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■オープニング本文 陽炎の羽根のように薄く切り出された白い蝋。 繊細な指先が、一枚一枚を組み合わせて、蓮の花を象っていく。 美しく咲く、大輪の蓮の花。 「清史郎、それは?」 「花蝋燭ですよ。本番は八月ですが、今から準備をはじめないと」 そう、これは蝋燭にすぎない。 蓮の花を象った蝋燭『花蝋燭』は、職人達の芸術品であり技術の結晶でもある。 ここは五行東方、白螺鈿。 五行国家有数の穀倉地帯として成長した街だ。 白螺鈿では毎年8月10日から8月25日 は【白原祭】が開かれている。 白原祭の決まりの一つに、白い蓮の花を一輪、身につけて過ごす……というものがある。 手に持ったり、ポケットにいれたり、髪飾りにしたり。 身につけた蓮の花は一年間の身の汚れ、病や怪我、不運などを吸い取り、持ち主を清らかにしてくれると信じられていた。その為、一日の最期は、母なる白原川に、蓮の花を流す。祭の時期になると、川は一面、白い花で満たされ続け、ほんのりと花香る幻想的な景色になることで広く知られていた。 しかしいつからか、白原祭は少々変わっていった。 昼間は切り花で満ちている白原川。 それが夜になると、ぽつりぽつりと陽炎の羽根のように薄く切り出された蓮の花型蝋燭『花蝋燭』が水面に浮かび、満天の星空の下で優しく燃えながら香木の香りを人々のもとに運んでくるようになった。 幻想的な夢の光景を愛で、香りを楽しむ。 しかしそれを実現するには、途方もない量の花蝋燭が必要だった。 だから白螺鈿の者達は、春から着々と花蝋燭を作り、夏になると店頭に並べる。 「去年は買いましたけど、今年は作ろうと思って」 「清史郎、皆も呼ぼう」 去年も沢山の人が真夏の白原祭へ訪れた。 きっと今年も遠くから遙々やってくるに違いない。 だったら、一緒に作り方を知りたい人もいるかもしれない、と。 白原祭で使う花蝋燭作りを、手伝ってくれる人をギルドで呼び集めた。 ささやかなお礼は、真夜中のキャンドルサービスと食事会。 不揃いで不器用な形の蝋燭も、沢山集めれば華やかに燃えゆく。 お腹がいっぱいになったら少しだけ遊びたい。 花蝋燭に火を灯して。 天の川のしたで、真夜中の庭をかくれんぼ。 きっと香木の薫りが、星の囁きが、あの人の居場所を教えてくれる。 さあ……夏の夢を想いながら、儚く溶ける造花をつくろう。 甘く香る、花蝋燭を。 |
■参加者一覧
劉 天藍(ia0293)
20歳・男・陰
露草(ia1350)
17歳・女・陰
村雨 紫狼(ia9073)
27歳・男・サ
シャンテ・ラインハルト(ib0069)
16歳・女・吟
劉 那蝣竪(ib0462)
20歳・女・シ
天霧 那流(ib0755)
20歳・女・志
フレス(ib6696)
11歳・女・ジ |
■リプレイ本文 穏やかな陽光を浴びたこの日。 シャンテ・ラインハルト(ib0069)は天儀の日々を楽しんでいた。 見える色彩、聞こえる音色。 全ての貴重な体験が心の色を染め変えていく。 「ここのお宅、ですよね。茜さん、いらっしゃいますか?」 「いらっしゃい」 清史郎と茜夫妻が出迎える。 風に揺れない蓮の花が広がる部屋の中で、緋神 那蝣竪(ib0462)は蜻蛉の羽の様に薄い花弁に手を伸ばす。つるりと硬質な手触り。蝋の花という繊細な芸術品だ。 「これが花蝋燭……素敵ね! 使ってしまうのが勿体無いくらい。ね!」 緋神が劉 天藍(ia0293)の方を振り返る。 金色の瞳が花蝋燭を手に取った。 「白原祭で使う花蝋燭か、随分ロマンチックな。蝋燭の絵付けには興味があったんだ」 思い出になるような品を作ろう、と劉は思った。 皆が席に腰掛け、花蝋燭の雛形を作り。 御彩・霧雨(iz0164)の傍らに寄り添う天霧 那流(ib0755)は、筆の繊細さを見た。 「花蝋燭って、改めて見たら綺麗……得意そうね?」 「染めつけは家業だぜ? 絹と蝋燭じゃ物は違うが、コツは分かる」 「私も覚えなきゃいけないかしら」 天霧は鬼灯祭を思い出し、炎の揺らめきを蝋燭の花弁に描く。 「樹里もー、かくのよ!」 御彩の肩を離れた人妖が絵筆を持った。 騒がしくも迷いのない絵筆に焦がれる。 絵柄に迷うラインハルトが隣の露草(ia1350)に声をかけた。 「花蝋燭の絵付け、どうしましょう」 凡庸な言葉を美しく飾り、楽の音に色を乗せる術は手慣れたもの。 しかし今日は蝋を花に象り、楽器を絵筆に持ち替えて、沈黙に咲く純白の蝋を何色に染めるかで悩む。 「そうですねぇ……ひとつひとつ、丁寧に。想いを込めて、ですね」 露草(ia1350)は窓から白原川を眺めた。 あと一ヶ月もすれば白い花の色で染まる。 「風と川の流れに身を任せた花は、いずれ海へと至るのでしょうね。それなら」 瞼を閉じれば浮かぶ花。 海に至る様を思い描きながら花蝋燭を染めていく。 とびきり美しい魚と海の草々、珊瑚と真珠を抱くあこや貝の煌めき。 「ラインハルトさんは、何にします?」 問われたラインハルトは自分の髪に目を留めた。 香りたつ葡萄を思わせる紫の髪は、ひとたび陽光を浴びれば、木漏れ日の中で風にそよぐ藤の花の色に似ている。 藤色。 淡く煌めく青味の紫水晶。 「花蝋燭……花、藤の花の絵を描いてみます。でも普段は楽譜くらいしか書きませんから自信が無くて……笑わないでくださいね?」 少し恥ずかしいです、と。消え入りそうな声で囁く。 ぽっと羞恥で頬を薄紅に染めながらラインハルトは微笑んだ。 女同士の秘密のお喋り。 隣では、寄り添いあう者達のお喋りも聞こえた。 劉の花蝋燭は花芯と影を淡い赤に染められており、橙への移ろいは茜の空を思わせる。 緋神の花蝋燭は花弁を虹の色に染めつけ、花心を七色の内の一色を選び染めた。 ふと緋神の脳裏を掠める祭の思い出。 「祭の宵に、輝き浮かぶ花蝋燭。少し前は天の川を見上げていたけれど……祭日に、地上の天の川が如く、宵闇を彩る様を想像するだけで……心が、ときめくわね」 星の数ほど浮かぶ花は、人の心を映す鏡、万色に移ろう魂の彩のようだ。 向かいの席で器用な滋藤が見守るのは、真剣な眼差しのフレス(ib6696)だった。 「それは?」 「御門兄、じゃなくて……御門さん! まだ見ちゃだめなんだよ!」 不器用さを悟られたくない。 はっと目を見張ってくれる作品を仕上げたい一心で、フレスは筆を走らせた。 大切な人を思いながら描いていくのは、一本の若木だ。 ところで村雨 紫狼(ia9073)は「ま、騒がしい俺でもたまーにはな、こう一人で静かにしたいのさ」等と呟きながら、愛する人への贈り物にと、花蝋燭の花弁を桜色や薔薇の赤に色づけた。 小刀で刻まれる言葉は、永久の愛を誓う。 村雨は思い人の容姿を誉め讃えながら身悶えていた。 「……つまり私の心は貴女の虜。彼女を想う、その狂おしくも心躍る一瞬を、この蝋燭に込めようじゃないか! この想い……まさしく愛だ!」 依頼人の茜に「そんなに大切な方なら、一緒に作れば良かったのに」と言われて、照れ笑いを零していた。 真剣な作業は時間どろぼうだと思う。 日が高い場所に昇り、清史郎達は食事の支度を始めた。 皆で囲む食事会は、涼しげな料理が良いかな、と考えた劉は、茄子のはさみ揚げに棒棒鳥を仕込む傍らで、胡麻を散らした酢飯を黒糖タレに漬けた油揚げに包み込む。緋神もまけじと手鞠寿司に花びらを添えていく。 「私も作らないとですね」 露草は川にちなんで素麺を茹でていた。 付けツユの代わりに薄手の白い器に薄色のお出汁を張って、彩りは紫蘇と茗荷。 天霧は山菜おこわに、母から受け継いだおふくろの味で夏野菜の煮物を一品仕上げた。 料理に慣れないフレスが作るのは煮物だ。 夏野菜と牛肉を酒と醤と砂糖で煮込む。不揃いに切られていく野菜を心配そうな眼差しで滋藤が見守っていた。 皆の様子を眺めていたラインハルトは、彩り鮮やかな主食や副菜をぐるりと見回して、小麦粉と卵、砂糖を手に取った。母国ジルベリアのお菓子は、きっと珍しいに違いない。普段は音を奏でる繊細な指が、今日だけは甘く痺れる夢を織りなす。まずは大きくてふわふわのパンを焼くことからだ。 次々に仕上がる豪華な手料理。 村雨が陽気な鼻歌を歌いながら料理を運ぶ手伝いをしていた。 賑やかな円卓の中心を飾るのは、ラインハルトの傑作ケーキだ。 さくりと銀のナイフが差し込まれる。 ふわふわのパン菓子の中から、とろりとあふれるチョコレートの芳香。菓子を包み込む純白の生クリーム。表面を彩るのは枇杷や桜桃、桃の薄切り。じゅわりと甘く瑞々しい果物には化粧が欠かせない。煌めく仕上げは、薄く塗った寒天のヴェールに、泡雪の様な粉砂糖をひと摘み。触れると折れそうな飴のリボンを、食べてしまうのがもったいない。 「すてき〜!」 緋神をはじめとする女性陣が、食後の菓子に虜になっている。 ラインハルトは「皆さんの料理に劣らないといいのですが」と気恥ずかしげに言葉を添えた。 会心の出来と歓喜の声に嬉しさを覚えながら、ふと思う。 お菓子を作ったのは何年ぶりだろう。 「こうしてみると……私、女の子らしいこと、全然できないですね……恋、とかも」 大切な人がいる皆が、少しだけ羨ましい気がした。 露草がぱん、と手を鳴らす。 「ご飯は美味しくいただく派ですっ! ささ、はじめましょう! 茜さんたちも座ってください!」 今日はゆっくり味わう。 楽しい夜と涼しい味わい、物忘れの妙薬に、忘れたいことを託してしまう。 「いただきまぁす」 天霧は料理を取り分けながら、矢継ぎ早に話しかけていた。 「これはお詫び。この前は誤解してごめんなさい。で、でも、霧雨さんが悪いのよ? 隠し事ばっかではぐらかして不安にさせるんだもの……霧雨さん、次は御彩家の味を教えてくれる?」 霧雨は「うちの味なぁ」と呟きながら、手渡された山菜おこわを口に運んでいたが、天霧を一別して「次は家で、な」と呟いた。 「あら、意味深」 囃し立てつつも緋神の手が華麗に動く。 「折角の贅沢だし、私も手毬寿司とお吸い物を作ってみたの。みんな食べてみて。天藍君も」 「那蝣竪さんの手毬寿司、美味しそうだな、流石。食べていいか?」 「もちろんよ。はい、天藍君もあーんして」 「……いや、あーんはちょっと」 伸ばした手を止めた。 囃し立てる声に全く動じる気配を見せない緋神。 困惑気味の劉に、緋神が吹き出した。 「ごめんなさい、困らせちゃったわね。小皿にのせてっと。……どう? 口に合うかしら?」 もぐもぐと口を動かす。緊張で味がしない。 友人にも手鞠寿司を配り、微笑ましげに笑う緋神に、劉は目を奪われていた。 一方で。 「御門さん、煮物の味……どう?」 「ん、美味しく出来てるよ、頑張ったね。それはそうと……指、痛くない?」 「う、うん。大丈夫なんだよ」 フレスが顔を赤くして滋藤から顔を背ける。 その不自然さに首を傾げた劉が緋神に「喧嘩でもしたのかな」と問いかけると「包丁で切った指におまじないをしてもらったんですって」と人差し指で唇を示す。いかに不器用な男でも言わんとする意味は通じる。緋神が「それにほら」と示す先では、雛の餌付けのように口をあけるフレスへ箸を運ぶ滋藤がいた。 食事の後は遊びましょう、と言い出したのは茜だった。 一人一人花蝋燭を持って、貝合わせの様に探し会おうという。 蝋燭を頼りにした、真夜中のかくれんぼだ。 茜は、村雨と清史郎を。 樹里は、ラインハルトと露草を。 天霧は、霧雨を。 フレスは、滋藤を。 そして緋神は、劉を探すことになった。 鬼は隠れて50を数える。 緋神は、我先にと劉を庭へ連れ出した。 「私が隠れる方ね! ふふ、シノビ相手のかくれんぼ、見つけられるかしら?」 悪戯めいた甘い囁きを残して、ふわりと夜霧の闇に溶け消える。 「え、隠れんぼって何だ……って、シノビに本気で隠れられたら見つけられる訳が!」 射干玉の黒髪を追いかけて、揺らめく炎を木々に翳す。 虫の音を聞きながら、消えた彼女のことだけ想う。脳裏を掠めては遠のく微笑みに、尋ねたい事は星の数ほどある。例えば今、彼女は俺が見つける事を期待してるんだろうか……とか。 ふと歩みを止めた。 「天藍君の勝ちね」 理由はない。ここだという気がしただけ。劉も、本当に居るとは思わなかった。 緋神が再び花蝋燭に火を灯す。甘い芳香と蜜蝋色の光が運ぶ静寂。白磁の細腕が劉の体に絡みつく。 緋神は劉の頬に唇を寄せた。 「ありがとう。天藍君、大好きよ」 どん、と緋神を突き飛ばしていた。 囁かれた言葉がくすぐったかったから? いいや違う。 早鐘のように高鳴る鼓動が示す意味は何か。 「……いや、だった?」 「え、違う! そうじゃなくて。そうじゃないんだ。ただ驚いて、俺でいいのかと」 長く知らないふりをしてきた気持ち。 友人だと言いながら、何かを期待した日々。 指先を掠める蝶が、羽根を休める場所は何処か……目で追いかけた自分。 「天藍君は、私が隠れても見つけだしてくれた。貴方が隠れても、私は見失ったりしない。それは満天の空から、ひときわ輝く導の星を探すのと同じ。……私はずっと傍にいたいの。私にとっての星導を、諦めるなんて手遅れなのよ?」 静寂の色が変わった夜。 空に輝く星々だけが、二人の会話を聞いていた。 早々に見つかった天霧は、傍らの男に文句を言っていた。 「人魂を使うなんて、ずるいわ」 「使うな、とは言われてないぜ」 ああ言えば、こう言う。 いつも探す側のようなものだから、と。少し期待して隠れる側になってみたのに、乙女心なんてちっとも推し量れない男は、さも当然のように宣った。 「隠れて遊んで童心にかえるのも悪くはないが、俺はこうして隣で喋ってる方がいいな」 「またそんな。……ね、滝壺の、あの言葉は本心?」 「遊郭の奴は仕事相手だっつったろ」 「そっちじゃなくて! も、もしその気になったら……言って、いつまでも待ってるし」 「その気、って、どの気?」 顔を朱に染めて「言わせないでよ」と霧雨の耳を抓る。首筋を手で抑え、頬杖をつきながら顔を背ける。このとぼけた物言いに、何度悩まされたか分からない。散々悩んで出た疑問の答えに、気づいたのは最近の話だ。 「那〜流〜、怒るなよ〜」 「……霧雨さんって『他の男と幸せになれ』とか、実は考えてるんでしょ?」 沈黙の意味を推し量れる程度には一緒にいる。 はぁ、と溜息を零してから振り返った。 「おあいにく様。あたしの望みはあなたと共に生きる事よ。忘れないで」 ぱちん、と霧雨の額を指で弾いてから立ち上がり、石畳の道を歩き出す。 雲に隠れた朧の月を見上げる天霧の背中に「莫迦だなぁ」と微かな声が聞こえた。 天霧は池に映る自分を眺めながら「惚れた弱みって奴かしらね」と、ひとり言を呟いた。 一方、ラインハルトは庭の端にいた。 「どこがいいでしょう。ここなら見つからないでしょうか?」 薄絹の雲に隠れた月の微笑みに語りかけながら、夏草の中に寝ころび、草の匂いを胸に吸いこむ。誰かの願いを乗せたあの流れ星は、どこへ辿り着くのだろうと思いつつ、夏虫の歌声に目蓋を閉じた。 「みぃーつけた」 人妖の樹里がラインハルトの胸に着地する。顔を覗き込み「簡単すぎるのよ」と頬を膨らませるので、ラインハルトは笑って「そうですね」と言った。 「もしかすると、私は見つけてほしかったのかもしれません。もう1人は嫌ですし……」 薄緑の瞳を持つ人妖は、じーっと藤色の瞳を見上げて「ゆずみたいね」と独り言を呟いた。 二人とも満天の星空を見上げた。輝ける星々の囁きは届かなくとも、弧を描くように流れ、朝焼けにとけていく様はこの上なく美しい。 「ねーねー、つゆを探すの手伝って。それで三人でごろごろしましょ!」 時は少しばかり巻き戻り。 川のせせらぎは、全てを洗い清めてくれる気がする。 露草は小川の流れが見える場所で、夜風にあたっていた。鳥の姿を象らせた人魂を使って探すのは鬼ではない。輝ける星を映した水面にそって羽ばたかせる。魚も眠りについた静かな川は澄み渡り、鏡面のように幻の空を映し混んでいた。 「ふふ、どこまでいけるでしょう」 過ぎ去る時間は、露草の心を何処か遠くへ運んでいく。 近づいてくる足音と愛らしい鬼の声が、別の素敵な景色を運んでくる未来を待ちながら。 一方、フレスは不安と心細さで泣いていた。 頬を伝う涙は、すぐに拭った。泣いた顔を見せたくない。 必ず見つけてみせると約束した。他の人は相手を見つけて部屋へ戻ったのを見た。 けれど探しても、大切な人が見つからない。隠れるのが上手だと尊敬したのは最初だけで、時と共に寂しさが募った。見つけないと一緒に帰れない。抱きしめて貰えないし、大事な人を見つけられない子なんて、呆れられてしまうかもしれない。 「二度と会えなくなるなんて、嫌なんだよ……御門さぁん」 心が徐々に澱んでいく。 肩が寒くて、足が重くて、嫌なことばかり思い浮かんでしまう。 ぱきん、と小枝が折れる音がした。 「みつけたぁ! 御門さん、隠れるのが上手すぎるんだよー!」 やっと見つけた滋藤を、ぽかぽか叩いて抱きついた。 一方の滋藤は、泣かせてしまったことを悔やんで、わざと小枝を折っていた。 こんなことなら本気を出すのではなかった、と思いながら「ごめんね」と囁いて抱きしめる。 嫌なことも、寂しさも。 全てを忘れさせてくれる腕の中に、フレスは甘えた。 こうして。 特別な花蝋燭が水面に灯る白原祭を待ち望みつつ。 月と星々が見守る思い出を乗せて、花蝋燭作りの一日は過ぎた。 |