【玄武】悩める忘年会1
マスター名:やよい雛徒
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/12/26 12:32



■オープニング本文

【このシナリオは玄武寮専用シナリオです。一年生、二年生含め、玄武寮に所属している方々の参加が対象です。】


 朝早くから、しんしんと降り積もる牡丹雪。
 遠くの山が雪化粧で白銀に染まる季節が訪れた。

 ここは五行国陰陽寮が玄武寮。
 秋は満月を愛でた『花梨の石庭』も、今は真っ白な雪で埋め尽くされた。
 凍える廊下を呑気に歩いていくのは、玄武寮の副寮長こと狩野 柚子平(iz0216)である。今年は桂銅作の玄武符「黒天ノ光」で冷え知らずだった。向かう先は玄武寮の寮長、蘆屋 東雲(iz0218)の個室だ。扉を軽く叩くと、蘆屋が狩野を出迎えた。

「お疲れさまです、蘆屋さん。今年は年末筆記試験をしないと伺ったのですが、本当ですか?」
「ええ、試験の代わりに生徒の特性調査を考えています」
 寮長は紙の束を副寮長に見せた。
「冬に入る前に行われる予定だった魔の森の課外授業……魔の森と東地域の様子がおかしいからと春に延期になりましたでしょう? ですから春、魔の森へ出かける前に、生徒の性質を知っておこうと思いまして。緊急時に備えて、個々の性質を理解しておく必要があると思うのです」
「魔の森ではぐれた場合……でしょうか?」
「どれだけ広い視野を持てるか、おてなみ拝見です。それより」

 玄武寮の寮長、蘆屋東雲は悲しそうな表情で副寮長に頭を下げた。

「霧雨さんの件、とても残念です。アヤカシに加担するような方には見えませんでしたのに」
 玄武寮の雑用係として出入りしていた御彩・霧雨(iz0164)が裏切り者として開拓者に処刑された。その悲報は、少なからず蘆屋の耳にも届いていたらしい。柚子平は「彼も色々思うところがあったのでしょう」とだけ短く告げた。
 霧雨殺害に関する経緯と顛末を知っているのは、処刑を依頼した副寮長を含め、該当の依頼に直接関わった現場の者たちのみであり、詳細については情報が規制され、開拓者ギルドでも殆ど出回っていない。
 一般の開拓者が知っている話といえば『陰陽師の御彩霧雨という人物が、アヤカシに加担した。よってそれを目撃した開拓者一行に処刑された』……それだけである。
 蘆屋は廊下に目を配った。
「今でもひょっこり、廊下の角から陽気な笑い声を響かせて現れるんじゃないか……そんな風に考えるんです。お部屋の私物、どういたしましょうか」
「あー……、長屋の処分は私がしましたが、こちらの私物は手をつけていませんでしたね。手が空いていそうな寮生に、手伝ってもらいますよ」
 すると人妖の樹里が「忘年会は?」と頬を膨らませて柚子平の髪をひっぱった。
「掃除が終わったら私も参加しますよ。あなたは宴を楽しんでいなさい」
「やったー!」
 くすくすと笑い声が溢れる。
 寂しいことも、楽しいことも、色々あった。

 数日後、玄武寮所属生のもとに届いた年末試験と忘年会の案内。
 今年もあと僅かである。



■【玄武寮の年末筆記レポート−状況判断能力調査−】■

【問題】
あなたは無力な陰陽師です。
厳しい戦いで、体力や精神力とともに練力が尽きてしまいました。
回復薬はありませんが、隣に相棒はいます。(相棒は万全の状態でいると仮定します)
そんな状態の中で帰宅してみると、五行の都がアヤカシたちの襲撃をうけています。
とても一人で対応できる量ではありません。仲間の姿もありません。

あなたは戦力になれるか分からないまま戦いに参加しますか?
それとも誰かへ助けを求めますか?
あるいは第三の選択をするでしょうか?

同伴する相棒をひとつ選び、自分が最善だと考える行動を300字以内で書きなさい。

行動猶予は一日です。
複数の行動は物理的に一日で可能か考えてから記載しましょう。

【相棒:ミヅチ、ジライヤ、人妖、羽妖精、管狐、忍犬、からくり、霊騎、鬼火玉、走龍、駿龍、甲龍、炎龍、猫又、迅鷹、鷲獅鳥、駆鎧、土偶ゴーレム、滑空艇、もふら】


■参加者一覧
露草(ia1350
17歳・女・陰
八嶋 双伍(ia2195
23歳・男・陰
平野 譲治(ia5226
15歳・男・陰
緋那岐(ib5664
17歳・男・陰


■リプレイ本文

 渡り廊下の屋根から雪が落ちる。
 主人たちが勉学に勤しんでいる間、相棒たちは庭の雪で遊んだりしていた。
 玄武寮の寮生達が次から次へと部屋から出てきて、副寮長に呼ばれて連れて行かれるのを眺めた後、露草(ia1350)が首を鳴らした。
 人妖の衣通姫 が「おつかれさま!」と飛んでいく。壁に寄りかかっていた、からくりの菊浬も緋那岐(ib5664)の姿を見つけて近寄っていった。八嶋 双伍(ia2195)の炎龍こと燭陰は、庭が寒いので専用の部屋で昼寝中だ。
 露草が壁に寄りかかる。
「うう、試験に人妖愛を込めすぎました。たぶん、一生分の『人妖』の文字を書いたような気がしますが……我が人生に悔い無し!」
 歩きながら緋那岐が首を傾げる。
「相棒に対する萌えを書くような内容だったっけ?」
 まさか一人一人試験問題が違うのか? とやや不公平感を覚える。
「いえ。ここぞと人妖の有能性を訴えてみました。通常の人はきっと言うでしょう。戦力にならない、と。しかぁし! 攻撃力が無い? 人妖は人妖であるだけで素敵なんです! 小一時間といわず一晩だって語れますよ! 緋那岐さん、なんでしたらご一緒に!」
「いや、遠慮しとく」
 ずばっ、と断った。
 試験明けの妙な熱意が空回りする。
「試験は流石に疲れたよ。俺なんか、試験問題の同伴可能相棒の項目で躓いたくらいだ。自分の所有に関係なくって事なのか否か……っ!」
 カッ、と緋那岐の目が見開く。
 それで時間の半分を使って、文字がヒドイ事になった……なんて言えない。
 露草が、傍らの菊浬を眺めて「やっぱりからくりですか?」と自分の人妖萌えな基準で訪ねたが、緋那岐はひらひらと手を振った。
「いーや、龍。開拓者の大半は、龍持ちだろ? 模範解答かと思ってな」
 真顔で述べる緋那岐に、露草が心底残念そうな声をもらした。
「そうなんですか……そんな素敵な格好をさせているので、てっきり情熱を書き記した仲間がいるかと思ったんですが」
「あのな。こいつは妹みたいなもんだっつーの」
 からくりの菊浬は、緋那岐手製の仮装をしていた。
 三角の赤いとんがり帽のてっぺんに真綿のボンボンを縫い付け、淵を白い布で飾っていた。身にまとう衣装も赤と白で統一され、飾りの柊の緑葉が愛らしい。クリスマスという風習を伝え聞いた緋那岐が、日頃から研究室に閉じこもりがちで陰気な玄武寮に一花添えようと、徹夜を重ねて仕上げた一品……だったが、着せられているからくりの菊浬は、よく分かっていない。緋那岐が念を押す。
「これは忘年会用。みんな季節行事に疎いだろう、折角だからと思ったんだ」
 からくりの菊浬が首を傾げる。
「忘年会? ……クルシミマスパーティーじゃないの?」
 単語がおかしい。
「くるしみます!? 違う、誰も苦しまないって! クリスマス、ほらもう一回?」
 懸命に緋那岐が訂正を施す。
 しかし。
「クルシミマス、も、クリスマス、も、似てるよ?」
 顔を覆って崩れる緋那岐の肩を、八嶋がぽむぽむと叩いた。
 からくりの教育は大変だ。
「しかし忘年会ですか……、試験で頭がいっぱいでしたので、すっかり忘れていました。今年も、もう終わりですか。心配事もありますが、まぁひとまず無事に1年終わる事を喜ぶと致しましょう」
 八嶋の言葉に、緋那岐と露草が庭から空を見上げる。
 白銀の牡丹雪は、止む気配がない。
「うおー、これはもっと積もるなぁ。今年ももうすぐ終わりか〜」
「忘年会。ふなー、年末ですねぇ……青龍寮から転寮して、あっという間です」
 はぁ、と吐息が白く曇る。
 吹き抜けの長い渡り廊下は、やはり寒い。
 しかし八嶋と緋那岐が同時に同じ符を取り出したのをみて、笑いが溢れた。
「みんな考えることは同じってことかな?」
「そのようです」
「……どういう意味です?」
 露草が首を傾げる。八嶋が「露草さんはご存知ないのでしたっけ。こういうことですよ」と言って、一枚の符を手渡すと、露草の目が点になった。
「あ、あったかい! なんですこれ?」
「符術の講師、銅先生が考案した玄武符「黒天ノ光」です。短時間なら懐炉替わりになる優れものですよ。理論的には、発火符の応用ということらしいですが、進級試験のご褒美だったんです」
 八嶋は返された玄武符を懐に入れて、はぁぁ、と心底幸せそうな表情になった。
 普段の無表情ぶりから、いかにホッとしたのかがよく分かる。
「毎年のことながら五行の冬は堪えます。昨年は心が折れそうでした。しかし今年は玄武符があるのでまだマシですね。これは本当に良い発明だと思います。見習いたいものです」
 緋那岐が頷きながら「同じ発想でいくなら、冷却符の考案かな」と呟く。
「羨ましいです。そして私は寒いので、お部屋に行きませんか」
 カタカタ震える露草。
 うっかり立ち話をしていたが、此処はふきっさらしの廊下である。
 八嶋と緋那岐が我に返り「失礼しました、急ぎましょう!」と歩き出す。
「みんなが食堂に集うのは何時くらいになるかな」
「どうでしょうね。少しお時間がかかりそうでしたし、いつもと同じく夕時なのでは?」
「ま、忘年会には丁度いいよな」
 物理的な意味で懐が温かい男二人の横で、露草は肩をすくめながら、からくりの菊浬を凝視していた。忘年会用に縫われたという、赤と白の衣装は、とても愛らしい。
「本当に器用ですねぇ。……は、私いいこと思いついてしまいました。来年は人妖の大きさで縫ってくれませんか!? いつきちゃんに着せたいのです!」
 きらきらと輝く露草の眼差しにたじろぐ。
「……樹里用に作ったのならあるけど、着るか?」
「お願いします! よかったですね、いつきちゃん!」
 からくりの菊浬の肩に人妖の衣通姫が移動し「おそろいー?」とはしゃいでいた。


 時は進み、空は茜色に染まっていた。
 玄武寮の忘年会が始まる。
 盃には寮生が用意した葡萄酒。
 旬の魚による刺身の数々が飾られた大皿の隣には、大きめに切られた海苔とホカホカの酢飯。
 千切りになった香味野菜に錦糸卵。
 出汁で茶色く染まったふろふき大根には甘味噌を添えて。
 白濁とした鍋いっぱいの鮭の酒粕汁は、食べるものの体を温めてくれる。
 デザートは異国の焼き菓子だ。一見、真っ白い砂糖の塊だが、中にはドライフルーツや豆類が、沢山つまっていた。包丁で薄くスライスして楽しむのが通のやり方。
 寮生は各国から集った人間が多い為、料理を持ち寄れば各国の家庭料理が楽しめた。
 緋那岐が、厨房から大鍋を運んでくる。
 鍋は中央が波型に区切られていて、ひと鍋で二種類の味が楽しめるすぐれものだった。
「昆布が入ってる方は、単なる出汁鍋だから、味付けは別にやってくれな。こっちが味噌鍋、で、菊浬の持ってる方が豆乳鍋だったかな。女性陣向けってことで、美容鍋だ」
 緋那岐が発言した途端、鍋に女性陣が集い、争奪戦を繰り広げる。
「……もう一個、豆乳鍋を作るべきかな、俺」
 からくりの菊浬が、かくりと首をかしげて「奥の鍋どうするの?」と問いかける。
「奥の鍋? あのオリーブオイルの入った鍋ですか?」
 大皿に揚げ物を積んだ八嶋が厨房から出てきた。
「ああうん。他にも各国の鍋を、と思って見たんだけど……アレみるとなぁ」
 普段は穏やかな寮長すら……目の色が違う気がする。
「いいじゃありませんか。どうせ毎年、空になるでしょう?」
 菩薩のように輝く八嶋の微笑。達観した発言に「だな」と結論づける。
「でもなぁ、今年は残るかも」
「おや、どうしてです」
「……奥の鍋は、希儀料理指南書を使って作ったからな。神楽の市場なら大抵揃うから、自前の素材には自信があるんだが……味がな。いやー、希儀料理は初めてなもんで味はわからん。色がすごいんで、正直に打ち明けると俺も味見してないからな! あははは」
 笑って厨房に戻っていく。
 八嶋は……最後の一言は、聞かなかったことにした。
「八嶋さん、八嶋さん」
 露草がちょいちょいと、八嶋の袖をひく。
「あ、はい。なんでしょうか」
「その揚げ物、頂いて良いですか?」
「もちろんです」
 八嶋は鶏の唐揚げを差し入れた。露草が箸を伸ばす。
「これ、何がかかってるんです。なんだか果汁の様な香りがしますね」
「自家製柚子胡椒です。あんまり鼻を近づけると、くしゃみがとまらなくなりま……ああ、遅かったですか」
 ぽりぽりと頬を掻く八嶋の前で、くしゅん、と音がした。
「です。……でもいい香りですね。一口かじると肉汁がたっぷりで……いつきちゃーん、これ美味しいですよ。いつきちゃーん? あれ? いない?」
 露草がキョロキョロ見回すと、人妖の衣通姫は、他の人妖達と遊んでいた。
 橙色の何かを投げている。
「お手玉でしょうか? 楽しそうですし、いつきちゃんの分を別に取っておいていいですか?」
「どうぞ。焦らずとも、まだまだ沢山ありますよ」
「いいえ! 美味しいものは瞬く間にきえるものと、相場が決まっている以上、油断はできません! ……それにしても、いつきちゃん、ったら……私を置き去りにして他の陰陽師の人のところで遊んでもらってるー? ……でも、でもその光景もイイ!」
 頬が、ぽっと赤くなる。
 八嶋は「本当にお好きですね」と言いつつ、酔っているんだろうか? という発想が脳裏をかすめた。そんな人妖たちの所へ再び現れた緋那岐が、橙色のお手玉を全没収する。
「あれ?」
「樹里、みんなも、食べ物で遊ぶんじゃない」
 お手玉になっていたのは、緋那岐が差し入れた大量の蜜柑なのだった。
「さて、それでは私も食事を堪能させて頂くとしましょうか……」

「師走も深まる根雪の庭っ! 失礼するなりね!」

 元気な声が響く。
 そこには、朱雀寮の平野 譲治(ia5226)が立っていた。
「平野君! お待ちしていましたよ」
 迎えに出た八嶋が肩の雪を払う。平野が風呂敷包を差し出した。
「こんばんはなり! 頼まれものを持ってきたなりね! それと朱雀寮のお土産なり。あと……凍えそうなので、ちょっと暖まらせてもらいたいなりよ」
 ピンピンはねている髪が、雪と霙で凍りついている。
 今は牡丹雪だが、空の天気は気まぐれで、時々冷たい風が吹き付け、雪が雨に変わっている時もあった。大雪は除雪が大変だが、霙は凍結が怖い。
 そして気まぐれな天気の洗礼を受けた平野は、防寒具をかぶっても見ての通りだった。
「こちらへどうぞ。他の火鉢も持ってきます、寮長」
 八嶋の呼びかけに、豆乳鍋を争っていた蘆屋寮長が立ち上がり、平野の元へやってきた。
「寒い中を、よくぞ届けてくれました。ご苦労様です。素敵なお土産もありがとう」
「ふお! 心配ないなりね! 役目を果たせたなら嬉しいなり!」
 火鉢から離れられない平野を見て、奥から温かいお茶を持ってきた緋那岐が「すげぇ、凍ってるぜ」と髪の毛をつまんだ。
「これは仕方がないなりよ! 今日は大雪! しからば遊ばにゃ損ぜよ! 一日外で遊んでいたので凍ったなりね。しかし心配は無用なのだ! 体はポカポカ! 心もポカポカ!」
 はむ、とお茶菓子の饅頭に食らいついて笑う。
「げんきだなぁ。丁度いいや、この後って暇か?」
 緋那岐の問いかけに「このまま直接帰る予定だったからヒマはあるなりっ!」と言ってお茶を飲み干す。
「なんだ、じゃあ一緒に飯、食ってけよ。鍋が余りそうなんだ、美容鍋をのぞいて。だから男を見込んで……鍋を、いや、俺を助けてくれ!」
 がっ、と平野の肩を掴む。
 平野は目を白黒させつつも「構わないなら、ご馳走になるなり」と首を縦にふった。
 未知の鍋が控えていることを知っている八嶋が、眩しいものを見る眼差しを送る。
「朱雀寮の方は男前ですねぇ。心から尊敬します」
 色んな意味で。
 緋那岐が厨房へ戻るのを見て、八嶋は平野を手招きした。
「平野君、女性陣が美容の鍋に群がってしまって、私の右隣が空いてるんです。髪の氷も溶けたようですし、ご一緒に食べませんか。それと届け物、どうもありがとうございました。お恥ずかしながら私、試験で手一杯でして……とても助かりました」
「遠慮は無用なりし! おっじゃまするなりよー!」
 露草が「沢山食べてくださいね」と、手巻き寿司や鮭の粕汁、ふろふき大根なども持ってくる。
 ご馳走に囲まれた平野は、わらわらと集まってくる玄武寮生に外の雪景色を語りながら、食事に舌づつみを打った。
「んーっ、良き日に感謝っ! 食べ終わったら全力で遊ぶなりよっ! あと、どうしても白川さんに聞いておきたいことがあるなりよ! ……噂の箱はどこだったなりか?」
「そういえば私も聞きたいことがあるんでした。いつきちゃんは遊びっぱなしですし、私も一緒に行きます」
「今日は賑やかで良い日です。来年も、皆さんと切磋琢磨出来ますように。食後はご一緒します」
 八嶋は朗らかに二人へ声をかけた。


 一方、副寮長室では、提出された回答を眺めていた柚子平がお茶をすすっていた。
「ここまで差が出るとは……なんにせよ、総合的には大丈夫そうですね。緊急時に死なれてはたまりません。私は計画を進めるとしましょう」
 それは単純に見えて、単なる試験ではなかった。
 少なくとも、副寮長にとっては。
 何が大丈夫なのか。
 まだ誰にも、何も知らされてはいなかったけれど。
 柚子平は意味深な言葉を残して、眼鏡を外し、窓の向こうを見上げる。

 降り積もる、牡丹雪。
 今年も残り、あと僅かである。


 ……余談ではあるが。
 玄武寮の購買の影にある、謎の目安箱『白川さん』に露草と平野が質問を投げ込んだ。
 すると翌日、返事が廊下に貼り出されることになる。

『白川さん。年末のご予定はいかがですか? ……露草』

『まず近しい予定といえばクリスマスでしょうか。
 メリークルシミマス、というものが世間では流行の兆しを見せているようです。
 先日、意味を調べてみたのですが、どうやら私にも当てはまることが分かりました。
 新発見です。
 今まで知らなかった新しい言葉に感動します。
 文化交流とは偉大ですね。
 やはり、ここは「メリークルシミマス」と書いて、心の奥底に秘めたる野望を連ねて報告するべきかと考えたのですが……年末の幸せまで吹き飛んでしまいそうな気配がいたしましたので、私はあえて流行に逆らい「メリークリスマス」とお伝えしたいと思います。
 メリークリスマス。素敵な言葉です。
 従って年末は寂しさを紛らわせる為、実家に帰り、年末クルシミマスにならないよう、心安らかに過ごしたいと思います。
 除夜の鐘が煩悩を消し去ってくれるという話を聞きましたので、心の奥底に秘めたるアレやコレを除夜の鐘さまに浄化して頂き、清い白川に戻って皆様に新年のご挨拶を申し上げる予定です。
 そして購買には鏡餅が並ぶ予定です。
 新年のお雑煮に、是非おひとつお買い求めください。
 それでは清らかな新年の白川に期待していただきつつ、筆を置かせて頂きます。
 よき年の瀬をおすごしください』

 そして平野は、次のような質問を投げた。

『ずばりっ! 白川さんの愛している人はっ!? ……平野 譲治』

『それでは、ずばり答えましょう。
 私は購買を愛していますが、悲しいことに購買は人になってくれないようです。
 人と購買。購買と人。
 つのる情熱が、愛情に変わる奇跡の瞬間。
 これが『叶わぬ恋』というものなのかもしれませんね。
 仕事が恋人と胸を張る方々に、とても親近感を覚えます。
 しかしメリークリスマスと世間が歌う中で、愛するものが人ではない一抹の寂しさを感じずにはいられません。新しい愛するヒトを探そうとも考えたのですが、残念ながら二股ができるほどの器用さを持っていないようなのです。
 不器用な私はいっそ赤い服を来た噂のサンタさんに、
「愛する人をください」
 と書いてみるのも夢いっぱいで楽しそうだと考えました。
 ですが、目が覚めて部屋に見知らぬ誰かいたら、まず泥棒を疑うべきだということに気づきました。
 購買でも愛や恋は置くことができません。
 悲しいお話になりますが、やはり愛は非売品のようです。
 残念です。
 引き続き、白川は愛する購買に情熱を注ぎながら、第二の愛を探せるよう、愛の旅人としての技術を磨いて参りたいと思いますので、温かく見守って頂ければ幸いです』


 白川さんの正体は、未だ謎のままである。