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■オープニング本文 【これは朱雀寮二年生用のシナリオです】 未だかつてない大規模なアヤカシの襲来。 北面での大規模戦闘がある程度の区切りを迎えた。 まだ事後処理の全てが終わったわけでは無いが、以前のような大きな襲撃はおそらく起きないだろう。 安堵に胸を撫で下ろす寮生達を 「今回はご苦労様でした」 朱雀寮長、各務紫郎は笑顔で労った。 「特に、皆さんの活躍が無ければ、より多くの被害が出ていただけではなく、五行という国の屋台骨を揺るがす事態に発展していたかもしれません。心から感謝するとともに、皆さんを朱雀寮長として心から誇りに思います」 普段、甘い点を付けない寮長の賛辞に二年生達の顔にも笑みが浮かんだ。 北面国の使者救出から始まった今回の騒動も、朱雀寮としてはこれで一区切りと言えるだろう。 「しかし」 とはいえ寮生を有頂天にさせるほど、寮長は甘くない事を、彼らは身をもって知っている。 「それはそれ、課題に手加減はありません。まして、皆さんは来年には三年生。朱雀寮の最高学年になるのです。それなりの自覚と責任感を持ってこれからの準備と授業に取り組んで貰わなくてはなりませんよ」 進級、最高学年。 寮生達もその言葉に背筋を伸ばした。 「以前も言いましたが、朱雀寮の進級試験は常に小論文と実技課題と決まっています。そして今回は実技課題について少し、考えて貰わなければなりません」 「実技課題について…?」 ふと、寮生達は昨年の事を思い出した。 一年の実技課題は符の作成だった。丁度、去年の今頃、皆でいろいろ相談して符のデザインを考えたのだった。 紅符 図南の翼。 その結晶がここにある。 「二年の実技試験は術道具作成です。故に、皆さんにも新しい呪術道具を作成してもらいます」 呪術道具、と言ってもいろいろある。一体何を? そう思った寮生達の疑問を読み取ったのだろう、寮長は続けてこう言う。 「呪術道具と言ってもいろいろあります。武器、防具など。その中で、今回は呪術人形を作って貰いましょうか。傀儡操術の使い手もいるようですしね」 そう言って寮長は説明を続ける。 「傀儡操術は呪術人形を操るスキルです。普通の人形では使えず、呪術の込められた人形でなくてはなりませんが、その外見にはかなりのバリエーションがあります。猫やもふら、達磨、石でできたものもあります。今回の材質や外見などは皆さんが決めて構いません」 はい。と誰かの手が上がった。 「全員同じ外見の人形になるんですか? それぞれに作ることはできないのですか?」 それによる返事は是であった。 「実際の製作の時、顔や髪形等も含め多少の個性は付けられますが、あくまで作られる人形は同じ名を持つものです。基本骨子が同じと思っていいでしょう」 つまりいろいろな外見はあっても、人形「移身」は「移身」。 白熊でも、黒熊でもくまさん人形は熊だということだ。 「どんな外見にするか。人型か、動物型か。材質は何か、攻撃重視か、守り重視か、名前はどうするか、そういうことをよく相談して決めて下さい」 そして、と彼は続ける。 「今回、皆さんには五行の西でアヤカシ退治の依頼を受けて貰います。歩いて一日程の村の近くの森にアヤカシが現れているそうです。敵は鬼類が数種。氷を使う鬼がいると言う話ですが、皆さんならそう難しい相手では無いでしょう。その種類、生態を確認し、退治を行って下さい。期間は五日間。その間に皆で相談して人形のデザイン、基本骨子を定める事。それが今回の課題です。なお、意見が纏まらなかった場合には大きな減点を課した上で、私が決めます。無論、アヤカシ退治に失敗した場合には失格です」 自分達の意見を出すことも大事だが、押し通すだけではダメ。 相談にかまけてアヤカシ退治を失敗したら失格。 進級試験とアヤカシ退治。 どちらもおろそかにしてはいけないということだ。 「二年、三年の進級課題は一年の時のように甘くはありません。人形制作だけではない課題も課す予定です。やる気や努力、能力が足りない場合には留年もあり得ます。陰陽寮の最高学年と言うのはたやすくはないということは頭に入れておいて下さい」 例年、合格できず寮を去る者も実は少なくないのだと言う事は二年生ともなれば知っている。 委員会の委員長達は本当に優秀なのだ。 「符作成の時も言いましたが、自分が望む道、目指す未来をしっかりと見定め、それに近付く為に必要な力を再確認することが、今回の課題の一番の目的です。また、生み出される人形は、未来に共に向かうパートナーでもあります。心して取り組んで下さい。以上」 それだけ言うと寮長は去ってしまった。 「人形の、作成?」 残された寮生達は、目の前に広がった雲をつかむような話に、驚き、戸惑い、顔を見合わせていた。 『マスター。皆さんのお手伝いに行ってもいいでしょうか?』 「ああ、相談相手にでもなってやってくれ」 『私が、相談などと言う事でお役にたてるとは思いませんが…こと人形のことというのであれば』 一年生の時の進級課題が甘い、などとは思わない。 だが、陰陽寮での授業はこの先、自分のみならず多くの人の命に直結することであるから厳しすぎることは無いのだと寮長は良く言う。 それはきっと、正しいことだ。 「頑張れよ」 そう囁く先輩の声が二年生達に聞こえたかどうかは定かでは無い。 |
■参加者一覧
俳沢折々(ia0401)
18歳・女・陰
青嵐(ia0508)
20歳・男・陰
玉櫛・静音(ia0872)
20歳・女・陰
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
瀬崎 静乃(ia4468)
15歳・女・陰
平野 譲治(ia5226)
15歳・男・陰
劫光(ia9510)
22歳・男・陰
尾花 紫乃(ia9951)
17歳・女・巫
アッピン(ib0840)
20歳・女・陰
真名(ib1222)
17歳・女・陰
尾花 朔(ib1268)
19歳・男・陰 |
■リプレイ本文 ●零さぬように 「さて、今回もやることてんこもりだけどがんばろー」 集まった仲間達を前に俳沢折々(ia0401)はそう言うと、手を大きく上に向けて伸ばした。 寮生達に課せられたのは西の森で発見された鬼アヤカシの退治。 そして、進級課題の実技試験となる呪術人形のデザイン作成だ。 「そうですね。アヤカシ退治と相談の両立…やはり高度になっていきますね。望むところ ではありますが」 「確かに、な。フン、何も捨て置かないって俺ら趣向に合った内容じゃないか」 玉櫛・静音(ia0872)の言葉を聞きながら劫光(ia9510)はニヤリと笑って片目を閉じる。 二年生になってからというもの実習形式の「アヤカシ退治」は何度もこなしてきたがどれも、ただアヤカシ退治を行うだけでは条件クリアができないものばかり。 今回も勿論そうである。 「ふふ…良いわね。贅沢な課題。何も取り零さない様にしましょう」 「それは、いいのですが…真名さん。前衛…大丈夫なんですか?」 「?」 おろおろと声をかける親友泉宮 紫乃(ia9951)に真名(ib1222)はん? と首を捻った。 今、彼らは出発前、現地でのアヤカシ退治における組分けをしていたのだ。 「こちらには劫光さんと朔さんと、男手が二人もいるのに、そちらは女性ばかりで…しかも真名さんが前衛に立たれられるというのが、ちょっと心配で」 「確かに。誰か交換するとかしますか?」 尾花朔(ib1268)と紫乃。親友達の言葉の意味に気付いて真名はああ、と頷く。 「でも…それは仕方ないわ。このメンバー組からしたら、私が前で動くのが一番良さそうだもの。折々には司令塔になってもらって、静乃がしんがりで回復、援護、情報収集。結構バランスは取れていると思うわよ。空班と、地上のAとB。せっかくチーム編成できたのに今から崩すのもどうかと思うわ」 「うん…。がんばる。ね? 白房?」 「何かあったらかるみにも前に行ってもらうから。…大丈夫。誰も傷つけさせない」 朋友達と共にしっかりと決意を含んだ目で瀬崎 静乃(ia4468)は頷き、折々もはっきりと宣言する。 その目には強い自信がある。 「だが、物理面でちょっと弱いのも事実だ。…空班! 優先してA班を見てやってくれ。それでバランスを取ろう」 地図を見ながら分担の区分をしていた飛行朋友を連れた空担当の寮生達が、劫光の声に揃って顔を向け 「空班了解っ! なのだっ!」 代表するように平野 譲治(ia5226)がびしっと敬礼して答えた。 「俺はグライダーだから、必要に応じて地上と空を行き来する感じ。燃料代もバカにならねぇしな! 連絡役とか、予想以上に鬼が手強いならそのまま地上班と合流してもいいだろ」 と喪越(ia1670)が真面目に答えれば 「おいらは村の護衛を最優先するなりが、大丈夫そうなら戦いに加わるのだ。その時、Aを優先するようにすればいいなりね。大丈夫。強は強いなり」 『そうですね。空班は数がいますので、協力して「広い場所に追い込んで範囲術でしとめる」を基本にしましょうか。嵐帝の目も借りて空から敵の痕跡を見つけ出し、地上班に知らせて…地上班のいる方向に追い込む形で…』 「アヤカシに季節なしですね〜。困ってる人がいますしきっちり退治しちゃいましょ〜。私は上空から敵の取りこぼしなどがないかどうかを中心に見ますね〜。もし包囲網を抜けて行くような敵がいたら鏑矢で知らせますからね〜」 譲治、青嵐(ia0508)、アッピン(ib0840)もその後に続ける。 それぞれの役割を理解した打てば響くようなコンビネーションは、彼ら朱雀寮の二年生が一年以上をかけて培って来たもの、である。 『では、私はA班に寄せさせて頂いて、よろしいでしょうか? 物理面での攻撃担当ということであれば…お役に立てるのではないかと思います』 「凛さん?」 声を上げて紫乃は振り返った。 そこには今まで無言で佇んでいた陰陽寮の人形『凛』がいる。 今回の作戦に加えるように指示されてはいたが彼女が自分の意思で『どこかに加わりたい』と言ったのは初めてのような気がして、寮生達は少し驚いたのだった。 『ご許可、頂けますか?』 「うん! もちろん。大歓迎。私もできれば凛ちゃんにはこっちに来てもらえたらって思ってたから嬉しいよ」 「よろしくね。凛ちゃん!」 「頼りに…してる」 三人にぎゅっと抱きしめられ、凛は目蓋を何度も瞬かせている。 そんな様子をそれぞれに小さな笑みと共に見つめて後、 「さて!」 彼ら声を上げた。 「夜には集まって人形作りの相談な! 戦いながら皆、そっちのことも頭に入れておいてくれよ」 「解っています」「任せときな!」『人形は得意分野なので』 仲間達の返事に満足して劫光は頷くと折々を見た。彼の視線の意味を理解して折々は頷くと 「よし! 行こう!!」 彼女は再び空に向けて大きく手を上げたのだった。 ●やるべき事達 譲治が村に到着した時、村は表面的には大きな被害は受けていないように見えた。 「んっ! 良かったなりね。強。村の前に降りて欲しいのだ」 胸を撫で下ろした譲治は朋友である甲龍の背を叩いてそう囁いた。 やがて村人や長から話を聞く。そして現状を確認し終えると村人達に全開で明るく笑いかけた。 「大丈夫っ! 未来は推し量れぬが最善の努力はするなりよっ」 その無垢な笑顔に不安を顔に浮かべていた村人達もつられて笑顔になる。 そして 「がんばってね〜」「頼りにしているよ〜」 手を振って見送ってくれたのだった。 「っと、こっちはこれで大丈夫の筈…。後は合流合流。皆はどこに行ったなりかねえ〜」 周囲を伺っていた譲治はふと、視線の先に旋回する影を見つけた。 龍では無いあれは…鷲獅鳥。陰陽寮の二年で鷲獅鳥を駆るのは一人だけ。 「静音! どうしたなりか?」 全速力で飛んできた譲治に気付いたのだろう。静音は譲治の方を見ると黙って下を指差した。森の隙間というか小さな空間に折々達の姿が見える。そして、その近くに鬼の集団も…。 「危ないのだ!!」 直ぐに急降下しかねない譲治の前を静音と鷲獅鳥が横切って止める。 「どうしたのだ! 早く助けないと!!」 「あれを見て下さい!」 空中ではっきりそう聞こえたわけでは無いけれど、譲治の耳にはそう聞こえた。 静音は彼女達ではなく、少し離れた空を指しており、そこには嵐帝に跨った青嵐がいる。彼らは何かを追っておりその先には… 「なるほど。解ったのだ。強!」 そう言うと彼もまた青嵐の手伝いに駆ける。頷いてそれを見送った静音はもう一度敵の数を良く見た。 「見た所、あまり変わった鬼はいないようですね。小鬼や豚鬼が十体前後。鎧鬼が一体。 噂に聞く氷鬼はいません…か」 あのくらいであるなら折々達でなんとかならないこともないだろう。だが… 「何が起きるか解らないのが戦いです。真心! 私も降ります。敵が広場に追い込まれたらバイトアタックで援護を!」 主の言葉に是という返事に代わり、鷲獅鳥は翼を広げ、急降下していった。 地上の彼女達が鬼の集団に気が付いたのは上空の仲間達より少し遅れての事だった。 「紅印があっちからアヤカシの集団が来るって」 「うん…。向こう側から鬼の集団…数は十二〜三体」 仲間の報告を聞いいた折々は空を見上げ、頷いた。 「向こうの空き地に誘い込んでくれるって。そこで迎え撃とう!」 折々の指示に静乃と真名は頷き、凛ははいと答えて駆け出した。 彼女らが戦闘態勢を整えたとほぼ同時、敵がやってくる。 「うわ〜、細かいのがわらわらと。でも、あれくらいなら、なんとかなる、かな?」 「油断は禁物…。早く確実に退治する。白房。援護を…」 『来ます』 凛がそう言うのと同時、戦闘に立っていた豚鬼が手に持っていた棍棒をブンと勢いよく振り回して攻撃を仕掛けてきた。 だが、前の前。寮生達を守るようにして立っていた凛はそれをフッとしゃがんで躱すとそのまま勢いをつけた回し蹴りを豚鬼の武器にぶつける。 ドサッと音を立てて武器が地面に落ちた。 真名は目を瞬かせる。口笛でも吹きたくなるほどの鮮やかな技だ。 「っと、負けてはいられないわね! 紅印! 風刃!」 「白房も」 二対の管狐がタイミングを合わせるように放ったカマイタチは前の豚鬼とそれを援護するように武器を振り上げていた子鬼に同時に悲鳴を上げさせる。 その隙に豚鬼の懐に飛び込んだ凛は手に持っていた短刀をその急所に埋めた。 声もなく豚鬼は倒れ動かなくなる。 だが敵を倒した一瞬の弛緩の隙をついて凛の背後から鎧鬼が襲いかかってきた。 「危ない! かるみ!!」 凛の振り返った眼前ほんの一寸先を、刀が落ちていく。 気づけばそこにはふよふよと浮かぶ鬼火玉があった。角突進の体当たりで助けてくれたのだと理解した凛に背後から折々の声がかけられる。 「凛ちゃん! あんまり前に出過ぎないで! 焦らなくていい。確実に倒して行こう!」 『申し訳ありません』 「謝らなくていいわ。ほら、次が来る!」 申し訳なさそうに頭を下げる凛の頭をポンポンと叩いて真名は前を見た。 鬼の数はまだ十を超える。ここの広場に周囲の鬼達が集められているのだ。 「多分、じきに援護が来てくれるわ。それまで頑張りましょう」 『はい!』 「来たよ」 静乃が指差す先に言う通り鬼達が見える。 だが動きは微妙に鈍い。静乃がかけた呪縛符が効いているのかもしれない。 「OK。行くわよ。凛!」 『はい!』 二人は襲いかかってきた大赤鬼に攻撃を仕掛けていた。 振り回された棍棒がブンと風を切って唸った。 丁度A班と呼ばれるチームが鬼の集団と遭遇していた頃、もう一つのチーム仮称B班もまた敵と遭遇していた。 「あれが…氷鬼、ですか?」 紫乃は息を呑むような声でそう呟いた。 髪は白というか銀。他の外見は普通の鬼とそう大差ないように見えるが、周囲に漂う冷気はまるで見えるようで、明らかに普通の鬼とは一線を画していた。 「ちっ! タフだな…」 人魂で鳥に変化して周囲を見回っていた朔の人妖槐夏が発見してくれたのでアヤカシを見つけるのは寮生達の方が早かった。 敵の数は二体。だから、二人と人妖達を下がらせてまず出会いがしらに劫光が悲恋姫を発動させる。多少は知恵があるのか姿を消して近づいてきた鬼達は、突然の攻撃を受け、顕な怒りと共にいきなり攻撃をしかけたのだった。 悲恋姫の攻撃は外見に影響を及ぼすモノでは無い。だから 「ダメージは入っている筈! ここは一気に!」 劫光は敵の懐に踏み込んで行こうとした。だが彼が足に力を入れかけた時 「劫光さん! 危ない!!」 紫乃がまるで深呼吸をするように大きく息を吸い込んだ鬼の様子に気付いて声を上げた。 その一瞬の後吐き出された氷の息はまるで吹雪のように劫光を襲う。 「くっ!!」 転がるように躱し、寸での所で直撃こそ避けたものの掠っただけ筈の足は感覚が無くなっていた。 『大丈夫ですか?』 とっさに劫光の人妖双樹が駆け寄って神風恩寵をかける。 「馬鹿。後ろに下がってろ!」 「劫光さん!」 彼らのすぐ側にはもう一体の氷鬼が近付いてきている。もう一度あれにさっきの攻撃をかけられたら…。 劫光は双樹の手を強く引いて後ろに下がる。 それを援護するように朔の雷閃が奔った。撹乱するように紫乃の瑠璃も走り回ってくれている。 足の感覚も戻ってきた。 「なんとか態勢を立て直して…」 地面を踏みしめた劫光が敵を睨み直した時。 「呼ばれてないけどジャジャジャジャーン!」 突然の声と共に目の前のそんなに大きくない戦闘スペースに滑空艇がまるで墜ちるかのように飛び込んできたのだった。 そして空から鬼に向かって来る白い狐の式。 「喪、喪越?」 「おう! 遅くなってすまんねえ〜。お手伝いにただ今見参! 上にはアッピンちゃんもいるぜい!」 驚きに目を瞬かせたのも暫しの事。 前で身構えた喪越と背中を合わせるように、劫光もまた前に身構えた。 「Aはどうした?」 「敵と戦ってるけど、だいじょうブイ。もうあらかた片付きはじめてるぜ」 「劫光さん! 敵はあまり連携する様子がありません。片方をなんとか我々で食い止めますから二人で各個撃破を!」 朔の言葉と紫乃の頷きに、言葉で答える代わりに劫光は振り返らず一言、告げた。 「まずは前方のあいつから行くぞ! 氷のブレスに気を付けろ」 「りょーかいってな!」 陰陽寮朱雀の武闘派二人は、真っ直ぐに目の前の敵へと踏み込んで行った。 ●象る者 「お疲れ様でした〜。ざっと空の上から確認した限りではアヤカシの姿は見られなかったですよ〜」 夜。 村はずれで野営する仲間達にアッピンは笑顔でそう告げた。 「明日、明るくなったらもう一回、よ〜く調べてみましょうね〜、どこから流れて来たのかとかできる限り確認したいと思います〜」 「数も思ったほど多くは無かったようですね。残された痕跡から考えても、もう残っていないと思うのですが…」 「氷鬼はちょっと手ごわかったな。そっちはどうだった?」 「こっちは一体一体がそれほど強くなかったから。援護にも回って貰えたしね」 たき火を囲んでの検討会。 火の傍に集まる者、距離を置く者、それぞれであったが、気心の知れた者同士会話は遠慮なく、楽しく続く。 「さて、じゃあ、もう一つの課題の方も考えてみようか?」 と折々が告げるまで。 「もう一つの課題…」 あたりは急に静まり返る。 「人形のデザインでしたね。皆さん、何か良いアイデアは浮かびましたか?」 静乃が周りを見まわした。 それをきっかけに寮生達は次々と意見や思いを言葉に出して告げ始めるのだ。 「う〜ん、私としては特にこだわりはないんだけど、朱雀寮らしさを出すなら鳥とか、各務寮長の形とか…」 「まあ、生首とかはイヤンな感じの奴は多いだろうなぁ。(生首人形はかくしてっと…)俺らが寮長を操るってのもなかなかに捨てがたいんだが、デフォルメ寮長とかはちょっとなあ〜」 「? どうしてなのですか? 私は凜さんに少し似せたかんじにしたら、と思っていたのですが…」 「デフォルメ寮長が…あり、ならデフォルメ委員長、とか…」 『私もあんまり実在の人物をモデルにするというのはあんまりお勧めできないですね。長く使っていくことで傷んでいくこともあるでしょう』 「ああ、傷んでいくと言う事を考えていませんでした。それなら私の意見は下げても構いません」 「なんだか、丑の刻参りとかになりそうだよな〜」 「小さなサイズにするなら、朱雀を模したものを希望するわ。やっぱり朱雀寮の象徴でもあるしね」 「オ!? 真名セニョリータの鳥ってアイデアはいいんでないかい?」 「私は逆に人型を押したいと思います。傀儡操術使いとして。やはり人に似た姿だからこそ宿る者というのもあるような気がするので…」 「鳥型の飛び道具? 扱いになる人形は面白そうですね〜。オーソドックスな人型の人形も捨てがたいですが」 「じゃあ、決定は多数決で良いと思うわ。私は鳥提案だけど、普通に人形でも良いかなって思うもの」 「形が決まったら、後は材質と、それから能力の配分とかも決めなきゃいけないから、時間はあるようであんまり無いよね。早く決めちゃおうか…」 「おいらは図南ノ翼と対になる、鳥型っていうのに一票なりよっ! 性能も図南ノ翼と同様、平均的が良いと思うのだっ!」 「そうですね。図南の翼を作る時に私が重視したのは、誰にでも使える事でした。 経験豊富な人でも初心者でも、志体があっても無くても。 同じ道を志す人なら、誰でも使うことのできる符を作りたいと思いました。 今回も私の望みは変わりません。ですから、使う人を選ばない様なバランス型で力が無い人でも持てる様軽い扱いやすい人形を作りたいと思っています」 「うん。紅符「図南の翼」とセットになる様な物が理想ね。能力もバランス型に。私達も、私達に続く人も皆が高く飛び立てる様に、そんな気持ちも込めたいわ…」 時に意見は交差し、また戻りぶつかり合い、そして譲り合って、少しずつ象られていく。 「ねえ、凛。貴方の意見も聞かせて!」 お茶や食事の支度など、裏方仕事を忙しくしていた凛は、そう呼ばれて振り返った。 『私も、ですか?』 瞬きを繰り返す凛の背をぽん、と叩く手があった。 『劫光…さま?』 「俺も今気付いた事で偉そうには言えないが…人形ってのは皆誰かに望まれて生まれるんだろうな。こういう風に。よく見ておけよ。全員一丸に力合わせて創り行く。未来も人形も。な?」 「凛ちゃん! 早く早く!」 「ほら、呼んでるぞ!」 劫光に背を押された凛はやがて輪の中に入り、一二人となった朱雀寮生達の相談は夜遅くまで続いたのだった。 ●朱き絆 提出された報告書と、企画書。 その両方に目を通した上で、寮長は報告に来た寮生達に確認するように問う。 「まず目的のアヤカシは全て退治したということで間違いありませんね?」 「はい〜。時間をかけて周囲を確認しましたから大丈夫だと思います〜。はぐれたものも見つかりませんでしたし〜」 「氷鬼についてのレポートもその中に加えてあります。個々の能力は侮れませんが、群れるタイプではなさそうなので対応の仕方はいろいろあると思います」 アッピン、紫乃の説明になるほど、と寮長は頷いた。 そして今度は企画書へと視線を移動させる。 「それで進級課題の呪術人形の方は鳥形、ということですね」 「はい」 今度、そう答えたのは真名であった。 「形状は鳥形、朱雀。材質は竹をベースに木や紙、漆などを使って軽量化を図ります。爪やくちばしなどには金属を少し利用。能力的には全体にバランス優先、もしくは防御優先に、と考えています。肩に乗せて装備できれば両手も空きますし」 朔がスペックを付け加え 「基本思想と言うか、骨子となるのは誰しもが使い易い、守る為の力、絆、だろうか…」 それだけ言うと少し照れたように劫光は頭を掻いた。 「なるほど。そして…名前は?」 「図南ノ鳳翼、もしくは朱夏と考えています。凛に選んでもらったのですが、こちらについてはまだ纏まりきらなくて…」 静かな声で静音が告げた。彼女は人型を推していたが決定に異議は唱えない。 生意気を申し上げますが、と前置いて凛は自分の「考え」を告げてくれた。 『守る力、というのであれば帝、というのは違うような気がします。朱邑もいいと思うのですが…』 「解りました。今回はどちらも疎かにせず、目的を成し遂げたことが確認できたので合格とします。名前については今回のものも候補に加えたうえで、次回の課題の時にでも詳しく決めるといいでしょう。ご苦労様でした」 寮長の言葉に安堵の息を吐き出すと彼らはお辞儀をして職員室を辞した。 「ふう、とりあえず一安心。っと」 「そうですね〜、よかったですね〜」 報告に来た寮生達は笑いあうと、それぞれに歩き始める。 「ねえ、アッピンちゃん」 「? なんですか?」 ふと折々は気心の知れた図書委員副委員長に囁く様に言う。 「朱雀寮って、ううん。仲間同士って、いいよね」 自分の思いを。 「どうしたんです? いきなり」 「やっぱり人は同じ目標に向かって共に進めるということ。みんなで「こういう風にしたい」って希望は絶対にあった筈なのに、他の人の意見も尊重して、こうして一つの形にまとめることができたのは、とても素晴らしいことだと考えているよ。 五行もまだ氏族間の連携が取れていないけど、きっとこうやって話し合っていければ、みんなが仲間みたいにお互い助け合えれば、いつか一つになれるんじゃないのかなって」 「そうだといいですね〜」 夢見るような会話は、今は二人だけのもの。 でも、いつか大きな舞台でそう皆と会話し、伝えられる日が来るかもしれない。 そんなことを思いながら、彼らは仲間達の元へ歩を進めていくのだった。 |