【妖精】火と共に一夜を
マスター名:
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/12/19 23:46



■オープニング本文

 トントン、カン、トトン―― 軽やかな踊りを踏んでいるような音が、楽しげに響いていた。
「うーん、この曲線が何だか……」
 だがその音を響かせている主は、えらく真剣な表情で小ぶりの創作物を天井に透かしてみては眉を寄せている。
「やっぱりこの道具じゃ無理か。でも、」
「あーねーさんっ!」
 がばちょーっと後ろから現れた両腕と衝撃に、その音の主―― 澪はびくぅっと肩を震わせ小槌を落した。
「葉兎!」
 何とか落さずに死守した創作物を抱えて、キッと振り返る。
「作業中は入ってこないでって言ってるでしょ」
「打ち付けてないとき狙ったんだから、いいじゃないですか」
 葉兎と呼ばれた少女は背中から抱きついたまま、へへっと悪びれなく笑った。澪より少しだけ年若く、健康的に焼けた肌に、深い海のような真っ青な瞳。澪と葉兎は、小さな頃から共にいた幼馴染だ。
「それに、集中しだしたらずーっと籠って出てこないし」
 今はなに作ってるんです?と、葉兎はひょいっと覗きこんだ。確かに集中すると周りが見えなくなるのを自覚している澪は、ちょっと黙って。
「これ」
 抱えていた小さなものを、すっと葉兎の髪に差し込んだ。
「へ、ぇ?」
「かんざし。あなた欲しいって言ってたでしょ?」
 うまくできたら、他の子にもあげようと思って。でもなかなか曲線がうまく描けなくてぶつぶつ……放っておいたらまた自分の世界に入っていってしまう澪を、葉兎は慌てて引き止めた。
「充分ですって!何で武器作る小槌で、こんな折れそうな簪が作れるのか不思議ですよまったく」
 そっと髪から引き抜き、天井に翳す。外から仕入れられた時に見た何だかキラキラしていた簪にも劣らない出来だと、身内の贔屓目抜きにしても胸を張って言える。
「っと、そうじゃなくて。あたしは用があったから来たんですよ」
「用?」
 やっぱり納得がいかないのか、簪を手に取り戻して凝視しながら、澪の返事は上の空だ。
「お祭りの季節、ですよ」
 お祭り―― その言葉に、ようやく澪の意識は現実へ戻った。
 鍛冶屋として代々やってきた村に古くから伝わる、火を敬い讃える儀式。村中で火を焚き、儀式の衣服を身に纏った女たちが火を讃えて舞う。そして頭目の名を継ぐ家が、仕切る役割を担っている。
 時代と共に儀式の要素は薄れ、娯楽色が強くなり『祭り』としか呼ばれなくなった今も、欠かさず年に1度は執り行われていた。鍛冶で生計をたてている限り、火を敬う心を失ってはいけないからだ。
「もうそんな季節なのね」
 しみじみする澪に、打って変って葉兎がしおらしく、あのぅと言葉をこぼして。
「お祭りに開拓者さんたち、呼びませんか?」
「……え?」
「あ、いや。姐さんを助けてくれたときもお世話になったし、お礼もこめてどうかなって」
「……」
 姐さん言うな、と葉兎の女の子らしい柔らかい頬をきゅーと引っ張りつつ、そういうことねと独りごちる。最近、村の娘たちが落ち着かなかったのは、そのせいなのだろうと。
 よく言えば平和で長閑な田舎、逆なら刺激はなく外から流れてくるものも、外へ流れていくものも少なく退屈で。あの日、初めて村を訪れた開拓者たちに、好奇心が膨れ上がったに違いない。
「わかった、頭目に話してみるわ」
 パッと広がった笑顔に苦笑して、澪は作業小屋を後にした。



 頭目の許しを得て開拓者ギルドを訪れていた澪は、依頼を出す際に何となしに多くの依頼が張り出されている板を見ていた。
「!?」
 そして、思いっきり板に張り付いた。視界に踊る、踊る、踊る、『白い妖精』の文字。寒い季節に現れて、美しい景色や楽しげな雰囲気を好む白い妖精。何でも素敵な出会いも生むのだとか。
「素敵な出会い……精霊との?」
 自分で自分の問いを無意識に口ずさんだ澪は、くわっと目を見開いた。
「あっ、すいません!ちょっとさっきの依頼の変更お願いします」
 お祭りにはなったとはいえ伝統ある儀式、妖精を見たいなんて私的なお願いを入れることはできない、でも―― 妖精が顔を出したくなるくらいの楽しい雰囲気になるように。
 食べて、飲んで、笑って、そんなお祭りに開拓者たちの彩りも添えられたら、きっと――。
 こうして新たに書き直された依頼が、数多くの妖精関連の依頼と共に張り出された。


■参加者一覧
奈々月纏(ia0456
17歳・女・志
水月(ia2566
10歳・女・吟
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
レティシア(ib4475
13歳・女・吟
春風 たんぽぽ(ib6888
16歳・女・魔
闇野 ハヤテ(ib6970
20歳・男・砲
仁志川 航(ib7701
23歳・男・志
月雲 左京(ib8108
18歳・女・サ


■リプレイ本文


 松明の明るさの中、村人達の中央に立つ澪が、頭目を代表して歓迎の意を述べる。
「今日は来ていただき、感謝します。小さな村ですがどうぞ、ご自由にお過ごしください」
 手が空へ伸ばされ、凛と響く声が点火を告げた。一斉に村中の火が灯り、一夜限りの祭りが始まる――。


「招待おおきになー。楽しませて貰うわ〜♪」
 わっと散って行った村人たちを見送る澪へと、奈々月纏(ia0456)は、てこてこやって来て会釈した。レティシア(ib4475)も、招かれた挨拶をして。
「白い妖精の心を溶かすくらいあったかなお祭りにすればあるいはっ」
 妖精の噂が気になって仕方がない彼女は、やる気満々の瞳をキラキラさせている。
「はい、あったかい一夜にしたいです!」
 周りを気にしつつも澪もつられるように、嬉しそうな声を上げた。
「妖精の話を聞いて、真っ先に鈴佐を思い出したよ」
 探しにいきたいって依頼が出るかと思ってたんだけど、と続く声。
「仁志川さん!お久しぶりです」
「久しぶり。呼ぶっていうのもいい案だね」
 仁志川 航(ib7701)は、以前お世話になった開拓者の1人だ。その時のことを思い出して申し訳ないやら気恥かしいやら、澪は苦笑して挨拶を返した。
「なぁなぁ、こんなんどーだろ?」
 ぴょこんと尻尾を揺らし、笑顔が覗きこんでくる。
 時間内に丸太から薪をどれだけ早く作れるかの競い合いに、丸太から彫刻した出来の競い合い、魚料理の大食い大会―― 琥珀(ib3263)の提案は、負けず嫌いの職人達が揃っている村には打って付けで。
「素敵な案ですね。よろしくお願いします」
 笑い返し、快諾した。


 篝火、そして伝統的なものから村人達が工夫して作り上げた色鮮やかな提燈までが並べられている。それに沿うように屋台が立ち、明るい道を作り出していた。
「お祭り、お祭りで御座います!ほら、右きょ…っ!」
 目を輝かせ振り返った月雲 左京(ib8108)は、ハッと口に手を当て俯くと小さく溜息をつく。今はもう無き故郷の思い出―― 祭りは唯一、里民と外で遊び楽しむ機会だった。愚かな夢を…と小さく呟く。
「お祭りですね!楽しみですね!!妖精さんは現れますかね〜!?」
 明るい声。とっさに振り返るより先に、春風 たんぽぽ(ib6888)が隣りに立ち、わぁと感嘆の声を上げる。
「俺も妖精には会ってみたいな」
 小さい頃に戻ったみたいだと、闇野 ハヤテ(ib6970)は祭りの屋台を見渡した。
 準備が進んでいる屋台からは、美味しそうな香りが漂いだす。威勢のいい呼び声に混じって、更に盛り上がっている人垣があった。
「何で御座いましょう?」
 人垣を縫って前へ出てみれば、ぱっと視界に舞う白。
「さーさー見事雪のように見えたら拍手喝采っ」
 ひらひらと雪のように舞うのは、琥珀が削り出した彫刻の木片だ。時間内に削り出した彫刻の出来を競う催しは盛況で、人垣からは割れんばかりの拍手が送られる。
 背負った刀を素早く抜き放ち豪快に、時には繊細に、居合で削りだしていく。次々と生まれるのは可愛らしい妖精や虎の姿で、開拓者ならではの演出に村人たちは大盛り上がりだ。
 丸太を凝視している航を見つけ、左京が近づく。
「にゃ、にゃんにゃん様とか、作れますでしょうか…?」
 その姿がとっても頼もしく見えたのだろう、おずおずと、けれど期待の眼差しを向けられて、航はひくっと固まった。
「……期待に応えられるかわからないけど、頑張ってみるよ」
 何とか笑みを返すと、心を決めたように小刀を握りしめた。
「俺もやってみようかな。スキルで魅せるってことはできないけど…」
 時間内でどこまで作れるかが鍵、か。真剣に悩みつつ、ハヤテも丸太に触れる。作るのは、祭りにはしゃいでいるような元気な妖精……見れるようにと思いを込めて。
 そのとき―― 少し離れた場所で、わっと喝采が起こった。
「村の意地にかけて、ここは負けられないよ!」
 両手に斧を持ち声を上げているのは―― 何かおかしな具合にテンションが高い澪だった。姐さぁーんという野太い声援に斧が振り上げられ、木片が地面を覆っていく。
「す、すごいですねぇ」
「仲良しさん、なので御座いますね」
 ぽかんと見守っていた左京の目の前に、ぬっと差し出された物体。ひゃっと上がりそうになる声を手鞠で押さえた。
「…ほら、にゃんにゃん様作ってみたよ」
 それは―― にゃんにゃんでもわんわんでもない、ちょっとした恐ろしげな何かだった。その出来具合がわかるのか、微妙に緊張して反応を窺う航。
「あ、あり…ありがとう御座います」
 受け取る左京の手と声が、どうしようもく震えていた。決して彫刻を見ようとしない目は、もう半泣きで。
 その後、競い合いそっちのけで、黙々とにゃんにゃん作りに精を出す航がいたとか。


「ん……お祭り、好き。美味しいものいっぱいなの」
 もらった料理を器用に抱え、水月(ia2566)はほくほく屋台道を歩いていた。もきゅもきゅ口を絶えず動かしながら、美味しそうな料理を探してまわる。
「!すごく美味しそう……」
 それは、大きな炎の中で揺れている大きな鍋だった。ぐつぐつ煮込まれているのは魚はもちろん、今が旬の海の幸だ。良い香りが鼻をくすぐって、すでにかなりの量を食べているはずの水月のお腹がくぅと鳴る。
 ぽん、と肩を叩かれ振り返ると、纏が笑いかけていた。
「ええ感じの頃合やて。食べよ♪」
 屋台のおじさんから渡された2人分のお椀に、よそう。火傷しないように、気をつけて…いただきます。
 微笑ましく見守って、纏も魚の身を一口大にしてはむはむと食べていく。魚介の出汁が染みた熱々の料理は絶品で、思わず綻んだ顔を見合わせた。


 同じ頃、レティシアも屋台を回っていた。
「むむむ。祭りの食べ物ってなにゆえこうも美味しいのでしょうか」
 天儀は彼女を育ててくれた祖父の母国、どんな食べ物があるのか楽しみにしていたのだ。少しずつ色んなものを食しつつ唸っていると、つんと裾が引かれる。
「おねえちゃん、それなぁに?」
 小さな少女が見上げているのは、レティシアの身長を悠に越すエレメンタル・ピアノ。小柄な彼女が大きな何かと移動する様が、気になっていたのだろう。少女が声をかけたのをきっかけに、わらわらと子供達が集まってくる。
「ピアノという楽器です。弾いてみますー?見た目より重くないんですよ」
 邪魔にならないように移動して、子供達の前へと差し出した。レティシア自身も田舎出身のため、外から来るものへの反応はとてもよくわかる。頬を赤くして弾き合う姿に、今や自分が楽しませる側かーと感慨深くなる。
 すっかり仲良くなった子供達とのんびり歩きながら、先々で歓迎するように貰える食べ物を一緒に食べながら。
「へぇ、火の物語ですかー」
 ちゃっかり聞き込んだ、この村に伝わる御伽噺を手帳に書き記す。
 現実的な職人気質のせいか、伝説的な御伽噺は伝わっていないものの、火に関しては別のようだった。幼い子供達ですら口にする火を題材にした物語。
 そうして火に親しみ火を敬い、鍛冶屋となっていくのだろう。
「あ、盛り上がってるみたいですねー」
 屋台の道が終わった先には広間と簡易な舞台があり、御座が敷かれ飲み食べできる場所が用意されていた。
 たんぽぽを中心に、子供達が彼女の話に聞き入ったり楽しげな笑い声を上げている。
「開拓者になってからの話ですが…武器を持たないで依頼に出てアヤカシと直面した時があるんですよ」
 本当に焦りました、と苦笑して。不安げに見上げてくる子供達に、たんぽぽはにっこり笑った。
「でもハヤテさんが、目にも留まらぬ速さで銃を抜いて助けてくれたんです♪」
 その視線と笑顔が、すっと上がる。
「あの時の姿、今でも忘れられませんね…」
 彫刻勝負を終えて戻ってくる開拓者たちが、つられるように振り返った子供達の目に映った。
「銃抜いた!?」
「ばーんってやっつけたの?」
 突然わっと囲まれて、何だか盛り上がっている子供達にハヤテは少し笑って。
「抜き放ちは見せてあげられないけど、これなら」
 飛ばしてみせたのは、竹とんぼ―― ほんのり明るい夜空に高く高く、吸い込まれていく。彫刻の傍ら、子供達が喜んでくれればと作ったものらしい。
 我先にと差し出される小さな手と笑顔、うまく接することができるか不安だったハヤテはほっとしたように息を吐いた。
「器用だなぁ。俺なんか、どれだけ作っても駄目だったよ」
 ごろごろ、と地面に投げ出されるのは航が作った彫刻だ。いくつもの無残な姿たちに、左京があわあわと慌てたようにフォローする。
「さーて、じゃあ次は私の番ですねっ」
 そんなやり取りを楽しげに聞いていたレティシアは手をぽんっと打って、語りだした。
 語り部として、今まで渡り歩いてきた国々で見聞きした物語を。心躍る物語、物悲しい美しい物語―― かつて自分が異国の地を歩き心躍ったように、子供達にも遠い異国の空を仰ぎ旅をしている気持ちになれるように。
 物語に合わせ衣装を変え表情を変え語る様は、子供も大人も惹き寄せられ―― 炎を囲み、続いた。


 甘い香りが辺りに漂う。たんぽぽ特製?の焼きマシュマロにクッキーを挟んだお菓子は、ほんのり控えめな甘さで美味しい。
「もうすぐ舞が始まるらしいで〜」
 人数分のお茶を運んできた纏の言葉に、口いっぱいに頬張っていた水月がぴくっと反応して立ち上がった。
「おっ、ちょっと行ってくるかな!」
 クッキーを両手に持った琥珀も、勢いよく駆けて行く。
「お茶、ありがとうなの……わたしも、行ってきます」
 お茶をこくこく飲みほして、水月も舞台のほうへと消えて行った。
「お、いよいよかな?」
 出来損ないの木彫りで怪獣と戦う話をして遊んであげていた航が、思いっきり子供達に乗っかられながらのんびりと顔を上げる。
 舞台を囲むように篝火が集められ、光りを浴びた舞台が浮かび上がる。太鼓が打ち鳴らされ、笛の音が静かに響いた。
 燃えるような赤、穏やかな橙、様々な火の色の衣装を身に纏った舞手たちが音もなく壇上へと集い、始まる。それは『舞』と呼ばれる優雅なものではく、炎が踊っているような動きのあるものだった。
 澪が中心となり、長い裾を炎のように翻しながら太鼓と笛の音に合わせて舞い踊る。それはまるで舞台上で大きな炎が揺らめいているようだった。

「楽しんでもらえてますか?」

 声をかけてきたのは、葉兎だった。
「奈々月さんすいません、お客さんなのに手伝ってもらったみたいで…」
「あ、うちが好きでやってることやから」
 恐縮している葉兎に、わたわた纏が頭を振る。屋台の手伝いから舞台の準備まで、率先して引き受けてくれた纏にむせび泣いていた商人、村人は多い。
「とても素敵な舞やねぇ」
 舞台は、澪と水月だけになっていた。即興で合わせたのか、調子をとりながらゆっくりとした緩やかな動きの舞が始まる。笛の音も、琥珀の横笛に変わっていた。
「あたしたちの世代ではもう、舞手がいないんですよ。姐さんは特別なんです」
 教える者がおらず、ここ数年は舞も舞われていなかった。舞ができるのは澪の親世代までで、それでも大分現代風のものを取り入れてつくられているのだという。
「―― …」
 ふいに水月の腕が、澪へと伸ばされた。純白の羽織を着て舞う姿は、さながら白い妖精のよう。神楽舞「心」―― 精霊の声が澪にも届くように、そっと。
 そして儀式の舞は終わり、大きな拍手が広間に満ちた。穏やかに、けれど嬉しそうに村人たちを見つめる澪の横顔を、水月は見上げる。
「わたしからみたら、精霊さんは何処にでもいて身近に感じられる存在なの……」
 ぽつ、と小さな声は澪にも届いて、ハッとしたように視線が水月へと向けられた―― ほんの一瞬だけ噛みしめられる唇、けれどそれはすぐに笑顔に紛れて。
「水月さんの舞、素敵でした。ご一緒できて、嬉しかったです」

 ハヤテ、たんぽぽ、左京が舞台に立つ。それぞれに三味線、二胡を抱え、そして中央に立つのは左京。
「弦楽器が揃ってしまって申し訳ないです…でも明るく元気に弾きますので♪」
「里民の方も大歓迎で御座います」
 2つの弦楽器から紡がれる音に合わせて、左京が唄う。馴染みやすいものを選んだのか、どこか懐かしい歌声は楽しげに響き…真っ先に反応したのは子供達。親の手を引っ張り、友達と手を取り合い―― そこらじゅうで小さな影がぴょんぴょん跳ねまわる。
 演奏が終わり、わぁっと上がる歓声。楽しさそのままのざわつきに、高く澄んだ音色が響く。
「ほらほら一緒に踊ろーぜ、折角の祭りなんだからさっ。目一杯楽しまなきゃ損だぜー」
 リュートを手にし、にっと琥珀が笑った。
 誰かが唄えば、手拍子が始まり、誰かが楽しげな音をたてれば、それに合わせるように踊りが始まる―― 村中が踊り、笑い声が起こる。
 唄や楽器に合わせて、天儀やジルベリア、アル・カマルの衣装に素早く着替え、それぞれの儀の踊りを踊って見せる琥珀の軽業は、村人たちの目を楽しませていた。
「左京さん…すっごい綺麗な歌声ですね!羨ましいです〜!」
 左京の唄を楽しみにしていた、たんぽぽは賑やかなざわめきに負けないように興奮を伝える。
 皆が楽しんで舞や唄を披露してんなら、俺も頑張らないと…慣れない楽器に苦戦しながら、ハヤテはたんぽぽたちや村人達に視線をやり、ふと我に返る。本心から笑っている自分に気づいて。
「いい祭りだから…妖精もきっと来てくれるんじゃないかな」
 そっか、楽しいってこう言う事なんだ――。

 やがて―― 自然と祭りの終わりが見え始め、レティシアの聖歌が穏やかに村へ降り落ちる。精霊への敬いを込めた、透き通った唄声。
「あ――、」
 ふいに小さく声を上げ、澪が空を見上げた。白い光りが一瞬、見えた気がして。
「……」
 手を広げると、ひやりとした冷たさが触れる。ふわりふわりと降ってくる今年初めての雪、澪はただ微笑みいつまでも空を見上げていた。


「お、降り始めたなぁ」
 微かに白い息を吐き、航は今の今削り出したモノを空へ翳す。
 子供達の意外と厳しい指導が実ったのか、多少不格好なもののそれなりのモノができた。
「酒と魚介料理を堪能するつもりだったような気がするけど…」
 楽しかったからよし、と。何とか見られるようになったモノを見上げ、笑った。


 暗き森へと、左京はふらりと入り込む―― けれど此処には、優しい家族も楽しい時間を過ごした里民も……自分と鏡合わせの様な片割れも、いない。
 祭りも、音も、唄も…全ては当たり前にあった幸せであり、今も此処にあるのに―― どうして独り、わたくしは此処にいるのでしょう。
「深く先も見えぬ世を、独り泳ぐは寂しく…心細く、息苦しゅう御座います…せめて右京、見守って下さいませ」
 遠く想いを馳せ、里の伝え唄を口ずさむ。小さな姿はやがて、森の暗闇へと紛れていった――。