彼と彼女の迷走記
マスター名:
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/12/28 19:16



■オープニング本文

●小さな約束
 んん、と幼い少年が考え込むようにこっちを見ている。いつものように少女は黙って、少年のことを見返した。
 やがて、ぽむっと小さな手が打ち鳴らされる。
「おまえ、髪のばせよ」
「え、長いほうがすき?」
「うーん……そっちのほうが、よびやすそう」
「そ、そうかな?晴ちゃんが言うなら、のばしてみようかな」
 短く切り揃えられた自分の髪に触れて、少女は嬉しそうに笑った。


●そして、現在
 その話を聞かされたとき、父や周りが想像していた反応とは大きく異なっていた。
「そ、その……本当に良いのか?透子」
「もちろんよ、お父さん。私だってこの神社の娘だもの」
 どこか怯えるようにそっと距離を取っている父を見て、透子は不思議そうに首を傾げる。
 髪を切ってくれ―― その一言を告げるのに、どれだけ精神的な労力を費やしたかわからない。
 普段は控えめで儚げな風貌の愛娘。それが幼馴染の晴太に関してのときだけは、斜め上をいくぶっ飛びようで予想すらできない行動力を発揮する。
「晴太のために、それだけ伸ばしたんだろう。それを切るのは……」
 小さな村に、小さな神社―― 透子の家は代々続くこの神社を守る家系にあった。
 そしてどういうわけか、巫女の役割りを担う年頃の娘たちは清めの儀式の際、ばっさりと自分の髪を切り祭壇に奉納する。剃るのではなく、短くする程度のものだが。
 父の言葉に、透子は少しだけ視線を伏せる。背の半分まで伸びたきれいな黒髪が、さらりと揺れた。
 忘れたことはない、まだお互い小さなとき。晴太に言われて伸ばし始めた髪は、手入れを欠かさなかった。この髪に触れていいのは、彼だけ。
 呼ばれると同時に髪を引っ張られてそれが涙が出るくらい痛かったり、髪を掴まれて遊ばれたり……それでも、嬉しかった。伸ばしていてよかったと思った。
 女友達に、女の子の髪で遊ぶなんて!と言われようと、周りの大人が見かねて晴太に注意しようと―― あまりにも透子が平然としているため、今では遠巻きに見守っている状態だった。
 小さい頃に苛められていた透子を、ずっと傍で庇ってくれた晴太。
 ガキ大将と苛められっ子―― それは彼らが共に成長し小さな子供ではなくなり、苛められなくなった今でも、変わらない2人の間にある関係だった。
 そして透子自身もそれを当然のことと受け入れ、そんな彼の傍に、変わらず居られれば良いと。
 だがそれも、変わろうとしていた。
「いいの。もう決めたんだから」
 理由はよくわからない、ただ……今のままではいたくない―― 透子の中の年頃の娘としての感情が、その変化をもたらしたのだ。
 大切に伸ばしてきた髪を、失うことになっても。


●理由
 嘘をつくつもりなんか、なかった。
「どうしたんだよ、おまえ……それ」
 ばっさり切られた髪、黙って見上げてくる透子に呆然とした晴太の少し震えている声。
「誰にやられたんだっ!?」
 今まで見たことがないような真剣な目で、肩が揺さぶられた。その視線に、じわっと目頭が熱くなる。
「都の向こうにある、村の子に……」
 嘘なんて、つきたくなかった。
 でもあまりにも真剣で、怒っていたから。巫女になる儀式の決まりで、なんて種明しはしたくなかった。何となく、嫌だった。
 きっとこの髪が、短くなったから―― 晴ちゃんは、あんなにも怒ったのね。


「村に殴りこみ!?」
 喧騒が溢れている開拓ギルドに、控え目な声が叫んだ。
「そうです、だから止めに行ってくれませんか」
 飛び出していった晴太を見送って、透子が訪れたのはこの場所だった。
 受け付け係りは、その言葉とは反対にやけに冷静な少女に気づき動揺を抑える。
「大丈夫です。晴ちゃんは村へ辿り着けませんから、信じられないくらい方向感覚ないんですよ」
「え、じゃあ依頼というのは……」
それに透子は少しだけ笑って。心を決めたように、告げた。
「……私を、晴ちゃんのところまで連れて行ってください」
 嘘を、ついてしまったから。いつだってまっすぐに育ててきた想い。今も本当は、種明ししたくないのは変わらないけど、でも―― 本当のことを、伝えなければいけないのだ。
「でも……やっぱり髪が短いのは嫌いなのかなぁ」
 小さく小さく呟かれた言葉は、誰に聞かれることもなく喧騒の中へ消えていった。


■参加者一覧
西光寺 百合(ib2997
27歳・女・魔
鹿角 結(ib3119
24歳・女・弓
長谷部 円秀 (ib4529
24歳・男・泰
熾弦(ib7860
17歳・女・巫


■リプレイ本文


 いつもと変わりない賑わいを見せる、神楽の都。
「さて、どこから探そうかしら?晴太さんの行きそうな場所を知らない?」
 西光寺 百合(ib2997)が振り返えると、ぽかんと町並みを眺めていた透子は慌ててはいと頷いた。
「そうですね、晴ちゃ…彼はとにかく真っ直ぐに進めない人で…。真っ直ぐ続く道の手前にある曲り角を進んでいけば、大丈夫だと思います」
 鹿角 結(ib3119)は見慣れた町並みを、遠く見通すように眺める。
 思わずついた嘘に、迷わず飛び出す青年……きっとこの都のどこかを、いや、曲り角という曲り角を曲がって迷走しているのだろう。
「……若いというのはいいもの、ですね、本当に」
「随分と若さ溢れる事をしていますよね」
 微笑ましいというか何と言うか―― 年長者として少しお節介を焼くとしましょうかと苦笑すれば、同意した長谷部 円秀(ib4529)も、もうすぐ聖夜ですからねと返す。
「思わず飛び出すぐらいに必死なのなら、鬼気迫る表情で周りの人の印象にも残っていそうね」
 追いかけるのは、そう難しくはないかもしれないと熾弦(ib7860)が頷いた。
 晴太の動向を初めから追うために入口に立っていた一行は、とりあえず右の曲がり角を曲がって探索を始める。
 どこか不安そうに周りを見渡していた透子が反応したのは、角を曲がったすぐの飲食店だった。
「……はっ。晴ちゃんの空気を感じます!」
「え、空気って……と、透子さん?」
 あっという間に店の中へと駆けこんで行く透子を、慌てて百合が追っていく。
「……なるほど、何だかやり取りが見えるようだわ」
 あんな調子で勢いのある行動をお互いのためにしていたら、そりゃあ誤解も生まれるに違いない。まるで晴太が飛び出していったときの2人の姿が見えるようで、熾弦は苦笑して肩を竦めた。
「若さ溢れているのは彼女も同じでしたか」
 しみじみと円秀が言ったとき、かくり肩を落とした透子とそれに続いて百合が出てくる。
「確かに晴太さん来たみたいだけど、かなり前に出ていったらしいの」
 格好が格好だっただけに必死な形相も相まって、初めはどこかタチの悪いゴロツキだと思ったらしい。だが何度も来るうちにただの迷子だとわかって、5度目くらいに来たときには料理を差し入れてあげたのだとか。
「もし来たら引き止めておいてくれるよう頼んだから」
 快く引き受けてくれたことにお礼を言って、きっとすぐ会えるわと安心させるように百合が微笑んだ。


「足を止めて会話された方がいらっしゃれば、次はどこへ行くとか追いかけるのに役立つ話が聞けるかもしれませんね」
 結の考え通り、晴太の目撃情報は面白いくらいよく見つかった。曲がるたびに誰かしらが晴太を記憶していたのだ。
「あぁ、覚えてますよ。変わった格好してましたからね」
 真っ赤な生地に黒い線が入った、少し間違った感じのかぶいた着物姿。開拓者ギルドの本拠地・神楽の都、様々な開拓者たちが多く集うこの場所で晴太のような格好は珍しくはないかもしれない―― が、目立ちはする。
 甘味処の店員が、思い出す素振りもなく即答する。店に入る素振りは見せず、外に置いてあった御品書きを食い入るように見ていたという。
「晴ちゃん甘いものは苦手なのに……」
 一緒に食べていてもいつも私に全部くれて。なのに、何で?
 すごく嬉しそうだったから思わず声をかけたら、甘いものは苦手でと少し笑っていたと、店員はそこだけ不思議そうに首を傾げる。
「苦手なのに嬉しそうに、ね」
「何だか可愛いですね」
 くすくす笑い合う熾弦と結に気づくことなく、透子はひっそり衝撃に耐えていた。苦手なのに嬉しそうに笑っていた―― それがなぜなのか、わかった気がして。


 次の目撃情報は、御茶屋だった。住民たちの雑談場所になっている店内はお茶のあたたかな良い香りと、程よい喧騒に包まれている。
 田舎の村ではこんなしっかりとした御茶屋は存在しないため、お茶が大好きな透子にとってもそこは至福の場所だ。
「その兄ちゃんなら見かけたねぇ。熱心にお茶のこと聞いてたよ」
 のんびりお茶をして会話に花を咲かせていた老人が、友人と共に頷く。お茶がよっぽど好きなのかと見ていたが、そんな感じでもなかったのだと。
「……」
 大好きなお茶の香りが満ちる、あたたかい空間。けれどその空間も、透子を和ませることはない。
 透子が淹れたお茶を、彼が最後まで飲んで行くことはなかった。たいてい他のことに気をとられ、すぐに席を立ってしまうのだ。
 どうして―― 答えは出ているのに、どうしてと。ただ、その言葉だけが心に積もる。
「色恋沙汰は私の専門外ですが…」
 わかりやす過ぎて、むしろどう言えば良いのかわからない。聖夜と年末にかけて飾られた賑やかな街並みを眺めながら、円秀はふっと遠い目をした。
 慣れてしまえば目撃情報を追うのは容易く、曲がり角を曲がっては情報を集めていく。
「透子さん?」
 俯いて歩く透子に、百合が声をかける。慌てて顔を上げると、緩やかに流れる綺麗な黒髪が映った。
「西光寺さんの髪、とっても綺麗です…」
 彼が望んだ、長い髪。伸ばすのは苦ではなくて、ただ長くなっていくのが嬉しかった―― 手をやる先にはもういつもの感触はなく、ばっさりと切られた短い髪が微かな風に揺れているだけ。
「昔から『髪は女の命』なんて言うし貴方の想いが詰まった長い髪だったのだものね」
 微笑み、百合はそんな透子を覗き込む。今の髪型もとっても可愛いわと、そっと髪を整えるように優しい手が触れた。
「大事に手入れしてあげたら晴太さんだって大切に想ってくれるんじゃない?」
「……そうでしょうか」
 ぎゅっと唇を噛みしめる。髪を切られたと言ったときの晴太の真剣な目は、今でも覚えている。本当に怒っていた。
 すっと、小瓶が差し出される。
「椿油よ、私が作ったの。よかったら使ってみて」
 髪を切ったのは何か考えがあってのことなのかもしれない、けれど自分のことも大切にして欲しいと―― まっすぐ向けられる空色の瞳。
 受け取って、お礼を伝える。
 髪を切った理由は、何だっただろう?このまま傍にいるだけは嫌だと、そう思って……だけど、きっともう、こんな風にまっすぐ彼を見ることはできない。
 もう晴太は、傍にいないのだから。
「そこの反物屋さんに寄ったみたいですよ」
 立ち寄った店の情報を手に入れてきた結たちが戻って来る。そこは、品の良い外観の反物屋が喧騒に紛れてひっそり立っていた。
「えぇ、いらっしゃいましたよ。お着物でしたので、もしかしてご自分用なのかとも思いましたが」
 着たら似合うだろうな、そう言って照れくさそうに笑っていたという。お礼を言って、表へ出る。
「情報を整理する限り、2人が会えさえすればそれで丸く収まりそうではあるけれど……」
「甘いものに、茶葉、それに反物を見ていた、ですか。なんと言いますか、とても女性が好むもの、ばかりですよね」
 やれやれと肩を竦めながらも、どこか柔らかい苦笑を浮かべる熾弦。くすくすと結も笑った。
「あとは透子さんが素直になったらいいだけみたいね?」
 今までに辿って来た目撃情報に何か思い当ることはない?と、少しだけからかうような声音で、百合は透子へ問いかけて……目を丸くして固まった。
「ど…どうしたの?」
 ぼろぼろと、その顔に大粒の涙が伝っていた。狼狽えた空気はすぐに伝わって、ぎょっとした開拓者たちは透子を取り囲む。
「晴ちゃん、に、好きな、人が…っ、着物も、ぬ……脱がせっ、たいって」
 友達が話していた。男が女に服を贈るのは、脱がせてみたいからなのだと、透子にはよくわからなかったが騒ぎ合う姿はとても楽しそうだった。
 堰を切ったようにしゃくり上げて、ぽろぽろと涙が零れていく。
 途切れ途切れの言葉は何を言っているのかよくわからない、だけど誤解をしていることだけは確かで。誰の目から見ても晴太が透子を想って辿った目撃情報だったが、一番伝わっていなければまずい透子には、まったくもって正反対の誤解が伝わっているらしい。
「……ちょっとこれは」
 その意図は晴太から伝えるのが華だろうと、口にするつもりはなかった結が困ったように視線を彷徨わせた。
「そうね、こうなってしまったら仕方がないわ。大丈夫かしら?」
「私はいつでも」
 あっちから近づいて来てもらいましょう、と頷く熾弦に円秀も同意する。おろおろと透子を慰めていた百合が、目配せを受けそっと傍を離れた。
 熾弦は近づき、震えている透子の肩にぽんと触れる。
「ちょっと失礼」
 何気ない仕草で取り出して見せた、小瓶。涙に揺れている目の焦点がゆっくりと合い―― その小瓶の中にひしめいているモノを、ようやく認識した。瓶詰め油虫だ。
「いやぁぁぁぁぁっ!!」
 ひくっと止まる涙、そして神楽に盛大な悲鳴が響き渡った。
 ざわっと一瞬止む喧騒。その一瞬の間に、ガタンッと何か重いものが倒れる音がした。ちょっとあんた、大丈夫かい!?それに答えるくぐもった声が聞こえて。
「透子……!」
 人垣からぬっと現れた真っ赤な着物と、微かに額を赤くして青年の姿。
 さっと瓶詰めをしまい、熾弦はさり気なく人垣へと混ざる。残されたのはどう見ても怪しい傍に立つ男・円秀と、震えている透子だけだった。
「透子、どうした!?おまえ、こいつに何したんだ!」
 晴太が庇うように透子の前に立つ。見せられたものがあまりにも恐ろしすぎて目が開けられない透子も、晴太のことはわかったのだろう。あ、あぶ…虫、虫が…、と震えながら背中にしがみ付き、油虫という言葉さえ口にできない震える声が零れる。
「おやおや、また髪を切られに来たんですか?」
 それを聞かれたら台無しだと、円秀は平静を装って自分の存在を晴太に知らせる。明らかに晴太に言う台詞ではないが、この際は仕方がない。晴太も晴太で頭に血が登っていて気付かない。
「おまえ……おまえが切ったんだな!?」
 それには答えず、ふふっと円秀が笑った。なかなかの悪役っぷりだ。
「まさか、助けに来るとはね…そんなに髪が好きだったんですか?まぁ、それなら髪を切られた透子さんは好きではないのでしょうが」
「切っといてなに言ってんだてめぇ!てめぇに髪切られたせいでなぁ…!透子は泣いてたんだぞっ」
 覚えている。髪を切られた透子は、悲しそうに泣いていたのだ。泣き顔なんて小さなとき以来で、思わず村を飛び出してこんな場所まで来た。大切にしていたのを、知っているから。
「ちょうどよかったぜ、探してたんだ。覚悟しろよ……!」
 悠然と佇む円秀に拳を握りしめ駆けだす―― 駆けだそうとした、がそれは叶わなかった。
「透子っ?ちょ……ぐぇっ」
 しがみついていた腕。どこにそんな力があるかわからないが、その細い腕がものすごい力で晴太の胴を締め上げていた。
「晴ちゃんの……晴ちゃんのすけべぇ!」
 バッチーン――!!
 透子の平手打ちが、晴太の頬に見事はいった。あまりの衝撃と言葉に、倒れこむ晴太。
「すけべっておまえ……」
「私、知ってるんだから!好きな人がいることも、脱がせたいってことも!」
 何となく察したように見守っていた人垣が、さっきとはまた別の意味でざわめく。人垣に紛れながら、悪役になりきりながら……なぜそんな突拍子もない考えになるんだろうと、脱力する。
 もはや晴太しか見えていない透子は、彼の小さな動揺に気づいて唇を噛みしめた。
「…追いかけて来たんだから。立ち寄ったお店、その人と行きたいんでしょ」
 ぽろ…と涙が一粒、また流れた。
「バカ!俺はおまえと行くために回ってたんだよ!」
 目の前で再び流された涙に動揺した晴太は、転がったままくわっと叫んだ。
「甘味も茶も、お前が好きなもんだろーが」
 予想外の展開だった。迷っているうちに熱は冷めて、今さら殴りに行っても透子の髪は戻って来ないと。観光してやると決めてからは、透子が好きそうな店を見つけて回ってみた。覚えていって、連れて来てやればまた笑ってくれるんじゃないか、そう思って。
 まさかこんな大々的に伝える羽目になるとは。
「きっとね、髪が短くなった事を怒ったんじゃないと思うの」
 ぽかん、と言葉をなくしたように晴太を見つめる透子に、百合が円秀のほうへと歩み寄る。
「例えば晴太さんの心や体が誰かに傷つけられたら透子さんはどう思う?」
 晴太さんも、おんなじ気持ちだったんじゃないのかしら―― 同じようにぽかんとしている晴太に、円秀が同じ仲間であることを教えるように。
「きっかけを振り返ると『なんで髪を短くしたんだ』ではなく、『誰にやられたんだ』でしたね?」
 思い出してみてください、と穏やかに結は続ける。
「晴太さんが怒ったのは、髪を短くしたことではなく、透子さんの意に添わず髪が短くなったのでは、ということでしょう」
 ―― 透子は泣いてたんだぞっ。
 今さらのように、さっきの晴太の言葉を思い出す。穏やかに掛けられる言葉たちに、透子の心も少しずつほどけていく。
「髪の長さどうこう程度で揺らぐ関係じゃない事は分かるでしょう」
 転がったせいか汚れた衣服をぽんぽんと払って立ちあがる、額が赤いのは透子の悲鳴を聞きつけたときにどこかにぶつけたか転んだんだろう。
 そんな姿に熾弦は微笑み、透子へ問いかける。
「…これ、やる」
 ふいに、ぽんと放られた包み。中身は可愛らしい髪飾りだった。
「ほとんど何も持たずに飛び出してきたから、これくらいしか買えなかったけどな」
 照れたように、晴太が頬を掻く。
「長かろうが短かろうが、関係ねーよ。どんなおまえでも、俺は好きだ」
 好き、という言葉、想い。
 ガキ大将と苛められっ子、変わらない関係で今まできて。それが嫌だと思ったのは、変わりたいと思ったのは――
「私も好き…っ」
 意識していなかったずっとずっと昔から、彼のことを好きだったから。
 いつも受け止めてくれる腕に飛び込みながら、透子はようやく自分の想いに気がついた。


 いつもの賑わいを取り戻した町並み、寄り添い合う2人の姿。意識は遠く、想いが成就した大切な人へ。
(…私も、素直に、な…れる、かな…)
 自信なく百合は呟いて、仲睦まじい姿を微笑ましく見つめる。
 泣いて迷って、足踏みして―― それでも歩き出した若い2人に記憶を重ね、結は穏やかに見守る。
 いい具合の悪役ぶりを演じた円秀も、独り身なので愛だ恋だはわかりませんがとのんびり見やって。
「まぁ、聖夜というやつが近いので奇跡でもあるといいなと祈っておきますよ」
「最近急に冷え込んだし、熱い2人の近くで少しは暖まれたわね」
 聖夜、年末……賑わうのは、きっとそれだけのせいではない。戦の不穏な空気は確実に日常を脅かしている。
 それでも躊躇いなく武器を取る理由、この守りたい風景をしっかりと焼きつけて―― 熾弦は幸せそうな2人に微笑んだ。