【修羅】此隅への攻撃
マスター名:安原太一
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/02/05 20:29



■オープニング本文

 神楽の都、開拓者ギルドにて。
 板張りの広間には机が置かれ、数え数十名の人々が椅子に腰掛けている。上座に座るのは開拓者ギルドの長、大伴定家(iz0038)だ。
「知っての通り、ここ最近、アヤカシの活動が活発化しておる」
 おもむろに切り出される議題。集まった面々は表情も変えず、続く言葉に耳を傾けた。
 アヤカシの活動が活発化し始めたのは、安須大祭が終わって後。天儀各地、とりわけ各国首都周辺でのアヤカシ目撃例が急増していた。アヤカシたちの意図は不明――いやそもそも組織だった攻撃なのかさえ解らない。
 何とも居心地の悪い話だった。
「さて、間近に迫った危機には対処せねばならぬが、物の怪どもの意図も探らねばならぬ。各国はゆめゆめ注意されたい」



 ――天儀本島武天国、王都、此隅。
 武天の王、巨勢王(iz0088)は、執務室で政務に当たっていた。武天は天儀本島最大のサムライ国家で圧倒的な国力を有しているが、さりとて国内には問題が山積している。巨勢王は家臣たちが提起する政策を検討し、数々の外交問題に対処していた。
 各国の首都近郊でここ最近目撃が頻発しているアヤカシには、巨勢王は大きな関心を寄せていた。情報を集め、アヤカシの動きを探らせていた。
 重大な事件が起こったのはそんなある日のことだった。重臣の一人が巨勢王のもとへ険しい顔でやって来る。
「陛下、緊急事態です」
「何事だ」
 巨勢王は読みかけの文を机に置く。
「山岳地帯からアヤカシの軍勢が出没。此隅の東部、直轄領の砦が襲撃され、陥落しました」
「何?」
「敵はアヤカシ数百。すでに東部の防備を破り、陸と空から直轄領内へ侵入しています」
 それが意味するところを巨勢王は瞬時に悟ったが。
「ふむ、ここへ来る気か」
「そのようです」
「なるほど‥‥だが、此隅は天儀本島で最大級の防備を備えた都市だ。その程度の兵力で東部の境界線を破ったところで、ここへは辿りつけん」
「では‥‥」
「分からん。まだ新手がいるのかも知れんし、何か他に目的があるのかも知れん。これほどの動きはまだ他国ではないが‥‥情報を集めろ」
「承知いたしました。――迎撃の指揮は誰に執らせますか」
「適任者がいる。つい先日まで激戦区にいた大宗院九門がよかろう。差し当たり兵200と龍の使用許可を出す」
「承知しました」

 そうして大宗院九門のもとへ直ちに勅命が届く。彼は先年まで鳳華と言う土地で龍安家の筆頭家老として戦地にあった。今は巨勢王直参の武将である。
「アヤカシの正確な総数は分からないのか」
 大宗院は、傍らの男に問うた。その男の名は青木正則。同じく鳳華で大宗院と戦場をともにした。彼もまた巨勢王直参の武将となっている。
「確かなところは不明だ。先行したシノビの偵察によれば、こちらの倍はいる可能性がある」
 直轄領東部の境界は森林地帯で、まだ正確な情報を掴むのは難しかった。大宗院は吐息して頷いた。
「いずれ、全滅させてやる。ここへの攻撃がどんな結果を招くか、奴らも思い知るだろう」
「大宗院、逃げ延びた兵士が敵の主格と交戦している。アヤカシには指揮官がいる。人語を話すが、姿は瘴気に包まれていて見てないそうだ。そいつの名は不厳王(iz0156)」
「不厳王‥‥指揮官がいるなら、そいつを撤退させれば敵も退く可能性が高いな。よし行くぞ」
 部隊は出立する。開拓者たちの姿も、その中にあった。

 直轄領東部森林地帯――。
 砦の残骸の中央で、莫大な光り輝く瘴気の渦が立ち上っていた。やがて、瘴気の渦が収まって行くと、その中心にいた人影が一歩踏み出してきた。ローブをまとった褐色肌の男だ。言うまでもなくアヤカシで、瘴気をまとっており、瞳は異様な光を帯びていた。
「さて‥‥いよいよ始まりだ」
 そのアヤカシ――不厳王が号令を下すと、死人の軍団は咆哮を上げて前進を開始した。


■参加者一覧
華御院 鬨(ia0351
22歳・男・志
焔 龍牙(ia0904
25歳・男・サ
玲璃(ia1114
17歳・男・吟
コルリス・フェネストラ(ia9657
19歳・女・弓
サーシャ(ia9980
16歳・女・騎
ロック・J・グリフィス(ib0293
25歳・男・騎
フィーネ・オレアリス(ib0409
20歳・女・騎
百々架(ib2570
17歳・女・志


■リプレイ本文

「ほんと、アヤカシは何でこんなにいるんどす? ゴキブリより繁殖力あるど〜す!」
 華御院 鬨(ia0351)は、明るく言って、場を和まそうとした。今回は例によって魔法少女風の演技をしており、外見は可愛らしいものだった。
「鳳華での戦いに決着をつけてもまだ湧いてくるか!」
 焔 龍牙(ia0904)は言って、拳を打ち合わせた。実を言えば、ここから鳳華はそれほど遠くは無い。
「またしても敵は大軍ですか‥‥お味方の負傷は可能な限り私が回復します」
 玲璃(ia1114)はそう言うと、思案顔で戦場の方角を見やる。
「それにしても嫌なものですね。ここ最近のアヤカシの動きは‥‥何か不気味なものを感じます」
 コルリス・フェネストラ(ia9657)の言葉に、サーシャ(ia9980)は頷いた。
「確かにそれは言えるかもしれません。これまでの合戦もありますし、もう何が起こっても驚きはしませんが、悪いことが進行中ならば、食い止めたいところですね」
「確か総大将がいるんだったな? 不厳王(iz0156)とか言う奴だそうだが」
 ロック・J・グリフィス(ib0293)の言葉に、武天軍の大将である大宗院九門が姿を見せた。
「ああそうだ」
「よお、御大将。大宗院か。不厳王って奴だが、厄介そうか」
「まだ何とも言えん。だが、私の経験から言って、これだけの大軍を率いるアヤカシの将は上位の存在だろう」
「上位ねえ‥‥」
「陰に潜んでいた者たちが次々と蜂起しているような嫌な感じです。それでも守り抜くしかありません」
 フィーネ・オレアリス(ib0409)が言うと、百々架(ib2570)の瞳がきらーんと光る。
「不厳王って何処かで聞いた事があると思ったら確か師匠の‥‥これは実際に会って確かめてみるしかないわね。さあ、行くわよ千夜叉! ガンガンお〜!」
「ま、面白そうな戦いじゃねえか。きっちり暴れさせてもらうぜえ」
 百々架の相棒で猫又の千夜叉は、そう言って牙を剥いた。

 それから開拓者たちは、大宗院に連れられて軍議に加わった。
「敵は多数。いかにして迎え撃つか。まずは緒戦に掛かっているでしょう。奴らの狙いが王都への進軍なら、更に増援を送りこんで来る可能性は否定できませんが」
 サムライ大将らの言葉に大宗院は頷くと、開拓者たちにも発言を許した。
 焔は手を上げると、戦術について一案を述べた。
「サムライを空中班として鬨さんと俺、コルリスさんで80人預かる。二人1組で死骸化け鳥、龍骸骨に対応してもらう。目標は1組2体の退治だ」
 焔は言って、サムライ大将たちを見渡した。
「死人龍騎兵は俺達が片付ける。任せてくれ。死人龍騎兵を片付けたら、制空権を取得するため、死骸化け鳥、龍骸骨に対する攻撃を行う。制空権を確保し、地上への支援攻撃を行う。決して無理な戦い方はしないのが基本だ」
「制空権の確保は重要。一つ、開拓者に任せてみましょうか。その分我らは地上に集中する」
 サムライ大将の言葉に、大宗院は頷いた。
「あくまで一案ですが」と前置きしてコルリスは発言した。
 空戦時、二人一組となり一人が陽動で敵を格闘戦にひきずりこみ、もう一人が横撃する『機織り』戦法を提案する。
「その辺りの判断は適時交戦時に任せよう。必要があれば兵たちに説明を」
 アドバイスしたのは青木正則。コルリスはなじみ深い青木に軽くお辞儀した。
「では青木様、兵の一部をお借りします」
「ではうちもお二人の作戦に従うどす〜。先に空中戦をして、空中からの攻撃がなくなる様にするど〜す。戦闘はできるだけ、近接戦をして、地上からの攻撃をできない様に」
 玲璃は手を上げると、一同に軽く会釈した。
「それでは私は地上班に回り、味方陣営の後方に救護所を設置することをお許し頂きたく。味方兵のみなさんには、戦闘中に負傷した味方や龍を運んできて下さい。戦況に応じて救護所の位置を適した場所に移動できるよう駿龍の夏香と共におります」
「では玲璃には回復役を頼む」
 次に、サーシャが口を開いた。
「地上班は敵の片翼から順に攻め入り各個撃破。寡をもって衆を破る古典的戦法の再現と行きたい所ですが敵が分かれている訳ではありませんから只の包囲回避ですね。それでもやや少ない方の翼から落としに掛かり、勢いをつけ、その勢いで攻め落としてしまいましょう。頑張れば空中の人達が掃除を終えて助けてくれますから」
 続いて、ロックが思案顔で言った。
「進行ルートの地形はどうなっているんだ。敵右翼と左翼のうち、ルート上がより守り安い側に、防御柵等を立て時間を稼ぎ、X(クロスボーン)を駆って俺達はその反対側の翼から攻めさせて貰うとしよう」
「ここは全体的に森に覆われているが、右翼の方が守りやすいと思われる。まだ敵の数がどちらかと言えば小数と言うこともある。まあ、ほぼ均等なので微妙なところではあるが」
 サムライ大将が言って補足する。
 それからまたフィーネが手を上げた。
「私たち地上戦は敵の侵攻を足止めをしつつ、敵の航空戦力を殲滅して制空権を確保後に天と地から攻撃を加えて敵軍を壊滅を狙うといった感じになると思います」
 サムライ大将たちは頷いた。フィーネはそれから防衛策を持ちだした。
「地図を確認しておきたいのですが。廃砦や開けた土地の位置です」
「地図をここへ」
 大宗院は、卓上に地図を広げた。フィーネは頷くと、続けた。
「木を伐採して防柵を森の中に築き、土地の起伏を利用して塹壕や落とし穴を作り、防衛線を構築して、城郭のように少数の敵に対し此方が包囲攻撃をできるような工夫を施します。尚、龍やアーマーを使い敵の巨大戦力にも通じるような深めの穴や高めの防柵を用意します」
 そう言って、フィーネは地図上を指で辿りつつ、「ここから‥‥ここ、そしてこちらに向かって」と防衛線の位置取りを示した。
「戦闘の注意点とすれば森林などの遮蔽物を使い敵の航空戦力に狙われないようにしつつ、敵の射程兵器は土地の起伏と塹壕を上手く使い防いでいき消耗を防ぎます」
 フィーネの策は、サーシャとロックの意見をうまく取り入れた形のものだった。
「やれやれ、戦ってのも何かと面倒だな。何を手間取ってる」
「そう言わないの千夜叉」
 百々架はぶつくさと言う千夜叉に釘を差した。
「あたしは大きな作戦に異論はありません。地上班として敵の片翼から突撃。空への攻撃の可能性も考慮して地上の敵を片づけながら戦車撃破へと向かいますね」
「よし、それでは空は焔と華御院、コルリスに任せる。他の者たちは地上に集中して行こう」
 大宗院は言うと、立ち上がった。
「差し当たり、まずは防衛戦の構築だ。急ぐぞ。敵は待ってはくれん。これ以上奴らを近づけるわけにはいかん。出立だ――」

「よーし急げ! 突貫工事だ! 切り出した木は前に運べ! ここいら一帯に防護柵を敷く! そっちだ!」
 専門の技師が呼ばれ、兵士達に指示を出していく。
 龍も総動員され、次々と材木が運ばれて行く。
 アーマーを有しているサーシャとロック、フィーネらは、最前線で深い壕を掘り、高々と材木を積んで防護柵を張り巡らせていく。
「みんな集まってくれ! 壕はこの線上に沿って、南北に掘る。深さは出来るだけ深く。幅もできるだけ大きく。ここから始めよう。防護柵と並行して進める。よし取り掛かろう!」
 作業は急ピッチで進んでいく。技師の指示のもと、サムライたちは壕を掘り、防護柵を張り巡らせていく。

 ‥‥アヤカシ軍陣中。
 不厳王(iz0156)は豪奢な青いローブをまとっていて、褐色の肌をしたどこか冷たい印象を与える美しい青年の姿をしている。彼は前方を見やり、歩を進めて行く。
 その軍勢は咆哮を上げて、一帯を制圧しつつあった。
 そこへ、骸骨軍馬に乗った死人兵がやって来る。死人兵は人間には意味不明な大きな声で、何事かを不厳王に伝えた。
「そうか、連中が出てきたか。ここからが本番だが‥‥さて、計画がうまく運べば、ひと月以内に目的は達成できる。わしらが大々的に動いてやっているのだ。せめて計画ぐらいはうまく進めたいところではあるが、な」
 不厳王はそう呟くと、死人兵に鋭い唸り声を飛ばし、軍勢に前進するように伝える。
「ふふ‥‥差し当たり、目の前の人間どもと相対するとしようか。それも随分久しいわ‥‥」
 不厳王は歩き出した。

 アヤカシ軍が接近してくると、いよいよ戦闘が始まった。
「さあ壱華、出撃ど〜す!」
「行くぞ蒼隼!」
「応鳳、出発です」
 鬨と焔、コルリスらは、愛騎の龍を駆って、空に舞い上がった。
 80人のサムライ達も続々と空へ飛び立って行く。
 死骸化け鳥と龍骸骨は編隊を組んで接近してくる。
 武天軍も二人一組で攻撃に向かう。
 両軍上空で旋回しつつ、距離を保つと、タイミングを図るかのように動き始めた。
「敵の数は百程度と思われます、まず死人竜騎兵から倒しましょう」
 鏡弦を使っていたコルリスは焔と鬨に言った。
「了解したコルリスさん。奴らを引きずり出す。――来ないならこちらから弓で攻撃するまでだ! 全員弓で牽制してやれ! 可能なら撃ち落としてやれ!」
 焔はぐるぐると旋回すると、全軍に命令を下した。
「攻撃開始!」
 武天兵たちはホバリング状態で鞍上から次々と弓矢を発射した。直撃がアヤカシ達を襲う。怒りの咆哮が大気を震わせる。
 と、大将格の死人戦士が前進してくると、咆哮して化け鳥と龍骸骨に攻撃を命じた。
 アヤカシ達は散開すると、勢い前進してくる。
 鬨は針短剣に白梅香を使って「いっくよ、ホワイトプラムアロマ!」と魔法少女っぽく魔法を唱える感じに近接攻撃する。すれ違いざまに一撃で化け鳥を串刺し撃破した。
「浄化完了ど〜す! 壱華、そっちへ!」
 壱華はぐんと旋回して龍骸骨へ接近する。龍骸骨は加速して壱華を引き離す。
「今は魔法少女どすのに〜!」
 鬨は頬を膨らませてバーストガンに持ち替えると、白梅香で「ホワイトプラムアロマショット!」と一応魔法少女風に云って攻撃する。弾丸が龍骸骨を貫通して、一撃で浄化する。
「またまた浄化完了ど〜す!」
 そこへ死人龍騎兵が切り掛かって来る。
「壱華!」
 鬨はタイミングを合わせると、死人の刀を弾き返した。
「大将格どすな! 臨むところ!」
 死人兵は旋回して撃ち掛かって来る。
 壱華は激突して龍骸骨を弾き飛ばした。すかさず鬨が一撃を叩き込む。
「ホワイトプラムアロマ!」
 死人兵の胴体が吹っ飛んだ。
 一撃、二撃と弾いて、鬨は死人兵を串刺しにして止めを差した。
「は〜い! 浄化完了ど〜す!」
 焔は一撃離脱で確実に化け鳥と龍骸骨を落として行く。蒼隼と連携して、太刀と弓を使い分けた。
「蒼隼!」
 焔は弓を構えながら急降下し、死人龍騎兵に接近。
「蒼隼! 翼と騎兵を狙うぞ!」
 蒼隼のソニックブームが死人騎兵を直撃。
「俺達の息の合ったコンビネーション攻撃を受けきれるか!」
 そのまま加速した焔は、矢を叩き込み、太刀に持ち替えた。
 死人龍騎兵は咆哮して回頭した。
 激突――!
 焔の炎魂縛武が死人戦士を捉えた。死人戦士は反撃の一撃を繰り出すが、焔は受け止めた。
 蒼隼と龍骸骨は互いに激突。蒼隼の爪が龍骸骨を切り裂く。
 焔は裂帛の気合とともに太刀「阿修羅」によるスキル「白梅香」を使った一撃を放つ。
「潔く瘴気に戻れ! そして二度と現れるな!」
 浄化の一撃が死人騎兵を貫く。崩れ落ちて瘴気に還る死人戦士。そのまま龍骸骨は叩き斬った。
「そちらへよろしくお願いします――」
 コルリスが指揮する一隊は、機織り戦法でアヤカシを引き付け、撃破して行く。
 前進したコルリスは化け鳥に接近して行くと、矢を放った。
「応鳳、来ますよ。駿龍の翼です」
 応鳳は回避姿勢を取ると、化け鳥の突進を反転して回避した。
「よし! これでも食らえ!」
 横撃役のサムライが加速して、化け鳥に突進する。一撃が化け鳥を捉え、真っ二つに切り裂いた。
「続いて攻撃です」
「コルリス殿、合わせるぞ!」
 二人は旋回して、今度はサムライが陽動に回った。加速するサムライは、龍骸骨の側面から矢を叩き込んだ。
 そこへコルリスが突進。
「応鳳、高速飛行――」
 加速する応鳳。一気に敵との距離を縮める。
「空蝉!」
 コルリスの一撃がアヤカシを貫く。安息流騎射術+朧月の合成射撃技で龍骸骨を撃ち抜いた。
 そこで死人竜騎兵が突進してくる。
 コルリスは応鳳を駆り高速移動と駿龍の翼を命じ、敵の攻撃をかわしつつ射程距離まで接近。
「空蝉!」
 味方と連携して死人龍騎兵を撃ち抜き、攻撃を叩き込んでいく。

「上空はまだ予断を許さないようですが‥‥」
 サーシャはアーマーの中から空を振り仰いだ。防衛線の前に続々とアヤカシたちが出現する。
 敵の巨大戦力が突進し、一部の防護柵を突き破った。
「まずは持ち堪えないと、行きますよミタール・プラーチィ」
 サーシャは陣地から打って出た。ミタール・プラーチィを前進させ、死人戦士たちを薙ぎ倒す。
 死人戦士らは群がって来るが、サーシャはミタール・プラーチィのクラッシュブレードでアヤカシを粉砕して行く。
 と、巨大な影がミタール・プラーチィの前に現れる。がしゃ髑髏だ。巨大骸骨は、鉄球を振り下ろした。
 ミタール・プラーチィはその一撃を盾で受け止めた。衝撃が来るが、サーシャは落ち着いていた。目を開いて、剣を髑髏の足に叩き込む。巨大な脚をへし折る。がしゃ髑髏はゆっくりと崩れ落ちて行く。
 倒れたところへ、アーマーを前進させる。がしゃ髑髏は咆哮して暴れたが、サーシャはアーマーの長大な剣を何度も振り下ろした。遂にがしゃ髑髏は崩れ落ちて、瘴気となって消失した。
「ふう‥‥さすがに難関ですね。空からの支援が必要」
 ロックもアーマー、クロスボーンで前進した。
「行くぞっ、俺達の手で人々を守る為にも、この旗の元に続けっ」
 ランスで天を突き、ロックは味方を鼓舞して陣を出た。
 鋼剛雷衣を発動させ、その轟音で敵を威圧すると共に味方を鼓舞、怯んだ所を一気に襲いかかる。
「このオーラの輝きが、アヤカシの剣を打ち砕く、行くぞっ!」
 サムライ衆に死人兵は任せ、ロックは主に上級死人戦士や大物を狙っていく。敵の前面を薙ぎ払い、大物を探す。死人兵を槍で次々と粉砕して行く。
 と、骸骨軍馬に乗った上級死人戦士は、ロックのクロスボーンに突進してくる。
「おいでなすったか。行けクロスボーン!」
 骸骨軍馬を一撃で粉砕するクロスボーン。死人戦士は転がり落ちたが、跳ね起きて飛びかかってくる。ロックは盾で死人戦士の刀を弾き返すと、槍で突き飛ばした。アーマーで圧倒するロック。死人戦士を葬り去る。
 続いて、がしゃ髑髏をサーシャとともに撃破する。
「俺がカバーする、周囲の敵は任せろっ」
 サーシャの半月薙ぎをフォローする。
 フィーネもアーマー、ロートリッターで出撃する。武天軍は防備を生かし、散開しつつ接近してくる敵の各個撃破を狙う。全てを受け止めることは出来ないが、それでもアヤカシ軍の多くを分断した。
 瘴気砲で攻撃を開始する竜頭骸骨戦車に接近して行くフィーネ。地形の起伏で足止めすると、横腹を衝いてその転倒を試みる。戦車を操る骸骨は、咆哮してロートリッターを弾き飛ばそうとするが、フィーネはクラッシュブレードを強引に振るって、戦車を思い切り転がした。横転する戦車に、サムライたちが一斉攻撃を浴びせかける。
 死人兵をなぎ倒しつつ、ガードで防御を固め、戦車に迫激突で突進する。裂帛の気合とともに、戦車を転倒させ、撃破して行く。
 百々架はサムライたちと連携して、死人兵を撃破して行く。
「サムライさん達は死人兵の相手をお願いします! 特に弓使いの討伐を早急に」
 死人兵にはレイピアで突いて、ルーンソードで切り裂く。
「遅い! あなたの速さはそんなものなの‥‥? ♪」
 千夜叉は死人兵の周りを巧みに飛び交い、百々架を支援する。
「けっ! 発火さえ使えりゃこんな奴ら一撃で‥‥次回は大暴れさせてくれや、ご主人様よォォォッッ!!」
 閃光で支援すると、千夜叉はいやらしい笑みを浮かべて百々架の前にいる死人に鎌鼬を叩き込む。
「百々架! そこ退かねぇとそのスカートまで切り刻んじまうぞ〜?」
「そんなことしたら後悔するわよ千夜叉っ」
「へっ、言ってくれるね、おれを脅す気か百々架! どけ!」
 言いつつ千夜叉は飛びすさった。呼吸を合わせて百々架も飛ぶ。千夜叉は鎌鼬を叩き込む。続いて加速すると、百々架とともに死人兵を叩き潰した。

 後方で救護所を設置していた玲璃は、激しさを増す戦闘にあって、精霊の唄での回復に当たっていた。
「玲璃殿――! 負傷者を運んで来た! どうすればよいか」
「私の周りへ集めて下さい。適時回復して行きます」
「お願いしますぞ!」
 玲璃は練力の続く限り精霊の唄を歌い続けた。
 戦場に巫女は玲璃一人。回復は完璧とまではいかないが、とにかく出来ることをした。
「よし、傷が塞がっていく」
「助かりました玲璃様」
「みなさん、お気をつけて。まだ戦いは激しくなっていくようです」
 玲璃は状況を確認しつつ、前線の動きにも注意を払っていた。
 いつでも瘴気攻撃に対応するつもりでもあったが、不厳王はまだ出現していなかった。
 そうして――。
 玲璃は上空の戦況の変化を確認する。武天軍が空のアヤカシを撃退しつつあり、味方は次々と地上へ降りてくる。
 ――上空のアヤカシを撃破した鬨と焔、コルリスらは、地上の支援に回る。空の武天軍もほとんどが地上に降りて、防備を突破しようと前進してくるアヤカシ軍の迎撃に回っていく。
「どうやら味方も攻勢に転じるようですね。行きましょうか夏香」
 玲璃は龍の夏香を駆って前線に出る。駿龍の翼や高速移動を命じて敵軍の攻撃をかわしつつ、味方の負傷者や負傷した龍を探索。治療を施して、また移動する。
 下りてきた空中班とも合流。負傷者や負傷した龍の治療に当たる。それからも玲璃は夏香を駆って戦場を移動し、精霊の唄による回復を地道に続ける。

 戦場に莫大な瘴気の塊が前進してきたのは、アヤカシ軍が崩壊しつつある時だった。やがて、瘴気が晴れて、中から人が姿を見せると、開拓者たちはそれを確認する。
「あれが不厳王どすか〜」
 鬨は副兵装を霊杖「コノハナ」にして相手に魔法使いだと思わせておいて、隙を作らせて近接戦を試みる。
「君が不厳王ど〜すか? 君はどうしてここを狙うど〜すか?」
 意外なことに、不厳王はまともに答えた。
「現在天儀各地で計画が進行中だ。そうだ、知ったところでもはや、手遅れだがな武天軍」
 言いつつ、不厳王は焔が放った白梅香の矢を軽く手を上げて障壁で弾いた。コルリスの矢も障壁に弾かれる。
「お前が総大将か、ならばその身討たせて貰う‥‥ロック・J・グリフィス、X参る!」
 ロックはアーマーで突進した。鉄鎖腕砲で盾を持った左腕を飛ばし、そのまま、迫激突で飛ばした盾を追い、追い抜く勢いでランスチャージを仕掛ける。
「軍団と共に魔の森へ帰れ‥‥スカルクラッシュトルネード!」
 しかし、不厳王はランスチャージを受けた瞬間消失して、少し離れた場所に出現した。
「何だ今のは‥‥」
「勢いづくな武天軍。まだ始まったばかりだぞ。巨勢王に伝えておけ。此隅は確かに難攻不落だが、それは我々の計画を阻むものではないと」
 不厳王はそう言って、冷たい笑みを浮かべた。
「師匠の話だと不厳王ってアヤカシは陽気なお爺さんみたいな感じって言ってたけど‥‥言われてみればそうかもしれないわね。夢の中の話らしいけど」
 百々架は微笑みを浮かべた。尤も目の前の不厳王は若い。二十代後半の容姿端麗な男と言ったところだ。
 そうして、不厳王は束の間の接触を保って、撤退した。フラッシュを放つと、一瞬にして姿を消した。
 それからアヤカシ軍は防衛線から後退したのであった。