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■オープニング本文 ※このシナリオはパンプキンマジック・シナリオです。オープニングは架空のものであり、DTSの世界観に一切影響を与えません。 ●魔法の種あるよ いつもと変わらず賑わいを見せる、神楽の都。 いつもと変わらず歩いていた貴方の前に、突然ぴょこんと黒い影が出現した。 「こんにちは、ちょっといいですかぁ?」 とんがり帽子に子供用のおもちゃのようなマント、膝上で翻るスカート―― ちょっと二度見してしまいそうな出で立ちで、声をかけてくる少女。 様々な種族があり職業があり、それと同様に千差万別な服装ある。だが少女の格好は、きれいに斜め上をいっていた。 「ここに、ちょっとした面白い種があるんですよ」 返事を待つことなく、さくさくと話しだす少女。半透明な袋を持ち上げて、問答無用でにこにこ笑う。 「南瓜の種なんですけどね、ちょっと変わってまして〜。会いたい自分に、夢の中で会えちゃったりするんです!」 ‥‥本格的に寒い季節を迎えようとしている冷たい風が、ひゅるりと吹き抜けていった。 「あ、信じてないですねっ?騙されたと思って、鉢か何かに植えて枕元に置いて寝てみてください」 そのときに、どんな自分に会ってみたいか思い描いてくださいね!―― 貴方の反応が不満だったのか、ぷくっと頬を膨らませて袋を押しつけるように渡す。 在りし日の自分、未来の自分、まったく異なった世界で生きる自分、前世や来世――。 「信じるも信じないも、やるもやらないも貴方の自由!でもきっと、楽しいですよ」 ふふっ、と。一瞬だけ大人びた笑みを浮かべて、すぐに少女のそれに戻ると‥‥その姿はあっという間に、賑やかな人の波に消えていった。 残されたのは貴方と、何の変哲もない‥‥ように見える、種。 あと数時間もすれば陽は落ち、夜が訪れる。 さて、どうしようか――? |
■参加者一覧
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
朱麓(ia8390)
23歳・女・泰
ユリア・ソル(ia9996)
21歳・女・泰
トカキ=ウィンメルト(ib0323)
20歳・男・シ
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)
14歳・女・陰
コニー・ブルクミュラー(ib6030)
19歳・男・魔 |
■リプレイ本文 ●邂逅 懐かしい空気をすぅと吸い、柚乃(ia0638)は目を開けた。 けれどそこは見たことがない場所―― そして、自分そっくりの女性。 「貴女は‥‥誰?‥‥柚乃?」 「私は陽和。貴女であり、貴女は私でもある」 小首を傾げる柚乃に、その女性はそう名乗り、にこりと微笑んだ。 似ているのにどこか大人びた雰囲気で、陽和は手招きする。 緑広がる草原。そこ混じる、もふもふしたものに柚乃は声を上げて駆け寄った。それは大好きなもふら様たちだったのだ。 「ずっと傍にいてくれた、大切な子たち」 幸せそうにもふらに囲まれている柚乃に微笑み、陽和の手がそっともふらを撫でる。 「ずっと‥‥?」 その隣りに座り、穏やかに語ったのは、陽和が生き―― そして長き眠りについた世界の事。数百年も昔の天儀、周囲に争いは絶えず心を痛めながらも明るく生きた日々。 「どうして‥‥何が、あったの?」 どうして―― あのとき、何度思っただろう。 「‥‥裏切られました」 信じていた者の裏切り―― それが最期の記憶。 深い悲しみと絶望を抱え、真実を知らぬまま心を閉ざし人を拒み‥‥傷ついた心を癒すため長い眠りについた。 「ずっと一緒に、寄り添ってくれていたの」 多くは語らず言葉を噤む陽和に、柚乃はこくりと小さく頷き。 「だから柚乃は、もふら様が大好きだったのね」 理由はわからない、けれど親近感を感じて。もふらを撫でる柚乃に、陽和は微笑んだ。 「じゃあ龍で空を駆けるのも、きっと好きですね」 柔らかな草原に―― 束の間、少女たちの楽しそうな笑い声が満ちた。 リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)は、辺りを見渡す。 「‥‥今とあまり変わりないのね。さーて、未来の私はどこかしらねぇ。夢とはいえ、実験案くらいは掴みたいんだけど‥‥」 まるで応えるように、住み慣れた場所が現れた。 背を向けていた女性が振り返り、リーゼロッテを見つけて笑う。 年は、今の実年齢くらいか。それだけの時が、経ったということなのだろう。 「不老不死になった気分はどうかしら?成功に至るアプローチ方法は?」 矢継ぎ早な質問に動じることなく、未来の彼女は微笑って。 「もうあの研究は破棄したのよ。資料も残ってないわ」 その言葉にリーゼロッテは、目の前の大人びた自分の顔を呆然と見つめた。 「何言ってるの‥‥?どういうことよ!」 「昔の私ってこんなに子供っぽかったかしら?」 思わず取り乱して詰め寄ると、呆れた表情が向けられる。 「不死?出来るはずないじゃない。そうなったらもうアヤカシと同じよ」 選んだのは―― 娘と共に普通に生きて、老いて、死んでいく未来。 「だから今、私が取り組んでるのは不死じゃなく治癒。その方がよほど有意義じゃない」 飄々と諭され、唇を噛みしめた。 「認めない、絶対に認めないわ!死ですべて失うなんて絶対に認められない!」 こんな未来は、間違いだ。 「肩の荷を下ろすと随分と楽よ。ほら、こんな素敵なレディの出来上がり」 未来の自分が、くすりと笑い腕を広げて見せる。 「‥‥今は認められなくても、いつかきっとそう思える時がくる」 諭すように、大切な何かを伝えるように。 「貴女は私で、私は貴女なんだから‥‥」 でも、じゃあ―― 今までやってきたことは、何だったのだろう。 「‥‥へぇ、あの真っ黒なお嬢ちゃんが言ってた事は本当だったんだねぇ。夢じゃなきゃ目の前に過去のあたしが居るはずないもの」 苦笑して見上げるのは、寝転んでいる自分を心配そうに見降ろしている少女。 体を起こすと朱麓(ia8390)は少女の頭を一撫でして、相手に自分が誰なのか、いつの時代から来たのかを説明していく。 「貴女が未来のわたし、ですか。何だか変な感じですね」 (20代と思えないくらい老けて見える気が‥‥) そっとそんなことを思いながらも、未来から来た自分を少女は見上げた。 「だねぇ。あたしも未だに信じられないよ」 そんな内心に気づくはずもなく、朱麓もまた昔の自分を見やり笑う。 約10年前の、久藤千依だった頃の自分‥‥ちょこんと大人しく座り、見上げてくる少女にやっぱり苦笑して。 「体でも動かしにいくかい?」 「あ、はい。ご一緒したいです」 慌てて立ち上がる千依をもう一撫でして、体を動かすならと山へ向かって歩き出した。 道中、見覚えのある姿を見つけて思わず歩みを止める。 壁に張り付き、ぶつぶつ言っているトカキ=ウィンメルト(ib0323)だった。 「お知り合い、ですか?」 「あぁ、まぁ‥‥店員だね」 営んでいる店のことを話せば、控えめながらも興味津々な千依。 まぁいいかとトカキに背を向けると、現在の色んな話を聞かせてやりながらのんびりと山へ向かった。 ふわり、と薔薇の懐かしい香り。 「目が覚めたかしら?」 声の先には、同じ顔の女性がカップを持ち微笑んでいた。 「今は私が領主を継いでいるの」 確かめるように辺りを見渡しているユリア・ヴァル(ia9996)に、少し大人びた彼女はそう告げる。 そう、と頷いて祝辞を述べた。 「それで、調子はどう?」 「まぁまぁよ。机での仕事が少し窮屈だけど」 ぼやきながら、彼女―― ヴァルは、ユリアの分のお茶をカップに注ぐ。自家製の薔薇のお茶だ。 「でも安心して。巡回には良く出るから、槍の腕は鈍っていないわ」 そう付け足して、笑った。 懐かしい場所に香りの良いお茶、夢でも自分との会話は興味深く楽しいもので、穏やかな時間がゆったり流れていく。 「え‥‥あなた結婚したの?」 新緑の瞳が目いっぱい見開かれた。 「跡継ぎの一人娘が結婚しないわけにはいかないでしょ?」 その反応に、くすくす笑い声が上がる。それにね、とまっすぐユリアを見た。 「強い時も弱い時も、側にいて欲しいと思う人だったから」 「‥‥夫は―― いえ、やっぱり言わなくていいわ」 穏やかで満ち足りた表情に、ユリアは言葉を呑みこんだ。 「子供は、黒髪に翠の瞳よ」 夫のことには触れずそれだけ告げるヴァルに、そうとユリアは呟く。心に浮かぶのは黒の髪と瞳を持つ恋人の姿。 結婚せず、家庭を持たず、子供も持たない―― それが、信条‥‥その信条とヴァルの生き方、そして恋人との幸福で迷うユリアを、そっと呼ぶ。 「彼を愛してる?」 「愛してるわ」 それだけ覚えていれば良いと―― 迷いなく返される想いに、ヴァルは微笑んだ。 リィムナ・ピサレット(ib5201)は、駆けだした。 見慣れた天儀、駆ける先にはワンピース姿の女性。傍に小さな子供が2人歩いている。 「やっほー!未来のあたし!元気?」 突然現れた少女に、年の頃20代前半くらいのその女性は笑って。 「元気だよ。貴女は元気?過去のあたし」 そして、傍にいた子供たちを撫でた。 「子供が2人いるんだよ」 5歳くらいの、金髪の男の子と紫髪の女の子だ。相手は大好きな同性の親友らしい。何でも世界のルールが変わったのだとか。 「どうやって出来たの!?どっちがママ?」 質問攻めのリィムナに、未来の彼女はえら〜い人が何とかで、はぐらかした。 ―― やがて、よく知る公園に着いた。 「姉ちゃんも妹たちも、家庭を持って元気にやってるよ」 「よかったー。あ、未来のあたしは?」 「あたしもあの子も開拓者は続けてて、凄腕夫婦で有名なんだよ」 随分と大人びた顔が、得意げに笑う。そんな自分をじーっと見つめ、声を潜めた。 「おねしょ、いつ治った?」 聞きたかった事の1つを、こそっと。もう大人だから、とっくに治ったはずだ。 「‥‥割と早く治ったよー」 明後日を向く視線。まさかまだ‥‥?と疑ったとき、大きな泣き声が上がった。振り返ると、女の子が男の子を泣かせている。 「こら!お尻ペンだよ?」 未来の彼女が駆け寄り、子供たちを覗きこんだ。 「あなたも男の子なんだから泣かない!」 すっかりお母さんだ‥‥。 最後の質問はいちばん聞きたかった事。 「今、幸せ?」 そこは内装も変わらない、いつもの屋敷だった。コニー・ブルクミュラー(ib6030)は、リビングに座っている自分を見つけた。 「本当に僕なんですか!10年後の!」 会いたいのは10年後の姿。外見は変わらないが、落ち着き大人びた雰囲気にコニーは興奮して話しかける。 「あの!先生はご健在ですか!兄弟子さんも!僕、先生に破門とかされてないですか?ええとそれから‥‥」 「そんな事を聞きたくて僕を呼んだんです?」 「あ、ご、ごめんなさい」 我に返るコニーに、彼はくすくす笑った。 「本当に10年前の僕だ。そそっかしいなあ」 呼吸を整え、本当に聞きたい事を改めて問う。 「あの、10年後の僕は‥‥変われたでしょうか」 何もできないと、何もしようとしなかった‥‥ジルべリアの屋敷で引き籠っていた僕から。 「今会っている僕は、未来の可能性の一つに過ぎない。これから君に起こるたくさんの事をどう乗り越えるか、それによって未来は良くもなり悪くもなる」 そう、これはコニーが描いた10年後だ。未来の自分への選択肢は、無限にある。 「変わりたいなら自分の弱さに負けない事だ。負けたら‥‥それで終わりだ」 語る顔は真剣で、しかしすぐに柔和な笑顔に戻り。 「大丈夫。僕は僕が思っている以上に強い。僕は変われる。今よりずっと、『僕』よりもずっと」 俯くコニーの肩に、手を置く。 「10年後の『僕』が保証するんだ、自信を持っていい」 「は‥‥はい!僕、頑張ります!10年後の僕より、もっと変わってみせます!」 「うん。その意気だ」 力強く頷く姿に、未来の彼は嬉しそうに笑った。 見開かれた目と会った。見慣れた顔、と思うのは自身の人妖と瓜二つだからか。 葛切 カズラ(ia0725)は、じっとその少女を見つめた。年は8つくらいか、カズラの視線に所在なさげに俯く。 懐かしみながらも、自分が何者かを話した。 「貴女が‥‥未来の私、ですか?」 「そうよ。信じられない?」 くすっと覗きこむと、いいえと小さく頭を揺れて。じ、と幼い瞳がカズラのある部分に吸い寄せられている。 「そ、その‥‥大きさが、違う気が」 ぽそっと呟き、自分の胸を隠した。年齢もあるが控えめすぎる胸と、未来のそれの違いに戸惑っているらしい。幸いとばかりに、カズラはほくそ笑む。 8つの秋が過ぎ去る間際に陰陽師の道、つまり触手の道に進む切欠の事件が起きた。だがそれ以前に人の手で、アレやソレを教えたらどうなるのか―― それが知りたかったのだ。 「ふふ、大丈夫。怖くないわ」 「何を‥‥ひゃわっ」 すでに押し倒していた過去の自分に艶やかに笑いかけ、わきわきと手で触れていく。 (あまりよくしても、初触手の良さが半減になるかしら) 意外と冷静に考えながら反応を楽しみつつ、桃色空間は誰に見られることなく続いた。 「ふぅ、こんなとこね」 やがて、満足したようにカズラは立ち上がる。 ふと、キラキラした人が目に映る。顔は悪くない。 「あら、イイ男ね」 「そちらも、美しい人だ」 返される眩しい笑顔。面白そう―― カズラのどこかのスイッチが入った。 「ふふっ、ねぇ少し休んでいかない?良い場所ないかしら」 「俺もよく知りませんが、まぁ大丈夫でしょう」 過去の自分をちらりと振り返って、カズラは微笑み背を向けた。 「今の生活には満足してますし特に無いんですけどねぇ」 歩いていたトカキは、騒がしい集団を見つけた。 金髪碧眼のイケメンが、女性たちにきゃあきゃあ囲まれている。 装備からして、騎士だろうか。何だか眩しい。 「あれは、俺か‥‥っ」 じぃぃと(壁に隠れて)見ていたトカキは、カッと目を見開いた。 「あぁ‥‥これは酷い」 金髪が煌めき笑うたびに白い歯が光る、そして上がる女性の黄色い悲鳴。ぇ、どちら様レベルのもう1人の自分に呻いて、尾行しようとトカキは決心した。 話によると彼は貴族で、今日は領内の視察に行くらしい。どうりで同じようなキラキラ装備の女性たちが混じっているはずだ。護衛も女性なのだろう。 「‥‥不幸に見舞われてしまえ」 ささっと壁伝いに移動しながら、怨念を込めたぼやきは止らない。 キラキラの護衛と歩いていたもう1人の自分だったが‥‥気づけば1人で天儀の町並みを歩いていた。トカキがいる場所も、ジルベリアから天儀に変わっている。 「あら、イイ男ね」 「そちらも、美しい人だ」 何だか悩ましげな声はカズラ、見つめ合う2人にトカキは衝撃を受けた。これは一体どういう事態だ。 「ふふっ、ねぇ少し休んでいかない?良い場所ないかしら」 「俺も知りませんが、まぁ大丈夫でしょう」 そりゃ知らないよ、ジルベリアにいたんだから。しっかりカズラの腰に手を回すのを、呆然と眺めて。 「リア充爆発しろー!」 残されたのは、トカキの叫びと頬を染めて転がっている過去カズラだけだった。 ●そして夢の終わり ふと黙り、陽和は柚乃を見つめる。 「貴女は、人を信じる事ができますか?信じきる事が」 少女のようにはしゃいでいた雰囲気は消え、静かな問い掛け。 悲しみを湛えた瞳を見つめ、柚乃の意識はやがて薄れていった。 「‥‥最悪」 体を起こし、リーゼロッテは吐き捨てた。 まだ暗い寝室を出る。研究しなければ―― ただ、それがすべてだった。 山賊退治や狩りで共に時を過ごした朱麓たちは、小さな農村に辿り着いた。 だが、その時―― 急激な眠気が朱麓を襲う。 「何だい、もう時間切れかい‥‥最後に一言、言わせとくれ」 目をこじ開け、支えてくれている千依へ。 「何があっても必死で足掻け。そして1人で悩まず仲間を頼れ」 お礼の言葉を聞きながら、やがて朱麓の意識は途絶えた。 ヴァルは、ユリアの僅かな反応の鈍さに気づいた―― 夢の時間が、終わる。 「イザークが始まりよ。ユリア」 意識が途切れる間際、微笑むヴァルが見えた。 ―― 今、幸せ? 「もちろん!」 自信たっぷり、笑顔で。 「貴女は何も心配せず毎日を大事に生きなさい。お風呂には毎日入る様にね♪」 よかった‥‥しあわせ、見つけられたんだ。 明日も頑張るぞー!気合い入れ、リィムナはかくんと意識を失った。 明るい日差しに、コニーは目を開けた。 しっかり覚えている未来の自分の言葉―― 反芻し、新たに決意する。 夢で会った自分よりも、もっと成長した自分になる事を。 「いいとこだったのに」 欠伸し、カズラは呟く。 とりあえず、惜しかったらしい。今日も天儀は良い天気だった。 トカキは、転がっている少女に気づいた。 「あれ、大丈夫でs」 言い終わらないうちに、その少女から悲鳴が迸る。 思いっきり誤解した目つきで逃げて行くのを、見送って。 「俺、何しに来たんだっけ‥‥」 ぷつん、とトカキの意識は途切れた。 一夜の夢は、様々な想いを乗せ―― こうして過ぎていった。 |