【朱雀】過去からの伝言
マスター名:夢村円
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 11人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/09/19 22:06



■オープニング本文

 五行、西域は今も広がり続ける魔の森を要するこの周辺は古くからアヤカシの害が多く発生することで有名でもある。
 多くの者がその害から逃れるべく故郷を離れた。
 それでも残り続けることを選んだ者。
 様々な理由から離れることができなかった者達を守る為に、この土地に残った陰陽師の開拓者がいたという。
 陰陽集団 西家。
 始祖の志を継いだ彼らは陰陽術を人を守る為に使う。
 その誇りと共に今もアヤカシと戦い続けている。

「長。こんな文献を発見しました」
 西家の長、西浦 長治はある日、部下の一人からそう声をかけられた。
「文献? 私が目を通さなければならない程の事か?」
「はい。実は透さ…いえ、透の部屋を整理していた時に見つけたものなのです。しかも机の奥のさらに隠しにしまわれていて」
「透?」
 その名にぴくりと反応した長治は差し出された書物を手に取った。
 それは、本当に古い書物であり、乱暴に手に取ると崩れてしまいそうに思えた。
 そっと中身を開く。
 書かれてあったのは主に憑依能力を持つアヤカシなどについてである。
 かつてこれを書いた者がこれらのアヤカシについて研究していたのかもしれない。
 加えて封縛縄や壷封術、瘴気回収など術や術具の基礎理論などが記されている。
 これらの術の開発に携わった人物の手記なのだろう。
「興味深い内容だが、今の世でそれほど特別に扱う者でもあるまい。書庫に回して…」
「いえ。見るべきところはそこではなく、最後のページを」
 言われ長治は本を最後までめくる。
 そこには、殴り書きの様に描かれた地図と、ある文章が記されていたのである。
「この署名は…?」
 浦部 海人と署名された文章にはこう書かれてあった。

『この地、この場所に、我が研究と命と術の全てを封じる。
 遠き世に、人々を守らんがため強き力を求める者有れば、扉を開け。
 覚悟なき者は決して、この扉を開いてはならぬ。
 開きし時には大いなる災いがこの地を襲うであろう』

 浦部と言う名を西家に属する者で知らない者はいない。
 西家の開祖、その名を浦部 川人と言う。
 西家を開いて後、その名を西浦と名乗りその子孫が代々西家を率いてきた。
 故に浦部と言うからには開祖の関係者なのであろう。
 だが、海人と言う名に現長である長治は記憶が全くなかった。
 しかし、この手記に記された術や研究は今でこそ一般的なものもあるが、この書物が書かれた当時は画期的なもので有った筈だ。
「この陰陽師の研究と術の全て…?」
 陰陽師として興味は十二分に沸いてくる。
 だが…。長治は地図をよく見て言った。
「この場所は…魔の森だな」
「はい。魔の森以外に地形が一致する場所はありません。おそらく、かつて瘴気に汚染された封縛縄が発見された社のさらに奥と言う事になるでしょう」
 部下の答えに長治は考えた。
 開祖の関係者が為した研究の成果であると言うのなら、どんな困難を排しても探す価値がある。
 だが、魔の森のさらに奥にあるという遺跡を探索できる能力のある者は西家の中にどれだけいるだろうか?
 それに…。
『覚悟なき者は決して、この扉を開いてはならぬ。
 開きし時には大いなる災いがこの地を襲うであろう』
 この一文が彼に深く圧し掛かる。
 西域を守る為の力を求めた結果、この地に災いが起きることになれば…。
 考えながら書をぱらぱらとめくっていた長治は、ふと挟んであった紙に気が付き…目を伏せると無言で書を閉じた。
「相解った。この件は預かる」
 やがて長治は、その書物を持ったまま歩き出す。
 部下に伝令の用意を命じて。

 陰陽寮。
 それは五行国の首都、結陣にある陰陽師の育成施設である。
 通常6〜7月に入寮試験を行い、その後3年間の過程を経て、卒業となる。
 無論、1年ごとに進級試験もあるし、卒業に際しては卒業研究と卒業試験を課せられる。
 入寮も容易くはないが、卒業も進級も簡単ではない陰陽師の最高学府であった。

 朱雀寮の卒業実技試験というのは一年生や二年生のそれとは違い、毎年違うと聞く。
 それはその時々の三年生に合わせ寮長が適した課題を選ぶからであるという。
 一昨年の三年生は人妖の作成に挑んだらしい。
 昨年の三年生は噂に聞く話だが壷封術の会得とそれを使用しての上級アヤカシの退治であったとか。
 調整が長引いたのか遅れに遅れた三年生の卒業試験課題の発表の日。
 集まった寮生達に朱雀寮長 各務紫郎はこう告げた。
「今回、皆さんには魔の森の探索をお願いします」
「え?」「魔の森?」
 寮生達がざわめく中、紫郎は一冊の文献を差し出した。
「これは西家 長治から届いた文献です。最近発見されたもので西家に属する昔の陰陽師が書き遺したものと言われています。
 この場所を探索し、調査することが皆さんの今回の依頼となります」
「それは…その場所の探索が卒業試験と言う事ですか?」
「今回の所は違います。現在、皆さんの卒業試験に相応しい課題を選び、審査しているところです。そこに長治からこの文献の調査依頼が来た。
 この書を残した陰陽師は西家 開祖の関係者とみられ優れた研究を為した人物のようです。
 その人物の遺産を探すというのであれば卒業試験の課題に相応しいかと思うのですが、まずはその遺跡の確認とどのようなものなのか調べなくてはならない。
 ただ、問題の場所は魔の森のさらに奥に行かなければならないので、皆さんに依頼すると言う訳です」
 つまり課題では無く、依頼。
 強制ではないと言っている。
「調査の結果、確かに何かがあるようだということであれば、卒業研究の課題として皆さんに捜索を命じることになるかもしれません。無論、既に失われたり意味が無くなっているようであれば探索が行われないかもしれません。
 その判断も皆さんの調査の結果を見て行います」
 そうして、寮長は寮生達に長治から送られてきた文献を差し出した。
「調査に参加する場合は報酬と後援は西家が責任を持つそうです。参加希望者は用意をして集合の事。以上…」
 話を終えた寮長はいつものように寮生達を残し、部屋を出て行った。
 残された寮生達は、書を手に取る。
 ふと彼らの間にひらりと一枚の紙が落ちた。
「これは…」
 寮生達はそれを手に取り握り締める。

『…ここに眠る方は私が、探していた方ではないようだ。
 もし、封じられた力を手に入れることができればおかあさまはお喜びになるかもしれないが…。
 でも、時間がない。
 時が近づいている今、覚悟無くここに手を触れるべきではないだろう。
 だがいつか、叶うなら出会い、聞いてみたい。
 私と近い夢を持っていたかもしれない方に…』

 寮生達が良く知っていた、今はいない人の筆跡。
 寮長や長治がこれに気付いていない筈は無い。
 その上で彼らはこの書を彼らに託したのだ。

 過去からの伝言。
 それは同時に「彼」が寮生達に遺した最後のメッセージであった。


■参加者一覧
俳沢折々(ia0401
18歳・女・陰
青嵐(ia0508
20歳・男・陰
玉櫛・静音(ia0872
20歳・女・陰
喪越(ia1670
33歳・男・陰
瀬崎 静乃(ia4468
15歳・女・陰
平野 譲治(ia5226
15歳・男・陰
劫光(ia9510
22歳・男・陰
尾花 紫乃(ia9951
17歳・女・巫
アッピン(ib0840
20歳・女・陰
真名(ib1222
17歳・女・陰
尾花 朔(ib1268
19歳・男・陰


■リプレイ本文

●託された思い
 五行 西域。
 その中心地である西斗は都と呼ぶには小さな街であるが、今はいつにも増して活気に満ち溢れていた。
「ほら、これも持っていきな。食い物の心配なんかしなさんなって」
「ありがとうございます。流石に新鮮で良い食材が揃っていますね。
 …少し厨房をお借りしてもよろしいでしょうか? 仲間達に弁当を作りたいので」
「勿論だ。使えるものは何でも使わせてやってくれ、って長からの伝言だからな」
「あ、私も手伝うわ。紫乃も一緒にどう?」
「はい。喜んで」
「ありがとうございます。皆で腕を振るいましょうか」
 誠実に丁寧に育てられた野菜は色艶、形も良い。
 籠いっぱいに差し出されたそれを抱えて、尾花朔(ib1268)は真名(ib1222)や泉宮 紫乃(ia9951)に柔らかく笑いかけた。
「薬などの御入用はありますか? 当方でもいろいろと取り揃えておりますが…」
「大丈夫です。持参しておりますので。お心遣い、感謝いたします。だだ、できましたら真心…私の鷲獅鳥の様子を時々見て頂ければ…」
「それはお任せ下さい」
「…静音。傷薬だけ借りていく?」
 玉櫛・静音(ia0872)と瀬崎 静乃(ia4468)は薬の準備などに余念がない。
 そして
「それ〜。走れ華取戌(カトリーヌ!)」
 子供達に取り囲まれて相棒走龍と一緒に駆け回る喪越(ia1670)。
 それをどこか苦笑いに似た表情で見つめながら見守りながら、魔の森探索の準備を行う朱雀寮生達。
 幾度となく訪れた西斗で、朱雀寮生達は今回も心の籠った歓待を受けていた。
「出発ももう間近です。適当なところで切り上げて下さいよ」
「解ってるって!」
 青嵐(ia0508)は喪越に向かって肩を竦めると、手に持った地図をじっと見つめた。
 それは西域の中でも特に魔の森について深く描かれた地図である。
「以前、魔の森を調べた時の調査もだいぶ反映されているようですね。これで遺跡までは迷わず行けるでしょうか?」
「そうだな。だが問題はそこから先だ。奥に行けば行くほどアヤカシも増えるだろうしな」
「そうですねえ。この前の時もひっきりなしでしたからねえ〜。でもはっきりとした目印になりますから社を基準にするのはいいと思いますよ〜」
「可能な限り、社までは体力温存。それから社を中心に手分けして調査を行う、でいいだろう?」
 同じように地図を見つめ、劫光(ia9510)とアッピン(ib0840)が指差しながら捜索方針を考えた。
「折々は、どう思う?」
 古ぼけた書物を手にしたまま、どこかぼんやりとしていた俳沢折々(ia0401)は、仲間の呼び声にハッと顔を上げた。
 横にいたからくりも心配そうだ。
 はらりと書物と重ね持っていた紙が落ちる。
「はい」
 それを拾い上げた平野 譲治(ia5226)が精一杯に作った笑みと共に折々に手渡した。
「委員長の残した文…。感慨深すぎるのが、少々痛手なりかね」
「…うん、そうだね」
 受け取った折々は紙を大事にまた本に挟んで閉じる。
 今はいない人からのメッセージ。
 それは、過去を懐かしむ為だけのものではない。
「この身は今、新しい事を知る為に在るのだ。なればこそ、委員長が成し得なかった事、確認すると言うのも一つなりね! やるなりよ!」
『おう! その意気だ! 初陣、飾ろうじゃないか!』
 握り締めた譲治の拳の上をひらりと小妖精小村 雄飛が舞う。
「頼りにしてるなりよ! あ、折々。その本、おいらも後で読みたいのだ!」
 明るく元気な声に折々も、そして寮生達も皆笑顔になる。
「了解。とりあえずは社まで進んで、それからは朔君が提案してくれたように三方向くらいに別れて調査するのがいいと思う。連絡はこまめにしてね」
「定期的に狼煙銃を上げる。三時間おきくらいでいいでしょう。連絡が無かったり、特定の色が上がった場合は何かあったとして、そちらの方向に向かうということで」
「時計、借りてあるなりよ!」
 前向きな相談と準備は素早く進み、やがて寮生達の出発の時刻になった。
 ほぼ村中の人々や西家の陰陽師が集まる中、
「また世話をかけるな」
 西家の長 西浦長治は寮生達の背にそう声をかける。
 目を伏せた長治に
「いいえ」
 と折々は答えて笑う。
「開祖が残したという陰陽術とその研究内容。それが西にとってどれほどの大きな価値があるものか。
 受け継がれてゆく術式は、その性質の如何を問わず、氏族にとっての命とも言うべきもの。それを託して貰えたことを心から誇りに思います」
「そうそう! 遺跡探索たぁ、むしろ俺等の本業じゃねぇか。陰陽寮抜きでワクワクする話だねぇ。探検とお宝とパッツンパッツンの美女は男の浪漫だぜ?」
「何か、最後に変なの混ざってなかったか? でもまあ同感だ。それに西家の思想は俺の目指すモノに近い。なら見つけたいよな」
「もしかしたら人造アヤカシへの手がかりがあるかも知れないですしね」
「私達の研究にも意味がある事と考えます。お気遣いは無用です」
 明るい笑みやウインクで答える寮生達に、そうだな、と笑うと長治は長の顔になった。
「では、頼んだぞ」
「はい。それでは張り切って行きましょう!」
 寮生達は頷き歩き出した。

(これは…信頼の証)
 折々は本を強く抱きしめながら思っていた。
 確かに魔の森の奥部を目指すには相応の実力が必要なのかも知れない。
 書を残した人物が自分たちと縁の深い者だったから、というのもあるかも知れない。
 だがしかし、ただそれだけで西家の長は、この古びた書物を私達に手渡しただろうか。
 西家と積み重ねてきた過去のすべてが、この結果に繋がった。
 そう思わずにはいられない。
 なればこそ、期待に応える。
 前を行く十の背中を眩しげに見つめながら折々は決意を新たに歩みだすのであった。
 仲間と共に…

●暗闇の中の光
「ちっ! 相も変わらずアヤカシウジャウジャかよ。これじゃあ、いくら結界を貼ってもキリがねえぜ」
「そんなことは最初から想定の範囲内でしょう? 文句を言わず身体を動かしなさい」
「だーっ! 解ってるって。カトリーヌ。離れるなよ!!」
 魔の森の奥にあるという遺跡の捜索。
 それは予想通り歴戦の開拓者である寮生達にとってさえも困難を極めた。
 次々に襲い掛かって来るアヤカシの群れが彼らの行く手を阻んだからである。
 先に来たことのある社を起点に左右と真ん中に別れて調査を開始した。
 なるべく戦闘を避けることを第一に行動しているが、それでも魔の森。
 奥に行けば行くほどアヤカシが増えてくる。
 加えて定時連絡に狼煙を上げると、アヤカシが集まってくる。
 正直、調査を始めて半日以上、息をつく暇もなかったのだ。
 左翼にあたるこちらには屍人に食屍鬼、不死鬼。この魔の森は屍人系のアヤカシが多いようだ。
 指揮官がいなくて、統率がとれていないのがせめてもの救いだろうか。
「まったく、追い払うだけの予定だったのに、よほど命が惜しくないと見えますね。ああ、元々命は無いのでしたか」
「狼煙弾で、援軍を呼びますか?」
 静音の問いに周囲を見回して青嵐は首を横に振った。
「この程度なら…まだ行けるでしょう。静音さん。この先に洞窟か廃墟のような場所は無いですか?」
「…少し先に石造りの家が数件、まだ形を残しているようです」
「ここの敵を躱してそこに逃げ込めば、少し落ち着けるでしょう。行きますよ。アルミナ。目の前の敵を全て倒し道を切り開いて下さい」
『相変わらずの無茶ぶりでありますな!』
 言いながらもアルミナは武器に力を入れた。
「ほんわかさんも頼みますよ〜」
 アッピンは柔らかい口調でそう言いながら最後列の不死鬼に向けて黄泉より這い出る者を放った。
『ぐがあ!』
 一瞬で不死鬼は崩れ落ち瘴気に還る。
 開いた隙間に飛び込んだアルミナが光輝刃を込めた獣爪で敵を切り裂いた。
 やがて彼女の元にアヤカシが集まり始める。青嵐が斬撃符で敵の退路を断つように敵を弾いて行くので彼女の方へと集まって行くのだ。
『主上!』
「敵の力は削いであります。留めを刺すだけ、簡単でしょう?」
「青嵐さん! 道が開きました!」
 静音の声に彼は仲間達と視線を合わせて頷くと
「アルミナ!」
 声を上げた。アルミナは敵を踏みつけながら大きくジャンプして主の元に戻る。
 そして、彼らは全力疾走でその場を後にしたのだった。
 敵の追撃を征暗の隠形で躱して、小屋に逃げ込んだ彼等。
「ほんわかさん〜。灯りを」
 闇の中でやっと一息ついた彼らであるが、呼吸を整える間もなく、
「あ! あれは!!」
 空に真っ直ぐに伸びる赤と青の狼煙に駆け出すこととなるのであった。

 同じ頃、別方向右翼側を調査していた朔達もまた全速力で、狼煙の方へと駆け出していた。
「朔。青い狼煙が発見、赤い狼煙が敵との遭遇、よね」
「はい。その両方という事は遺跡を発見したけれど、敵と遭遇した、ということかもしれません」
 走りながら朔の答えに頷いて真名は前を向く。
 もしかしたら、遺跡を守る番人でもいたのかもしれない。
「魔の森の陰陽師の遺跡…木を隠すなら森にとはいうけど厄介よね。でも遺したんだから見つけてほしい筈。それに…」
 そう呟いた真名は知らず、自分の手に力が籠っているのを感じていた。
「透先輩の最後のメッセージ、でもある。先輩が会いたいと思っていた西家の開祖…
是非知ってみたいわ」
 魔の森の中、暗い闇の中でも光を見つめる真名を横を走る紫乃は眩しそうに見つめ微笑む。
「この先にアヤカシが集まってる。その先に、皆がいるみたいだ」
 人魂を放っていた折々が告げる。
「紅印。先に行って劫光達に連絡と援護、頼める?」
『了解。マスター』
 宝狐禅の銀の影が闇に消えたのを見て真名は仲間達を見た。
 魔の森の探索行、ここまでは避けられる戦いはできる限り避けてきた。
 しかし、逃れられない戦いもある。
『敵は集結している様子。どうなさいます?』
「敵を殲滅させないと調査もままならないでしょう。とにかく合流、そして殲滅です。
槐夏は紫乃さんの桜と一緒に周囲の警戒と、援護を」
 人魂で偵察していた人妖に朔は指示をした。
『解りました』
「敵はやっぱり不死系が多いみたいだ。でもなんだか動きが鈍いから、少し迂回して側面から敵を叩こう。山頭火、援護をお願い』
『解った』
「朔。私が前衛立ってもいいわよ?」
「ありがとうございます。でも、ここは一つ、男の矜持、と言うことで私が前に出させて頂きますね」
「解ったわ。紫乃。一緒に行きましょう」
「はい」
 会話は短いが、分担はそれで十分。
 力は温存してきた。魔の森で練力の回復量も十分だ。
「行きましょう!」
 目の前に現れた敵の群れに先制攻撃の雷閃を放ちながら、寮生達は仲間を守る為の戦いに飛び込んで行くのであった。

●神殿の前のアヤカシ
 左右両翼から、中央へ。
 寮生達が狼煙の上がった地点へ辿り着いた時、そこは既にアヤカシに取り囲まれていた。
 不死系のアヤカシに加え、剣狼なども加わってなかなかの数である。
 だが不思議な事にアヤカシ達は、その中心に立つ三人、劫光、譲治、静乃に攻撃をしけかけてはいない。
「あれは…何?」
 劫光達の中央には石造りの建物があった。アヤカシはそれを取り巻いているのだ。
 荘厳な作りは神社を思わせる。そして、扉の前には太い縄がまるで注連縄のように貼られていた。
 その太い縄にちょこんと座る何かがいる。
 羽妖精に似ているが、そうではないと見れば解る。
 纏う瘴気。怪しい笑み。あれは、アヤカシだ。
『僕は案内人。君達は力を求めて来た者かい?』
 不思議な静寂の中で、さして大きくも無いその声は寮生達の耳にはっきりと響く。
『君達は海人様の御前に立ち、力を手に入れる覚悟と力があるのかな?』
「覚悟の無い奴なんか、ここにはいない!」「覚悟なら、もう幾分前にしたのだ」
『そっか、なら見せておくれよ。その覚悟と力とやらを!』
 からかうような、試すような声で笑うと、そのアヤカシは指をぱちりと弾いた。
 と、同時、今まで沈黙していた敵が一気に襲い掛かって来たのだ。
『この間の子は期待外れだった。君達なら少しは楽しませてくれるよね』
 そう言うと同時、アヤカシは縄を蹴りふわりと飛翔する。
 翼あるモノでないと届かない高さまで飛んで寮生達とアヤカシの戦いを見物しているようである。
「…にいや」
 静乃が自分を守る劫光の背中に向けて、囁いた。
 視線と指は上空のアヤカシを指す。その側には強い眼差しの静乃の宝狐禅、白房。
 目の前に近寄ってきた屍人を切り倒して、劫光は頷いた。
 周囲でくるくると回る真名の宝狐禅に何事か囁いて
「…。譲治。お前の羽妖精にも援護、頼めるか?」
「勿論なりよね! 雄飛!」
『合点!』
 そうして気配を消した三匹の相棒達が周囲にから離れると同時、劫光は仲間達に言う。
「左右の連中も来てる。雑魚は奴らが必ず止めてくれると信じて…やるぞ」
「了解」「解ったなりよ!」
「双樹、お前も援護してくれ」
『解りました』
 頷きあった彼等は敵を倒しつつ、空を見上げたのだった。

 無理はするなと伝えられていた。
 油断しているアヤカシを驚かせ、下を向かせるだけでいいと。
 だが、主の期待を背負った相棒達はそれで終わるつもりは無かったのだろう。
『行くぜ!』
 大剣に力を入れた雄飛は背後から渾身の飛翔で間合いを一気に詰めてアヤカシに一閃。白刃の攻撃をかける。
「うわあっ!」
 相棒になど一切の注意を払っていなかったのだろう。
 アヤカシはとっさに直撃を躱したものの体勢を崩す。
 その隙を二匹の宝狐禅は見逃さなかった。
 雄飛の左右から同時にタイミングを合わせて飯綱雷撃と風刃を放つ。
 二体の宝狐禅の必中スキル。雷と風にアヤカシは
『うわあっ!』
 悲鳴をあげて地面に落下した。
 それを待っていたのが地上の三人と一人。
「逃がさん!」「ここで決めるなり!」「…氷柱!」
 雑魚の攻撃に背を向け、アヤカシを捕え為の一斉攻撃をしかけたのだ。
 譲治の呪縛符と静乃の氷柱にただでさえ、相棒達の攻撃のダメージが残るアヤカシはもはや身体を動かす事さえできないようでああった。
『くそっ!』
 悔し紛れにアヤカシが劫光に放ったのは混乱か、睡眠かとにかく状態異常の術であったようだ。
 だがそれを劫光は双樹の守護童の力もあったのだろうが
「はああっ!!」
 気力で降りはらいそのまま霊青打の攻撃をアヤカシに打ち下ろした。
『ぐああっ!』
 アヤカシは意識を失い、地面に落下した。
 ぎりぎりで加減はしたからまだ生きている様子だ。
「よしっ!」
 息を切らせる劫光に静乃が治癒符をかける。
「ありがとう。後はこいつらを片づけてからだ。双樹」
『解りました』
 意識を失ったアヤカシを相棒達に任せ、劫光達はまだ残るアヤカシの群れと仲間達の元へ駆け出していった。

●力を求めし者
 瘴気の流れを探り、魔の森を探索し、彼らはようやく目的と思われる場所に辿り着いていた。
「そんで、これが遺跡の番人か? どうせならもっとぱっつんぱっつんの美…」
「ちょっと黙っていて下さい。それで、貴方は一体何者なのです?」
 大量のアヤカシを全て倒し終えた寮生達は遺跡の前で、案内人を名乗るアヤカシは睨みつけていた。
 与えられたダメージと双樹の吸精によって殆ど力を残していないであろうそれは、圧倒的不利の中であるというのに、余裕を失ってはいなかった。
『僕はこの社の奥におわす海人様に仕える者さ。太古の昔、海人様はアヤカシさえも従えるお力でこの地を導いた。だが、それを恐れる馬鹿な弟によって封印されてしまったんだ。僕ら、お仕えする者ともどもね』
 アヤカシは寮生達ににやりとした笑みを見せる。
「弟…って浦部 川人?」
 真名が口にした名前に嘲笑の笑みを浮かべながらアヤカシは頷いた。
『そうさ。そして我々はこの地で眠り続けた。一年前、ここにきた人間が封印を解くまで…ね』
 遺跡の封印は既に解かれている。寮生達は顔を見合わせた。
『でも、そいつは覚悟の無い奴だった。封印を再び貼りなおして森を去ってしまったんだ。けっこう見込みがありそうだと思ってたのに残念だったよ。その時、僕は遺跡の外に抜け出したのさ。海人様の命で、力ある者を導く為に…ね。そう、君達には資格がありそうだ。望むなら案内してあげるよ。大いなる力の元へね』
 にやりと笑うと、アヤカシは寮生達を、特に劫光と譲治を見た。
『疑ってるね。じゃあ…見せてあげるよ。海人様が授ける力の一部を…』
 そういうと同時、アヤカシの身体が、フッと崩れるように倒れた。
『とりあえず、こっち、かな?』
 そして黒い影か靄のようなものが譲治の体に入り込む。
「な、なんなのだ!」
『力の使い方を教えてあげるだけだよ。ほら、瘴気を自らに取り込んでごらん。そして…己の力に変換する』
 譲治の体が黒い光を帯びる。
 苦しげに息を荒げている。
『力の源はいくらでもある。さあ、解き放て』
 と同時、彼の能力が高まって行くのが寮生達にも見て取れた。それは、今まで見たことのない技、見たことのない術である。
「うわあっ!」
 苦しさに紛れてか、叩きつけた劫光の拳は石の床の一部を粉々に打ち砕いた。
「譲治!」
「譲治さん!」
 仲間達が譲治の名前を呼んだ。譲治の荒い息も徐々に落ち着いていくようだ。
 黒い声が満足そうに笑っている。
『君、なかなか見込みあるよ。そのま…うわああっ!』
 だが、次の瞬間、譲治を取り巻いていた黒い影は彼からまるで吐き出されるように追い出された。
 さっきまでの身体に戻ることなく、社の前に漂う。
『な、なんだい? いきなり』
「た、助かったなり」
 自分の声でそう答えた譲治の背後には二人の人妖と朔、そして紫乃がいる。
「桜。治療を頼みます」
『解りました』
 彼らの従える人妖の神風恩寵、そして何より譲治自身の抵抗が、黒い影、アヤカシを追い出したのだ。
「確かに…面白い力です。でも、仲間の身体に勝手に憑りつくとはいい趣味ではありませんね」
 青嵐は黒い影を冷たく見下ろす。劫光も他の仲間達も同様だ。
『お前達…覚悟があるんじゃないのか? せっかく僕が導いて…』
「アヤカシの導きなんかいらん。行く時は自分達の力で辿り着く!」
『や、やめろ!!』
 寮生達の攻撃術はシャボン玉を吹き消すように黒い影を消し去り、消滅させた。
 と、同時残っていた羽妖精のような身体も、瘴気に還り崩れていく。
 青嵐は、社の入り口の縄に触れ、仲間達に告げた。
「これは封縛縄です。今ある物とは違う作り方で作られた強力なもの。おそらく、アヤカシの術や瘴気では切れにくい。でも、陰陽術か刀で切れば簡単に解けると思われます」
「アヤカシには解けないけど、人間には解ける封印…」
 少し考えながら折々は呟くと
「とりあえず遺跡は見つけたんだ。みんな、結構消耗もしてる。できる限りの周辺調査をしてから戻ろう。ここは寮長の判断を仰ぐ方が良い」
 そう言った。
 寮生達は全員頷くと、怪我人の治療をし、周辺の瘴気の量や、遺跡の外見その他を細かく調べ、書き記すと遺跡を、魔の森を後にした。
 勿論、再び戻ってくる時の為の目印も怠りなく。

「瘴気回収とは、違う感じだったのだ。瘴気が自分の中に入り込んで、体の中で力に変換される感じ…。なんだか…周りが瘴気だらけだったから、なりかね。本当に何でもできそうな気がしたのだ」
 譲治は憑依されかけた時のことを仲間達にこう語った。
「あの縄…製法と組み方次第では一般人にも使えるアヤカシ足止めの術具という私の目的に近いものも可能かもしれません」
 青嵐も遺跡と失われた知識や、技に興味があるようだった。
 古き力と知識の秘められた遺跡。
 そこは間違いなく陰陽師としての力と覚悟と心を問われる試練の場になるだろう。

 提出された資料に寮長達が出す結論を待ちながら、寮生達は改めて自分自身に問いかける。
 力を望むその覚悟を。