【朱雀】委員会交換会
マスター名:夢村円
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 16人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/05/17 00:15



■オープニング本文

 緊張の発表会を終えた数日後、各委員会の副委員長を務める五人の二年生は卒業試験に挑む三年生達に声をかけられたらしい。
 そして、彼らは仲間や、一年生に招集をかける。
 大事な話があるから、と呼び出す仲間にデジャヴを感じる二年生達に、副委員長達は予想通りの言葉を口にした。
「来週、委員会交換会を行うことになったから」
 やっぱりと顔を見合わせる二年生達とは対照的に一年生達はよく解らないと首を捻る。
 勿論、副委員長達も説明不足は承知しているので、補足説明を始める。
「皆さんは、来年の委員会をどこにするか決めておられますか? 私達もですが、現在皆さんも進級試験をされていると思います。四月の論文と、五月の実技、それで進級試験の結果が決まります」
「皆さんも〜、失敗前提で試験は受けていないと思いますから〜、合格すれば来年は皆さんが二年生になるんですよ〜」
 保健委員会副委員長と、図書委員会副委員長の言葉に一年生達は顔を見合わせる。
 そう言えば、そうなのだ。
 進級試験、その内容に手いっぱいであったが、進級試験が終われば入学試験が行われ、新入生を迎え…自分達が二年生になる。
 そして、目の前の二年生達が三年生に…。
「去年の先輩の受け売りで恐縮なんだけど、委員会は基本、一年交代だから今年の委員会から、別の委員会に変わっても構わないの。勿論、慣れた委員会でさらに専門的な知識を深めてもいいわね。でも、在学生は新入生を迎える七月までに次の委員会を決めて提出してもらうことになっているから、そろそろ考えて置いては貰わなくっちゃならないのよ。
 今月末には進級、卒業試験の結果が出るでしょ。来月の委員会は三年生を送る会の予定だし」
 調理委員会副委員長が指を立てて説明する。それを用具委員会副委員長が引き継いだ。
『と、言うわけでそれで今月の委員会は年度末の作業です。大掃除とか、資料整理とかその他もろもろ。
 そして、その合間を見て別の委員会への移動を考える人はその委員会を見学していいことになっています。
 作業の手伝いをしたり、先輩や友達と話をしたりして、来年自分はどこの委員会に所属するか、その検討の参考にして下さい』
 しゃべったのはいつもの通り、人形、であったけれど。
「ついでに言えば、これも先輩達の受け売りだが陰陽寮朱雀の委員会活動に置いて委員長は三年生が、副委員長は二年生が担当することになってる。
 ただ、委員長、副委員長となればある程度の仕事は覚えていなければならないので原則として一年時、その委員会に所属した者の中から副委員長は選ばれることになってる。それと同じく二年間務めた者がいない場合を除いて委員長は同じ委員会に三年間務めた者がなることになっててな。俺達は来年度の委員長に、ほぼ内定してる。さっきも委員長達にまさか移動しないだろうな? って念を押されてきたところだ」
「もっとも〜、今年は人数が少ないですから〜、他になり手がいない時は委員会を代わった二年生も、副委員長を任されるかもしれませんね〜、あ、でも同じ委員会を二年続ける人がいれば、もちろんそっちが優先です〜」
 委員長、副委員長の称号を目指すのであれば同じ委員会に所属するのが前提。
 二年の副委員長は、どうしてもの事情がない限りは三年になった時、委員会の委員長を任されることになる。
「二年生の皆さんも、同じです。来年、今の委員会を続けるか、別の委員会にするかを決めて下さい」
 そう言う保健委員長の言葉に一年生も、二年生も頷く。
『どんな委員会活動にするかは、二年生の副委員長が決めていいことになっているのですが、もう少し待って下さいね…。でも多分、どの委員会も通常業務中心になると思いますよ。普通の仕事を見て貰わないと意味がないですからね』
 広く、いろんな知識を深めるか、それとも一つの知識と技術を深めるか。
 陰陽寮の委員会活動は勉強の一環でもあるので、良く考えるべきだろう。
 …たった三年間しかないのだから。

 二年生にとっては陰陽寮の生活ももう残りあと一年しかない。
 一年生にとっても一年が過ぎるのはあっという間だった。
 
 舞い落ちる桜の花びらと一緒にやってくる『その時』の足音は今年も、もうすぐ傍まで近づいていた。


■参加者一覧
/ 芦屋 璃凛(ia0303) / 俳沢折々(ia0401) / 青嵐(ia0508) / 蒼詠(ia0827) / 玉櫛・静音(ia0872) / 喪越(ia1670) / 瀬崎 静乃(ia4468) / 平野 譲治(ia5226) / 劫光(ia9510) / 尾花 紫乃(ia9951) / サラターシャ(ib0373) / アッピン(ib0840) / 真名(ib1222) / 尾花 朔(ib1268) / クラリッサ・ヴェルト(ib7001) / カミール リリス(ib7039


■リプレイ本文

●委員会シャッフル 
 気が付けば桜の花も当に散って朱雀寮は濃くて明るい新緑に包まれていた。
「う〜ん、いい陽気ですねえ〜」
 眩しそうに空を見上げるアッピン(ib0840)の傍らでは
「そうだね。これぞ五月って感じ?」
 本を抱えた俳沢折々(ia0401)がほんわりと笑っている。
「ええ、絶好の虫干し日和です〜」
 いつもと変わらない図書委員会の空気に少し離れた場所で図書の整理と確認をしている一年生達は顔を綻ばせていた。
「なんだかいいですね。こういうの。つい少し前まで試験勉強でなんだかキツかったですから和みます」
 笑いながら言うカミール リリス(ib7039)にうんうんとクラリッサ・ヴェルト(ib7001)も首を縦に振った。
「ん、試験結果は気になるけど、気持ちを切り替えていこう。せっかくの委員会活動だもの」
「ええ、私もそう思います。あれ? でも、朔先輩は…」
 サラターシャ(ib0373)を含めた三人でそんな会話をしていると
「一年生さん達♪」
 まるで歌う様に楽しげにアッピンは近付くとそう声をかけた。
「「「あ、はい先輩」」」
 三者三様の声が重なると嬉しそうに頷いてアッピンは三人を見る。
「もう来年の委員会をどうするか決まりましたかぁ〜」
 返事を探す三人の答えを待たずにアッピンは笑う。
「皆さん聞いていると思いますけど、今は委員会のシャッフル期間です。だから虫干しの区切りが付いたら出てきていいですよ〜」
「私もね、用具委員会にお邪魔しようと思うんだ。皆はどうする?」
「折々先輩は委員会を移動なさるんですか?」
 目を瞬かせるクラリッサに
「ううん」
 当たり前のように折々は首を横に振った。
「移動しないよ。私は来年も図書委員を続けるって決めてるから。だいぶ本の場所も覚えてきたし、こうなったらどこまで覚えられるか挑戦しようかなあ」
「進級するごとに入れる書庫が増えてくんですから大変ですよ〜」
 からかうように言うアッピンに片目を閉じて折々は続ける。
「でもね、シャッフル期間はいつもは解らない別の委員会の仕事を体験できるの。だったら、体験してみないともったいないじゃない」
「ああ、なるほどそう言う考え方なんですね」
 感心したように頷くリリスにだから、とアッピンは続ける。
「遠慮しないでシャッフルに参加してきていいですよ〜。勿論いいと思う委員会があれば移動もオーケーですけど」
「副委員長は、どうなさるんですか?」
 サラターシャの問いにアッピンはう〜んと考える真似をして笑う。
「私は役付きですからね〜。図書委員会に遊びにくる方をもてなすのでいつもどおりですよ。じゃあ、皆さんが早く遊びに行けるようにお仕事をさっさと片付けてしまいましょうか〜」
「「「はい」」」
 明るい声がまた三つ重なる。
 本当は一つ聞き忘れた事があるのだけれど、変わらない仕事を変わらない態度で取り組む。そんな一年生達をアッピンの折々も笑顔で見つめていた。

●体育委員会 強さとは

「てい!」「えいや!」「とおっ!」
 陰陽寮の中庭に明るい声が響いている。
 体育委員会恒例の組手練習だ。
 攻め手側は一年生の芦屋 璃凛(ia0303)。
 それに応えるのは
「ほら! もっと相手をよく見て! 敵から目を逸らすな」
 体育委員会次期委員長劫光(ia9510)であった。
 それを中庭の木に背中を預けて恨めしそうに見る女生徒一人。
「す、すごいですね。璃凛さん。あ、あれだけ走った後に、すぐ組手なんて…」
「大丈夫なりか? サラ」
 心配そうに顔を覗き込む平野 譲治(ia5226)が差し出した水を、礼を言ってサラターシャは受け取った。
 自分が用意しておいた柑橘類と蜂蜜の入った水が汗をかいた身体に沁みとおるようだ。
「だ、大丈夫です。でも、皆さん、すごい体力ですね。先輩もさっきまで組手、されていませんでしたか?」
 自分より年齢的にも体格的にも小さい先輩が平然としているのを見てサラターシャは心から感嘆の声を上げた。
「おいらは二年も体育委員会やってるなりからね。無駄に体力はついたかもしれないのだ。組手ではまだ劫光に負けることもあるなりが体力では負けないなり!」
「まあ、何にするにせよ基礎体力ってのは大事だぞ」
「あ、劫光。璃凛、おつかれなのだ〜」
 ぐっと力こぶしを作っていた譲治が組手を終えてやってきた仲間達に手を振って迎えた。
「あ、サラ大丈夫?」
「始めての奴にはちょっとキツかっただろ?」
 気遣ってくれる二人に礼を言って、しかしサラターシャは少し顔を俯かせた。
「元々、体力や体術には自信がなかったのですが…未熟を実感しました。組手以前これでは…」
 下を向いてしまったサラターシャの頭に大きな手が乗る。
「そんなことはないぞ」
 劫光はそういうとはっきりと否定して笑いかけた。
「最後まで諦めず着いてきた。それが一番大事なんだ。何よりも大切な強さってのは心だとこの一年学んできただろう?」
 頭を撫でられるなどどれくらいぶりだろう。気恥ずかしさに目を逸らしてしまうが先輩の大きな心がとても嬉しかった。
「ありがとうございます」
「よし!」
 くしゃくしゃと頭を撫でられてますます照れた様子のサラターシャを楽しげに見ていた璃凛と譲治は
「それじゃあ、おいらたちはちょっと出かけてくるのだ!」
「サラ、それじゃ、また後でね」
 劫光とサラターシャに向けて手を上げた。
「ああ、気を付けてな」
「お二人とも、どちらへ?」
 目を瞬かせるサラターシャに二人は
「保健委員会! ちょっと見学してくる!」
「おいらは全部回ってくるのだ! いろいろ世話になったなりから、お礼は返せるときに返しておくなりよ!}
 元気に答えて走って行く。
「二人とも来年も体育委員会継続ってことだからな、信頼してるさ」
 二人の影が見えなくなるのを確かめてから劫光はそう小さく呟くとサラターシャに手を伸ばした。
「ほら、そろそろ落ち着いたか? せっかく来たんだ。組手の基本くらいやっていかないか?」
「お願いします」
 サラターシャはその手を躊躇わずに取る。
「せめて皆さんの足手まといにならないように身を守るすべを覚えておきたいのです。つたないですが、一生懸命練習します。よろしくお願いします」
「手は抜ける方じゃないから覚悟しろよ?」
「はい!」
 その真っ直ぐな目と思いを受け止めて
「よし、やるぞ!」
 劫光は笑顔と共に構えをとったのだった。

●保健委員会 受け継がれる優しさ
 保健委員会の活動場所を探す時、大抵の人は保健室を探す。
 そしてそれは勿論間違ってはいない。
 しかし、そこに望む人がいないことは実は多いのだ。
「あれ? いない?」
 小首を傾げる璃凛の後ろから譲治も一緒に部屋を覗き込んだ。
「いないって…、そこに副委員長いるなりよ?」
「保健委員会にご用ですか?」
 見学ですと手を上げた璃凛に保健委員会副委員長玉櫛・静音(ia0872)はようこそ、頷いた。
「あの、先輩。蒼詠(ia0827)は、いませんか? 見学のアドバイスをして貰う話だったんですけど…」
「今、殆どの委員の皆さんは薬草園の方に行っています。私は留守居役と在庫の確認をしています。もうすぐ、戻って来ますよ」
「ああ、いいです。薬草園の方でお手伝いしてきます!」
 呼び止める間もなく駆け出して行った璃凛をくすりと小さく笑って静音は見送った。
「見学者多いのですね…」
「保健委員会は陰陽寮の要、なりから!」
「そう言って頂けるのならいいのですが…」
 明るく笑う譲治の言葉に静音は頷く。
「入学して、もう二年が過ぎるのですね。少しは副委員長らしくなっているのでしょうか…」
 少し不安げな様子の静音に
「だ〜いじょうぶなりよ!」
 譲治は笑い飛ばす様にそう言った。
「来年も続けて委員長やるなりよね?」
「はい。そのつもりです」
「じゃあ、ど〜んと自信持ってやるといいなりよ。皆、信頼しているし、頼りにしてるなりから! あ、おいらもちょっと薬草園の手伝いにいってくるのだ! じゃあ、後でいろいろ教えて欲しいのだ!」
「はい、お待ちしています」
 トタトタと駆け出していく譲治の足音を聞きながら、静かに微笑んで静音は薬戸棚の引き出しを開けていた。

 薬草園の五月。
 桜の花も落ち、カリンの木も新緑となったが、この時期薬草園は実は花盛りを迎える。
「凄いね。こんなに大きくて綺麗な花、見たことない」
「薬草園は保健委員会がしっかり手入れしていますから。こっちが芍薬、根を乾燥させると冷え性や腹痛、筋肉のけいれんなどにいいと言われていますが量を誤ると毒にもなります。そっちが牡丹でこれも根を消炎、解熱、鎮痛などに使用します」
「どっちも使うのは根、ってことは後で掘り返しちゃうのか、ちょっともったいないね〜」
「そこの二人。手が止まってる。落ち葉や花びらの掃除が終わったら、ヨモギを摘んで…」
 ぽんぽん、と軽く頭を叩いていく瀬崎 静乃(ia4468)の声にはいっ! と二人は背筋を伸ばして作業に戻った。
「集めた落ち葉…、半分は向こうの腐葉土の山に、残りは細かく砕いて土に返して…」
「「はい!」」
 もう一度しっかり答えて彼らは、先輩達の仕事を見る。
 軍手に竹べら装備で膝をつき土の状態を集中してみている静乃。
 向こうでは泉宮 紫乃(ia9951)が新しく植え付ける薬草の種類をと場所を尾花朔(ib1268)と相談していた。
「ツワブキとオトギリソウを増やしたいですね」
「カタクリはいいんですか?」
「それは向こうの落葉樹の所にかなり増えていますから。根がしっかり熟すのを待って取りすぎなければまた増えるかと…だから、作業はこっちを中心に」
「解りました。じゃあこの苗はこちらに移植しますね。植え付けた後の水は、多すぎるんじゃないかってくらい多めにするのがいいそうですよ」
 てきぱきと作業を進めていく。
「先輩達は凄いね」
 感心したように言う璃凛に頷きながら
「はあ〜」
 蒼詠は大きなため息をついた。
「どうしたの?」
「いえ。璃凛さんは来年も体育委員会を継続されるのですよね?」
「一応、そのつもりだけど?」
「委員会を継続する場合は原則として続ける人が副委員長を仰せつかるというお話でしたよね」
「うん、そうだね。私も副委員長やるつもりだし」
「僕に副委員長なんてできるのかな…?」
 自信無さげに言う蒼詠の顔を璃凛はじっと見つめた。
「大分頑張って覚えたけれど、今の所知識は60%くらい? もっと頑張らないといけないのに…」
 保健委員会の仕事は命に関わることが多い。間違いは許されない上に責任が必要になる。その責任を自分が果たせるのか、蒼詠は不安になったようだ。
「頑張るしかないのは解っていますが…」
 俯く蒼詠にかける言葉を探していた璃凛であったが
「こーら!」
 それは先輩に任せることにした。
 様子に気付いたのだろう。やってきた静乃はピンと蒼詠の額をはじく。
「つっ!」
 おでこを押さえた蒼詠の目を静乃は真っ直ぐに見る。
「…不安は、みんなおんなじ。副委員長にも、先輩にも最初からなって生まれた人はいない。いろんなことを考えて経験して『なる』の。自分で…」
「そうですよ。解らない事があれば何でも聞けばいいんです。一人じゃないんですから」
「保健委員会では先輩ですからね。頼りにしてますよ」
 優しい目、温かい眼差し。それはきっと毎年繰り返され受け継がれる優しさ。
「ほら、蒼詠、手入れの仕方とか教えてくれる約束でしょ。よろしく!」
 明るい璃凛の言葉にも励まされ
「はい!」
 今度は迷わず、躊躇わず元気に蒼詠は頷いたのだった。
「あ〜! 薬草園は草むしりも気を付けて! そのスミレも、オオバコも薬草なんですから!」
 楽しげな一年生達を二年生達は満面の笑みで見つめ、見守ったのだった。
「それはともかく、静乃さん、その恰好は? ずっと気になっていたのですが?」
「白いエプロンドレスで、畑仕事にはちょっと不向きな気がするんですけど」
「ジルベリアの…メイド服、っていう…らしい。あっちでは汚れ仕事とかに着るって…」
「そういうもの、でしょうか…?」
 くるりとまわって無表情にポーズを決めた静乃に紫乃は首を傾げたのだった。

 その後、蒼詠は保健室に戻ってからいつにも増した真剣さで、静音から薬草の用途や種類、調合の仕方を学んでいた。
「今まで先輩達から学んできた事を今度は自分が教える番ですから」
 静音は誰からのどんな質問にも誠実に答えてくれたのだった。
「璃凛、お疲れ様なのだ」
「いえ、姉と同じで、影から見守りたいのかも知れません。色の違う心の焔ですけど」
 譲治や璃凛、紫乃に静乃、そして朔。
 こうして保健委員会の知識と優しさは受け継がれていくのだろう…。

●用具委員会 形あるものと無いもの

 今日は快晴で春としては暖かい日になっている。
 とはいえ、用具倉庫の中はあまり暖かいとは言えない。
 灯りはいくつかの小さな照明だけで暖房もないから、暗いし寒い。
 けれど、今日に限っては倉庫の中は明るかった。
 物理的な意味よりも精神的な意味で。
「ああ、愛しの白雪委員長、君への思いを胸に秘め今日も今日とて、カビた空気を胸一杯に吸い込み、過ぎ去りし願いに心を馳せる……とくらぁ」
『ぜんぜん秘めていないじゃないですか?』
 用具委員会副委員長青嵐(ia0508)と気ままで気楽な平委員喪越(ia1670)の掛け合い漫才はもはや名物で、
「相変わらずだね〜」
「そうなりね。あれはもう朱雀寮の名物なりね」
 手伝いにやってきた折々は譲治と共に荷物を運びながらくつくつと笑っていた。
「そうなんですよ。相変わらずで…、あの人の上に俺…じゃなくて私が名前のだけとはいえ上に行っていいんでしょうか?」
 心細げな声を出す清心の背中を
「ガンバレ」
 と言う様にクラリッサはポンと叩いた。
「あ、でもそう言う事ならお二人&清心も委員会の移動の予定は無いんだね」
『私は変わる気はありませんよ、このまま続けます』
「今さら他の委員会に行こうとも思わねぇけどな。ンな面倒く――いやいや、この用具倉庫にも愛着が湧いてきたからね!?」
 じろりと睨む蒼嵐の鋭い視線に喪越は手を慌てて横に振る。
「本当に変わらないんだから」
 一年生に用具の扱い方を教えていたので、二年生達は側にいて勿論今までの互いの会話も聞こえていて、それを知っている上で皆、軽快に会話を楽しんでいるのだ。
「まあ、用具倉庫が居心地がいいって、解る気がするよ。だって面白いもん。いろんなものがあって…」
 言いながら折々は用具倉庫を見上げる。
「あ、それ解ります。今までじっくり見たことなかったけど面白いですよね。倉庫って」
 クラリッサも同感と頷いた。
 いろいろな道具、いろいろな壷、符や紙などが雑多、に見えるが整理されて並べられている。
 開拓者でさえそう簡単には購入できない宝珠や術道具なども資料として揃えられているかと思えばその横に当たり前にどこにでもある紙や筆、絵の具などが並んでいたりする。
 こういう普通の品が陰陽師の技を経て術道具になっていくというのは本当に興味深いことだ。
『そうですね。用具、道具と言うのは本とはまた違う先人たちの思いを受け継いでいくことだとも言えますね。だからこそ丁寧に扱って行かなければならないのです。さて、用具倉庫のチェックと参りましょうか。終わったら掃除と虫干し、皆さんも手伝って下さいね』
「「「「はーい」」」」
 重なった声に満足して青嵐はメンバーに指示を出していく。
 その区切りの中
「青嵐先輩」
 自分を躊躇いがちに呼ぶ声に青嵐はふと振り返った。
『クラリッサさん? どうかしましたか?』
「先輩、あの歓迎会の時の事…覚えておられますか?」
 問われて青嵐は少し考えて頷いた。そして
『ああ、人形の使い方について聞かれた時のことですね』
「はい。あれから、ずっと考えていたんです…」
 作業しながらクラリッサが紡ぐ言葉を黙って聞いている。
 あの時自分は
(『「何を望んでいるか」を考えてみた事はありますか? 人形の意思、心を感じられますか?』)
 そう答えたのだったっけ。
「まだこの子の意思はわかりませんけど」
 側に置いてあったきりんぐべあーの人形をクラリッサは抱きしめる。
「一緒に成長していきたいです」
 その強い言葉は自分自身への誓い。自分のアドバイスをきっと今は必要としているわけでは無い。
 それが解ったから青嵐は
『そうですね。頑張って下さい』
 優しく、心からの笑みでそう答えたのだった。

「なあ、折々ちゃんよ」
「なあに?」
「大人の女性ってのはどんなことをしたら喜ぶもんなのかいね?」
「? 珍しいことを」
「俺らしくねえのはわかってんのよ。でも、白雪委員長にはまだ大きな借りを返してねぇからなぁ。卒業までに何かできねぇかと考えるんだが。なんか、こうなあ〜。いつもの軽いナンパのノリなら、いくらでもネタは出てくるんだけどなぁ。何か好きなものとかあるんかな〜」
「白雪委員長なら真心が籠ってればなんでも喜んでくれると思うけど」
「だから、それが難しいんだって!」

●調理委員会 誰かの笑顔の為に
 調理委員会の活動場所は寮生食堂の台所。
「皆さん、凄いですねえ〜」
 手際よく調理を進めて行く副委員長、真名(ib1222)をはじめとする委員達にリリスは芋の皮むきや下ごしらえを手伝いながら心から感嘆の声を上げた。
「まあ、料理っていうのは、基本は慣れよね。毎日やってれば自然に腕は上がって行くものなのよ」
「後は、必要かもしれないです。僕はお師匠が本当に料理とかやらない人だったので覚えないと、食べたいものが食べられなかったですから」
「ああ、そういうのあるわよね。っと、ありがとう」
 真名は彼方が差し出した皿に出来上がったばかりの炒飯を乗せた。
 この二人、なかなかに息がぴったりだ。
「カミールさんも何か作ってみる?」
「いいんですか?」
「ええ、解らない所があれば手伝うから。ついでに新作チャーハンの味見をして欲しいのよ。アル=カマルの人ならちょっと辛めのでも大丈夫でしょ?」
「はい、では…」
 まな板に向かうカミールに真名は真剣に料理を教えてくれた。
 その過程でふと、カミールはあることを聞いてみた。
「美味しく料理を作るコツってなんだと思います?」
 う〜んと考えて後
「月並みだけど食べてくれる人の事を思うこと、かな? 自分の料理を誰かが食べてくれる。と思えば美味しいと思って欲しいから一生懸命作るし、喜んで貰えたら嬉しいからもっと上手になれるように練習や勉強するでしょ」
「誰かが言ってましたよ。美味しいものを食べるっていうのは何を食べるかより、誰と食べるか、だって」
 なるほど、とリリスは思う。
 だから、朱雀寮で食べる料理は美味しいだろう、と。
「あ、彼方? どこかに見学に行かなくていいの? 遠慮しなくていいのよ?」
「いいんです。僕は来年も調理委員会を続けるって決めてますから。後で、蒼詠に薬草のこととか教わって薬膳料理も作れるようになりたいですけど」
「それは、お師匠の為? 麺料理が得意なのもお師匠が好きだからって言ってたっけ?」
「はい。薬膳料理も覚えてお師匠に食べて貰いたいです」
 思いを込めて料理を作る。
 大切な誰かの笑顔の為に…。
「ボクももっと料理覚えてみようかな?」
「じゃあ、レシピ集作ってあげましょうか? 今まで作った料理のレシピを纏めてみようかと思うの」
「あ、それ僕も読んでみたいです」
 賑やかな台所は
「真名〜。何か美味しいものできてるなりか〜? まだなら皿洗いとか手伝うのだ!」
「何かお手伝いすることはありますか?」
「あ。朔。じゃあ、お願い。今日のメニューは炒飯と冷やし麺だから、デザートにちょっとしっかりとした甘さのモノが欲しいのよ」
「平野先輩。料理の味見とアドバイスお願いしてもいいですか?」
「任せるのだ!」
 さらに周囲に楽しそうな声と、美味しい音。そして鼻腔を擽る匂いを広げて行ったのだった。

●そして図書委員会と…
「ふ〜ん、去年も言ったんだけどやっぱり、住めば都なのかなあ?」
 夕方、委員会交換会から戻り、書庫に虫干した本を戻した折々はアッピンにそう呟いた。
「そうかもしれませんね〜。結局一年生も今年、誰も委員会を移動しないんでしょう?」
「うん。二年生も一人を除いて皆、同じ。移動するのは朔くんだけだってさ」
「ちょっと、寂しくはなりますね〜。でも保健委員会に移動するのなら紫乃ちゃんと一緒だしいいんじゃありませんか?」
「だね」
 二人は頷きあった。
「そう言えば一年生さん達は副委員長を決めたんでしょうか? 三人とも残るなら副委員長を決めて頂かないと…」
「もう少し様子を見てあげたら? 多分、あの子達なら自分達で決められるよ」
 本棚の間から
『副委員長は…私は人の前に立つのあんまり得意じゃないからね。縁の下でいいかなって』
『副委員長ですか、遠慮願いたいですね。できないわけでは無いですが…』
『お二人とも慎ましいですね。では、私が立候補させて頂いてもいいでしょうか?』
 そんな声が聞こえてくるから二人は口を出さないことにした。
 春とはいえ、夕方。落ちつつある夕日は風に冷気を帯びさせる。
 本が湿気ない様に窓を閉める最中の図書委員達。
 保健室を閉め食堂に向かう保健委員達。
 暗くなった用具倉庫の作業を終えて鍵をかけた用具委員達。
 そして中庭から空を見上げた体育委員達。
「あれ?」
 彼らは視線の先、高い塔の上にふと影を見つける。
 ぼんやりと夕日を見つめる少年。
「譲治く〜ん!!」
 食堂の勝手口から真名は思いっきり大きく手を振った。
「そろそろ、皆でご飯食べよ〜〜!」
「あ」
 瞬きした譲治は手を振り返す。
「解ったなり〜。今いくのだ〜〜!」
 そして階段を降りようとして一度だけ、振り返った。
 かつてここで一緒に夕日を見た人形、いや仲間の事を。
「…待ってるなりからね。凛」
 そうして、彼は自分を待つ仲間達の元へと戻って行ったのだった。


 委員会の終わりはいつも賑やかな食堂で
「は〜い! 今日のメニューはラー油炒飯、レタス添え。こっちは薄焼き卵で巻いてあるお握り。さあ、食べてみて」
「あ…、真名さん。美味しいです。ご飯だけだとちょっと辛すぎますけど、レタスのさっぱり感がラー油の脂っこさと辛みを消してくれて。流石、真名さんですね」
「先輩! こっちのお握りも美味しいですよ。今日はいろいろやって汗をかいたから辛いのが気持ちいいです」
「璃凛さんは今日は一生懸命畑仕事、して下さいましたからね。助かりました」
「今年の一年生は、皆さん勉強熱心ですしね。教えがいがあります」
「…静音、そういえば薬草園の土に、虫がいっぱいいて…カブト虫の幼虫とか、どうしよう?」
「カブト虫! 孵ったら見たいのだ!」
「ジョージらしいな? でも、さて、ホント、どうすっか…」
『クラリッサさん、お疲れ様でした。用具委員会は力仕事が多いから大変でしたでしょう?』
「でも、楽しかったですよ。今度機会があったら奥にあった道具とか、人形とかも見せて下さい」
「サラも疲れただろ?」
「はい。少し。でも基本の型だけでも体術を学べて勉強になりました。あ、よろしければ用意した果物水もどうぞ」
「冷麺はいかがですか? 疲れた身体がスッキリしますよ。デザートは朔先輩の作ってくれた葛饅頭です」
「まだ少し、時期的に早いかもしれませんけどね」
 わいわいと寮生達は夜遅くまで美味しい食事と友との時間を堪能する。
 この一年、当たり前だった楽しい時は間もなく終わりを告げるだろう。
 でも、次の一年もきっと、もっと楽しい時間を味わえると寮生達は皆、信じていた。

 それは最後の進級試験を間近に控えたある一日のことである。