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■オープニング本文 【★重要★当依頼は21名の子供達との接触はありません。単なる重要会議です。】 最近、開拓者の間で再び噂になっている子供達がいる。 通称『生成姫の子』――――彼らは幼少期に本当の両親を殺され、魔の森内部の非汚染区域へ誘拐後、洗脳教育を施された経歴を持つ『志体持ちの人間』である。 かつて並外れた戦闘技術と瘴気に対する驚異的な耐性力を持って成長した彼らは、己を『神の子』と信じ、神を名乗った大アヤカシ生成姫を『おかあさま』と呼んで絶対の忠誠を捧げた。 暗殺は勿論、己の死や仲間の死も厭わない。 絶対に人に疑われることがない、最悪の刺客にして密偵。 存在が世間に知られた時、大半が討伐された。だが……当時、魔の森から救出された『洗脳が浅い幼子たち』は洗脳が解けるか試す事になった。 子に罪はない。 神楽の都の孤児院に隔離され、一年以上もの間、大勢の力と愛情を注がれた。 結果……子供たちは人の世界の倫理や考え方を学び、悲しい事に泣き、嬉しい事に笑う、優しい子に変化を遂げた。開拓者ギルドや要人、開拓者や名付け親にも、孤児院の院長から経過を記した手紙が届く日々。 だが養子縁組も視野に入った頃に『生成姫の子』を浚う存在が現れた。 名を亞久留。 配下アヤカシ曰く、雲の下から来た古代人なる存在らしい。 何故、今更になって子を浚うのか。誘拐を阻止した大勢の開拓者達の問いに、返された答えは『生成姫との取引報酬』『天儀と雲の下を繋ぐ存在になる』『我々の後継者である』という内容だった。 だから『返せ』と。 無数のアヤカシを使役し、行動に謎の多い、雲の果てから来た異邦人。 そして国家間の会議の末に、有害とされた異邦人は討伐された。 これで少なくとも直接的な脅威は排除されたと見ている。 生成姫の子供達や神代、大アヤカシに干渉していた経緯を踏まえても。 そして一部の開拓者は再び『生成姫の子』に付随する問題と向き合うことになる。 +++ 「戦の事後処理が続いていますが、ひとまず皆さんお疲れ様です」 狩野 柚子平(iz0216)にギルドへ呼ばれた開拓者たちは再び顔を合わせていた。 「樹里、皆さんに前回の議事録を」 「はーい」 人妖が資料を配布する。皆が議事録を覗き込んだ。 状況が変わり、意見にも変化があるだろう。 「今回は『イリスとエミカ、未来と星頼の四人には干渉してきた方々が伝える。と決まった事に対して、年長四人にも同時に伝えるかどうか。そして、伝えた者を孤児院に置いておくか分離させるか?』について先に議論いたしますか」 年長四人は、其々に複雑な思いを抱えている。 今は戦が忙しいと言って……開拓者にするか否かの返事を先延ばしにしているし、話に真実味を出す為、集団訪問の機会も減らしているほどだ。 「先に、って事は他にも何か」 「えー……その、そうですね。皆さんにも心構えは必要ですね」 皆さん? 「子供の養子縁組に関する話を進めようとしたら、上が邪推してきましてね。あれほどに狙われた子供に、本当に危険性はないのか、既に干渉を受けているのではないかと。そこで近々皆さんと面談し『子供の事について聞き込み調査を』という動きがあります」 「私たちに、ですか?」 「子供達に最も接触している開拓者は、皆さんしかいません。各子供について尋ねる形で……粗を探したいのだと思います。子供の粗を探そうとして菊祭で失敗してますからね。ですから言い負かされないような備えは必要です」 手下アヤカシと接触していた華凛のような子は、排除の口実になりかねない。 「どうすれば」 「誰がどんな子で如何に無害であるか、を話せなければお話になりません。まずは皆さん各自が目をかけてきた子供がいると思いますから、その子に関する現状報告を出し合いましょう。誰も擁護者がいない子供は危険だとわかりますからね」 年寄り連中はどうしてこう、利己的で疑い深いのか。 溜息をこぼしつつ、順番に物事を片付けていかねばならない。 |
■参加者一覧 / 星鈴(ia0087) / 芦屋 璃凛(ia0303) / 酒々井 統真(ia0893) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 御樹青嵐(ia1669) / 弖志峰 直羽(ia1884) / 郁磨(ia9365) / 尾花 紫乃(ia9951) / フェンリエッタ(ib0018) / アルーシュ・リトナ(ib0119) / ネネ(ib0892) / フィン・ファルスト(ib0979) / 无(ib1198) / 蓮 神音(ib2662) / 紅雅(ib4326) / ウルシュテッド(ib5445) / ローゼリア(ib5674) / ニッツァ(ib6625) / パニージェ(ib6627) / リオーレ・アズィーズ(ib7038) / ケイウス=アルカーム(ib7387) / 刃兼(ib7876) / ゼス=R=御凪(ib8732) / 戸仁元 和名(ib9394) / 紫ノ眼 恋(ic0281) / 白雪 沙羅(ic0498) |
■リプレイ本文 ●開拓者ギルドでの会議 各々が議事録を見直している間、拳を鳴らしていた酒々井 統真(ia0893)に、人妖樹里が「大丈夫よー、係の人に頼んであるから」と手を振る。 厳しい表情で様子を伺っていた泉宮 紫乃(ia9951)も、やっと肩から力を抜き「ありがとうございます」と呟いた。 その時、柚子平が手を叩く。 「では順番に多数決を取ってまいりたいと思います。……『イリス、エミカ、未来、星頼へ生成姫消滅を伝える際、年長4人を含めるか』……この問題について先に接した方々の意見を聞きましょうか」 「四人の様子ですか」 无(ib1198)は「アルドと接してますが、受容できる程に成長と考えます。他三人についても同様に良いと私は感じます」と主張する。 恵音と接点の多いアルーシュ・リトナ(ib0119)は「話す約束ですから」と囁く。 紅雅(ib4326)は「含めていただきたいと思います」とはっきり告げる。 「灯心に関しては、これで大きな変化があると私は思っています」 酒々井や弖志峰 直羽(ia1884)も結葉について語る。 「では……まず『含めぬべき』だと思う方は挙手し、意見をいただきたい」 挙手した礼野 真夢紀(ia1144)は「年長者に先に伝えるべきかと思います」と告げた。 「逆に年長四人も事実告白の際に『含めるべき』という方は手を挙げていただきたい」 二十四人の手が上がった。 フェンリエッタ(ib0018)が樹里を一瞥する。 「神の子が真実を知ったら……とエミカは恐れてる様子だったというし、一緒に話し年長組の心の在り処を知る事も大切だと思うの。だから含めるに一票を投じるわ」 手を挙げていた酒々井は「相対的な問題だな」と告げる。 「おれが含めるべきだと思うのは……開拓者の話をする前提になるし、年長組の間で扱いに差を設けるのは、余計な疑念を生みそうだ……と思うからだ」 蓮 神音(ib2662)は「だよね」と頷く。 「外に出すならいずれナマナリの事は知れるし、その前にこちらからきちんと伝えるべきだと思う。その責任があると思うんだよ。ただ最終的に四人を見て来た人の判断に従うよ」 弖志峰が「俺の考えを言ってもいいかな」と身を乗り出す。 「世に出る子供達には、自分達が尽くす誠意と責任として話しておく必要があると思う。だから今回だけじゃなくて、今後……他の年中組、年少組が然るべき時を迎えた際も、同様に話をすべきだと思うな。青ちゃんは、どう?」 「そうですね。酒々井さん達の話に便乗する形になって恐縮ですが……」 御樹青嵐(ia1669)は淡々と告げる。 「年長者を含めるか。また開拓者身分を認めるか。この二つの課題は表裏一体な問題だと思います。開拓者になることを認めるのであれば4人は事の真相に触れる事になるでしょう。ならば、それを伝えるのは……私達の責任であると考えます」 暫く柚子平が考え込んだ。 「では、年長四人の開拓者身分を認めるか否かについて……『認めても良い』と思う方は挙手を」 二十三人の手が上がった。 認めるとした酒々井は「子供達なりに『生成姫消滅の話を聞いた上で考える』為に、開拓者を肌で感じる必要はあると思うぜ」と告げる。 弖志峰は「人としての幸せや自己同一性確立の為に開拓者を志す、その成長を信頼して見守りたい」と話す。 礼野は柚子平に「4人とも確か、後見人いましたよね?」と確認した上で「同居可の人もいるのでしたら……後続の為にも認めてよいかと思います」と告げた。 リトナも「私も認めてもよいと考えていますが、後見人や開拓者と同居が前提かと」と言い、条件付きでの承認を推す。万が一、何かあった時に一般への影響を最小限に抑えられるのは開拓者だけだからだ。 「情報も段階的に与えないと。その過程で感じた疑問、迷い……それらをぶつけられる相手、そして受け止められる相手が必要だと思います」 紅雅は「他の年長者は兎も角、灯心は要相談かもしれません」と言葉を濁らせる。 「説明の反応次第だとも考えます。極論な話……生成姫から貰った名を捨てられるかの話にもなると思います。無理強いはしたくありませんし、急いて進めるべき内容でもないでしょう。開拓者にはいつでもなれます。ですから反応が危ぶまれる場合は、慎重な判断にしたいと思います」 子供たちが『開拓者になりたい』と望む理由は、其々異なる。 アルドは『お役目の前に旅がしたい』と言い、恵音は自分は生成姫にとっていらない子だと認識しており『新しい居場所を求めて』志願した経緯がある。結葉は失恋を経験の上で『自分より強いお婿さん探し』が目的だが、その根底には未だおかあさまに認めてもらいたいという意識が根付いている。灯心は賢いが故に矛盾する現状を理解し始めていて『一人前になってどこへでも行く権利がほしい』という意識から開拓者の身分を希望した。 其々の動機が全く異なる以上、生成姫消滅を伝えてみるまで、どうなるか分からない。 おかあさま――生成姫に認められる前だった年中組より厄介な存在なのだ。 御樹も「真相を伝えたうえで子供達の意見聞きたいと思います」と言った。 「自分でどうしたいか、どうすべきか、それらを考えること自体が一つの訓練になるかと思いますし。こういう基準になってしまうのが些か子供にはかわいそうなのかもしれませんが……」 「ただ人の世界を知りたい、遊びに行きたい、というだけなら幾らでも認めますのにね」 リオーレ・アズィーズ(ib7038)が苦笑いひとつ。 「子供の誘拐を企んでいた亜久留は滅びたことですし、本当はもうしばらく、モラトリアムな期間を子供達にあげたかったのですが……ままならぬものですね」 戦を理由に返事を引き伸ばすのは、場しのぎに過ぎない。 子供達の何故に答えなければならない。 「不用意に返事を引き伸ばしても、疑念を抱かせるだけでしょうし」 ふたつの問題に手を上げなかった泉宮は「接した方の意思を尊重します」と言う。 「子ども達の最も近くで接してきた方達の意見が、一番信頼できると思いますので」 認めても良いとした戸仁元 和名(ib9394)も「同感です」と頷く。 「うちも、重点的に関わってきた皆さんの意見を尊重したいと思います」 ケイウス=アルカーム(ib7387)が「そうだね」と呟いて小さく唸る。 「年長4人をずっと見て来た人が「含めるべき」とか「認めるべき」って考えるなら……俺は賛成。戦を理由に先延ばしにするのも、そろそろ限界じゃないかなとも思う」 ゼス=M=ヘロージオ(ib8732)が「ケイウスに同意する」と言った。 「長らく関わってきた者達が「そうした方が良いのでは」という判断であるならば俺はそれに従って良いと思う。個人として含めるべき、認めてもいいという感想は述べておこう」 フィン・ファルスト(ib0979)も同意見と告げ「誠実に対応したいです」と述べた。 他にも同様の意見を述べつつ「含めるべき」や「認めてもいい」と決断した者が圧倒的だった。 柚子平が人妖樹里の纏めた集計を覗き込む。 「では年長者は説明に含める。また年長者の開拓者身分については、本人の希望が強ければ前向きに承認を行い、もしも生成姫消滅に関する説明の段階で……不穏な言動や行動が確認された場合は見送る――そういう結論でよろしいでしょうか」 皆が頷く。 「では次の議題です。『生成姫消滅を伝えた子供を、孤児院の外へ出すかどうか』……出すべき、と判断している方は挙手をお願いします」 出すべきと判断したのは22人。 控えめで賛成、という姿勢は1人。 出さぬべきという判断をしたのは0人で、無回答は2人だった。 礼野が悩みながら意見をのべた。 「年長者4人は出しても良いと思う。年中4人は……意志を尊重、かな。本人達が皆一緒にいたいって希望があった場合に、外に出すのはどうかという可能性があるから」 蓮も暫く悩んでいたが「出すべきだと思うけど、子供達の意志を尊重したいと思うんだよ」と言葉を添える。 柚子平は「少なくとも望まぬ場所にはおくりません」と約束した。 「子供の意思も大事ですが……既に未来たちは隠し事の限界を訴えておりますわ。年長者を説明に加え、更に開拓者身分を認めるのであれば当然、出すべきだと思います」 ローゼリア(ib5674)は凛とした声で主張した。 刃兼(ib7876)が頷く。 「出すべき、かな。孤児院に残る負担を考えると、こちらを推したい」 「そうですわね。生成姫の真実を教えた上で抱え込むと『監視しているのか、信じてないのか』と不安にさせてしまう面もありますし」 「言えてるな。束縛は子らの不安を増すし、摩擦を生みかねない。あと、縛るよりあの子達の為に最大限、何が出来るか考えたい」 アズィーズと酒々井が懸念を添えると、泉宮たちも同様に意見を述べ始める。 「同じく出す方に賛成です。隠し事をする子どもの負担が大きいのと、何かの拍子に他の子に伝わってしまう危険はさけられません」 リトナが陰鬱な表情を浮かべる。 「知らない子に対して、知った子が伝えるべきか悩む未来はたやすく想定できます。せめて意見の相違による不仲を避けたいです。それには出すのが一番かと」 アルカームもまた「出すべき、に一票」を投じた。 「少なくとも亞久留の心配は無くなったんだしさ。前回の話し合いでも思ったけど、秘密を持ったまま他の兄弟達と一緒にいるのは……やっぱり負担が大きいよ。俺たちが答えを渋っている間に、今もイリス達四人は悩んでいる訳だし」 ファルストも頷く。 「ですね。年中4人の精神的負担も大きいみたいですし……出すならば、監督する人は必要とも思いますけど」 弖志峰は「そうだね」と告げる。 「俺も出すべきだと思う。但し真実を知った後の反応や様子は考慮するのが当然だと思うし、適宜フォローは必要かなって思うよ」 紫ノ眼 恋(ic0281)は「あたしもそう思う」と耳を立てる。 「出した後のフォローも同時にしていけるといいな。現在はまだ小さい他の子たちも、いずれは外に出ることになるだろうし」 「出すべき、やと思います。信頼できる場所へ、もしくは私ら開拓者のフォローが当分は受けられる環境、いうのが前提ですけど……事情を知らん子らと一緒におっても辛いでしょうし」 戸仁元 和名(ib9394)の向かいに座っている白雪 沙羅(ic0498)も「条件付きで出すべきに一票」を投じた。 「継続して援助していく開拓者さんが傍にいるというのが条件になります。『おかあさま』は心の支えだった訳ですしね。知った後は衝撃も大きいと思うので……」 「急な情報に衝撃は受けるでしょうしね。それに対して激昂するか冷静でいられるか……それを見る必要もあります」 浮かない顔の紅雅。 対してフェンリエッタは前向きな提案を行う。 「私も出すに一票よ。あとそうね。希望者には色んなところの生活を体験できるよう手配するのも選択肢として有りだと思う。選んでもらえるようにね。ジルベリアとかね」 ヘロージオも「そうだな、俺もだしてもよいと思う」と告げる。 「危険だからと保守的になりすぎるのも少し考えものだ。閉じ込めておけばいつか爆発し、それこそ手遅れになる可能性が高い。信頼のおける誰かがきちんと見てやれるのであれば……外に触れさせても良いのではないか?」 无が人差し指で眼鏡をあげた。 「出すべきに一票は投じますが、その後の生活について決める場合、子を交えて話す必要があるかと思いますね。受け入れ先があるなら本人の希望を問いたいですし、きちんとした場所に預けるとしても……たった独りになるような扱いは避けたい」 ウルシュテッド(ib5445)も同じような意見を述べた。 星鈴(ia0087)は「うちは接触したことがないさかい、みんなの意見聞いての感じやけど」と前置きする。 「年長組を含むべきやと思う。うちらの考えだけで子どもん進もうとする道を潰しとうない、という気持ちからや」 ニッツァ(ib6625)は「一応出すべき……とは思うけど」と票は投じつつ、机の上で腕を組んで悩みだす。 「引き取り手ぇ言う話なったらまぁ、それはそれで難しいもんはあるかもしれんけどな」 子供を安心して託せる環境かは吟味していく必要があるだろう。 ●後見人と保護者――そして養子縁組 「では最終的に『伝えた者は孤児院から出す』という結論ということで」 柚子平が、はたりと我に返った。 「一応、伺いますが……開拓者身分を認めるにしろ認めぬにしろ、年長四人と同居が可能な方はいらっしゃいますか?」 するとアルドの受け入れ可能を无が表明した。恵音についてはリトナが。結葉は酒々井と弖志峰が受け入れ用意があることをのべ、紅雅は反応次第で灯心を受け入れる用意があると言った。柚子平が人妖樹里に記録を命じる。 「では……年中組のイリス、エミカ、未来、星頼も伝える以上は外に出すことになりますから、同居可能な方がいるか、別の場所を見繕うかは次の機会で共に聞くとしましょう」 无が「ついでといっては何ですが、質問があります」と手を挙げた。 「なんでしょうか」 「後見人の追加立候補は可能ですか?」 「それは可能ですよ。複数の開拓者で子供を手厚く守るなら歓迎したいくらいです」 「では一人の開拓者が、複数の子の後見人に成れますか」 「無理ですね。分身の術でも使えないことには。年長者の開拓者身分を認める場合、後見人に課せられる仕事は『指導員』『監視員』『処刑人』の三つです。既に相当な重荷だ。仮に子供二人を抱えていて二人が逃亡を試みた場合、当然、追えるのは一人だけですので」 開拓者個人にできる事は限界がある。 柚子平は続けた。 「同じ子供の後見人と保護者を兼ねる事はできても、一人の後見人になり別の子の保護者になるといった事は承認がおりません」 「例えば……双子を同時に引き取ることはできないんでしょうか」 郁磨(ia9365)が尋ねた。 隣のパニージェ(ib6627)は「引き取りは俺も郁磨も問題なく可能だが、二人を引き離す形にはしたくない」と告げる。 「残念ながら『一人暮らしの開拓者が二人の子供を引き取る』という事は、同じ理由で許可できません。ただし自宅に伴侶や同居者がいて、相手も開拓者であり、理解を示していて、この書類に責任を請け負うとして署名して頂ける……のであれば話は別です。後は引き取った者同士が、近所に自宅を構えたりすれば、そう引き離す環境にはならないかと」 融通の効かない話ではある。 だが『何かあった時に確実な対処ができる』事が絶対条件なのだろう。 「市井に下ろす場合の……養子縁組の詳しい条件を聞きたい」 刃兼は真剣な表情で続けた。 「俺は旭を養女として迎える意思がある。旭から『おとうさんになって』と言われて長いこと悩んだが――時が来たら、迎えに行く約束もしているんだ」 ネネ(ib0892)が「私も可能なら引き取りたいです。そう思ってる人も多いと思います」と言葉を添える。パニージェや郁磨たちを含め、養子縁組を考えている者の目が光った。 「そうですか。開拓者である段階で資産の問題はありませんので、この辺は除きますね。 まず第一に、子供たちの意思です。 第二に、ギルドや私が認めた人材であること。現在室内にいる方々は基本的に安心してお任せできるつもりです。浪士組に籍がある方は、大元に尋ねてみないことには判断しかねるのですが……一旦、横に置いておくとして」 柚子平がみつ指を立てた。 「3つ目の条件は、自立型相棒を二体以上保有していることです」 「自立型の相棒を?」 「ええ。開拓者はその性質上、二十四時間の監視は不可能。戦や仕事となれば駆り出される。そういう時に子供が一人になってしまう。空白の時間を埋められる存在が必要なんです。自立型相棒が自宅に残れば、緊急時の対応ができますからね」 臨時監視と緊急伝令役というところだろう。 機械系や召喚系では対応できない。 龍、からくり、人妖、羽妖精、提灯南瓜、ミヅチ、鬼火玉、忍犬、猫又、迅鷹、鷲獅鳥、土偶ゴーレム、霊騎……その辺りだ。 職務を放棄しそうなもふらさまは微妙だが。 「よって子供の意志が伴い、二体以上の自立型相棒を保有している希望者は、後で面談して最終的決定の後に書類へ捺印――――という過程を経て『養子縁組完了』となる予定です」 書類の見本をぴらりと見せた後、柚子平が「完全に孤児でなかった場合はもう一つ条件がありますが……この辺は調査が進んでからですね」と小声で言葉を濁す。 ●過ぎ去った一年と子供達の変化 「話が戻りまして――面談に備えた子供たちの話なのですが、一先ず皆さんがどれだけ子供について話せるか伺いましょう」 星鈴は「会ったことがないからな、うちから意見はだせへん。隅で皆の話を聞かせてもらうで」と告げる。 表情の暗い泉宮は「面談の件は……難しい問題ですね」と呟く。 「現状、他の子どもにまで避ける余力のある方は少ないですし、無理に相手を増やせば今親しくしている子どもからの信頼も失いかねません」 リトナも似たような悩みを吐露した。 「私たちが子供たち全員の幸せを願っても、実際に手を掛けられるのは物理的に一人か二人……だからこその相談ですが、普段見て下さる孤児院の先生方には本当に頭が下がります。でも実際に問われるのは私達なのですね」 柚子平は頬を掻く。 「ええ。お偉方からすれば……二十四時間体制で面倒を見ている孤児院の方々は『必要以上の情が湧いて肩を持つのでは』等の懸念があるようで。その点、一歩引いたところでものを見ている皆さんの方が実態調査には適任――と判断したようです」 泉宮が渋面を作る。 「……実態の聞き取り調査、と称した粗探しなのでしょう。すくなくとも現状で問題行動がない事と、他の子ども達の変化を強調する事で、今後に期待する方向に持って行ければ良いのですが……まずはどう説明できるかの相談ですね」 「はい」 順番に名前をあげ、皆の中から説明できる者が利点をあげていく。ここで擁護者がいない子供や、無害であるという主張が弱い子供がいた場合は、面談の日までに何らかの対策を講じなければならない。 まずは最年長のアルドについてだ。 「話せるのは无さんですか、どうぞ」 「アルドは……自発的に戦いを捨て、自ら歩み始めた。故に信頼できる。加えて妹弟の導き手に成るかも、という期待を抱ける程度には人格面も育っているように思う。 次は恵音について。 「リトナさん、どうぞ」 「恵音は……誰よりも生成姫の庇護無く、人の世で生きてかなくては、との覚悟が強い子です。最近漸く小さな望みを口にしてくれました。周囲の平安を優先する、心の優しい子です」 結葉についての話になった。 「では酒々井さんから」 「結葉は感情の起伏は激しいが、感情のまま衝動的な行動に出る子でもないし、他者も思いやれる。感情を受け止める支えになる環境あるなら、自立していけるだろ……てな感じか」 「弖志峰さんはどうです」 「結葉についてだね。……嘗ては強い感情に突き動かされた時の行動が懸念されたが、自分の気持ちより他者を慮り、気遣える程に成長した。納得できる理由があれば、きちんと己を御する。生成姫の教育を絶対視せず、己の意思で社会適合する方向に修正できる。そして、人を愛する事を覚えた尊い子。最早アヤカシの申し子などではない――っていう説明を考えてる」 そして灯心について議論が始まった。 「紅雅さんからどうぞ」 「灯心についてですね。寡黙な子です。ですが料理を通じて人を喜ばせる事を知っています。向上心も高く、知的好奇心も高いですね。問い掛けに真っ直ぐに答えて、教えをしっかりと聞いていると思います。寡黙ですが、根はとても純粋です」 「御樹さんはどうです」 「灯心さんについて……そうですね。料理に興味を持つことは、人について興味を持つことだと思います。人を喜ばせることができる子だと私は確信しております」 子供達の未来を守るには、自分たちもここで踏ん張らなければならない。 あれやこれやと取り留めのない思考を纏めつつ、うっかり面接官と駆け引きのことまで考え出す。 人妖樹里と玉狐天ナイが記録していく。 子供たちの中でも危険視されている年長組は、相応に意見も出ていて擁護者もいる。 具体的に詰めていけば、退けられそうだ。 話は年中組に移行していく。 まずは未来だ。 「ローゼリアさんは、どのような応答をお考えでしょう」 「そうですわね。未来と共にあちこちに行きました。いくつもの祭に赴き、二人で或いは大勢で共に過ごしてきましたわ。あの子は一度たりとて、誰かに危害を加えたり等してはおりません。それが答えですわ」 胸を張って整然と信頼を口にする、とローゼリアは決めていた。 「柚子平。面談はいつごろですの」 「何分忙しい方々ですので、初夏頃を予定していると聞いています」 「そうですか。あの子は――未来は、お洒落が好きなただ一人の女の子。より良い未来を生きる権利を持った娘です。それを誰にも奪わせたりしませんわ」 子供たちを守れるのは開拓者しかいない。 自分たちしかいない、とローゼリア達は理解していた。 「私はあの子と共にある覚悟は既に出来てます。かの方々が危惧されている『もしも』を起こさせない決意も、覚悟も。必ず伝えて論破してみせますわ」 ローゼリアは自分の掌を見つめて、握り締めた。 続く話の対象は明希である。 「アズィーズさんたちですね」 「明希は、真っ直ぐで優しい子です。『みんなと仲良く、年下の子達の面倒を見て』と言ったら、素直に頷いてくれました。それに桜を見ては『きれい』と言い、お芋のブティングを一緒に作り、氷原で氷滑りを楽しみ……お洒落やお料理の好きな、感受性の豊かな子に育ってくれていると思っています。ね、沙羅ちゃん」 促された白雪は力強く頷く。 「ええ。私が報告できるのは明希のことになります。お洒落で手先が器用で……とても素直な女の子らしい女の子に育っていると思います。猫の世話も一生懸命覚えようとしていましたし、私達の話にも真剣に耳を傾けてくれていますし。何より、思いやりも育ちつつあると個人的には思っています。先日、私が川に落ちかけて濡れた時、咄嗟に己のマフラーを使って身体を拭いてくれましたもの。きちんと優しい心も育っています」 一年前と比べれば雲泥の差だ。 子供の成長は早く、なにより知識の吸収が早い優れた子供たちである。 その素質ゆえに誘拐された経緯を思うと胸が痛む。 続くのはエミカとイリスについてだ。 ヘロージオは「俺はイリスとエミカだな。この場では、特にイリスについて報告しようと思う」と述べた。 「まず感情のコントロール。つぎに冷静な状況判断。そして仲間想いの優しい心。イリスは大人でも難しい事を、懸命に実行しようとしている」 と一旦報告を区切り。 「あとはイリスの現状報告だけでなく面談相手に問いかける事を考えている。やられっぱなしという訳にもいくまい? 例えばそうだな……『あとは貴方がた大人が、良い見本を見せられるか否か次第では? 信じる事を恐れては前に進めない。違いますか?』というところか。否定はできまい」 隣のアルカームがヘロージオの雄弁な語りに「ゼス凄いなぁ」と関心しつつ、我に返る。 「俺だね。俺がよく知っているのはエミカとイリス。二人のうち、エミカについて話すよ。エミカは人の世界で生きる為に、必要な事をどんどん学んでくれている。特に大きいのは人との接し方かな。怒りを抑える方法や他人を許す事、他人と自分の違いを認める事……それを学んで実践しようとする子が、無暗に人を傷付けたりはしないよ」 フェンリエッタも「同感だわ」と話す。 「エミカとイリス、星頼たちは将来や家族への展望がある。例えばジルベリア人や社交界のレディになりたい、幸せになりたい……ささやかでもそれはナマナリ側でなく人の未来に寄せるもの。だから大丈夫よ、と偉い人達に伝えたいわね。みんな未熟な普通の子と変わらない」 「では星頼について具体的な話を伺いましょう」 柚子平に促され「俺の番だな」とウルシュテッドは姿勢を正す。 「星頼は『一緒にいて幸せになれる』のが望む家族の形だと言ったそうだ。失ったものに心を痛め、他者を思いやり我慢もする。好奇心、自主的な学び、故に気付く……総合的に見て、利発で優しい子だ。それが申し訳ない時もあるけどな」 賢さは幼さを遠ざける。 まだ十にもならない少年には酷なことなのかもしれないと、苦笑い一つ。 「しかしだ。樹里の話を聞く限り、星頼は……ナマナリにとって『いらない子』となり戻る場所がないと判じた。だが、それを悲観せず他者を思いやる。同じ心で己の為に幸せを求められるなら……人として前へ進めると思う。だからこそ星頼が望む家族が、同様に星頼を望むならば、人の道から外れる事はない。そう信じる」 ウルシュテッドは窓辺に飾られた花を一瞥した。 「伸び盛りの若芽を押込めては歪み、枯れる。孤独を埋める愛情を注ぎ、存分に伸ばす事が必要な子だと思う。だが特別な事じゃない。さればこそ俺が親から受けたのと同様に、子を導いてゆくだけだ。その辺りを向こうに理解してもらえるよう尽力したい」 話は同世代の到真に移っていく。 戸仁元がおずおずと語り始めた。 「到真君については……おっとりしたええ子に育ってる思います。お花見にこの前連れて行きましたけど、特に問題も起こしませんでしたし、『またお祭りで一緒にご飯食べようね』って言うてくれました。それに……あの子は、生成姫とは別に自分にお父さんとお母さんがいるのを自覚してますので……そこまで生成姫に執着する子では無いと思います」 生成姫は子供たちを特別な存在とし、己を母として崇めさせた。 『おかあさま』 数々の戦死者が語った呼び名。 あれは絶対の忠誠を捧げる洗脳の基盤にも等しい。 けれど生成姫を親として認識していない事は、忠誠心に亀裂をいれる。母の為に全てを擲てという命令を、そっくりそのまま認識するような子ではないということだ。 一年間どのように接したか。 子供達のどんな性格や記憶をひきだしたかは、とても重要だ。 続いて、旭について話題が上がった。 刃兼が手を挙げる。 「俺は旭の状況について話そうかと思う。会ったばかりの頃は人見知りだったが、今は年相応の子供らしい反応をするようになった、な」 里から救出されたばかりの子供たちは、皆、表情がなかった。 個性というものが消されていた。殺しの才能だけが引き伸ばされ、均一化されていた。 この一年の変化は大きい。 「好きな食べ物や行きたい場所、やりたいことについて、自分の言葉で意思を伝えてくれるし、お裾分けをもらえば『ありがとう』、食べ終われば『ごちそうさま』と、自然に言える子になった」 たかが一年。されど一年。 「それと、旭自身から『大人になってもずっと一緒にいたい』という言葉を聞いててな。里での生活や生成姫の影響から離れつつあるのでは、と感じているよ」 経過は極めて良好だ。 少なくとも今の話をすれば揚げ足をとるのは困難だろう。 「真白くんについてはどうです」 「真白の番か」 「とくに目をかけていたのは紫ノ眼さん、でしたね」 「真白については素直の一言だ。周囲をよく見て手伝う、優しい子。彼の話しぶりから他の兄弟とも多くの話をし、交流していることがわかる。社交性の一端だな。接客に興味を見せ、実際に仕事でも言いつけを守り、自分で考えて確り働く」 海綿のように物事を吸収していながら澱みを感じない。 「現在は揺らぎの多い年齢ではあるが……それに伴って強行的な行動に出たことは一度も無い。何かあっても話し合うことができる柔軟さを持ちえている。仮に……お偉方の前でこれまでの報告書を全て並べて見られても、真白に危険性があるとは思えないし、あたしが大丈夫だと言い切れる」 爺にケチがつけられるならつけてみろ、と。 自信を持って面談に挑める、と言わんばかりに狼のしっぽが揺れている。 隣席のニッツァが「次はシーバ達やな」とスパシーバについて行動を思い出す。 「シーバは……視野の広い子やて、人間の悪いとこも嫌なとこもぎょーさん見とると思う。 せやさかいに『絶対大丈夫や』とは言い切れんのが……本音や」 バツが悪そうな顔で「せやけどな」とニッツァは続けた。 「その広い視野で兄弟姉妹のこと一生懸命考えて、喧嘩んならん様に、喜んで貰える様に、て。がんばっとる。それに……今迄したこと無い事しぃたい、て言うてくれたんや。郷で知った事を活かしたやのーて、これからまだいっぱい知りたいて……せやから一緒に楽しめたなぁ思う。奪って死ぬ為の知識やのうて、新しい希望、て知識を欲しがったシーバが、危険やなんか……俺は思えへん。俺はあいつの笑顔を信じとるさかいに。せやから……其の辺がきちんと伝わるよう、纏めておかなあかんな」 「ふむ。双子についてはどうですか」 スパシーバと一緒に遊ぶことが多い、和と仁について。 柚子平は郁磨とパニージェの方を向いた。 「……和は、自由気侭で好奇心旺盛。体を動かす事が好きなやんちゃっ子で、悪戯好き。年齢からしたら……とても普通な男の子ですね。聞き分けも良く、教えた事はちゃんと覚えて実行できる子です。他人を傷付けず、思い遣る事も出来る様になりました。今では俺が言わずとも、皆の幸せを願えるまでに成長しています。……自身の幸せについて聞いた時も『今が幸せ』だと言ってくれました。お役目よりも、今が大事だと……」 姿の似た血縁や双子の志体持ちは貴重品。 生成姫は、そうして子供を特別視し、均一化を望んだと思しき言動がわかっている。 子供たちは従順にそれに従い、以前は互いに似せる努力をしていた。 「其の上で『仁と一緒に居たい』という気持ちは変わらずですが、今では一緒に居ても、互いに別の事をできる様になっています。……アヤカシを操るための楽器を年長者から習う事も辞め、今ある幸せを満喫している様です。これは生成姫からの乖離と説明できます」 隣のパニージェも「確かに当初は、常識のずれがあった。その点は認めざるをえないな」と言いつつ、その瞳は人妖樹里に向けられる。 「だが昔のことだ。俺は仁に関しての面談に応じられる。仁達の初期の動きについて問われても、ここ一年の変化は大きい。ミスをした人妖へ許容ができ、猫喫茶ではいいつけを守って仕事ができるようになった。桜や魚に歓声を上げるようにもなった。大人ではない、が『年頃の男子』になった。少なくとも人に危害を加えようとはしないだろう。なにより俺や郁磨達には養子縁組を行う準備がある。勿論、仁達の意志が最優先ではあるが……ひきとりを想定した場合に『仁達が最大限、人並みの幸せになるよう俺たちが留意していく』と確約すれば、先方の安心感にも繋がるのではないか。所詮、向こうの懸念など、たかが知れている」 パニージェの言葉に柚子平が肩を竦める。 「ごもっともです」 生成姫の子をこの世から消したい者たちの『安全のため』の目論見は、単純明快だ。 疑わしきは罰せよ、不要なものは排除せよ、の理論である。 即ち、まだ見ぬ危険因子の排除。立場の保身。税収から捻出される多大な養育費や保護経費の削減。生成姫の子という忌まわしい存在に対する個人的な怨恨…… 全力の責任回避と私怨である。 年長組の後見人に課せられた三つの役目を見るだけで、其の辺は容易くわかる。 起こるかどうかも分からない問題を、老人たちは恐れている。 万が一の責任を転嫁させる先を探している。 ――――虚しい世界だ。 養子縁組を行えば、全ての責任は里親に課される。 柚子平が「話を続けましょうか」と名簿を手にとった。 「残る子供は6名ですが、誰からいきましょうか」 ネネが「私はののについて話すつもりです」と手を挙げた。 「いよいよ佳境ですね…」 「ののは動物が好きなやさしい普通の子どもです。勉強嫌、野菜嫌いとわがままを言うようになりましたが、逆にこれは甘えてもいいと気を許したことでもあります。わがまま自体もきちんと言い聞かせ、本人が納得したら改善するようになりました。本人の納得、というあたりで『言われたから従う』という従属的属性はなくなってきています。猫に食べさせるために、自分の食糧をやせ細るまで持っていっていたこともありました。自主的に、です。とてもやさしい、いい子です」 礼野の猫又小雪は「こゆき、よくだっこしてもらえるの」と尻尾をふった。 「もう、小雪ったら。でもネネさんが言うように、ののちゃんは動物が好きな子ですね。猫を可愛がったり、養う為にがりがりになったり、別れたくないと泣いてだだこねたり、……普通の幼子と一緒です。神の子としての教育前でしたし、養子に出しても問題ないかと思っています。生憎とまゆの家は将来的にも同居とかは無理なんですが……」 少しだけ申し訳なさげに話す。 ののと同じ年少組は他に三人いる。 二人目は春見についての話になった。ファルストが「不謹慎かもしれませんが」と前置きしてから、約一年前の事から話し始めた。 「七夕の時に春見ちゃん、夢魔が成り代わってた両親や生成姫よりも……あたしの方を飾りで作ってくれたのは嬉しかったかな、です」 何の変哲もない単なる飾り。それが示す価値は大きい。 「ののちゃんが隠していた猫とかも、虐待しないで一緒に可愛がる感性も育ってますし、こっちに心を置いてくれてるみたいです。菊祭の時ご老体の杖に引っ掛けられて階段落ちかけたのが原因で、年配の男性を見ると恐怖で体が震えてすぐ逃げるようになったんですけど、ようやく少し治せた感じですね」 思い出すだけで腹が立つのか、目が冷たい。 蓮も「神音は、主に春見ちゃんについて話せると思うよ」と言った。 「春見ちゃん。お手伝いもよくしてくれるし、素直でいい子だと思う。それに春見ちゃんは自然にある物を綺麗だと思い、大切にする心をもっていると思う。それは命を大切にする心を持っている事だと思うし、そういう子は誰かを傷つけたりしないと思うんだよ」 一周しただろうか。樹里が一覧を見た。 「まだ話題が出てないのは、華凛ちゃん、礼文くん、桔梗ちゃん、のぞみちゃん――かな」 蓮が慌てて手を挙げた。 「接触は少なかったけど……桔梗ちゃんも一時にくらべ落ち着いたと神音は思うんだよ」 フェンリエッタは「華凛は問題行動のあった子ね。でもおちついた。そうでしょう?」と言いながら无に確認をとった。何度か気にかけ、一緒に出かけたりするうちに態度の軟化が確認されている。 「華凛も人の世を知り、人に心を寄せるから、寂しくて羨んだのではないかしら。生成姫の子じゃなくても人は道を外れる。危険視や疑念を向けられたら、誰だって心が荒む。導く大人次第だと実感もした。人ひとりの人生だもの」 問題は面談において重点的に擁護できる者がいないかもしれないこと。 立ち上がった无は「樹里、外に出ていない子は誰ですか」と記録を見に行く。 「華凛ちゃんは連れてったんでしょう? 桔梗ちゃんは、フェンリエッタさんが鬼灯祭に連れてってる。あと神音ちゃんが氷上滑りに連れていってるのかな。だから孤児院から殆ど出たことがないのは――礼文くんと、のぞみちゃん」 「そうですか。桔梗の様に交流を増やして心解けると思う為、上手くしたいところです」 「それがいいと思う。でもね、この二人って不思議と問題が報告されてないのよ。寂しがって人の注意をひくとか、桔梗ちゃんの時みたいな自己顕示欲の兆候はないの」 なんでだろう、と人妖は首をかしげた。 泉宮が記憶の糸をたぐる。 「礼文くん。お手伝いをする良い子ですよ。ありがとう、って言われるのが嬉しいみたいで……山菜や木の実を探すのは宝探しみたいだ、と無邪気に話していましたし。のぞみちゃんは……前に林檎のバター焼きを与えて、お膝に乗せた時とかも普通でした」 蓮や礼野も木苺探しやジャム作りの様子を語ったが、それこそ何も問題はない。 この差は何か。 柚子平が首をひねりつつ唸った。 「問題行動が見られないのは良い事ですが……面談の際に、語れる事が少ないのは些か問題ですね。わかりました。来月あたりに華凛、礼文、桔梗、のぞみを連れ出すことにしましょう。御手数ですが、この中で手の空いている方、子供の性格や美点を引き出せるように手伝ってください」 様々な思いを載せて、二度目の会議も幕を閉じた。 |