【朱雀】望む力
マスター名:夢村円
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/03/03 20:59



■オープニング本文

【これは朱雀寮一年生用のシナリオです】

 未だかつてない大規模なアヤカシの襲来。
 北面での大規模戦闘がある程度の区切りを迎えた。
 まだ事後処理の全てが終わったわけでは無いが、以前のような大きな襲撃はおそらく起きないだろう。
 安堵に胸を撫で下ろす寮生達を
「色々とご苦労でした」
 朱雀寮寮長 各務紫郎は優しい笑顔で労った。
「炊き出しや調査、救出も含め朱雀寮の皆さんの今回の戦いでの活躍は素晴らしいものがあったとお褒めの言葉も頂いています。私も皆さんを誇りに思いますよ」
 心からの賛辞に寮生達の頬も少し赤くなる。
 自分達の行動が誰かの役に立ち、認められると言うのは嬉しいことである。
「しかし」
 ほんの少し舞い上がった空気を、寮長は引き締めるのも忘れない。
「それと授業は話が別。既に皆さんも入学から半年以上過ぎています。6月には今の三年生が卒業し、皆さんも進級する事になります。
 皆さんもそろそろ本格的な準備の必要性を頭に入れておいてください」
「あ、進級試験って、小論文と符の作成、でしたっけ?」
 寮長の言葉に寮生達は考えを巡らせる。
 確か、先月の三年生との戦いにおいて、そんな話を耳にした。
「そうです。小論文の内容は試験の時に発表されますので、まだ教えることはできませんが、実技課題は例年符の作成を行います。そして、今回はそれが授業の課題となります。皆さんで、自分達が進級試験で作成する符をどんなものにするか決めて下さい」
 寮生達の顔がいつにも増して神妙なものになった。
 以前、二年生の寮生達が進級試験で作った符を見せて貰った。
 紅符『図南の翼』
 決して目立って高性能と言うわけでは無いが。皆で考え、作り上げた符。
 彼らがそれをどれほど大事にしているかはよく知っている。
「現時点で構いません。皆さんでよく相談を行い、どんな力を求めるかを考え、作成する符の方向性を決めて下さい。守る力を望むか、己の身を削って高い力を望むか…いくつか例を挙げましょう」
 そう言うと彼は黒板にいくつかの符の名前を書き記す。
 陰陽符、呪殺符、道符、護法符、黒死符、霊符など。
「これらは名前こそいろいろですが、基本的に知覚を高め、術の効果を高めると言う点で大きな差を持ちません。ただ、限界より高く力を得る符は命や、守りを削る必要があります。守りの力を高める符は術の効果が高く上がらず、なんの代償もない符は得る力もそれほど目立って強いわけではありません。防御を高める代わりに練力を大きく削る符など、それぞれの力にふさわしい瘴気を選び、自らの心で符に込めていくのです」
 と、説明されても寮生にはピンと来ないのは例年の事らしい。
「と、言ってもなかなかイメージするのは難しいでしょう。ですので、具体例を挙げましょう」
 そう言って、寮長は昨年と同じように寮生達にいくつかの例を示してくれた。
「陰陽寮には多くの種類の瘴気が保管されています。そのうち一種類を皆さんに与えます。
 皆さんにはその瘴気を使って符を作成して貰う事になるのです。
 ですが、符の属性に相応しい瘴気があるので、まずそれを決める為にどんな符を作りたいかを決めてもらう必要があります。
 本来はいろいろと細かい分類などがあるのですが、今回は解り易く大まかに五つに分けましょう。
 まず、第一に知覚を高める力は弱いが、物理的な護りの力が高まり、身の動きも機敏になる陰陽符
 第二に知覚を高める力はそれほど高くは無いが、霊的な防御力が上がる護法符。
 第三に特に大きく力を高めるわけでは無いが、僅かずつでも確実な力を与えてくれる術符。
 第四に生命力を削るがかなり知覚と術への抵抗を上げてくれる呪殺符。
 そして最後に生命だけでなく、集中力や、護りの力を削るがかなり飛躍的に知覚と術の力を高める死霊符。
 このうちどれを作るかを、相談し選んで下さい」
 自分達の作る符の種類を仲間と相談して決めると言うわけだ。
「故に今回に限っては相談必須です。もし話し合いで纏まらなければそれぞれが一番希望する符を選んでの投票とします。自分の目指す姿、思いを仲間に伝えあい、その為にどんな力を望むか、必要とするか。
 何より自分自身にしっかりと再確認して下さい。思いをあくまで貫くもよし、仲間に譲るもありでしょう。どちらにしてもその過程で得たもの、経たものが皆さんの力になるのですから、後悔だけは無い様に」

 いつもの事であるが、寮長は全てを教えてはくれない。
 夢中で過ごしてきた一年だが、もう終わりが見えてきた。
 進級と言う課題に向うのは、誰でもない自分自身。
 だから 肝心な事は自分達で考え、決めなくてはならないのだ。
 
 そうして彼らは去年、先輩達も通った道のりを歩み進む。
 自分達の道を決めるその一歩を、歩き出す為に。


■参加者一覧
芦屋 璃凛(ia0303
19歳・女・陰
蒼詠(ia0827
16歳・男・陰
サラターシャ(ib0373
24歳・女・陰
クラリッサ・ヴェルト(ib7001
13歳・女・陰
カミール リリス(ib7039
17歳・女・陰


■リプレイ本文

●進級試験を前に
 陰陽寮に入寮して、毎月委員会や課題に追われ、気が付けばもう半年以上が過ぎていた。
 早いものだと思わない者は少ないだろう。
 そして今回与えられた課題。
「進級試験用の独自の符の草案ですか…」
「うーん…、どうするべきかな」
 小さく呟いた蒼詠(ia0827)の言葉が皆の耳に届く程に寮生達はそれぞれに考えに沈んでいた。
「符…委員会勧誘の時に展示されてた符がそうなんだよね…。私たちだけの符、かぁ〜。難しいなあ」
 クラリッサ・ヴェルト(ib7001)も視線を空に彷徨わせている。
「私、一度も術符を使ったことないんだけど大丈夫なのかな」
「えっ? そうだった?」
 目を瞬かせる芦屋 璃凛(ia0303)にクラリッサはうん、と首を縦に動かした。
「本当に最初から呪術人形で術を学んできたから…」
 普段、符を使用して術を行使していなかったというのだ。
「そういうのも珍しいのでは? 僕はお師匠様に符の使い方から教わりましたけど」
「俺も符から、かな? 一番手に入り易かったし、身近だし」
 彼方と清心が顔を見合わせている。それを見て、璃凜もまた自分の師匠を思い出したの
だろうか。小さく瞬きして笑った。
「多分、それがふつーじゃないかな? でも、違っているのが悪いってわけじゃないし、今はそんなことを話している場合でもないし」
「そうですね。いつまでもこうしていても始まらないし、みんなでまず話をしてみましょうか。討論と言うのかな?」 
 璃凛の発言をカミール リリス(ib7039)が頷きながら引き継ぐ。
 少しずつ春めいてきたとはいえ、火の気の少ない講義室は結構寒いものだ。
 自然と、少しでも暖かい場所に寮生達は身を寄り添う様にして集まる。
 それを見て、いい光景だとサラターシャ(ib0373)は思った。
 改まって議論するよりも、輪を作って和やかに話し合いたいと思っていたのだ。
 だから、彼女も椅子の一つを引いて座ると仲間達を見まわした。
「一年の集大成ですね。どの符も個性のある符で迷いますが、皆さんと一緒に作り上げたいです。よろしくお願いします」
 いつまでも悩んでいても仕方がない。ならば、前に進む為の準備を始めなくては。
 学年主席、サラターシャの言葉に、みんなが頷いて自由に椅子を引っ張り出して座った。
 そして、一年生達の話し合いが始まったのである。

●思考錯誤
 昨年の先輩は全体的にオールマイティな符をということで術符をモチーフに作ったらしい。とクラリッサは言う。
『紅符 図南の翼』
「基本的に二年生しか持ってないから、性能は詳しくは解らないけれど、確か能力全体を底上げする符にしたらしいよ」
「それを踏まえて、私達はどんな符を作ったらいいのでしょうね? 提示された五つの符はどれも一長一短があって…。ちょっと上げてみましょうか」
サラターシャはそれぞれを手近に置かれていた黒板に書いて行った。
 陰陽符、護法符、術符、呪殺符、死霊符。
「陰陽符は守りが高まり、素早さも上がる。自分自身で戦ったり、武器で戦う時に効果的ですね、護法符は守りの力が高まる。陰陽師の基本である瘴気へ対抗するのに手助けをしてくれると思います。
 術符は、大きく力を上げてくれるわけではありません。ですが、迷った時、困った時、ほんの少し支えてくれる、そんな符だと思います。朱雀寮の象徴として心に抱く符として先輩達も選ばれたのでしょう。呪殺符は、術者としての力をより高めてくれる符だと思います。術者として一番スタンダードな符ではないでしょうか。
 …死霊符は、何を賭しても守りたい時に使う符だと思います。常に使い続ける符ではないと思いますが、決して譲れない時に大きな力を与えてくれると思います」
 どれがいいでしょう。とサラターシャは目で仲間達に問う
「一つだけ…か〜」
 考え込んでしまっている璃凛を心配そうに横に見て、
「じゃあ、先に言わせて貰うね。サラが肯定的な面から言ってくれたから私は別視点から」
 クラリッサが答えた。
「陰陽師は元々守りや素早さに欠けるから、陰陽符で補うよりは別な方法を使った方が良い気がする。護法符は、瘴気の抵抗を上げる意味であり、じゃないかと思う。術符は…平凡、っていうか器用貧乏っぽくなりそう。呪殺符は上位に死霊符があるから、なんか半端な感じがする。というわけで私は、護法符か死霊符を押す、かな?」
「僕は、呪殺符と死霊符以外が良いかなぁと思っています」
 今はとりあえず、いろんな意見を出し合う時、そう考えたのだろう。まだ意見が纏まり切ってはいないけれど、と前おいて蒼詠は少し躊躇いがちに、だがはっきりとこう言った。
「僕が求めるのは『護りの力』です。どんなに威力の高い術を行使出来る様になっても、代わりに生命力や防御を削られていては意味が無いと思うからです」
「まぁ、ボクは決まった物で構いませんよ。とはいえ、言いたい事は、言いますが…」
 軽く肩を竦めて後、カミールは黒板をもう一度見る。
「この中で言うなら護法符、いや、求めるは「癒やしの力」なので、術符ですね。あくまで自分が作りたいイメージですけれど」
 彼女は小さく微笑んだ。自分の中に望む力のイメージは、ある。
 今まで幾度となく戦場で見て来た沢山の人々。
 アヤカシとの戦いや戦で、犠牲になった全ての人や生き物への鎮魂の思いを、故郷の神になぞらえられたら…。
 自分だけのイメージを押し付けるつもりはないので、今回は作りたいと口にするつもりは勿論無いが、自分に理想とするものがあるように、皆にもそれぞれ思うものがあるのだろう。
「僕…いや、俺は陰陽符がいいんじゃないかな、って思う。陰陽師が使う符、ってかんじだし。でも、難しいよね。どれか一つって選べないよ」
 最近、急に大人びたというか男らしい口調を意図して選んでいるらしい清心は、悪く言えばよくばり、良く言えば前向きな思いでそう告げ、
「僕は護法符がいい。蒼詠君の言うとおり、守り、護る為の力が欲しいから、それには一番護法符がうってつけだと思うから」
 彼方は一度だけ瞬きと言うには深く目を閉じてそう言った。
 誰かの顔を思い浮かべていたのかも知れないが、それが誰のどんな顔か他の仲間達は知る由もない。
「私は陰陽符か死霊符が良いのではないかとおもっているのですが…?」
 それぞれの意見が交わされる中…
 ふと、サラターシャは今までほとんど発言していない璃凛に気付いて
「どうしたんですか? 璃凛さん? 気分でも悪いですか?」
 気遣う様に声をかけた。彼女は慌てて首を横に振る。
「あっ、ごめん…なんだか初めてのことだからさ、ちょっといろいろ思う事があって…」
「思う、こと?」
 首を傾げる蒼詠にうんと頷くと何かを決心したように璃凛は顔を上げた。そして
「ねえ、みんな、ちょっといいかな?」
 仲間達の顔を見つめ、口を開いたのだった。

●迷い、悩み、そして…
「ねえ、どうしてもこの中から選ばなきゃいけないのかな?」
 彼女はそう仲間達に切り出したのはいろいろ考えた結果であろうとは解っている。
 しかし、意味は解らない。
「それは、どういう意味でしょうか?」
 だからサラターシャはそう問い、それに璃凛は答えた。
「うちが、求める物は…、たぶん蒼詠に近い『護りの力』とはいえ、攻撃的な物では、有るんだけど護るとは言っても、耐え凌ぐ物と言うよりは、払いのけるとか、はじき返す。そんな代物にしたい。でも、この中のものではそれはちょっと無理だから…」
「そこを妥協しつつ、できる限り望む形に近づけていくのが今回の課題、なんじゃない?」
 クラリッサに問われてそうかもしれないけど、といいながら璃凛は続ける。
「普通に符を作っても意味がない。いずれ、自分達で符を作ることくらいできて当たり前にならなきゃいけないと思う。だから、今だけしかできないものを、作れないかと、思うんだ」
「それは、どんな?」
「うん! 7人それぞれ、思い思いの性能の望む符を作っておいてそれを組み合わせたら、別の効果を現す符みたいにするかんじでさ。そういうのができたら、すごくステキだとおもうんだけど…」
 璃凛は仲間達に向けて、自分の提案を語った。
 一人一人、色を変えてそれぞれ、違う効果を持たせる。全員の力が合わさるとより大きな力が出せる。
 七人の絆を表す特別な符。
 それは今までの符の概念を変えるものであり、一年生達にはとても魅力的に思えた。
 しかし…
「璃凛さん」
 サラターシャは璃凛が全ての提案を語り終え、どうかな? と問う前に彼女の名を呼んだ。そして
「サラ?」
「それは、今は難しいと思います」
 はっきりとそう言ったのだった。
「どうして?」
 璃凜の顔が落胆を形作る。けれどサラターシャも引きはしなかった。
「今、私達は符を作る作り方を知りません。まったく新しい符を生み出すことはおろか、既存の符を写し作ることもその方法などを知らないでしょう? しかも連携可能な符というのは今まで見たことさえないものですから」
「確かに、そうだけど…、だからこそ…、教えて貰える今…」
「それに、今回の授業は五つの中から選ぶこと、とされています。いずれ…例えば卒業までの目標としていつかはそれを目指すとしても、今回はやはり指示された課題を守って作る、ということも大事かと思うのです」
 冷静に丁寧に論理的に説明するサラターシャの言葉に、璃凛の頭がどんどん下がっていき…、最後に本当に小さな、蚊の鳴くような声で、一言を呟いた。
「…ごめん」
「謝る必要はないと思うな。それも一つの意見だもの」
 クラリッサは璃凛にそう言うと、片目を閉じてみせる。
「ったく、璃凜は…何を考えているのですかね。結局、進級出来なくては意味も無いでしょうに」
 冗談めかした口調でカミールは笑った。その笑顔は勿論嘲笑のものではない。
「でも、その発想は楽しいと思いますし、ステキだと思います。最終的に皆で目指せると良いですね」
 だから蒼詠が庇うように言うと
「別に、それに参加しないとは、言いません…とても、すてきですからね」
 と慌てて手を横に振り、落ち込む璃凛に笑いかけたのだ。
「みんな…」
 皆の笑顔が璃凛を包む。
 璃凛は目元を強く擦ると首を振って、笑顔を見せた。
「…ごめん。変なこと言って。今回は皆で決まったものを作るよ」
「皆の夢、というか目標にしましょうか? 叶うかどうかは解らないけれど」
 彼方も微笑み、清心も頷く。勿論、他の一年生も、皆…。
「うん、ありがとう」
「では、本格的に詰めていきましょう。イメージとかも決めないといけませんし…」
 サラターシャが窓の外を見て、あ、と小さな声を上げる。
 外は雪、気が付けば真っ白だ。
「どうも寒いと思ったら…。皆さん、お茶にしませんか? 冷えますし。相談は楽しいですが、白熱すると時間を忘れてしまいます。疲れもたまってきますし、相談も平行線をたどりがちです。気持ちも一度切り替えた方がいいですよ」
「それなら、僕が保健室から薬草茶分けて貰ってきます。心を鎮めるお茶がいいですかね?」
「じゃあ、僕は食堂から何かお菓子持ってきますね」
 そして、その夜は
「…う〜ん、なんだかバラけるね。いっそ投票にしようか?」
「それでいいんじゃないかな? 恨みっこなしで」
「符のイメージはどうします? 表に描く絵も…」
「やっぱり朱雀がいいと思いますが…どう思いますか?」
「皆の、絆が感じられるものがいいですよね? それにそれぞれのイメージも取り入れて…」
 長く、長く一年生教室から明かりが消えることは無かったという。

●守護符『翼宿』
 そうして、報告に来た寮生達と課題のレポートを見ながら朱雀寮長 各務紫郎は確認するように問いかけた。
「では、符は護法符と決まったのですね?」
 寮長の問いに、はいとサラターシャは頷く。
「皆の、統一した願いは『守る為の力』ということでした。その為の符の選択もいろいろであったのでなかなかまとまらず、投票と言う形を取りましたが、それも本当に接戦でした」
「二と二と三、でしたから」
 二が術符と陰陽符で、三が護法符であったと蒼詠は苦笑する。
「そして、符の名前が『翼宿』…」
 見本として提出された絵に寮長は視線を降ろす。
 太陽を背にした七色の尾羽を持つ朱雀が、小さなひな鳥を護るように包み込んでいる絵。全体のイメージは橙色。
 明るい色合いの符の四隅には小さく紫陽花の花が飾られている。
「この紫陽花に意味はあるのですか?」
 寮長の問いにはい、とクラリッサは頷いた。
「紫陽花は色が地面の性質で変わるので移り気などとも言われますが、小さな花がたくさん集まって、一つの花になっていることから絆を表すとも言われています。だから…」
「皆で力を合わせて頑張るということを表す、ということですか」
 頷き微笑すると、寮長は報告に来た一年生達を見る。
「解りました。良くまとめたと言えるでしょう。今回の課題は合格とします」
「ありがとうございました!」
「皆さんの希望になるべく添える瘴気を用意しましょう。進級試験実習は二月後、とします。その前後に小論文試験がありますので、それに向けた勉強をしておくこと、進級を望むならこの二つの試験は絶対に落とさない事、と皆に伝えて下さい」
 返事とお辞儀をして去って行く一年生達を見送って後、紫郎は事前に受け取っていた一通の封筒を書類の上で開いた。
『いつか…、できればこんな符を作りたいと思います』
 芦屋 璃凛と書かれたそれにはこう書かれてあった。

『虹符 今回札の裏面もしくは、個人を表す色が書かれており
とある組み合わせることにより、一枚の別の効果の有る符となる。
 初期段階は、特に無いかもしくは、効果に関しては、卒業までの間の課題としてみる。
 一応、この七人の証のような位置づけ、五行や全ての国、全ての儀の幸いを願う思いを込めた物としたい』

 実際にこんな符を作ることができるかどうは解らない。
 できたとしてもかなり難しいだろう。本人も
「ただ、押しつけるつもりは、無いから今後どうなるかは判りません」
 と言っていたから解っている筈だ。
 しかし目指す姿を心に抱き、それに向かって進むことは大事だと思う。
 その心は尊いと思う。
 だからこそ、この書類を受け取ったのだ。
「頑張って下さいね」
 小さく微笑み、呟いて紫郎はその封筒をそっと机の中に入れたのだった。

 朱雀寮の一年生達はゆっくりと、が確実に夢への道を進んでいると信じて。