【朱雀】未来への力
マスター名:夢村円
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 普通
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/06/10 21:23



■オープニング本文

 国を揺るがした戦乱が終わり、五行国は一応の静寂を取り戻しつつあった。
 勿論 まだ事後処理の全てが終わったわけでは無い。
 復興しつつある五行北東とは反対に五行東では里が魔の森化し多くの人々が避難を余儀なくされている。
 問題は山積みであるがそれらは一つ一つ解決していくしかないのだと、朱雀寮長各務 紫郎は集まった二年生達に授業の再開と共にそう告げた。
「授業が後ろ倒しとなり、卒業、進級が延期されたとはいえ、取り消された訳では決してありません。
 三年生はそう遠くない後に卒業しますし、そうすれば皆さんは三年生です。今まで以上に自覚と責任感を持って授業に取り組んで貰わなくてはなりません。
 課題に一切手加減はしませんよ」
 進級、三年生。
 寮生達は顔を見合わせ背筋を伸ばした。
「まず先に、今回皆さんには小さな森のアヤカシ退治を担当して貰います。西域では五行東からの避難民の新しい生活や、今後の為に森を開拓し、村を開く計画があります。
 その為に村にいるアヤカシを退治して下さい。種類は虫やケモノ系。数は多いですが、まあそれほど問題は無いでしょう」
実技課題と聞いて殆どの二年生はまず、昨年の事を思い出していた。
 一年の時の進級試験。その実技課題は符の作成。
 皆で意見を出し合い、相談し作り上げた守護符「翼宿」は今も彼らにとって大切な品である。
 進級の話が出たから、てっきり今回もその関連かと思ったのだが授業としてのアヤカシ退治。ごく普通に思える。
「その森は良質の木材を算出することで有名です。森を守る事は皆さんのためになると思いますよ」
「?」
 寮長の意味深な言葉に寮生達は首を捻った。
 そして気付く。
『…まず先に。今回皆さんには』
 寮生達が気付いた事に気付いたのだろう。ニッコリ笑って寮長は続ける。
「加えて、アヤカシ退治の中、皆さんには相談もして貰います。昨年と同じ実技試験課題のデザインです」
 アヤカシ退治をしながら相談を進めろと寮長はさらりと言う。
「二年の実技試験は術道具作成です。皆さんにも新しい呪術道具を作成してもらいます。昨年の三年生と同じように呪術人形制作です」
 呪術道具作成、人形…と聞いてまた思い出すことがある。
 三年生が持っていた陰陽人形のことだ。
 普通の陰陽人形を使う者もいるが、 その中で全員が所有し大事にしている人形を見たことがある。
 正確には「人形」ではないが。
 呪術鳥人形「朱夏」。
 鳥を模した陰陽人形は他に類がなく、彼らの思いと願いが込められた人形は華麗なまでに美しく空を舞う。
「傀儡操術は呪術人形を操るスキルです。普通の人形では使えず、呪術の込められた人形でなくてはなりませんが、逆に言えば呪術が込められある関節を持つモノであれば幅はかなり持たせられます。実際に三年生が作った鳥人形も鳥の種類は全部違いますし、既存の人形も、猫に熊、もふらと様々です。材質も、石、木、布、紙と色々。今回の材質や外見などは皆さんが決めて構いません」
はい。と質問の手が上がる。
「全員同じ人形…ですか? 皆で力を合わせるの前提の人形とか、一人一種類の人形と言うのは…」
「一学年、一種類です。符の時と同じように準備その他に時間がかかります。勿論実際の製作の時、顔や髪形等も含め多少の個性は付けられますが、あくまで作られる人形は同じ名を持つものです。基本骨子が同じと思っていいでしょう」
 つまりいろいろな外見はあっても、人形「移身」は「移身」。
 三毛猫でも、虎猫でも猫人形は猫だということだ。
「関節があり、ある程度動かせる生物系であれば外見は自由です。人型か、動物型か。材質は何か、攻撃重視か、守り重視か、名前はどうするか、そういうことをよく相談して決めて下さい」
 勿論、先に行った森のアヤカシ退治をしながらです。小物が多いですがどんなアヤカシがどこに出現したか種類、生態を確認し、退治を行って下さい。期間は五日間。その間に皆で相談して人形のデザイン、基本骨子も決める事。それが今回の課題です。なお、意見が纏まらなかった場合には大きな減点を課した上で、私が決めます。無論、アヤカシ退治に失敗した場合には失格です」
 意見を出さなくては話が進まない。しかし押し通し過ぎてもいけない。
 進級の事ばかり気にしてアヤカシ退治を失敗したら失格。
 進級試験とアヤカシ退治。 
 どちらもおろそかにしてはいけないということだ。
「進級課題は学年を上がるにつれて厳しくなります。一年生の時とは違った意味で皆さんはこの学府の最高学年に相応しいかどうか試されるのです。
 やる気や努力、能力が足りない場合には留年もあり得ます。陰陽寮の最高学年になるということがどういうことか、皆さんならもう解る筈です」
 先輩開拓者達の背中を見てここまで来た二年生達は『解る』。
 国を背負う自覚と責任。求められる覚悟が…。
「自分が望む道、目指す未来をしっかりと内に持ち、その為に必要な力が何か再確認することが、今回の課題の一番の目的です。また、生み出される人形は、皆さんが命を与え共に戦うパートナーでもあります。心して取り組んで下さい。以上」
それだけ言うと寮長は去ってしまった。
「人形の、作成か…」
 残された寮生達は、目の前に広げられた新しい課題と言う名の大河を戸惑いながら今はただ見つめるのであった。

 寮長は思う。
 来年度からは授業内容の大幅革新も求められて来るかもしれない。
 裏切り者を出した朱雀寮への風当たりは今も小さなものでは無い。
 だが、陰陽師として心を重視する朱雀寮。
 その基本理念は自分がいる限り変えることはしないと紫郎は誓っていた。
 
 未来へ羽ばたく鳥達の休み場であり、鍛錬の場であること。
 この場では失敗しても悩んでもいい。
 実際の戦場では迷う事もできないことがきっと多いのだから。

「がんばりなさい」
 彼は振り返りそっと祈りを呟くと寮長の顔で戻って行くのであった。


■参加者一覧
芦屋 璃凛(ia0303
19歳・女・陰
蒼詠(ia0827
16歳・男・陰
サラターシャ(ib0373
24歳・女・陰
カミール リリス(ib7039
17歳・女・陰


■リプレイ本文

●実習の再会
 初夏、六月の森は輝かしく、美しい。
「森の澄んだ空気と暖かな日差しを受けると落ち着きますね」
 森の入口で木々を見上げ、木漏れ日に目を細めたサラターシャ(ib0373)が嬉しそうに呟く。
「確かに気持ちええけど…。なあ? サラターシャ?」
「はい? なんでしょう?」
 芦屋 璃凛(ia0303)の問いにサラターシャは小首を傾げた。
「手に持ってるバスケット。それ…何?」
 今回の実習は森でのアヤカシ調査も含まれている。
 その為の準備は勿論、璃凜もサラターシャもしているが、それとは別にサラターシャが大事そうに持っている籠が気になったのだ。
「あ、これですか? 紅茶セットと、クッキーです。疲れた時や相談の時、皆で頂けたらいいな、と思っています」
「僕も、お弁当持ってきましたよ。野営の為の鍋やフライパンもあるので、夕食は任せて下さい」
 明るく言うのは彼方である。彼のバックパックもかなり大きい。
「遊びに行くんやないんやで」
「「勿論」」
 二人は異口同音に言葉を発した。その目には強い意思が感じられ璃凛は息を呑んだ。
「この森に移り住まれる人々の為にもしっかりと調査、退治はしませんと」
「それに、進級の為の大事な話し合いですからね。疎かにはできませんよ」
「それなら、安心やな」
「進級の為に呪術人形のアイディアを考えつつ、アヤカシ退治もキッチリと、ですね」
 仲間達の会話に蒼詠(ia0827)が微笑み頷く。
「怪我に備えて薬草とかの補充もしてあります。勿論、使わないに超したことはありませんが」
 そうして森を見つめる。
 今まで幾度となく踏み込んだ魔の森や、合戦でのアヤカシ溢れる戦場に比べれば確かにここはまだのどかである。
「まあ、やるべきことはしっかりとやりつつ、楽しむでいいんではないかと思いますよ。ほら、清心さんも元気を出して」
 どこか元気のない様子の清心の背をカミール リリス(ib7039)がポンと叩いた。
「まあ、どうしたん…」
 ですか、と続けようとしたサラターシャを引き寄せた彼方と蒼詠が首を横に振り耳打つ。
 彼はかつて白虎寮に所属していたことがある。
 用具委員会で白虎寮の備品を貰いに行った時、廃墟となったその様子を見て、ショックを受けたようだ。と。
「…解るんですけどね。ようやく片付けが始まったとはいえ、結構酷い状況でしたから」
「そうですか…」
 それならどんな励ましの言葉もあまり意味がない。
 俯くサラターシャであったが落ち込む気持ちを振り払う様に首を横に振って仲間達を見る。
 課題とアヤカシは待ってはくれないのだ。
「とにかく、実習に入りましょう。気持ちを切り替えて。やるべきことはしっかりやらないと。…清心さんも大丈夫ですね」
「うん、解ってる」
「なあ、ちょっと、考えていることもあるんや。…後で話すけど…」
 清心が顔を上げたのを確かめて、二年生達は気持ちを切り替え、森へと進んでいくのであった。

●森の中での戦闘
「皆さん! 向こうの方に狼の群れ! 多分怪狼ですね。剣狼が率いているようです。どうします?」
 人魂で周囲を偵察していたリリスが声を上げ、木々の向こうを指さした。
「勿論、退治がうちらの仕事やから、倒すしかないやろ? うちはいつもどおり前衛に行くけど、誰か援護してくれへんやろか?」
 璃凜の言葉にはいと、彼方が手を上げた。
「璃凛さん程は動けないかもしれませんが、背後を守るくらいならなんとか」
「助かるわ。じゃあ、うちと彼方が前に出て、敵を引き付ける。できればみんなは敵を一か所に集められるように援護してくれへん?」
「それは…構いませんが、敵を散らすのではなく、集中させていいんですか?」
「ん、ちょっとやってみたいことがあるんや。敵がある程度纏まったら、皆は後ろに下がってな」
「解りました」「気を付けて」
 かれこれ二年を共に過ごしてきた仲である。言葉にせずとも伝わるものはある。
「行きましょう!」
 頷きあって彼らはアヤカシの前に飛び出して行った。
 なるべく気配を消していた事もあって、先手は二年生。
 氷龍が群れる狼達の中心を真っ直ぐに貫く様に走る。
「彼方さんも氷龍を選ばれたんですね」
「火炎獣だと、森を焼いてしまうかもしれないからって」
 中衛を守る清心がサラターシャの呟きに答え、彼女は微笑む。
「そうですね」
 既に開かれた戦端。彼方は術と剣を使い分けながら敵に切り込み、璃凛は体育委員会仕込みの見事な体術で敵の攻撃を巧みに躱していく。
「璃凛さんは、少し戦い方が変わられたでしょうか?」
 サラターシャはその様子を見ながら思う。戦いの先頭に立つ姿は変わらないが、切り込んでいくのではなくアヤカシの動きを読んで彼方と連携していく。
 以前に比べて動きが洗練されたように見える。
 一年のころに比べれば安心してみていられるが、数が多いので二人では殲滅は難しい筈だ。
「敵は…集中させた方がいいのですよね?」
「ええ。蒼詠さん、カミールさん、清心さん、手を貸して頂けませんか?」
 サラターシャは後衛、中衛の仲間達に耳打ちをする。そしてそっと左右に別れた。
「今です!」
 蒼詠とリリス。そして清心が怪狼とそして後方にいる長らしい剣狼に向けて連続して呪縛符を放つ。
 伏兵の存在に気付き、飛びかかろうとする狼アヤカシ。
 だが…
『ギャウン!!!』
 それは突然目の前に現れた白い結界術符に激突して、地面に悲鳴を上げて転がる。
 木々の配置を巧みに利用してサラターシャもまた連続して、結界術符を発動させる。
 一枚、二枚、三枚。退路を塞がれた狼達は自然にその壁の中に集まって行く。
「よし! 彼方! 皆を後ろの方へ!」
「了解!」
 彼方が遠ざかるのを確認して、璃凛は符を構えた。
「悲恋姫。初めて使うけどどんな姿やろか」
 呪文と共に術が発動され、朱色の羽が舞い飛ぶ幻想の中、美しい女性の式が璃凛の前に現れ出でる。
 白い壁に囲まれ、もはや一方向にしか進めぬようになった狼達は、その方向。
 璃凛と式の待つ方へと。
「行け! 悲恋姫!!」
 首輪と鎖に繋がれた悲恋姫は両手を挙げて空に声を響かせる。
『――――――!』
 頭の奥まで響くその呪いの声に狼アヤカシ達はのた打ち回るように苦しみだした。
 両手を前に折って倒れ伏すモノもいる。狼達は怨嗟の籠った眼差しで悲声姫を見つめている。
 一匹残らず、全て。
 だが、璃凛が悲恋姫を見つめる目は違った。自らが作り出した筈の式を不思議な思いで見つめる。
「誰やこの人…どこかで見たような気が、めっちゃ、懐かしい気がするんやけど」
 恨みの声を放つその美しい横顔に感じた既視感の理由は解らない。
「璃凛さん!」
「大丈夫ですか? 怪我は?」
 退避した仲間達が戻ってくる。と同時に悲恋姫は消えた。璃凜は思いを振り払い
「大丈夫や。狼達は今、動けへんやろ。一気に片づけるで!」
 仲間達と共にアヤカシ退治と言う現実に向かい合うのであった。
 

●相克の先に
 その森には、かつてもっと人が多かった時期には開けた場所に小さな村というか集落があって何家族かが住んでいたらしい。
 アヤカシの増加に伴い、人々は村を後にしたのだろうが。
 人が住まなくなった村は荒れ果てているが、まだ屋根があり、炉なども残されていたので寮生達はそこを拠点とすることにしていた。
 無論、そこにも少なくないアヤカシ達がいたが大よそは鼠など。
 冷静に戦えば寮生達の敵では無かった。
「あ〜。満腹満腹、昼間食べた弁当も美味やったし、彼方はやっぱ、料理上手いな」
「ありがとう。褒めて貰えると嬉しい。残さず食べて貰えるのは料理人冥利に尽きるしね」
 軽く後片付けをする彼方の横では、サラターシャが紅茶を入れている。
「流石にティーカップで、とはいきませんが」
「十分でしょう。ありがとうございます」 
 差し出された湯呑とクッキーを受け取って、蒼詠はふうと息を吐き出した。
「やっと落ち着きましたね」
「思った以上にアヤカシがいましたからね」
「ほとんど小物やったけどな。まったく群れられるとアヤカシは本当にやっかいや。人がいないとアヤカシも沸くんやろか?」
 リリスと璃凜が頷く。今日、一日は本当に大変だった。
 最初の狼に加え、似餓蜂に夜雀、怪鳥の群れなどには手こずらされた。
「でも、皆さんが頑張って下さったおかげで大分数は減ったようです。この調子であればアヤカシ退治に関しては、寮長に自信を持って報告ができると思いますわ」
 サラターシャはニッコリと微笑んで言うが、そのさりげない言葉に寮生達の背中はピンと伸びる。
「アヤカシ退治に関しては…やね」
「ええ。そろそろ、もう一つの課題の方も進めていきませんか?」
「勿論、です。呪術人形、ですか。僕達の…大切なパートナーとなるわけですから良く考えないといけませんね」
 考え込む蒼詠。サラターシャは仲間たちを見回し
「去年の符の作成を思い出します。素敵な人形を作りましょうね」
 微笑んだ。課題に取り組もうとする真剣な空気が心地よい。
「具体的にはまだはっきりとしないのですが、私は小さめが良いのではと思っています。
 普段身につけたり、持っていたりしても違和感がなく、持ち運びが簡単にできたら良いなと思っています。
 皆さんはどんな呪術人形を考えられていますか?」
 まず叩き台として自分の意見を述べ、仲間の意見と擦りあわせて行く。
 的確な主席の場の展開に感心しながら
「そうやね。麒麟なんて、どうやろ?」
 璃凛も自分の思いを告げる。
「麒麟、ですか?」
「白虎、とも迷ったんやけど…聞くところによると青龍寮。無くなるかもしれんのやて。白虎寮は皆も知っての通りやし…」
「五行思想、というものですね? 朱雀、玄武、青龍、白虎、それに麒麟が加わり互いに力を高め合うと言う…」
 思い出したように言う彼方にそうや、と璃凛は頷く。
「四寮があった事を忘れたくないんや。陰陽寮の陰陽師としていつか再建でき四寮体制に戻る事を願いたい。そういう意味を込めて」
「う〜ん。 麒麟でも、良いですけど、凝り過ぎでは無いですか? と言いつつ、ボクはトトにしようかと思ったんですが…」
「リリスさん。不勉強で、すみません。トトとはなんでしょう?」
「トートとも言われている獣人の女神で、身体はヒヒ。知恵の神、書記の守護者、時の管理人、楽器の開発者、創造神などとされるものでアル=カマルではポピュラーな神様なんですけどね。素材は作るなら、石ですかね」
「いろいろな神様がいるのですね。でも、石では素材として難しい様な気がします。麒麟も造形的に複雑になるので重量がかなり重くなりはしませんか? 私は子猫など、どうかと思っているのですが…」
「自身の姿…とか考えたりしていましたが、それだと既にあるも同然なんですよねぇ。先輩が持っていたり、市場に出回っていたり…」
「確か、現身でしたっけ。人型は定番ですけど、ちょっとありふれた気もしますからね。ちょっと試しに木組みしてみましょうか?」
 真剣な討論は、行きつ戻りつつなかなか纏まらなかった。
「麒麟はちょっと難しすぎるやろか…う〜ん、あれ?」
 その中で少し場を離れ、伸びをした璃凛は清心に気付いた。
 話の輪から何時の間に外れ、空を見上げる彼。
 決して控えめな方ではない清心が今回の実習で妙に大人しい理由。それに気づいた璃凛は手を握り締めると踵を反し輪に戻った。
「ねえ、うち、麒麟取り下げる。手のひらサイズの子猫でええと思う。ただ、聞いて欲しいことがあるんやけど…」
「聞いて欲しいこと?」
 小首をかしげるリリスに頷いて璃凛は仲間達に自分の思いを告げたのだった。
「それ、いいですね」「では、具体的には…」
 その後、夜遅くまで試験課題について話し合う寮生達の声が途切れることはなかった。

●統ばる力達
「守護猫「昴宿」(マモリネコ「スバル」)。守り重視の軽量型子猫、ですか?」
 無事課題を終え、戻ってきた二年生達からアヤカシ退治終了の報告と共に、決まった課題の呪術人形のデザインを聞いた寮長は確認するように問うた。
「はい。ギリギリまで考えたのですが、最終的に璃凛さんとリリスさんが譲って下さり、そのような形に。大きさは手のひらサイズの子猫に。素材は木を使い枠組みして、中を空洞にする事によって軽量化を図ります。布・紙・漆喰を塗り張りして、それぞれの個性を出せるといいと思います」
「なるほど…」
 説明を聞きながら頷いていた寮長は、そこで顔を上げて寮生達を見る。
「そして、この申請に続くわけですか? 白虎寮の廃材を使いたい、と」
 目で問う様に。
「はい!」
 答えたのは璃凛であった。
「四寮があった事を忘れたくない。陰陽寮の陰陽師としていつか再建でき四寮体制に戻る事を願いたい。…廃材が残っているのならば少しでもそれを活用して無駄にしたくない。…うちらは、朱雀寮のもんですけど、陰陽寮の陰陽師や。せやから…、なんも知らんけど白虎寮の事忘れとうないんです」
 璃凛は一度後ろを見た。清心と目が合う。彼が笑顔を返す。それが…勇気をくれた。
「だから寮長、白虎寮の廃材を人形に使わせてもろうてもええでしょうか。お願いします!」
「昴は28宿の内、白虎が司る宿です
六連星の宿で、統ばる「集まって一つになる」という意味を持っているそうです。皆の力と心を一つにする。その意思を表したいと思います。本体に使うのが難しいならせめて猫の首輪だけでもそう、できたらと…私からもお願いします」
「お願いします」
 六つの頭が深々と下がった。
 黙ってその様子を見ていた寮長は
「顔を上げなさい」
 二年生達にそう告げる。微笑みながら。
「皆さんの気持ちは解りました。私がこの場で返事が出来る事ではないですが、反対される要因もないことです。おそらく許可できると思います」
「ホントに!」
 頷いて彼は別の書類を手にとりながら頷く。
「アヤカシ退治も、呪術人形デザイン作成も無事両立しました。良くやりましたね。合格です」
「ありがとうございます」
 文字通り、飛びあがる様に喜んだ二年生を見送って後、寮長は手にした書類を見やる。
 サラターシャの書いた報告書に添えられた地図には今後、森に移住してくるであろう民の為に、地形。アヤカシ以外のケモノの配置その他、細かい調査が添えられていた。
「心も、能力もしっかりと育っているようですね。このまま、健やかに美しく育って、力を合わせ、輝いてほしいものですね。昴の星の様に…」
 寮生達が聞く事の無い呟きと表情には、寮長の願いと祈りが込められていた。

 かくして、彼らは一つ、進級への階段を登る。
 その先にある三年生と言う未来への道を進む為に。