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■オープニング本文 見慣れない実を見つけた疾風は、おっと声を上げてするする木に登った。 「おいしいでしょ。あたしが見つけたのよ」 においをかいで少し齧ってみると、甘酸っぱい味と香りが口いっぱいに広がる。得意げな顔をして見上げてくるのは、小さな背中にもっと小さな鷹の羽を持った少女。 「…いいから、早く探せよ。こんな場所で遊んでるからだぞ」 むすっと言い返す疾風に、少女は大人びた仕草で肩をすくめると屈んでじっと地面に視線を落とした。 髪飾りを落としたから探すのについて来て欲しいと、幼馴染の音々からお願いされたのが少し前だ。思いのほか村から外れたその場所に、疾風は苦い顔をする。 小さなうちから森を遊び場にしているとはいえ、あまり離れすぎては道にも迷うし危険も伴うのだ。 (でもこの実、うまいな。―― あいつらにも教えてやるか) こんな辺鄙な場所にある森に遊びに来たという開拓者たち、よくわからないままに強引に連れ回されて、そして―― 友達になった。 また遊ぼうと、次に来たときはいい遊び場所も見つけておくと、約束して。 それからの時はめまぐるしく過ぎて……漠然と森で過ごしていた日々が嘘だったように、見るものすべてが生きて見えた。 遊び場も美味しいモノが取れる場所も、たくさん見つけた。新しい技も教わって練習もしているし、年の近い子供たちとも仲良くやれている。 (はやく遊びに来ねーかなぁ) 今度は。はじめから歓迎して、そしてまた遊ぶのだ。みんなで。 「あれ…?」 小さな声が、ふいに上がってきた。下を見ると、音々が立ち上がりどこかを見ていた。 「どうしたー?見つけたのか?」 「あれ、見て。なにかな」 疾風も立ち上がり、指差されたほうに視線を向けて首を傾げる。ぼんやりと霞む木々、不透明な霧が発生していたのだ。この時期や時間に見ることはないはずなのに。 「……」 じ、と不思議な霧を見つめる。どこかのっぺりとした重さのある霧は、まるで留まっているその場所を空気ごと吸い込もうとしているかのような、そんな感覚を与えて。 ゆらり―― と、霧が動いた。 「っ、逃げろ!」 まるでこちらの存在に気づいたように、たゆたう動きが明確な動きを見せたとき、疾風は叫ぶと木から飛び降りた。痺れる足を食いしばり、驚いたように強張っている体を何とか突き飛ばす。 「っうぁ……!」 その瞬間、一気に視界が曇った。体中を圧迫する苦痛と、ぶちりという音と共に羽に激痛が走る。食い千切られたように、羽に空洞ができ霧が纏わりついていた。じわじわと押し潰される感覚、ふっと意識が揺らぐ。 「疾風ちゃん!…疾風!」 飛び込んできた、声。音々の声だ。ここで意識を失ったら、音々はどうなる。守らなければいけない、絶対に守らなければ。 生命波動で、傷口を塞いでいく。纏わりつく霧を振りほどき、地面を蹴ると外へと飛び出した。 「疾風ちゃん…っ」 「走れ!」 傷は塞いでも流れ出た血が消えるわけではなく…姿を見せた疾風に、目の前の顔が泣きそうに歪む。その手を取って、走り出した。 もしも成すべき事があるのなら、誰かを守れる存在でありたい―― あの日、そう思わせてくれたのは開拓者たち。鍛錬だけじゃない事、誰かと接する楽しさ、あの1日だけでどれだけのことを気づかせてくれただろう。 「きゃぁ!」 ハッと顔を上げる、いつの間に湧いていたのか黒々とした蝙蝠が音々の周りを飛んでいた。ただの蝙蝠ではない、これもアヤカシだ。 全身を襲う痛みを堪え、空気撃を撃ち込んだ。霧が迫ってきているのがわかる、蝙蝠も蹴散らすだけですぐに戻ってくるだろう。 目の前に広がる激しい流れの川、この流れさえ乗り越えれば穏やかな水流の場所へと辿り着ける。 「飛び込め!」 ぐいと手を引っ張り、音々を川へ投げ込んで―― 疾風も後を追うように、濁流へと身を投げた。 一瞬だけ浮かんだのは、あの日見た多くの笑顔と、小さいはずの大きな背。 「いいよなぁ、お前はエサ捕まえて来れて」 ちゃぽんと釣り糸を垂らした男が、うしろで満足そうに夕飯を貪っている迅鷹へと声をかけた。 「…お、魚かっ……って、おいいぃ」 負けてられねぇと水面を凝視していると、大きく水面が波立つ。男はギョッと立ち上がり、ざぶざぶと川へ踏み込むと、水面を波立たせている存在へと手を伸ばす。それは2人の子供だった。 「たす、け……アヤカシが…」 小さな少女が、小さく呟いてふっと意識を手放す。必死に掴んでいたのだろう少年の腕が離れ、沈んでいくのをとっさに抱えて引き上げた。 「…こりゃひでぇ」 少女は気を失っているだけだが、少年のほうの傷はひどい。押し潰されような歪んだ痕が、全身にあった。 「迅、頼まれてくれ。近くに村があるはずだ、そこで助けを呼んでこい」 迅鷹を呼び手早く文を書いた紙を足に括りつけると、ぽんと頭を叩く。それを待っていたかのように、暮れかけの空へ翼が舞い上がった。 「さてっと……ちっと我慢しろよ。悪ぃな、治してやれる力は持ってねぇんだ」 男はぐったりしている子供たちを抱え、とりあえず此処よりは安全な場所へと運んでいくのだった。 |
■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
羽紫 アラタ(ib7297)
17歳・男・陰
嶽御前(ib7951)
16歳・女・巫 |
■リプレイ本文 小さな村は不安と喧騒に包まれていた。 「アヤカシに襲われて子供が大怪我をしているとは…発見と保護をしてくれている方と、知らせに来てくれた迅鷹に感謝ですね」 手紙を読み、菊池 志郎(ia5584)は羽を休めている迅鷹を振り返る。 「二人を見つけても安全な朝になるまで戻らないから、心配しないでくれなー」 できれば疾風と遊ぶために来たかったと思いながら、羽喰 琥珀(ib3263)は村人たちへ告げた。 「…すまない、俺がこんな怪我さえしてなけりゃ」 小さな声が謝罪する。疾風の父、速鷹だ。右腕は包帯でぐるぐる巻きな姿でぐったりしている。疾風を探そうと飛び出して行こうとしたのを、村人たちに止められたらしい。 「俺たちに任せとけって。早く見つけて一緒に遊びてーし」 明るい笑顔が、速鷹を励ました。 「だが、急いだほうがよさそうだな」 羽紫 アラタ(ib7297)は暗さを増した外に目をやる。頷き、志郎も迅鷹に向ける。 「急いで救出に向かいましょう」 ばさり、と迅鷹の羽が舞った。 ● 寝静まったような静けさ漂う山に、迅鷹の羽音が響く。少し先も見えない山の暗闇には、松明の火だけが唯一の明りだった。 「手紙の通り通りの状況でしたら、出血と低体温にアヤカシと…とにかく非常に危険な状態ですね」 詳しい事情は書かれていなかったが、得られた情報からだけでも充分に危険な状況だと伝えてくる。三笠 三四郎(ia0163)は暗闇に気を研ぎ澄ませながら進む。 「はい。状況も状況ですからできる限り戦闘は避けて、疾風さんたちの救助を優先する案も考えられますが…」 後方に付き松明で辺りを照らしながら、嶽御前(ib7951)が提案した。 「そうですね…ですがついてこられても困ります、ここで殲滅してしまいましょう」 避けて通れば、これから行き着く疾風たちに近い場所での戦闘になる。当然だがそれだけ疾風たちにとってアヤカシに対しての危険度は増すだろう。 先頭に立ち松明と暗視で誘導するように進む志郎の言葉に、もともと仲間の判断に任せるつもりだった嶽御前はこくりと頷いた。 「あいつなら無事でいるさ!まだ約束も果たしてないんだからな」 わざと大きな声を出し、音をたてて琥珀が歩く。疾風たちのほうへは行かせないように、アヤカシがこっちの存在に先に気づくように。 急ぐ思いはあるが足場も視界も悪く、先頭に立つ志郎の注意を促す声に皆が耳を傾けながら少しずつ奥へと進んで行く。 「…嶽御前さん」 「はい」 ふ、と志郎が立ち止まった。暗視を発動させた瞳が、じっと進行方向へ向けられている。心得たように嶽御前は瘴気結界「念」を使った。ぼんやりと発光した嶽御前の体が闇に浮かび上がる。 「十時の方向に瘴気の気配があります。このまま進めば向こうも気づくでしょう」 「子供たちが心配だ、急ぎたいな」 この近くにもしかしたら疾風たちが隠れているかもしれない―― アラタが冷静な面持ちで周囲に気を向けた。 「そうですね、見失わないうちに。…と、迅鷹も狙われたら危険ですよね」 安全なところへ、と差し出した志郎の手をじっと見て。迅鷹は顔を上げ視線を前方へ向けると、理解しているように開拓者たちの後ろ側へと移動した。この先の暗闇に蠢くアヤカシの存在に、気づいているのだろう。 気づかれていないならと、打って変って息を潜め足音を忍ばせて近付いて行く。 「…この辺りですね。行きますよ」 それぞれが得物を構える。松明が投げ置かれ、三四郎の咆哮が響き渡った。ゆらりと留まっていた不透明な霧が、大きく揺れ一気に迫ってくる。 「上空からも来ます!」 暗視の目で確認できる情報を伝えつつ、前衛の邪魔にならない場所まで志郎は素早く後退する。 小さな羽音はやがて無数の蝙蝠の形をして姿を現し、三四郎へと牙を剥く―― だが、暗さに慣れてきた目と研ぎ澄まされた聴覚は無数の羽音を聞き分け、範囲内に飛び込んできた複数の蝙蝠を両手に握られた不動明王剣が大きく薙ぎ払った。鋭く不快な悲鳴を上げ、何匹かが瘴気へと返る。 「位置のほう頼むっ」 内が見通せない不透明な霧に顔を顰める琥珀の傍へ駆け寄り、前方右寄りへ嶽御前の手が大きく伸ばされた。瘴気結界「念」により淡く発光した腕が、瘴気の中心部にある目玉の位置を的確に示す。 「瘴気の塊りを感じます、恐らくあそこが中心でしょう」 礼を伝え、位置を狙い定めると志郎は掌に集中させた気を放った。間髪入れずに霧へと接近した琥珀が、一度鞘に収めた殲刀「朱天」を素早く抜き放ち居合で斬りつける。 囮として放たれる気功波と、回避したところを狙い仕留める居合―― 敵の高い回避能力に加えて最悪の視界には息の合った連携が何よりも心強い。 痛みを感じないはずの吸血霧は、だが次の瞬間まるで動揺したように霧を揺らめかせた。 (!みーっけっ) 濃いもやの向こう、小さな目玉がぎょろりと覗く。にっ、と笑った琥珀は居合の斬りつけた状態から刃を返し、素早く追撃した。円月―― その切っ先は月があるように美しい弧を描き、もやの向こうへ吸い込まれていった。 「我の前に立ち塞がる敵を切り裂け」 アラタの符から飛び出した黒い鼬は闇に紛れ、群れる吸血蝙蝠をすれ違いざまに切り裂く。わらわらとばらけた群れへ隙を与えることなく、黒い球体を形作る霊魂砲が銃弾のように放たれた。 嶽御前から生み出された浄炎が、孤立させることのないよう三四郎を支援するようにその周りへ出現する。 「…想像以上に多いですね」 剣気を叩きつけ、怯んだ蝙蝠を回転切りで薙ぎ払った三四郎が息をついた。こんな数の敵に疾風は会っていたのだ。 「そーだなっ…と」 「ですが、いずれは終わります」 連携体制で攻撃を繰り返していた琥珀と志郎。掴みどころがない霧だが、確実に手応えは感じて。 まるで霧へと向かうことを邪魔するように上空を飛び回る蝙蝠を、琥珀の瞬風波によって生み出された風の刃が直線上を昇り吹き飛ばした―― そのとき。 「…!」 ぶわ、と重々しい霧が一気に視界を奪う。最期の足掻きとばかりに瘴気の濃霧が捕食せんと、押し潰すように迫る。 「こちらの方向です。狙えますか」 閃癒によって光りと癒しを与えながら、嶽御前が場所を指し示した。素早く志郎が気功波を打ち出す。 「とーぜん!」 「これで最後だ。奴の目玉に向かって食らいつけ!急々・如律令っ 眼突鴉 召喚っ!」 琥珀が駆け、殲刀「朱天」を抜き放った。アラタの符から召喚された黒い鴉が、まだ見えぬ中心部の目玉を狙い飛び出していく。 音もなく大きく揺れ霧は霧散し―― やがて、夜の暗闇が戻った。 ● 「よう、待ってたぜ。早く治療してやってくれ」 焚き火に照らされた洞穴は明るく、暖かかった。座り込んでいた男はひょいと手を上げ、場所を譲るように立ち上がる。笠に隠れて、その顔は見えない。 寝かされている疾風の手を握っていた音々が、怯えたように開拓者たちを見上げた。 「疾風さんを助けに来ました。怖がらなくて大丈夫ですよ」 穏やかに、目線を合わせるようにして志郎が告げる。 「大丈夫か?しっかりしろ、俺の声が、聞こえるか?」 そっと近付くと無理に体を起こすことはせず、アラタは疾風の脈を確認した。医者になるための勉強をしていた彼の動きはとても的確だ。 「大丈夫だ、脈もある。…強い子だな」 血は止まっているがいたるところにある押し潰されたような傷跡は、間違いなくあの霧によりつけられたものだろう。脈は弱いが、しっかりと間隔を空け動いている。 すぐに嶽御前と志郎による閃癒が施され、持ち寄った毛布で体が温められる。薬草、包帯など治療に必要なものも用意され、アラタが術以外の治療にあたった。 「大変でしたね」 邪魔にならないようにと自分から離れ、端のほうから見守っている音々へ志郎が話しかける。少しでも少女の気が紛れるようにと。 与えられた毛布に包まり志郎を見上げる顔は、まだ青白く強張っていた。それでもぽつりぽつり、と何があったのか経緯が語られる。 「疾風さんはこんな怪我をしてでも音々さんを守って、音々さんもアヤカシの存在を助けてくれた方に伝えたのですか…二人とも、偉いですね」 見上げてくる少女の顔が歪み、糸が切れたように大粒の涙がぼろぼろと溢れだした。初めて見るアヤカシの姿、傷だらけで意識の戻らない疾風―― そんな現実に、泣いている余裕はなかったのだろう。 「疾風ちゃん、助かるよね…」 「大丈夫、助かりますよ」 ぐずっと鼻をすすり、音々は毛布に顔を埋める。ぽろぽろと零れて止まらない涙に少し困ったように笑って。 「…そういえば、髪飾りをなくしてしまったんですよね。大切なものの代わりにはならないけれどもしよければ」 志郎は、紅の珊瑚の髪留め差し出した。まだ涙が溜っている目が驚いたように丸くなる。 「ありがと、おにいちゃん」 華やかな可愛らしい髪留めと穏やかな瞳を交互に見て、音々は笑った。 「音々、志郎」 琥珀が振り返る。急いで駆け寄ると、硬く閉じていた疾風の目が開くところだった。 「疾風ちゃん!」 包帯を巻かれた姿は痛々しいが、治療を施されあたたかい毛布で体温を取り戻した疾風の顔色は随分とよくなっている。 ぼんやりとしていた視線は、それが音々で無事な姿なのを認めるとほっとしたような安堵の顔になった。 「よ、また遊びに来たぜ」 「おまえ…琥珀!」 ひょっこり横から覗いた懐かしい顔に、驚いたように声を上げる。嬉しいのか笑いたいのか遅いと文句のひとつでも言いたいのか……結局、自分でもよくわからなくなって。 「おまえたちが帰ったあと…俺、頑張ったんだ。けど…ダメだった。弱いままだった」 琥珀たち開拓者がここにいるということはきっと、助けられたんだろう。音々と逃げるだけで、こんな怪我をしただけで、何もできなかったのだ。 「しけた顔すんなって。守りたいもの守れたじゃんか、もっと胸張っていーんだぜ?」 こつ、と額が突かれた。明るい笑顔が、何でもないように言って笑う。 守りたいものを、守れた―― 怪我はしたけど、音々はこうして無事でいる。これは…守れたという事? 「もし動けるようなら、これを。あなたが無事でよかったです」 考え込むような沈黙に、三四郎がどこか気遣いを滲ませ声をかける。差し出したのは衣服だった。体を起して着替えることができるなら、清潔で乾いた衣服のほうが良いだろう。 清潔な包帯は巻かれているものの、体を動かすことは危険だったため衣服は川に飛び込んだときのままだ。 頷いて礼を言うと、衣服を受け取った。 山に吹く特有の強い風に、木々がざわつく音が舞い込んでくる。 「温まればと思い持ってきました」 冷えるかもしれない夜に備えてと、嶽御前が甘酒を取りだした。ひとりひとりに手渡し、何事もなかったかのように奥で自然に腰を落ち着けていた男へも近づき差し出した。 「…お、俺にもか?悪ィな、もらっとく」 顔を隠していた笠が少しだけ上げられ、金色に瞬いた瞳が愉快そうに細められる。意外な人懐こい笑顔がお礼を言った。 視界が確保できる朝までこの場所に留まるため、交代で見張りが立てられる。 「―― …」 甘く温かい甘酒を飲み寝転がると、疾風は音のする入り口をぼんやり眺めていた。 初めて接したアヤカシという存在、自分の弱さ、守りたいもの……そんなものがぐるぐるとまとまらずに去来しては消え去り―― やがて深い眠りに落ちていった。 ● 陽が差し込む山は、夜とはまったく違った雰囲気でそこに在った。 「なぁなぁ、いー遊び場所とか見つけて案内するって約束だったよな?」 ものすごく不本意そうな顔で志郎に背負われている疾風を、隣りを歩く琥珀が見上げる。 傷の具合もよく痛みもほとんど感じないものの、どこかまだ本調子ではないのか、立ち上がる際によろけた疾風は問答無用で背負われることとなり―― 気概だけはある少年は、子供扱いされているようで不服らしい。 「おう、そーだったな」 もちろん、忘れるわけがない。また一緒に遊べることを楽しみにしていたのだから。 に、と悪戯っ子のような笑顔で、琥珀が音々を振り返った。 「そこに行く途中に探そーぜ、宝探しみてーだし楽しそう」 髪飾りの経緯を聞いていた琥珀のその言葉に、疾風は同じように音々を振り返る。ちゃっかり見慣れない髪飾りを付けてご機嫌で歩いているのに苦笑して。 「いいな。とびっきりの場所見つけたから、案内してやるよ」 やっと守ることができる約束に、心の底から嬉しそうに疾風は笑った。 |