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■オープニング本文 アヤカシと開拓者。 神楽の都では見慣れた存在も、世界的な人口と比較すれば対した数とは言えず、世間一般の人々にとっては、アヤカシ被害に差し迫らない限りは、あまり縁のない人物たちと言える。 とはいえ。 世の中には奇特な事を考える人種が存在するもので、開拓者ギルドで公開されている報告書を娯楽として閲覧し、世界各地を飛び回る名だたる開拓者や見たこともないアヤカシに対して、妄想の限りを尽くす若者たちが近年、大勢現れた。 開拓者ギルドに登録する開拓者の数。 およそ2万人。 神楽の都が総人口100万人と言われる事を考えると、僅か2パーセントに過ぎず、世界各国で活躍する活動的な開拓者に条件を絞れば、その数は更に減少する。 開拓者とは、アヤカシから人々を救う存在である。 そして腕の立つ開拓者は重宝される。 英雄たちの名は人から人へと伝えられ、妄想癖のある人々の関心を集める結果になった。 彼らはお気に入りの開拓者を選んでは、一方的に歪んだ情熱を滾らせ、同性であろうと異性であろうと無関係に恋模様を捏造し、物語或いは姿絵を描き、春画も裸足で逃げ出すような代物をこの世に誕生させた。 人はそれを『萌え』と呼ぶ。 さらには相棒と呼ばれる動物や機械を擬人化してみたり、人類の宿敵でああるはずのアヤカシとの切ない恋や絶望一色の話を作ったりと、本人たちが知らない或いは黙認していることをいい事にやりたい放題である。 その妄想に歯止めなど、ない。 妄想は妄想を呼び、彼らに魂の友を見いださせ、分野と呼ばれる物が確立される頃になると「伴侶なんていらない、萌本さえあればいい」そう言わしめるほどの魔性を放っていた。 やがて生活用品や雑貨の取り扱いを開始し、有名開拓者の仮装をして変身願望を満たす仮装麗人(コスプレ◎ヤー)なども現れ、僅か数年で一大市場を確立するに至る。 業界人にとって、開拓者や相棒は、いわば憧れと尊敬の的。秘匿されるべき性癖のはけ口といえよう。 四季の訪れと共に行われる自由市は『開拓業自費出版絵巻本販売所(絵巻マーケット)』と呼ばれ、業界人からは親しみを込めて『開拓ケット』(カタケット)と呼ばれた。 年々増加する入場者の対応を、薄給で雇われる開拓者たちが客寄せがてら世話する光景も、珍しいものではなくなってきていた。 そんな最中の出来事であった。 + + + 「はいはい、野営装備のない方は徹夜禁止ですよー!」 「おとなりさんが生きてるか確認してください」 「酒を飲んだ方は退場! ピピー!」 陽も昇らない深夜に響き渡る呼子笛。 年明けの『開拓ケット〜冬の陣〜』の開催を前に、少しでも早く入場するべく前日から泊まり込む驚異の一般人が現れ始めた。 が。 今は雪もちらつく正月である。 深夜の気温は氷点下を下回り、路面はつるっつるに凍結し、牡丹雪はとめどなく降りそそぐ。番傘を差しつつ薄着で毛布を纏う列の人々は、生死を天秤にかけるようなものであった。夜明けに死体が転がっていたら、開拓ケットの開催すら危うくなるので迷惑極まりない。しかし注意しても簡単にはやめない。 そこで開拓ケット事務局は苦肉の策を選んだ。 急遽、開拓者に炊き出しと救護所の運営を頼んだのである。 先程から長蛇の列を巡回し、温かい味噌汁やお汁粉、おにぎりや焼きそばの安価販売、ゴミ掃除とお手洗いの設置、さらには凍傷を負った人々を救護所に搬送しては安く治療していた。 ここに金のない客はいない。 「……なにしてんだろーね、私たち」 「考えたら負けです」 目の前で『●●ちゅあーん』とか叫ばれながら、夜通し働く。 新年の開拓ケット(カタケット)は三日間運営されるというから、三日目の終了まで、この過酷な早朝仕事が続くことになる。既に寒さが手伝って屋台は相当な売上を上げていたし、開拓者に身近で手当してもらえる救護所はおかしな人気を誇っていた。 「うー。夜明けまで寝てくる。一時間後に起こしてくれ」 「おう」 そう言って、仮設天幕に引っ込もうとした刹那。 もっふ、もっふ、もっふ。 目を向けた開拓者は硬直した。 もふらがいる。それはいい。毎度搬入口へ向かう隊列だから問題ない。問題は、もふらがひいている荷車の荷物だ。なんと官能的な開拓者の彫像であった。いずれも数々の武勇伝を誇る有名人ばかり。 「なんじゃこりゃー! おい、そこのもふらさま。説明しろ!」 「売り物もふ。どいてほしいもふ」 「売り物!?」 「ジルベリア人が芸術家に作らせたものらしいもふ」 「……念の為に聞くが、木像を売りさばこうとしているジルベリア人の名前は?」 「憂汰さんって言ってたもふ。もう行くもふー」 一体どこで調べたのか、彫像の採寸はほとんど狂いがないように見えた。 これはあかん。 個人情報が今、売りさばかれようとしている。 そして彫像が運び込まれた倉庫では。 「これで最後でしゅね……やれやれ、名も無き君は人使いが荒いでしゅ。ふー……何か朝ごはん持ってくればよかったでしゅ」 番人が目をこしこし擦っていた。 これは開拓ケット(カタケット)開始、数時間前の話である。 |
■参加者一覧 / 鈴梅雛(ia0116) / 六条 雪巳(ia0179) / 柚乃(ia0638) / 相川・勝一(ia0675) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 八十神 蔵人(ia1422) / 御樹青嵐(ia1669) / 弖志峰 直羽(ia1884) / 九竜・鋼介(ia2192) / 秋桜(ia2482) / 珠々(ia5322) / 菊池 志郎(ia5584) / 鶯実(ia6377) / 以心 伝助(ia9077) / フェンリエッタ(ib0018) / エルディン・バウアー(ib0066) / ケロリーナ(ib2037) / 御鏡 雫(ib3793) / マルカ・アルフォレスタ(ib4596) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / ユウキ=アルセイフ(ib6332) / エルレーン(ib7455) / ラグナ・グラウシード(ib8459) / 音野寄 朔(ib9892) / ジャミール・ライル(ic0451) |
■リプレイ本文 雪空の下で、寒さと戦う一般人と開拓者がいる一方、会場の倉庫では木像の番人改め某麗人の侍女ポワニカと、何故か開拓者のリィムナ・ピサレット(ib5201)がいた。 「へぇ〜、みんなよくデキてるね〜」 「採寸通りでしゅからね」 「ぽわにかおねぇさま〜、差し入れですの〜」 幼い声が番人を呼ぶ。開拓者のケロリーナ(ib2037)だった。両手に持っているのは温かいお汁粉と眠気覚ましのハーブティー。後方から後に続くのは、出稼ぎで工房に雇われたからくりのコレット。包みの中から現れたのは、開拓者の装備の模造品ばかりだ。 「待たせた。乾燥で割れた武器の代用品ができたので、取替を言いつかってきた」 「了解でしゅ」 「コレットちゃんもお疲れ様ですの。憂汰おねえさまは?」 「明日になれば来ましゅよ。夜ふかしは美容に大敵でしゅからね」 ケロリーナはこっそり肩を落とした。謎の麗人と名高き憂汰の過去を取材するつもりで来たからだ。かくなる上は口が堅い年齢不詳の侍女ポワニカを篭絡するしかない。 「ポワニカおば……おねえさまって、いつから憂汰お姉さまにお仕えしているんですの?」 「ふむ。護衛契約を結んだのは、名も無き君が十代前半の頃でしゅからねぇ」 「それって十五年以上前なんじゃ」 愕然としつつ、ケロリーナが色々と尋ねたが「それは秘密でしゅ」という鉄壁の守りに勝てなかった。やがて夜の闇も深くなり、ケロリーナは欠伸を噛み殺す。 「明日のカタケット楽しみなんですの。開幕から出る為にも寝るですの」 目をこすって去っていく。その場に残ったピサレットが「おやすみ〜」と手を振った。 外の徹夜組を前に、大勢の開拓者が巡回を強化し、食べ物を販売していた。 しかし何故か鶯実(ia6377)に至っては『大勢の一般人が徹夜してまで待つ祭ですかぁ』と変な方向に興味を傾け、警備仕事は仲間に丸投げして、行列の第一列に並んでいる。どこから仕入れたのか「これは今回の仮装です」と衣装や武装についてはぐらかす。 しかし警備から何人欠けようと構っている暇はない。 何しろ、そこは戦場である。 例えば徹夜組の周囲を、売り物を積み込んだ荷車を引く九竜・鋼介(ia2192)が練り歩いている。防寒具はさることながら、車輪は滑り止めに鎖を巻く等、徹底していた。さらに言えば無駄な気合と練力を注ぎ込み、本来は戦いで使うべき技術を発揮することで徹夜の覚悟を決め、睡魔と寒さに打ち勝っている。 「え〜……、味噌汁〜、甘酒〜、おにぎりに〜、焼きそばは如何っすか〜」 荷車には人妖の瑠璃が毛布にくるまって乗っている。怠けているわけではない。暗視で闇の中を眺めながら、手を挙げて呼ぶ者を見極め、「主殿」と主人に知らせていた。 荷車が通れない行列と行列の間は、もちろん足で回らねばならない。 少し行列の間を歩いた鈴梅雛(ia0116)の発した言葉は「皆さん軽装過ぎます」だった。 冬の夜を甘く見ているとしか思えない。毛布すら高値で売れる此処は何かおかしい。 「列は詰めて下さい。詰めれば詰めるほど温かいです。人の肉の熱を侮ってはなりません。毛布や温かい食べ物が欲しい方は手を挙げてくださいね。具合が悪くなった人は声を掛けて下さい。具合が悪そうな人を見つけても、声を掛けて下さい」 流れるような動きで品物を売りつけつつ、きちんと体調が悪そうな人を探していく。 その頃、からくり瑠璃は鈴梅の代わりに、列で並んでいた。 路上には、鉄板の上でソースの焦げるいい香りが漂っていく。 天幕の下で八十神 蔵人(ia1422)の上級人妖こと雪華が焼きそばを作らされていた。 「おかしい。時には里同士で奪い合い、開拓者憧れの上級人妖たる私が焼きそばを」 自問自答を繰り返す雪華の目と鼻の先では、主人の八十神が大声を張り上げている。 「あったかい食べ物やで〜、そこの兄さんお一つどうやろ〜、人妖雪華ちゃん自ら一生懸命になってつくった焼きそばもあるでぇ〜。売上の一部は恵まれない子供の寄付金に!」 等と言いつつ、人妖の作った焼きそばだけ、何故か二倍の値がついている。 「はー、売れた売れた。雪華、次まだか」 「もうちょっと待ってくださいよ! こっちは五時間もヘラを使いっぱなしなんですよ! 大体、売り方が微妙にあくどい! もっとこう人助け的な依頼受けましょうよ!?」 「なーに言っとんねん。寒空の下で食べる温かい料理が、どれほどありがたいか俺らは知っとる。デカい敵と戦うんも大事や。せやけど、こうして命を繋いでいくのも人助けやで」 「う……」 キラキラと輝く顔に二の句が告げない。追加を渡して渋々料理に戻る雪華に対して、半ば金の亡者と化した八十神は、勝手に人妖雪華を仮装させる契約を結んでいた。 過酷労働に嘆く者がいる一方、礼野 真夢紀(ia1144)の上級からくり、しらさぎは、礼野と作った豚汁をよそって、おにぎりとの抱き合わせ販売を淡々と繰り返す。生姜入りの甘酒や目覚まし用のテュルク・カフヴェスィも売れ行きが良い。 ちなみに隣にいない礼野本人は行列巡回中である。 ふいに人妖の桔梗が現れた。 「しらさぎ。甘酒を詰めた竹筒、妾が最後尾の方に持ってゆくぞ」 手持ちの木箱に、甘酒入り竹筒を詰め込んで持ち場の最後尾に戻る。 巡回警備員の中でひときわ目立つのは、まるごと虎さんを着た相川・勝一(ia0675)だった。相川は防寒の為に大真面目な格好をしているつもりだが、ファンシー且つアヴァンギャルドな見た目は、列の最後尾を誘導するのに、またとない適任者である。 鈴梅達は「最後尾は虎さんの場所です」と言えばいいだけだからだ。 「具合の悪い方〜、指先が動かない方はお近くの警備員に連絡を〜」 「なんじゃ、その間延びした声は。しゃきっと働かんか」 「あ、桔梗。遅いよ〜、後ろの人達が待ってる」 人妖の桔梗は「いま行く」と言って、せっせと働くが……その笑顔はどこか黒い。 「ほれ、お釣りじゃ。ささ、これでも飲んで温まるがよい。汝らは明日頑張らねばならぬのであろう? むしろ頑張ってくれねば困るでな、くくくっ……」 含み笑いに相川は、ぞわりと鳥肌が立った。 ところで人妖人気は根強く、六条 雪巳(ia0179)の人妖火ノ佳も客に群れられている。 「ええい、気安く触れるな! そなたを薪にしてしまうぞ!」 「きゃわゆい! もっと、もっとなじって!」 恐るべき思考回路だ。 こういう妄想と現実の狭間で暴走している人たちを、どうやって鎮めるかというと。 「シノビ、珠々です。タマじゃないのにゃ」 珠々(ia5322)が棒読みした後「さぁ約束です。おとなしく列へ戻ってください」と一般客を押し戻す。会いたくてたまらない開拓者本人が、条件と引き換えに希望のパフォーマンスをする提案はウケていた。八十神の人妖仮装契約も、これに似ている。 「キャン」 急に忍犬の風巻が吠えた。蹲って凍えてる人の匂いをフンフン嗅いで、鼻先でつんつん突っつく。危ない一般客だ。珠々が「どいてくださいね」と人を押しのけて救出に向かう。 夜が深くなるにつれて、寒さは加速していく。 柚乃(ia0638)も提灯南瓜クトゥルーとともに動けない人を発見していた。 「さっきからこの通りで」 柚乃が「分かりました。どうか静かに」と周囲のやじうまを押しやり、御鏡 雫(ib3793)が脈を測る。体温も低い。御鏡は素早く自前の毛布で要収容と判断した客を包む。 「救護所に運んだほうがいいわ」 「うう、ここの席だけは、順番だけは譲れないぃぃぃぃ」 「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう、全く。どんな催しだかは知らないけど、体を壊したら始まらないんだからね。養生しなよ」 意地でも居座ろうとする体調のよろしくない一般客を、御鏡が叱り飛ばす。一方の柚乃は「もふらさまを二体程お借りできれば……もふもふで暖められるのですけど。どうやって運びましょう」と周囲を見回す。そこへ荷車で物売りをしていた九竜がやってきた。 「九竜さーん、この人はこんでくださーい」 「いま行く」 「柚乃さん。私もこの人についていくから、後のことお願い」 「分かりました。お願いします」 その場に残った柚乃はアイアンウォールで強風方向に壁を作り始めた。 急遽設営された救護所には、巫女や魔術師、医学の心得を持つ者が忙しく働いている。 「ひぃ! な、何をなさるのですか! お尻を揉まないでください。私は女人ではありませんよ! さ、どいてください。お湯が通りまーす」 襷で袖をたくし上げ、火を炊いたり、お湯を沸かしたり、治療に奔走したり、何故か目の色を変えて追いすがる者達をいなしていた六条は、どこか心身共にやつれた様子で立ち止まり、冷たい風が遮られた大型天幕の中を見渡す。 「救護のお仕事とは伺いましたが……新年の初売りでも、ここまでされる方は見た事がありません。……『かたけっと』というのは、一体どんな物なのでしょう」 純朴な六条、怪しげな様子に首を傾げる。 「……徹夜組の気持ちは、わからないでもないけどね」 ボソ、と呟くのは治療役で救護所に入った音野寄 朔(ib9892)だ。 此処に働いているが、立派なさぁくるもかまえる『あっち側』の住人である。 「え?」 「なんでもないわ。まぁそうね。貴方は島ができてる有名人の部類だし、知らぬが花よ」 火種の術で冷めたぬるま湯を温める。一方、謎単語の乱舞に六条は悪寒が止まらない。 「そ、それは一体どういう」 「ひぎゃあああああああ!」 追求の手は、患者の悲鳴に遮られた。 まさに自業自得とも言うべき徹夜組の客に対して心底呆れていた菊池 志郎(ia5584)も、仕事は仕事としてきちんと手当を行う。主に凍傷の具合を確認し、赤くなったりたれた皮膚の患者は、からくり彩衣が沸かした風呂と同じ温度のお湯に患部を浸した。 「いたい! いただだだだ! 痛いって! いーやー!」 急激な解凍は痛みを伴う。逃げようとしても菊池は逃さない。 「我慢してください。大体、帰ったら原稿とやらがあるんでしょう。物を作ったり絵を描いたりする人達がそのために凍傷になるなんて、本末転倒じゃありませんか」 その様子を、見守る子供がからくりを見上げた。 「おかあさんの手、なおるー?」 「勿論ですとも。そうです。私、手袋を編みましたの。もしよろしければお貸ししますよ」 徹夜組には子連れや成人前の子供もいたりする為、からくりの彩衣はお茶や甘酒を渡しつつ、自作の手袋を貸したりして、上手にあやしていた。 「はい。あとの治療は隣で。次の方、どうぞー」 巫女の神風恩寵や恋慈手、魔術師のレ・リカルによる緊急手当ては、浮腫と水疱の症状が現れたりした中度以上の客に行う。 元も。 完全に治療すると、客は再び列で無茶を始める為、戒めを込めて『軽度』まで戻すだけだ。戒めを実感してもらうべく、温水による激痛地獄は通過儀礼状態である。 「いでぇぇええ! やだー! 痛いのはやだぁあぁぁ!」 「おまちなさい」 普段はおっとりな六条が新たな逃亡者を追う。 「そもそも、この天候の中、屋外で待つなんて自殺行為です。そんな薄着で死にかけたのは何処のどなたですか。無茶をすれば、次はないかもしれませんよ? いいから戻って」 輝ける笑顔の圧力。 「誰かー、隣の天幕の蝋燭、補充してください!」 響き渡る悲鳴と説教の中で、疲れた顔を仮面で隠すユウキ=アルセイフ(ib6332)は相棒を探した。 「ロード、いま手が離せないんだ。できれば向こうのロウソクの交換してきてくれる?」 提灯南瓜に一声投げると、ふよふよと飛んでいく。 「……今度は交換にいきましたね」 六条が見送り、アルセイフが苦笑を零す。 「ああ、うん。実を言うと、元々言う事を聞いてくれるかわからなかったんだけどね……流石に、忙しい空気はよんでくれたみたいだよ。はい、治療終わり。少し熱が出てるから、隣部屋の寝台で休んでね。案内は……」 「あたし暇だし連れてくよ」 「お願いしようか。この人妖について行って」 救護所には寝台や寝袋、毛布や薬箱などもアルセイフたちの努力で完備されていた。 数少ない寝台には勿論、病人がいる……はずなのだが。 「そこの子、こっちおいでよ。俺がハグして温めてあげるからさ?」 寝台の一つを陣取り、迷いもなく患者の少女を誘惑するジャミール・ライル(ic0451)……の頭を、病人を連れて来た人妖が木桶の角でひっぱたく。 「なにしてんのー! 働きなさいよ! っていうか、病人に場所を譲りなさい」 「痛って〜、……なんだ樹里ちゃんか。えー、だって俺、凍傷の手当とかできねぇし? できる事って言ったら、寒そうな女の子に俺の毛皮のマフラーを貸してあげるくらいかなって、一緒にもふもふとか。は、樹里ちゃんも俺に、あっためられに来たの?」 「雪空の下に放り出すわよ」 「じょーだん、冗談だって。んな怒ん無くてもいいじゃん。誰も使ってないから借りてただけだよ。はい、どうぞ。うー、さぶっ! なんかあったかいものお腹に入れるかな」 まかない用の温かい味噌汁を貰いに行ったライルが、天幕の外を覗く。 「あー、人、増えたね。皆、この寒いなか頑張るんだねぇ」 声につられて見たアルセイフも頷いた。 「本当だ。空も道も、息も真っ白。これから更に冷え込むかもしれないし、ある個数分だけだけど……起き上がれない人を中心に、寝袋の貸し出しも始めようかな。……ん?」 「急患でーす」 マシャエライトによる火の玉が、闇の中の九竜や御鏡たちを照らし出す。 患者の容態を見ようと荷台に乗った猫又の霰は、肉球で赤い手足を叩く。 「馬鹿じゃないの? んも〜、ちゃんと防寒しなさいよ!」 「そうね。霰が後で湯たんぽにでもなってあげれば?」 「ちょ、サクー!?」 相棒の抗議を無視した音野寄が、九竜達を振り返る。 「奥に運んで」 毛布で蓑虫状態の患者を運ぶと「じゃ、あと頼む」と言い残し、九竜が列の巡回と物売りに戻る。逆に救護所についた御鏡は七輪に炭を追加し、水入り薬缶を火にかけるなど、甲斐甲斐しく仕事に加わった。 「うう、私の、私の列が、昨日から並んだのに……」 往生際の悪い患者の扱いは、音野寄がよほど心得ていた。 「待って。気合いが入るのは分かるけれど、開始前に倒れてしまっては元も子もないわよ。無理はなさらないでくださいね。さぁ猫又であたたまって。もふもふしてると安らぐわ。引っ掻いたりしないから大丈夫よ。存分にどうぞ。ここで少し休んで狩りに備えないと。貴方は、どのジャンル目当てでいらしたのかしら? 当日は私も相棒中心さぁくるで参加していて……」 話に花が咲く。 「……朔ちゃん、すっげ」 手馴れた様子を遠巻きに見ていたライルが、ふいに「しらさぎちゃーん、こっちのお味噌汁とおにぎりもってっていいのー?」と、礼野のからくりに声を投げた。 「うん。まかないよう」 「んじゃ、もらってくー。倉庫でポワニカちゃんが一人で頑張ってるらしいから持ってく」 ライルはポワニカへ差し入れの為、姿を消した。 ところで。 「……という訳だったんだ」 第一の目撃者が語った後、沈黙が天幕を支配する。 時間交代故に裏天幕で休んでいた名高き開拓者達は、円を描いて座り、絶望していた。 見てはならない木像を見てしまった不幸な目撃者その二こと、弖志峰 直羽(ia1884)は言葉もなく真っ白に燃え尽きていた。 「あ、あんなハレンチな像を展示されては……アルフォレスタ家の名折れ!」 木像を目撃したその三ことマルカ・アルフォレスタ(ib4596)の尋常ではない動揺ぶりが、周囲に波紋を広げていく。 本人と瓜二つで破廉恥な格好だった、ときいたエルレーン(ib7455)は顔を赤くして激怒中だ。フェンリエッタ(ib0018)に至っては「ど、どうして体型が知られてるの」と困惑していた。体を毛布でくるんで隠してみるが、既に木像は倉庫で登場の時を待っている。 差し入れ用のおにぎりを作っていた秋桜(ia2482)も打ち震えていた。 怒りと羞恥心で。 「そんなものが陽の目を浴びたら、私は後ろ指を刺されてしまいます! 隠密が命たるシノビ生命の危機! あのジルベリアの貴族……いつぞやの仕返しのつもりですかァァァ」 脳裏に浮かぶ、輝く笑顔の憂汰さんが憎い。 同シノビの以心 伝助(ia9077)は忍犬柴丸を抱えて、死んだ魚の眼差しをしている。 「物凄ーく不本意っすが、薄くて邪悪な例の絵巻に対しては、大分耐性ついてきたと自分でも思ってたんす。ですが木像の件は、もうどこからツッコミ入れたらいいんすかね」 カタケ業界を布教の一環と捉えていたエルディン・バウアー(ib0066)も顔色が青い。 「あらぬ格好……、そのような木像が出回っては教会のイメージは元より権威失墜、間違いありません! 一体どうしたら!」 「そんなに悩むことか」 一方、全く動じていないどころか、歓迎の意を表すお気楽なラグナ・グラウシード(ib8459)が首をかしげた。 「しかし美しい私の彫像を欲しがるのはいいとして、何に使うのだろう……部屋飾り?」 ふいに魂がどこかに消えていた弖志峰は我に返った。 『は、そうだよ! 目を背けるな、俺!』 現実逃避はいつでもできる。しかし今ここで木像を闇に葬らねば、黒歴史を背負って生きる羽目になってしまうと気づいた。何に使われるかは、恐ろしくて考えたくない。 「あの彫像は、この世に存在してはいけないッ! 青ちゃんだって、そう思うだろ?!」 弖志峰が同意を求めた先には、何やら小難しい顔で色々と血迷った発想を巡らせていた御樹青嵐(ia1669)がいた。肩を揺すられて、こちらも我に返る。 「そうですね……確かに、邪なるものを、世に解き放つわけには参りません。少なくとも私は全力で阻止させて頂きます。奇襲は迅速を持ってよしとしましょう」 奇襲。 という物騒な単語が波紋を広げていった。バウアー達は覚悟を決めた。 「教会関係者や信者の目に触れる前に、破壊しましょう! 皆さん、参りますよ!」 「私も行く! 行くわよ、ウィナ!」 立ち上がったフェンリエッタは、少しだけ顔を知らない製作者こと芸術家の苦労を思う。 「うぅ……誰かが心血注いで生み出した作品を壊す事がどれ程の罪か、痛いくらい解るけど……これだけはダメ! 女の子の個人情報を売り飛ばすなんて言語道断よぉ!」 「何としても破壊しなければアルフォレスタ家の恥! お兄様に顔向けできませんわ!」 令嬢アルフォレスタ、武器を持って飛び出す。 以心も立ち上がる。 「うん、壊しやしょう。あっし達の心の中の何かが磨り減る前に」 もう磨り減ってますよね、と鈴梅は思ったが何も言わなかった。 様子を見守る人妖雪華は「こちらはギリギリ、木像に無かったのがせめてもの救いですね」と八十神に話しかける。 「せやなぁ。時間の問題な気もするんやけど、戻ろっか」 次々雪降る闇夜に消えていく開拓者たち。思い立ったらすぐ行動、を地で行く俊敏な動きだが、大移動はやはり目立つ。何か楽しいことが起こるのを待っていた鶯実が、列を離れて楽しそうに後を追う。そんな最後尾を追う提灯南瓜クトゥルーに「くぅちゃん。破壊、許可します」と命じて見送った柚乃は、何故か追わない鈴梅を振り返った。 「行かないの?」 「ひいなは、何も見てません。気にしない方が、平和に過ごせますし、もう慣れました」 達観した鈴梅の脳裏からは、如何わしい木像の存在が消し去られた。猛者だ。 一方、倉庫番のポワニカの所には、差し入れ組のライルと礼野が訪れていた。 「ポワニカちゃーん、差し入れ差し入れ」 「寒いなか、お一人の見張り、ご苦労様です〜」 少女にしか見えない年齢不詳の魔術師は「しゅまないでしゅね」と二人から食事を受け取る。礼野は「巡回のついでですから〜」と言いつつ、視線は木像へ泳ぐ。 「……これが噂の」 「なんか何処かで見たことある奴ばっかじゃん」 ふたり揃ってしげしげと眺める。 礼野は相棒とワンセットな自分の像を見て絶句した。 『……さしずめ帆立貝から美の女神誕生、って感じかしら。でも俗っぽいっていうか、まゆの場合は持ち主の人格が疑われそう。しらさぎの目に触れない為には買うしか……』 如何にして転売を防ぐか悩む礼野の隣で、ライルが首を傾げる。 「よーくできてるねぇ。胸や腰のラインとか、救護所でみたまんまだし、どうやったの?」 「よくぞ聞いてくれました!」 どばーん、と中扉から現れたのは厠帰りのリィムナ・ピサレット。 ピサレットは自慢げに胸を張り「大変だったんだよ〜、調べるの」と言い出した。 ライルが木像を指差す。 「え、なに、リィムナちゃん一枚噛んでるの?」 「あたしも情報提供したから」 きりりと絵師目線でポーズを決め、パッチリと片目を瞑って見せる。 「雇われ監修の一人ってとこかな〜。ほら、あたし働き者だからさ。憂汰さんがたっぷりお代くれるって言うから、最近ずっと裸を観察したり体型を測って協力してたんだよね」 何ィィィ、と声なき叫びをあげる扉の外の襲撃(予定)者たち。 「あたしも彫刻のモデルやったんだよ」 「いやいやいや」 そういう問題ではない。 「あ、誰か来た」 「お仕事ご苦労様ですわ。よろしければ甘い物でもいかがでしょう?」 差し入れを装うアルフォレスタは、気品のある態度を心がけつつ、目の前に広がる彫刻の群れに衝撃を受け、笑顔が凍りついていた。この隙に、鬼火玉の戒焔が接近しようとするが、ギャラリー改め、ライルや礼野、ピサレット達がいるのでバレバレだ。 辛抱強く、武器を手放す瞬間を待つ。 「……戒焔、今ですわ!」 アルフォレスタの合図で鬼火玉が激しい閃光を放つ。 「ぐ! 目が!」 「ぎゃああああ」 一緒に突入する手筈だった味方が、何人か目くらましの巻き添えになった。 「と、とにかく残ってる方だけでも探しますわよ!」 アルフォレスタ達が木像を探し始める。 単体の木造と抱合せの木像は置き場が違い、早々に目標の像を発見した御樹は絶句し、弖志峰は叫び声を上げた。 「ああぁぁ! あんなのお披露目されたら、お婿に行けない! 彼女に嫌われたらどーするんだよーっ! えい! せめてキズモノに! 青ちゃんも早く壊さないと!」 「わかってます! わかってますが……白嵐! お前、合体拒否するじゃありません!」 管狐は主人のあられもない姿を全世界に広めるべく、全力で力を貸そうとしない。 そして十秒で全てを探し出せるほど簡単な話ではなかった。 やがて視力を取り戻したポワニカに気づいて、弖志峰は力の歪みを放ったが、さほど負傷している節がなく、さらに暗影符を畳み掛けたが、御樹の術はまるで通じない。 回避力や抵抗力の格が違った。 「嘘だろ」 「流石は最強の侍女」 「やってくれましゅね! 逃がさぬでしゅ!」 もたつく内にアルフォレスタと鬼火玉、御樹と弖志峰。連続アムルリープに沈む。 そんな騒ぎを傍観する無数の目。 秋桜達は使われていない別の出口に回り、破錠術で潜入し、倉庫を覗き込んで慎重に様子を伺う。しかし木像百体の中から自分の像を探し出すのは至難だと悟った。 「なんと……高位開拓者が次々に撃沈していくとは」 「あー、十秒で四発……相変わらず流石でやんす。やっぱり一筋縄ではいかないっすねぇ」 血気盛んな仲間を囮にした以心は、恐るべき魔術師の交戦を見守る。敗退した仲間に合掌すると爆竹の用意をしつつ、目を凝らした。 「力で叶わぬ可能性が高いなら、交戦をさけるまでっす」 「さ、今のうちよ。ウィナお願い」 フェンリエッタの上級人妖ウィナフレッドは暗視で像を探し始めた。愉快犯の鶯実が「せっかく作ってもらった像を壊すのはもったいないですよ」と囁きかけるが、構っている暇はない。 影の者たちがこそこそと動き出す一方、ポワニカが暴徒の鎮圧を開始する。 「次はどこに……ん?」 視界を取り戻したグラウシードは自分の木像を見つけて感動していた。 「う、美しい……前からわかっていたことだが、なんと私は美しいのか! それに引き換え……ひどい洗濯板な胸だなエルレーン! ぎゃーははははは!」 「お、おんなのこの、そうゆー繊細なことっ……ゆるさないんだからぁぁぁ! 馬鹿ラグナァァァ! 松明で燃やしてやる! って体が動かな、あ!」 グラウシードと言い争ってる間に拘束され、松明はウインドカッターでズタズタになっていた。それでも勝ち誇った笑みをやめないグラウシードを見て、標的は打倒ポワニカから打倒グラウシード(とその木像)にシフトした。しかし戦の最中に目を離してはいけない。 二人仲良くアムルリープに沈む。 「縛り上げておきましゅか。他には」 見つけたエルディン・バウアーは口にするのも憚られる、■字■脚で■■な木像を前に、顔を覆って崩れていた。一応スケスケなカソック装束は来ているが、自分でもまじまじと見たことのない下半身も採寸に狂いがないように見える。 それゆえにバウアーは半狂乱であった。 「教会に! 教会に魔の手が!? 誰ですか私を観察してるのは! 私だって男なんですよ! 神に操を捧げても、性別まで変更できるわけじゃないんです! は! あんな卑猥な像を見られたからには目にした全員を殺さねば……おお神よ、聖戦を許したまへ」 ずし、と重いメイスを構える。 「ぎゃー! 落ち着けって。あっちの木像を先に破壊すればいいだけだろ!」 ライル巻き添えを避けるべく逃亡を開始。 そこにアムルリープを打ち込む化物並みの魔術師ポワニカ。 一方、影で蠢く何名かは己の像を発見していた。 衝突を放置した秋桜は、自分の像を発見して絶句。お仕着せのエプロンと足袋だけを纏い、苦無を持った木像は裸体に近く、淫乱度合いが半端ない……ように見えた。 「こんな、こんな破廉恥な木像を……! 私の清純な印象がぁあ!」 隣のフェンリエッタは昨年夏に着た水着姿の木像を見て「なっ……なっ……」と金魚よろしく口をぱくぱくさせている。個人情報ダダ漏れの現実と、今より幾分かプロポーションのいい木像に、深刻な心理的傷を負っていた。 「や、痩せたから……仕方ないもん……」 「いいじゃないっすか。普通で。あっしのアレは、なんで犬耳と首輪ついてるんすかね」 何故か犬耳と首輪をつけて四つん這いな以心の木像は異様に目立つ。いずれの像も、近づくのは至難の業だ。ある程度踏み出した途端、ムスタシュィルで感知された。 「そこでしゅ! ポイズンアロー!」 「きゃあぁぁあ!」 「ぐふっ、い、一般人だったらどうする気でやんすか! ポワニカさん!」 「生きてさえいれば回復するので問題ないでしゅ」 にべもない。 秋桜が必死に訴えた。 「ポワニカ様。貴族に振り回される貴女とは交戦する理由がないのです。……どうか!」 秋桜は最終手段に出た。シノビの奥義「夜」を駆使して時を駆け、暗視で目標物のみを狙う。 首、せめて首だけでも落とさねば! とマジ顔の秋桜は、清純とかけ離れている。 「柴丸! あの人と遊んで来るっすよ!」 忍犬が『あそんであそんでわっふわふ』と言わんばかりに走り出した。 きゅぅん、と。 心なしか年齢不詳な魔術師の瞳が輝いた気がした。 「もらったァァァ!」 以心もシノビの奥義「夜」と早駆で時を駆け、木像に迫る。雄叫びとともに下半身と上半身が割れた。フェンリエッタもまた恐るべき速度で刃を走らせ、木像を斬り捨てる。 「は、しまったでしゅ。ならば残りを実力で排除するまで! ピサレット!」 「はぁーい」 刹那、強敵ポワニカの抵抗力や魔法の威力が急激に引き上げられた。 「ギャー! 何やってんですかァァァ」 「ごめんねー、以心さん。あたし、しがない雇われ開拓者だから、少しは依頼主側に加勢しないと。あ、でも皆の気持ちもわかるから直接妨害はしないよ! 皆も頑張れ〜!」 情報売りさばいておいて、よく言う。 「さぁ、懺悔の時間でしゅよ?」 悪寒が止まらない。 結局、木像を完全破壊できたのは忍犬の生み出した隙に動いた、秋桜と以心、フェンリエッタの三名だった。弖志峰像、エルレーン像、グラウシード像は騒ぎで破損して商品価値が薄れて並級品になり、バウアー像に至っては会場の卑猥基準に接触するほどキワどく、そもそも販売禁止の倉庫返品基準であったそうな。 残る像は、推して知るべし。 「犬がお好きなんですか?」 自分の木像を純粋に見学に来た珠々は、ポワニカに温かい甘酒を差し出す。 倉庫から全開拓者が追い出され、出入り口が鉄の壁で覆われた為、もはや警戒が強く手出し不可能だ。 眠気の覚めた魔術師が、犬を眺める。 「元々愛玩する価値観など持ち合わせていなかったのでしゅが……名も無き君の『姉君』の所に同僚がいて、そこの犬が懐くので。つい。うう、平和ボケでしゅ……侍女失格でしゅ」 珠々は忍犬風巻を膝に乗せつつ「まぁ、あれだけの開拓者を相手に死守しているので充分ではないかと」と倉庫から放り出された高位開拓者たちの顔ぶれを思い浮かべつつ、自分の像を見上げて『おばあさまはおもしろがってくれるでしょうか』と別の考えを巡らせる。 救護所では笑顔のフェンリエッタが、ごっつい殲刀を使い、破壊された自分たちの木像をバキバキに割って薪にした為、仲間や徹夜組の一般客を震え上がらせていた。 雪がしんしんと降り積もる、開拓ケット前夜のことであった。 |