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■オープニング本文 そんなつもりじゃなかったんだ。 それが、とっても綺麗だったから。 ただ、触ってみたかっただけなのに。 おじいちゃん。 ごめんなさい、ごめんなさい。ごめんなさい。 だから早く帰ってきて。 そう言って、子供は泣きじゃくり続けたのだった。 事のはじまりは五月の端午の節句を前に名主の息子が大きなこいのぼりを買って貰ったこと。 「手描きでなあ、偉い絵師さんに描いて貰ったんだ! どうだ! 凄いだろう!!」 そう言って名主の一人息子は取り巻く村の子供達にえっへんと胸を張って見せた。 名主の息子の自慢話はいつものことであるが、今回ばかりは子供達も頷き、嘆息する。 大空を雄大に飛ぶ巨大なこいのぼり。 赤に、朱。黒と藍、金に銀。 豪華な色をふんだんに使ったそのこいのぼりは少年たちの心を虜にする不思議な力があるようだった。 この村は山奥で、決して全体的に裕福ではないのでこいのぼりを買って飾れる家など名主のうちくらいなものである。 だから、子供達は毎日名主の家に集まってはこいのぼりを見上げていた。 だが、数日後。 「あ! 俺のこいのぼりがない!!」 名主の息子が声を上げた。 見れば確かに庭の中央。大きな柱に括りつけられていたこいのぼり三匹と吹き流しが確かに無くなっている。 前日は春の大風が吹いていた。 そして柱にこいのぼりを括り付けていた紐がほどけていた事から、風に運ばれてどこかに飛んで行ってしまったのだと考えられたのだ。 「お前が仕事をサボったからだろう! ちゃんとこいのぼりを確認していればこんなことにはならなかった!」 名主は庭番の老人を責めたてた。 老人は何の反論もなく、頭を下げる。 「あのこいのぼりはわしが息子の為に特別に作って貰った特注品だ! こいのぼりを探し、必ず見つけて持ち帰れ! さもないとお前はクビだし、家族もただでは済まさぬぞ!」 そして彼はこいのぼり探しを始めたのだった。 家族も知人も手伝い近隣を探す。 幸い数匹は直ぐに見つかった。 だが、一番立派な真鯉と緋鯉がどうしても見つからなかったのだ。 強風に飛ばされ、森に飛び込んだのかもしれない。と皆は噂した。 「今、森に探しに行くのは危険だよ」 森をよく知る木こりがそう言って探索に行こうとしていた人々を止めた。 元々ケモノが多い森であるが、最近はアヤカシが増えているという。 しかも怪狼や化猪など、素早く、凶悪なアヤカシが群れを作っているのだと。 一件、普通のケモノと見分けがつかないから始末が悪い、と彼らは言う。 まあ、普通のケモノでさえ、一般の人間には十分な脅威であるのだが。 「おじいちゃん。危ないからもう止めよう」 「名主様も解ってくれるよ」 家族はそう説得した。老人も頷いた。 しかし、翌朝、家人が目覚めた時、もう老人はいなかった。 どこに行ったのかは、言うまでもなかった。 「どうしよう…」 家族は顔を見合わせる中、孫は一人家を抜け出し走り出した。 「えっ? あの山奥から?」 開拓者ギルドの係員はそう言うと、驚いた顔で目の前にいる子供を見つめた。 息を切らせ、あちこち擦り傷だらけ。 靴もボロボロになった少年は、おじいちゃんを助けてと係員に頭を下げる。 「ぼくの、せいなんだ。ぼくが、こいのぼりの紐をほどいたんだ。だって…あんまり綺麗で…触ってみたかったら…」 周りに人がいない隙を見計らって紐を外してこいのぼりを下した。 そしたら吹いてきた強風にあおられてこいのぼりが外れ、飛んで行ってしまったのだ。と。 「おじいちゃん。 ごめんなさい、ごめんなさい。ごめんなさい。 もうしないから…だから早く帰ってきて」 森のどこにいるか解らない老人の捜索。 差し出された報酬は子供の必死のお小遣い。 ほんの百文にすぎない。 報酬の割に危険度は高い依頼だ。 だが係員は子供の前で依頼を受理し、壁に貼りだす。 「大丈夫だ。泣くな。心配するな」 そう頭を撫でながら…。 アヤカシにもケモノにもこいのぼりに人が寄せる思いなどは解らない。 ただ、柔らかい布と思うのがせいぜいだ。 足で踏みつけた布を必死で取り戻そうと近寄る老人の思いなど理解せずにそれらは躊躇いなく牙を剥くだろう。 時間は一刻を争う。 早く見つけださなければ…。 老人がアヤカシ達に出会う前に。祭りが終る前に…。 |
■参加者一覧
芦屋 璃凛(ia0303)
19歳・女・陰
一心(ia8409)
20歳・男・弓
寿々丸(ib3788)
10歳・男・陰
雨傘 伝質郎(ib7543)
28歳・男・吟
テト・シュタイナー(ib7902)
18歳・女・泰
イヴ・V・ディートリヒ(ic0579)
20歳・女・陰
ユーディット・ベルク(ic0639)
20歳・女・弓
四ツ獄 春風(ic0767)
29歳・男・巫 |
■リプレイ本文 ●屋根より高い 五月の風は心地よく開拓者の頬を撫る。 屋根より高い空の上で 「堪忍な」 芦屋 璃凛(ia0303)は小さく呟いた。 「寿々に何か謝ることがありましたかな?」 駿龍空王丸に跨る寿々丸(ib3788)は背後の璃凛の囁きに小首を傾げた。 「いや…うちを乗せてるせいで皆に遅れてもうたし、それに…」 懐に潜り込んだ猫又冥夜を撫でながら璃凛はため息をつく。 開拓者ギルドで出会った依頼人の少年との会話を思い出したのだ。 『おじいちゃん、ごめんなさい。ごめんなさい…』 泣きじゃくる子供を目の前にして、 『そこのガキ、泣くなや…泣いたところで爺さんは帰ってけえへんの解ってるやろ』 厳しく注意したつもりであったが知らず語気が柔らかくなっていた。 『爺さんも、鯉のぼりも見つけたるさかい、安心して待っとってくれや』 「うち、勝手に約束してしまったさかい…」 「相手は子供でありまする。気持を安心させるのは大事でございますぞ。それに勝手な約束ではござらぬ」 寿々丸は軽く片目を閉じて見せた。その様子に同じように片目を閉じて 『お姉さんにどーんと任せなさい!ってね♪』 胸を叩いたユーディット・ベルク(ic0639)や 『大丈夫。心配しないで…。おじいさんは…きっと家族を守る為に危険を冒して鯉のぼりを探してるんじゃないかな…… 勿論命より大切なものはないけれど、おじいさんの気持ちも分かってあげてほしいな』 優しく少年の頭を撫でていたイヴ・V・ディートリヒ(ic0579)を思い出す。 「依頼の受理と言うのは依頼人と開拓者、皆との約束なのでありまする。だから、皆で約束を守るのですぞ」 「ん…。そうやね。おおきに」 璃凛は寿々丸の腰に回した手に少し力を入れた。 「さ、さて、鯉幟は、屋根より高くお山まで行ってしまいましたかな〜? さぞや、立派な鯉幟なのでしょうな!」 少し照れたように笑ってから彼は相棒の背を叩く。 「空王丸、急がせて申し訳ありませぬな。全速前進で、お願いしまするぞ!」 主の命令を受け駿龍はスピードを上げて飛ぶ。 目的地の村と山まではあと少しである。 「それじゃあ、そろそろ行くとすっか!」 集まった仲間を見てテト・シュタイナー (ib7902)は腕を組むと森を見た。 老人が向かったと言う森。 他の方向は平野や街道、田や畑なので、村人や家族に確認してみたがこの森の中に老人が入って行ったのは間違いないだろう。 「しっかし、よりにもよって、こんな森に一人で行くたーな。中々に大した度胸と根性だが…ったく、ガキの事も考えろっての」 思わず吐き出してしまった呟きに一心 (ia8409)も苦笑交じりで同意する。 「…なんとか無事に連れ戻さないと…急ぎましょうか」 「でも、けっこう広い森よね。ここは、数名複数班で分かれて探索した方がよさそうかしら?」 森を見つめるユーディットに、そうだね。と四ツ獄 春風(ic0767)は頷いた。 「二手に別れて、見つけたら呼子笛か狼煙銃で連絡でいいと思うよ。…っと、これで全部?」 仲間をひふみ、と確認した春風にテトは首を横に振る。 「あと、もう一人来る予定だったが、先に行ってろ。ってことだ…。ま、吟遊詩人みてぇだから用事の後、おっかけてくるくらいはできるだろうよ」 「それじゃあ、行きましょう。おじいちゃんにも名主にも言いたいことはあるけど…まずは全てを無事終えてからね」 相棒達のおかげで時間はだいぶ節約できた。 ここから先は自分達の仕事だ。 「留守番頼むね」 相棒の甲龍の背を叩きながら春風は空を見上げた。 気持ちのいい五月の青空にさっき村で見て来た鯉幟を思い出す。 「確かに綺麗だったし、あれの真鯉や緋鯉の鯉のぼりなら、俺も見てみたいなぁ。でもヨミさん。命より大事な鯉のぼりなんて、ないよねぇ」 返事をするように相棒が翼を広げる。 依頼人や心配していた家族の為にも早く老人を見つけださなくては。 開拓者達は素早く班を決め、二手に別れて森に入るのであった。 さて、その頃。 「ふむ。こいつァちっと期待外れだったかもしれやせん」 仲間達から遅れること少し雨傘 伝質郎 (ib7543)は名主の家を見ながら頬を掻いた。 村は小さいながら整っている。本来ならある程度の気配りは出来る人物なのだろう。 (この名主は頭に血が少々昇りやすくて親バカってえだけの、大したクズでもなく普通に善良なのやもしれやせん) もしそうなら 「大事にしないと」 ただ、一度張ってしまった意地というのはなかなか下げることはできないものだ。 鯉幟がみつかっても 「こいつあ丸くは収まりやせんぜ」 少し考えて伝質郎は浮かない表情を浮かべる子供達を呼び止めると、事情を話した。 彼らもまた鯉幟の件を気にしているようである。 「こうなったら」 彼は子供達の輪の中で声を潜め囁く。 「村を鯉幟で溢れさせやせんかい」 ニヤリ、と強面ながらもどこか愛嬌のある顔で笑いながら。 ●見つけたもの がさがさ、音がする。 「いましたか!?」 心眼を使って確かめようとした一心の耳にだが、聞こえてきたのは 「旦那がた〜。お助けを〜〜」 老人の声にしては明るいお気軽な声、そして狼達の咆哮であった。 「! 伝質郎殿!」 木の根元で上に向かって吠える狼達は…アヤカシ怪狼だ! 寿々丸は眼突鴉を放った。彼の攻撃とタイミングを合わせるように斬撃符と鋭い一矢が怪達の目を、眉間を、足を狙う。 「今、お助けいたしますぞ!」 開拓者達の攻撃を受け、怪狼はその矛先を木の上でしがみ付く伝質郎から開拓者へと変更し襲い掛かる。 流石怪狼。動きは素早く一気に間を詰めてくる。 「やれやれ…刀は、あまり得意ではないのですが…そうも言っていられませんか」 一心は呟きながら刀を抜いた。狼達が自分達の判断が間違いだと気付くのは早かった。 直ぐに殆どの狼達は倒されて瘴気に戻って行ったからだ。 「ありがとさんでございやす。いや遅れて来たので合流しようと急いで来やしたが、あっしは戦闘がからっきしで…」 敵の消失を確認し、するりと木から降りてきた伝質郎は頭を掻きながら助けてくれた仲間に礼を言う。 その憎めない様子に開拓者達は軽く肩を竦めて笑った。 「あ、それででげすね。木の上から様子を見たんでげすが、向こう方向に鬼の群れがいるようでげす。数はそう多くないようでやんすが」 「鬼の群れ、か…。そっちの方に行ってなければいいんだけどね」 イヴは呟きながら何の気なしに伝質郎が上っていた木の上を見上げる。 そして 「あっ!」 声を上げた。 「どうしました?」 問う一心にあれ、とイヴは指差す。伝質郎の上がっていた木の隣に紅と金の影が見える。 「もしや!」 寿々丸は白文鳥の人魂を紡ぐとその影に向かって飛ばした。 体当たりに近い形でぶつかった文鳥によってぱさりと音を立てて地面に落ちたのは… 「これが…鯉幟という奴か」 「緋鯉でありますな! 無事に見つかってよかったのです!」 そっと一心は拾い上げた。少し破けているところがあるが、大きく傷ついているところはなさそうだ。 「木の上に引っかかっていたんですね。見つかって良かった。上を注意深く見ていて下さったからですね。伝質郎さんが木の上にいてくれなかったら気が付かなかったかも」 「へへ。怪我の功名ってやつでげすか?」 「これで、後は老人ともう一匹の鯉幟を探すだけ、か?」 二人が顔をあげた時 ピー―――! 高く響く音が開拓者達の耳に届いた。 武神の呼子笛。仲間達からの合図である。 「老人が見つかったのかもしれません。行きましょう!」 頷きあった開拓者達は鯉幟を畳んで大事にしまうと走り出したのだった。 ●取り戻す為に 「ちょい待ち! その怪我でどこに行こうっていうんや」 開拓者達がその場にたどり着いた時、森の奥へ行こうとする老人を 「無茶すんなよ。じーさん!」 璃凛とテトが止めているところだった。丁度老人の行く方向を塞ぐ形で出てきた新しい開拓者達を見て 「…あっ。すみません」 老人は足を止めた。その隙を見て春風が彼の手を取り 「ふふ、あんま無理しちゃいけないよ」 腕の怪我に神風恩寵をかける。 イヴも傷を塞ぐために治癒符を発動させた。 「お助け頂いたのに、失礼を…。でも、貴方方は一体…?」 治癒の技を受けながら頭を下げる老人に 「うちらはあんさんの孫からあんたを探してと依頼を受けた開拓者や。事情は聞いて解ってるつもりやから」 璃凛が説明する。孫からの依頼と聞いて驚いた老人であったが 「でしたらもう少し、待って下さい。やっと、やっと見つけたんです。それを取り戻さないと私は…」 「見つけたって、どこに? まさか、さっきの連中?」 ユーディットは包帯を置き森の奥を見た。さっき開拓者達は小鬼達に襲われていた老人の悲鳴で彼を見つけたのだ。 殆どが小者。瞬速の矢で射抜きテトが踏み込んだら蜘蛛の子を散らすように逃げて行ったのだが…。 「はい。鬼の一匹が襟巻のようにして持っていました。確かに危険なのは解っておりますが…なんとしてでも取り戻さないと家族が…」 手を握りしめる老人を見て、ふうと一心は嘆息しそして微笑した。 「…わかりました。では我々も手伝います。それで宜しいか?」 「えっ? でも…」 瞬きする老人にユーディットも笑って見せる。 「真面目なのはいいけど、孫を悲しませちゃだめよ、おじいちゃん」 「そうそう。こういう時は、大人しく俺様達みたいな奴等に頼みな。命あっての物ダネっつーだろ?」 「その鯉幟がどんなに大事でも命よりなんてことない。あの子だってちゃんとわかってる。…だから俺たちが来たんだ」 「しかし…」 テト、春風と続く言葉を老人が噛みしめている間、三人の陰陽師と吟遊詩人は周囲を調べ、小鬼達の集団の居場所を素早く突き止めていた。 「向こうの方角にそれらしい集団がいやすぜ」 「鯉幟を首に巻いてる鬼も確認いたしましたのでありまする」 「よしっ! とっと言ってとっとと片付けちまおう」 前に進んでいく開拓者達を止めようと手を伸ばすが、イヴがその肩に振れた。 「お孫さんの為に、家族の為に。帰ろう…一緒に」 小さいが優しく、暖かい笑み。老人は躊躇いながらも頷いたのだった。 「念の為、聞くけどその鯉幟、返す気はあらへんよね?」 追い詰めた鬼達の返事は攻撃。 「……無益な殺生は避けたいのですがね……」 「行くぞ!!」 一心が刀を、テトが魔槍砲を握り敵に踏み込んで行く。 「俺はあんまり戦うの得意じゃないから、皆の応援がんばる!」 目指す敵は一番後ろ。春風の唄と仲間達の援護を受けて、彼等は敵に踏み込んでいった。 ●鯉幟の空 「へえ〜。これは面白いね」 無事に鬼から鯉幟を取り戻し、村に戻った開拓者達。 その村で春風は楽しげに声を上げ、空を見上げた。 あちらにも、こちらにも一面のこいのぼり。 その正体は褌である。 「こりゃあ〜皆さん頑張ってくれやしたねえ」 仕掛け人である伝七郎も驚くほどに村にはたくさんの鯉幟が上がっていた。 捜索の前に伝七郎が仕掛けた細工がこれである。 「安く鯉幟を作る手段がありやす。褌はありやすかい」 用意して貰った褌に目玉と鱗を描き込んであれば色を付け、竿に括って風に流せばあら不思議。 「鯉幟の出来上がりでございっ」 彼は子供達に作り方を教えただけであるがどうやら子供達は大人たちにも(意図あってか)広め、結果村中が鯉幟で溢れたのである。 そんな村の入り口で空を見上げることなく俯いていた依頼人の男の子は、開拓者と支えられて戻ってきた老人を見つけるやいなや 「おじいちゃん!」 真っ直ぐに駆けてきて胸に飛び込んできた。 「ごめんなさい。ごめんなさい…」 泣きじゃくる男の子の頭を老人は優しく撫でる。 「いいんじゃよ。もう泣くな」 …多分、老人は彼がしたことを解っていたのではないか、とイヴは思う。 だからこそ、家族を守る為に、命を賭けたのだ。 「良かったわね。もう心配かけちゃダメよ」 感動の再会を開拓者が見つめていると 「皆さん」 背後から声がかけられた。 「…名主様」 老人の声に開拓者達の空気が張り詰める。 振り返るとそこには恰幅のいい男が少年を連れて立っていた。 「この度は…申し訳ありませんでした」 老人は深く頭を下げ、見つけた鯉幟を差し出す。 それは小鬼に遊ばれ、汚れてもいたが名主は黙ってそれを受け取った。 「ちょっと! 話があるんだけど…」 そしてユーディットが呼びかけるその前に 「わしこそ…すまなかった」 逆に老人に頭を下げたのだった。 目を丸くする老人に笑いかけると名主は開拓者達を見る。 「ありがとうございました。皆様のおかげで頭が冷えました。鯉幟など所詮は布きれ。人の命と替えられるものではないということを…。皆様がいなければ大変な過ちを犯すところでした」 「へへへ。思った通り話の分かる方で良かったでげすな」 ニヤリと伝質郎が笑う。どうやら村人達の行動の『意味』を解ってくれたようだ。 「丁度、端午の節句。鯉幟も帰って来た事ですし、皆で祝いを、と考えております。どうか皆さんもご一緒に。ほら、お前も…」 父親に背を押されて、少年は男の子に手を差し出す。 「…すまなかったな」 「ぼ・ぼくの方こそ…ホントは…」 躊躇う男の子と首を傾げる少年。その両方の背をテトは勢いよく叩いて笑う。 「それじゃあ、お言葉に甘えてご相伴にあずかろうか! な?」 「屋根よ〜り〜、た〜か〜い〜♪ ですぞ」 軽く片目を閉じたテトと寿々丸。そして開拓者達に 「あ・ありがとう…」 男の子は礼を言いながらまた泣き出した。 「こら! 泣くんやないって言うたやろ?」 そして横には柏餅。入れたての緑茶をお供に開拓者達は美しい五月の空を見上げる。 たくさんの褌鯉幟の中、一際美しく泳ぐ鯉幟。 真鯉に緋鯉に子供達。子供の健やかな成長という祈りが込められた美しいそれらは確かに見ていると心が浮き立ってくる。 「うん、確かに綺麗な鯉幟だね。僕達も空を飛びたくなっちゃうかも」 「そうですね。でも柱に結ばれているのが少し可哀そうでしょうか」 「確かに。今思えば、鯉幟も柱に”釣られる”のが嫌で逃げたのかしらね」 「お兄ちゃん、お姉ちゃん。これあげる!」 鯉幟を見上げていた開拓者達に村の子供達が、水飴を差し出した。 「一緒に遊ぼうよ!」「ねえ!」 「うわっ! 引っ張るな!」 「私も…ですか?」 「よっしゃあー! こうなったら皆で遊ぶか! ベンヌも来い!」 「鬼ごっこでございますか? では寿々が鬼になりましょうぞ」 「わーい!」 「冥夜。そっちに逃げたよ!」 「…もう少し、小さくて可愛い鯉幟があればいいのに…」 「なんならあっしの褌お貸しますからまた作りやすか? まだたくさん…」 「や、やめて〜!」 そして帰ってきた鯉幟と子供達の笑い声は、開拓者の心に輝き、端午の節句と美しい五月の空を彩ったのである。 |