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■オープニング本文 【★重要★この依頼は連作『救われた子供達』に関与するシナリオですが、子供達との接触は殆どありません。またリプレイ『シノビの誇り〜生成姫の子〜』と密接な関係を持っています。】 ●白原祭 白原祭の季節になると、星の数の白い花が白原川を埋め尽くす。 蝉の鳴き声も心を躍らせ、彼方此方で氷菓子が売れていく。 「ハッパラ、ハスヲ、ミナモニナガセ……」 威勢のいい掛け声と花笠太鼓の勇壮な祭の音色。 夏の花で華やかに彩られた山車を先頭に、艶やかな衣装と純白の花をあしらった花笠を手にした踊り手が、白螺鈿の大通りを舞台に群舞を繰り広げていく。いかに美しく華やかに飾るかが、この大行列の重要なところでもある。 人の賑わう大通りの空には、色鮮やかに煌めく吹き流しが風に揺れている。巨大な鞠に人の背丈ほどの長さのある短冊が無数に付いており、じっと目を凝らすと、吹き流しの短冊には様々な願い事が書いてあった。 ここは五行東方、白螺鈿。 五行国家有数の穀倉地帯として成長した街だ。 水田改革で培った土木技術を用いて、彩陣の経路とは別に渡鳥山脈を越えた鬼灯までの整地された山道を約4年前の12月1日に開通。結陣との最短貿易陸路成立に伴い、移住者も増え、ここ一帯の中で最も大きな町に発展した。 今は急成長を遂げたとはいえ、元々娯楽が少ない田舎の町だったこの地域では、お墓参りの際、久しぶりに集まる親戚と共に盛大に宴を執り行うようになり、いつしかそれはお祭り騒ぎへと変化していった。 賑やかな『白原祭』の決まり事はたったひとつ。 『祭の参加者は、白い蓮の切り花を一輪、身につけて過ごすこと』 手に持ったり、ポケットにいれたり、髪飾りにしたり。 身につけた蓮の花は一年間の身の汚れ、病や怪我、不運などを吸い取り、持ち主を清らかにしてくれると信じられていた。その為、一日の最期は、母なる白原川に、蓮の花を流す。 白原川は『白螺鈿』の街開発と共に年々汚れている為、泳いだり魚を釣ったりすることはできない。しかし祭の時期になると、川は一面、白い花で満たされ続け、ほんのりと花香る幻想的な景色になることで広く知られていた。 そして今年も8月10日から25日にかけて白原祭が開かれる。 ●開拓者達の秘密 生成姫の子供を抹殺したい者が存在する。 その事実を教えられたのは、子供達の成長を見守り、護ってきた開拓者たちと……開拓者になって数ヶ月のアルド、結葉、灯心の三人だけだ。暗殺を密告してきた協力者、その暗殺を委託されながらも、子供達の味方をすると決めたシノビ達の助力もあって、襲撃の対応は水面下で行われ続けていた。 幼い子供達には知らされることなく。 せめて。 心から楽しみにしていた穏やかな白原祭を享受できるように。 ●惨劇の夜を阻止せよ 五行国東方の里。白螺鈿。 ここの花車大行列に参加する為、花車を仕上げていたある日のこと。 子供達が寝静まった頃、開拓者達は相棒達に護衛を任せ、入れ替わり立ち替わりで、封陣院の分室を訪ね、狩野柚子平に面会していた。 「向こうが送り込むと想定される暗殺者は、全部で21名だと分かりました」 暗殺者の中に、物珍しい行動を取った者達がいた。 動機は様々だが、端的に言えば『依頼人を売った』のである。開拓者ギルド等へ足を運ぶ人妖樹里やイサナを介して柚子平に接触し、彼らは『内通者となるかわりに雇ってくれないか』と言ってきた。 樹里達はこれを受諾した。当然、柚子平も異論は無かった。 「内通者の尽力で、襲撃日時、潜伏場所、暗殺者8名の能力が分かっています。名前は偽名でしょうが」 「……内通者は一人だけか?」 「いいえ。七人です。21名中、三分の一がこちらの味方。幸運というべきでしょうね。14名が敵という事に違いはないのですが、内2名が内輪モメ等で絶命、1名が瀕死の重傷で恐らく動けず。つまり襲撃の脅威は11名」 暗殺者11名中、8名の能力は把握済み。 しかし残る3名は個人主義を貫き、襲撃日と時間を合わせる気しかないようだという。 柚子平は街の地図をとりだした。 「襲撃日に、ここの8名は逆襲撃を行って抹殺するのが一番リスクは低いと考えています。他3名は事前集合する気がない……という事で、屋敷で待ちかまえるしかないのですが『黄泉より這いづる者』に動じる節もなかったそうなので、3名は相当な使い手と見るべきかと。移動の都合で戦力が一時分散する為、ややきついかもしれませんが、やむなしですね」 「きっついなぁ」 「祭の花火で狼煙銃も使えないだろうし、ね」 「何より子供達の安全ですよ」 祭を楽しみにしている子供達に気づかれないように護りつつ、逆暗殺と防衛戦をしなければならないというのは……結構な負担である。 「もう一点」 柚子平の発言に「まだ何かあるんですか」とげんなり顔の開拓者達に、柚子平は肩を竦めた。 「ある意味、尤も大事です」 「というと」 「全ての元凶。依頼人ですよ。かなり元を辿りにくくしていたそうなのですが、一度だけ突き止められる好機があるかもしれません」 この暗殺依頼は、成功と失敗に関わらず依頼元に結果が伝達されるという。 しかし直接会うわけではない。 一羽の鳥が放たれ、依頼元の屋敷へ密書を届けるのだという。残念ながら情報屋を追跡した仲間のシノビは鳥を発見することができなかった。相当に警戒されていると判断すべきだろう。 少し話が見えてきた。 「……つまり情報屋を泳がせて、放鳥された鳥を追っかけて、現場押さえろと」 「可能なら。飛行道中で捕獲しても意味はありません。相手の屋敷に入り、その伝書鳩の密書を確認する、現行犯で押さえなければ社会的抹殺は難しい」 写真が撮影できれば尚、物証になると言う。 つまり。 ひとつ、8名の暗殺者を屋敷到達前に暗殺する逆襲撃。 ふたつ、21名の子供を護りつつ、実力不明の強敵3人を屋敷で撃退。 みっつ、飛行相棒で長距離を移動し、依頼元を突き止めて物証を押さえる。 子供の世話や教育と一緒に、これだけの仕事を抱えていることになる。 「……胃に穴があきそうだな」 「子供を護りきって、御老体を社会的に抹殺できれば、楽になりますよ」 「簡単に言ってくれるな」 全ては惨劇の夜を退ける為に。 戦いの幕があがる。 |
■参加者一覧 / 酒々井 統真(ia0893) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 御樹青嵐(ia1669) / 弖志峰 直羽(ia1884) / 九法 慧介(ia2194) / フェルル=グライフ(ia4572) / 珠々(ia5322) / 郁磨(ia9365) / 千代田清顕(ia9802) / ジルベール・ダリエ(ia9952) / フェンリエッタ(ib0018) / 羽流矢(ib0428) / グリムバルド(ib0608) / ネネ(ib0892) / 无(ib1198) / 蓮 神音(ib2662) / 煉谷 耀(ib3229) / 紅雅(ib4326) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / ウルシュテッド(ib5445) / ニッツァ(ib6625) / リオーレ・アズィーズ(ib7038) / ケイウス=アルカーム(ib7387) / 刃兼(ib7876) / ゼス=R=御凪(ib8732) / 戸仁元 和名(ib9394) / 紫ノ眼 恋(ic0281) / 白雪 沙羅(ic0498) / 綺月 緋影(ic1073) |
■リプレイ本文 ●繁華街の激闘 繁華街の長屋の一室では、綺月 緋影(ic1073)が他の四人の暗殺者と日が落ちるのを待っていた。ガラガラと無警戒に窓や戸を開けるので「ちょっとあんた」と避難される事もしばしばだが、綺月は「暑いから風通しを良くしようぜ」とひらひら手を振る。 「風通しって、あたし達は潜伏中なのよ」 「んなもん分かってるって。このくそ暑い中で締め切ってる方が不自然だぜ? 麦茶でも飲んで自然体にすごさねーとなぁ」 一理ある、と何人か思ったらしい。それ以上文句を言わなかった。 『自然、自然、囮、囮、っと。今んとこ順調だが、死ぬような無茶はしないようにしないと。生きて帰るって約束してるしな!』 外は子供の声が聞こえなくなったものの、親子連れも多く行きかう時刻だ。綺月は普通の家も灯りはついてる時間だなぁ、と光をつける。 物陰から様子をみていたネネ(ib0892)が毒蟲を放つ。狙うは男のシノビ、翔煉と秀峰だ。二人の手から麦茶の湯飲みが滑り落ちた。一気に室内が物々しい雰囲気になった。 「なに? ちょっと!」 「だが、麦茶は我々も飲んで……」 真衣と恵那の困惑が、呻き声に変ずる。ゼス=M=ヘロージオ(ib8732)と上級からくり白銀丸による狙撃だ。しかし動きを殺す事を狙った銃撃に、彼らは怯まなかった。 「敵襲か!」 綺月は警戒を促す声とともに畳返しで攻撃に備える、と見せかけ、ど素人を装いシノビ達に死角を作り出す。 「あ、やべ、間違っ……」 「ちょっとぉ! なにやってんのよ、このへたくそ!」 「うるせー!」 綺月が叫んだの時、玄関から走り込む紫ノ眼 恋(ic0281)が咆吼をあげた。 「うおおおおおおおおお! 逃がしはしないよ!」 「ち!」 真衣が忍刀を抜き放ち、応戦する。その間にも銃弾と眼突鴉が打ち込まれた。恵那が式神をうち払う。 「ああん、もう! そこのど素人!」 「ど素人言うな!」 「やかましい! どっちでもいいから担いで逃げるわよ! まともに相手する必要なんて無いわ。どうせ術が切れれば翔煉と秀峰だって動ける様になる。真衣! そいつの相手なんとかしなさい!」 「言われなくとも!」 そこへ仙猫うるるが現れて「うちの子のとこは行かせないわよ!」と叫ぶ。 「ああそう! でぇや!」 女の細腕で、仙猫に担いでいた男を投げつけた。一緒にいた忍犬ヴァイフも巻き添えになる。 「いくわよ、緋影!」 さらに襲いかかる銃撃。ヘロージオの銃撃方向に向かって、綺月が担いでいたもう一人を投げた。すまねぇ、と言いつつ、確実に致命傷を負わせる。残った恵那が綺月を急かす。 「緋影! とりあえず私達だけでも」 「その前に提案がある!」 「ききましょう!」 接近してきた恵那に鋼線「黒閃」が絡みつく。 「ちょっ!?」 「ネネ! ゼス! 白銀丸!」 正体を現した綺月の合図で、眼突鴉がシノビの目玉を抉るように食らい、更に銃弾の雨をあびた。綺月は「裏切り者にご用心」と小さく呟く。長屋に潜伏していたシノビ達の脅威は取り払われた。 ●先手必勝 その頃、閑静な住宅街では内通者の羽流矢(ib0428)が様子を伺っていた。 皆、それなりに修羅場を潜っているとみえ、下手な小細工は効きそうにない。 襲撃時間まで見張りを提案した羽流矢が蘭花に近づく。 「変わろう、蘭花」 「そりゃどうも。別にこの程度で気遣いは無用よ。っていうか、明かりないとだめな訳?」 「すまないな。俺は光源がいるんでね」 「夜の襲撃には暗視は必要不可欠よ。それくらい……」 縁側の方で物音がした。素早く顔色を変える蘭花。羽流矢は夜で時を止めて攻撃しようとしたが失敗した。超越聴覚、影、奔刃術の準備で精いっぱいだったからだ。 羽流矢と通じていたニッツァ(ib6625)の合図で開拓者たちは屋敷へ突入した。 部屋にいるのは、ボー、ミナ、ヌイ。 実質、一対一だが、相棒がいるとはいえ少し分が悪い。 というのも羽流矢は蘭花の対応にいっていたし、郁磨(ia9365)は正面玄関にムスタシュィルを設置していた。万が一の逃亡時に気づく為だ。 向こうからも「何者だ」という問いすらない。シノビ達は逃亡の隙を伺っている。 相手にする必要はないからだ。 縁側には猫又の璃梨がいた。シノビ目指して閃光を浴びせる。 立て続けに仙猫キクイチが閃光を放ち、神経を研ぎ澄ました刃兼(ib7876)が大地を蹴る。 どちらが先手を取るかが勝負を決める。 「ボーおぉぉォォォォ!」 刃兼は水色の太刀を構え、首を狙って蹴りを叩き込むと逆さ袈裟に刃を走らせる。 「……あの子達のいる場所には行かせない。俺の娘もいるんでな!」 ボーの視界で刃が分裂した。 刃兼は不安定な体勢をひねり、太刀を再び叩き込む。 「……見事、だ……」 かくしてボーは崩れた。 「おおおおお!」 続くグリムバルド(ib0608)は動きの遅いミナを狙い、強力な一撃を叩き込んだ。オーラを纏った2メートル級のブレイブランスが胴を割る。それでも息のあるミナが交代するが、止血しなければ失血死は免れない。 フルートを構えたニッツァは女のシノビを睨み据える。 「アイツ等が生きてるだけで罪や言うんやったら、お前等もそうやろ? 必要や思う俺等がおんのにアイツ等に手ぇ出させんで」 「やはり開拓者」 「手足全部へし折ったえぇやろか? そんで縛り上げといたえぇか? それとも重力の爆音で頭潰してまおか?」 なにがええ? と問いかける。 「ふん、おしゃべりなぼっちゃんだこと!」 気づくとニッツァは動けなかった。影縛りでヌィに動きを封じられていた。これでは逃走防止の重力の爆音が使えない。更に猫又ウェヌスが真空の刃に襲われる。 「ニャッ! ニャ! ニッツァに手ぇ出すにゃニャ!」 「ふん、猫は猫らしくしてなさい!」 「アブなッ!」 走りこんできた郁磨がアムルリープを放つ。 ニッツァに気を取られていたヌィは強烈な睡魔に勝てなかった。 「……どういうつもり、あたしの目はごまかせないわよ」 同業とは戦いにくいと人は言う。 何故なら相手が強ければ強いほど、技を見破られるからだ。術の選択をしくじった羽流矢は囚痺枷香の苦無をかわすことができなかった。甘い香りと眩暈がする。仲間をうまくひきこむことには成功したが、蘭花を初手で仕留め損ねた。 一瞬の隙が生死を分ける世界だ。 「裏切ったわね? 金? それとも二重契約なの? ……喋れないか」 別室の断末魔を聞いて、蘭花が地を蹴る。自分の安全を選択した。 けれど罠には気づけなかった。 ムスタシュィルの射程に蘭花が入った事を察した郁磨が身をひるがえす。 流石はシノビ。 全力で移動する蘭花との距離は三十メートルを超えていた。 「俺は絶対、逃がさないよ!」 霊杖をかざす。逃亡を視野に入れていた郁磨には策があった。アイシスケイラルで六十メートル離れた敵でも、確実に仕留められるよう備えていた。鋭い氷の刃が連続して蘭花を貫く。激しい冷気が炸裂し、防具を切り裂く。 背後から狙われた蘭花は絶命した。 羽流矢は唯一生きているヌィの身ぐるみを剥ぎ、縄で両手足を縛った後、糸で指同士を結んだ。 「……このまま生きて返すのが良いのかって言うのは 難しいよな」 「関係ない」 縛り上げられたシノビ達を郁磨の冷ややかな視線が見下ろす。 「……罪の無い子達の命を奪おうとした事、一生後悔してもらうよ」 ●屋敷の防衛 屋敷では大人数が襲撃に備えていた。 そのうち、リィムナ・ピサレット(ib5201)と珠々(ia5322)、九法 慧介(ia2194) が隣接する建物の屋根で暗殺者三名の到着に備えていた。時刻になって現れた覆面の者たちに、ピサレットが話しかける。 「やっほー、まってたよー! あたしの襲撃計画教えるから、協力しない?」 「なにが待ってた、だ。会議の夜に、ボーや蘭花を煙に巻き、アレを仕留めたのは貴様だろう。手柄を根こそぎとる気だろうが、そうはいかん。我らは行く」 飛んだ。 どこまでも個人主義を貫くらしい。 珠々と九法がシノビの脇を疾走しながら、無言で『我々を使ってください』と標的に訴える。その場で、信用できそうな方についた風を装い、疑惑を煙に巻いた。 一方、ピサレットは追いながら『やっばーい、この前の襲撃がばれてる』と内心舌打ちした。 「そんなとがらなくてもいいじゃない。生意気だったから、実力の違いって奴を見せただけだってば」 「信用できるか」 「うるさいぞ、お前たち」 屋敷の屋根に降り立つ。 ところで、この事態を想定していた珠々と九法が動いた。 屋内に侵入したピサレットがやられ役を熱演して床に転がっても全く動じないシノビ三人に正攻法は難しいと察し、九法が影縛りでひそかに一名の動きを封じ、珠々は夜で時を駆ける。死角から一名のシノビの脇を駆け抜け、鑽針釘を後方に放つ。 『まずは確実に一人の目を』 「ぐあっ!」 珠々は「敵襲です!」と叫び、無駄口は最小限に控える。あれこれ話していれば敵に隙を与えてしまうからだ。珠々の裏切りに眉を跳ね上げた三人の影を、存在感を消した九法が縛り続ける。しかし縛れる相手は限られる。 酒々井 統真(ia0893)が窓から屋根へ躍り出た。 声を発することなく、近くの個体を狙う。 『一体ずつ、確実に潰す!』 目の見えないシノビは第3者の接近にこそ気づいたが、防御姿勢から構えに移行する。迎え撃つ気だ。しかし冷静なシノビを乱したのは、見えている仲間の一言だった。 「要警戒対象の男だ!」 「よけろ。肉弾戦はかなわん!」 「あい、わかった」 全力で攻撃を見切る気だ。だが逃亡を九法の影が阻んだ。 「な」 「悪いね、裏切り者はひとりじゃないんだ」 「そのまま抑えてろ」 酒々井は肉体への負荷を無視して、気を極限にまで活性化させた。酒々井の体に陽炎が発生し、シノビに肉薄する。打ち込んだ拳に込められた力は、点穴より経脈を巡り身体を破壊する。 しかし重傷を負って尚、酒々井に攻撃された強靭なシノビは膝をつかなかった。 血まみれの腕をあげた瞬間、腕が手毬のように飛んだ。 好機を見極めていたフェンリエッタ(ib0018)は、夜で時を止めて屋根を走り、両手でつかんだ殲刀「秋水清光」を閃かせ、両手両足を十秒で寸断した。 「……早、い」 シノビは失血死した。 残る二人が屋内へ入ろうとするのを離れた位置にいる无(ib1198)がみた。 一人に狙いを定めて、死に至る呪いを連続で送り込むと、シノビは屋根から落下した。 絶命していた。 「まずは二人か」 「他の1人が家に入ったわ。珠々さんが追ったし、皆もいるけど、絶対にとめなくちゃ。楽しい夢みてね、って、また明日一緒にあそびましょうって、子供達に約束したの」 フェンリエッタ、酒々井、九法が窓から屋内へ戻る。 時は少し巻き戻り。 侵入したシノビを迎え撃つのは蓮 神音(ib2662)と戸仁元 和名(ib9394) だった。最初は屋外に出そうとしたが夜を使われて失敗。不意打ちを狙っても動きが早くて逃げられてしまう。気づけばシノビは屋内へ潜入していた。 子供たちのところに行かれては困ると、管狐白嵐を宿した御樹青嵐(ia1669) が結界呪符を連続使用し階段前を死守する。 「邪魔だ」 シノビが何か唱えると、鋭い針が廊下一面広範囲に現れて消えた。床も天井も針だらけになるなど見たことがない。奥義か何かだろうか。どちらにせよ、連続の技をかわしきれなかった蓮たちはうめいた。体が穴だらけだ。 『……すごく痛い、でも、子供達にはこれから幸せになる、してみせるんだから。こんな企みで傷つけさせたりなんか絶対しない! 絶対に倒す!』 胴を貫かれた忍犬咲良が吠え続ける。 戸仁元も好戦的な目を向け続けた。 「……ひ、人の親を敵に回した以上、タダで帰れるとは思わんことです」 「その様でよく吠える。先に死なせてやろう」 一方、神経を研ぎ澄ませていたケイウス=アルカーム(ib7387)が永遠の最終楽章を奏でる。アルカームは建物内の仲間達の能力を飛躍的に高めた。 「くれおぱとら!」 仙猫くれおぱとらは勾玉呪炎を使った。周囲に勾玉の形をした冷たい炎が円状に描かれ、シノビに向かっていく。戸仁元と蓮の攻撃をかわそうと後退したところで、屋根からの増援を確認した。 「くそ!」 仲間は来ない。 一度は離脱が懸命、と悟ったのかもしれない。 シノビは身を翻した。そして何かを唱えたが、術は発動しなかった。 大技の乱発は練力の枯渇を招く。 「こんな時に」 逃亡手段を失ったシノビは地獄への道へ沈んだ。 二名が絶命。一人は瀕死。 死体を集めて、生存者を縛り上げた後のこと。 紅雅(ib4326)の精霊の歌が負傷者の怪我をいやしていく。 子供たちの部屋へ到達する前に、暗殺者を仕留めたことは僥倖だ。 増援の気配がないことから、他の班も成功したとみえる。しいて悩みをいうなら敵がほぼ全員死んでしまった事と、夜明けまでの死体の処理が大変なくらいだ。 御樹は肩をすくめた。 「爺様たちの心分からなくもないですが……この件に関してははっきり言ってしまえば八つ当たりの憂さ晴らしでしょうから憐れむこともない。この方々は受けた仕事が悪かった」 「子供たちに怪我がないのが一番よかったですもの」 礼野の膝では、猫又小雪がねている。 緊張の糸がきれたのだ。 「私たちは、なんにもしなかったわ」 結葉は面白くなさそうな顔をしている。この日の為に、つらい訓練にも耐えた。しかし弖志峰 直羽(ia1884)たち大人は、アルド、結葉、灯心を部屋に隠した。衝立や蚊帳で傍目に武装を分かり難くし、飛び道具の射線を遮って、蚊帳周りに釣り糸に鈴を結んだものを鳴子として設置し、とにかく子供の周りに相棒を含めた防衛線を張った。 「それでよかったんだよ」 「どおして?」 「結葉たちが怪我したら、俺たちが泣いちゃうよ」 ぽんぽん、と頭をなでる。紅雅も不服そうな灯心を抱きしめて「無事でよかった」と安心し、護衛のからくり甘藍を労った。无はアルドに「夜になる前に教えたはずです」と言いながらメガネに触れる。 「やむをえぬ場合を除き、率先して戦うものではない。君らが生存するが最優先、生きて帰ろうと」 「うん……俺たち、弱いしな」 「一緒に戦おうと思ったのだから充分強いさ。縁日の土産があるんだが、食べるかね」 するとアルドより先に、結葉と灯心が反応した。 やはり子供だ。 フェルル=グライフ(ia4572)は「素敵」といって立ち上がる。 「夕方に飲んでもらった私の秘密のお茶、まだあるの。これから淹れるから、食べて飲んだらゆっくり寝ましょう。みんな充分頑張りました。頑張ったなら、ご褒美の時間です」 にこ、と笑って子供たちを台所で連れて行く。 グライフが仲間に合図を送る。 そう。 倒しておわりではない。 ●深淵の闇 子供達がいなくなった時、煉谷 耀(ib3229)と千代田清顕(ia9802)が庭へ降りてきた。 暗殺者は増援と思ったのか「遅いぞ」と叫ぶ。しかし千代田は「悪いね」と肩を竦める。 「仕事を選ぶシノビも居るってことさ」 「なに?」 近づく珠々を見て「シノビの面汚しめ」と叫ぶ暗殺者に、珠々は冷ややかな目を向けた。 「私達、もう別の依頼を受けなおしてまして。残念ながらお味方はできなかったんです」 「貴様ら最初から」 「察しが遅いな。後はこちらの仕事か」 視線を目配せした煉谷は、千代田に「清顕。頼む」と一言告げた。 「耀さん」 「かまわない。やってくれ」 「少し、いや、かなり傷むと思うよ。急所は避けるが」 「覚悟の上だ」 千代田は忍刀風也で、煉谷の体を切り裂き始めた。 更に両腕に庇い傷、足、脇腹、背中。顔と腿に蹴りを入れて打撲痕を残し、あばら骨を一本折った。当然、無抵抗の煉谷は重体になり、地に崩れる。 仰天したネネ達が駆け寄ってきた。 「何をやってらっしゃるんですか! すぐに治療を」 千代田は「回復してはいけない」と制止した。 「なぜ! このままでは」 「確実に成功したと思わせて鳥を飛ばすには、重傷者の報告が必要なんだ。俺達が無傷で戻れば怪しまれる。依頼元を突き止めることがどれだけ重要か、君たちの方が理解しているはずだ」 「それは」 ネネ達は悟った。 彼らが命を張って仕事を成功させようとしている事を。 激痛に呻き、本物の血を吐く煉谷を見下ろした千代田は「珠々さん、協力してくれ。俺にも怪我を」と告げる。 少女は暫く見比べていた。 「では体格的に彼を引きずって戻るのは千代田さん、という事で。私は逃げた扱いがいいでしょうか。躊躇い傷は怪しまれると思いますので……歯を食いしばってください」 無表情で剣「電光石火」を閃かせる。 かくして千代田は軽傷、煉谷は重傷となった。 千代田は、息をするのがやっとの煉谷に肩を貸し、ジルベール(ia9952)達から証拠品にする遺髪を受け取る。 この髪は、礼野 真夢紀(ia1144)やグライフたちが昼間、子供たちの散髪をしたり、子供と背格好が似ている仲間から分けてもらったものだ。 「気をつけて」 「痛っ……成功したら忍犬モクレンを走らせる。街の外で待機していてくれ」 二人は夜の闇に消えた。 千代田と煉谷は報告に戻った。そして夜春で惑わした情報屋に接触した。 「こいつぁひでぇ……よく戻れましたね、旦那」 「いった……はずだ、強敵……だと」 ヒューヒュー、と息をはく。 「彼の言うとおり、強敵だった。犠牲が出たが、幾人かの子供は暗殺した。おっと……」 煉谷が「子供の苦しみが、望みだったな」と確認する。 千代田が証拠品を渡す。血の付いた髪だった。 煉谷は血を吐きながら続けた。 「俺は、1人が限界だったが……体に針を突き立て、己が血の吹き出る様を……自覚させた。その時の痛みと……恐怖に引きつった顔を見せられぬは、点睛を欠くと言った所か、ハハッ」 「もう喋らない方がいい。止血もしないと」 「そう、だな、時をかけた分……開拓者から逃れるは……至難……だったが、……子供の命を、盾に、し……てきた。い、今頃は、骸を抱え……ひ、悲嘆にくれて……ガハッ!」 情報屋は「お疲れさんでやんした」と報酬を二人に握らせた。 まもなく。 伝書鳩が夜空に羽ばたく。 鳥が羽ばたいた事を忍犬が知らせてきた。 見送るアルカームが追跡組に「時の蜃気楼なら使えるから」と教えておく。 ジルベールは戦馬ヘリオス、ウルシュテッド(ib5445)は戦場ミーティア、リオーレ・アズィーズ(ib7038)は駿龍ベロボーグ、白雪 沙羅(ic0498)は駿龍天青で後を追跡した。辿り着いた先は、五行国の首都結陣。寂れた屋敷を調べ、ジルベールが心眼で位置を割り出す。ジルベールとウルシュテッドが侵入し、アズィーズと白雪は何故か隠れた。 「そうか、やったか!」 鳥が運んだ密書を読んで、蛇のように笑う。 「見つけた」 「あなたが依頼主か」 不法侵入者の二人に驚く老人。 彼から物証を奪い取り、一字一句詠み上げる。 迷い鳥だと言って白を切ろうとする老人を見て、アズィーズと白雪はある行動に出た。 『こんな事、二度と許しません。いきますよ、沙羅ちゃん』 『はい! おじいさんは色々と後悔すればいいのです!』 二人は式を虫や鼠の姿に変えて、部屋の裏に送り込んだ。 そして子供の声を装う。 ……いたいよぅ。 ……ねぇ……どうして殺されなきゃいけないの。 ……やっと……幸せになれたのに。 ……苦しいよぅ。 ……あたしを殺したのはだれ? 「聞いたか?」 何を、と問い返そうとしたウルシュテッドの声が止まる。 彼らは見た。老人の顔に浮かんだ狂気。 そして『歓喜』を。 「わしは正しかった」 「なんやて」 「わしは間違ってなどいなかった。あれは子供の皮を被った怪物なのだ! きいただろう、今の声を。 子供達は死霊になった。人に害なすアヤカシだ! 滅ぼされて当然のクズを屠ったに過ぎん! わしは貴様らを洗脳から解放してやったのだ! あんなものを庇うなど愚かにも程がある! 今この場で祟り殺されようと、人々はわしの正しさを知る! ナマナリの遺物は根絶されるべきものだ!」 ジルベールとウルシュテッドの視線が交錯する。 『テッド』 人は見たいように物事をみる。 『分かってる、ジル』 物陰に隠れている白雪とアズィーズは青ざめた。 優しすぎる少女達は、強い期待を抱いていた。 きっと老人が後悔してくれるのではないかと、罪悪感を抱いているのではないかと、反省してくれるのではないか、そうであって欲しいと願った。 一方的な期待を寄せていた。 『復讐……そんな事をしても、亡くなられた方は喜ばないんじゃないでしょうか、って言って目を覚まして貰いましょう』 『私も思うのです。密告してくださったご老人がいるように、かのご老人も根から悪人ではない、ただ家族の復讐に目が眩んでいるだけ。子供達の声で自分の行動の意味を自覚してもらい、反省してもらえれば……』 現実は甘くない。 既に暗殺という一線を越えた老人は、孫や子を愛した遠い日の人物ではなかった。 愛した者は死んでしまった。 失うものは、何もなかった。 私財を擲つほど復讐を望んだ老人は積年の恨みと悪意を抱えていた。 そして。 老人の主張する正当性は、彼の死を持って完成し、世論を絶対的同調に導く。 逆に子供達の呻き声などが開拓者の仕込みである、とうち明けたり証明されたら最期、不正な手段で心理的誘導を行った、偽りの証言をするよう術で脅迫してきた、物証は開拓者の企みだ等と言い逃れる事も可能になる。 『こっちが手の内うち明けるのも、爺に自害されるのも拙いな』 『どのみち劣勢に立たされるか。なら……』 ジルベールが「なあ」と語りかける。 「あんたかて、本当は分かってるんやろ。あの子らのせいやないって。これ以上やったら、心底憎んだアヤカシと同じになってしまうで」 「なにがこれ以上か」 鼻で笑う。 「わしは家族を殺された時に誓ったのだ! ナマナリの厄災を一掃するためなら手段は選ばぬ、全てのナマナリの子をこの世から殲滅する! 今回の事を報告すれば、施設や里子に出された子も抹殺すべきだと誰もが認めるのだ! アヤカシへ変ずる危険な存在は殺し、消滅させるべきだ! 本来は貴様ら開拓者が滅ぼすべきなのだ! 分かったか、敵に惑わされる屑どもめ!」 更にウルシュテッドが尋問を誘導する。 「では。 貴方は……生成姫の子殺害を第三者に依頼した事実は認めるんだな? 死後にアヤカシになると考え、主張し、私財で暗殺者を雇った。国家の立場も無視してかまわぬ案件と考え、一般人殺害の凶行に及んだ首魁であると発表し、世論に己の正義を問うと?」 「そうだ! 儂は惑わされた貴様らに代わって正義を成したのだ!」 ウルシュテッドは懐中時計を見ながら時間を書きとめる。 「そうか。では精々そう思いこんでいるといい」 「なんだと」 二人は爺をねじ伏せて柱に縛り付けた。 「二日くらいはこのままでも、死にはせえへんよな、テッド」 「だな。ご老人、後日の召還を楽しみに待たれることだ。役人が術者をつれてきて、今の言動を再生する。 しかし子供達は21名、誰も死んでいない。 よって生きた子供が死霊になることはありえない。 俺達の仲間が暗殺者を撃退し、拘束した。証拠は別にある。ちなみに過去に殺害或いは処刑されたナマナリの子が化けて出た記録もない。あなたの妄想だ」 「な!?」 「しっかし、テッド。裏で暗殺を頼むなんて正気の人間がする事やないよな。人道に反するっちゅーか。仮に国の政治に関わっている者がしていい行動やない。国家機関への信用を下げる行為は反逆罪にも等しいと思わへん?」 「し、しかし声が」 二人は惚けることに決めた。 「俺達は何も聞かなかったな。この屋敷に野良アヤカシでも居着いたんじゃないのか。なんにせよ、子供は生きているし、俺たちの子とは関係ない。身から出た錆なんじゃないかね」 「……まて、おい」 老人はやっと頭が冷えてきた。 幾ら欲しいとか、ちょっとした冗談だとか、せめてアヤカシ退治をしていけ、と口やかましい。 しかし一切取り合わない。 自害されないよう猿轡も噛ませる。 ウルシュテッドは告げた。 「俺の息子は死んでいないが、俺は貴方を赦さない。だが気持ちは痛いほど解る。俺も人の親で子だから。復讐心も。そんな俺の為に、優しい息子が心を痛めてくれる。あなたには……もう分からないだろうがね」 危ない橋を渡りつつも、爺から自供を引き出した一行は城へ向かう。 そして。 老人は逮捕された。様子を確認して白螺鈿へ戻ると、情報屋を確保した代わりに強力なシノビが一人逃げたことを知らされた。後で尋問をしようと拘束した後、各班がいない手薄な時を狙われたという。 『荒縄程度で縛れると思ったか。殺さずの甘さ、それが貴様らの敗因よ! いつかこのツケは払わせてやる』 赤椿の入れ墨を持つ男は逃げたものの、傷は深い。 数日後、柚子平から敵対する老人の一人が終身刑に処されたと報告がなされた。 完全に憂いなしとは言えない。 だが彼らは表だった政敵を退けることに成功したのだった。 |