【陰陽寮】玄武入寮試験
マスター名:やよい雛徒
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 15人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/06/25 19:47



■オープニング本文

●梅雨時、また巡る刻
 場所は五行の首都、結陣。
 久し振りに自室へ戻ってくれば小窓を開けて、五行王の架茂 天禅(iz0021)は目を細め差し込む光に目を細める。天儀も既に6月、夏を目前に鬱陶しい季節へ移行していた。
「玄武寮の建て直しは間に合ったか」
「はい、駆け込みですが何とか‥‥寮長らの人選も大よそ終わっています」
「そうか」
 五行の陰陽四寮ではこの時期、入寮試験が行われる。
 手近にいた側近へ尋ねれば帰ってきた答えを聞きながら真っ白な紙を前に、天禅は四角い墨を硯で磨って墨を生む。
 やがてじわり黒い水が出来れば、それに筆を浸し各寮長への文を認め始めて‥‥青龍寮の新たな人員配置をどうすべきかと今更に思い至る。
「‥‥嫌いではないのだがな」
「何か仰られましたか?」
「いや、引き続き我に代わる青龍寮の寮長の人選も継続して頼む」
 そしてポツリ漏らせば、尋ねる側近には首を左右に振って応じるが頷いた側近のその表情には苦笑めいた笑みが浮かんでいて‥‥架茂はそれを見ない振りして筆を走らせるのだった。

 陰陽四寮は国営の教育施設である。陰陽四寮出身の陰陽師で名を馳せた者はかなり多い。天禅も陰陽四寮の出身である。一方で厳しい規律と入寮試験、高額な学費などから、通える者は限られていた。
 寮は四つ。

 火行を司る、四神が朱雀を奉る寮。朱雀寮。
 水行を司る、四神が玄武を奉る寮。玄武寮。
 金行を司る、四神が白虎を奉る寮。白虎寮。
 木行を司る、四神が青龍を奉る寮。青龍寮。

 つい最近になって玄武寮の建て直しが終わり、寸でではあったがその人員も集められたからこそ、その門戸が今年になって久々に開かれる事となったが‥‥白虎寮は未だ建て直しが続いていて今年も入寮試験は見送りとなっている。

「‥‥こんなものか」
 やがて、側近が去ってから陰陽寮の各寮長宛に送る文を認め終えると、架茂は何を思ってか再び小窓の外を見やるのだった。
「今年はどうなる事か‥‥」

 + + +

 ついに玄武寮が開放される。既にかつての寮生達は卒業していた。
 都合上、何年間も試験すら実施されなかった玄武寮だが‥‥引き続き、異例の決定が下された。

『今年度は、封陣院職員による指導を、試験的に玄武寮へ導入する』

 この決定は、五行国内の魔の森汚染やアヤカシ問題が、よろしくない方向に傾いていることを示していた。


「封陣院の狩野さま‥‥怖い方だったらどうしようかしら」
 新たな玄武寮長として書簡を受け取った東雲は、小さく零す。
 今は人手が足りない。
 従って他寮から一時的に人手を借りて試験準備を進めている。
 玄武寮の食堂『華宝』や購買『夜舞』の者達とも仲良くはなれたが、明確な所属者はまだ彼女一人。

 研究肌が集うと謳われる玄武寮。
 しかも封陣院の現役職員が玄武寮の副寮長に着任する、というから生きた心地がしない。

 年齢や肩書きは彼女の方が遙かに上だが、気休め程度だった。
 最年少で『封陣院の分室長』に成り上がった青年。
 仕事の鬼と恐れられ、単身で魔の森の奥深くに踏み込み、開拓者顔負けの実力者と聞く。
 待ち合わせ先の談話室『香蘭』をのぞき込むと、側近と思しき細い男性の背中が見えた。
「狩野様は?」
「私が狩野ですよ」
 長閑な微笑みは、想像と随分違う。
 噂と桁外れの穏やかな物腰に安堵の溜息をひとつ。
「ふふ、意外そうですねぇ」
「決してそのような‥‥申し遅れました。この度、玄武寮長に着任致しました東雲と申します」
「私は封陣院の分室長、狩野 柚子平です。明日の試験面接が、我々の初仕事ですね」
 果たしていかなる志願者が現れるか、そんな他愛もない話をした二人。

 あけた翌日。

「これより玄武寮入寮の筆記試験を行う。試験終了後、玄武寮長の東雲殿と副寮長の狩野殿による最終面談を行う。以下の書類にきちんと目を通しておくように」

 玄武寮試験が、始まる。


 + + +


■【筆記試験1−基礎教養問題−】■

【問1】五行王の本名を、漢字とカタカナで書きなさい。(2点)
 ※誤字は減点とする。


【問2】五行の国境へ、明確に隣接している国はどこか。(3点)
 ※以下の選択肢から三つ選べ。三つ正しい場合のみ正解とする。
 ※記載順番は問わない。

(選択群/遭都・北面・石鏡・武天・陰殻・朱藩・東房・理穴・五行・冥越・秦国)

【問3】五行国内には封陣院が数多く点在するが、封陣院中枢施設の所在地と、
    封陣院の役割について、正しい組み合わせを選びなさい。(5点)

    1,結陣(封陣院はアヤカシに関する文献を保管している)
    2,三陣(封陣院はアヤカシに関する文献を保管している)
    3,結陣(封陣院はアヤカシを封じる文献を秘匿している)
    4,三陣(封陣院はアヤカシを封じる文献を秘匿している)
    5,結陣(封陣院はアヤカシに関わる研究を実施している)
    6,闇陣(封陣院はアヤカシに関わる研究を実施している)
    7,結陣(封陣院はアヤカシを封じる研究を廃棄している)
    8,闇陣(封陣院はアヤカシを封じる研究を廃棄している)


■【筆記試験2−陰陽師中級問題−】■

【問4】陰陽師の術(スキル)は符がなくても発動できるか。
    以下から正しい答えを選びなさい。(5点)

    1,いかなる場合でも発動できる。
    2,基本的にできるが発動できないものもある。
    3,符がないと全く発動できない。


【問5】同一の術(スキル)を重複して発動できるか。
    以下から正しい答えを選びなさい。(5点)

    1,発動できる。
    2,別の術(スキル)2つで発動できる。
    3,マイナス効果は重複する。


■【筆記試験3−陰陽師上級問題−】■

【問6】陰陽師は瘴索結界に反応するのか。
    以下から正しい答えを選びなさい。(5点)

    1,アヤカシではないので全く反応はしない。
    2,陰陽術使用中のみ反応する。
    3,常時反応する。
 
【問7】既に『死亡した肉体』に回復スキル(治癒符、等)を使用した場合、
    外部損傷の修復は、どこまで可能であるのか。
    以下から正しい答えを選びなさい。(5点)

    1,欠損を補うことが出来る。
    2,表皮の修理のみが出来る。
    3,全くできない。


■【面接試験】■

 筆記試験終了後、玄武寮長及び副寮長による面接が実施される。

 持ち時間は一人5分間。(プレイング:200字以内)

 面接官は、筆記試験の答案用紙を持って面接に望むため、
 自己紹介は不要である。

 受験者は、玄武寮に入寮を認められた暁には、
 いかなる研究生活を送り、どのような貢献をしていきたいのか?
 将来の展望を語るべし。


 以上。
 筆記30点、面接20点、合計50点の試験である。
 採点の結果、35点以上の者のみに玄武寮の入寮を許可する。


■参加者一覧
鴇ノ宮 風葉(ia0799
18歳・女・魔
八嶋 双伍(ia2195
23歳・男・陰
椿 幻之条(ia3498
22歳・男・陰
神咲 六花(ia8361
17歳・男・陰
ワーレンベルギア(ia8611
18歳・女・陰
ネネ(ib0892
15歳・女・陰
寿々丸(ib3788
10歳・男・陰
常磐(ib3792
12歳・男・陰
東雲 雪(ib4105
17歳・女・陰
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386
14歳・女・陰
緋那岐(ib5664
17歳・男・陰
十河 緋雨(ib6688
24歳・女・陰
シャンピニオン(ib7037
14歳・女・陰
リオーレ・アズィーズ(ib7038
22歳・女・陰
セレネー・アルジェント(ib7040
24歳・女・陰


■リプレイ本文

「意地の悪い問題をつくりますね」
「ふふふ、お互い様な気が致しますよ。寮長殿もお人が悪い」
 今回の試験、筆記試験は研究専門である副寮長・狩野 柚子平(iz0216)が考案し、面接試験の採点項目は、今後玄武寮を束ねる寮長・東雲が考案した。
 お互いに裏の意図がある。
 まず筆記試験。実は『完全な答えができない』ものが一部混ざっている。
 次に面接試験。無数の判断項目のうち、採点欄には『有』か『無』しかない。そしてこれら項目の一定条件を満たさない限り、筆記試験が完璧でも落ちる。あげく適正観察は誘導係の方で既に始まっていた。
 玄武寮長は、採点を眺める。
「私達の役目は学舎の円滑な運営にあります。この度の試験官としての役目は、国や受験者に有益な将来性と環境を提供できるか否か。いかに有益な人材でも、適正のない環境に何年も縛るわけには参りません」
 受験者の為にならないからだ。
 玄武寮長が考案した項目は、例えば『好奇心・向上心・忍耐力・計画性・保有研究・目標と理想・協調性・集中力・虚栄心・自己顕示欲・順応性・依存性・能動的か受動的か・明朗性・活動性・積極性・合理性・論理性・責任感』‥‥等々、40項目で点が差し引きされてゆく。
「それより」
 玄武寮長は問題を見た。
 この筆記試験は、一定の学力を示すと共に、受験者の性質を暴く。
「ちゃんと教養と学力のある者を選ぶようにはできていますよ? ただ‥‥人は物事を天秤にかける生き物です。圧倒的多数の人間は、リスクを恐れ、安全圏を選び続ける。私の授業は、魔の森が密接に関わりますしね。無謀か臆病か、合理的な判断が下せるか。危険を扱う研究者として大事なことを理解しているか、人道を踏み外す危険性があるか‥‥」
「お互いに試験の姿を借りた『適正検査』を考案したのですね」
 表向きの回答例を掲示板に貼る。

■陰陽寮『玄武寮』筆記試験〜回答編〜■
【問1】架茂 天禅(カモ テンゼン)
【問2】武天・石鏡・遭都(※いずれかが「朱藩」でも正解とする)
【問3】5
【問4】2
【問5】3
【問6】2
【問7】3

「そのようです。さ、面接会場に参りますか」
 二人は廊下の果てに消えてゆく。


 玄武寮の面接試験では『いかなる研究生活を送り、どのような貢献をしていきたいのか。将来の展望を応えよ』つまり自発的目標が求められる。そして緊張高まる面接で『問われたことを応えられるか』というと、難しいのが現実である。


 最初に入室した鴇ノ宮 風葉(ia0799)は声を張り上げた。
「あたしは、英雄になりたい。具体的には、世界をこの手に掴んで世界に名を刻みたい。命が消えちゃう前に。だけど、力が足りない。我流の知識や術じゃ、限界がある。だから、この寮でもっと力を付けたい」
 一瞬の沈黙。
「求めるものは分かりました。して、如何なることを行いたいですか?」
 微笑みの問いかけ。
「世界を支配する為の、知恵と力を! 研究の成果は全て譲る。危ないことはしないから、強くなる為の場所を与えて欲しい!」
 回答が斜めにそれている。面接官に笑みがこぼれた。
「心配しなくても、玄武寮は研究を取り上げる場所ではありませんよ。では席に戻って」

 二人目の八嶋 双伍(ia2195)は落ち着いた物腰で語った。
「魔の森について研究をしたいと思っています。魔の森で遭遇するアヤカシは通常よりも強力になりますが、森の瘴気がどのように影響しているのか解明できれば、式を強化したり、逆に妨害する事で強化を無かったことにしたりと、応用が出来るのではないかと」
 面接官の双眸が光る。
「前者は瘴気回収や再構成の発展系ですか? 式の強化妨害は、どちらかといえば対人ですね」
 話し込むこと数分。
「実現は困難かもしれませんが、魔の森で戦闘を強いられた時に少しでも仲間の負担を軽く出来るなら、挑戦してみる価値はあるのではないかと考えています」
「よろしい。では席に戻って。あなたの場合は、集中力が先になりそうですね」
 後になって。
 八嶋は、解答用紙に珍妙な番号を書いていたことに気づく。

 三番目の椿 幻之条(ia3498)は身の上話から始まった。
 役者を辞め、陰陽師を目指し、開拓者となったのもアヤカシに惹かれたからと。
「初めて目にした瞬間に心を奪われた、と言うべきでしょうね。美しく、醜く、個で暴れまわり、群で連なり‥‥まるで人間のよう。彼らを追い、学んでいく内にこうして陰陽師として動いています」
 そして、如何なることをしたいのかと問われたら。
「彼らの近くに、より深く学べる場所が有るというのは、私にとっては天祐以外の何ものでもありませんわ」
 貪欲でいて無欲ですね、とコメントを受けた。
 ついでに正確性を追い求める余り、選択欄の欄外に第四の答えを文面で書きこんでいた。適正をみる試験の為、採点には考慮されなかった。

 四番目の神咲 六花(ia8361)は明確な理由があって来た。
「知られざるアヤカシの解明。封印術の開発で貢献していきたい。特に憑依等、精神汚染を得手とするモノを専門にする予定」
「ほう?」
「人妖の生成にもすごく惹かれるけど、最優先は封印、かな。無論、最終的には巫女による浄化が望ましいとは思うけど、多人数による『大規模封印術』というものが成し得る可能性もあるんじゃないかと。知られざるアヤカシに限らないけどね」
「興味深い」
 玄武寮長が問いかける中で、副寮長はただ、意味深に微笑んでいた。

 五番目のワーレンベルギア(ia8611)は筆記で満点だった。
「‥‥あ、アヤカシの研究がしたいです。どんな種類のがいるか、大きさとか性質もひっくるめて、です。色んなのがいますけど、共通的な事とか知っていれば対策として打てる手も増えるでしょうし、知識の積み重ねと分析が大事なのかなって思って‥‥、‥‥な、なのでアヤカシの基礎研究をして対策のお手伝いが出来たらって」
「途方もない情報量を望みますね」
 茨の道ですよ? と問われたが。
「が、がんばります! どこへでも調べに行きます!」
 と、賢明に根性を訴えた。

 六番目のネネ(ib0892)も筆記で満点を取っていた。
「目標は、人妖以外の、半妖の生成です。現時点において人妖は確かに偉大なる研究成果のひとつではありますが、生成の難しさにより半ば愛玩物となっております」
 愛玩性を追求したいばかりに、賞金首になった陰陽師の残念な若者がいたなぁという話で横道にそれたものの、ネネは毅然と続きを述べた。
「実戦向きの半妖、たとえば現時点で出回っている管狐や迅鷹などの同体系のもの、あるいは騎乗できる大きなものを陰陽系として生み出せれば、神聖なる場所では使えないという弱点こそあれ、魔の森では戦力としても搬送力としてもかなり頼りになると思えます」
「‥‥ふむ、半妖半霊の式も精霊系相棒として区分はされているのですがね」
 符に封じた大型ジライヤが陰陽系のそれに当たる。
 現在実践投入されている中で管狐や迅鷹、霊騎は精霊寄りだ。
「人妖でもジライヤでもない、第三の存在を追求すると?」
「はい」
「そうですか。あなたの進む道に栄光があらんことを」

 七番目の寿々丸(ib3788)は緊張した面もちで面接に望んだ。
「アヤカシと魔の森が何故出来たのか興味がありまする。術に利用している瘴気もどのようにして何処から発生したものなのか」
 アヤカシは下級から上まで、この世の瘴気が固まったモノであることは周知の事実である。また陰陽師は瘴気を回収して使用する。
 疑問はその場で溶けてしまった。
「あ、アヤカシが瘴気となり地に還る事も含めて! アヤカシと瘴気の存在意義は何なのか‥‥アヤカシと式との違いも詳しく調べてみたいですぞ!」
「ほう?」
 何故、瘴気は大地に戻るのか。その存在意義とは何か。
「そ、それらを研究し、天儀の平和、兄様達や友人を守る為に役立てる事を見つけたいと思っておりまする! あとあと、友人も沢山作りまするぞ!」
 君の目指す未来に幸あれ、と面接官は微笑んだ。

 八番目の常磐(ib3792)は淡々と語るが、やはり緊張しているらしい。
「本来姿を持たないはずのアヤカシが、極めて高い知能を持ったアヤカシが存在し、尚且つ個体差や特殊能力を持ったアヤカシが存在するのか。何故作り出した式が人の思いに因って姿が変化し、何故同じ瘴気なのにアヤカシに似たモノなのか」
 構成する物質(瘴気)は同じですよ? と鋭い指摘。
「後は‥‥無傷で尚且つ一瞬でを人殺せるアヤカシがいるのか」
「それは大アヤカシの詳細を研究したいということですか?」
「どうしても知りたい。今よりも強くなって、守りたい人いる。約束だから‥‥ただそれだけだ。今はそれしか思い付かない」
 押し黙った常磐が、部屋を後にする。

 九番目の東雲 雪(ib4105)は、キリッと試験官を見据える。
「主に魔の森の事について研究をさせて頂きたいと考えています。何故障気が局地的に発生するのか」
「局地的な理由、ですか」
「もしかしたら答えなど無く研究結果は貢献と言えるような形にならないかもしれませんしかし調べる価値はあると私は思っております。そして答えが出たのならば私はその原因を排除する方法についても研究したいと考えております。以上です」
「魔の森は、論理上大アヤカシの排除が要ですが‥‥あなた、冥越生まれですか」
 雪の肩が揺れる。
 なぜ冥越でなければならなかったのか。重苦しい空気の中で、故郷を思った。

 十番目のリーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)は筆記試験で疲れ果てていた。
「アヤカシ及び瘴気の解明ってとこね。私は瘴気もうまく使えば益になり得ると考えてる」
 一瞬の沈黙。
「‥‥一般的には、瘴気の有益利用を考えた異端こそが陰陽師なのですが」
 く、詳しくは省きます、と。他にも考えているらしいが、与えられた時間が少ない。
「例えば‥‥少量の毒は薬にもなり得るって言うし。濃い瘴気は猛毒だけど、瘴気感染への抵抗性くらいはつけられるかもしれない。色々なアプローチをかけていきたいわ! 研究成果を還元すれば自ずと貢献にもなるでしょ?」
「抵抗性、ふむ」
 面接官は何か考えているようだった。

 十一番目の緋那岐(ib5664)は焦った。
 将来の展望、貢献、筆記試験の事しか考えてなかったからである。その甲斐あってか、筆記試験は満点をとれた。問題は、ここからだ。
「これまで独学で学んできた事を否定する気はないけど、今一度基礎から学びたくて。基礎があっての臨機応変や‥‥」
 まるで面接指南書の回答例だ、と心で絶叫。
「未だ解明されてない数多くの謎を解明し、情報として残す。一つでも失われる命が減るように。時は有限であり、戻らないからな」
 初心に返る心構えは大切ですよ、と向上心を評価された。

 十二番目の十河 緋雨(ib6688)は爽やかに礼儀正しく現れた。
「私達陰陽師は瘴気に意志と法則を持たせることで同じ式を何度も作り出します」
「正しい考えですね」
「それゆえに確固たる意志を持ち瘴気で肉体を構成される高位のアヤカシが斃れた際、それは滅びるのか、それとも体を構成する瘴気が霧散してこの世への介入手段を失っているだけに過ぎないのか? 私はアヤカシの真実を研究したいと志し、陰陽寮に参りました」
 それは七番目の受験者に似通った疑問だった。

 十三番目のシャンピニオン(ib7037)は晴れやかな気持ちで面接に望んだ。
「アヤカシの根源は魔の森にあります。緑茂の戦いは、魔の森の縮小を図る事ができた稀有な例ですが、魔の森やアヤカシに毎回各国総力で対峙する事は現実的ではありません」
 お? と面接官二人の興味を引く。
 シャンピニオンも筆記試験は満点だった。
「魔の森の研究は侵蝕を抑える手掛かりの一つであり、対応する技術が確立されれば、それは怖れではなくなります。瘴気とは、魔の森とは何か。生物とは、捕食対象としてだけの関係なのか。その謎に、一歩でも迫る研究をしたいと思っています」
 七番目と十二番目の受験者に似た研究題材ではあるが、戦力の消費を押さえる、より有益な対抗策の方向性について時間まで話し合った。

 同じく筆記試験が満点だった十四番目のリオーレ・アズィーズ(ib7038)は後戻りの出来ない決心を抱えて来た。
「私は古の書物を研究し、記されたアヤカシの生態や陰陽の術を実地で確かめ、他の書とも比較し、新たに発見された事実を追加して注釈や改訂を行いたい」
 それは五番目の受験者に似通った望みだ。
「書は古の知識を伝える物ですが、当時は常識で文章が省略され今では意味が判らなかったり、伝聞や誤解で誤って記されたり、と記述には研究の余地があるので。そして将来的には、バラバラな書物の知識をわかり易く系統立てて再編纂した大辞典の製作が出来たら良いな、と思います」
「具体的な方向性ですね、将来目指す施設も決まっていると見えますね」
 きっと生涯を通して手応えのある日々でしょうね、と。

 十五番目のセレネー・アルジェント(ib7040)も筆記試験は満点だった。
「ここには私の知らないアヤカシの知識の本や書簡があると聞きましたの。それらを読んで知識を蓄えて、いずれは封陣院や知望院にもいきたいですわね」
「明確な目標ですね」
「ええ。そして新しい術を何か作り出してみたいのですわ。皆様と共に魔の森やアヤカシの研究をするのも楽しみです。共に研究する方々がいらっしゃる環境、憧れでしたの。玄武の方々と知識や知恵を出し合い、新たな陰陽師の可能性を作り出せたらと思いますわ」
「適した土に植えたはずの木が、枯れてしまうこともある。花を咲かせ、中身のある実を宿らせることができるかは、貴方次第だと理解していますか?」
「太い樹に寄生する樹があるのも事実ですが、共生するものがあるのも事実。心得ておりますわ」
 いかなる成果も、受け入れると。



 そして夕刻、数多の受験者の命運を決める一枚の紙が張り出された。

■陰陽寮『玄武寮』入寮試験〜成績別合格者一覧〜■

 【主席合格者】ネネ/50点

 【2】セレネー・アルジェント/49点
 【2】ワーレンベルギア/49点
 【4】リオーレ・アズィーズ/48点
 【4】シャンピニオン/48点
 【6】緋那岐/47点
 【7】八嶋 双伍/44点
 【8】神咲 六花/43点
 【8】寿々丸/43点
 【8】東雲 雪/43点
 【8】常磐/43点
 【12】十河 緋雨/42点
 【13】椿 幻之条/35点

 以上の者に、実り豊かな一年であることを願う。


■補欠合格者
※以下に記載する者は、惜しい成績ながら将来性を考慮の上、仮入寮資格を特別許可されるものである。従って出席数や定期試験結果、研究の怠慢が認められる場合、来年度の玄武寮入寮資格は取り消される。
 以上を肝に銘じて勉学に励むべし。

 【14】リーゼロッテ・ヴェルト/32点
 【14】鴇ノ宮 風葉/32点