聖地『開拓ケット』巡礼
マスター名:やよい雛徒
シナリオ形態: ショート
EX
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 1人
リプレイ完成日時: 2012/10/28 10:20



■オープニング本文

 カタケット……
 それは『開拓業自費出版絵巻本販売所(絵巻マーケット)』の略称である。
 親しみを込めて業界人からは『開拓(カタ)ケット』と呼ばれている。

 何を売っているのかというと、名だたる開拓者や朋友への一方的で歪んだ情熱を形にした、絵巻や雑貨品の数々だ。
 もちろん本人の許可を得ているわけではないので、半ば犯罪である。
 また会場には著名な開拓者の装備を真似た仮装を得意とする、仮装麗人(コスプレ●ヤー)なる方々も存在していた。
 業界人にとって、開拓者や朋友は、いわば憧れと尊敬の的であり、秘匿されるべき性癖のはけ口といえよう。
 開拓者ギルドに登録する開拓者の数。
 およそ2万人。
 神楽の都が総人口100万人と言われる事を考えると、僅か2パーセントに過ぎず、世界各国で活躍する活動的な開拓者に条件を絞れば、その数は更に減少する。

 開拓者とは、アヤカシから人々を救う存在である。
 そして腕の立つ開拓者は重宝される。
 英雄たちの名は人から人へと伝えられ、人々の関心を集める結果になった。それはいい。仕事の宣伝としても無問題だ。
 問題は、もしも、たら、れば、で……彼ら英雄を元に想像力の限りを働かせる奇特な若者たちが、近年大勢現れたことにある。
 憧れの英雄は、彼らの脳内において好き勝手に扱われた。

 その妄想に歯止めなど、ない。

 もしも彼らがこうだったら……
 あの人とこの人がこうだったら……
 妄想は妄想を呼び、彼らに魂の友を見いださせ、分野と呼ばれる物が確立される頃になると「伴侶なんていらない、萌本さえあればいい」そう言わしめるほどの魔性を放っていた。
 だからなのだろうか?
 
 その日、運命のいたずらで、カタケット会場にアヤカシが現れた。

 最初は単なる泥だと思われていたが、仮装麗人の姿を描く似顔絵会場で、人間ひとり食べてしまった現場を目撃となると……もはや見間違うはずもない。
「あ、あ、アヤカシだ! 本物のアヤカシだあああ!」
「早くギルドへ!」
「バカなこといわないで、私たちが捕まるわよ!」
 どうやら疚しい行動の自覚はあるようだ。
 通報しようとした主催者は、妄想の虜となった者たちに捕らえられた。
 逃げ出す者、宝を守る者、そして事態をのみこめない者などなど会場は大パニックに陥っている。
 そして。
「半年に一度の祭なのにいいい!」
 各地から集まった沢山の直接参加サークル。砂糖に群がる蟻のような数の来場者たち。

 この大会場の片隅に、素性を隠したアナタはいた。
 今まさに巡礼の旅の中にいたのだ。

 騒ぎのアヤカシは粘泥だ。
 一般人には驚異でも、大した敵ではない。
 倒すのはたやすい。ちょっと無報酬で働けばよいだけだ。

 しかし思い出せ。

 あなたは今、魔性の巣窟に踏み込んでいる。
 自分が開拓者であると証せば、大変なことになるのはあなたである。

 倒すか倒さないか。
 それはあなたたち次第だ!!


■参加者一覧
鈴梅雛(ia0116
12歳・女・巫
阿弥香(ia0851
15歳・女・陰
酒々井 統真(ia0893
19歳・男・泰
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
マルカ・アルフォレスタ(ib4596
15歳・女・騎
フランヴェル・ギーベリ(ib5897
20歳・女・サ
エルレーン(ib7455
18歳・女・志
乾 炉火(ib9579
44歳・男・シ


■リプレイ本文

 開拓ケットの野外会場で人が食われる様子を見た、近隣農家の親切なご老人。
 アヤカシ出現をギルドへ通報すれば、当然、開拓者が救出に来る。
「あの人混みは一体なんなんだ?」
 酒々井 統真(ia0893)が目を細める。
『橋まで行列ができてるはずなので、行けばわかります』
 受付はそう言った。
 確かに逃げ出す気配も感じられない人々が行列を成している。
 一緒に仕事を受けたマルカ・アルフォレスタ(ib4596)は看板を一瞥した。
「開拓ケット? 催し物のようですが、大勢の人が居る所でのアヤカシ騒ぎとは見過ごせません。騎士として人々の命を守る為、命を賭して戦いますわ!」
 隣のエルレーン(ib7455)も「倒さなきゃね!」と息巻く。
 三人は行列を辿り、入場門に辿り着いた。
「通報を受けた開拓者だ。通してくれ!」
 既に人を食ったという報告がある以上、酒々井達の表情も厳しい。
 その刹那。
「開拓者?」「本物?」「あれ酒々井様じゃない!?」「とーま様ァァァ抱いてぇぇぇ!」「おい、姫だぞ!」「マルカ姫ぇ〜!」「エルちゃーん! 踏んでくれぇ!」「本人降臨キタァァァ!」等と狂乱の騒ぎが巻き起こる。
 人々の雄叫びに困惑せざるをえない。
「エルちゃん!? 今、踏んでくれって言ったの誰!?」
「姫? な、なんですの?」
「……なんなんだ。なんか開拓者っぽい格好の連中がちらほらいやがるが、殆どの奴は動きがまるでシロートだし被害も広がりやすそうだ……エルレーン、マルカ、急ぐぞ!」
 三人は粘泥が蠢く現場を目指して走り出す。

 時は少しばかり巻き戻り。

 初めて開拓ケットに訪れた天河 ふしぎ(ia1037)は、雰囲気に圧倒されつつも有名開拓者や空賊関係の絵巻を買い占めていた。
「わぁ、あそこ歩いてる統真とゼロ……本物っぽい。すごーい」
 仮装麗人には、本人を研究しつくしたプロがいるらしく、化粧で顔の印象も近づけていたりする。
 最初「あ、ゼロも来てたんだ!」と話しかけて、別人と認識した時の恥ずかしさが……いたたまれない。華麗に手を振られて名刺までもらった。

 同じく初参加の乾 炉火(ib9579)も順応していた。
 何冊か販売物を手に取り、下手な春画より完成度が高い『薄い本』を延々と買い込んでいる。
「面白ぇ祭があるって聞いて来てみたが……こりゃまた混沌としてんなぁ」
 百合も薔薇も買っている時点で、人のことは言えない。

 姿を偽らない天河や乾。
 彼らと異なり、変装技を身につけた者もいる。
「来るのは久しぶりですけど、やっぱり楽しいです。次はミヅチさんの雑貨ですね」
 己の知名度を理解している鈴梅雛(ia0116)は萌え対象になる事を避ける為に『まるごともふえもん』を着て、色眼鏡で顔の印象を変える事で、長閑に買い物を楽しんでいた。
 途中で出会った天河には軽く会釈。
 成人向けのアレな本を持つ乾を見て、そっと他人のフリをする。

 そして阿弥香(ia0851)は、酒天童子の衣装を着せて、売り子をしていた。
「酒天様になりきって売ってね! その衣装作るのに3000文かかったんだからね!」
「はーい……じゃない、へーい」
 一般人にとって3000文は、遊郭で一晩遊べるほどの大金だ。
 だが世の仮装麗人達には『いかに本人さながらの完璧な格好をできるか』が重要であり、衣装に注ぐ情熱は、時として家賃を超える金額を注ぎ込んでしまうほど。
 酒天童子姿の阿弥香は「酒天さま素敵!」「酒天さま抱きしめて!」と血迷った女性達の相手をしながら、命じられるまま冊子や絵巻を販売し続けた。
 中身は知らない。
 その時、ふと天河ふしぎを発見した。
「よー! ふしぎ! なにやってんだ? 買い物か?」
 天河の肩が震える。
 彼の腕には、男性向けの薄くて高い本ぎっしりな紙袋があった。
「ぼっ、僕は仮装麗人だぞ! 違う、違うんだからなっ!」
 今まさに自分の空賊を主題にした列に行こうとしていた天河が、顔を隠して走り去る。

 その頃、フランヴェル・ギーベリ(ib5897)はドレスに白面、金髪で変装し、会場の壁にいた。
 会場の壁や島の端は、新刊が出る度に数千冊を売り上げる大手の席に他ならない。白猫天使姫の筆名でサークル参加したギーベリは、固定客がいる準大手。
 開拓者業の傍らで、彼女は煩悩と妄想の限りを働かせていたらしい。
 馴染みのサークル達には挨拶巡りだ。
「おはようございます。花蓮さんの新刊はコクリ・コクルの略奪愛ですか〜、カワイイ! 黒猫さんは闇落ちシリーズの第十弾? 今回は……禍輪公主? 百合ものですね! 闇の緑に染まりゆく耽美な世界観が素敵!」
「白猫天使姫さんの新刊は、純愛なんですか? 寝台はやっぱり天蓋付きですよね!」
 新作の交換会。
 それは努力が報われる至福の一瞬。
 情熱のまま創作活動する事に何ら恥じる点は無いらしい。
 ギーベリは嬉々として顧客の色紙を受け取ると、頼まれた羽妖精を描き始めた。

 こんな風に。
 開拓ケットを知る面々は、アヤカシ騒動が発生するなど微塵も考えていなかった。
 アヤカシ発生に伴い、開拓者たちが会場に集う事になったが……酒々井は何十人もいるそっくりさん達の中に、普段の淑やかさからは想像もつかない愉快な格好をした鈴梅を見つける。
 毎月顔を合わせて、家族同然に働く仲間同士だ。
 見間違うはずがない。
「あれ、雛? なんでそんな」
「き、気のせいです。人違いです! ひいなは通りすがりの、ただのもふら様ですー!」
 それまで毒におかされた人を、影で回復していた鈴梅は、全速力でもふらさまの仮想麗人が集う場所に逃走した。
「……なんだあれ。いや、今は粘泥の退治だ」
 仕事に忠実なはずの友人が逃亡した事に首をかしげつつ、粘泥と向き合う。
 その時、何かを耳打ちされた阿弥香が、酒天童子の格好のまま戦場に乱入した。
「この俺様の領域を荒すとはいい度胸だな。祭りの会場は邪魔させねぇ! 野郎ども! やっちまえ!」
 ビシッ! と指差す。
 キマった。外野から「酒天様ァァァ!」と黄色い悲鳴があがる。
 どうみてもあなた別人だよ! とエルレーンは突っ込みたかった。
 そして腕に抱えた戦利品と戦場を見比べて『こんな本持ってるのバレたら』と葛藤をしていた天河も、正義の空賊な精神が傍観を許さなかったらしい。
「そこまでだ! 正義の空賊団長として、これ以上の狼藉は許さないんだからなっ!」
 天河の後方からも「ふしぎ様ぁ!」と声が舞う。
「……あいつら、なにやってんだ」
 謎の声援に応える知人達を放置して、酒々井は白梅香で粘泥を撃破する。
 エルレーンもまた敵を切り裂く。
「あっという間に、終わらせてあげるよッ!」
「我がアルフォレスタ家の銘と誇りにかけて、怯んではいられませんわ!」
 槍を振り回して大地を駆ける。
 槍に貫かれた粘泥は、塩になって崩れていく。
 瞬く間にアヤカシが物質から瘴気へと還った瞬間に「これがアヤカシ消滅の瞬間!」と絵師たちが血走った眼差しで筆を走らせていた。
「ふう……らくしょうだったの」
 エルレーンが輝く汗を拭う。
「先程からの姫コールは一体なんなのでしょう。恥ずかしい」
 悪寒が止まらないアルフォレスタ。
「しっかし、なんで逃げてない奴が多いんだ?」
 振り返った酒々井が見たものは、取り囲まれた天河たちの姿だった。「ひいいい!」と本気の悲鳴をあげている。
 いつの間にか、見覚えのある顔も現れた。
「そこの子猫ちゃん! 離れて離れて! お仕事ができないからね!」
 礼服姿に着替えて正体を現したギーベリは、一般人を誘導していた。
「皆さん、こちらは危険です! 凄腕の開拓者がアヤカシを滅するまで、今しばらくお待ち下さい!」
 その顔は『この素晴らしい催しを潰させるものか』と使命感に満ちていた。
 戦利品を手荷物預かり所に隠した乾は、隣で毒された人々を呼び集める。
「粘泥に触れた奴はこっちに並べよ〜、オイチャンが毒を消してやっからな。今日は働きたくねぇんだけど、犠牲者が出ちまってるから特別に無料だ。物は運が良けりゃ買い直せっけど、命は無理だからな」
 開拓ケットでの知名度は低い乾だったが、きっと次回開催で弱小サークルが現れるに違いない。


 アヤカシは無事に討伐された。
 戦った開拓者には主催者からの提案で、会場を出るまで警護がつくことになった。

 ギーベリは厠に走り込むと再び変装して現れて「体調が悪いので失礼いたしますわ」と言いつつ、大量の荷物を恐るべき鬼腕で抱えて走り去っていく。

 見事に仲間達から逃走した鈴梅は、朋友ほのぼの本と雑貨を求める旅に戻っていた。
「このミヅチの抱き枕……か、可愛いです。あの、3つください」
 実用用、観賞用、保存用である。
 購入した抱き枕を家へ配達してもらおうと業者に向かう途中、自分が題材の本に出くわした。例えば『眠れるひいなちゃん(日常ほのぼの)』『長老さまとおひるね(朋友ギャグ)』……そして成人向けに続いていた為、見なかったことにした。

 エルレーンは顔を赤くして走っていた。
 阿弥香が売り子をしていたサークルの本を見てしまった為である。
 数分前まで『お店を出してるの? すごいねえ! 絵物語? 見てもいい?』と純粋な好奇心で胸が一杯だったが、今は会場全てが卑猥にしか感じられない。そして彼女に更なる試練が降りかかった。
「……あ、あれ、わたし、じゃ……な、ないよね、あ、あは、あははは」
 自分と兄弟子が薄着で抱き合う絵姿がある。
 ありえない。
 だが近づいて何冊か手に取ってみた。
『ヒトガタキャンディ(擬人化朋友×エルレーン)』『嫁ぎ遅れたのは誰のせい?(兄弟子×エルレーン)』『たまには鍋で温めて(成人向)』『キライだなんて口ばかり(成人向)』……等々、憎しみが肉欲に変化した系の本ばかり。
「はうっ!」
 エルレーン失神。
 その隙に、サークル主達は荷物をまとめて逃亡した。

 一方、阿弥香は、先ほどエルレーンが手にとって顔を真っ赤にして逃げていったのが気になって仕方なかった。
 彼女は、本の中身を知らない。
「そういえば……この『武帝様総受け』とか『クズ鉄王総受け』って……なんだろ?」
 阿弥香は『ザリアーの眠れぬ夜〜スタニスワフ・マチェク総受けアンソロジー〜』なるモノを手にとった。
 五分経過して……倒れた。
 やんごとなきご身分の方が、みだらな扱いを受けていた。
 阿弥香は酒天童子衣装のまま、担架で医者に運ばれていく。時に生き恥を晒すのが仮装麗人の宿命だ。

 アルフォレスタはガラドルフ大帝の仮装麗人を発見する度に、敬愛する陛下への見事ななりきり様に思わず感激の涙を流していたが、歩き回っている内に自分の絵姿本を発見した。
「まぁ、わたくしも題材になっているのですね。拝見してもよろしいですか?」
「ダメです」
「え?」
「ダメです」
「え、でもご自由にご覧くださいと」
「ダメです。なぜなら恥ずかしいので。お帰りください! お帰りください!」
 必死な様に根負けし、次に売り手が昼食休憩中で不在サークルの本を狙って手にとった。
 思考が止まった。
「……わ、わたくしがあられもない姿で、こ、こんなふしだらな事を!?」
 もはや内容はお察しください状態である。
 見れば周囲のサークルが必死に荷造りを始めている。
 ざっと見ても『ジルベリアの花(シリアス)』『アルフォレスタの娘(シリアス)』『となりのマルカさん(ギャグ)』から『大帝さまと一緒(男性向け)』『淑女の秘密れっすん(男性向け)』と種類豊富だ。
「なんという破廉恥な…………作者の方、一体どうしてくれましょうか?」
 全身から瘴気のような黒い気配を纏ったマルカを見つけ、怖くて席に戻れない売主が立ち尽くしている。
 かわいそうに。

 そして天河は、無知な酒々井を物陰に連れ込み、己の空賊団本の代理購入を頼んでいた。
「ぼ、僕は変な事期待して来たわけじゃ、ないんだからなっ! ところで僕の代わりに空賊本を買ってきてよ! もうバレちゃって買いに行けないんだ! 報酬ははずむから!」
「別に構わないが、どこに何があるかなんて、俺、分からないぜ?」
「大丈夫! 島の端から端まで買う、簡単な仕事だから!」
「え……しま?」
「机のことだよ! 並んでる縦列! あの一列! 中は見ちゃだめだからな!」
 お使いを架された酒々井は仕方なく買いに出かけたが『星空の宣誓(希儀ネタ)』『戦え! ふしぎの空賊団!(団員ギャグ)』『秘密天空飛行(男性向け)』『ふしぎ姫(男性向け)』『いけないメイドさん(男性向け)』……と表紙が徐々に肉々しさを帯びていった為、羞恥心と戦いながら義務を果たした。
 内心、天河への印象が激変していた。
 そしてさっさと天河に渡して帰ろうとした時、朋友ほのぼの癒し系な本に目を止める。
「これ知り合いの娘が持ってたな……ここで買ってたのか。土産に買って帰るかな」
「ど、どどどどうぞ! お持ちください! タダでいいです! あ、握手してください!」
 挙動不審の売主の願いを叶えた時、酒々井は物陰に自分の絵姿を発見した。
 後ろの列から数列が、自分を題材にしたサークルらしい。
 正面から追い返されたアルフォレスタを見ていたので、酒々井は裏から自分題材の作品を眺める。
 すると『それいけ統真くん!(全年齢対象ギャグ)』『俺があいつで、あいつが俺で(魂交換ネタ)』『俺とあいつらの休日(主従萌)』『小槌な事件簿(朋友の人化)』『陽だまりの花に魅せられて(恋人との純愛)』……等々、個人情報流出も甚だしい作品である事を悟った。

 全てを終えた乾は一人、手荷物預かり所から、春画代わりの戦利品を山ほど抱えつつ、倒れたり運ばれたりする仲間を眺めて、からからと笑った。
「有名な奴らは大変だなぁ。ま、誰でも人に言えない趣味の一つや二つあらぁな。そこまで害もねぇだろうし……最悪、当人にバレなきゃいいんじゃね。って言っても、本人にバレたサークルの連中は大変だなぁ」
 完全に他人事だ。
 さあ帰って楽しもう、と満足げに帰っていく。

 その頃、ギーベリは畦道を走っていた。
 それを見つけたのが、実り豊かな景色に「なんと喜ばしきことか!」と労働の貴さを味わっていたリンガストだ。ふとフランヴェルの足に槍をひっかけた。
「うお! 座りっぱなしで原稿追込みしてたせいで腰がぁっ!」
「何かやらかして逃げてきたのか? なんじゃこの薄い本は」
 薄い本を捲る。
 気づいたフランヴェルが止めたが遅かった。
「貴様……斯くの如き破廉恥な書物を描く迄に堕ちたかァァァ!」
「フッ、ボクなりの愛のか……あんぎゃあああ!」
 黄金の畑に、響き渡る断末魔。

 
 夕暮れとともに、主催者が閉幕の声を張り上げる。


 本日も開拓ケットは満員御礼。
 半年後の祭まで、皆さん元気にお過ごしください。
 おうちに帰るまでが『開拓ケット(カタケット)』なのです――と。