【玄武】卵舞う月夜―壱
マスター名：やよい雛徒
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| ■オープニング本文 【このシナリオは玄武寮専用シナリオです。一年生、二年生含め、玄武寮に所属している方々の参加が対象です。】 赤く色づく紅葉が揺れる。 夏の酷暑も通り過ぎ、時々肌寒い風が頬を撫でる。 ここは五行結陣、玄武寮。 講堂で毎週の基礎講座を終えた後、寮長がふいに授業とは別の話を始めた。 「本日はここまで。ところで皆さん、自分の研究は進んでいらっしゃいますか？」 玄武寮の寮長、蘆屋 東雲（iz0218）の朗らかな問いかけに、背筋がびくりと震えた者は何人いただろうか。 玄武寮の寮生は、入寮の際、必ず『何の研究がしたいか』について問われる。 玄武寮は多くの研究者を輩出し、卒業生は様々な研究施設に所属する例が多い。言ってしまえば、寮に在籍している間に、どれだけ成果をあげられるかで将来が決まっていく。優秀な成績を収め、独自の研究課題を実用的な段階にまで昇華させられれば、それこそ副寮長の狩野 柚子平（iz0216）が若くして封陣院の分室長に着任したように、封陣院の職員としてヘッドハンティングを受ける前例も存在する。 寮長は微笑んで言葉を続けた。 「一年生の方はともかく二年生の方は、徐々主題をちゃんと決めてくださいね。年末か年明けには、現時点でのレポートを６００字くらいで提出して頂こうかと考えています」 今から準備しておくように、と暗に言われている気がする。 「それとですね。最近、暑さもさほどではなくなって参りましたし、副寮長にも相談したのですが、冬に入る前に希望制で『魔の森』に課外授業へ行ってみようと考えています」 軽々と重大な事を言われた気がする。 「寮長、それは安全なのでしょうか」 「安全ではありませんよ、魔の森ですから」 しかし流石に最深部へ向かうのは寮生に困難と判断したのか、あくまでも比較的低級が蠢く魔の森の端が選ばれる予定だと告げた。また寮生達の調べたいことが同じとは限らない為、希望調査を行うという。 「今から用紙をお配りします。魔の森で調査したいことや、遭遇したいアヤカシがいる場合は書いてくださいね。内容を吟味して、私と副寮長、どちらかが同伴すべきか判断します」 「りょーちょー！」 長々説明していた寮長の頭に、ぽて、と人妖の樹里が降り立った。 外はもう薄暗くなってきている。 「まあ、準備できましたか？」 「うん」 寮生たちが意味深な会話に耳を傾けていると「先月はお月見できませんでしたので、代わりです。お暇な方はきてください」と言った。昨年は月見の前にアヤカシ退治へ駆り出されたが、今年はどうやら違うらしい。調理場のおばさま達が、花梨の石庭へ集った寮生たちに、次々網で包んだ卵を渡す。 「大変だね。がんばんなよ」 なんだその応援。 「……寮長？」 「たまには運動も大事ですよ」 嫌な予感しかしない。 寮長は心からの素敵な笑顔で告げた。 「宴会前に何かできないかと調理場の皆さんと相談していたんです。よろしいですか、皆さん。この網には生卵が入っています。一人一個。これを体に巻きつけてください。頭でも腰でも足でも構いません。必ず見える位置にしてくださいね」 「こうよー」 寮長と樹里がお手本に、生卵入の網を頭に巻いてみせた。 「これから皆さんには寮内を自由に隠れて頂きます。私が笛を吹いたら開始の合図です。自由に移動し、発見した寮生の卵を割ってください。他職の術や攻撃系の術は禁止です。もし誰かに襲われて卵が割れたら、自分の名前が入った札を潔く渡してください」 自分の名前が刻まれた小さな札が配られてゆく。 「札を集めるのですか？」 「ちゃんと卵を割ってからですよ。自分の卵が割れた段階で脱落です。最終的に最も多く卵を割る事ができた寮生には『梵露丸』を差し上げましょう。さ、ゲーム開始です」 寮生たちは隠れ場所を探して走り出した。 静かなる戦いが、今始まる！！ |
■参加者一覧
露草（ia1350）17歳・女・陰 
御樹青嵐（ia1669）23歳・男・陰 
八嶋 双伍（ia2195）23歳・男・陰 
ワーレンベルギア（ia8611）18歳・女・陰 
ゼタル・マグスレード（ia9253）26歳・男・陰 
十河 緋雨（ib6688）24歳・女・陰 
リオーレ・アズィーズ（ib7038）22歳・女・陰 
エリアエル・サンドラ（ib9144）11歳・女・陰 |
| ■リプレイ本文 魔の森に関する授業の希望を蘆屋 東雲（iz0218）に提出した玄武寮の所属寮生たちは、次々に卵を身に纏い、名前の札を受け取ると脱兎のごとく走り出した。 「それでは皆さん、頑張ってくださいね」 呑気な寮長の応援を背に、男女も先輩後輩も関係ない仁義なき戦いが始まった。 最初に仮眠室にたどり着いたのは、卵を頭にのせたゼタル・マグスレード（ia9253）だった。 その一見滑稽な姿に対して、マグスレードは闘志に燃えている。 「戯れとはいえ手は抜くまい。それが僕なりの敬意だ」 扉の裏に隠れ潜み、標的を待つ。 彼の元へ近づく三人の人影……のうち、二人は一番近かったからか勝手に戦い始めた。 従って残る一名……胸の谷間に卵を挟んだ十河 緋雨（ib6688）は、不敵に微笑みながら近づく。割れるもんなら割ってみろ、と言いたげである。 「卵の戦いは良く分かりませんけど、がんばりますか〜。……ふっふっふー、油虫型の人魂で居場所はバレバレなのですよー！ はっ！」 突如、マグスレードの正面に、黒い壁が出現する！ 「しまった！」 「やりました。さぁ逃げられません。大人しく……って、あら？」 相手の卵を割ろうとした十河は、自分が致命的なミスをしたことに気づいた。マグスレードは扉の影に隠れていた。僅かな隙間を結界呪符「黒」を出現させたことで塞いだ……つまり、１０分が経過して壁が消えるまで、マグスレードの卵は割る事ができない。 仮眠室の角で監禁されたマグスレード。呆然と立ち尽くす十河。 策士、策に溺れる。 「あああ！ なんということでしょう！ う〜、自主的に解除したら先制攻撃はとられてしまう可能性が高いですし、ここは一旦諦めて次の獲物を」 くるりと振り返ると……廊下がない。 「あれぇ！？」 見覚えのない真っ白な部屋につながっていた。きょろきょろを周囲を見回したが、どう考えても部屋である。何かの術かと考えに至った刹那「失礼いたします」という低い声音とともに谷間の卵が、ぺきょぉん、と割られた。 十秒が経過した刹那、視界が部屋から廊下に戻っていく。 「申し訳ありません。今のは幻影符です」 卵を頭の上に乗せた八嶋 双伍（ia2195）が白い壁から現れて、卵でドロドロの手を引いて手ぬぐいで拭った。生卵で胸元がどろどろの十河は、頭を整理して「あ、なるほど」と我に返る。 開始直後の八嶋は、まったりと歩き回っていたので、最後に仮眠室に到着した。四人の戦いを眺め、相手の卵の位置を確認し、罠に掛けやすい人物を選んだのだ。 「えぇっと、決して性的嫌がらせではありません」 「わかってます〜、勝負ですからねぇ〜、あ、これお渡ししますよ〜」 卵を割られてしまった十河は名札を手渡し、そのまま別の部屋へ着替えにいった。 漁夫の利で勝利を勝ち取った八嶋は、黒い壁をじっと眺めて、無理と判断するや別の部屋へ移動する。 そして忘れられたマグスレードは、十分間の放置が確定した。 ところで自滅を防ぐ為、頭に卵を装着した露草（ia1350）は、食堂で御樹青嵐（ia1669）に遭遇した。しかし御樹は腕に卵を装着していたが、それよりも割烹着と頭巾で一瞬誰か分からなかった。 「……何をしているのでしょうか」 「宴会の下ごしらえです。ついでに変装を兼ねています」 言いながら淡々と蒸し物を作っている。露草が食堂で忙しく働くおばちゃんたちに「は、卵使ってごめんなさい」と食物への冒涜行為に律儀な謝罪をしていたが、人魂で遠くの足音を察知し、今が戦いの真っ最中である事を思い出す。 「青嵐さん、休戦を要請します！ 最後は仁義なき戦いであろうとも、ここは転寮した者同士、共に戦って生存確率を高めるべきだと思いませんか！？」 露草は味方を増やす戦法に出た。青嵐は不敵に笑う。 「ふ、いいでしょう。中々に粋なお遊びだと考えていたところです。しかしこれは遊びの名を借りた立派な戦い。戦い方は選びません！」 とか言いながら、両手は忙しく動き、恐るべき速さで球菜の千切りをしている。 休戦条約を結んだ二人は、三人目の到着を待った。 人魂で警戒しながらやってきたのは、白い獣耳をした同じ二年生である。 「狙って行きましょう！ 露草さん！」 「先手必勝ぉぉぉぉ！」 露草は雀蜂の姿にした人魂を放った。ぱっと見て、毒蟲なのか神経蟲なのか判断ができない。相手が避けようとしたのを見て、青嵐が「逃げ場はありませんよ！」と片手で人参のみじん切りをしたまま結界呪符「黒」を放つ。 露草も結界呪符「白」を標的の正面に出現させる。 二つの壁が、食堂の出入口を塞ぎ、完全なる密室が今ここで完成した！ 「さぁ、急いで卵を……おや？」 壁を消した露草と御樹だったが、脅かした相手は締め出されたと思ったのか、すっかり姿を消していた。 保健室では既にエルフ二人組が派手に卵を狙いあっていた。 そこへ遅れて到着したのがエリアエル・サンドラ（ib9144）達である。 「余り体を動かすのは得意ではないが、我は精一杯頑張るのじゃ！」 背中に卵を背負ったサンドラが狙うのは上級生の卵。 ワーレンベルギア（ia8611）が戸惑っていた。 「ど、どうしてこんな余興に……っ！」 「すまぬ先輩、情けは無用じゃ。勝負の世界は厳しいものなのじゃろ？」 衝立を利用して身を守りつつ、じりじりとワーレンベルギアを部屋の隅へと追い詰めるサンドラ。しかし申し訳なさ半分、わくわくが半分といった所で、サンドラは自分の勝利を確信しつつあった。 もはやワーレンベルギアに退路はない、 相手の術に警戒しつつ、このまま鞠で卵を割る事ができれば勝てる。間違いなく勝てる。 しかしそこは先輩の知恵。ワーレンベルギアが陰陽符を手に、術を発動した。 すかさず衝立の影に身を隠すサンドラ。 「えい！」 ずごごごごご…… 突如として正面に白い壁が二枚、直角に現れた。結界呪符「白」だ。 ワーレンベルギア本人が閉じ込められている。 「……て、え、せ、先輩？？ 先輩どうしたのじゃ！？ 術をまちごうたのかの！？」 厚さ５０センチの壁をぺちぺち叩くサンドラ。二人の距離を分厚く阻む白い壁の向こうから、ワーレンベルギアの掠れるような声が聞こえてくる。 「卵が割れたら……酷いことになります……頭だと髪の毛が気になるし、胸元や腰だと服が大変な事に……ですから私は足首に」 いや、そんな事はきいていない。 「でも……よく考えたら、割られなければ酷い目にあわないので……割られないように頑張る場合……部屋に同化してしまえばよいのですね。すべすべしてる壁が……気持ちいい」 ワーレンベルギアは時間が経過するのを待つらしい。呆気にとられたサンドラはオロオロしていたが、やがて再び人魂を放って、天井からワーレンベルギアの姿が見える。なんとか足首の卵が見える。もはや上から鞠を落として割るしかない。 立ち位置を調整して、ぽーん、と鞠を投げ入れた。 ぽーん、と鞠が投げ返された。 「あら、鞠遊びでしょうか？」 だめだこれは。 サンドラはワーレンベルギアの卵を割る事を諦めて「別の部屋にいくのじゃ」とすごすご保健室から出て行った。 ここからワーレンベルギアのまどろみ時間が始まる。 ネックレスのように首から生卵を下げたリオーレ・アズィーズ（ib7038）は、図書館に到着した途端、腰に両手を当てて高笑いを上げていた。 「さあ、この貴重な書籍の砦の中で生卵をぶちまける勇気があるなら、かかってきなさいっ！！」 気分は立てこもり犯か、悪の王である。しかしそこで怯む玄武寮の生徒たちではない。 「さぁてこれから蔵書を積み上げて更なる防壁を、わひゃ！」 視界が奪われる。 離れた場所で書物がおちる音がした。 「そこですね！？ たとえ見えずとも……」 刹那、ぱき、という軽い音とともに胸がねっちゃりと汚れた。逆の方向から何か飛んできた。 「きゃああ、え、どうして！？」 「そんな大声あげてたら、人魂じゃなくても分かるわよ」 声の方向を眺めると、目が冴えるような赤毛の同級生がたっていた。 がっくりと膝をついたアズィーズは自分の札を相手に渡すと「着替えてきます。本の片付けはそのあとに」と言って出ていた。 脱落者の十河とアズィーズが着替え終えた頃。 サンドラと八嶋は、食堂を前にして立ち止まっていた。向かい合うふたり。 食堂の中から御樹の料理の指示をする声が聞こえる。 今は背中を向けたほうが負ける。 「……彼は中で料理と戦っている、という認識でよいのでしょうか。戦い終わったとか？」 「だとすると、我とおぬしが戦わねばならぬということかのぅ」 そこで人魂で周囲を警戒していたサンドラは、一人のエルフ接近を察知した。 「く、先輩に増えられてはかなわぬのじゃ！ 今ここで決着をつける！」 サンドラはふたつの鞠を手にして八嶋の卵を狙う。しかし八嶋は不変の微笑みを浮かべている。呪殺符を構えて何かの術を発動した、……ように見えたのだが、なんの変化もない。しかし一手遅れて庭の方に白い壁が出現した。 「ふ、元々逃げる気など毛頭ないのじゃ！ とう！」 鞠が、すかっ、と八嶋を通り抜けた。 と同時に、ぺきょ、っと音がして背中の卵が割れた。幻影符だ。 まんまと卵を割られてしまったサンドラが「勝ちたかったのじゃ〜」と呟きながら札を八嶋に渡した。 一方、食堂内で待ち構えていた御樹は、訪れた同級生の女性エルフが頭に装着していた卵を同化を解いた管狐の白嵐に割らせてご満悦だった。その頃、露草は仮眠室で防御用布団を獲得して出ていき、入れ替わるように仮眠室の隅に監禁されたマグスレードは、ようやく扉裏から解放されていた。 そしてワーレンベルギアは……保健室で安穏と寝ていた。 食事の支度をひと段落させ、管狐の白嵐と深謀の知恵を行った御樹は二つ目の札獲得を目指して研究室に向かっていた。ひっそりと静まり返る研究室。かなりの者が脱落したのか、身を小奇麗にして声援を投げてくる者たちとすれ違った。 念の為、人魂を研究室の中に飛ばすと……何かに当たり、衝撃で人魂が消滅した。遠巻きに見れば、研究室の出入り口がもうもうと白い煙を上げている。 これはマズイ。 御樹はなんだかよく分からないまま、煙の原因を探るべく近づいた。煙たい。 「なんですこれは……ごほ、……小麦粉？」 虚空を漂う小麦粉が動いた。 「ハッ！」 一瞬の隙をついて、御樹の卵は年配の後輩に打ち取られたのであった。 そして最終的に勝ち残った、或いは生き残った露草とマグスレード、八嶋の三人が花梨の石庭に集っていた。他の部屋に生き残りもいたが、三人いる、ここが最後の決戦地と言える。頭に卵をつけた露草は布団を盾にして叫んでいた。 「誰の挑戦でもうけーる！」 そして現れた二人に微笑んだ。 「ふふっ。ゼタルさん。八嶋さん。決着を、つけましょう」 「全力で応じよう！」 「ある意味先輩な方々との手合わせですか。お手柔らかにお願いします」 三人揃って、一斉に壁を出現させた。 本日は結界呪符が乱舞している。壁を作って死角に身を隠した三人は、更に壁を増産して花梨の石庭に障害物をバンバン作り続けた。まるで迷路だ。既に戦いを終えた者たちが決戦を観察に来ていたが、高い壁が邪魔をして何も見えない。 「うっかり卵を割っちゃった方は申告してくださいね！」 「言われずとも！」 「……隙間通るのが大変ですね、これ」 しかしこの迷路、致命的な欠点がある。三人が計画性ゼロで出現させるので、行き止まりができる。しかも白壁を生み出しているのは露草と八嶋な為、行き止まりを解除しようとしても自分の作った壁でなかったりする。 そして何より、足元の玉砂利が三人の居場所を知らせ続けた。 「は！」 「こちらの勝ちた！」 マグスレードが露草の卵を割る。 「はい、王手です」 足音で二人を観察していた八嶋が、マグスレードの卵を割った。 時は刻々と過ぎた。 十河とアズィーズ、サンドラと露草が脱落。御樹は札を獲得していたが、あと少しのところで割られてしまった。ワーレンベルギアは鉄壁の防御による引きこもりで勝ち残ったが、札は無し。札を一つ勝ち取ったマグスレードは、その不意をつかれてしまった。 最終的にご褒美を獲得したのは、謎めいた笑顔で知られる八嶋だった。 何はともあれ、卵騒ぎは幕を閉じた。動き回った者たちは空腹で、腹を鳴らしている。 「負けたのは少し悔しいですが、無礼講と参りましょう。おかわりは自由です」 再び割烹着姿になった御樹は、里芋の煮っ転がしを寮生のもとに持っていく。お団子には胡麻で顔が書いてあった。もちろん男性陣にお酒を運ぶのを忘れない。 厨房では食堂のおばちゃん達に混じった十河がロールケーキ作りをしている。 アズィーズも卵で巨大な菓子を作ろうとしている。割れた悔しさだろうか。 自主的隔離で生き残ったワーレンベルギアは食事の匂いにつられて、ひょっこりと食堂に顔を出した。割らずに残った卵を食堂のおばちゃんに返却すると、食堂のおばちゃんはしばらくして不思議な卵を持ってきた。 「はい。黄身返し卵。割らずに持ってきた子の戦利品だよ」 それは綺麗な煮玉子だったが、不思議なことに、外が黄身で中が白身だった。 「不思議、ですね。どうやって作るんですか？」 「ふっふっふー、料理人の秘密さね。普通の卵じゃ、これはできないんだよ。ご褒美を堪能しておくれ」 ワーレンベルギアは不思議な卵と食事を楽しみつつ「食事ってとても幸せなことだと思います」と幸せそうに食べていた。 湯浴みを済ませて少し遅れて戻ってきた露草とマグスレード。 「たくさん動いたのでおなかぺこぺこです！」 露草は人妖いつきと人妖樹里に、両手を合わせて「いただきまーす」と食事に向き合う。 マグスレードは同級生たちに甘酒を注いで周り、卵割り合戦の行方を聞いた。なかなか試行錯誤しているのが妙に笑える。 「なるほどな、術も使い方次第で用途も広がる。皆の創意工夫、実に勉強になったよ」 そして自分の席に戻ってくると、露草と一休み中の御樹と一緒に、研究について少し話をした。 「僕はアヤカシの生態調査だからね……生涯をかける事になろうが、少しでも未知を既知に変えていけたらと思う」 「青姉ー！ おかわりなのじゃ！」 離れた席からサンドラが御樹に手を振っている。姉、の部分に吹き出す露草とマグスレード。全く動じない御樹が厨房に戻ると、アズィーズが入れ替わりで出てきて、サンドラの隣に座った。 「リオ姉、もうすんだのかの？」 「あとは蒸し終わるまでのお楽しみです。負けたのは残念でしたね」 「うにゅ〜しかし流石は寮長なのじゃ。遊びと見せかけて、しっかり授業の一環となっておる。攻撃以外の術の運用法を対戦で示させる。やはり恐ろしい所じゃの、玄武は！」 くわ、と両目を見開き、いきなり団子にかぶりつく。 勝利者の八嶋は、庭に降り立って寝ている相棒の燭陰の姿を微笑ましく思いつつ、輝く月を見上げた。傍らには食堂のおばちゃんが作ってくれた黄身返し卵とおつまみの数々。 「賑やかな一年になりますね」 今宵も、玄武寮の夜が過ぎていく。 |
