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■オープニング本文 【このシナリオは陰陽寮朱雀の二年生用シナリオです】 陰陽寮の二年生に進級して数か月が過ぎ、もう今年も終わろうとしている。 陰陽師として生きる覚悟を問われた先の授業を終え、寮生達はそれぞれがそれぞれの思いを胸に授業に勤しんでいた。 そんなある日の月に一度の全体講義の日。 今日は二年生担当教官 西浦 三郎が壇上に上がっての授業中だ。 「アヤカシ、という言葉の意味を考えたことがあるか?」 三郎は寮生達にそう告げた。 「我々はその言葉を簡単に使っているが、皆も知っている通り、アヤカシといっても膨大な種類がいる。その全てを我々は知るわけではなく、よく寮長が使う例えだがウサギ、リス、クマ、ネズミその他地上に生きる人間を含めた生き物全てを動物と呼ぶように、我々は瘴気によって生まれ、人に害をなすもの全てをアヤカシと呼んでいるだけだ。便利な言葉ではあるが、それで終わっていては学徒たる意味は無い」 寮長たちは頷き、講師を見つめる。 黒板にはアヤカシの系統樹などが記され、専門的な内容に進んでいく。 そして講義はさらに続く。 「勿論、陰陽寮ではアヤカシの情報を集め、分類整理している。その情報量に関しては全国屈指であると自負しているが、そもそもアヤカシは個体能力差も激しく、また進化なども見られるのか今まで確認されていなかった術を使うようになったりもする。この辺は身を以て体験しているだろう? 陰陽寮生が授業課題後報告を義務付けられているのは、それらの体験全てが後の重要な情報になるからだ」 彼らは再び頷いた。 「陰陽師の道を行く限り、ここで終わりはなく、追求する限り道は続く。術一つとってみても使い方や発動方法などで変化が生まれる。逆にできると思ってできなかったことなども少なくないだろう。実戦ではそういう判断ミスが命の危険を招くこともある。瘴気を使う限り、どんな小さな術を使う場合でも油断は禁物、だがな」 授業などではともかく、実際の合戦や戦場では何が命を分けるか解らない。 「とはいえ、失敗を恐れて何もできないのではこれもまた学徒としての意味は無い。ある意味、失敗できる授業中がチャンスだという事だ。自分がどんな陰陽師になりたいか。何を目指し、何を望むかしっかり把握しておくこと。心の中心に常に自分の目指す姿を置き、それに向かって努力する。それが陰陽寮生。特に朱雀寮生に求められることだな」 三郎の言葉に二年生達は真剣に耳を傾けている。 その様子に満足したように笑って三郎は続けた。 「それで今回の課題だが、二年生終了時の進級論文のテーマを決めて貰う」 「えっ?」 二年生達は顔を見合わせた。 何の脈絡もない、訳ではないがいきなりの課題発表に意味が解らない者も多い。 その顔を見て、また笑うと白い紙をそれぞれに渡して三郎は説明を続ける。 「朱雀寮の進級課題は基本的に、どの学年も実技と小論文だ。去年、お前達もやったろう? 実技の課題は例年違う。特に三年生はその時々の寮生にあった課題とかが選ばれるので対策が立てようもないんだが、二年生の実習はアイテム作成になることが多いかな? そして小論文は進級時に決めた研究選択に合わせて術、もしくはアヤカシに関して一つのテーマを決め、調べ考察を纏めて貰うことになる」 「研究選択で選んだものを研究するのは…?」 「不可。そもそも、そんなに手を広げすぎてもまともな研究が出来ないだろ? アヤカシ一種とってもその世界は膨大だとさっき言った筈だが」 「なるほど」 寮生は頷き、説明は続く。 「アヤカシ研究の方は、今まで自分が興味を持ったアヤカシ一種について調査、研究、考察を行う。今後の実習などでも、そのアヤカシについてメインで調べると論文の資料集めにもなるだろう。必要とあれば申請の上、アヤカシ牢にいるアヤカシでの実験も許可されている。 術研究の方は、自分の興味のある術について、実習などでいろいろ試し、その可能性を探ることになる。失敗したことや思った以上の効果が出たことなどを、年度の終わりの進級試験で文章にまとめて発表して貰うというわけだ」 二年生達は納得した。 進級試験まで年が明ければ半年になる。 残りの時間は決して多くない以上、全ての機会は有効に利用すべきであった。 「今回決めた課題の変更は原則認められない。但し共同研究は可。その方が内容を深められるが互いの連携も必要だからそれぞれに良い方法を考えて選んでくれ。 期限までにテーマを決定し、その理由と共に提出すること。 言うまでもなく陰陽寮生として半端な論文は自身の評価を下げるとか、進級できないどころではすまないぞ。では、本日はこれまで」 そう言うと三郎は部屋を出てしまった。 解らない事が解らないうちに去ってしまうので質問もできないのはいつものことだ。 「まあ、自分で考えるべきことは考えろってことなんだろうけど」 『自分がどんな陰陽師になりたいか。何を目指し、何を望むかしっかり把握しておくこと。心の中心に常に自分の目指す姿を置き、それに向かって努力すること』 自分が目指す陰陽師とは何だろう。 それに向かってどんなことをすればいいのだろう。 論文の課題以上にもしかしたら、それが問われているのかもしれない。 寮生達は配られた白紙の調査票を見つめながら、己の望む道行についてもう一度考えさせられることになったのだった。 |
■参加者一覧
芦屋 璃凛(ia0303)
19歳・女・陰
蒼詠(ia0827)
16歳・男・陰
サラターシャ(ib0373)
24歳・女・陰
クラリッサ・ヴェルト(ib7001)
13歳・女・陰
カミール リリス(ib7039)
17歳・女・陰 |
■リプレイ本文 ●緊張と不安と… 目の前には白い紙。それはどこにでもあるありふれた紙でありながらそうではない。 自分の将来を左右するかもしれない未来へ繋がる紙である。 進級試験の時の小論文。 あるいは紙に書いたわけでは無いけれど、入寮試験の時の口頭問題。 とても緊張し、期待と不安で胸が高鳴ったことを覚えている。 「落ち着いて、少しずつ。たとえ上手く書けなくても、書いた時の気持ちを忘れずに」 サラターシャ(ib0373)はそう自分に言い聞かせるように胸の上に手を置くと大きく深呼吸してペンを取ったのだった。 「論文…はいいけど発表かぁ…なんか難しそうな感じ」 課題発表の後、二年生達は誰ともなく食堂に集まってきていた。 「発表、ですか?」 ぼんやりと呟くように言ったクラリッサ・ヴェルト(ib7001)に彼方はお茶を差し出しながら問う。 「時折ふと力を抜いて休憩した方がよい考えが浮かぶ事もあります。小論文も大切ですが体も労わってくださいね」 サラターシャが入れたはちみつ入りのミルクティーだ。 「あれ? 聞いてなかった? 先生言ってたじゃない。最後に発表して貰うって。誰が聞くのか知らないけど、半端な論文出したら、自分だけじゃなくて関係者全員の評価を下げちゃいそうなんだよね…」 ため息のようなものが思わず口から零れる。と、同時ポンと手を叩く音が鳴る。 「あ! 聞いたことあるよ。二年生の論文発表には五行の重鎮が来ることがあるって」 「えっ? やっぱりそうなの?」 清心の答えに芦屋 璃凛(ia0303)はあちゃーというような顔で頭を押さえた。 「それは…緊張しますね。やはり2年ともなると、色々難しい事が目白押しですね。あれ? どうしたんですか?」 心配そうに問う蒼詠(ia0827)に大丈夫、と璃凛は手を振った。 「なんでもない。ちょっと、考えが纏まらなくて煮詰まってただけ」 別に偉い人が来るからどうこうというわけではないが、今のところ、自分自身がどうしたいのか。 そのイメージが纏まらない気がするのだ。 漠然とした思いはある。心の奥に願う姿も。でもそれはあまりにも抽象的すぎる気がする。 「たいした理由でもないし、割と平凡だしね。あ〜、情けないよ」 「あんまり考えすぎると煮詰まりますよ。まあ、気持ちは解らなくはないですけど」 ぽん、と軽く璃凛の背中をカミール リリス(ib7039)が叩いた。 「リリスは…決まってるの?」 「まあ、大よそは。まだしっかりと提出用に纏めるにはこれからですけど」 「そっか〜。みんな凄いなあ」 また璃凛は下を向く。本当に大丈夫だろうか、と彼方が手を伸ばしかけたその時だった。 「よーし! 悩んでてもしょうがない!!」 突然立ち上がった璃凛は少し冷めたお茶を一気に飲み干すと、勢いよく立ち上がった。 「? どうするんです?」 「ちょっと先生の所! 組手して貰って来る!!」 そして力強く歩き去って行った。 「彼女は、大丈夫ですよ。あのパワフルさに負けないようにボク達もしっかり決めないと」 リリスの声に頷きながら二年生達はそれぞれに自分自身の課題と向き合うのであった。 ●図書館にて 冬にしては暖かい日差しが差し込む図書室でサラターシャはぼんやりと外の景色を眺めていた。 「陰陽寮に入寮して一年半、少しは成長できているのでしょうか?」 さっきの璃凛ではないが、微かな焦りを感じてしまう。 「…ラ、サラ、サラターシャ!」 呼びかけられた声にハッとサラターシャは顔を上げる。 そこには数冊の本を抱えるリリスがいた。 向こうにはやはり調べものをするクラリッサの姿も。 「あ、すみません。ボーっとしていて。どうかしましたか?」 「先輩達が作った希儀の資料って、貸出禁止でしたっけ?」 「いえ、手続きを取れば大丈夫の筈ですよ。一応纏め終わったので」 「よかった。じゃあ、これ借りたいんだけどいいですか? 自分でやるのもなんだから手続きしてくれるとありがたいんですが」 「はい、解りました」 差し出された資料を受け取り、手続きをする。 「これは…希儀のアヤカシ資料ですね」 「そう。ボクはアヤカシ研究専攻ですからね。これを選ぼうと、思っています」 彼女が差したのは蛇アヤカシ「シアナスネーク」であった。 「これは、希儀で新しく発見されたアヤカシでは? 確かに生態はよく解っていなくて研究のし甲斐はあるでしょうけれど、希儀以外で見ない相手では難しいのでは?」 「そうですね。でもアル=カマルでも目撃事例があったらしいですし、どこにでも蛇アヤカシはいますから、それを発展させていけば、と思っています」 「なるほど」 「選ぶ、アヤカシは悩んでいたのですが、今回の合戦で興味を持ってしまったのです。どの儀の伝承にも必ずと言って良いほど登場しているアヤカシだからでもありますが」 確かに彼女が選んだ資料は蛇アヤカシ関連のものばかりだ。 「ただ、今までの小論文や思考からしてみれば、ぶれてはいないか、って思うと多少ぶれている気がします。でも、迷いは無いですよ。考えが多少変わろうと自分は自分…ですからね」 「なるほど」 確かにリリスの目には迷いは無いように見えた。 「サラは、決まったんですか?」 「はい。ただ、目標があまりにも遠くて…ちょっと」 「ふ〜ん、サラでもやっぱりそうなんだ」 「クラリッサさん?」 ふと本を閉じでやってきたクラリッサの名前をサラターシャは呼んだ。 クラリッサはうん、と頷くと顔をまっすぐ上げて友を見る。 「私もね、ちょっと、考えてたんだ。 どんな陰陽師になりたいか…。 どうすれば役に立てるか…。 どうして陰陽寮の門を叩いたのか…って。 で、聞こえてきた話を耳にしちゃって、解った気がしたんだ。 そう、だよね。結局、何も変わらないんだ。自分の目指すものって。 後はどんな過程でそこまで辿り着くかを考えればいいだけ」 「そうですね。行く道は違っても迷っても、そこに辿り着こうとする思いがあれば、きっといつか辿り着けますよね」 ふんわりと、サラターシャが柔らかい笑顔を見せる。 リリスとクラリッサも、その顔を見てさらに嬉しそうに笑った。 「クラリッサさんの目標とする陰陽師の姿って、どんなものですか?」 「それはまだないしょ。ちょっと照れくさいしね」 花のような少女達の笑い声。私語厳禁の図書室も今日ばかりはきっと許してくれるだろう。 ●熱い思いと願い 廊下を歩いていた蒼詠は、ふと中庭の方から聞こえる声に、足を止めた。 「わっ! 凄い」 見れば璃凛と二年担当教官西浦三郎が組手をしていたのだった。 立会人は彼のからくり、凛。 「ハアッ! ヤアッ!!」 体育委員会である璃凛はかなり体を鍛えているし、実習でも先頭に立つことが多い。 その彼女とかつて体育委員会の伝説的な委員長であったという西浦三郎との組手、見逃すにはあまりにも惜しい場面である。 邪魔にならない所から様子を見せて貰う事にした。 二人の組手はかなりのスピードで交わされている。 「凄いですね…」 思わず声が零れた。 蒼詠の目から見れば璃凛の腕も相当なものだがはた目から見ているとよく解る。 璃凛と三郎の間の実力はまだ一回り以上違っている。と。 三郎は殆どその場を動いておらず、璃凛は組手をさせてもらっている、感じだ。 おそらく、やっている本人も気付いているだろう。 だが、 「うわっ!!」 その中で璃凛の渾身の攻撃が決まる。 予想外の衝撃に三郎の足が動いた。 「チッ!」 三郎がよろけた隙を狙って璃凛は攻撃を畳み掛けるが、そこは三郎。瞬時に体制を立て直して逆に踏み込んできた璃凛の襟元を掴んで、背中から地面に落とす。 「あっ!」 気が付かないうちに倒された璃凛は 「参りました」 素直に負けを認めたのだった。 「少しは、すっきりしたか?」 乱れた服装を直しながら問う三郎にはい、と璃凛は答える。 「正直、まだもやもやしているところはあります。…だけど、真面目だけじゃ、つまらない。負けることになっても惹き付けるモノが無ければ埋もれるだけ。だったら、とにかく全力を尽くすのみです。だから、先生!」 「なんだ?」 「最終的な成果を、三郎先生と凜と戦うことで見せたいなんて突飛なこと、考えているけど、許してくれますか?」 「最終的な成果…って、進級課題の研究発表か? 私と?」 「はい。術の研究、対象を巴にしたいと思っています。その研究発表の場で術の使い方や応用を見せたいと…」 「研究の内容次第だな。事前に纏まったら提出。ちゃんと成果として纏まっているなら認めよう」 「解りました! ありがとうございます!」 三郎の前にピッと璃凛は立つと敬礼にも似たお辞儀をした。 「内容次第だと言っただろう? お偉いさんも来る場だ。下手な事をしていると笑われるぞ。もっと腕を上げろよ」 「はい!」 一生懸命な璃凛の姿を見て、蒼詠は自分の胸が熱くなるのを感じていた。 彼方は、師匠の役に立つ道を選びたいと言っていた。 清心は人の心や思いを奪うアヤカシと対する方法を知りたい、と。 ならば、自分がやりたいことは何だろう。 自分の目指す道はどこにあるのだろう。 蒼詠はその場をそっと後にする。 そして、もう一度、自分に問いなおすことにしたのだった。 ●それぞれの決めた道 結果提出日。 三郎はそれぞれが提出した内容を寮長に報告する為に確認していた。 璃凛は三郎との組手の後、自分の希望をしっかりと書きとめた。 『術応用で巴を選択します。 目指す道は自分を護れる陰陽師に成ること 理由は、自分が護れる限りの人達を護れる様になりたいからです 結局の所自分を護れない人間が誰かを護ることなど出来ない為です。 応用の方法は、アヤカシとの実戦、自分への危機をどこまで察知出来るのか そして、対アヤカシ・対ケモノ・対人での活用方法を編み出すこと 何故なら術を選んだ以上成果は、未来に残すモノなので個人的で終わらせてしまうのは 寮生で有る意味が無いので』 「うちの、目指す道は、誰でも考え付くし、絶対甘いって言われるだろうな」 うちは、無鉄砲で向こう見ずだ。 このまま進んだら、守りたいモノより先に逝ってしまうそれじゃ意味は無い。 うちは、まだ親友にも、師匠にも、姉さんにも、寮の先輩や仲間にも何も返していないから。 纏まりが無い気はするし、仲間達の話を聞くと不安になるが、それでも迷っている時間が惜しいと思う。 「うん、とにかく頑張ろう!」 璃凜はそう言うと自分の手を強く握りしめたのだった。 蒼詠もまた、良く考えて自分の気持ちを文章にする。 『『瘴気回収』を研究対象に。 周囲に漂う瘴気を回収し練力と変える力。 上手く作用させれば浴びすぎた瘴気が体内に澱み溜まってしまった瘴気障害の患者の体内から瘴気を回収もしくは浄化出来るのではないかと以前から漠然と考えていました。 もしこれが出来る様になれば、時間を争う瘴気障害の患者への治療までの行程がかなり短縮され助かる患者が増えると思います。 実現すれば今以上に陰陽師が世間に受け入れられ易くなると思います』 実現は難しいと解っている。 瘴気回収という術はその名とは違い、周囲の瘴気を減らす効果は無いと言う報告さえもあるらしいから。 でも、迷っている間に行動あるのみと仲間の背中が教えてくれた。 今度は自分が仲間の前に立てるくらいに頑張らないと。 「サラさんも同じテーマだった筈ですよね。共同研究してもらえるかどうか、後で相談してみましょうか」 サラターシャは入寮した時や、進級試験の事を思い出しながら今の自分の思いを書き綴る。 『小論文の課題として瘴気回収を選択します。 なぜならこの術は瘴気を身の内に取り込む事によって、自らの糧とする術だからです。 身に触れる事により、知識としてばかりではなく感覚として瘴気を捉え、更に理解を深めたいと考えています。 この術を深く理解する事により個別に瘴気を識別しうる事も可能ではと考えています。 なにより瘴気回収が持つ性質の如く、闇の中から光を見いだせるよう、標として心に刻みたいと思い選択しました』 瘴気の利用や識別は簡単では無いと聞いているが、瘴気そのものについてもっと知ることができれば、もっとできることが増えるのではないか、と思うのだ。 「焦らず、一歩ずつ」 それが仲間達と共に出した彼女の結論、であった。 自分の目指す道はどこにあるのか。考えた末出した結論をクラリッサはこう書き記す。 『【テーマ】 治癒符。 一部とはいえ瘴気を人体として形成する異色の術。 治癒専門の精霊術を含めて見ても類似する術は無い、独自の技術。 相性が悪いのか効率が悪いのか、使い勝手は今一つだけど、精錬されていない故に発展性は十分に見込めると思う』 「ん、とりあえずこれでいいかな。 これからどうなるかは私次第。泥を塗らないように、頑張らなくちゃね」 彼女は自分自身に思いを結ぶ。 「私は、役に立ちたい。 母さんの、そして私の手が届くできる限りの人たちの」 それが彼女の目指す道であった。 『目指す、陰陽師はアヤカシの行動を調査し正確に伝える陰陽師です。 アヤカシの知識の差は、決して小さな差ではありません。 儀での差、国での差、地域差、集落での差 間違った考えを無くすことに何年。いえ、何十年掛かるか判りませんが成し遂げたいのです。 選択するアヤカシは「シアナスネーク」とします。 アル=カマルでも、生息しているモノでは有るので資料不足にもならないのではと考えたからです』 「ボクの道は、茨の道でしょうね。考え方を、変えさせる…。では、無く正すというのは簡単では無いですから」 書き終えたリリスは息を吐き出しながらペンを置く。 不安は正直いろいろ残るのだが…。 「まあ、気にしてもしょうがないですね。誰かと、共同研究しても良いのですが、清心君は別のテーマがありそうですし、足を引っ張りそうですからね」 とりあえず、道は決まった。 後は全力で頑張るのみである。 仲間達と共に。 「彼方は術応用、呪縛符。効果を強化してアヤカシの捕縛に役立てられないか考える。清心はアヤカシ研究、対象は憑依能力を持つ吸血鬼など、か。皆、それぞれ考えてるな」 提出された書類を見て、三郎は満足そうに笑った。 陰陽寮の二年生の研究発表会は時に五行王も来る大がかりなものであるが、それは言わない。 彼らに期待されているのは若い視点。 実現の可能性は難しくても未来に繋がる希望であるのだから。 「がんばれよ」 三郎はそう呟きながら届いたばかりの手紙を破り捨てた。 間もなく冬が来るだろう。 でもその先には必ず春がやってくると、その春をもたらすのは若い力であると彼は信じていた。 |