すごい(?)もふらをさがせ
マスター名:夢村円
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/05/28 00:16



■オープニング本文

 ジルベリアは天儀とは全く違う歴史を持つ儀である。
 そのせいだから、というわけではないのだろうが、生息する動物、精霊やアヤカシも天儀とは少し違う。
 天儀にいるのにジルベリアにはいないものもいる。
 その代表がもふらであった。
 ジルベリアにはなぜかもふらが生息していなかったのである。
 天儀との交流が盛んになり、もふらは愛玩用として人気を博し、今では少なくない数輸入されている。
 リーガにはもふらの牧場のような場所もあるし、金持ちなどを中心に飼っている家もある。
 勿論、開拓者が連れている相棒もいるだろう。
 だか、それでも
「森の中で、もふらを見た?」
 そんな報告にジルベリア、南部。ラスカーニア城主ユリアスは首を傾げた。
 もふらが森の中にいる。そんな話はジルベリアでは聞いたことがない。 
「はい。最近そんな目撃報告が多いのです」
 領地の警備を担当する兵士が頷き、説明する。
 場所はラスカーニアからそう遠くない森。
 一番始めに目撃されたのは雪が溶け始まった冬のおわりの事だ。
 森に入り、道に迷った猟師が行き倒れかけた時、もっふもふの毛皮を持った生き物に救われ、助かったという。
 次の目撃証言は子供だ。
 ケンカして森に入り込んだ時、もふらに顔を舐められて戻る気になったとか。
 そんなこんなで冬から春にかけてもふらの目撃証言が目に見えて増えてきているのだという。
 なんだか、すごくてステキなもふらがいるとそれ目当てで森に入ろうとする者もいるとかいないとか。
 だが、それとは反対に
「あ、あのもふらは凶暴だ!」
 と訴える者もいる。
 ある商人はもふらに体当たりをかまされ、積荷を荒らされ、食べ物を奪われ、挙句の果てに自分のもふらを奪われたという。
「妙な話ですね…」
 ユリアスは首を捻る。
 目撃証言がいろいろなのもおかしいが、何が一番妙かと言えば、もふらが一匹で森にいるということだ。
 不思議な事にジルベリアではもふらが生まれた、増えたという報告は未だない。
 輸入オンリーであるが故にそれなりに価値のあるもふらが何故…。
 危害を受けたと主張する商人は実は一人だけであり、元からあんまり評判のよくない人物であるので、そのもふらが危険であるとは思っていない。
 だが、森は安全なところ、というわけではないしもふら目当てに子供などが集まって何かあっては危ない。
 それに、何よりユリアス自身、興味があった。
 会ってみたいと思った。
 今まで、もふらをちゃんと見たことが無かったからだ。

 と、言うわけでギルドに依頼が出される。
 ラスカーニアの森に隠れ住む野良もふら。
 それを保護し連れて来て欲しい、と。

 だが、その時もう一つの集団がもふら探しの為、森に入ったことを開拓者達は知る由もない。
「あのもふらを捕えろ! ワシの顔に泥を塗った生意気なもふらを、だ!」
 そんなこともつゆ知らず、森の中でもふら達はのんびりふてぶてしく笑って、寝るのであった。


■参加者一覧
星鈴(ia0087
18歳・女・志
芦屋 璃凛(ia0303
19歳・女・陰
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454
18歳・女・泰
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
リエット・ネーヴ(ia8814
14歳・女・シ
エルディン・バウアー(ib0066
28歳・男・魔
フィン・ファルスト(ib0979
19歳・女・騎
エルレーン(ib7455
18歳・女・志
フタバ(ib9419
15歳・女・巫
黒曜 焔(ib9754
30歳・男・武


■リプレイ本文

●すごいもふらを探せ!
 開拓者ギルドで少し前から話題になっていたことがある。
 どうやら相棒達は成長することでより強く、すごい姿に進化することがあるらしい、と。
 龍達を始めとする相棒達の多くはそれはかっこよく変身を遂げており、霊騎などは空まで飛べるようになっていた。
 一部外見があまり変わらない朋友もいたが、それらも能力は格段に上がっていたという。
「すごいもふら、だってえ…もふもふ、聞いた〜」
 ニヤニヤと笑いながらエルレーン(ib7455)は横目で相棒のもふらのもふもふを見る。
『…な、何が言いたいもふ』
「べつに。はやく会いたいなってだけのはなしだよ」
 確かにこの依頼を受けたのは殆ど全員がもふら好きの筈。
「すごいもふらさまか…。もふもふ具合もきっと素晴らしいのだろうね。もふもふしてみたいぞ!」
 と相棒おまんじゅうと笑う黒曜 焔(ib9754)に
「もふらをしっかり守らへんとなぁ。ついでにたっぷりもふもふせな」
 寄り添う雲剣に片目を閉じる星鈴(ia0087)ともふらを連れてきている者も多い。
「すごいもふら…どんなもふらやろ。はじめてのジルベリアで、うちもゆきちゃんも興奮や!」 
『ゆきも頑張るんだもふ!』
 はしゃぐフタバ(ib9419)にゆきの横で
『もふ…すごいもふらになれなかったもふ〜』
「はいはい…もふ龍ちゃん、もうすぐなれるって言ってたから、落ち込まないの!」
「わーい! もっ君〜♪」
 落ち込むもふ龍をリエット・ネーヴ(ia8814)が抱きしめ、もふっている。
 そんな様子を微笑みながら見つめて後、紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)は
「? 神父様?」
「大もふ様よりもスゴイのでしょうか。楽しみですね♪」
 まるごともふらを着てにこやかに立つエルディン・バウアー(ib0066)に小首を傾げた。
「神父様、とは呼ばないで頂けると助かります」
 指を立てるようにして片目を閉じたエルディンは
「…ほら、きっとすごいもふら達も安心して寄ってくるかもしれませんし」
 と微笑む。それは勿論グッドアイデアなのだが…。
「そんならうちも着て行こうかな?」
 がさごそと荷物から包みを取出しまるごともふらを装着した星鈴に
「へえ〜。そんなもんがあるんやね〜」
 芦屋 璃凛(ia0303)は感心したように声を上げる。
「ふかふかで、気持ちよさそうや」
「まぁ、好きん人しかもってへんろうからな。…強いて言えば暑いで、これ。涼しい顔で着ているエルディンはん尊敬するわ」
 暑さで顔を赤くしながら星鈴は言う。
 初夏のジルベリア。
 暑くもなく、寒くもなく。
 最高に過ごしやすい時期ではあるが、まるごとを着ていてはやはり暑いだろう。だがエルディンはそれを顔に出す様子は無い。
「きっとですね、すごいもふらは悪徳商人に連れられた可哀想なもふらを助けたのですよ」
「確かに、その可能性はあるね。一人だけ別な証言があるのがあやしい。…ふらもだったら別だけど、それだったら人助けなんかする筈ないもんね。うん、早く見つけて聞いてみよ!」
 フィン・ファルスト(ib0979)が明るく笑う。
 真実を確かめる為にも早くすごい(?)もふらさまを見つけ出さねば。
「噂の進化系もふらさま、らしきもふらさまね〜〜〜。ただの熟練のもふらさまだっていう可能性や大もふらさまとか毛布衛門の親戚っていうオチも無きにしも非ずって感じなんだけど?」
「それでね。提案があるんですがいかがでしょうか?」
「あら? なにかしら?」
 葛切 カズラ(ia0725)の問いにエルディンは笑って答えた。
「バーベキューをしましょう」
「えっ?」
 晴れ渡った暖かいジルベリアの空に開拓者達の声が木霊した。

●おびき出し大作戦
 穏やかで静かな春、ジルベリアの森。
 虫も少なく、アヤカシも出てこないのどかな昼。
「く、組み立てぐらいあたしだってできるもん!」
『そうだなぁ、問題はその後だよなぁ…』
 相棒ロガエスと竃や薪の準備をしていたフィンは 
「? あれは?」
 少し遠くに影のようなものを見つけ首を捻った。知らない人影が一体、二体…。
 他の準備をしていた仲間達も気付いたのだろう。
 作業の手を止め森に入り様子を窺った。
『どうやら男のようだな。ガラの悪そうなのが何人かいるぞ』
 フィンより少し先、人魂で様子を探っていたロガエスが変身を解き、そう答えた。
 向こうはまだこちらに気付いていないようだ。
 木々や草木を蹴飛ばしながら
「おい!」「いたか?」「こっちにはいねえ!」「くっそ! どこにかくれてやがんだ。あれだけデカい図体してるんだ。そんなに隠れられやしねえだろうに」
 と騒いでいる。
「早く探し出せ! あいつらにいくら払ったと思ってるんだ! 大枚はたいて逃げられましたじゃ大損だ!」
「あいつら?」
 フタバが疑問符を浮かべたその時、彼らの真後ろの木ががさがさっと音を立てた。
「隊長! 報告いたします! すごいもふらさまらしき姿を発見したじょ!!」
 シュタッと。シノビらしい見事な身の捌きでリエットは木から着地した。
 と同時にエルディンの忍犬ペテロも森から駆け込んで来る。
『報告はいいが…その獣耳を付ける必要はどこにある?』
 背後から長身のからくりがツッコミと言う名の声をかける。
「う! …虎耳は、野生児の印っ!! 獣耳付けると、更に音が聞き取りやすくなるじぇ〜」
 獣耳カチューシャを身に着けてぴょんこらと抗議するように飛び跳ねるリネットを無視して
『それでどうする?』
「おとーさん!」
 おとーさんと呼ばれたからくりは開拓者達に問いかけた。
「方角はあっちか…。場所的には風下。いい感じ…だね」
 開拓者達は森の中に小さな広場を見つけて、そこで作戦の為の準備をしていた。
 まだ荷物を運びこんだばかり。開始までもう時間が必要だ。
「あまり班分けはしたくはないのですが、邪魔されるのも、すごいもふらが逃げてしまうのも困りますからね〜」
 少し考える仕草をしてからエルディンは仲間たちの方を見た。
「近くに件のもふらさまがいるなら、その保護を先にしたいと思います。申し訳ありませんが奴らを別方向に引き付けては頂けないでしょうか?」
「解った」
「ついでに向こうの様子も探ってきたるさかい、こっちはまかせたで」
 焔と星鈴、璃凛が相棒達と別方向に消えて後、開拓者達は作業を急ぐ。
 バーベキューの準備と言う…。
「バーベキュー! 焼き鳥! 焼き魚! 野菜! もふらさまはくいしんぼ、きっと匂いがすれば飛びついてくる。名付けて『美味しいご飯の匂いでもふらさま呼び出すで』作戦や!」
 フタバは嬉しそうに笑って南瓜を串に刺した。
『ゆきはそんなにくいしんぼじゃないもふ、フタバもっとくいしんぼもふ!』
「はい、この荷台運んでね〜」
『ご主人のお料理はおいしいもふ! 絶対に出てくるもふよ!』
 肉と魚と野菜の美味しそうな匂いが周囲に漂い始めた。
「ねえ、ロガエス。バーベキューなんて焼くだけなんだからやらせてよ〜」
『テメェが焼いたら全部炭になるだろうが! 大人しく余計なのが来ないか見張ってろ料理音痴!!』
「ロ・ロガエスのばか〜!」
 楽しげな声と美味しそうな匂い。
「美味しいもんの匂いでもふらさま来ればええけど…。あ、うち、そこのよく焼けてるやつください」
「フフ。良い感じね。きっと出て来るわよ」
 クイッ! とカズラが酒を干したその時、羽妖精ユーノがひらりとカズラの頭上に舞った。
 そして…その指差す先に何やら気配…。
 がさがさがさっ!!
 身構えた彼らの前。草が揺れる音と同時に何かが現れたのだ。
『おまえら…そこでなにやってるもふ!!』
 野太い声がした。
「うわっ! でっか!」
 フィンは思わず声を上げかけて口を押える。
 2mはあるだろうか? 大もふらほどではないがその巨体は驚く程大きく丸い。
 木々の影に身を潜めているつもりだろうが正直丸見えである。
『ここは吾輩のなわばりもふ。痛い目に会いたくなかったら食べ物置いてとっとと去るもふよ!!』
 野太い声が響く。どうやらあのもふらの声であるようだ。
 多分、凄んでいるのであろうが、あまり怖く聞こえないのはもふらの人徳(?)というものだろうか?
 開拓者は顔を見合わせた。無理に連れ出すことはできなくはないが、できるなら自分で出てきて欲しい。ならば…
「もふ龍ちゃん。説得お願いします」
『説得するもふ!』
「もふもふ! 行って!」
『も゛っ?!な、なんでぇ…』
「ふふん、作戦だよぅ、作戦!」 
「ゆき!」
『解ったもふ』
 開拓者達はそれぞれ自分のもふらを差し向けた。
 主達の願いを受けてもふらたちはその大きなもふらの周りに纏わりつくようにじゃれつく。
『わっ! おまえら、なんだもふ!』
 驚くもふらは後ずさる。気が付けばその頭上に小さなもふらもいた。
『一緒に行こうもふ。こわくないもふよ♪』
『一緒にくれば、ご主人様の美味しい料理食べれるもふよ』
『あっちで焼き肉をやってるもふよ…我輩と一緒に行って、食いまくってやろうもふ〜』
 ドヤ顔で、あるいは笑顔で、説得するもふら達に促されて、そのもふらは木から顔を横に覗かせた。
 開拓者達が見える。杯を掲げるカグラ。笑顔で手を振る紗耶香、リネットにフタバ、フィン、エルレーン。そして…
「さあ、一緒に食べましょう。我々は貴方達の味方です」
 満面の笑顔でまるごともふらを着たエルディンが手を差し伸べる。
『おまえら、てきじゃないもふ?』
「勿論」
 その迷いのない返事にもふら『達』は、ゆっくりと開拓者達の前に、進み出て来たのだった。

●もふらと生きるということ
 さて、仲間達と分かれ、森にやってきた男達の様子を見にやってきた三人は、最初は遠くから様子を窺っていたのである。
「どうやら、奴らはもふらに痛い目に合わされた、と言っていた連中のようだな」
 焔の言葉に星鈴と璃凜は頷いた。
「あのもふらを捕えろ! ワシの顔に泥を塗った生意気なもふらを、だ!」
 語気も荒くそう叫んでいる男の指示でいかにもガラの悪い者達が木々を蹴倒しながら進んでいく。
「でも変やね。あの言いっぷり。泥を塗ったってもふらを盗まれただけでそういう言い方するんかいな?」
 確かに、と頷きながらも焔は後ろを見る。ここから仲間達のいる広場はそう遠くない。
 まずはエルディンの言うとおりここから引きはがさなくては。そう思ったのだ。
「私がまるごともふらなら囮を試す所なのだが…。いいな…」
 羨ましそうな顔で焔は星鈴を見る。ちなみに焔は警戒されない様に、とまるごとはりねずみを着ている。
 璃凜は二人の様子に肩を竦めて苦笑する。
「それじゃあ、うちが囮になって…って! 焔はん! あれ!!」
 星鈴の指差す方を見て焔は一瞬で蒼白になった。
「…って、おまんじゅうちゃん!」
『なんだか悪そうなのがうろついてるもふー。こいつらなんとかしないとバーベキュー食べられないもふ?』
 気が付けば焔の相棒おまんじゅうがぴょこんと男達の前に飛び出して小首を傾げ彼らを見ているのだ。後を追ってさらにもう一匹
「そんな堂々と奴らを眺めにー!?」
「雲剣、なにしとるんや…!」
「冥夜!」
 璃凜の猫又が護衛に着く様に背後に付くが、男達はもふら達しか目に入ってはいないようである。
「もふらだ!」
「でも、あれよりずいぶんちっこいぞ」「逃げた奴と同じくらいだな。野良か?」
「どうします?」
「…奴は捕まえないといけないが、もふらはとにかく高く売れる。捕まえろ!」
 男達は主人の命令を受け二匹のまわりを取り囲み、じりじりとにじりよる。
「ほら月餅だぞ! 危ないから戻っておいで!」「雲剣!」
 主の呼びかけにもふら達は顔をそちらに向けるが、その瞬間を狙う様に男達は飛びかかった。
「危ない!!」
「焔はん!」
 誰が止めるよりも早く森影から飛び出し二匹を抱きかかえた。
 敵に背を向けることになるが、彼のまるごとはりねずみのハリが男達を突き刺し弾き飛ばす。
「痛ってえ!」「なんだ貴様!」
「それはこっちのセリフや。なにゃあんたら?」
 焔の後に続いて星鈴と璃凛も進み出る。焔を守るようにして仁王立つ二人に男達はいきり立つが後ろの商人は男達を手で制して答えた。
「開拓者、か? わしらはうちから逃げ出して、うちの商品を連れ出して行ったもふらを探している。そのもふらとうちのもふらを間違えただけだ。失礼した」
「へえ、思ったよりは話がわかるやんけ。でもジルベリアには野良もふらはいないんや。それくらい解ってるやろ」
 さっきの会話とこの言葉から推理するに、どうやらすごいもふら自体も最初はこの商人の持ち物であったようだ。
 璃凛は話をしながら冥夜に目くばせをする。冥夜は頷いてスッと森に消えた。
「解っている。だからこそ、もふらを天儀から輸入してきたのだ。だが牧場の連中が『これは絶対にすごいもふらです!』と勧めるから大枚はたいて買って来た奴は図体はデカくてとんでもなく食うわ、そのくせ怠け者で芸の一つもしないわ。生意気でいうことを聞かないわ。仕方がないから餌をやらずに檻の中に閉じ込めて置いたら体当たりをかまして箱ごと檻を壊して逃げ出しおったのだ!」
「もしかしてもう一匹も? ご飯もやらずに?」
「そうだが…」
『「それは、あんたが悪い!(×10)」もふ!(×5)』
 開拓者ともふら達は声を合わせてそう言った。三人以外にも気が付けば森からやってきて開拓者達が増えている。
「なに!?」
 今まで紳士然としていた商人が目を剥く。
「もふらはな。そういう扱いをしていい生き物やないんや」
 星鈴の言葉にエルディンも頷く。
「その通りです。もふらというのは怠け者で、くいしんぼうで、気まぐれでもふもふで扱いづらい生き物かもしれません。しかし、それを受け入れて共に生きてこそ、その先にもふらと共に生きる幸せというものと出会えるのですよ」
 神父の説法のようなエルディンの言葉を、だが男達はフン! と鼻で笑った。
「もふらがなんだってんだ。所詮ペットだろ。ペットはペットらしく人間様のいう事を聞いていればいいんだよ!」
 そして手近にいたエルレーンのもふもふをボールのように蹴り飛ばす。
『! も゛…もふうううっ! えるれん! えるれんーーーっ!!』
「バカバカしい! 変なカッコして説教こきやがって俺達をバカにしてんのか!」
「開拓者かなんだか知らねえが、生意気言うならただじゃすまねえぜ! とっとと消えな!」
 プチ。
 何かが切れる音がしたことに男達は気づいていただろうか?
「…ほぉ…いうやんけぇ…」
「星鈴!」
 星鈴の周りで静かに怒りの炎が燃え上がるのを璃凛は間近で感じた。
「もうっ! よくももふもふをいじめたなッ!」
 怒るエルレーンをフタバは宥めるフリをするが、気持ちは、思いは同じである。
 もふらの敵、許すまじ!
「あんたらに渡すわけにいかんのや。もふらさまにも意思をきかんとね…どっちにしても行くと思えへんけど」
「なに!」
「もふらさま〜! こいつらどうする〜〜?」
 リネットの呼び声と共にドドドドと地響きにも似た音がした。
「な、なんだ?」
『くらえ! いかりのもふアタッーク!』
「うぎゃああ!!」
 ひらりともふらさまの射線から開拓者は身を躱し、男達を見た。
 牢もぶち破るすごいもふらの突進、もふアタック、尻尾アタック&おかわりのフルコンボをまともに受けた男達の大半は、弾き飛ばされ意識を失う。
『吾輩たちはもうお前らなんかに飼われないもふ! 首を洗って出直すもふ!』
 ドヤ顔、いや勝ち誇る、いやいや勝ちポーズ! を決めてもふらが胸をはった。
「もふらは実は結構強いんですよ。同居のもふらが寝相が悪くてね。私、よく壁際まで吹っ飛ばされます」
 そして残りの半分は
「当方百戦錬磨の開拓者でありますから、本気で怒らせたら貴方たちは無事で済まなくなりますよ。こんな格好してますけどね」
 パンパンと手を叩く開拓者の足元でのされていた。
「こっちは領主から確認と保護依頼を受けてるからね。とりあえずもふら様達は連れて帰らせて貰うから」
「ここは引いて下さい。それが互いの為でもあると思いますよ」
 武器を落され、足払いの末、地面に転がされた商人は
「は…はい。申し訳…ありませんでした」
 深く、深く頭を下げたのだった。

●すごいもふら達
 そして全てが終わった森の一角に
「は〜い! 焼き鳥焼けましたよ〜。おかわりもどーぞ〜」
 改めてバーベキューを楽しむ開拓者達ともふらの姿があった。
「うわ〜。もっふもふだ〜。きっもちいい〜〜」
 リネットとフタバが大きなもふらの首に抱きつきもふもふしている。
「お願い! すごいもふらさま。もふらせて!」
 煽てられたもふらさまはドヤ顔を浮かべて頷いてくれた。
「う〜ん。なんだか確かにスゴイかも!」
 二人の子供が顔を埋めても、まだすごいもふらはもふもふである。
 羨ましそうに眺めていた星鈴、焔もやがて我慢ができなくなったのだろう。
「うちも…」「私も…」
 そっと近寄ったもふらの背に身を埋めて幸せそうに目を閉じた。
『ほら、お代わりだ。ついでに持って行ってお前ももふらせて貰ったらどうだ』
「うん。…ありがと。小さなもふらさまもお肉のお代わりいる?」
『もらうもふ。ありがともふ』
「すごいもふらさまのもふもふも気持ちいいけど、ちいさなもふらさまも気持ちいいね」
 焼き立てのバーベキューを持ってフィンにもふりにいく。
「ハハハ。なんか、本当に祭りに出遅れた感じやな」
 一人バーベキューを齧る璃凛の肩にひらり、冥夜が下りた。
「あ、冥夜すまんな、頼りすぎて」
『お前も加わってくれば良い』
「でも…」
『卑屈になっていてもいいことは何も無いぞ』
「わっ!!」
 背を押されるように前に出た璃凛もすごいもふらを取り巻く輪の中に入っていくことになった。
「なるほど。やはり襲撃はこのもふらさまを助ける為にだったのですね。それで、これからどうなされるおつもりですか? もふらさま?」
 エルディンの問いに開拓者達を背中にもふらせたまま、すごいもふらは答える。
『チビと一緒に森で暮らすもふ。あの商人のところに帰るのはいやもふ!』
「でも、またあいつらが来るかもしれないですから、よろしければこの地の領主殿の元へ行かれませんか?」
『ありがたいがけっこうもふ。吾輩は孤高のもふらもふ!』
「…三食昼寝つき」
『…やっぱ行くもふ!』
 がくっ!
 正直な話、開拓者達は側にいても普通のもふらとすごいもふらと差は今一つ良く解らなかった。もふら達は
『やっぱりちがうもふね』『早くすごくなりたいもふ』
 なんとなく自分との違いを感じていたようなのだが。
 でもあの度胸と行動力を含めやっぱり、あのもふらはすごいと皆、納得した。
 そしてバーベキューを楽しんで後、開拓者達はもふら達を伴い、依頼人ユリアスの元へと向かったのだ。
 事情を聞いたユリアスはもふら達を商人から買い取る手続きをして、街で保護することを約束してくれる。
 これであのもふら達ものんびりと暮らすことができるだろう。
『とりあえずいてやるもふ』
 ツンな仕草で言っていたが彼らにとっても森で暮らすより、おいしいご飯を貰って暮らせる方が幸せである筈だ。
 帰路
「ねえ、もふもふ…。すごいもふらさまはすごかったねえ」
 エルレーンはニコニコと笑いながらからかう様に相棒に囁く。
 それを聞いてもふもふは
『…』
 涙目になった。慌てて宥めるエルレーン
「ご、ごめんね…もふもふもきっと、すごくなれるよ」
『ふんっ…我輩は、既にすごいんだもふ』
『もふ龍もすぐにすごくなるもふ』
「うん。がんばろうね」
「そうですね。もふらはみんなすごくてステキということですね。私もうちの子と会いたくなってしまいましたよ」
 エルディンの言葉に開拓者達はそれぞれの思いで頷くのであった。
 
 もふらさまはみんなすごくてステキ。
 すごくてもすごくなくても…。