影双紙
マスター名:雪本店主
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/09/16 00:38



■オープニング本文

 天下往来、ここは神楽の都に程近い、武天の安神という街にある大きな通りである。今日も数多の足が通りの上を行ったり来たり、さながら振り子のようだ。
「参ったなぁ‥‥弱ったなぁ‥‥」
 そんな通りの一角で、ひっそりと看板を立てている小さな貸本屋があった。陽光の立ち入りを極力嫌った店内から、細々とした呟き声が聞こえてくる。まるで幽世から洩れ出ているかのような苦しげな声だ。
「困ったなぁ‥‥どうしようかなぁ‥‥もういっそ、お店はたたもうかなぁ‥‥でもなぁ‥‥」
 薄暗い店の奥に居るのは、店主の若い青年だ。店の雰囲気に負けじと、灰色にくすんだ気色を背中に纏わり付かせ、見るからに薄幸そうである。
「おう、邪魔するぜ」
 そう言って店に入ってきたのは、強面に鋭い目の男である。腰には十手を差し、油断なく辺りに視線を走らせている。
「だだ、旦那‥‥またなにか用ですかい? もう知ってることは全部話しましたし、僕は人をコ‥‥こ、ここ殺したりなんて、出来やしませんよ」
 青年が怯えたように告げると、男は鼻を鳴らして青年を睨みつけた。
「おめぇが何言おうが、この店の客がもう三人も死んでるのは間違いねぇんだ。しょっぴく理由なんて、それで十分なんだよ」
「そんな‥‥殺生な‥‥」
 青年の体がぶるぶると震えだす。男は苛立ちを隠そうともせず、青年に向けて言い放った。
「‥‥いいか、覚えとけ。どのみち捕まるんだったら早めに言っちまったほうが身のためだ。気が変わったらすぐに俺のとこへ言いに来な」
 男は威嚇するように再び鼻を鳴らすと、踵を返して店を後にした。男が店を出る瞬間、外の眩しい光が男の影を色濃く際立たせる。
「忌々しい事件だ。犯人は分からねぇ上に、死体は血を抜かれてやがる‥‥アヤカシにでも襲われたってのか、馬鹿馬鹿しい」
 男は吐き捨てるように呟き、往来へと戻っていった。

 翌朝、十手持ちの男が一人、川原に倒れ死んでいるのが見つかった。全身の血を失っていた。そして、その日の内に貸本屋の店主から開拓者ギルドへ、犯人捜索の依頼が出されることとなる。


■参加者一覧
美空(ia0225
13歳・女・砂
桔梗(ia0439
18歳・男・巫
皇 りょう(ia1673
24歳・女・志
レフィ・サージェス(ia2142
21歳・女・サ
玲瓏(ia2735
18歳・女・陰
銀丞(ia4168
23歳・女・サ
シエラ・ダグラス(ia4429
20歳・女・砂
柳・六華(ia4968
17歳・男・陰


■リプレイ本文

●立影
 降り注ぐ真昼の陽光が、開拓者達を眩しく包む。八人は、依頼主である貸本屋店主のもとへと向かっていた。
「人の仕業かアヤカシの仕業か、なんとも面妖な話なのであります」
 小さな体に大きな兜を乗せ、美空(ia0225)は一行の先頭を歩いていた。
「草双紙を染める鮮血、か。確かに面妖な。刀の通じる相手だと良いのだが」
 美空に並び思案気に腕組みしているのは、皇 りょう(ia1673)だ。二人共に不可思議といった表情をうかがわせている。
「謎解きがメインのお仕事の様ですね。この様な御話は、本国のご主人様もお喜びになるかと‥‥手際よく解決しとう御座いますね」
 二人に続いて姿勢良く歩いていたレフィ・サージェス(ia2142)が、穏やかに微笑んだ。
「物語めいた事件だけれど、きちんと、結んで終わらないと」
 桔梗(ia0439)が淡々とした声音で呟く。その表情は感情をあまり表に映さないが、瞳には真っ直ぐな意思が垣間見える。
「人であれアヤカシであれ、この様な残虐な行い‥‥いつまでも捨て置くわけには」
 桔梗とは対称的に、シエラ・ダグラス(ia4429)は所作の端々に決意を漲らせている。その後ろで、依頼の写しに目を通しながら、柳・六華(ia4968)は目を細めた。
「ふーん。全身の血を、ねえ」
「可能性としては、人かアヤカシか、あるいは人が操った式かも?」
 玲瓏(ia2735)が陰陽師らしい推論を述べると、六華は口端を引いて微笑んだ。
「人間がやったにしては手が込みすぎてるっていうか手間がかかりすぎる気がするんだけれど。とはいえ、アヤカシにしても回りくどいんだよねえ‥‥式の仕業なら、どんな風に襲うのか見てみたいなあ」
 穏やかな笑みを貼り付けたまま、六華が冗談とも本気とも取れる言葉を口走る。
「なんにせよ、調べれば何かしら出てくるだろうさ」
 咥えた煙管を揺らし、銀丞(ia4168)が気だるげに言葉を洩らす。
「さてさて、真相はいかに、って感じかな」
 六華は心躍らせるかのように笑みを深めた。

 貸本屋へ辿りついた一行は、簡単な挨拶と事情聴取に乗り出した。
「この度の事件解決に派遣されました、レフィと申します。店主様には、ご協力の上、心安らかに事件解決をお待ち下さい」
「‥‥わ‥‥わざわざ、ど、どーも‥‥」
 スカートを摘んでお辞儀するレフィに店主が言葉を返す。続けて、各自が常連客の情報や借りた本の内容など、順番に質問を重ねていく。
「これが被害者が借りた本か、特に変わった様子も無いが」
 銀丞が見ているのは子供向けの絵本である。他にも何冊かを手に取り、ペラペラと捲っていく。
「子供二人は同じ本を借りてるけど、大人の被害者は違う本を借りたんだね」
 桔梗が見ているのは被害者が借りたものとは別の、アヤカシの言い伝えについて書かれた本だ。店主によれば、とある創作作家の御伽噺が書かれているらしい。
「これかな‥‥『うしろがみ』」
 開いた箇所には、背後からこっそり近づいて、人の血を吸うアヤカシの話が載っていた。
「しっかし、幸薄そうというか、なんだか暗い雰囲気の貸本屋だね。あんまり暗くしてると、変なモノでも住み着いちゃいそうだ」
 六華がぽろりと洩らした言葉に、本を調べていた美空の動きが固まる。
「被害者は夜に襲われたみたいだし、案外、犯人は暗い本屋のどこかに潜んでたりして」
「どんな犯人であろうとも、解決してみせるであります。それが巫女の務めでありますから」
 六華が囁いた妄言に、思わず美空が反応する。だが発言とは裏腹に、美空の手は隣で棚を漁っている玲瓏の服をしっかりと握っていた。
「この店主さんが犯人ってわけでもなさそうだし、ここで連鎖を断ち切るためにも早く元凶をつかまえましょう」
 玲瓏が奥の店主を横目に見つつ、声音を落とした。
「店主に不審は無かったな。だが用心はしておくことだ」
 手にした本を棚に戻し、銀丞が告げた。
「では各々、被害者の聞き込みへ向かうとしよう。あまり時間も無いであろうからな」
 りょうが次の情報収集へと皆をうながす。
「志士の名に賭けて、犯人は必ず挙げてみせます」
 その瞳に志士の誇りを宿らせ、シエラが力強く宣言した。

●影廻
 情報収集に散った開拓者達だが、美空と玲瓏は引き続き貸本屋の調査を行っていた。店の戸は開いているが、表には玲瓏の申し出により、店の休みを伝える張り紙がされている。
「ふう、さすがに量が多いわね」
 本から目線を上げ、玲瓏が息を吐いた。二人は店主に、被害者や店主自身について細かな質問をした後、怪しげな本を片端から調べていた。美空は二人の子供が借りたという本を、中に飛び込まんという近距離で覗き込んでいる。
(「外の様子はどうかな?」)
 玲瓏が人魂で雀を喚びだし、店の外を窺う。特に怪しい人影は無いようだ。気合を入れなおし、玲瓏は新たな棚へと場所を移した。すると、慌てて美空も後に続く。
「美空の君、こっちは私が調べるけど‥‥?」
 そんな美空の様子を玲瓏が不思議そうに眺めている。美空はじっと玲瓏を見てから、小さな声で呟いた。
「だって怖いじゃないですかなのであります」
 二人の間に沈黙が降りる。美空が兜に隠れんばかりの勢いで小さくなりながら、さらに続けた。
「もし犯人がストーカーとかで、ここで被害者さんを物色していたとするなら‥‥」
 尻すぼみに美空の言葉が消えると、代わりに玲瓏が静かに語り始めた。
「‥‥そうだね。古より書には魔物が潜むと言うし、人の知を食らわんと今もその本から狙っているのかも」
 何かに憑かれたかのように語る玲瓏の前で、どさり、と美空の手から本が落ちた。玲瓏の表情が「しまった」という形に変化する。
「ごめんなさい、つい語りに熱が‥‥もしアヤカシなら危険だし、一緒に調べましょうか」
 玲瓏が冷や汗交じりの笑みと共に手を差し出す。すっかり凍り付いた美空が、玲瓏の手をしっかりと握り返した。こうして、二人は引き続き別の棚へと調査の手を伸ばしていく。だが、背後から自らの足元に伸びる影に、二人は気付かなかった。

 りょうと銀丞の二人は、まずは唯一の大人である被害者の家を訪ねた。そこで二人を出迎えたのは、被害者の妻である。
「ふむ、首に小さな穴があったと」
「はい‥‥」
 その女性は、りょうの質問にどこか浮世を離れた目で答えた。
(「これではまるで、生きながらにして‥‥哀れな」)
 一しきり聞き終え、りょう達は礼を述べてその場を立ち去った。去り際、りょうが「犯人は必ず捕まえる」と告げると、妻女の感情を失った顔に一筋の涙が落ちた。
 続いて二人は、十手持ちが出入りしていた番屋へと足を運んだ。
「へぇ、あんたらが店主が雇った開拓者かい」
 銀丞が話を持ち出すと、番屋の男は不機嫌そうな態度を隠そうともせずに応じた。
「犯人は店主で決まりだ。あんたらも無駄足、とっとと帰んな」
「ほう、随分な物言いじゃないか」
 番屋の男の不遜な態度に、銀丞が剣呑な口調で言い放った。
「犯人が誰かはともかく、アヤカシ絡みならばこちらの領分だ。もっとも、これ以上の死人が出てもいいというなら、話は別だが」
「いけ好かねぇ物言いだな‥‥ちっ、何が聞きたいんだ」
「いけ好かないのはお互い様だな。早速だが‥‥」
 こうして、銀丞は死んだ十手持ちの情報を聞き出していった。
(「果たして何か掴めるであろうか」)
 りょうは、話を聞く銀丞を遠巻きに眺めながら、おもむろに心眼で気配を探る。
(「‥‥!」)
 番屋の人間や銀丞の気配とは別に、明らかにあってはならない気配を心眼が捉える。やがて、話を終えて戻ってきた銀丞に、りょうが静かに話しかけた。
「銀丞殿、目線だけであの御仁の足元を見てもらえまいか」
 緊張したりょうの様子に、いぶかしみながらも銀丞が、先ほどまで話していた男の足元を見た。
「影に紛れて何かが居る。恐らくは」
 煙管を齧りながら、銀丞が低く呟いた。
「ここでやるか」
「取り逃がせば厄介なことになるやも知れぬし、出来れば囲んで一気に片付けてしまいたいところであるが」
「なら、私が貸本屋へ伝えに走ろう」
「お願い致す」
 阿吽のやり取りを経て、銀丞が何事も無いかのように番屋の入り口へと向かう。
「要らぬ世話だが、無理はするなよ」
「ふふ、お気遣い痛み入る」
 すれ違いざまに言い交わし、銀丞は貸本屋へと急いだ。

 桔梗とレフィは、貸本屋へと戻る道すがら、事情を聞いた子供の話をしていた。
「寝ている間に音も無くというのは、奇妙ですね。そして首の小さな穴‥‥」
「うん」
 レフィが聞いた話を反芻している。桔梗は時折、相槌を挟むように頷いていた。
「貸本屋にも頻繁に出入りして、店主様とも親しかったようですし」
「うん」
「目撃者は無く、現場には血の跡も無く、子供達に聞いた当日の被害者の様子も、特におかしくはなかったということでした」
「うん」
「‥‥」
「うん」
 心ここにあらずといった桔梗に、レフィが優しく問いかけた。
「何か心にかかる事がお在りのようですね」
「うん‥‥亡くなった子の魂が、救われると良いな‥‥あの子の母親も」
 レフィは桔梗が訪問先で捧げていた、鎮魂の祝詞を思い返す。
「そうですね」
「うん」
 二人の会話はそこで止まった。しばらく後に静寂を破ったのは、同じく亡くなった子供の家を訪ねたシエラと六華との遭遇であった。
「そっちも犯人に繋がる情報は無し、か。調べれば調べるほど、アヤカシな気がしてくるねえ」
 四人が貸本屋に着くと、店の表で銀丞と美空、玲瓏の三人が緊張した面持ちで出迎えた。銀丞が番屋での出来事を手短に伝えると、後から来た四人にも張り詰めた空気が流れ込んでくる。
「アヤカシの可能性が在るなら、試してみる」
 桔梗は目を閉じ、瘴索結界で周囲の瘴気を捉え始める。やがて、目を開いた桔梗が言葉を発した。
「銀丞、気配は足元からしたんだよね」
「そう聞いている」
「瘴気がある」
 無造作に放られた桔梗の言葉に、一気に緊張が高まる。
「店の中に?」
 玲瓏の問いに桔梗が頭を振った。
「あまり動かない方が良いと思う。美空の足元にあるから」
 その一言が、空気を凍りつかせた。
「二匹目か」
 銀丞の視線が美空の足元を射抜く。落日が近づき、影は長さと濃さを増していた。
「同時に倒してしまいたいわね‥‥二手に分かれて、銀丞の君と柳の君、桔梗の君が番屋へ。それでどうかな?」
 三人が玲瓏に頷き返す。
「あの角を曲がって三十数えたら、戦闘開始にしましょう。それまで我慢できる?」
 問われた美空は、体の震えを隠し微笑んだ。
「信じているでありますよ」

●影切
 黄昏時の通りに、四人の影が伸びる。緊張を帯びた沈黙の中、シエラが数える声が微かに響いていた。
「‥‥二十八、二十九、三十」
 瞬間、シエラが刀を抜き放った。夕焼けが波紋を燃え立たせる。
「姿を現しなさい!」
 シエラが美空の影に刀を突き立てると、黒影がずるりと宙に浮き上がり、美空の首元に迫った。
「なりません」
 間一髪でレフィが斧刃を割り込ませ、甲高い音と共に、球影から伸びた一撃を弾いた。影はそのまま美空の後方へと飛ぶが、玲瓏とシエラが素早く囲み退路を断つ。
「アヤカシの攻撃は、受け持ちますので、皆様は、攻撃に専念おねがいします」
 レフィが一歩前に出た。その後ろでは美空が一生懸命、神楽舞・攻を舞っている。
「がんばるでありますよ。ふぁいとでありますよ」
 恐怖に負けじと舞い続ける姿が、シエラの闘志に火を付ける。
「もう逃げ場はありません。観念しなさい!」
 宣言と同時に距離を詰め、切り込みと見せかけてのフェイントを仕掛ける。だが、影玉は動揺した様子も無く、境界線に瘴気を波打たせながら、真っ直ぐに美空の方へと移動を始めた。
「砕けなさい」
 素早く構え、玲瓏が砕魂符を放つ。直撃を受けた影が、その形を醜悪に歪ませた。
「絡め手が効かないなら、切るのみです!」
 真っ直ぐに駆け、すり抜けざまに刃を振り下ろす。歪んだ影が縦一文字に割れ、風に散らされるように掻き消えた。

 一方、りょうの待つ番屋へと向かった四人は、見回りに出たという、りょうと番屋の男を追っていた。番屋を出た先の角を曲がると、求める姿はすぐ見つかった。
「皇! 今は説明の暇が無い!」
 銀丞が抜刀しながら二人に接近する。桔梗と六華も走りながら術の構えを取った。
「影を狙え!」
「あい分かった!」
 りょうが刀を抜き、隣の男の影に突き立てる。男は喋る暇さえ与えられず、ただ呆気に取られている。
「ア、アヤカシ!?」
 己の影からむくりと浮き上がった黒い球体に、男が呻くような声を上げ、後ずさった。
「下がられよ。これは開拓者で無ければ、どうにもならぬ」
 地面から抜いた刀を下段に構え、りょうが半歩ほど足をずらす。桔梗は居合わせた一般人を背に、銀丞と六華はアヤカシを囲むように立ちふさがった。
「こんなところでシキの実験も兼ねられるとは思わなかったね」
 陰陽符を指に挟み、六華が場の空気にそぐわぬ笑みを浮かべた。
「はっ!」
 りょうが先手とばかり、下段から逆袈裟に切り上げる。だが一瞬速く、影玉は桔梗に狙いを定めて飛び出していた。
「歪め、力の中で」
「まずはこのシキでどうかな」
 桔梗の発動する力の歪みが黒影を捻り上げ、六華の斬撃符が等分に影を切り裂いた。だが、影は原型を崩しつつ、なおも桔梗に迫る。桔梗はその奇怪なアヤカシから目を逸らすことなく待ち構えた。
「止めだ」
 銀丞が強力を発揮し、強化した右腕で片手平突きを繰り出す。鋭い一閃は影を深々と貫いた。やがて、刃に纏わり付いた瘴気が消えると、桔梗の眼前で夕焼け色の輝きを反射する。
「大した度胸だな」
 太刀を収めて、銀丞が桔梗に賞賛を投げる。桔梗はちらと背にした人々を見てから、淡々と告げた。
「俺は、開拓者だから」
「そうか」
 銀丞は煙管を咥えたまま、不敵な笑みを浮かべた。

●秋影
 再び貸本屋に合流した開拓者達は、戦闘の結果と集めた情報のまとめを行っていた。
「今回の件、退治したアヤカシの仕業と見て、まず間違いないであろう」
 りょうが締めくくると、六華が横から口を挟んだ。
「三匹目が居なければ良いけど、ねえ」
 語尾に合わせて美空の方に顔を向ける。美空の手が無意識に掴むものを求め、シエラの袖に辿りついた。
「やれることはやった。それでいいだろうさ」
 銀丞の煙管からは、細く煙が立ち昇っている。
「あのアヤカシ、本に憑依してたのかな」
「私は挿絵が式になると推理してたけれど、挿絵がアヤカシになるとしたら‥‥」
 桔梗と玲瓏は未だ残る謎に思い巡らせている。
「それはそれで、摩訶不思議なお話ですね」
 レフィが優雅に楽しそうに微笑んだ。
「秋の夜長に草双紙というのも風流なものだが‥‥そっと忍び寄る魔の影には注意せねばな」
 りょうの呟きは逢魔時の風に消えていく。秋の冷気が夜を運び、開拓者達の間を吹き抜けていった。