかし、蒼詠は一瞬、自分を見守る仲間達を見て、強い思いで前を向いた。
「やはり精霊力でないと駄目なのかとも思いましたが、まだまだ研究の余地が陰陽術には沢山あります、いえ ある筈です」
 研究というのは一種の希望の継承であると思う。全てが形になるわけでもなく、思う全てが実現できるわけでもない。
 調べるうちに無力さを思い知る時もある。
 でも、そんな思いが継承され、いつか新しい希望へと繋がるのだ。
 自分達は一人ではない。そう信じ蒼詠は前を向く。
 皆が与えてくれた恩に報いる唯一の方法は自分自身が全力で取り組み、結果を出すこと。
 彼らと共に歩む道を取り戻すこと。
「自分の研究が無駄ではないと信じ、今後も研究を続けて行きたいと思います」
 深い決意に結ばれた発表には、最後、惜しみない拍手が贈られていた。

●三年生へと続く道。
「正直、研究としてはやや甘さがあります」
 発表会を終え、会場の片づけをしていた二年生達の前にやってきた寮長は発表者である蒼詠に厳しくそう告げた。
「もう少し、実体験や自分が行った実験を交え、その結果、自分はどうして瘴気が陰陽術で回収除去できないのかと思ったかを考察すると良かったかもしれません。
 テーマとしての前提が途中で崩れたと言いますが、昨年の進級論文でも瘴気回収は瘴気を除去できない事が触れられていますから、決定前にいろいろと文献を調べてみるのもよかったですね」
 寮長の指摘に蒼詠は無言で頭を垂れる。
 後ろで心配そうに見守る二年生達。
 しかし、その後に寮長の頬にふっと浮かべられたのは優しい微笑みであった。
「ですが、ここまで諦めず頑張り、努力した成果は認められます。
 二年生の論文が完璧で有る必要は無いのです。求められるのは若い発想と向上心。それは確認しました」
「では…!」
 思わず零れた言葉は蒼詠のものであったか、仲間達のものであったか。
「ええ。進級試験の補習はこの発表を持って終了、合格とし、朱雀寮二年生 蒼詠に三年進級を認めます」
「やった!」「よかったね!!」
 駆け寄ってくる仲間達にもみくちゃにされながらも、蒼詠は
「ありがとうございます」
 各務に深く深く頭を下げた。
 そして
「みなさんも、本当に、本当に…ありがとうございました」
 同様に、いやそれ以上の思いを込めて仲間達に頭を下げる。
「これで、また皆で一緒に進級や!」
「また、一緒に頑張って行こうね」
「陰陽寮最高学年。今まで以上に気合を入れて行かないと」
 誇り高く、優しい仲間達。
 彼らとまた共に有れる事を心から嬉しく、誇りに思いながら
「はい」
 蒼詠ははっきりと強い思いで頷くのだった。

 かくして二年生の卒業論文発表会に始まった騒動は幕を下ろす。
 それは、朱雀寮最高学年という新たな舞台への幕開けでもあった。