【朱雀】三年対一年 再
マスター名:夢村円
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 普通
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/01/31 22:16



■オープニング本文

【これは朱雀寮一年生用のシナリオです】

 昨年の年末から年始。
 朱雀寮の寮生達は北面での対応に暮れた。
 特に一年生は戦地での救援活動を行い、休む間もなく委員会活動に参加、北面での避難所での炊き出しを行った。
 もちろん、今なおその地で暮らす人々の労苦には及ばないが、少なくない疲労等も残る中、それでも学生達には授業が待っていて、
「五行から正式な援軍が派遣されることとなりました。当面の活動は彼らに任せ、皆さんは授業に戻って下さい」
 と寮長が言うとおり、いつと同じようにそれは行われるのだった。
「陰陽師の力と言うのは瘴気、いわばアヤカシの力を利用して行使されるものです。それは一般的に忌むべきものとされますが、汎用性が高く、いろいろな場面で応用が利きます。その分、射程などに難もありますが、使用者の知識と判断力、応用力が試されると言えるでしょう」
 基本的な知識の再確認と、術の心得。
 ごく普通の授業であるが、それがどこか嬉しいのは、戦地と言うあまりにも日常からかけ離れた生々しい世界を見続けてきたからかもしれない。
 人間と言うものはごく普通の事をごく普通にできるのが一番元気が出ると言ったのは誰だったか。
 それを実感しながら寮生達は寮長の授業に耳を傾けるのだった。

「さて、皆さん、新しい年を迎え、自分の目標などは決まっていますか?」
 授業が一区切り付いた頃、ふと寮長がそんなことを口にした。
「えっ? 目標?」
 思いもかけない問いに驚いたり、瞬きをしたりする一年生達の答えを待たずに寮長は言葉を続ける。
「皆さんが入寮して間もなく半年。そろそろ進級を視野に入れておいて下さい。三月頃から本格的に試験が始まりますが、その準備は徐々に初めておくといいでしょう」
「寮長! 準備って何をするのですか? 進級試験ってどんなものですか?」
 手を挙げた寮生の疑問はもっともなものだ。
 不安げな寮生達に、寮長は微笑んで答える。
「進級試験の課題は例年、小論文と、実技です。実技はアヤカシ退治や術使用ではなく、皆さんで新しい符を作成して貰うということになります」
「符の作成〜〜〜!?」
 寮生達の間にざわめきが走る。
「あ、そう言えば見せてもら多ことがあるかも! 二年生の先輩から」
 寮生の一人が思い出したように声を上げた。
『皆で作ったんだよ。紅符「図南の翼」』
 そう言って先輩は大事そうにしていた。
「そうです。一人で作るのではなく、皆で意見を出し合って一種類の、まったく新しい符を協力して作るのです。その内容や準備についてはおいおい知らせていきます。ですから、それはさておいて今回の課題の話にしましょう」
 進級試験に付いて興味は尽きないが、そう言われてしまっては仕方がない。
 寮生達は寮長を見つめなおす。
 彼らの視線を受けて、紫郎は課題の内容を発表する。
「現在、陰陽寮の三年生達の中、委員長を務める五人にあるものを預けています。彼らにはその品物を一週間、守りきるように命じました。彼らが持つその品物を手に入れることが今回の課題です」
「品物を、手に入れる?」
「そうです。方法は自由ですが、陰陽寮の規則は生きていますので、術で相手を傷つけることは原則として禁止です」
「その品物はなんですか? 委員長の皆さん、全員が同じものをお持ちなのですか?」。
「品物が何かは言えません。調べ、探すのも課題の一つです。ただし、持ち歩けるものではありませんからどこかに隠すか、置くかしていると思います。全員に同じ品物を預けていますが一人が預かっている数は数個です。同じ人物から全員がもらうと言う事はできませんからね」
 どこか楽しそうに笑って寮長は言う。これは例年必ず行われる恒例の課題なのだ、と。
「三年生にとってもこれは試験です。数が減ると減点が課せられます。つまり三年生との勝負とも言えるでしょう。また、その品物は今後の皆さんの進級試験に使う品物ですので、誰も入手できないと進級試験そのものが危うくなります。壊した場合は不合格です。頑張って下さい」
 恒例の課題、と寮長は言った。
 つまり、今の二年生も、三年生もこの課題を行ったのだろう。
 昨年、二年生はどんな勝負を繰り広げたのか、興味はある。
 調べてみようかと思うが、それは禁止されている事だろうか?
 今年の三年生達は、比較的優しい人物が多いから、素直にお願いすれば聞いてくれるだろうか?
 いろいろな思いと共に一年生達は今までとは一味違う課題に思いを巡らせたのだった。


 ちなみに、後日、ある寮生が廊下で委員長達のこんな会話を聞いたという。
「皆さん、簡単に壷を渡してはいけませんよ」
「解っているよ。今年の一年生達は皆いい子ばかりだけど、それとこれは話が別、だからね。先輩直伝の生け花でも活けて隠しておこうかな」
「調理室には似たようなのがあるから大丈夫」
「去年、先輩は水を入れておいたらしいから、僕もそうしようかな。水がいっぱい入っていれば簡単に持ち出せないだろうし」
「隠すとすれば、屋根裏か、ゴミ入れって手もあるかな? 用具委員は隠し場所に困らなくていいね」
「そうですわね。だからこそ、どんな風にやってくるか楽しみですわ」
「ああ、去年の先輩達には叶わないかもしれないけど、負けない! 三年生の実力を見せてやろう!」

 朱雀寮の新年最初の課題。
 実は新年の恒例行事。
 陰陽師同士の『戦い』の幕が今、切って落とされようとしていた。


■参加者一覧
芦屋 璃凛(ia0303
19歳・女・陰
蒼詠(ia0827
16歳・男・陰
サラターシャ(ib0373
24歳・女・陰
クラリッサ・ヴェルト(ib7001
13歳・女・陰
カミール リリス(ib7039
17歳・女・陰


■リプレイ本文

●謎の『壷』を探せ
 三年生はこう言っていたという。
「皆さん、簡単に壷を渡してはいけませんよ」

「壷…かあ。やっぱりアレ、かなあ?」
「アレ? 何か心当たりがあるの?」
 大きく伸びをしながら呟いた芦屋 璃凛(ia0303)の言葉に清心は首を傾げた。
 一年生に情報を齎したのは彼である。彼の招集で一年生達は作戦を立てるべく講義室に集まったのだ。
「用具委員長に用事があって行ったら、三年生達が集まってそんな話をしていたんだ」
 どうだ、お手柄だろ。と言わんばかりに満面な笑みを浮かべる彼にだが仲間達は
「せっかく下さったヒントを見逃す訳にはいかないですね」
 実に冷静な反応である。
「ヒントを…くれた?」
 サラターシャ(ib0373)の言葉にさらに首を傾げた清心にクラリッサ・ヴェルト(ib7001)が言い聞かせるように告げる。
「だって、その話、廊下でしてたんでしょ? 聞かれたくない話だったら今のあたし達みたいに他の人が来ない場所で話す。きっと、聞いてるのを解ってて、教える為に話してたんだと思うな」
「あ……」
 口元を押さえる清心に彼方も肩を竦めて見せる。
 清心は良くも悪くもお坊ちゃま育ちであるからきっと思いつかなかったのだろう。
「知恵と力、その全力を持って事にあたる。というのが課題の意味なのでしょうからね。頑張るとしましょう」
 俯く清心の肩をカミール リリス(ib7039)が慰めるようにポンと叩いた。その手に励まされて一時俯いていた清心の顔と心もほんの少し上を向いたようだった。
「では、方針を決めましょうか。何せ今回の課題の品は進級に関わる品……頑張って手に入れなくては」
 蒼詠(ia0827)の言葉にそれぞれがそれぞれの思いで頷く。相手の方が上手であろうと負ける訳にはいかないのだ。
「あ、思い出した。それで、目的の壷っていうのに心当たりがあるの?」
 改めての清心の問いには璃凛が答えた。
「そりゃあ壺って言ったら…封印壺だよね」
「封印…ツボ?」
 再び首を傾げた清心に蒼詠が補足する。事前に彼はクラリッサと色々調べていたようだ。
「瘴気を貯めておくことができる壷の事ですよ。そういう術が朱雀にはあるのだそうです
「瘴気をモノに込めたりする為には瘴気を持ち帰らなくてはいけない訳で。宝珠とか符に込めて持ち帰ったりする秘術があっても不思議はないでしょ?」
 なるほどと頷く清心。
 ちなみに璃凛や彼方は違う意味で『知っていた』らしい。
「昔見たことある気がするんだ、師匠の家で…」
「僕も、似たようなものをお師匠様が使ってたのを見た気がする。形は、少し違うけれど…」
 うん。
 そう言いながらクラリッサは調べてきたメモを読み上げた。
「見た目は底に呪符が貼ってある壺。それ以外は普通の壺と変わりないみたい。形もいろいろあるかもしれない」
「それじゃあ、どれが封印壷か解らないじゃないか?」
 荒れた感じで吐き出す清心をサラターシャは宥め、仲間達を見る。
「だから、それを探して手に入れるのが今回の課題なのでしょう? それで、皆さん、どの先輩に行くか決まったのですか? 私は図書委員長さんにお願いしようと思うのですが」
「うちは、体育委員長と臨むよ。前回、欠席しちゃったのもあるし」
 確認する意味も込められた質問にもやはり璃凛が最初に答えた。
「ボクも、図書委員長さんにですかね。でも委員会ごとだと偏りますね…」
「私はどうしようかなあ。んー、誰かに勝負を挑むって苦手なんだけどな…あんまり偏ってもいけないよね…。二人が図書委員長に行くなら保健委員長、にしようかな」
「僕は自分が所属する保健委員の藤村委員長の所へ行こうと思います」
 カミール、クラリッサ、蒼詠と答えたのを聞き
「彼方さんと清心さんはどう致しますか?」
 サラターシャが残る二人にも確認する。
「僕は調理委員長にお願いしてみます」
「勿論、用具委員長! 甘く見られてばかりじゃいられないよ!」
 二人もそれぞれに気合が入っているようだ。
「それじゃあ、いい感じにバラけたみたいだし、頑張ろう! 目指せ全員合格!!」
「「「「「「「おう!!」」」」」」」
 七つの拳が高く掲げられたのだった。

●図書委員長との知恵比べ 
 図書室に一歩足を踏み入れるとふんわりと花の香りがする。
「あら、ステキですわ」
 サラターシャの言葉は本心である。
 図書室には美しい紅梅白梅が見事な腕前で活けられていたのだ。
「その花、先輩が活けたんですか?」
 カミールの問いに図書の整理をしていた委員長土井貴志はまあね、と小さく笑って見せた。
「去年の図書委員長はこういうのが得意でね。僕も少し教えて貰ったんだよ。花も香りも本の邪魔にはならないしね」
 そう言えば時々、季節の花が図書室に活けてあったけ。
 そんなことを思いながら二人は注意深く周囲を見た。
 いつもと変わらない図書室。
 清心が言っていたヒントを信じるなら
『先輩直伝の生け花』が活けられているあの花瓶が怪しい。
(…元より図書室に不自然でなく壷を置くのは難しいですね。花を飾る花瓶。墨をいれる墨壷。壷のサイズにもよりますが、本棚の間や本の後ろに隠すのは大変そうです)
(多分、あれで間違いないと思いますけど…確認してみますか?)
 二人は作業を続ける貴志に気付かれないようにさりげなく、術を発動させた。
 瘴気回収と人魂。
 これで、瘴気の流れを感じとり、瘴気を帯びているであろう壷を探そうとしたのだが…。
「無駄だよ」
「えっ?」「わっ!」
 気が付けばそこには貴志が本を持ったまま立っていた。
「壷そのものは術具だからね。瘴気を帯びている訳じゃあない。瘴気回収じゃ探せないよ。それに術を発動させなきゃ本当に普通の壷なんだから、人魂が喰われることもないよ。第一そんな物騒な品に花なんか活けられないだろ?」
 ぽんぽん、と二人の頭を本で軽く叩いた彼はニッコリと笑う。彼ははっきりと花を活けている、と言った。つまり
「全て、お見通しってことですね。では!」
 カミールは小細工を止めて前に進み出た。
「ボクとサラ。二人と勝負して下さい。そして、勝ったら壷を頂きたいんです!」
「勝負?」
「はい。先輩に受けたご恩、こんな形ですが、返してみせます」
 横に寄り添うようにして立つサラもそしてカミールも真っ直ぐに貴志を見つめている。
 その迷いのない瞳を貴志は小さく笑って受け止めた。
「いいよ。どんな勝負にする?」
「では、数字ゲームと論理クイズで」
 そう挑んだ二人は、以下に自分達が不利な相手に不利な勝負を挑んだか、この時、まだ気がついてはいなかったのだった。

●保健委員長のお仕事
 保健委員長藤村左近は小柄で、実は今年の一年生達よりも歳は下である。
 しかし、いくら年下であっても先輩は先輩。
「すみません、ちょっと暇になったので…何か手伝いが必要なことってありますか?」
 クラリッサはそう言って保健室のドアをノックすると中で忙しく働く左近に、そう声をかけた。
 中では蒼詠が調合された薬を薬包紙に包んでいる。
「ああ、ありがとう。先日、北面に行った時に大分使ってしまったから薬草と包帯とか備品の補充をしてたんだ。手伝ってくれると嬉しいな」
「はい!」
 水の入った壷を運び、籠いっぱいの薬草や、沢山の古布が保健室の床一面に所狭しと並んでいた。クラリッサもその一角に座るとさりげなく蒼詠の側に寄り、耳打ちした。
「で、どれがそれだか解った?」
「はい。あの水壺のどれかではないか、と…」
 蒼詠はクラリッサに視線で指し示す。その先には消毒や洗浄に使うつもりらしい大きな素焼き壺がいくつも並んでいた。
 大小、大きさも様々で気配も同じ。パッと見では見分けがつかない。
 でも、他には壷らしい壷は無い。
「なるほど…きっとそうだね」
 一度だけ顔を見合わせ頷きあうと、二人は仕事の続きに入る。
 作業はかなり大変で、午前中いっぱいかかってしまった。
「お昼にしようか」
 そう左近が言ってお茶と弁当を差し出した。
「あ、ありがとうございます。でも…」
 クラリッサはそれを受け取らず、座ったまま左近と目を合わせた。
「先輩。もうお分かりだと思いますけど、課題で封印壺を探しています。あの水入り壺がきっとそうですよね?」
 前置き無しの直球勝負に左近は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「さて、どうかな? で、そうだったらどうする?」
「この壺の中の水を捨てることなく封印壺がどれか当てられたら…封印壺をいただけませんか?」
「そう頼んで、僕がうんというと思ってるのかい?」
「はい。先輩方は皆 いくら減点がかかっていようとも絶対不可能な条件を出すような方々では無いと信じていますから」 
 蒼詠が横から助け舟を出す
 くすっと小さく笑った左近が
「いいよ。一つだけこの部屋から壺を持って行っていい。但し、水は外で捨てる事」
 と答えたのでクラリッサはさっそく人魂を出し水壺を持ち上げようとした。その下から人魂に符を確かめさせようとしたのだが…。
「お、重い!! うわああっ!」
 水の思いがけない重さに、クラリッサはバランスを崩した。
(しまった! 零れる!)
 そう思った瞬間
「えっ?」
 急に軽くなった手元にクラリッサは瞬きする。蒼詠もあっけにとられた。
「先輩…?」
 クラリッサがよろめくほどの水が入った壺。それを目の前の委員長、藤村左近は片手で押さえていたのだ。
「術を操るには体力も必要だよ」
 そう言って壺を床に降ろすと左近は二人向かって笑いかける。
「僕はちょっと外出するんで、残りの仕事、お昼が終わったら片付けて欲しいな」
「あ、はい…」
 大失敗をしそうになったクラリッサはしゅんと首を下げる。ここで彼が席を外すということは壺を探すチャンスをくれるということだろうが、水壺をちゃんと持ち上げられる自信がもう無かったのだ。
「最後まで仕事をすればいいことがあるかもね。大事なものは大事なものが隠しているものだよ」
「「?」」
 片目を閉じて去って行った保健委員長に残された二人は顔を見合わせ首を捻っていた。

●決戦、体育委員長
「たああっ!!」
 璃凛は大きな声で気合を入れると組手の相手、その腹を狙って蹴りを入れた。
 だが、それは軽くいなされ逆に、払った手が正拳となって璃凛の首元を狙う。
 とっさに手でガードして璃凛は後ろに飛びすさった。
「流石ですね。先輩」
「そっちもな」
 どちらにも笑顔が浮かんでいる。
「前回の炊き出し、参加しなくてすいません」
 少し前にそう頭を下げた彼女は一平に勝負を持ちかけていた。
 一平の持つ壺は体育委員会室の屋根裏で既にゴミ入れになっていることを確認している。それを手に入れる為に。彼女は勝負に出たのだ。
 正確には勝負して下さいと頼んだ。そして一平は術なしの本組手でその挑戦を受けたのだった。
「こんな事、滅多に出来ないだから、楽しむのも有りだと思うからさ。だから、本気でお願いします!!」
 彼女の頼み通り一平は手加減をしないでくれている。
 結果璃凛はかなり押されていた。
 けれど、諦めない。何度も転がされているのに、彼女は諦めずに立ち上がっていた。
「封印壺は、絶対もらいますからね」
 その強い心と共に放たれた蹴りが方向変換を狙っていた彼を捕えた時、一平は
「よしっ! 参った!」
 そう笑って言ったのだった。

●託された思い
 そして、課題提出日の翌日。
 一年寮生達は講義室へと集められた。
 寮長を待つ間、彼らは自分達が挑んだ相手との戦いに思いを馳せていた。
「とにかく、土井委員長は論理と数学と心理学に長けていらっしゃいましたの」

『数字ゲームです。1〜3を交互に言い合い16を取った方が負けです。よろしいですか?』
『いいよ。じゃあ、僕が先手を貰っていいかな?』
『えっ? あの、それは…』

「こちらの手の内やタネを読まれている上に二手三手以上先に手を打っていて、もう本当に大変で。どうやったら一体じゃんけん十連勝なんかできるんだか…」
「聞けば学科の試験では委員長はトップを外したことがないそうですわ」
 図書委員長に挑んだサラとカミールがため息をつけば
「でも、保健委員会も大変だったよ」
「丸一日、山のような薬草整理と包帯作りをさせられましたからね」
 と保健委員長にこき使われたクラリッサも顔を見合わせ肩を竦めた。
「でも、薬草籠の一番下に正しい壷はどれか書いてある札が入ってたんですよね」
「包帯の中にも」
 苦労話に花が咲く。
「俺なんか白雪先輩に術勝負をしかけたら、遠慮なくぼっこぼっこにされたんだから」
 涙目で訴える清心に笑いかけた彼方は、だが
「でも…先輩方は元から壺をくれるつもりではあったのかもしれませんね」
 ぽつり、そう呟いた。
「うん。なんかそんな感じ」
 璃凛は自分と体育委員長の勝負を思い出しながら、頷いた。
 自分の能力には少なからず自信があった。
 けれどやはり、まだ先輩達には叶わないと感じた。色々な意味で。
 でも、最後には皆、壷をくれた。

『じゃあ、最後の問題だ。ここに8枚の硬貨がある。これを1枚から3枚ずつ取って行く。最後の硬貨を取った方が負けだ。先手を譲ろう。何枚とればいい?』

『最後まで諦めず頑張ればいいことがあると思うよ』

『よし、参った!』

 聞けば料理対決を挑んだ彼方も、無謀にも真っ向勝負を主席に挑んでボコ負けした清心も壷を貰えたらしい。
 そこにきっとこの課題の意味があるのだろう。

 がらりと扉が開いて寮長各務紫郎が部屋に入ってきた。
 演台の上に立った寮長は笑って彼らの方を向く。そして
「皆さん、良く頑張りました。全員合格です」
 そう告げたのだった。
「今回の課題の品物は『封印壺』でした。アヤカシや瘴気を封じる陰陽寮独自の品で、封じられたアヤカシや瘴気は符の作成や式の生成、実験などに使用します。とはいっても、普段は多少術力を秘めている以外は特段変わったところがない壺で、特別な術を使用した時のみ、瘴気を封じることができるようになります。知識の無い者が見分けるのは簡単ではありませんが、今年は全員が正しい壺を手に入れたようですね」
 念の為一年生は品物を入手してからカミールを中心に、全部の品を注意深く調べてから提出した。
「絶対に、偽物は誰にも掴ませない!」
 カミールの決意は無事実ったようだ。
「真実や、探し物は常に解る所にある訳では無い。探し、手に入れる為には努力が必要なのだと言う事を忘れないで下さい。以上!」
 寮長の言葉に背筋を伸ばした彼らは真っ直ぐにお辞儀をした。
 寮長と、先輩達へ心からの感謝をこめて。

 後日三年生達は、今回の課題において、判定が甘かったのではないかと寮長から軽い注意を受けたらしい。
 三年生達はそれを謝罪し、でも後悔はしていないと答えた。
「一生懸命頑張る彼らの努力と資質は、ちゃんと見届けましたから…」

 そんな言葉と想いを、一年生達が知ることはない。