【朱雀】導くこと
マスター名:夢村円
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/09/09 10:18



■オープニング本文

 陰陽寮。
 それは五行国の首都、結陣にある陰陽師の育成施設である。
 通常6〜7月に入寮試験を行い、その後3年間の過程を経て、卒業となる。
 無論、1年ごとに進級試験もあるし、卒業に際しては卒業研究と卒業試験を課せられる。
 入寮も容易くはないが、卒業も進級も簡単ではない陰陽師の最高学府である。

 さて、その陰陽寮は今年度に関しては入寮試験を行わないことを決めていた。
 理由はいろいろあるが今年の冬、陰陽寮がアヤカシの大襲撃を受け、白虎寮が壊滅に近い被害を受けたからということが一番の理由であろうか。
 陰陽寮朱雀在学中の寮生達に、戦乱などにより滞っていた授業が再開されたのは最近のこと。
 年度の終りの授業は試験の為の準備期間になることが多い。
 少しずつ、だが確実に彼らにも卒業、進級への準備が始まっていた…。
 
「皆さんの進級試験は来月から行います」
 8月の定例授業の日。
 朱雀寮寮長 各務 紫郎は集まった一年生達にそう告げた。
「進級試験…」
 一年生達の間の空気がピンと音を立てた様に張りつめた。
「朱雀寮の一年生の進級試験は例年実技課題と小論文ということに決まっているとは前に伝えたと思います。 
 小論文の課題については試験の前に伝えます。
 実技課題はこれも前に言った通り符の作成です。
 死霊符作成の為、準備は始めていますが符の名前と、デザインについてがまだ未定なので今回、改めて話し合って決定して下さい」
「その話し合いが、今回の課題ですか?」
 問う寮生に
「勿論違います」
 寮長はきっぱりと答える。
「この時期にそれだけというわけにはもちろんいきません。確かに今回で決めて貰わないと困ることは困るのですが、符のデザインについてはついで、です。
 今回の課題はアヤカシ退治。結陣から少し離れた小さな村で人が突然に手や足を切り裂かれる事例が多発しています。調査の結果カマイタチと呼ばれるアヤカシの仕業と判明しました」
 カマイタチというのは風のごとき素早さを誇るという獣系アヤカシ。
 その名の通りイタチに似た外見をしているが鋭い鎌を持ち、人やケモノを切り裂く。
 時に半人のような形態をとって攻撃を仕掛けてくることもあるという。
「真空の刃を放ち、離れている人間の腕を切り裂いたという事例も報告されています。出現は夜。被害はほぼ毎日出ています。しかもその村では同時に離れた場所で被害に会った人もいる事から複数、最低2体以上のカマイタチがいると見られています」
 村に赴き、そのカマイタチを退治するのが今回の課題であると寮長は言う。
 アヤカシ退治という課題は今までも良くあった。
 だが、ただのアヤカシ退治というのは符のデザイン相談という追加課題があったとしても今までの中では簡単なような気がする。
 そんな寮生達の思いを表情から読み取ったのだろう。
「皆さんも、だんだん解って来たようですね。そうです。今回は符の作成相談とアヤカシ退治以外に、さらにもう一つ、課題があります」
 寮長は微笑むと入口に向かって声をかけた。
 入って来たのは一人の少女。
「あっ! 桃音ちゃん!?」
 元生成姫の子で現在、陰陽寮の預かりとなっている少女、桃音であった。
「この桃音の同伴が今回の課題になります。桃音は元シノビでしたが、現在は転職して陰陽師として朱雀寮預かりとなっています。彼女を伴って課題に赴き、課題を達成し、共に戻ってくることが合格の条件となります」
「転職したばかり、ということは陰陽師としては、まだ本当に初心者、ということですね?」
「そうです。術の実践もまだ寮内で練習しただけです。勘などは悪くないとは思いますが、実際戦力としては数えられないでしょう。加え攻撃術の活性化は今回許可されていません。回復、補助要員として考えて下さい」
 つまり、戦力に数えられない少女を伴い、守り、連れて帰らないといけないということである。
 加えて彼女はかつてアヤカシ側にいた生成姫の子。
 現在は保護観察中の身だ。武器の所有も認められていない。
 改心し、自分からの逃亡の危険は少ないだろうが、それでも万が一他のアヤカシに連れ去られたり、逃亡された場合には朱雀寮全体の責任問題に関わる。
 その上で、彼女を一年生に預けると寮長は言うのだ。
「退治方法、その他については皆さんにお任せします。
 村についてはアヤカシ退治に必要であれば、戦闘中の村人の避難も行うし、家に多少の破壊があっても構わないという言質もとっていますので、戦いやすいように考え、行動して下さい。以上」
 それだけ言うと彼は桃音をその場に残し、去って行った。
「…どうぞ、よろしくお願いします」
 硬い表情のまま、桃音は頭を下げる。
 不安と緊張がその眼に浮かんでいるのが彼らにもはっきりと見て取れた。

 進級試験が間近ということは、自分達もまた上級生になるということだ。
 下級生が入って来ないかもしれなくても、受けるばかりだった自分達も与え導く立場になるのだということ。
 これはきっとそれを考える為の実習なのだろう。

 自分達の前に立つ少女を見つめながら、進級試験を前に寮生達は自分達の存在とあり方を考えるのであった。


■参加者一覧
雲母(ia6295
20歳・女・陰
雅楽川 陽向(ib3352
15歳・女・陰
比良坂 魅緒(ib7222
17歳・女・陰
羅刹 祐里(ib7964
17歳・男・陰
ユイス(ib9655
13歳・男・陰


■リプレイ本文

●受け継がれる意思
 陰陽寮は学舎である。
 学び舎において先輩が後輩を導き自分が学んできた事を伝え、後輩がその知識を受け継ぎ、次の世代へ伝える。
 長き年月、そうして知恵と知識、そして志を受け継いできたのだ。
 今年度、陰陽寮に新入生の入寮は無い。
 だが、彼らの前には今小さな「後輩」がいる。
 自らが教え、導く立場になることを、彼等は改めて自覚するのであった。

「そろそろ出発だ。用意はいいか?」
 羅刹 祐里(ib7964)は自分の荷物を背負うと共に旅立つ同輩、仲間達を見た。
「もちろんええよ♪ 準備は万端や♪」
 楽しそうに尻尾を振る雅楽川 陽向(ib3352)の隣で比良坂 魅緒(ib7222)も頷いた。
「僕も大丈夫だよ。桃音くんは…」
「大丈夫…です。用意はできて…います」
 後方に控える少女桃音は緊張の表情を浮かべている。
(…警戒しておるかもな。無理もない)
 魅緒は微かな不安を心の中に封じながら桃音を見た。
 おそらく自分は今も無表情であろうが今は、この不安を相手に伝えずに済むのはありがたいとさえ思えた。
(妾もどうやって接するべきか困りものじゃ。信用しておらぬ訳ではない。むしろ逆。
 どうやって彼女の信頼を掴むべきか。真名や劫光ならば容易いのであろうが…。我らにこの子を託された意味をよく考えよう)
 考え込む魅緒の前で
「桃音くん」
 いつも、いや今までとは違う桃音の様子にユイス(ib9655)は軽く笑って
「落ち着いて。一人じゃないんだから。大丈夫だよ」
 背中を叩いた。ぽんぽんと励ますように。
 桃音から牢の中や祭りなどで出会い、接していた時の天真爛漫な様子が見えないのは、自分の立場や常識を理解してきたからではないか、とユイスは考察する。
 今まで失うことを恐れるものが何もなかったからこそ、思うまま、ただ母の為に生きてきた「生成姫の子」。
 それが、人としての立場や思い、大切なものを獲得することによってそれを失う事を恐れるようになってきたのだろう、と。
 彼女には辛いかもしれないが、それは悪いことでは無い筈だ。
「そう緊張するな。できることをすればいいんだ」
 祐里は笑って桃音の頭を撫で、
「宜しくの。桃音。ああ、後、敬語で話す必要はない。呼び方は魅緒でいい」
 魅緒もぎこちなくだが笑って見せる。
「桃音さん、桃音さん、ええもん貸したる。朱雀の薬箱や♪」
 場を明るくすることに関しては一年生の中ではぴか一の陽向が歌うように話しかけ、少し大きめの箱を桃音に手渡した。
「使い方は、祐里さんに聞いてくれたらバッチリや。天下の御意見番やからな! …あ、ちゃうな。天下の薬箱? いや、天下の、天下の、…なんちゃらら…あかん、どわすれしてもーた」
 周囲に笑い声の花が咲く。桃音からもくすくすと笑みが零れる。
「じゃあ…ええと、改めて…どうぞ、よろしく…」
 ぺこりと桃音は頭を下げた。さっきよりは少し、緊張も緩んだ…だろうか?
 ホッとした一年生達の背後からくつくつと笑う声がする。
「子供のお守りか…開拓者になると歳なんて関係ないな」
「雲母(ia6295)!」
 壁に背を預け一年生達の様子を見ていた雲母が自分の荷物を持ちひょいと立つ。
「いつまでもおしゃべりしている暇はないだろう? とっとと行くぞ」
 そう言うと一人でスタスタと歩いて行ってしまう。
「おい! 待てよ雲母!! 今回はちゃんと協力してくれるんだろうな?」
「私がでしゃばる訳ないだろう、危なくなったら呼べ」
 相変わらずの態度でにやりと笑っていく雲母に肩を竦め
「皆、行くぞ」
 祐里は、仲間達に声をかけた。頷きあった一年生達は桃音を促し後を追う。
 その途中
「ユイス」
 祐里は友の名を呼んだ。
「何だい? 祐里くん?」
「雲母は桃音を良く思ってないんじゃないかと思う。なるべく接触したり刺激させないようにして、俺達でフォローを心がけよう」
 祐里の言葉にユイスは少し考えると頷く。
「解った。気にしておくよ。まあ、大丈夫じゃないかと思うけどね」
 雲母を追い、前に向かって走って行った祐里と、中頃、陽向や魅緒と共に行く桃音。
彼らを見守るように後方を静かに歩くのだった。

●小さなきっかけ
 村に寮生達が辿り着いた頃は夕暮れ。
 折しも家への帰路を急いでいた子供が一人、突然怪我をしたと人々が集まり、ざわめいていた。
「どうしたんだい?」
 ユイスが人ごみをかき分け子供に駆け寄った。
 見れば肩から肘にかけて腕が切り裂かれている。
 あまりにも鋭利に切られていて出血は少ないが、白い骨さえ覗いている。
「痛いよ! 痛いよ!!」
「泣かないで…大丈夫だから。桃音くん!」
 ユイスは少年を押さえつつ軽く祐里を見やって後、桃音を呼び寄せた。
 本来であるなら治療は保健委員である彼の領分であるが
「お前ら。カマイタチがこの辺にいると解ってるんだ。とっとと家に戻れ。ああ、なるべくばらけず一か所に集まっておけ」
 ぶっきらぼうに命令する雲母に驚く村人に
「我々は朱雀寮の陰陽師だ。カマイタチの退治を行うから避難していてくれ」
 と説明とフォローに回って貰う。
 既に魅緒と陽向は人々の避難誘導と周囲の索敵に入っている。それを確かめて
「桃音くん。この子に治癒符をかけてくれないか? 傷を治す術だよ」
 ユイスは膝を付き、桃音を手招きする。
「えっ? 私?」
「そう。僕もフォローするから。さあ…」
「は、はい…」
 ユイスに促され、桃音は大きく深呼吸をすると術を発動させた。
 まだぎこちなさがあるが、それでも術は紡ぎだされ少年の傷を塞いでいく。
「どうだい? 傷は塞がって来ているよ…」
 少年の表情から苦痛が消えて、力が抜けた。
 固く閉じられた目が開き、桃音をまっすぐに見つめる。
「お姉ちゃん…ありがとう…。兄さんを…お願い。まだ外に…」
 桃音は静かに頷いた。
 感謝の言葉に綻ぶ花のような笑顔を見せて。
「上出来。さあ、皆の所に戻ろう。戦いはもう始まってるかもしれないからね」
「はい」
 少年の避難を親達に任せてユイスは桃音を促した。共に走りながらユイスは思う。
「我ながら、偉そうだとは思うけど…人として生きるならこれからもっと色々な事を経験して欲しいしね」
 それが彼らが桃音に少年の治療を任せた理由であったのだから。

●奔る影と思い
 ユイスと桃音が仲間たちと合流した頃には、既に戦端は開かれていた。
「桃音くん! 後ろに下がってるんだ!」
 霊剣を携え、仲間の元へ駆け寄るユイス。その懐を狙うように白い影が奔った。
「うわあっ!」
「ユイス!」
 体勢を崩し、ユイスは後ずさった。尻餅をつく形になるが、むしろそれが幸いする。
 空気の渦が少し前までユイスのいた場所を切り裂いていったのだ。
「白いイタチ。これがカマイタチだね?」
 ユイスは慌てて立ち上がり心配して近付いてきてくれたであろう祐里と背中を合わせた。
「そうだな。気を付けろ。とにかく素早い。あっという間に移動距離を詰めて来るぞ」
 事前に下調べは十分にしてきたが、実際に遭遇した敵の想像以上の能力に、祐里は歯ぎしりしながらそう告げる。
 加え、敵は予想通り二体いた。
 イタチの外見で襲い掛かって来るこちらが早さ優先だとすれば、陽向達の方に攻撃を仕掛けているあちらは攻撃優先であろうか。
 寮生達を分断させるように動くアヤカシ達に三人と二人に分けられてからは、互いに合流できずにいた。
「なんや、こいつ!!」
 両腕に大きな鎌を生やした男型アヤカシが懐に踏み込んでくるのを陽向は間一髪、躱すと結界術符「白」を発動させた。
 出現地点に発動させて弾き飛ばす計画であったが、ぎりぎりで回避されて間を開けられてしまった。
 しかも敵の返す一刀は陽向の頬に朱い筋を作る。
「つっ! 躱したのに…」
 魅緒と共に桃音を背後に庇いつつ
「こいつの動きをなんとか鈍らせんと…。桃音さん!」
 陽向は振り返り、桃音に声をかけた。
「あいつはまた踏み込んで来るやろ。うちらが前に出て迎撃するからタイミングを見計らって呪縛符をかけるんや。できるか?」
「多分…。でも…」
「これは特別扱いではない。適材適所じゃ。お主は自分のできることをせよ。回復と援護は任せるぞ」
 躊躇う仕草はおそらく一年生達を案じての事。だから魅緒は自分にできる限りの笑顔でその不安を払拭させる。
「来るぞ!」
 魅緒の言葉通り、鎌を構えた男アヤカシが再び身構えた。
 その強い踏込みの瞬間、遮るように鋭い一矢がアヤカシの眼前に突き刺さる。
「雲母さん!」
「今じゃ!」
 勢いを殺された攻撃は躊躇いは無いがさっきより若干スピードが無い。
 空気の刃が放たれ、寮生らを裂くが、彼女らもまた踏み込んでくる相手に躊躇わず向かい魅緒は氷龍を、桃音は指示通りに呪縛符をかける。
「逃げてはおられぬ。我らの背後には守るべきものがいる故!」
 攻撃は命中。僅かに生まれた間に先手を取って
「いくで!!   〜〜〜〜♪!!!!」
 陽向は呪声を発動させた。歌声のような響きを耳にして飛び込んできた敵はそのまま身体をのけぞらせると地面に落下する。
「今や…ってあれ? 皆? どうしたん?」
 耳を押さえる魅緒と桃音に首を傾げる陽向。
「…陽向、お主…まあよい。今は止めじゃ」
 息を吐き出しながら魅緒は地面にのたうつアヤカシに向かって0距離の斬撃符を連発する。
 やがて、人型をとっていたアヤカシは瘴気へと還っていった。
「やれやれ…じゃな。だが、素早さの分、撃たれ弱いか…。陽向。祐里達の援護に向かうぞ」
「了解や」
 二人は白いイタチに苦戦する男達の方に向かう。
 幸い、彼らの方の攻防も終盤だ。細かい傷に満身創痍ながらも、敵の動きを確実に封じ攻撃を入れつつあった。
 動きの素早い敵に呪縛符で動きを封じ、そこを狙って攻撃を仕掛ける。
 祐里とユイスの連携作戦が功を奏しているのだ。
 そこに魅緒と陽向が援護に入る。氷龍と幻影符。そして呪声。
 素早い動きを最大の武器とするイタチだけに動きが殺されると魅緒が気付いた通り撃たれ弱い獣形アヤカシに過ぎない。
「的確に、弱点と急所を狙って…! 桃音くんや、村人のところには行かせない!」
 自分に言い聞かせるように言いながらユイスは剣を、イタチに深く突き立てた。
『うぎゃああ!』
 まさに断末魔の悲鳴と共に消失したアヤカシを確認し、深く息をついた寮生達は、次の瞬間目を見開いた。
 予想外のものを見たからだ。
「「「「えっ?」」」」
「…泣くな。まあ、良くやった」
 そこには涙ぐみながら膝を付き治療を施す桃音と、その頭を柔らかく撫でる雲母の姿があった。

●変わる者達
「この村を襲っていたカマイタチは総計三体。詳しく村全体を確認したのでもういないと思いますよ」
「ありがとうございます」
 村人達の心からの感謝を受けて、村を後にした寮生達は帰路、後方を歩く二人を見た。雲母と彼女の後ろを嬉しそうに歩く桃音。
「ええい。懐くな。うっとうしい!」
 雲母は振り払おうとするが、ニコニコ笑顔のまま桃音は彼女の側を離れない。
 時に手に頬を寄せさえしている。
「まるで子猫になつかれたようじゃの」
 魅緒はくすくすと笑ってその光景を見つめている。
 聞けば、寮生達がアヤカシとの戦いの終盤、一人の青年がやって来たのだという。


 白く、小さなイタチを腕に抱いて。微かなその気配に一番最初に気付いたのは桃音であった。
「あ、アヤカシ…」
 一見大人しく人の手に抱かれていたイタチは、目の前で消失した仲間に怒ったのか青年の腕の中で突然気配を豹変させた。
「危ない!」
 桃音は青年を思わず押し飛ばし、アヤカシを奪い取った。
 地面に落ちた瞬間、アヤカシは完全に本性を向き、腕を鎌と化して真空の刃を閃かせたのだ。
 他の寮生達も桃音の事は細心の注意を払い見ていた。桃音を狙う攻撃からは完璧にガードをしていた。
 しかし、敵との最終局面、ほんの少し意識が離れ一人になった桃音に放たれた予想外の攻撃。それから桃音を庇ったのは、なんと雲母であったのである。
「くっ!!!」
 桃音とアヤカシの間に割り込み、身を挺して真空刃を全て受けた雲母は崩れるように膝をつきながらもイタチに向けて矢を放ち足を縫いとめると
「桃音! 呪縛符をかけろ!!」
 桃音に向けて叫んだのだった。そして桃音はそれに答え、呪縛符を連発。
 矢と呪縛符で完全に動きを封じられたイタチは、雲母に止めをさされたのだという。
 四人が二体目のカマイタチに止めを刺すほんの数分の事であった。
 ふむとユイスは考える。
「もしかしたら、あのカマイタチたちの目的はあの小さなイタチだったのかもしれないね。探しに来てたのかもしれない。アヤカシに家族や仲間意識があるとは思えないから違うかもしれないけど」
 青年が森で弱っていたようだからと拾い、檻に入れて隠していたイタチの話を寮生達は村の長だけに告げ、村人には秘した。とりあえず終わったことである。
「…だが、予想外だったな。雲母が桃音を守るとは…」
 帰路、妙に雲母に懐いた桃音を見ながら祐里は呟く。その表情はやや複雑そうだ。
 戦闘の後
「お前は今、まともな戦闘力を持っていないんだ。危険を察知したのなら他の連中を呼べ。自分一人で対処できると思うな!」
 雲母は桃音を叱りながらも
「…だが一般人からアヤカシを守ったのと、呪縛符を指示通り発動できたことは褒めてやる」
 そう言って、頭を撫でてくれたのだと桃音は嬉しそうに寮生達に語っていた。
「…そうだね。でも、彼女は意外に面倒見はいいんじゃないかと思うよ。小隊も率いてるし、譲治先輩は慕ってるし。桃音くんは、どうやら年上の強い女性に弱いようだしね」
 課題の後、桃音の表情はまるで氷が解けたように以前に戻った。
「桃音さんは、修羅や獣人を間近にみたことあるん? 怖いと思わへん?」
「思わないわよ。アヤカシはいくらでも変化とかできるもの。外形なんて気にする意味無いでしょ?」
「なるほど。そういう考え方もあるか」
 明るく笑いあう少女達と、輪に無理やり引き入れられてぶっきらぼうながらも共に歩く雲母。
 相変わらず馴れ合いはしないが、拒否もしない雲母の様子に彼女との対応に苦慮し続けてきた祐里はどこか気が抜けるような感じだ。
「彼女も朱雀を選んで入寮し、一年を共に過ごしてきた。朱雀の心はちゃんと持ってるし、伝わっているよ。心配しなくてもきっと、大丈夫」
「そうだといいんだがな」
 後輩を導くことで自分達も今までとは違う自分に変わっていくのかもしれない。
「行くか」「うん」
 二人は顔を見合わせると、歩を進めていく。
 自分達の道を仲間達と共に…。

 課題は合格と寮長からの評価が後に下った。
そして、桃音は今後も主として彼らと行動を共にすることになるだろうという連絡も。
 だが、それはまた後の事。
 今、彼らの眼前には進級試験という試練が待ち構えているのだから。