|
■オープニング本文 注意】このシナリオは陰陽寮 朱雀二年生対象です。 一年生はなるべく見ない方が楽しめると思います。 夏の終わりの五行の河原。 「おーい。お化け屋敷が開店したってよ〜」 そんな声に下町の人々は 「お! やっと来たか」 「これがないと夏が終わらねえんだよな」 期待と喜びに胸を膨らませて集まってきていた。 だがそこにいたのは…。 「さあさあ、俺っち達のお化け屋敷にとっとと入んな!」 ゴロツキ風情の男達。 「一回100文だ。入った、入った!」 周囲を取り巻く人達を『強引に』中に引きこんでいるらしい。 中からは時折悲鳴が聞こえる。 だが、それはお化け屋敷の楽しい悲鳴では決してなかった。 「お化け屋敷、ですか?」 布団から身を起こした人物にはいと頷いて、青年は続ける。 「…しかも、そのお化け屋敷と言うのがただ掘っ立て小屋に黒い布を貼っただけのちゃちなもの。中で客を包丁で脅かすと言うのですからお話になりません。どうしましょう。頭領。このままでは町の治安が…」 報告を聞いた『頭領』は頭を抱える。 「確かに放って置く訳にはいきませんね。とはいえ彼等がここまで積極的な手段に出て来るとは…」 「今まで頭領の威光を恐れていた連中とは思えませんね」 「私が動けないのを解っていて勝負に出てきたのでしょう。例年のお化け屋敷の成功を見てやすしと思ったのかもしれませんが…甘いことを」 「頭領? どうしますか?」 「私の身体が動けば、勝手はさせないのですが。…仕方ありません。今年もなんとかお力をお借りできないかとお願いしてきて貰えませんか?」 「解りました」 そうして、青年がある場所に向かったのが数日前…。 朱雀寮二年生にとって二回目の合同講義の日。 「遅くなってゴメン!」 「大丈夫、まだ先生来ていないから」 駆け込んできた仲間に同級生たちはそう言って片目を閉じた。 「お世話になった大家さんの具合、どうだった?」 「前に比べれば少しは良くなったって。でも、まだ寝たり起きたりだから大変だって話…。僕も陰陽寮に入ってからいろいろ忙しくてなかなか挨拶にも行ってないから…」 「早く良くなるといいですね」 そんな会話をしているうちに、やがて前には二年生担当講師、西浦三郎がやってきていた。 「起立、礼、着席」 簡単な挨拶と話の後、本格的な授業が始まると身構えた寮生達に 「悪いが今回は実習だ」 彼はそう言って、にやりと笑った。 「毎年、一年生は最初の授業でお化け屋敷の興業実習をやる。お前達も覚えているだろう?」 勿論、最初の実習の事だ。彼らは覚えている。 骸骨や生首人形。白い顔の幽霊。ミイラ。赤鬼。術もこんにゃくも使ってどんな風に楽しませたらいいか皆で精一杯考えたものだ。 「今年も一年生は同じ課題に取り組む。で、これも恒例になりつつあるんだが先輩であるお前達には彼等を影からサポートして貰いたい」 「サポート、ですか? 手伝いをしろ、というのではないのですよね?」 確認するように問いかけた二年生に、ああと三郎は頷く。 「毎年、この実習は地元の侠客の方達の協力を経て行う。だがここ数年、彼等を取り仕切る頭領が体調を悪くしている。それをいいことに一部の下っ端の者達が他所から流れてきたゴロツキと手を組んでいろいろと今まで彼等がしてこなかったあくどい商売をしているらしいんだ。そして、そいつらが一年生の実習にちょっかいをかけてくる…」 陰陽寮生のお化け屋敷は実は夏の風物詩となっており、それを楽しみにしている者も多い。 それを狙って彼らはちゃちなお化け屋敷を作って、客を強引に取り込んでいるのだと言う、 「聞く所奴らは今年もお化け屋敷実習を始めようとしている一年生達に勝負を挑んできたらしい。普通に頑張れば客も味方だし、一年生が負けることはないと思う。しかし、相手は任侠崩れのゴロツキどもだ。下手にキレたらどんなことをしでかすか解らない」 「なるほど。だから影からサポートし、一年生とお客様達を守れと…」 頷きあう二年生達にそうだ、と笑んで三郎は正式な指示を出す。 「今回の課題は 一年生の興業実習をサポートすること。方法、内容は自由。表に出て一年生と協力連携するか、影に徹するかはそれぞれの判断に任せる。。 合格条件は勿論、一年生の実習の成功だ。ただし…」 「ただし?」 止まった言葉に数名が首を捻る。 「可能なら一年生達の実習の採点を行う機会も欲しい。故に完全に脅威を事前排除するのもあまり望ましくないとは言っておく。お化け屋敷実習の最大の目的は術の応用とコントロール。発想と工夫。そして危険時の対応なんだ」」 「つまり、多少のトラブルは自分達で解決する姿勢を見せろ…と。…あ!」 ふと一人があることに思い当たる。 昨年の実習の終わりに聞こえてきた蕎麦の汁音、そして先輩達の拍手の音。 「先ほど、恒例とおっしゃいました。やはり、昨年も先輩方が私達を見守って下さっていたのですね?」 「でも、影から見守れと言いながらも、全部は助けるなっていうのはなんかこう釈然としないなあ。一年を信用するなら任せればいいし、助けるなら助けてあげればいいのに…」 「まあ、そう言うな。そもそも一年の授業は大体そんなものだったろう?」 寮生達の小さな反論に三郎は苦笑い交じりで、でも真剣に答える。 「陰陽師と言う道を選べばアヤカシとの対決はどんな形であれ避けられない。ヤツラは常に心の隙を狙っている。それに対抗する為には考え、悩み、その先にある最善の光を目指さなければならない。それができない時には死、あるのみだ…」 「先生…」 「だから、朱雀寮では心を確かめ鍛えることが目的の課題が少なくない。特に一年はな。ま、学び舎ってのは失敗する為の場所。そしてその失敗をサポートするのが先輩や教師の務めってことだ。今回は黒子みたいなものだが、しっかりやれよ! 以上!」 そう言うと彼は二年生達に任せる、と退室してしまった。 一年生の最初の課題と共に、二年生にとっても最初の授業が始まる。 先輩としての初めての課題が‥‥。 |
■参加者一覧
芦屋 璃凛(ia0303)
19歳・女・陰
蒼詠(ia0827)
16歳・男・陰
サラターシャ(ib0373)
24歳・女・陰
クラリッサ・ヴェルト(ib7001)
13歳・女・陰
カミール リリス(ib7039)
17歳・女・陰 |
■リプレイ本文 ●さりげない手助け その日、陰陽寮朱雀の二年生達は五行のある裏町を歩いていた。 「え〜っと、寮長から貰った住所は…」 先を行く蒼詠(ia0827)が地図を見ながら周囲を確かめるように見回した。 「その元締めさんち、見つかりそう?」 五行の下町はいろいろと上の目の届かない所がある。 この辺はまだ入り口近くで家も多いが、変な路地に入ってしまったら出られなくなりそうだ。 後から続く仲間に大丈夫、と答えながらも少し心配そうな蒼詠に 「大丈夫です。道、多分あってます」 一番後ろからついてきていた彼方が、そう声をかけた。 「あら? 彼方さんはこの辺ご存じ?」 そう問いかけたサラターシャ(ib0373)に答えたのは彼方、ではなく五行生まれの清心であった。 「こいつの借りた下宿と、大矢さんの家がこの辺の筈だから…、ってもしかして?」 「ああ、多分、きっとそうなんだと思う。あ、そこの角を右に曲がった左側の家ですよ」 「?」 首を傾げながら言うとおりに角を曲がると、確かに下宿屋風の大きな家がある。 子供や親子などが玄関や縁側で遊んでいる横で 「ようこそ。お待ちしていました。さあ、こちらへどうぞ」 一人の男性が頭を下げた。その顔を彼らは知っている。 「全法寺様…」 名を呼ぶ声に小さく微笑して、彼は寮生達を迎え入れたのだった。 「やっぱり、そうだったんですか」 「別に隠していたわけでも騙していたわけでもないのですけれどね」 少し寂しげなものを漂わせた彼方の言葉にどこか困ったような顔で布団から身体を起こした彼女は答えた。 二年生達が訪れたのは五行の下町の一角を束ねる任侠の元締めの家。 そして彼方が下宿を借りている大家の家でもあるという。 「下町を守り、子供達を守る為にはそう言う存在も必要なのですよ…」 「それは…解っていますが…」 微かに顔を背けた彼方の背を軽く叩いて、サラターシャは目の前の女性、下町の任侠達。その元締めに頭を下げた。 「後輩達がお化け屋敷の実習でお世話になっています。いえ、昨年は私達もお世話になったのかもしれませんね。お身体の具合はいかがでしょうか?」 「まだ動けませんが、良くはなってきています。私どもの部下の不始末でご迷惑をおかけしております」 「今回伺いましたのは他でもなく、陰陽寮のお化け屋敷、その側で的屋を営む方々についての情報を頂けないかと思いまして」 「僕達、二年生は課題として一年生達のお化け屋敷と、お客さんを守るようにと指示されています。御身内に対して失礼かとは思うのですが…」 「無思慮な者達に灸をすえて頂けるなら、こちらからお願いしたいところです。詳しいことは彼に…」 横に控える全法寺氏が頭を下げた。 「ありがとうございます。微力を尽くしますわ」 「早く良くなるようにこれを…。毎年一年生が御世話になるのですから早く元気になって頂かないと」 礼を言い退室していく寮生達。その最後に彼方は 「…どうか早く良くなってください」 小さな声で囁き、逃げるようにしてその場を離れたのだった。 一年生達の小屋を対岸に見る河原で 「ふ〜ん。いつもと違って本物のごろつきなんだね。それならこっちで…ううん、やっぱり一年生に任せた方がいいかな」 クラリッサ・ヴェルト(ib7001)は仲間達の報告を聞きながらそう呟いた。黒子達の会議中だ。 「昨年も偽物、と言う訳でもなかったようですわ。でも今年はやはり一味違うようですね。一応その道の人、のようですから」 「僕達で片づけてしまうのもありでしょうけれど、一年生の危機管理能力を見たいと言うのが実習の意図でしょうからね」 「それで、どうする? 宣伝して町でゴロツキ達の目を引きつける。っていうのもありだと思うけど」 二年生達は意見を出し合う。 「話に効く限り、能力そのものはたいしたこと無さそうだから、三手に分かれようか?」 街で宣伝を兼ねて賑やかに騒いで敵の目を集める班と、絡まれている一般人を助ける班と、直接お化けを退治する班と。 「じゃあ、始めようか?」 分担を決め終えるとクラリッサの声で彼らは動き始める。対岸でもきっと準備が始まっている事だろう。 「今年のお化け屋敷はどんな感じになるのでしょうね」 これは勿論、実習であるのだけれど、二年生達も昨年を思い出しながら心を躍らせていた。 ●守るべきものは おそらく、売り上げ勝負など一年生達は気にしていないだろう。 だが、ゴロツキ達は違う。 妙なところで律儀な彼らは朱雀寮の寮生達のお化け屋敷よりも高い売り上げを上げようと頑張っている。 それそのものはまあ悪いことではないのだが、手段が問題であった。 「おうおう、そこの姉ちゃん! うちのお化け屋敷、見ていきな!」 「ちょ、ちょっと止めて下さい。私は連れを待って…」 「ああ? 俺達の誘いを断ろうってのか!? ほんのちょっとでいいからよ!」 通りすがりは勿論、街の中にやってきてまで強引な客引きをしているのだ。 そのせいで逆に引かれているとは思いもせずに。 「止めて下さい!! 本当に!!」 手を払った女性が軽く相手を押す。途端よろけた男は地面に尻餅をついた。 「いってぇ!! おい、姉ちゃん。骨が折れたぜ」 「治療費の代わりに付き合って貰うぜ!」 「そんな…!」 強引な言いがかりはもう客引きと言えるものですらない。 高く上げられた手。女性は目を閉じた。 しかし、その手は何故か女性の元に降りては来ない。 「な、なんだ。一体。身体が妙に重いっていうか、動かねえ」 「こっちへ」 男が戸惑っている隙に少女がスッと女性の手を引き、彼女を路地裏へと逃がした。 「女性を誘う時にはもう少し優しく声をかけるものですわ。でないと嫌われますわよ」 逃亡路を塞ぐようにスッと前に出る二人連れ。 美しい金髪の女性とカラクリの少年は素人が見ても開拓者であると解って歓声が上がる。 男達にも勿論解ったであろうが、彼らにもプライドがある。 女を前に逃げることなどできなかった。 「くそっ! 邪魔するな! さもないと姉ちゃんも痛い目にあうぜ!」 「あらあら。レオ。お願いできますか?」 『了解。マスター』 襲い掛かってくる男達に女性は符を取り出すと素早く術を放った。 体の動きを鈍らせる呪縛符。彼らがそれに戸惑っている隙にレオと呼ばれたカラクリの少年は男達を足払いなどで倒していく。 実力の違いは歴然であった。 「く、くそっ!!」 男の一人が悔しまぐれに近くにいた少女の肩を掴む。人質にでもしようとしたのかその首もとにナイフを突きつけようと手首を翻す。だが、その瞬間 「うわああっ!」 男は尻餅をついてナイフを取り落とした。少女の肩口から巨大な龍が現れ、男の頭を呑み込もうとしたからだ。 「ぎゃあああ!!」 男達は武器を取り落として去って行った。 残った二人と一人は 「お疲れ様です」 「そちらこそ。随分可愛らしい恰好をなさっておられますのね?」 「兄にやられたんです。また女装する羽目になるとは…」 小さく笑いあって軽く手を打ちあわせたのだった。 一方、お化け屋敷の方では 「アニキ。本当にいたんですってば!」 「お前馬鹿か! お化け屋敷にお化けなんかいるわけねえだろ! お前、あいつらにからかわれたんだよ。ったく夜中に忍び込んで道具をぶち壊す事もできねえのか?」 男達の何人かがそんな会話をしていた。 日に日に評判を上げていく朱雀寮のお化け屋敷と対照的に、こちらは一日毎に閑古鳥が鳴きわめく。 「そんな…。なら、直接乗り込んでやりましょうよ」 「そうだな。陰陽寮のったって所詮なよなよとした一年生だ。俺達のプライドにかけて負けるわけにはいかねえ」 「ふ〜ん、ずいぶん安いプライドなんだねえ〜」 「誰だ!」 男達はそう声を上げた。 彼らの話を聞いていたのは人形を抱いた少女が一人。 「お化け屋敷、見せて貰ったけどただ暗いだけじゃない。ろくに怖がらせてもくれないし。もっと努力した方がいいとおもうなあ〜。朱雀寮のお化け屋敷、見習ったら?」 居並ぶ男達に怯む様子も見せない少女の正直な言葉に、彼らは一瞬で冷静さを失った。 「うるせえ! 俺達のお化け屋敷に文句をつけやがったな! 追加料金1000文だ!」 襲い掛かってくる男達。 だが 「ぎゃああ」 悲鳴を上げたのはゴロツキ達の方だった。 「大丈夫ですか? クラリッサさん」 「一人では危ないですよ」 「ありがとう。彼方君、清心君。本当に、任侠って言っても下の方はこんな賊と変わらないようなのもいるんだね…」 手首から刃物を弾き飛ばした斬撃符。二人の少年達はクラリッサと呼んだ少女を守るように前に立った。 「くそっ! 舐めやがって!!」 怒り心頭で飛びかかってくる男達。 だが、クラリッサの蠱毒に動きを封じられた上に二人がかりの術攻撃を受けては叶う筈もなかった。 やがて地面に転がった彼らは縛られ、武器を奪われ転がされる。 「これに懲りたらお化け屋敷には手を出さないことだね」 「ま、待て!!」 悠々と去って行く子供達の背を男達は悔しげに見送るしかなかったのである。 ●見守る瞳 さて、と二年生達は思った。 十二分にゴロツキ達のお化け屋敷。そのやる気と人気は削いできた。 もう、あちらに入る客は殆どいない筈だ。 女子供に転がされたのを多くの人に目撃されてもいるし、ゴロツキとしての威厳も既になくなって久しい。 武器も取り上げて、元締めに渡しておいた。 つまり、もう後がないのだ。 加えてクラリッサはお化け屋敷との関係を匂わせておいた。 そろそろ、彼らは向こうに行くだろう。 「危機対処の訓練、でもあるからこれでいい筈。あとは一年のお手並み拝見だね」 「やりすぎ…では、なかったでしょうか?」 「一年生の皆さんなら、大丈夫だと思いますわ。私達の行動に気付いていた方もいたようですし」 サラターシャはそう言うが、蒼詠はどこか、落ち着かないようだ。 「僕、一年生のお化け屋敷を見てこようかと思うのですが、いいでしょうか? 評価もかねて…」 そう伺う様に言う蒼詠に、サラターシャはええ、と優しく頷いた。 「私も後で見に行きたいとは思っていたのです」 「だったら、皆で行こうか。あ、でもバレないようにちょっと変装はしていかないと」 クラリッサも明るく笑う。 正直なところ、今年の一年生達がどんなお化け屋敷を展開しているかは興味があったからだ。 そうして二年生達は一年生のお化け屋敷を体験しに訪れた。 勿論、既に変装が完璧な蒼詠以外も、気付かれないように服装や仕草、髪形などはかえてあった。 通常コースをサラターシャが体験し、探検コースをクラリッサが遊ぶ。 「途中、身体が重くなったのは呪縛符、でしょうか? お客さんにかけるのはどうでしょうか?」 首を傾げるサラターシャ。 「いろいろ工夫はしてたみたいだよ。結構面白かったけどね〜」 クラリッサは楽しげに笑っている。 そして、子供用の冒険コースを蒼詠が一年生と歩いていた時。それは起こった。 ーー! 「!」 「何か、あったの?」 首を傾げた青詠から見て案内役の一年生は明らかに動揺していた。 (早く行かなくては。でも客を置いてはいけない…。どうしよう) そんな焦りが見て取れたから。 「大丈夫」 彼の大きな手のひらを手のひらで包んで、蒼詠は微笑んだ。 「早く、皆の所に行ってあげて下さい。頑張って」 その言葉に背を押されるように 「ありがとう! 出口はすぐそこだから!」 彼は走って行った。 その後、誰もいないお化け屋敷を蒼詠はゆっくりと歩き、出てきた。 だから一年生達がゴロツキに対してどういう対応をしたのか、彼は直接見ることはできず仲間から話を聞くのみだった。 けれど、一年生達はちゃんと客を守り、敵を撃退したという。 後にお化け屋敷の中から上がる悲鳴を聞きながら 「心配はいらなかったようですね」 蒼詠はそう言って冷やし飴で乾杯しながら、仲間達と笑いあったのだった。 ●黒子達の思い 今頃、一年生達は寮長からの評価を受けているのだろうか。 「ま、人数の割に頑張っていたよね。ただ、ちょこっと緊張してたのかなあ。遊びが足りないって言うか…。ああいうのは自分達も楽しまないとね。まだそこまでの余裕、ないのかもしれないけど」 実習前に集まった一年生達の小屋を対岸に見る河原で、クラリッサはそう言って大きな伸びをした。 「ええ。もう少し、協力し合えればもっとスムーズに流れ、楽しめたかと思うのですが…。でも今年の一年生さん達は個性が強いので心配しましたが…最終的には皆さん、とても楽しそうにしていましたし。良かったのではないでしょうか?」 サラターシャも頷く。二年生達から見たお化け屋敷の感想は既に寮長に提出してある。 あれがどこまで評価に反映されるかどうかは解らないけれど、不合格にはならないように注意して書き込んだつもりだった。 ちなみに二年生の実習は既に合格評定を得ている。 「まだ、最初だからちょっと噛み合わない所もあったみたいですけど、そこは今後に期待、というところですね。発送などは面白かったですし。新しいタイプのお化け屋敷でしたよ」 言いながら蒼詠は思い出す。修羅の大きな後輩と一緒に楽しんだ小さな冒険を。 「あと、心配なのはゴロツキ達かなあ。釘を刺して官憲に引き渡しておいたからもうお化け屋敷には手を出しては来ないだろうけど…。早く大家さんが治って、若い衆に睨みを聞かせてくれるといいね」 「…はい」 ウインクしたクラリッサに彼方は頷いた。 この件が始まって以来いろいろ考えたり悩んでいたのも、どうやら吹っ切れたようである。 「来年も、きっと一年生が世話になるでしょうからね」 「そして、二年生がガードにつくんですわね」 くすくすと顔を見合わせる寮生達はもうすっかり先輩の顔をしていた。 「さて、寮に戻りましょうか。美味しい銀杏の茶わん蒸し、ご馳走しますよ。大家さんに前に教わったんです」 笑顔で彼方は仲間達に笑いかけた。寮生達に勿論否はない。 「わあ、楽しみ!」 「銀杏ですか。秋ですねえ〜」 「そろそろ寒くなってきましたし、暖かいものはいいですね。後で一年生さん達にも差し入れしましょうか」 歩き帰る寮生達の頬を秋風が、ゆっくりと撫でて通り過ぎて行った。 こうして五行の夏は終わり、お化け屋敷は眠りにつく。 来年の夏を夢見ながら…。 |