【朱雀】死と闇の龍
マスター名:夢村円
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: やや難
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/08/07 09:13



■オープニング本文

 いつもより少し遅くなったが一年生の定例講義が行われている。
 朱雀寮寮長 各務 紫郎が教壇に立つ。
 今日の講義内容は瘴気について、だ。
「瘴気というのはアヤカシを形造るものであり、同時に我々陰陽師の力の源でもあります。
 それらは精霊力と共にどこにでも存在しますが、当然ながら目に見ることはできません」
 瘴気を陰陽師である自分達は当たり前に使う。
 だが、それが一体どういうものであるかと問われれば、はっきりと答えられる者はおそらく少ないだろう。
「私達は瘴気を術や、アイテム、他、様々な事に利用します。しかし、それはそこに存在していたもの。アヤカシや魔の森から生じた者を利用しているだけで、瘴気を人為的に生み出すことが出来るわけではありません。また瘴気を完全に場から除去することも、長らく研究はされていますが、未だ陰陽師の能力ではできないというのが現実です」
 今の三年生にも瘴気のコントロールを研究している者がいるが、やはり難しい課題となるのだろう。
「瘴気と一口に言っても、厳密に言えば全て同じではありません。魔の森ごとや、アヤカシの種などによって違いがあり、術に使用する分にはあまり差はありませんが、アイテムや符の作成についてはそれぞれに適した瘴気があります。これらの違いや分類については簡単に説明できる類のものではなく、厳密な体系もありません。今まで、この瘴気をこれに使い、こういう結果が出た。だから同じ分類のこの瘴気はこのような結果が出るだろう、という考察に基づいて使用されている程度のものです。
 これらの知識は将来、符やアイテムの作成の専門家になる場合には必要になってきますが、今のところは皆さんにはあまり関係ないので気にする必要はありません」
 そう言って笑うと、寮長は寮生達に向き合った。
「さて、今回皆さんに与える課題ですが、基本はアヤカシ退治です。
 五行、西域のある山の山頂に強力な骸骨龍が現れたという報告があります。その山は稀に野生の龍が営巣することがあるのですが、それらが死んで瘴気が入り込んだものと思われます。それを皆さんに退治して頂きます」
 骸骨龍と聞いて寮生達は顔を見合わせる。
 アヤカシの中でもかなりの強敵である。ブレス攻撃は射程がかなり長いと聞くし、龍であるから当然飛行能力もあるだろう。それを一年生だけで退治することになるのだ。
「アヤカシの退治が課題ですが、いくつか条件もあります。まず第一に、寮を出発してから帰還まで村や町への立ち寄り、情報収集を禁止します。食べ物の補給なども不可です。偶然人に会ってしまった等は咎めませんがその場合にも原則として必要以上の会話はしないこと」
 つまり、下調べと準備はしっかりしていけということだ。
「第二に小隊として行動する事。単独行動は禁止です。骸骨龍を一人で倒すのは難しいと思いますが、それができたとしても協力行動が出来ていない場合は原点となります」
 そこまで言って寮長は、廊下に向けて声をかけた。
 失礼しますの声と共に一人の人物が入ってくる。
「三郎…先生?」
 そこには静かに笑う西浦三郎の姿があった。
 西浦三郎は陰陽寮講師。
 二年の実習を担当することが多いが、一年生もいくつかの依頼などで面識がないわけでは無い。
 神乱の戦いの後、姿をあまり見かけることが無かったが…。
「今回は彼が課題に同行します。三郎は壷封術と言って瘴気を封じる術を会得しています。その術により皆さんが倒した龍の瘴気を持参するように命じてあります。勿論、彼は課題である戦闘と退治には手を出しません。というより、彼に手を出させるような事態になったらそれは減点対象ということです」
 寮生達の間に緊張が走る。
 つまり彼は一年生達の護衛+実習の監督官と言うわけだ。
「私の事はあまり気にしなくていい。空気か瘴気だとでも思って自分達の課題に集中すること」
 彼は明るく笑うが、自分達の行動が全て見られていると思うと落ち着かないものはある。
「皆さんの今回の実習の結果が今後の進級課題にも関わってきますので気を抜くことなく取り組むこと。以上」
 寮長はそう言うと三郎と共に去って行った。
 詳しいことを教えて貰えないのは、いつもの事だ。
 強敵との戦闘。
 間近に迫る進級課題。
 寮生達はまだ見ぬ未来に向けて、知らず背筋を伸ばすのであった。


■参加者一覧
/ 雲母(ia6295) / 雅楽川 陽向(ib3352) / 比良坂 魅緒(ib7222) / 羅刹 祐里(ib7964) / ユイス(ib9655


■リプレイ本文

●一年生達の戦い
 骸骨龍。
 その存在を陰陽寮の資料で紐解くとこのような記載が出てくる。
『骨だけとなった龍の遺骸に瘴気が入り込んだもの。
 瘴気ブレスは口の前の空間に集積して放たれる。
 噴射力があり、射程が長い。
 特筆すべき能力値や特殊能力などが確認されているわけでは無いが、攻撃力、耐久力が極めて高い』
 不死系と分類されるアヤカシの中でも間違いなく上位に位置するアヤカシである。
「前に雲母(ia6295)さんと希儀で見たアレか。でっかいし、ごっついし…飛んどったな」
 資料を繰りながら雅楽川 陽向(ib3352)は思いかえす。
 あの時はその強大な能力を前に逃げ出すしかなかった。
 体長5mを超す巨大な身体が生み出す圧倒的な迫力は今、思いかえしても震えがくる。
 だが…
 不思議な事に陽向はあの強大な敵に向かい合うという今回の課題に対して恐怖を抱いてはいなかった。
(あの時とは、違うんや)
「陽向。こちらの資料をみてくれぬか?」
 筆を握り締めていた陽向は比良坂 魅緒(ib7222)の呼び声に振り返り、微笑む。
「解った。今行くで」
 そう。きっと大丈夫。
 自分達は一人で課題に挑むわけではないのだから…。

「色々調べたけど、やっぱり骸骨になっちゃうと生物としての弱点は残らなくなっちゃうみたいだね…」
 真夏とは言え、やはり夜は冷える。ユイス(ib9655)は焚火に薪を入れながら仲間達にそう告げた。
 西域へ向かう途中の夜、食事を終えた寮生達は炎を囲んで調べてきた情報を交換し合っていた。
 側には今回の試験官。西浦三郎がいるが、彼は最初から自分を空気か瘴気と思えと言った通り、話しかけない限りは沈黙を守っていた。
 下手をすればそこにいることさえ気づかない程、だ。
(西浦先生…調子は戻ったのかな、心配だね…。でも、今は自分達の事に集中しないと)
 ユイスは顔を戻して仲間達を見た。
 今回の課題では近隣での情報収集が禁止されている。
 村での補給なども禁止されているから、それぞれ選び、持ち寄ったアイテムと情報が頼りというわけだ。
 だから出発前も出発後もできる限りの情報交換をしなくては成功はありえないだろう。
「でも、逆に言えば不死系としての特徴や弱点はあるってことじゃないか?」
 考えるように顎に手を当てていた羅刹 祐里(ib7964)は一人場から離れて木に背を預ける雲母を見た。
「…ねえ、雲母くん。今回の敵は多分天儀で雲母くんや陽向くんが出会ったアヤカシと同じか近い敵…だよね? 前に接触した時の事、何か覚えてないかな?」
 祐里の視線に気づきユイスは勤めて明るい声で、雲母にそう問いかけた。
「『頑張れば勝てる』ようにしてくれた上級生達と違い、今度は手を抜いてはくれぬじゃろう。出発前、陽向とできる限り調べて纏めてみた。お主の記憶と食い違うところなどはあるか?」
 そう言って魅緒は雲母に書類を差し出した。
「雲母。今回は小隊としての連携が求められる。力を…貸してはくれないか?」
 言葉を選びながら頭を下げる祐里と真っ直ぐに自分を見つめる陽向。
 ふん、と鼻を鳴らして後、
「やれ、面倒な縛りがあることで、仕方がないな」
 彼女は書類を受け取った。
「雲母さん!」
 ぱあっと表情を明るくした陽向に意識は向けず、雲母はここ、と書類の一部を指差した。
「あの時の龍は体長6m以上はあった。それから、おそらく大した知性は無い。目に見えたものを邪魔に思って攻撃する。自分を攻撃するものを倒す。それくらいの…せいぜい獣程度の知性だろう。希儀で見た時も我々を追撃してくることはなかった」
「ああ、そやね。そうすると、連携とか囮とかの作戦が有効かも…」
「瘴気のブレスの射程はかなり長かった。だが一直線で追尾式というわけじゃない。射線をずらして攻撃すれば直撃を喰らう事は無いだろう」
 雲母の推察は戦闘経験に裏付けされた正確なものだ。
 一年生達は自然と周囲に集まって輪を作る。
「とりあえず相手といかに距離を詰めるか。詰めてからどうするかが問題だろう。奴とは違い我々はそこそこ近づかなければ術が届かんしな。
 纏まって行動して防御しながら進むか。分散して一気に近づくかで呪符を使うかどうか別れるかね」
「そうだね、まず近づくところから。
 分散して近づくか、纏まって近づくか、か。…分散していくのがいいかもね」
「確かに。分散が良いだろうな、理にかなっているし」
「戦法はそれでいいだろう。雲母は主砲として期待できる。ユイスや祐里は今回支援系で動くと言っていたから妾は攻撃で支援しようと思う」
「…なあ、うち、ちょっと試してみたいことがあるんやけど…」
 真剣に意見を出し合い、互いの役割を確認する一年生達。
 その様子を三郎は微笑みながら見守るのであった。

●自らの役割
 目的の山にたどり着いて後は登山。
 なるべく敵に気付かれないように注意しながら、一年生達はアヤカシやケモノとの戦闘を極力避けて山頂を目指した。
 切り立った崖の見える山頂近辺に辿り着いた時、彼らが見たものは全長約7m。
 相棒である騎龍達が子供に見える程に、依頼通り、いやそれ以上に巨大な骸骨龍であった。
 龍が佇む崖の前には数十を超える龍の骸骨が転がる。
 話に聞く通りここは、野生の龍達の墓場なのかもしれない。
「やっぱり、大きいね」
 ユイスが息を呑み込む様に言った。人魂の烏から送られた光景を見るとなおのことそう思ってしまう。
 緊張したり、怖いと思っているわけではないと思うが…微かに手が震えるのを感じるのだった。
 龍は今の所、空に飛び立ったり、どこかに行こうとする意図は無いようだ。
 骨の山の中に蹲るように身を伏せている。
「できるだけ飛ばれ無い内に対処したい所だね」
 ユイスが言う横
「本当に、やるつもりなのか? 陽向?」
 心配そうに問う魅緒にうん、と陽向は頷いた。
「大丈夫。勝算がないわけやないし、無謀とちゃうから。皆を…信じてるからやるんや」
 迷いのない瞳。魅緒はそうか、と頷くと仲間を見た。
「そういうわけだ。囲い込む様に分散。攻めに入ったら一気に行く!」
「うん」
 そして魅緒は雲母を見た。
「頼んだぞ。我らが主砲」
「私が手を出すのは最後に決まってるだろう」
 ぷかりと煙管を吹かしながら雲母はいつもの調子で答える。
「慣れ合う事はしない。それは何度も言っている通りだ」
「雲母!」
 しかし、その言葉に続く彼女は煙管を懐に終い、武器を手に取っていた。
「だが、やるべきことはやる」
「…ああ、それでよい。皆も…よいな?」
 無言で頷き、視線を交わし合う。
 一年間を共に過ごしてきた者同士の無言の信頼がそこにはある。
「行くぞ!」
 魅緒の言葉に仲間達が分散したのを確かめて、
「魅緒さんの言う通り、雪辱戦や。まけへんで!」
 強く手を握り締めて、陽向は一人真正面、骸骨龍に歩み出るのであった。

●骸骨龍との死闘
 陽向が自ら選んだ役割は「囮」である。
 知性の低い骸骨龍を正面から引き付け、分散して取り囲む仲間達の一斉攻撃を助ける事。
 だがそれは、敵の攻撃を真正面から受ける、一番危険な役割であった。
 無論陽向はそれを理解したうえで、この囮の役を自ら志願したのだった。
 龍の墓場。龍の骨が積み重なっている。
 何も知らない者が見ればただの骨の山にしか見えない、そこで骸骨龍は近づいてくる人の気配に気付き、ゆっくりと頭をもたげた。
 微かにたじろぎながらも陽向は足を止めず、前に進んでいく。
 一歩、また一歩と進むごとに骸骨龍に近づいていく。
 そして近づく度に龍もまた、ガシャリ、カシャリと音を立てて身体を起こしていく。
 陽向も慎重に歩を進めていった。
 天儀でこの龍と相対した時、瘴気ブレスを浴びせかけられた。
 その時、気配も感じない程遠くから、攻撃を受けたのだ。射程がかなり長いであろうことは想像できる。
 術の発動準備は怠りなく。一歩、また一歩と進んでいく。
 と、その瞬間であった。
 ゴオオとも、ガアアとも表現できない音と共に龍の口が大きく開いた。
 感じるのは塊のごとき瘴気の渦。
 それが弾丸のように陽向に向けて放たれたのだ。
「来た! 頼むで!!」
 敵の攻撃が来るのは解っていた。だから、陽向はその瞬間を見逃さず結界術符「白」を発動させたのだった。
「くっ!!」
 台風の大風、大嵐の中、傘をさすのにも似た圧力が陽向を襲う。
 地面の小石や砂も巻きかえり足元に爆ぜる。
「でも…なんとか瘴気のブレスは止められる。賭けは…成功や」
 そう思った瞬間、目の前からフッと結界術符が消えうせた。
 幸い瘴気の塊そのものはほぼ通り過ぎた後であったようである。
 陽向は残り風に押し出され尻餅をつく。
「いたたたた。でもこれくらいですんで良かった。おっと!」
 とっさに立ち上がった陽向が身を躱すのとほぼ同時、骸骨龍の腕がほんの数秒前まで陽向がいた場所に強襲する。
 ぎりぎりの所で避けて陽向は渾身の錆壊符を龍の身体に向けて打ち込んだ。
 強酸を吐き出すスライムが龍の手足に絡みつき龍の動きを鈍らせる。
 骸骨龍に武器を錆びさせる効果は期待できないだろうが、少しでも動きを抑制できれば陽向は自分の役割を果たした事になる。
 スライムを強引な羽根の羽ばたきで払い、空に逃げようとする骸骨龍。
「皆、今や!」
 陽向は渾身の声を上げる。
「下がれ。陽向!!」
 その声に呼応するようにまず放たれたのは龍の背後からのクロスボウ掃射であった。
 再び陽向にブレス攻撃を見舞おうと頭をもたげかけた龍の首や頭を狙って雲母が攻撃を続けている。そんな中放たれた二度目の瘴気ブレスは、陽向の真横を抜けていく。
 さらに続けて放たれる矢は翼の付け根、足首などの骨を的確に砕いていく。
「骨だけだからこそ、砕くのは容易い」
 そこを狙って魅緒が氷龍でピンポイント攻撃を続けていった。
 骸骨に知性や痛覚は無いと聞く。
 だが龍にも、目の前に現れた人間によって、自分の身体が、思うようにならない事、空を飛ぶことができなくなったことは理解できたようだった。
『ギヤアアア!!』
 高い雄叫びを上げ、怒りに我を忘れたかのように暴れている。
「幻影…は効きが弱い…か。でも、呪縛符は効いてる筈、動きは…鈍っているよ!」
 ユイスと祐里は繰り返し呪縛符をかけて敵の動きを縛っている。
「今なら…行けるか!」
 魅緒はひらりと陽向の側、敵の前に舞い降りた。
「魅緒さん!」
「陽向。もう一度ブレスが来たら盾を頼めるか?」
「…勿論や。任せとき!」
「よし、任せた!」
 鮮やかに笑うと魅緒は龍の眼前に立つと
「一年半過ごせばいつまでもヒヨコではないぞ。行け! 氷龍!!」
 氷龍を放ったのだった。
 再び瘴気ブレスが吐き出されるが、陽向が再び結界術符「白」を繰り出す。
 さっきより威力を増したブレスによって二人は少なくない余波を身に受ける。
「くっ!」
「大丈夫か? 陽向?」
「うちは平気や。魅緒さんこそ!」
「痛まない訳では無いが…今はまだそんなことを言っている場合ではない」
 それでも怯まず一直線に敵に向かった氷龍は骸骨の眉間をバチンと音を立てて砕いた。
 だが敵にまだ明確なダメージが蓄積したようには見えない。
 翼が砕けても眉間が割れても、骸骨龍は攻撃を続けてくる。
「わっ!」
 ブンとふられたしっぽをユイスはぎりぎりのところで避ける。
 そして繰り返し呪縛符をかけた。
「僕には西浦先生や、劫光先輩のような力は無いけど…的確に急所を狙えたら…」
 人の心臓などのようにはっきりとした弱点や急所は骸骨には見えない。
 ならせめて動きを封じなければ。
 ユイスは敵の攻撃をぎりぎりのところで見極め躱しながら巨体を支える足元に踏み込んだ。この足で踏みつぶされたらひとたまりもない。
「だからこそ!!」
 渾身の力で柱のように太い足の骨に剣を叩きつけた。
 折しも龍は眼前の陽向と魅緒に翼を振り上げ、強攻を仕掛けようとしていたところ。
「危ない!」
 だが、ぎりぎりで踏み込みに力が入らず骸骨龍はがたりと崩れ、攻撃は空を切った。
 その余波だけでもかなりな衝撃ではあるが、寮生達は怯まなかった。
 細かい傷などはきりも無いが、敵も繰り返し続けられる雲母と祐里の射撃に、ユイスの攻撃に確かにダメージを蓄積させている筈だ。
「そろそろけりをつけたいのお。…陽向。行けるか?」
 治癒符をかける友を魅緒は見た。
 何度も囮を勤めて体力も気力も底をつきかけている筈だが、陽向は躊躇いなく頷く。
「うん。もう一回、うちらが攻撃を引き付けよう。その隙に、きっとみんなが決めてくれるから」
「おうよ…。頼んだぞ」
 声として届きはしないだろうが、魅緒はそう告げると再び立ち上がった。
「思えば、他人の事を考えながら術を編み出すなど昔はなかったな。仲間同士補いあうからこそ、できることがあると…知った」
 再び敵の眼前で術を紡ぐ。今度はブレスではなく、再びの強攻で攻めてきそうだ。
「妾達は、負けぬ!!」
 魅緒が氷龍を放つと同時、龍が翼を大きく振り上げて、下す!
 結界術符は瞬間で砕けて、二人は攻撃の直撃こそ喰らわなかったが吹き飛ばされた。
「わあっ!」
 しかし、骸骨龍の抵抗はそこまでであった。
 骸骨龍を取り巻く黒い影。あれは混沌の使い魔…。
「雲母さん…」
「止めだ!!」
 累積されたダメージに骸骨龍の身体が崩れ始める。そして…雲母は最後の斉射を放つ。
 タイミングを合わせて繰り出された祐里のロングボウ「流星墜」の矢と、ユイスの剣にもうさすがの骸骨龍も反撃の力を見せることは無かった。
「消えよ!」
『ぐおおお!!』
 ひときわ大きな断末魔の声を上げ、骸骨龍だったものは骨に返り、ばらばらと地面に落ちていく。
 離れていく黒い瘴気は、
「先生」
 今まで沈黙を守っていた西浦三郎の術によって、壺へと吸い込まれていった。
「良くやったな」
 瘴気を封じた壺を抱え、三郎は満面の笑みを見せる。
 魅緒と陽向はその笑みに…疲労困憊で、もう動けなくなって地面にへたりこんでいたが…
「うちら…やったんやね」
「ああ…そうだ」
同じ笑顔で答えたのだった。

●今までと違うこれから
「無事、全員で戻ってきて何よりです。合格ですね」
 依頼を終え、報告にやってきた一年生達に、朱雀寮長 各務 紫郎はそう告げて微笑んだ。
「強敵相手で大変だったでしょうが、今回の課題で皆さんも、それぞれ得るものがあったと思います。
 それを今後に生かして行って下さい。
 それから、次回の委員会までに皆で話し合って皆さんで製作する死霊符の名前と図柄を決めること。
 進級試験は小論文試験の後、実技になります」
 一年生達を労い、指示を与えた寮長は彼らが退室して後
「ご苦労様でした。それで、貴方から見た一年生はどうでしたか?」
 試験監督官である三郎に問いかけた。
 答える三郎の表情は、とても柔らかい。
「今の三年や二年と比べると、いろいろと危なっかしい印象はあります。でも、彼等はそれぞれやるべきことを理解している。
 皆で連携し、助け合うこともできる。
 一年間を決して無駄には過ごしていない。と、そう感じました」
「…それを聞いて、安心しましたよ。正直、心配であったのです。前回、少し厳しいことを言ってしまったのでもしかしたら傷つけてしまったのではないか…とね」
 小隊として行動し強敵を倒すというのは例年の課題であるが、今回の一年生達がそれを無事為しえるかどうか、寮長は心の奥で案じていた。
 だが、そんな心配は無用であった。胸を撫で下ろしたかのように息を吐く寮長に三郎は眦を下げた。
 意外だが寮生に対して彼はけっこう心配性なのだと軽く肩を竦めて見せる。
「彼女なら、いいえ、彼らなら大丈夫ですよ。ぶつかり合い、時に傷つくことがあっても、きっとそれを乗り越えて強くなってくれる。それだけの強さを持った子達です」
「ええ、私も、そう信じています」
 これからの陰陽寮を担う寮生達の未来を、その強さを、教師たちは信じるのであった。
 

 課題終了後の廊下にて。
「そういえば、西浦センセってまだ十代なんやて。知っとった?」
「ほお? そうだったのか?」
「うん。うちがお子さんいるんやろか? いるなら一緒に遊ぼ言うたら、『私は独身だ』言うて、そう教えてくれたんや。うちらと歳はそう変わらないんやて」
「へえ、凄いね」
「だが、それでも十代後半じゃろう? 寮長もまだ独身と言っていたし、大丈夫なのか? 五行の男陰陽師達は…」
「でも、な〜んかセンセには恋人がいるっぽい。話の途中で顔を紅くしとったし…」
「じゃあきっとその恋人が西浦先生を支えてくれているんだね。先生、だいぶ元気を取り戻していたみたいだし」
「人はどんなに強くても一人じゃ戦えないんだ。誰かがいるから強くなれるんだ。…きっと…」