【朱雀】三体の鬼
マスター名:夢村円
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: やや難
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/03/31 19:06



■オープニング本文

【このシナリオは陰陽寮朱雀一年生用のシナリオです】


「瘴気とは我々陰陽師の術の根幹であり、アヤカシという存在を形作るものです」
 3月の定例講義。
 寮生達は授業内容を一生懸命聞いていた。メモしようとする者も多い。
「私達は瘴気を術や技など様々に利用しますが、あくまで『ある』モノを集め、再構築するのであり、瘴気そのものを新たに生み出している訳ではないということを忘れてはいけません」
 おそらく、陰陽師の術と言うものは敵であるアヤカシを知るところから始まったのだろう。その仕組みを学び、再現し、そして術として、アイテムとして利用できるようになるまで。先立はどれほどの苦労を重ねてきたのだろうか…。
「幾度か繰り返して言っていることですが、アヤカシとは瘴気によって形作られたモノの総称であり、それぞれ瘴気の質や量なども全く違います。武器を作る時、符を作る時、それぞれの構成に合わせて適した瘴気を利用しますが、その違いは皆さんには解らない事でしょう。どにでもありながら目にも見えず、術等以外では察知できない。瘴気についてはまだ解らない点も多いのが現状です」
 そこまで言って寮長は向きを変えた。寮生達をまっすぐ見据える。
 ピンと張りつめたような緊張が寮生達の間に走った。
「さて、では今月の課題について発表します。基本はアヤカシ退治です。アヤカシの中には身体に炎や氷、雷などを纏う珍しい鬼がいますが、それが石鏡の山奥に、しかも三体同時に現れたと言う情報があります。その鬼を退治してくること。それが今回の課題です」
 氷鬼は確か以前に二年生達が対峙したという話を聞いたことがある。
 他の鬼はどうだろうか。
 そんなことを考えながら今までにない強敵との戦いに微かな緊張を走らせた時、寮長はさらにそれに付け加えるように言ったのだった。
「勿論、陰陽寮の課題です。ただの退治だけではなく条件がいくつか付与されています。一つは、石鏡の民に自分達が陰陽寮生だと知られないようにすること。近くに村があり、そこからの情報がこちらに回ってきた形ですのでアヤカシ退治に来たと知られる事は構いませんが、陰陽寮生であると言う事を知られた場合は減点となります。
 第二に小隊として行動すること。
 今回に関しては単独行動は例え結果を残したとしても評価の対象にしません。
 強敵に対して連携で当たるその対処法が課題ですから」
 珍しくも厳しい条件だ。目的を果たすだけでなく、過程が重要ということか…。
「?」
 だがふとあることに気が付いて寮生は寮長を見た。
「その条件だと、私達の行動に誰かが着いてきて見ていないと、評価が成立しないんじゃないですか?」
「その通りです」
 と寮長は頷くと、手をパンパンと二回叩いた。
 その合図を待っていたかのように一人の男性が中に入ってくる。
「あ、西浦…先生?」
 二年生の実技担当教官である為、一年生達にとっては直接の関わりは多くないが、見知った教師が寮長の横に立つ。
「今回は彼が課題に同行します。三郎は壷封術と言って瘴気を封じる術を会得しています。その術により皆さんが倒した鬼の瘴気を持参するように命じてあります。勿論、基本的に戦闘と退治には手を出しません。というより、彼に手を出させるような事態になったらそれは減点対象ということです」
 なるほど。と寮生達は顔を見合わせた。
 強敵から一年生達を守る意味の護衛+実習の評価役も兼ねている。と言うわけだ。
「まあ、私の事はあまり気にするな。空気か瘴気だとでも思ってるといい」
 カラカラと豪快に笑う元先輩とは言え、一応教師だ。
 彼が言うほどに事は簡単ではないが…。
「鬼三体の退治と瘴気の回収が今回の課題になります。集めた瘴気が皆さんの進級試験にも関わってくるかもしれませんので真剣に事に臨んで下さい。以上」
 そう言い残すと二人は去って行ってしまった。
 残された寮生達は今までにない本格的な『課題』と間近に迫った進級に知らず震える手を止める事が出来なかった。


■参加者一覧
芦屋 璃凛(ia0303
19歳・女・陰
蒼詠(ia0827
16歳・男・陰
サラターシャ(ib0373
24歳・女・陰
クラリッサ・ヴェルト(ib7001
13歳・女・陰
カミール リリス(ib7039
17歳・女・陰


■リプレイ本文

●先生といっしょ
「先生と一緒の授業は始めてですね」
 少し緊張したような面持ちで言うサラターシャ(ib0373)に
「まあ、そんな気にするな。先生と言っても昨年までは陰陽寮の三年生だった。就職したのは今年度になってからの事だから、言うなればお前達と同じ、陰陽寮の一年生だな」
 豪快に笑う今回の担当教官西浦三郎。
 その逸話のいくつかを体育委員である芦屋 璃凛(ia0303)は体育委員会の先輩達から少なからず聞いていた。
「確か、先生は格闘技に優れているって話でしたよね…」
「まあ、ちょっとくらいの相手だったら引けを取らない自信はある。私を守る心配はしなくていいから」
「…凄いですね。その能力に裏付けされた自信。僕も見習わないと…」
 尊敬の眼差しで見る同級生彼方に蒼詠(ia0827)は同意するように頷いた。
「陰陽寮生ってことを知られないようにかぁ〜」
 クラリッサ・ヴェルト(ib7001)が考え込む様に呟く。寮生達も思い出した。
 それが大前提なのだ。
「では、先生の事は先生と呼ばない方がいいですよね。西浦さん、とお呼びしてもいいでしょうか?」
 蒼詠の伺う様な問いかけに勿論と三郎は笑う。
 彼は問われない限り自分から口出しはしないと決めているらしい。
 少し離れた所でこちらを見ながら腕組みして笑っていた。
 その視線の一つ一つが自分達を見ていると思うと緊張するが、気にしている暇はあまりない。
「では、後は私達の身分ですか…」
「陰陽寮生という事は隠すんですよね……他に特技でもあれば良かったのですが」
 蒼詠の言葉を聞いてカミール リリス(ib7039)は仲間達を見る。
 赤い髪、赤い肌、黒い髪に橙の瞳、紫の目、金髪、白い肌。銀髪、黒い瞳。そして金髪、黒い肌の自分。
 天儀で目立たないのは清心くらいなものだろう。
 こうしてみると皆、外見が見事にバラバラだ。
 それが一緒にいて不自然でない共通点は一つしか思い浮かばない。
「普通に開拓者でいいんじゃないかな? 鬼退治を依頼されたって。嘘じゃないし、陰陽師でも不自然じゃないし」
 クラリッサの提案に首を横に振る一年は当然いない。
「それが一番ですね」
「それしかないんじゃないかな?」
「では朱花はしまっておきませんといけませんね。意味が解る人いるとは限りませんが念の為」
 自分達の立ち位置を決めたら、後は頑張るのみだろう。
 役割分担、敵の生態、覚醒させる術の選択など。
 真剣に、長く続く相談を三郎は少し目を伏せながら、まるで置物のように動かずじっと、静かに聞いていた。

●『鬼』を追いかける
「あ、皆が呼んでる」
 お手玉を回す手を止めて、璃凛は顔を上げた。
「もう行くの?」
 一緒に遊んでいた女の子は小首を傾げてさっきまで一緒に遊んでいてくれたお姉ちゃんを見る。
「うん。じゃあ、行くね。いろいろ教えてくれてありがとう」
「開拓者のお姉ちゃん。がんばってね〜」
 村の入り口で待っていた仲間達は璃凛の合流を待って歩き出す。
「良い情報は見つけられた?」
 その問いにクラリッサがうんと頷く。
「一応ね。まず、三体の種類の違う能力を持つ鬼がいるっていうのは間違いなくて、村を取り巻く森に鬼の目撃証言が多いっていうのは解った」
 そう言って彼女は手書きの地図を仲間達の前に広げた。
「来る時も見ただろうけど、村を取り囲むようにこうして森があって、南に街道がある。そして、の街道沿いによく炎の鬼が、北側の方に雷と氷の鬼が出るらしいってことみたい」
「うん。村の子も街道沿いで炎の鬼にやられて大やけどをした人を見たって言ってたね」
 璃凜もさっき遊んだ子の証言を思い出して仲間達に教えた。
 三体の鬼がそれぞれに動いているのなら、今がチャンスだ。
「できるなら、各個撃破したいですよね」
「なら、最初に狙うのはやっぱり、炎鬼だね?」
 会話を書き止めていたカミールがクラリッサの言葉に瞬きをする。
「だって、今のところ、一番遠い所にいるし、万が一酷く暴れられて森が延焼したりしたら大変でしょ。仲が悪くても共通の敵が現れたら協力し合うかもしれないし」
「そうですね。まずは炎鬼の退治を目指しましょう」
「よし! 行くよ!」
 軽く手筈を確認して、先を進む一年生達。それを後方で見つめるとサラターシャは
「彼方さん、清心さん。お願いしたこと、やってきて頂きましたか?」
 そう、仲間の二人に声をかけたのだった。

 そして予定通り、彼らは炎鬼を発見した。
「うわっ! 大きい!」
 クラリッサが驚くような声を上げる。話には聞いていたが体長3メートルはありそうな大きな赤鬼であった。
 全身に炎を纏っていて、武器こそ持っていないが下手に近付けば火傷をしそうな雰囲気がある。
「! 皆さん! 伏せて!!」
 サラターシャの言葉に開拓者達は考えるより先にしゃがみこんだ。
 と同時に配置に着く。
 前衛に璃凛と清心が着き、その少し後方で彼方と蒼詠が武器を持って援護する。
 クラリッサは銃を構えて中距離から。さらに皆を守るようにサラターシャとカミールが後方に入った。
「炎の鬼ですから、きっと氷柱が効果的だと思います。気をつけて下さい!!」
 サラターシャの言葉を背に、まず敵の懐に飛び込んで行ったのは璃凛であった。
「流石に火輪は使えないよね。清心君は?」
「一応、行ける」
「じゃあ、お願い援護するから」
「了解!! っとお!」
 普段目立たない清心であるが、一応基本的な戦い方は身に着けているようだった。
 呪縛符で璃凜が動きを止めた鬼の脳天に向けて、清心は力を込めた氷柱を打ち込む。
「あれ?」
 氷は直に解けてしまうのか効きはあまり良くない。
「じゃあ、こっちはどうだ!!」
 放ったのは雷閃。彼は今回三種の鬼に合わせ、三種の攻撃技を取得してきたようであった。
『ぐ、ぐあああ!』
「あ、かなり鬼には効いている。氷より効果あり?」
「じゃあ、これからが本番だよ。クラリッサが…」
 璃凛が言った次の瞬間、よろめいた鬼の銃がその足を射抜いた。
 逃げ足を殺すべく。
 膝を折る鬼。だが苦痛からか火炎をめちゃくちゃに周囲に放ちはじめた。
「うわっ!!」
 このチャンスを逃がせないし、何よりこのままやらせて森に火がついたら火事になってしまう。
「行くよ! カミール! サラ! 雷閃で援護お願い!」
「璃凛!!」
 一気に踏み込むと璃凛は持っていた刀で上段から力を込めて攻撃する。
 火炎弾が当たっても顔を顰めるだけで刀を握る手から力を抜こうとしなかった。
 彼女に続く様に清心、彼方も敵を術で、武器で切り裂いていく。
 特に氷系、いや体系の効果が高いようであった。
 やがて息を切らせはじめた鬼に向かって、カミールは呪文を紡いだ。
 カミールだけではない、サラターシャや清心も同じタイミングで呪文を唱えている。
 彼方が放つ渾身の呪縛符が、最後の力で迎え撃とうとしたであろう鬼の動きを強く、縛る。
 アヤカシの身体に吸い込まれる幾筋もの雷。
 そして胸の中央に深く、その刃を沈めた。
『ぐ・ぐああああっ!!』
 アヤカシは悲鳴と共に崩れ落ちるように地面に倒れ伏す。
 そして、動かなくなった。
 三郎が壺を構え呪文を唱えると、その身体は空に散りながらも壷へと吸い込まれていく。
「やった…なんとか、成功」
 へたり込む様に地面に璃凛は座り込んだ。
「この調子ならなんとかやれる、かな?」
「その前に璃凛さん、手を見せて下さい!! うわっ! 肩と足もやられてるじゃないですか?」
 炎の鬼の退治中火傷を負ったらしいと気付いた蒼詠が駆け寄ると璃凛の手を取って治癒符の呪文を唱えたのだった。
 前衛の清心も傷を負ってこちらは彼方が治癒に当たっていた。
「鬼にもやはり属性があるようですね。炎の呪文は体に属することが殆どなので、技特性の術が効果は高いのかもしれません」
 サラターシャがさっきの戦闘を分析している。
「なら氷鬼には体の炎技、雷鬼には氷技が効くのかも…しれません」
「スキルだけかと思ってたけど、アヤカシそのものも属性があるんだ。試してみる価値はありそうだね」
「でも、無茶はダメですよ。皆で力を合わせましょう」
 治療を終えた蒼詠が璃凜に笑いかける。
「うん、勿論無理はしないよ。後ろは任せた!」
 真っ直ぐな言葉に嘘は勿論ない。
「残り二体。がんばろ〜!」
 寮生達が手と声を上げる様子を、三郎は壷を閉じながら黙って見つめていた。

●二鬼襲来!
 最初の鬼はこちらが探し出し、先制攻撃を仕掛けることが出来た。
 しかし、炎の鬼の断末魔。
 その声が他の鬼達に敵の存在を知らせたのだろう。
「うわっ! 見つかった?」
 後方に近いところを歩いていたカミールは後方から放たれた吹雪にも似た氷の攻撃をとっさに避けて
「大丈夫?」
 同じく横に逃げた蒼詠に声をかけた。
「大丈夫です。でもこっちに氷鬼が来ましたか」
 蒼詠は剣を構える。彼の手持ちの攻撃技は氷柱なので、多分、これにはあまり効果がない。
 前方を見れば璃凛と清心の方に鬼が行っている。分断された形だ。
「皆! 鬼が息を吸いかけてる。隠れて!」
 クラリッサの上げた声に寮生達は即座に反応して遮蔽物に隠れた。
 と同時、直撃を免れてもなお寒さを感じる吹雪が、ぱきぱきとさっきまで自分達のいた場所を凍りつかせる。この氷を体に受けたら感覚を失うと先輩達が言っていた。
「向こうにはなんとか少し持ちこたえて貰おう! まずはこっちを先に倒す!」
「そうですね。各個撃破が優先です。あちらには彼方さんもいらっしゃいますし」
 そう言うとクラリッサは符を掲げる。
「氷には炎ってね。行けええ!!」
 彼女が放つ火輪とタイミングを合わせてカミールは雷閃を打ち出した。
 効果は抜群とまではいえなくても、敵にダメージを与える一助にはなる筈だ。
 サラターシャも同じ意図で呪文を唱える。
 吹雪を放った直後の弛緩に三連続の攻撃が撃ち込まれた。
『ぎぎゃああ!!』
 叫びをあげる鬼に向かって蒼詠は手に持った刀をぎゅっと握りしめた。
「この隙を無駄にはしません!!」
 さっき璃凛がした攻撃を思い出して、一直線に敵に向かっていく。
「蒼詠さん!」
 振り下ろされた右手の爪が肩を裂くがそのまま、九字切を胸に刺し通す。
 覚悟した左手の攻撃は…来ない。
 見上げれば高く上げられたまま黒く焼け焦げている。
『が…は…』
 崩れ落ちて倒れる氷鬼。身体を取り巻いていた氷が砕けていく。
「や、った…」
「大丈夫ですか?」
 駆け寄る仲間に頷いて、蒼詠は首をまだ物音がする前方に向ける。
「安堵している暇はないですね。璃凛さん達の方へ。これは西浦せ…さんに任せて援護に」
「うん」
 彼らは走り出した。

 雷を纏う敵にはうかつに近づけない。近付いただけでも武器を持つ手が痺れようだ。
 攻めあぐね距離を取っていた璃凛達は、ふと後方から聞こえてくる声に笑顔を浮かべる。
 そして目の前の敵を再び真っ直ぐに睨みつけたのだ。
「もし、三体一緒に襲ってこられたら私達が負けてたかもしれないけどね」
 再び三度、放たれる閃光。
 だがそれを躱して璃凛は言う。
「私達は負けないよ。一人じゃないんだから」
 背後からその言葉に答えるように青白い氷の式が一閃、二閃と飛ぶ。
『ぎゃああ!!』
 怒りに我を忘れた攻撃は彼らの身体を切り裂いても、心まで打ち倒すことはできない。
「璃凛さん!」
「お待たせしました。一気にけりをつけてしまいましょう!」
 七人の思いと心が一つになった時、その前を阻む敵は存在することができなかったのだった。
 
●近付く時
 かくして寮生達は無事に課題を果たして朱雀寮へ帰還した。
「ご苦労だったな。私はこの壺を片づけてくるから」
 そう言って三つの壷を携え倉庫へ行ってしまった三郎を見送ったその足で彼等は寮長の元へと報告に向かう。
「お帰りなさい」
 柔らかい笑顔で出迎えてくれた寮長にさっそく寮生達は報告をする。
「…なんとか、無事に倒すことができました。強敵でしたけど、それぞれの仲があまり良くなかったみたいなのでなんとか各個撃破できたので…良かったです」
「それから、サラターシャの属性予測が的中したので、割と的確な攻撃ができた…、いえできましたから。詳しくはこれに…」
 蒼詠の言葉を受け継ぎながら璃凛が報告書を差し出す。
 それには寮生達の目から見た三体の鬼の詳細が細かく記されていた。
「陰陽寮生だと知られるような事もしてないから、大丈夫だと思います」
「まあ、別の意味で怪しまれなかったかと言われると自信はないですけどね」
「その辺は仕方ありませんわ。多分、それほど気にもされてはいないとおもいますが…」
 顔を見合わせた三人と共に璃凛や彼方も苦笑した。
 田舎であるから代わった外見を持つ若い集団は多分、印象には残ったろう。
「でも、ま、最終的にはお礼も言って貰ったしね。寮長。これでいいでしょうか」
 ピンと背筋を伸ばす寮生達に、寮長ははっきりと頷いて見せた。
「報告書も良くまとめられていますし、皆さんには強敵と思われた敵も無事撃破に成功しています。三郎からも合格の連絡が来ていますし何も問題になることはありませんね。合格です」
「やった!」
 誰からともなく声が上がる。
 陰陽寮に入寮してからもうじき10ヶ月。
 しかしいつもこの言葉を聞くまでは緊張するし、聞けると安堵する。
 寮生達は手を取り合って喜んだ。
「普段、あまり目撃例のない三鬼の瘴気を回収できた事も陰陽寮にとっても意味のあることです。この一部が進級試験に使用されるかもしれませんね。お疲れ様でした」
 寮長の労いの言葉にふと、寮生達は気になっていたことを思い出した。
「寮長。三郎先生が使っていたあの壷封術って、私達も使えるようになるんですか?」
「それは、今後の皆さん次第、と言っておきましょうか」
 クラリッサの問いに寮長は是とも否とも答えなかった。
 はぐらかされたのが瞭然ではあるが、今はこれ以上聞いても無駄だろう。
「あんまり先生とお話しする機会がなかったのが残念ですが、有意義な実習でした」
 一礼して彼らは部屋を出る。
「三郎先生、なんか元気ありませんでしたね」
「何かあったのかな?」
 聞いても勿論教えてはくれないだろうけど。
「でも、大変だったけど楽しかったね」
 伸びをした璃凛にサラが頷いた。
「そうですね。皆と一緒に力を合わせて一つの事を成し遂げるってやっぱり良いです。本当は、そんな甘いことは言っていられないんでしょうけれど…」
 そうですね、と頷いて蒼詠は笑いかける。
「来月の進級試験、頑張りましょう」
 進級試験。
 昨年は試験において追試を受けたもの、退学の道を選んだ者もいるという。
 彼らは手を強く握りしめた。
 その手の中にはこの仲間達と、二年、そして三年を共に過ごして行きたいと言う思いが握られている。

 運命を大きく揺り動かす『時』が、もう目の前まで迫っていた。