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■オープニング本文 ●浚われた子供たち 長屋に立て篭った開拓者と勅を受けた浪志組の睨み合い。 開拓者ギルドから奪われた護大。 朝廷が隠す真意。 五行国襲撃など状況が大きく変化しつつある片隅で、ひとつの問題が上がっていた。 「浚(さら)われた子供たちの居場所がわかったって!?」 生成姫に、浚われた子供たち。 穂邑暗殺を狙った志士ヨキに代表される裏切り者だ。 彼らは紛れもない人間だが、決して望んで人を裏切ったわけではない。 洗脳されたのだ。 大アヤカシ「生成姫」によって。 本来、彼らは仲間になるはずだった。 両親に愛されて育ち、開拓者として共に旅をし、唯一無二の親友になる可能性を秘めていた。 けれど。 志体持ちに生まれたが故に、狙われてしまった。 度重なる調査により、彼らは自我が芽生えるか否かの幼い頃に本当の両親を殺され、親に化けた夢魔によって魔の森へ誘拐された事が分かっている。浚われた子供達は、魔の森内部の非汚染区域で上級アヤカシに育てられ、徹底的な洗脳とともに暗殺技術を仕込まれるらしい。 成長した子供達は考えを捻じ曲げられ、瘴気に耐性を持ち、大アヤカシ生成姫を『おかあさま』と呼んで絶対の忠誠を捧げてしまう。 偽りの母である生成姫の為に、己の死や仲間の死も厭わない。 絶対に人に疑われることがない――――最悪の刺客として、この世に舞い戻る。 子供達の行く末が、避けられざる悲劇にしかならぬ事を、多くの開拓者が痛感し始めている。 そんな中で。 誘拐されたソラという少年を探しに行った開拓者たちが、重要な情報を持って帰ってきた。 今現在、育てられている子供の居場所である。 「はい。里の構造と人数、失踪していた開拓者の情報などが届きました。完全に洗脳されていない子供が里に残され、成人した子供は皆、密命を与えられて解き放たれたようです。警備は手薄。今なら里を束ねる上級アヤカシもいません。ただ……」 長い間、子供たちの捜索を指揮し、依頼主として大金を提供していた五行国の封陣院分室長、狩野柚子平(iz0216)との連絡が途絶えた。神楽の都の開拓者ギルドを襲撃したアヤカシの大群は、現在、五行国の陰陽寮や結陣を襲撃している。 支援や助言は期待できない。 けれど、好機は今しかない。 かの大群を率いている天女のような上級アヤカシ鬻姫(ひさき)こそが、北面で討伐した白琵琶姫亡きあとの隠れ里を任されていた里の主だ。あの軍勢が魔の森へ戻る前に、せめて洗脳の浅い小さな子供だけでも救い出さねばならない。 さもなくば。 隠れ里に誘拐された子供たちは、いずれ我々に牙を向き、悲しい最後を遂げるだろう。 「手の空いている開拓者を集めろ。カネなんぞ二の次だ」 「しかし現地の商用飛空船の行き来は、行きと帰りで一日二便。とてもじゃありませんが、一般の飛空船の協力だけでは、子供たちや衰弱した大人の救出は不可能です」 「だからこそ開拓者の力を借りねばなるまい。確か……飛空船の使用権限を保有していた者たちが、何人かいたはずだ。同じ空路で飛空船を動かし、全員を収容できる体制を整えよう」 受付の男は拳を握った。 「これ以上、仲間や子供たちを……暗躍のコマに使われてたまるか。救い出すなら今しかない。急げ!」 ●子供たちの救出作戦 五行国の東に聳える、渡鳥山脈。 その魔の森の奥深くに『蕨の里』と呼ばれる秘密里がある。 意図的に汚染されていない里は魔の森に取り囲まれており、非力な者には脱出不可能だ。 現在『浚われた子供たち』は、そこで洗脳と戦闘教育を受けている。幸いなことに上級アヤカシは不在で、一撃で中級アヤカシを倒すと言われる『成長した子供たち』も誰ひとりいない。 残されているのは。 洗脳の浅い3歳から8歳の子供たち21名。 彼らの教師役として誘拐された、衰弱した大人の開拓者4名。 子供達一人に一匹、お目付け役として里の中をうろつく怪狼21体。 人が住む家屋の玄関先に一体ずつ寝そべる鵺5体。 幼子の両親に化けている夢魔8体。 「みんな、やることは多いぞ」 集められた開拓者たちは、魔の森を跨ぐ商用飛空船に混じって、非汚染区域の水源に降り立ち、龍たちを置いて魔の森――ひいては蕨の里へ潜入する。 しかし脱出手段である飛空船は着陸できない。上空で故障を装い待機することになる。 また相棒のみを地上で放置すると襲撃されてしまう為、その場に残って守る者が必要だ。 魔の森は様々なアヤカシが彷徨う。 そして滞在するだけで瘴気に汚染されてしまう。 「まず子供達の救出だ。3歳程度の子は夢魔が2体、常時傍らにいる。怪狼は子供一人に一体つきそう。8歳程度になると、さほど洗脳は受けてなくとも下級アヤカシなら一人で倒せる程度の技量が身についている。武器に注意しろ。それと……楽器を持っている子にもな。上手く言いくるめて、楽器を取り上げて破壊した方がいい。楽器は下級アヤカシだ。吹いたら最後、大量の下級アヤカシを呼び寄せる」 先生役の教育が始まった子供は『おかあさま』から楽器を与えられるらしい。 先日、穂邑を襲ったヨキのように、美しい旋律を奏でられる頃には、下級アヤカシを呼び集めて操る『声』になる。 まさに鈴付きの猫だ。 「つまり子供達は……夢魔2体と怪狼付きが4人、怪狼付きが13人、楽器持ちの怪狼付きが4人ね」 「四人の大人を忘れるな。里の外れの屋敷に軟禁されているが、武具は取り上げられていて、衰弱していたと聞いた。殆ど使い物にならない。門番の鵺は、飛ぶ上に雷撃を使う。手ごわいぞ」 一般的に鵺が放つ雷撃の射程は60Mと言われる。 「子供たちが暮らす家の方にも鵺がいるんだな」 「ああ。ちなみにお供のアヤカシ無しで蕨の里を出ようとすると、遭遇するアヤカシ達が片っ端から追ってくるそうだ。最悪、無理にでも子供を抱えて逃げることになる。退路確保班は必要不可欠だ」 ところで、と。 ひとりの開拓者が、職員の用意した壺に目を止めた。 「それは?」 「中身か? 昨年の秋。五行の東、白螺鈿の土壌を汚染していた『瘴気の木の実』だ。濃度の高い瘴気が詰まっている。子供たちを全員脱出させたら、里破壊担当班がこれを撒いて、踏み潰せ。かなりひどい瘴気を浴びることになるが、決して瘴気は浄化するな。この実を使って蕨の里を汚染して……二度と人の子を攫ってこれないようにするんだ」 「そんな」 「俺たちに……生き残った自然や土地を腐らせろと?」 今まで魔の森を焼き払い、浄化したいと願ってきた。 けれど。 生成姫の魔の森内部に、非汚染区域が残れば……この悲劇は繰り返されてしまう。 非汚染区域が無くなれば、人間を魔の森の中で飼うことは不可能になる。 毒を持って毒を制する。 それは開拓者ギルドが下した、苦渋の決断だった。 |
■参加者一覧 / 朝比奈 空(ia0086) / 鈴梅雛(ia0116) / 音有・兵真(ia0221) / 劉 天藍(ia0293) / 鷲尾天斗(ia0371) / 俳沢折々(ia0401) / 柚乃(ia0638) / 酒々井 統真(ia0893) / 玉櫛 狭霧(ia0932) / 玲璃(ia1114) / 胡蝶(ia1199) / 水鏡 雪彼(ia1207) / 乃木亜(ia1245) / 大蔵南洋(ia1246) / 八十神 蔵人(ia1422) / 御樹青嵐(ia1669) / 羅轟(ia1687) / 弖志峰 直羽(ia1884) / 九竜・鋼介(ia2192) / 黎乃壬弥(ia3249) / フェルル=グライフ(ia4572) / 平野 譲治(ia5226) / 夏葵(ia5394) / 菊池 志郎(ia5584) / 鈴木 透子(ia5664) / からす(ia6525) / 亘 夕凪(ia8154) / 一心(ia8409) / 咲人(ia8945) / 村雨 紫狼(ia9073) / 郁磨(ia9365) / 桂 紅鈴(ia9618) / 明日香 飛鳥(ia9679) / フェンリエッタ(ib0018) / ウィンストン・エリニー(ib0024) / アルーシュ・リトナ(ib0119) / 琥龍 蒼羅(ib0214) / 萌月 鈴音(ib0395) / 不破 颯(ib0495) / グリムバルド(ib0608) / ネネ(ib0892) / フィン・ファルスト(ib0979) / 无(ib1198) / 五十君 晴臣(ib1730) / 蓮 神音(ib2662) / 藤丸(ib3128) / 杉野 九寿重(ib3226) / 煉谷 耀(ib3229) / ディディエ ベルトラン(ib3404) / アルマ・ムリフェイン(ib3629) / 針野(ib3728) / 鉄龍(ib3794) / 長谷部 円秀 (ib4529) / マックス・ボードマン(ib5426) / 緋那岐(ib5664) / ローゼリア(ib5674) / ウルグ・シュバルツ(ib5700) / 笹倉 靖(ib6125) / セフィール・アズブラウ(ib6196) / ユウキ=アルセイフ(ib6332) / マハ シャンク(ib6351) / シャンピニオン(ib7037) / リオーレ・アズィーズ(ib7038) / 雨傘 伝質郎(ib7543) / 刃兼(ib7876) / 一之瀬 戦(ib8291) / カルフ(ib9316) / 一之瀬 白露丸(ib9477) / 弥十花緑(ib9750) / 緋乃宮 白月(ib9855) / 沙羅・ジョーンズ(ic0041) / 松戸 暗(ic0068) / 藤本あかね(ic0070) / 草薙 早矢(ic0072) / 津田とも(ic0154) / スチール(ic0202) / 衝甲(ic0216) / 島津 止吉(ic0239) / 厳島あずさ(ic0244) / ナザム・ティークリー(ic0378) / 山中うずら(ic0385) |
■リプレイ本文 上級アヤカシ『鬻姫』の襲撃を受け、神楽の都の開拓者ギルドは遅れを取り戻すべく慌ただしい空気に満ちていた。壊された建物や備品の修理、怪我人の手当。そして今回の『浚われた子供たち』救出作戦は、よりにもよってギルドの支援が一切ない中で行われる。 救出の好機は今しかない。 だが物資や報酬を提供していた関連依頼主の狩野柚子平(iz0216)とは連絡がとれない。救出に足りぬ人手と飛空船を補う為に開拓者に声をかけた。 結果、80名の開拓者が命をかけた救命ボランティアに志願した。 見返りのない、生と死の狭間の旅。 魔の森への侵入は生き物にとって自殺行為である。けれど救える命があるなら、と。 「生きて帰れ」 「ああ」 五行国首都「結陣」の東に聳える渡鳥山脈は、既に真っ白に染まっていた。穂邑の立て篭り騒ぎの時、神楽の都には雪が舞っていた。山の中は推して知るべしである。 渡鳥山脈が迫る。 萌月 鈴音(ib0395)は、先導する商用飛空船「晴天」の中で空夫の陽炎に子供や開拓者に接触しない事を誓わせていた。要人に対する万が一の備えである。 静静と準備が進む。到着地点で多くの開拓者が、相棒と地上へ降りていく。 「ガキを洗脳なァ……イイ趣味じゃねェなァ」 忌々しげに呟いた鷲尾天斗(ia0371)は「ここは任せなァ」と仲間達に声援を送った。 駿龍質流れの手綱を握った雨傘 伝質郎(ib7543)が皮肉げに笑う。 「末恐ろしいお子様だとか。ガキを態々集めて育てるたァ、御苦労様なアヤカシですな」 「親を殺して成り代わり洗脳、か。フフフ……怒りもここまでくれば笑えてくるのだな」 甲龍スカイホースに跨るスチール(ic0202)の青い瞳は、怒りに燃えていた。 駿龍若月に跨る煉谷 耀(ib3229)が釘を指す。 「目は曇らせるな。それこそ生成姫が好む隙だ。今こそ己が為すべきを見据え、傍の仲間と共に戦え。……怒りは、俺も同じよ」 「分かっている。学んだ技術とこの命、今一度世界の為に役立てようではないか」 スチールは矢盾を三つ背負って地へ降りる。 小隊【黒鉄】の隊長である羅轟(ia1687)が激励した。 「俺は、ここで……待つ。必ず生きて……帰還せよ。……皆、きいてるか?」 桂 紅鈴(ia9618)は飛空船に残る明日香 飛鳥(ia9679)の身を心配し「ヒーちゃん、皆と一緒にいるのにゃよ? 一人で出て行ったりとかダメにゃ」等と延々と話していた。 が、苦笑した咲人(ia8945)に首根っこを掴まれた。 「はいはい、絶対に帰ってくる為にも俺達の仕事に集中だぞ」 明日香も言われっぱなしではなく「仕事を疎かにすることは許さないからな」と釘を差した。咲人達が駿龍天蓮と甲龍赤銅に跨って地上に降り立ち、残留者の話を聞くように命令をしておく。 「さぁ、紅鈴の姫様からの厳命『成すべき事をして無事帰る』を実行するにゃ!」 「全員救って蕨の里をぶっ壊す! その為にも退路は必要不可欠だ。紅鈴、遅れるなよ!」 上空の郁磨(ia9365)が明日香の肩を叩く。 「……さてと。ひーくん、俺たちも行こうか。しゅしょー、船の操縦は任せましたよ〜?」 へらりと笑って、炎龍の遊幻に騎乗し、白銀の世界に舞った。 炎龍紅冥の手綱を操る明日香は「愚問だな。船を絶対に守るぞ」と声を返す。 遠ざかる背を見送った羅轟は、からくりの琴音に操舵手を命じた。 駿龍克に指示を出したカルフ(ib9316)も飛空船にとどまった。 「羅轟さん、機関手なら任せてください。それに……戻ってきた人の為にも、ぎりぎりまで中で勤めを」 「うむ。任せる」 救出と脱出に成功しても、重傷者は大勢現れるだろう。 ギルドに戻っても、負傷したままでは充分に戦えない。 カルフのように治癒術を持つ者の数が、今後の初動を大きく握っていた。 地上に降りた黎乃壬弥(ia3249)もまた厄介そうな顔をした。 「全く。誘拐して洗脳して、玩具や戦の駒か。悪趣味なやり方だな」 「うん、こんな事辛すぎる……生成姫の子供って雪彼と似てるかもね」 「似てるもんか。待ってていいんだぜ?」 モノ言いたげな顔をした傍らの水鏡 雪彼(ia1207)は首を振った。 「壬弥ちゃんや直羽ちゃんだけ行かせる訳ないよ! 雪彼も一緒に行く!」 弖志峰 直羽(ia1884)の元へ走る水鏡を、黎乃が見ていた。 鈴梅雛(ia0116)が甲龍のなまこさんから降りると上空の飛空船を指差した。 「皆の言う事をよく聞いて。ひいなが戻ってくるまで、ここで大人しくしてて下さいね」 炎龍の鈴と降りた萌月も言い聞かせ「いきましょう、鈴音ちゃん」と手をひいた。 魔の森は、全てが瘴気に汚染された忌まわしい場所だ。 虫や獣だけならいざ知らず、土くれや樹木すら仮初の命を得て、獲物を求める。 退路確保班が数名ごとにその場に残っていく。 やがて里に到着した。 身を潜めたフェンリエッタ(ib0018)は単独の子供に狙いを定め、キャンディを放る。 すると子供が気づいて走ってきた。 表情は晴れやかに輝く。一つ、二つ、三つ目と物陰へ誘導すると、見張りの屍狼が後を追いかけてきた。 具合の悪そうな羽妖精ラズワルドが子供に『おかあさまの頼みで笛の先生連れてきたんだ。笛持ってる子達どこ?』と話込んでいる間に、死角にいたフェンリエッタの剣が屍狼を貫く。一瞬で瘴気に還った。 「ねーさまとにーさまは、ごはん当番だよ」 色々と話を聞いたラズワルドが子供を眠らせ、フェンリエッタが少年を抱きしめた。 「この子は私が。皆さん、他の子をお願いします」 行動開始である。 作戦開始直後から苦戦を強いられたのが『先生救出班』である。 四メートルはあろう巨体の門番、鵺を引きつけている間に子供を救出する計画だったが、八十神 蔵人(ia1422)が真っ先に第一標的へ三十メートル付近から咆哮を浴びせても、警戒するだけで襲ってこなかった。 確率的には五分より上。だが此処は魔の森内部にある飛び地。 「うっわ、マジかいな。わしらを恐るるに足りずって風体が腹立――うわぁあ!」 「くるぞ!」 鵺の雷が八十神と鉄龍(ib3794)に襲いかかる。 寸前で二人共交わしたが危なかった。鵺の放つ雷の射程は六十メートルだ。身が素早くなければ、逃げきれない。 それは同時に、全速力で接近する前に、攻撃を複数回浴びる可能性の方が高い事を示していた。鵺は少しでも姿を見せた開拓者に雷を浴びせようと構えている。 小隊【華夜楼】の隊長、黎乃は物陰に身をひそめた。 「四体同時の相手をやめて正解だな、こりゃ。強化型とかいったか? 炎鬼でもバカ固ぇのがいる以上、守り役も普通じゃあないわな。この上、飛ばれたら洒落にならん」 小声で愚痴を零しつつ、黎乃は遥か後方の藤丸(ib3128)に合図を送る。 百メートル先の獲物も貫く弓が、標的に狙いを定めた。 地道に削るしかない。今はまだ。 意図を差した針野(ib3728)も八十メートル後方へ下がり、音を込めた強力なひと矢をお見舞いした。流石の鵺も雷撃が届かないと判断するや、大地を蹴る。 刹那、物陰に潜んでいた長谷部 円秀(ib4529)が一瞬で鵺に肉薄し、その喉を捉えて握りつぶした。 ずん、と重い音を立てて前に崩れる。 重傷の鵺に好機を見た鉄龍が、大地を駆けた。前足のひと凪ぎを浴びつつも、鬼のような剛力で翼をへし折り、引き抜く。 砕ける鵺を眺める長谷部の表情には、勝利の歓喜はない。 「……人を踏みにじる所業を、黙ってみているほど、我々はおとなしくなどないんですよ。さぁ時間がありません」 「ああ、違いないな。長引けば魔の森にいる仲間も危険だ」 黎乃が「いい腕だ」と感心する傍らで、鉄龍に治癒符を施す劉 天藍(ia0293)は冷静に分析した。 「子供の所にいる鵺を除いて、開拓者を監禁してるのが全部で四体。幸い弓術士は二人。今のでいける。短時間でどれだけ助けられるかが、これからの悲劇を防げるかに繋がる。やるしかない」 恋人の鉄龍に駆け寄ってきた針野が、ぴ、と手を上げた。 「さっきの距離でいいなら援護と囮は任せるっさー。空を飛ばれたら『鷲の目』で翼を射抜いて、落とせないか狙ってみるんよ」 会話の時間も惜しい。 扉を蹴倒した八十神は、憔悴している女性の口に梅干を無理やり押し込んで着付け薬の代わりにし、やや具合が悪そうな人妖雪華に回復を命じる。優しい風が女性を包み込んだ。 「あなたたちも捕まったの? 武器があるなら、今のうちに早く逃げて!」 「ちがうよ」 水鏡が羽織っていた毛布で包んだ。 こんな状態になっても尚、仲間を気遣う開拓者の誇りが胸に沁みる。 「助けに来たんだよ、今度はみんなを」 彼女の辛く苦しい日々を思えば、自分の寒さなんて大きな問題ではなかった。なにより自分には身も心も温めてくれる弖志峰が傍らにいる。けれど弖志峰の表情は硬い。 藤丸が女性に近づき、脈をみると言い手を取った。 ――――あたたかい。生きている、と認識して、初めて弖志峰は安堵した。 以前やっとの思いで魔の森から救出した娘は、体が蝋のように冷たく、体内に憑依した『生成姫』が潜み、人のフリをして救出劇を嗤って眺めていた。 当然、大アヤカシに憑依された娘は死んだ。 身も魂が凍る悲しい思い出。 救えなかった無慈悲な過去を、打ち破る時が来た。 厳島あずさ(ic0244)が手を差し伸べる。 「立てますか? 長居は無用です」 「そうそう、こんなトコおさらばして人里に帰りましょ!」 「針野さんの言うとおり、今度こそ都に帰るんだ。柊さん達も迎えに来ている、琥珀さん達は?」 必ず連れ帰ると約束した。 「柊、生きていたの? 琥珀は、西の家よ。でも鵺が」 押し黙る女性を眺め、島津 止吉(ic0239)がぺしぺしと肩を叩く。 「何の為にわしらが80人も雁首揃えてやってきたやら。これだけ手がおるんじゃ、守りは仲間に。わしもまた多少なりとも素早く、そして高い攻撃力で断ち切るまでよ」 一人救出した段階で、心の余裕は出た。 十一人の足取りは軽い。 島津は身を翻して「さぁ、次の家へ参ろう。死に花咲かせてやるつもりで行くんじゃ!」と家の外へ出て、次の標的を目指す。八十神が頬を掻いた。 「魔の森の中で死に花とか勘弁やなぁ。生きて帰らんと小隊【黒鉄】の隊長との約束を破ることになるし……でもま、わしらが引き付けてる間に攻撃するなり救出するなり早くしてくれれば……少しは浮かばれ、あかんうそです。死ぬ、あの格の相手やと真面目に一人壁は間違いなく死ぬ! 援護おぉぉぉぉ!」 「ぐああああ!」 一瞬で雷にこげた島津が起き上がれないのを見て、厳島は各所を飛び回る暇もなく、劉達と手分けして怪我の治療に当たった。怪我人を庇うにも、射程から救出するのは大変だ。 隙を作るべく、水鏡の召喚した獣が真横から鵺に火炎を吹き付け、劉が死に至る呪いを送り込む。二体目を砕いても安心はできない。 まず四人を救出したら、飛空船まで守らねばならないのだから。 バチバチと爆ぜる火の傍で食事の支度をする二人の子供に、拍手をしたアルーシュ・リトナ(ib0119)が近づいた。傍らにはキャンディボックスを持つグリムバルド(ib0608)がいる。土産だと言って渡す。リトナが微笑む。 「お役目が順調で、おかあさまがお喜びなの。あなた達も、その年で起きて当番をしていられるとは素晴らしいです。今夜から新しい曲を教えに来ました。とくにその笛は手入れが必要です。代わりにこれを。おかあさまには、優れた笛の音を届けなければね」 横笛「早春」を妖の笛と自然に交換する。 「先生? 『おかあさま』って……おねえさまやおにいさま? 里長さま、言ってたっけ?」 「ううん。でも先生は増やすって」 「里長さまはお忙しいの。では私の腕前を見せてあげましょう」 リトナが竪琴を手にする。 まどろみを誘うゆったりとした音が響き、子供達が地に倒れた。 幸いにも近くで遊んでいた子が三人、道で倒れた。向かいの道からローゼリア(ib5674)と杉野 九寿重(ib3226)が隙を狙っていた子である。 更に厠から出てきた二人が倒れた。鈴梅と萌月が駆け寄る。 異常に気づいた屍狼達がリトナ達に襲いかかったが、グリムバルドと隠れていた菊池 志郎(ia5584)達が屍狼達を斬り捨てた。 すぐに倒れた子供からも笛を回収し、ローゼリアが二本とも握りつぶす。 「他の楽器持ち二人は水汲みか」 「その子にあげた横笛はそのままに。帰ったら、教えたい曲があるんです。小鳥も呼べる。何時かは此処を浄化する唄だって」 「アルーシュお姉様……」 「ローゼ、急ぎますわよ」 眠った子供たちはすぐに目を覚ましたが、杉野が「あの程度の音で倒れてしまうなんて、おかあさまが悲しみますね」と冷ややかな声で言うので泣き出した。 子供達にとっては『おかあさま』……つまり生成姫が全てなのだと痛感せざるを得ない。 「九寿重、この子達は訓練中なのですわ。ですから慣れる訓練を致しましょう。丁度引っ越す命令も降りてますし、移動中にアルーシュお姉様が教えてくださいますわ、ね?」 ローゼリアが皆を見る。 子供達の機嫌をとる為に、皆がお菓子を与えた。菊池から木の実詰め合わせを貰った子が「おかあさまのごほうびだ!」と燥ぐ姿は何とも言えない悲しい気持ちと、人を弄ぶ生成姫への憎悪を生み出す。 「急ごうか」 グリムバルト達が、子供達を腕に抱えて連れ去っていく。 ところでウルグ・シュバルツ(ib5700)は駿龍シャリアと脱出経路を見張っていた。 傍らには甲龍の小金沢強に跨った平野 譲治(ia5226)がいる。 二人は上空から仲間を支援するつもりで飛空船から一定距離離れた。 すると眼突鴉達の群れが魔の森から空に舞った。 何故か二匹だけふたりの頭上を飛ぶ。目障りだとシュヴァルツが銃口を向けた。 眼突鴉に砲撃した刹那、砕ける寸前の眼突鴉が口に咥えていた物を割った。 猛烈な瘴気が平野とシュバルツに降り注ぐ。相棒ごと瘴気に汚染されてしまった。 「ごほ、これは、嫌な予感なり!」 「ぐぁ、こうやって人里に運んでいたのか」 そこでシュバルツは我に返った。 眼突鴉の目指す先には、仲間の帰りを待つ飛空船と、主人の帰りを待つ相棒達がいる。 そこが狙いでなくとも、結陣の方向だ。 このまま飛ばせてはならない。 「これも被害を防ぐことに繋がる、か。……全て魔の森を出る前に撃ち落としてやる!」 「全力で戻るなりよ! 敵の好きにはさせない、のだ。雲の幻想、その種を絶つのだっ!」 自身と相棒の回復は後回しだ。 シュバルツと平野は、急いで飛空船を守る仲間の元へ戻り、実を持つ眼突鴉の群れへの警告を促した。 同じ事が篠崎早矢(ic0072)の身にも起きていた。 安全地帯の着陸回収地点で相棒を待たせず、共に魔の森に踏み入った為に、鷲獅鳥の早瀬ごと瘴気に汚染された篠崎は、飛空船から離れて不自然に空を飛び回るのはアヤカシの標的になる、と遅まきながら判断するや、鷲獅鳥の早瀬の瘴気汚染を悪化させない為に回収地点に戻し、退路確保に向かった。 「くそ、寒さで指が……私に構うな! 先に行け!」 出会う仲間に気遣い無用、と声を投げる。 炎龍の火之迦具土に跨り、飛空船周囲を旋回していた鷲尾たちは、シュヴァルツ達の警告を聞いても怯む様子は無かった。 全てを打ち落とすまでだ。梅干の種を吐き捨てた鷲尾が不敵に笑う。 「騎乗状態の砂迅騎の力、テメェ等に思い知らせてやんよォ! 颯、一発かますぜェ!」 響く発砲音。 「だなぁ。可能な限り叩き潰さんとなぁ。関わっちまった責任もあるしねぇ。寒い、とか言ってられないか」 駿龍瑠璃の背で漆黒の弓を構えていた不破 颯(ib0495)は、ぶるりと身を震わせた。 魔の森から瘴気汚染の種を持って『さぁ打て。そして瘴気をあびろ』と言わんばかりに襲いくる標的を、飛空船へ接近させない内に、全て落とさねばならない。 技の準備が間に合わなかったのか、思うように技術をふるえない夏葵(ia5394)も雪の白に陰る標的を狙い続ける。 ところで大蔵南洋(ia1246)が探していた楽器持ちの子供は、年下の子供を連れて水を汲みに出ていた。 「重いよぅ」 「そのくらい持て! おかあさまに褒めてもらえないぞ!」 細い道を歩く姿を発見したディディエ ベルトラン(ib3404)が物陰からアムルリープを放った。大きい子と小さい子は強力な睡魔に抗えず、桶を落として倒れた。 幼い子が「にーちゃ?」と眠る二人をゆする。 子供達の異常に気づいた屍狼三体が、警戒し始めた。アヤカシを眠らせるか子供を眠らせるか一瞬迷ったベルトランが、子供を優先する。大蔵と亘 夕凪(ia8154)が抜刀し、瞬く間に屍狼を切り裂いた。 眠る子供たちが起きないうちに、三人は子供を毛布でくるみ、荒縄で縛り上げる。 「ふぅ。え〜…、何はともあれですね、連れていけば宜しい、という訳わけですね」 「うむ。船に戻れば菓子は山ほどあるからな。ギルドに帰るまで、子供の気は紛れる。持てるか、夕凪」 「あんたの頼みだ。もちろんさ」 かくして三人は道を戻る。途中、亘は確保に手間取る仲間に毛布と荒縄を手渡した。 残る笛持ちの子に苦戦させられたのが俳沢折々(ia0401)達だった。 鵺の動きを制限すべく、ユウキ=アルセイフ(ib6332)が凍りつかせ、その隙に俳沢が死に至る呪いを送り込む。屋内の子供たちの目付と思われる屍狼達の討伐を松戸 暗(ic0068)と衝甲(ic0216)、ナザム・ティークリー(ic0378)と山中うずら(ic0385)が担った。 だが騒ぎに気づいた中の子供が、衝甲たちを侵入者だと判断したらしい。 屋内から笛の音が響き、アヤカシを呼び集め始めた。 「慎重に……と思ったら、危険な状況だね」 アルセイフが杖を握る。 「ああ、まずいな!」 衝甲が竹盾で家と家の隙間を封鎖するも、下級アヤカシは集い続ける。松戸の苦無が飛んだ。山中は「アヤカシを刀で切り放題、攻撃を回避し放題! やってやりますよ〜」とやる気を出していた。ティークリーも人喰鼠などを打ち抜いていた。 だが寒さと魔の森の帰路を考えれば、里での余計な消耗は、確実に命を縮める。 玄関を破るか迷った俳沢の所へ偶然、撤退途中だったリトナが通りかかり、対滅の共鳴で、子供の放つ笛の音を完全消失させた。 「ありがとう!」 「いいえ! 先に戻ります!」 家屋に押し入ると、年長の少女が子供達を一点に集めてこちらを睨んでいた。 「だれ?」 「分からないから吹いたの? 愚かな。おかあさまの手を煩わせないで!」 俳沢の一喝で、笛持ちの子供は目を点にした。 歩み寄った俳沢が、笛を奪い取る。 「里長さま……ううん、鬻姫がおかあさまを裏切ったのよ。私たちは鬻姫が連れ去る前に、迎えに来たの。皆で鬻姫を倒すのよ!」 都合のいいところだけ切り取った俳沢の話を少女は信じた。 「おかあさまを悲しませるなんて……ゆるせない! はじめまして。お姉様、お兄様。まだ卒業試験には合格してないけれど、再来年、ううん来年までには、おかあさまの役に立てるようになってみせるわ!」 山中やアルセルフは、複雑そうに少女と俳沢の会話を眺めていたが、今は救出が先決だ。 「では参ろうか」 何故か衝甲やティークリーに子供が集まる。額の角を見て、いつも見ている鬼だと思ったに違いない。ティークリーの場合は年が近いからだろう。幼すぎる子は小脇に抱え、大きな子は手を引いて。全員が屋敷を出た段階で、山中は俳沢が回収した笛を刀で叩き割った。 そして酒々井 統真(ia0893)と行動中のフェルル=グライフ(ia4572)は、腕に幼い女の子を抱えていた。樹糖をしゃぶってご機嫌である。明るい茶髪でグライフと母娘にも見えるが、夢魔が見張っていた所を救出した。 「統真さん、あの子一人ですよ」 「薪割りか。屍狼だけなら、さっきよりやりやすいな」 「どうぞコレを。砂糖漬けのお菓子はまだあるので、私たちここで待ってます」 かくして新しい先生を装った酒々井は、お菓子作戦で気を引いた子供を腕に抱えて、グライフと共に撤退を開始する。 浚われた子供達の中でも、最も胸を締め付ける存在。 それが録に言葉も話せない三歳や四歳の子供達だ。傍らには父親と母親を象る夢魔の姿がある。 穏やかに笑う、偽りの親。 フィン・ファルスト(ib0979)の喉が詰まった。 ぽてぽて歩く子供が「とと、かか」と言って手を伸ばす先の存在を葬らねばならない。 生成姫への通報を防ぐ為には、一匹たりと残せない。歯ぎしりして目を伏せた。 「……ごめんね、あなた達の今の幸せ、粉々にする。でも……絶対に、あの人と同じ運命になんてさせない!」 地を蹴った。 侵入者に気づいた屍狼を一撃で葬ると、母夢魔に抱かれる子供に向かって走る。 攻撃をくらうのを承知で飛びかかった。一瞬、『人の母』を演じる夢魔に情を覚えかけたが、魅了をはねのけて子供を奪い取った。 そして暴れる子を頭から抱え込む。 親殺しは、見せたくなかった。 「……この子達の家族のフリして、この子達を騙して! 冥府へ落ちろ!」 騎士剣は夢魔を塩に変えた。もう一匹が逃げ出そうとするのを、通りかかった蓮 神音(ib2662)の強烈な蹴りが止めた。地面に叩きつけられた夢魔に、拳を叩き込むと砕け散った。 「子供たちは帰してもらうよ! 大丈夫?」 「うん、ありが」「かか? とと?」 急に姿の見えなくなった親を探して、子供がぐずり始めた。 「神音を憎んでも恨んでもいいよ。でも、君は此処にいちゃいけない」 「かかぁ、かかぁ! かっ」 ファルストが持っていた黒い飴を子供の口に放り込んだ。子供が泣き止む。 「おいしい?」 飴を舐めるのに夢中だ。 「あたし、この子を連れてく。この縄、騒ぐ子を見かけたら渡してやって」 「ありがとう! 気をつけてね!」 神音が同じように夢魔付きの子供を救出に向かう。 一之瀬 戦(ib8291)も夢魔付きの子供を救出していた。 贅沢の味を知らない子供は、甘酒一つで上機嫌になる。その純朴さが胸に痛かった。 まるで昔の自分を見ているようだ、と一之瀬は思う。 「うまいか?」 「あい」 この子達はきっと、成長の過程で苦しむに違いない。忘れられれば幸せだが、笛を持つ大きい子は忘れられないだろう。 「……お前さ、俺と同じだな。俺は……場所が冥越だっただけ。仕掛けてきた奴が生成姫じゃなかっただけ。二度と失わせねぇ、一緒に帰んぞ!」 菱餅を手にした子供は、意味が分からないまま担ぎ上げられた。高い高いの遊びだと思っていた。 子供達と開拓者の数を数え、救出が完了した段階で无(ib1198)や鈴木 透子(ia5664)は征暗の隠形を解いた。 森のアヤカシは、救出組と退路確保組に気を取られている。 帰りは駿龍の風天に任せてあるし、と考えた无は壺の蓋を外した。 そのままでも濃い瘴気を放つ『瘴気の木の実』だ。 「さて、毒を以て喰らいますか」 「无さん。私調べたい事があるので、少し離れます。すぐ戻りますから」 「一人は危険です。私達もご一緒しましょう」 里に侵入してくる下級アヤカシをスチールが短剣で切り裂く。 「瘴気の実をつぶせば、どうせ重傷だ。それまでに体が動く限り、有能な仲間を守りアヤカシを殺さねばな!」 月餅を口に押し込んだシャンピニオン(ib7037)も「僕達も蕨の里に突入だよ!」と叫び、漆で染められた不気味な陰陽槍で『瘴気の木の実』を割り始める。 割れた瞬間に濃縮された瘴気が吹き出し、体を覆った。 体が重く感じる。 「げほっ……子供達をこれ以上アヤカシの手先にさせない為とはいえ……魔の森を僕達自身で広げる事になるなんて……ね。でももうこれ以上、誰も奪われたくない!」 シャンピニオンは腕を止めなかった。 リオーレ・アズィーズ(ib7038)は救出される子供たちの姿に安否しつつも、安心しきれない自分の考えに自己嫌悪していた。 「折角の非汚染区域をと、生成姫は声を上げて哂うのでしょうが……子供達の未来には代えられませんもの」 水筒に用意した油を撒き散らし、発火符で家を放火する。 同じく遠ざかる子供の姿を見ていた笹倉 靖(ib6125)は、すれ違う時に聞こえた「とーさま」という声に同情的な眼差しを向けた。 夢魔は親の姿を取り、偽りの里は、子供達にとっての故郷に成りつつあった。 あの子達が成長した時には、故郷はない。 「村が壊されるトコなんて夢にでて魘されそーだねぇ、見る前に避難済ませちまってくれて不幸中の幸い、かねぇ」 笹倉の言葉に五十君 晴臣(ib1730)も複雑そうに眺めた。 「あの子達は各地から浚われた。私も……運が悪ければ、ああいう目に合ってたかもしれない。と思うと、親であり師でもある亡き父さんに感謝……かな」 笹倉は言葉に含みのある五十君を一瞥した。 「じゃ破壊しますか」 手に白い光弾を生み出した笹倉が、森から飛び出してきた屍狼に放った。 「時間もないからな。……残してきた妹や弟が攫われない保証はない。近くに居てやれない私は、こうする事でしか守れない」 梅干の種を吐き捨て、五十君が『瘴気の木の実』を投げ割った。 里中の建物を破壊し、瘴気で汚染する。 それが急務だ。 鈴の音が蕨の里に響く。 柚乃(ia0638)が精霊の加護を仲間に注ぐ。 微かに感じる自然の息吹。こんなに悲惨な森になっても、狭い自然の中で生き延び、人に味方する精霊の慈悲に胸が締め付けられる。柚乃達はこれから自然を殺さねばならない。 「ごめんなさい」 口から零れる自然への懺悔。だが瞳には決意が宿っていた。 「悲劇を繰り返させない為にも、覚悟を決めなきゃ。どうか許して」 柚乃は『瘴気の木の実』を迷いなく割った。 瘴気に弱い柚乃を支えながら緋那岐(ib5664)は、実から吹き出す瘴気を眺めていた。 「まぁ誰かがやらなきゃなんねぇ。俺とか適任だしな。危険な役目だけどさ。頑張ろう」 緋那岐の持つ符が燃える。燃える狼が現れ、猛烈な火炎を家屋に吹き付けた。 破壊音が止まない。 「げ、げええーっ、体が、腐りそう!」 あちこちで響く家屋倒壊の音と燃え上がる火柱。『瘴気の木の実』を割っていた藤本あかね(ic0070)が陰鬱に呟く。 「想定はしていたけど、瘴気感染がひどいね。やっぱり……負担がきつすぎる。でも瘴気に耐性がある陰陽師なんだ、あたしが、やらなきゃ」 同じく瘴気に汚染された猫又のトメは、藤本を見上げた。 『小娘が随分成長したね。でも死ぬことは許さないからね、あたしがついててやるんだ、しっかりおし!』 「今はこちらに集中しましょう。捨て置ける事態ではありませんからね。危険ですから下がっていてください」 朝比奈 空(ia0086)が白い手を天に掲げる。すると火炎弾が虚空に現れ、家屋に降り注いだ。轟音に気づいて飛び出してきた鬼は、鋭い氷の刃を放つ。 一方、鈴木の脳裏から離れぬ事があった。 『浚われた子は皆ちゃんと育ったのか?』 この答えは『否』である。 かつて里の先生を務めた柊の話では、才能がなかったり懐かなかったり『適さない子供は里から消えた』という。つまり餌として処分されたのだ。墓はない。それでも何か残っていないか鈴木が探していて、膨大な数の武具を見つけた。 宝珠が埋め込まれている。誘拐された先生の『遺品』だ。 身ぐるみを剥がれ、役目を終えれば本人は食われ、武具は子供達の荷に消えたのだろう。 「こんなに沢山の、開拓者が……」 人知れず死んでいった仲間たちの遺品。 遺品や遺骨、墓標だけでも持って帰ってあげたかった。けれど持ち帰るには膨大すぎた。 残せば十中八九、悪用される。 選択は一つ、灰にすること。 生成姫の忌まわしい遣り口に、憎悪と憤怒がこみ上げる。 无が鈴木の胸中を思って肩を叩き、燃やす前に、弔いの酒を武具に撒いた。 里の内部が気になり、共に見回った雨傘が両手を合わせ、弔いの言葉を投げる。 「神仏の所にお帰りなせえ」 「練力も漲りました。さぁ潰してしまいましょう。人を人ではなくする学び舎モドキを」 節分豆を齧ったネネ(ib0892)の符が燃え上がり、火の輪となって建物を包み込む。 時の経過とともに、体が蝕まれていく。 瘴気の実を直接使わなかった朝比奈達も、これだけ濃度の濃い地域に滞在しては感染を免れることはできない。殆ど身動きがままならぬまま退路に向かう。鷲獅鳥の黒煉が待つ、回収地点の川までは遠い。 破壊と汚染完了を待っていた煉谷は、笹倉から合図を受けて、狼煙銃で撤収開始合図を打ち上げた。 里破壊班と同様に、長期滞在で重度の瘴気汚染を強いられたのが退路確保班だ。 地上に降りて以降、非汚染区域の里で体を休める事もなく、仲間と救助者の為に、その身を削り続けていた。行きは隠密でも、帰りは容赦なく襲われた。 「ほらな? 手はあったほうがいい、って言っただろう? 魔の森の中だと一層厄介だ」 「全くですね。これは厳しい。ですが、倒れないでくださいよ」 息苦しげな音有・兵真(ia0221)の口に梅干を放り込んだ御樹青嵐(ia1669)が、背をあずけた状態で大百足に鎌鼬を放った。 次から次へと終わりがない。 音有は深蒼の宝珠が取り付けられた白銀の穂先を一戦させた。うねうねと長い胴を両断しても、魔の森というアヤカシを強化する環境下では、下級アヤカシも手ごわい相手になってしまう。 再び蔦に絡め取られて宙釣りは勘弁願うと、刃兼(ib7876)は周囲の者にも警戒を促した。水色の刀身を持つ大振りの太刀が、化猪をなぎ払う。長い間救出できなかった子供たちの姿をみて、死なせてきた子供たちの顔が過ぎる。 「あ、新しいせんせー!」 衝甲に担がれた子供が、刃兼に気づいて手を振った。 以前、見た里の子供。あの子達だけは、血染めの道を歩まずに済むのだ。 「……考えようとすれば、キリがない、か。今はただ一歩……いや、半歩でも、いい方向に向かうと信じて、俺達にできる全力を尽くすのみ、だな」 救出組の撤退を見て、死角から襲い来る樹木アヤカシの蔓を鎌鼬で切り裂いた胡蝶(ia1199)は「子連れはさっさと行きなさい!」と急かした。 瘴気に耐性ある陰陽師の体すら、魔の森は蝕んでいく。 燃える狛犬を召喚した胡蝶は、蕨の里に響く爆音でざわめき始めたアヤカシ達の方向を指差した。 「燃やし尽くして! ここなら燃えても損害を賠償する必要はないでしょう!」 琥龍 蒼羅(ib0214)もまた瘴気に汚染された状態だ。 保護対象を抱えた救出組が飛空船を目指して走れるよう、斬馬刀を一閃させて、化物と化していた木々を薙ぎ倒し始めた。 「蔓で攫われてはかなわんからな。護る戦いは俺の得意とする所だ。ここはなんとしても護り抜く」 身を包む防寒具が、琥龍の集中力を最大限に発揮する。 けれど終わりはない。 龍の牙から削られた矛が鬼の胴を貫く。 「紅鈴、今だ!」 寒さに震える咲人が声を張り上げる。指が凍り、瘴気汚染で体が重くなりつつも、物資のおかげで空腹や脱水症状はない。咲人を補佐する桂が「わかったにゃ!」と死角から火遁を放つ。暖をとる意味合いもあった。とくに一定距離から動けない樹木型にヴォトカを投げて炎上させたりしていた。 岩清水を煽った天野 白露丸(ib9477)は、精神を研ぎ澄まして弦を掻き鳴らしても360度アヤカシの存在を感知するというロクでもない環境下で、落ち着いて弓を構え、標的を正確に狙い続けていた。 「こうも、数が多いと……焦らず迅速に、だな」 気を抜くと足元に怪虫が張り付き、生き血を啜る。 本来なら一目散に逃げねばならない場所だが、動く訳には行かなかった。 子供を抱えて走ってくる想い人一之瀬の姿に、一瞬だけ緊張が解れる。 「戦殿、無事か? よかった、仲間が見えるだろう。いそいで船へ、私もすぐに行く」 「気をつけろよ!」 普段は気品を放つ刀身も、度重なる抜刀で切れ味が鈍り始める。 「体が蝕まれ、別のものに変化していく感覚、ですか。瘴気感染なんて、気力で押さえ込んでみせますとも!」 激しい消耗戦の中で、九竜・鋼介(ia2192)は瘴気汚染の進行が遅れるように気を配った。九竜にしがみついた人妖の瑠璃もまた、近くの仲間の怪我を癒すべく奮闘していた。 「だあああ!」 行きは忍び足で移動し、大判鍋蓋煎餅を齧る余裕のあった村雨 紫狼(ia9073)も、もはや形振り構わず朱色に染まる刀身を振るう。 「チンタラしてたら、瘴気爆弾の餌食になっちまうな。……ケッ! 冗談を飛ばすにゃあ、ここは陰鬱過ぎるぜ!」 そんな時、弥十花緑(ib9750)が狼煙銃の合図に気づいた。 「狼煙銃があがりましたね」 「皆、あと少しよ! ふんばんなさい!」 胡蝶の声が響いてまもなく、重度瘴気汚染者の搬出が始まる。 「お疲れさまです。……急ぎ戻ってください。後から追いかけます。どうぞコレを」 弥十が仲間の体力消耗も気遣いつつ、精霊力を纏わせた金色の錫杖を大きく振るう。襲いかかってくる虫も獣もアヤカシに他ならない。 ふと気づくと仲間の回復に徹していた人妖の灯心が、弥十の足に寄りかかっている。 微かに「花緑」と呼ぶ声が聞こえたが苦しげだ。 半ば瘴気で作られた人妖でも、濃度の高すぎる瘴気は毒となって身を蝕む。 「もう少しだから」 自らも瘴気に蝕まれつつも、弥十は憔悴している仲間に「頑張りましょう」と声をかけた。 弥十から貰った梅干を口に押し込む。 緋乃宮 白月(ib9855)は駿龍の空閃が無事か時々心配になりながらも、仲間を信じて拳を振るった。 以前、緋乃宮も『成長した子供達』の行く末を目の前で見た。 担ぎ出される子供達の未来を、醜悪な手を使う生成姫の元に委ねておく気など毛頭ない。 「同じ境遇の子供たちを今後出さない為にも、なんとしても成功させましょう!」 寒さが集中力を奪っていく。 瘴気に汚染された体が重い。けれど逃げる訳にはいかない。 最後の一人まで救う為にも。 一方、仲間の消耗度合いを考慮に入れ、撤退時の予備員として川で待機していた乃木亜(ia1245)も狼煙銃の合図に気づいた。と同時に、脱出してきたフェンリエッタ達の姿を確認した。 「おかえりなさい! ……石榴、二人を飛空船へ運んで!」 瘴気汚染が中度に当たることを察して、炎龍に指示を出す。 続々と近づく疲弊した仲間の援護に出た。 無邪気な子供達の不遇を思う。家族を殺され、それを行わせたアヤカシを親と慕うよう育てられる事が、許されるはずがない。例え、救出を子供達が望まないとしても、見過ごすことはできなかった。 乃木亜は固い決意と共に、蒼く輝く刀を抜いた。 続々と帰還する開拓者たち。 操舵席にいる羅轟が、伝声管を通じて郁磨たちにも敵方向を知らせる。状況が悪くなれば、いつでも自分が出撃できる備えがあった。 「次から次へと、ほんと、こりないよねぇ〜、どんなに払っても湧いて出るなんて」 疲労の色を見せる郁磨は、小隊【黒鉄】の隊長が待つ商用飛空船を振り返った。絶対に守ってみせると気を引き締めて、黄金色の蛇が絡みつく杖をふるう。大気が凍りつき、動きを封じられたアヤカシが地上に落下する。大判鍋蓋煎餅を岩清水で胃袋に流し込んだ明日香が「手を休めている暇はないぞ」と叫ぶや、練力を込めた矢で人面鳥の喉を貫く。 「全く。前に大事な畑をダメにしてくれた奴らといい、こりない連中だな」 駿龍ピーの背中にいたマハ シャンク(ib6351)は、フツフツと湧き上がる怒りを感じながら、別の恨みも込めて空を駆けた。たったひと粒で広範囲に瘴気を撒き散らす傍迷惑な木の実を運ぶアヤカシ達を、飛空船に近づけぬよう立ちはだかる。 「ピー、焼き払え!」 大蔵の小型飛空船で、操舵手及び機関手として待機していたマックス・ボードマン(ib5426)と玲璃(ia1114)は外の護衛の様子を察した。 大勢の仲間達が安全地帯を目指してくる。 「ボードマンさん、後は宜しくお願い致します」 「識別救急だったか。重度感染者は一箇所に、怪我人は分散、うちは怪我人が主体だな」 仲間の帰りを待つだけの楽な仕事になって欲しかった、と。 肩を竦めたボードマンは、子供に与えるお菓子などを含めて物資の迎える支度をしていたからくりレディ・アンに「レディ、舵は任せた」と後を託すと、速やかに機関手として任につく。 玲璃は人妖の蘭に、出入り口を襲うアヤカシの迎撃と回収者の解毒や回復を命じると、からす(ia6525)と共に甲龍の獅子鳩に乗り、地上に降りた。 「私は私の仕事をしよう。飛空船に戻る、無理はしないように」 「ええ。ありがとうございます。ご武運を」 命に関わる者は素早く回復が必要だ。 赤、黄、緑の紐で状態別に分け、回復の後に戦えそうな者と元気な子供は脆い商用飛空船に乗せる。ギルドに到着するまで全く気が抜けない瀕死の者は装甲小型船、重度の瘴気感染者に至っては到着前に死なぬように、進行を抑えてくれる癒し手がいる船でなければならない。 玲璃の判断力は、非常に重要な位置を占めていた。 航空日数が少ない分、各船の重量に余裕はあったが……最終的に何隻が無事に脱出できるか分からなかった。救出対象者の分散も安全策である。 また玉櫛 狭霧(ia0932)の用意した頭から被せる様の肌襦袢は救出対象者の人数分あり、万が一鬻姫や他の上級アヤカシの大群に鉢合わせても状況を把握されにくくする方法が取られていた。 玉櫛本人は、酒々井の快速小型船で機関手を担当し、操舵手はからくりの桔梗がになっていた。搭乗を開始した仲間に襲いかかろうとするアヤカシを火縄銃で払っていたのが、セフィール・アズブラウ(ib6196)だ。寒さ対策万全のアズブラウに、標準の狂いはない。 「じっと耐え、風を読めば、視界クリアー。全て排除いたしましょうか」 駿龍シロさんが勇ましく鳴く。 帰路で疲れ果てた仲間達に笑顔で甘いものを振舞う為にも、ここは踏ん張りどころだ。 一方、船の上空を目指すからすは、狙ったように内部へ侵入しようとするアヤカシを矢で打ち抜く。 流石に山中の寒さは、神楽の都の雪がちらつく気温とは雲泥の差があった。体力の消耗が早く、奪われる集中力を保つ為に、菓子や薬を煽って極寒の空を舞う。 「……向こうは引き換えに何を打ってくる気なのだろうね」 「さあな! 大アヤカシの考えなんてさっぱりだ! だがここは最後の砦だからよ、死守させてもらうぜ!」 滑空艇の宙船号から、津田とも(ic0154)の声と共に、火縄銃の爆音が耳を劈く。 元気な子供達が小隊【黒鉄】の商用飛空船に乗せられていく。 戻ってきた者達の乗船を舞い戻ったシャンク達が手伝う。 「……私は裏方の方が性にあってるな、何をもたもたしている……早くしろ」 アルマ・ムリフェイン(ib3629)達が操る小型飛空船には、重度の瘴気汚染者が徐々に運び込まれていく。 最後に癒し手達が乗船したのを確認すると、ムリフェインは声を張り上げる。 「カフチェ! 元気な人と運転を変わって。皆が用意してくれた物資を運んだら甲板へ! 落ちないように、フィンちゃんに貰った荒縄で命綱をしておいてね!」 自らも操縦を交代したムリフェインは『精霊の聖歌』を歌い始める。 瘴気感染を回復することはできない。 だが、侵食を抑えることは可能だからだ。 一方、装甲小型船の機関手を務めるウィンストン・エリニー(ib0024)の船にも、炎龍スポッター達に騎乗した瘴気感染者が運び込まれる。からくりのIRAが手を貸した。七名と朋友を収容した段階で、残りをもうひと船に託し、こちらも癒し手達が乗船したのを確認すると、操舵手の沙羅・ジョーンズ(ic0041)達に合図を送った。 収容して、成功ではない。 ここは魔の森の上空である。 窓の向こうには森から空を飛ぶアヤカシの群れ。 完全に生成姫の支配区域から脱出しなければならない。 いずれかの飛空船が疲弊した帰路で撃墜される可能性は十分にあった。 頼りは体力を残した開拓者達と、飛空船を囲むように飛ぶ龍達の迎撃。 「全速前進! 沙羅、舵を変わろう。外を頼む」 「了解! この火事場騒ぎは砲科傭兵としての出番だよ」 傍を飛び回るのは、主人のいない龍たちばかり。 開拓者だけなら兎も角、子供を守りながら脱出するのは至難の業だ。道中に途中で手を離して里に戻ろうとする子供を追いかけたりと、散々手を焼かされた開拓者たちの殆どが癒し手の治療を受けている。また個人の開拓者や小隊【華夜楼】が提供した余分物資の数々は、子供たちを大人しくさせておくのに十分な効果を発揮した。 良くも悪くも『中身は子供』なのだろう。 商用飛空船を撃墜されないように飛空船が取り囲み、魔の森から撤退を開始する。抵抗する術のない相棒は時折追っ手に撃墜されていたが、体力を残した開拓者が救出に戻った。 「汚染区域を抜けるぞ、我々の勝利だ!」 エリニー歓喜の声が船内に響いた。 着陸回収地点で待機していた者達を除き、魔の森を行き来した者たちは、総じて瘴気感染していた。 子供と失踪した開拓者救出組は、非汚染区域で過ごした時間も踏まえて汚染は軽度だった。 だが常時安全な道を確保する為に魔の森に居続けた者達は、じわじわと心身を侵食する瘴気に耐えねばならなかった。 とくに汚染状態が酷かったのが、蕨の里破壊で『瘴気の木の実』を割った者達である。 幸いにも、全員生きたままで開拓者ギルドへ帰り着くに至る。 しかし依頼主無しによる自前の治療費は状態に応じて数千文を要した。危険を顧みずに、相棒を魔の森へ連れ込んた者に至っては、相棒の瘴気感染まで治療する為、随分な出費となる。過去にないほど過酷な仕事だった。 それでも。 「たたかうおべんきょうは?」 「みずくみしないの? ごはんぬきはやだよ」 「……もう、そんな必要はないんだぜ。これからゆっくり『本当の生活』に戻るんだ」 咲人達から無償で与えられるお菓子を握りしめて笑う。 「生成姫め、ざまぁみろ」 一喜一憂する子供達の穏やかな未来は、努力の末にやっと保証された。 忌まわしい里は破壊した。浚われた子供は取り戻した。 いつか悲しい過去を知る事になっても。 救われた子供たちは、人の道を歩いていく。 |