【負炎】背無の戦場
マスター名:雪本店主
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/10/27 19:58



■オープニング本文

 緑茂の里の東は、壮絶なる血戦場と化した。
「これより後は無いと思えっ! 突撃だっ!!」
 兵達の雄叫びが轟き、人駆ける振動を大地が伝える。
「うぉぉぉぁぁぁ!!!」
「ギェェァァァァ!!!」
 辺りは人とアヤカシが隙間無く埋め尽くし、空いた隙から血煙と瘴気が流れ込むようだ。
「ぐ‥‥こんなっ‥‥!」
 断末魔すら許されず、一人、また一人と地面に転がる兵達。無情にも、その身はアヤカシに踏み抜かれるか、食われるか。いずれにしても跡形さえ、ろくに残らない。
「くたばれ化け物!」
 しかし、それはアヤカシとて同じこと。甲冑姿の男が罵声と共に鬼を蹴倒し、刃を当てて一気に引き抜いた。鬼の醜悪な体躯が霧散していく。
「くそっ! もう無理だ!」
 倒れ行く仲間たちの惨状に耐え切れず、兵の一人が叫んだ。それでも必死に刀を握り、鬼を打つ手は止めない。止めれば己の命が無くなる。
「退くな! 退けば里の民が死ぬ!」
 叫んだ男は目の前の鬼に体当たりを仕掛け、鬼もろとも地面に倒れこんだ。
「うぉぉぉぉ!!」
「ゥォォァァァァ!」
 揉み合いの末、男が鬼の体に刀を突き立てた。どす黒い瘴気が刃に沿って吹き上がる。
「里が死ねば皆死ぬ。ならば‥‥最後まで戦ってやる!」
 立ち上がった男の片腕は、鬼に打たれたのか力なく垂れ下がっている。
「戦い抜いて死んでやる!!」
 無事な腕で刀を構え、男はなおも鬼達へと挑みかかっていった。


■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
百舌鳥(ia0429
26歳・男・サ
鬼島貫徹(ia0694
45歳・男・サ
富士峰 那須鷹(ia0795
20歳・女・サ
孔成(ia0863
17歳・男・陰
辟田 脩次朗(ia2472
15歳・男・志
伊集院 玄眞(ia3303
75歳・男・志
真珠朗(ia3553
27歳・男・泰
銀丞(ia4168
23歳・女・サ
フェルル=グライフ(ia4572
19歳・女・騎


■リプレイ本文

●背に恐れ無し
 戦場の風は、そこに立つ命を削り取るかのように、開拓者達の間を吹き抜けていく。
「地形に有利不利は無く、純粋なまでの力勝負といったところか」
 死の気配漂う戦場を前に、伊集院 玄眞(ia3303)は周囲に視線を巡らせていた。土煙に霞む中、兵士達の亡骸がそこかしこに打ち捨てられている。
「されど単純なればこそより難しい。戦いとはそれ程奥が深いものである‥‥ともあれ、アヤカシ共にこれ以上の蹂躙を許す訳にはいかんな」
 玄眞の視線が険しくなる。湧き上がるように前方から迫るアヤカシの群れを、その瞳が捉えていた。
「大きな戦です‥‥少しでも皆さんが戦い易いよう、私も微力を尽くしましょう‥‥」
 柊沢 霞澄(ia0067)が控えめに告げた。胸の前に組んだ手には、精霊の小刀が握られている。
「んじゃま‥‥ひとまず、いきますか。前だけをみさせてもらうわ」
「下級のアヤカシ風情が、群れた程度で粋がるなよ」
 先陣を切るは百舌鳥(ia0429)と鬼島貫徹(ia0694)、二人の男である。百舌鳥は双刀、貫徹は巨大な戦斧を構え、ゆっくりと歩き出した。
「御武運を‥‥必ず、生きて帰りましょう」
 二人の背に孔成(ia0863)が祈願を込めて呟く。孔成は合戦の傷が癒えきっていない。体中に巻かれた包帯が、それを物語っている。それでも、孔成は皆と戦うことを選んだ。
「敵に背中は見せぬ」
 孔成の横に並び、富士峰 那須鷹(ia0795)が不敵に微笑んだ。
「だからこそ皆で陣を組むのじゃ、来るなら来い」
 弓を手にした那須鷹の目が鋭く光る。獲物を狙う鷹のように、素早い足取りで斜線の確保に動き出した。
「全員がお互いを思い、自分の為すべきことを為せば、必ず勝てます!」
 声高く仲間を鼓舞するのはフェルル=グライフ(ia4572)である。
「誰1人欠けることなくこの戦場を生き抜きますよ!」
 フェルルがまっすぐに敵を見据える。その眼差しの先を追って、孔成もまた、フェルルの言葉を心に刻み込む。
「孔成さん」
 硬い表情の孔成に辟田 脩次朗(ia2472)は気をほぐすかのように声を掛けた。
「俺の役割は孔成さんの護衛だ。体を張ってでも守るから、安心してください」
「よろしく‥‥お願いします‥‥」
 脩次朗の気遣いに、孔成は素直に礼を示した。
「『誰か』のため。『何か』のため。かっちょいいじゃないですか。あたしはねぇ、そういう読み本の英雄みたいな人が大好きなんですよ」
 二人のそんなやり取りに、真珠朗(ia3553)がにんまりと微笑んだ。
「まぁ‥‥おぜぜはもっと好きって話でして。一服前の一仕事といきますかねぇ」
 軽い仕草で弓を肩に乗せ、自分の持ち場へと向かう。
「あー‥‥前にも似たような仕事やったな」
 気だるげに呟いたのは銀丞(ia4168)だ。
「でも今回のは逃げられないのが良いな」
 銀丞の言葉は、恐れも気負いも感じさせない。むしろ楽しげですらある。銀丞にとっての戦とは――命を掛けるということは、そういうものであるらしい。
「皆さんに精霊のご加護を‥‥」
 仲間達の背に向け、霞澄が加護を祈る。開拓者達は、後衛を中に守る四角陣でアヤカシを迎え撃つ構えだ。
「それじゃあ一つ、殺戮といきましょう」
「まずは挨拶代わりじゃ」
 真珠朗と那須鷹が、先手を取って弓で射掛け、アヤカシを昏倒させる。アヤカシは適度に開いた形で開拓者達に迫り、そのまま包囲しつつ混戦へと持ち込む動きである。
「ククク、現れおったか鬼共。精々華々しく散って、俺の糧となれいッ!」
 鬼の群れと開拓者の陣が触れた瞬間、貫徹のスマッシュが一匹目の鬼を真っ二つに破断する。アヤカシの士気を奪わんと、貫徹は烈火の如く大斧『鬼殺し』を振るう。次々と鬼を蹴散らす様は、その名の通りの凄まじさである。
「なかなか早いな。せいぜい楽しませてくれよ」
 獲物を弓から太刀に持ち替え、銀丞が接近してきた鬼の一撃を受け止める。アヤカシの包囲は意外に早く、戦場は一気に混戦の様相を見せ始めた。

●背に敵無し
 最前線の二人、貫徹と百舌鳥はあっという間に四体の敵に囲まれていた。鬼に加えて、刃折れの刀を手にした骨鎧が二人を囲み、次々と襲い掛かる。
「――その程度で‥‥調子に乗るでないわッ!」
 斧の柄で骨鎧の刀を受け止め、貫徹が反撃に転じる。重量を活かした胴薙ぎで、骨鎧が吹き飛んだ。
「百舌鳥!」
「ぶっとんでもらうぜぇ? 弾けろや!!」
 強力で足を強化し、体ごとぶつかる様に百舌鳥が飛び掛る。宙を舞う骨鎧を逆方向の横薙ぎで一閃すると、鎧を残して瘴気が霧散していく。
「遠慮はせずによいぞ? こちらも遠慮はせぬからのぅ」
 鬼の棍撃を紙一重で交わし、那須鷹がさも楽しげに刃を傾ける。低い姿勢ですり抜け様に鬼の足を切り、前を向いた刀身を、勢いのまま目前の骨鎧に突き立てた。
「わしらを相手に選んだは間違いぞ!!」
 骨の隙間に差し込んだ長巻を力任せに薙ぎ、体重を乗せて地面に叩き付ける。一呼吸置いて、那須鷹の視線が接近する新たな骨鎧を捕らえた。
「‥‥くくく、骨に耳などありはせんかったか‥‥ちと無粋であったか」
 色違いの双眸が輝き、敵前にして那須鷹は修羅の笑みを浮かべた。
「いくぞ!!」
 戦神と化した那須鷹の隣では、真珠朗が淡々と敵を仕留めていく。
「面倒なのは好きじゃないんで。まぁ、勘弁してくださいよ」
 七節棍のリーチを活かし、敵の間合いの外から確実に骨法起承拳で潰していく。ある意味ではお手本のような確固撃破の戦い方である。また、近くの仲間の打ち漏らしを狙うことで、相手の手数を確実に減らしていっている。
「おっと、失礼」
 那須鷹の背後を狙う骨鎧の足を狙い、真珠朗が骨法起承拳を見舞った。倒れた骨鎧に那須鷹が止めの一撃を叩き付ける。
「真珠朗殿、やりおるの」
「いえいえ、おこぼれを拾っているだけですので」
 那須鷹のほめ言葉にも食えぬ態度である。
「左方から鬼の群れです‥‥数は‥‥五体!」
「これでは休む暇も無いな」
「任せろ」
 孔成の索敵の声に、玄眞と銀丞が応じる。二人とも複数の敵に囲まれてはいるものの、しっかりと陣を維持し踏みとどまっている。だが、体には少しずつ傷が増え始めていた。
「手を休ませないように増援が現れる‥‥相手は消耗を待っているようですね‥‥」
「無理はなさらず‥‥」
 孔成と霞澄は四方全てに注意を払い、それぞれに役目をこなしている。孔成は敵の動きを観察、霞澄は味方の状態や怪我の様子に注視し、みなの回復に務めている。敵の数を考えれば、回復に使う練力も無駄には出来ない。
「脩次朗さん、左です‥‥!」
 孔成は傷に響くのも構わずに叫び、同時に脩次朗と対峙している鬼目掛けて、斬撃符を放った。
「ここは通しません!」
「もう‥‥一発‥‥っ」
 脩次朗が新手の鬼を遮り、その一撃を篭手払で制する。残された鬼には、孔成が二撃目の斬撃符で追撃を試みる。
「孔成さん、下がってください!」
 フェルルが叫びつつ脩次朗と並んで鬼の行く手を遮った。棍棒の振り下ろしを受け流し、仕返しとばかりに上段からの振り下ろしを食らわせ、鬼の体を縦に割る。
「死なない‥‥皆、生きて戻らなきゃ駄目なんだっ」
 孔成は式の放った先を睨み据え、声を放った。その想いが通じたのか、二撃目の式に刻まれた鬼は、その身を崩していく。
「良い気合だ。みな、必ず好機は訪れる! それまで油断されるな!」
 鼓舞の心を皆に広めんと、玄眞もまた声を張り上げた。その激に押されたのか、開拓者達は徐々に数の劣勢を覆し始める。
「敵の動きから見て、指揮系統が居るはずです‥‥包囲が緩んできてますから、一気に攻めてくるかも知れない‥‥」
「増援か、どれ」
 孔成が戦況を伝えると、玄眞が心眼で周囲を探る。
「む、まずい。何かに囲まれておるぞ」
 玄眞が差したのは戦場に転がる亡骸の鎧である。いち早く真珠朗が反応し、骨法起承拳で先手を打つと、ダメージを受けた骨鎧が、姿を現しすぐに瘴気に還っていく。それを合図に、次々と周囲の鎧が骨鎧に変じていった。
「前方から、鬼の群れ‥‥陣を組んできています‥‥!」
 増援の鬼の中に、一際大きな姿が見える。
「精霊さん‥‥皆さんの怪我を癒して‥‥」
 戦場の激化を見て取り、霞澄が傷の深い者に、神風恩寵で癒しを施す。
「倒れるまで無理をしても何にもなりません‥‥もし、どうしても駄目だと感じたら‥‥退きましょう」
 癒しの術を終えると、迷いながらも、霞澄は仲間に想いを伝えた。みなの視線は、自然と戦況を見てきた孔成に集まる。
「攻守の機、判断をお任せします。無理は禁物、ですがこちらから攻撃するとなれば全力で駆け抜けますっ」
 フェルルが孔成を押すように、笑顔を見せる。その励ましに頷き返し、孔成は答えた。
「‥‥行けます。この戦力なら、一気に押せるはずです」
 孔成の力強い言葉が開拓者達の耳に届く。
「たかだか二十余体、討ち滅ぼせないようではサムライ足る資格無し!」
 包囲を突破すべく、前方の骨鎧に貫徹が挑みかかる。
「ま、やるだけやってみようや」
「わしらの力、思い知らせてくれようぞ」
 続いて、百舌鳥と那須鷹、二羽の翼が貫徹の背を追って骨鎧に切りかかった。
「‥‥突撃です!」
 迷いを断ち切るように孔成が告げる。フェルルが脩次朗に視線を送り、応じた脩次朗が孔成を助けて先の前衛に続く。
「絶対に、皆で生きて帰りましょう!」
 フェルルは殿を守るように二人に従う形で歩を踏み出す。
 矢の陣が、戦場を貫かんと動き出した。

●背に迷い無し
 突撃は鋭き矢の如く、狙うは敵の親玉である。
『オシツブセ‥‥ヒトリタリトモ、イカシテカエスナ!』
 地獄の底より響いたかのような声が、戦場に轟く。その声を発したのは、鎧を纏った大鬼であった。
「どけどけどけぇっ!」
 強力で体を強化し、百舌鳥が鬼を払いながら突破口を開く。変則的な二刀の動きで接した敵を右に左に打ち払っていく。
「雑魚は引っ込んでおれ!」
 那須鷹もまた、長巻で鬼を側面から切り払い、血路を開く。そうして二人が拓いた道に貫徹が戦斧をねじ込み、重い一撃で正面をこじ開けていく。
「邪魔を‥‥するな!」
「せいっ!」
 先陣が払った鬼を、銀丞と玄眞の刀が断つ。銀丞は太刀を左に構えて走りこみ、すり抜ける瞬間、滑るように胴を切り捨て、さらには正面の鬼に直閃の一撃を閃かせた。
「終わりだ」
 直閃を繰り出した勢いに乗せ、強力で腕を強化し鬼の首をがっちりと掴む。指が食い込むほどに捉えたまま、鬼が消滅するまで、力任せに刀をかき回した。
「信念の刃を以ってすれば、貫けぬモノなど無い! 老いぼれの身とはいえ、まだ若い者には負けられんよ!」
 炎魂を纏う玄眞の刀が、二体の鬼を立て続けに無へと返す。
「後ろは通しません!」
 力を振り絞り、フェルルが陣の後ろに回り込んだ鬼を必殺の一撃で両断する。
「何匹来ようとここは死守してみせます」
 脩次朗は複数の鬼と骨鎧に囲まれつつも、防盾術と篭手払の守り、そして振り絞った気力で耐えしのぐ。その隙に、フェルルと孔成が少しずつ敵の数を削っていった。
「とらえたぜ!」
『キエウセロ』
 ついに百舌鳥が鎧鬼の正面を切り開いた。同時に鎧鬼の奇襲が百舌鳥を穿ち、辛くも十字組受で受け止める。珠刀で受けた刀を木刀を交差して支えるが、凄まじい圧力で百舌鳥の体が押し潰されそうになる。
「‥‥っ‥‥何、上等こいて殴ってんだコラ」
「下がれ、百舌鳥!」
 鎧鬼の刀を那須鷹が長巻の切り上げで弾き、その間を逃さず百舌鳥が地面を転がる。
『チョコマカト、メザワリナ』
「その程度で付け上がるな!」
 憤怒と共に振り下ろした貫徹の戦斧を、鎧鬼が刀で受け止めた。力は互角、武器を合わせたまま、お互いに一歩も引かない。
「倍返ししてやんよ!」
「百舌鳥‥‥この貸しは高いぞ!」
 百舌鳥と那須鷹が、再び鎧鬼に仕掛ける。三人の波状攻撃に、鎧鬼の体が勢いを止めた。
『グヌッ‥‥オノレェェェ!』
 死角を突いた真珠朗の骨法起承拳が、鎧鬼の横面を叩く。
「こいつはサービスってヤツで他意はないんですが。此処で退きゃあ、報酬もへったくれも無いって話でしょうしねぇ。命くらいはかけますよ」
 掴みどころのない真珠朗の牽制に、鎧鬼が怒りを顕にする。その隙を百舌鳥が逃すはずも無く、腕を狙った二刀の連撃が、鎧鬼から刀を奪った。
「ダメだぜ、二段構えぐらいよまなきゃなぁ?」
 懐へ潜り込み、足を狙う那須鷹。渾身の一刀が、鎧鬼の支えを崩す。
「鬼島の旦那、任せたぞ!」
「地獄で悔いるが良いわ!!」
 打ち落とされた鬼殺しの刃が、倒れた鬼の胸を鎧ごと打ち据え、鎧鬼の断末魔が響き渡る。やがて、断末魔の途切れと共に、鎧鬼の体が瘴気の塵と化し、開拓者達の勝利が確たる物となった。

●背に傷は無し
 鎧鬼の消滅で、アヤカシ達は統制を失った。残りの鬼と骨鎧を滞りなく倒し、十人の開拓者は戦果の報告に里へと帰還した。
「戦はまだ終わりでは無い。だが、今はこの勝利を祝おうではないか」
 玄眞が満足気な表情で呟く。
「皆さん‥‥手当てを‥‥」
 霞澄は包帯と薬草を手に、各自の怪我を見て回っている。だが、手当てを辞して銀丞は一人歩き出した。
「どちらへ‥‥?」
「生き延びたからな。寝床でも探すさ」
 天儀酒を片手に、銀丞はふらりと姿を消した。
「ありがとう‥‥ございました」
 孔成は脩次朗の前に座り、礼の言葉を述べた。脩次朗は持参したヴォトカや薬草で傷の手当をしながら、穏やかに言葉を返す。
「孔成さんが生きてここに居るのは、皆さんと、他でもない孔成さん自身の力ですよ」
「その通りです! 皆が力を合わせれば、出来ないことなどありはしません!」
 脩次朗の横から、ずずいと顔を出してフェルルが同意した。
「さてと、俺は酒でも探してくるかね」
「百舌鳥‥‥戦場での貸し、忘れてはおらぬじゃろうな?」
 去りかけた百舌鳥の肩を、那須鷹が人の悪そうな笑みを浮かべて捕まえた。
「ああ? 何言ってやがる?」
「貸し二つじゃぞ」
「おい、二つってなんだ!」
 言い合う二人の背に向けて、貫徹が言い放った。
「大たわけが。二人の貸しは、全てわしへの貸しに決まっておろう」
 そんなやり取りを後にして、真珠朗が一人、呟く。
「まぁ、あたしは貸し借りなんて拘らない主義でして。きっちり報酬をいただければね」
 背無の戦場から、欠けることなく開拓者達は戻ってきた。今言うべきは、それだけで十分であろう。