【天龍】竜神の猛攻
マスター名:安原太一
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/10/12 21:09



■オープニング本文

 天儀本島武天国、龍安家の治める土地、鳳華――。
 急激に激しさを増していく戦闘。力を増し、強固になっていく鳳華の七魔将たち――。
 龍安軍を脅かす要素は急激に巨大なものになっていた。最前線では、龍安家の頭首、龍安弘秀が、アヤカシ軍の総大将と思われる魔将、在天奉閻の軍勢と交戦状態にあった‥‥。

「撃て!」
 龍安武将の青木正則は、右翼で防御陣を敷いて、アヤカシ兵の突進を食い止めていた。兵士たちが矢を解き放つと、ばたばたとアヤカシの群れが瘴気と化して消失していく。
「青木様! アヤカシの攻勢は無尽蔵です! これ以上は持ち堪えられません!」
 サムライ大将が額から血を流しながら駆けつける。
「踏みとどまれ! 必ず援軍は来る!」
「撤退しましょう! もはや――」
「撤退はしない! ここで我々が崩れれば、一気に突破を許す!」
「これ以上は無理です!」
「助けは来る! 諦めるな! 我々の後ろには、無傷の里が広がっていることを忘れるな! そこには無防備な民がいるのだ!」
「青木様‥‥」
「行け、我々はここを支える。助けは必ず来る」
 普段の寡黙な青木を知るサムライ大将は、言葉を飲んだ。

「――お屋形様!」
 筆頭家老の大宗院九門が龍安弘秀のもとへ駆けつけてくる。
「どうした!」
 弘秀は自身も前線に出て指揮を取っていた。
「青木の部隊が激しい攻撃を受けております! もはや持ち堪えるのは不可能かと思われます! このままでは突破を許します!」
「分かった! では俺が行く! お前はここの指揮を取れ!」
「お屋形様自ら? 危険すぎます!」
「何か良い策はあるか」
「私が行きます」
「いや駄目だ。お前にはもしもの時に備えてもらわねばならん。言ったはずだ大宗院」
「首都で待つ奥方から、あなたをお守りせよと命じられた」
「ここで押し問答をするつもりはない。どこか一つでも抜かれれば、それどころではない」
「お屋形様!」
「大宗院! 俺たちは退くわけにはいかんのだ!」
「‥‥分かりました‥‥。ではせめて開拓者をお連れ下さい。私は中央を固めます。左翼は沢村に託します」
「頼む」
 そこへ、上空から戦況を見ていたシノビが舞い降りてくる。
「お屋形様――」
「どうした」
「右翼に在天奉閻が出現、左翼と中央に巨人兵が向かっております」
「そうか。引き続き戦況を知らせてくれ」
 そして、弘秀は開拓者たちを顧みた。
「今聞いた通りだ。状況は厳しいものだが、在天奉閻を食い止めねばならん。力を貸してくれ」
 大宗院も、開拓者たちに言葉を投げた。
「お屋形様を頼む――」
 そうして、いよいよ激戦の幕は上がろうとしていた。


■参加者一覧
鈴梅雛(ia0116
12歳・女・巫
華御院 鬨(ia0351
22歳・男・志
焔 龍牙(ia0904
25歳・男・サ
輝夜(ia1150
15歳・女・サ
滝月 玲(ia1409
19歳・男・シ
鷹碕 渉(ia9100
14歳・男・サ
コルリス・フェネストラ(ia9657
19歳・女・弓
ジルベール・ダリエ(ia9952
27歳・男・志
小(ib0897
15歳・男・サ
高瀬 凛(ib4282
19歳・女・志


■リプレイ本文

「ひいなを庇って、栗原様が‥‥」
 鈴梅雛(ia0116)は小さな胸に手を当てる。喪失感が襲ってくる。龍安武将栗原玄海は、先の戦で雛を庇って死んだ。
「ひいなは、これ以上誰かが死んでしまうのは嫌です。何があろうと、青木様を助けたいです。龍安様も、どうか無茶はなさらないで下さい」
 雛は、龍安弘秀のもとへ赴くと、真摯なまなざしでその若き龍安家の頭首を見上げた。
「栗原のことは残念だった‥‥。俺もこんな時でなかったら、打ちのめされているだろう。お前の気持ちはよく分かる」
「龍安様の身にもしものことがあったら、家は大きな柱を失います。それはアヤカシにとっては望むところでしょう。どうか、龍安様は、無理はなさらぬように」
「雛、とにかくも、今は目の前の戦を切り抜けるしかない。俺も青木を失うわけにはいかんのだ」
 華御院 鬨(ia0351)は、戦に臨んで、凛とした眼差しを戦場に向けていた。普段から女形をしていて、常に修行のために女装し、そこいらの女性よりも女性らしい雰囲気を醸し出している。今回は戦う気高いお嬢様を演じている。
「前回は失敗しやしたが、今回はうちがいやすんで問題ないどすわ」
 と前回もいたのに気高い発言をする。その表情は演技だとしても高貴な自信に満ち溢れていた。
「弘秀様――」
 龍安家臣の焔 龍牙(ia0904)は、弘秀に歩み寄った。
「在天奉閻は弘秀様を見つけると必ず攻撃して来るでしょう。無茶な戦闘は出来るだけ控えてください」
 と弘秀に進言する。
「進言は有り難い。出来ることなら在天奉閻はこの手で討ち取ってやりたいところだが――」
「いけません! 在天奉閻との戦闘は部下にお任せ下さい! 弘秀様は全軍の総大将なのですよ」
「俺も機会を窺う。みすみす飛び込んだりはせん」
 それから、滝月 玲(ia1409)と鬨らと、打ち合せをしておく。
「在天奉閻はあの金縛り攻撃が厄介だ。あの術を使い始めたら、友軍には距離を保ってもらわないと」
「そうどすな。あの妖術を仕掛けてきたら、全員退避、遠距離攻撃に切り替えるのがよろしいでしょう」
「術の切れ目を縫って、波状攻撃を仕掛けることが出来れば、あるいは機会があるかもしれない」
 滝月の言葉に、思案顔で頷く鬨と焔。
「在天奉閻とて完璧じゃあないはず‥‥弱点を見つけ出せれば‥‥」
 それから滝月は、弘秀のもとへ向かうと、先の戦で栗原を死なせてしまったことを詫びる。
「侯太天鬼を止めることもかなわず、ただ栗原様だけを死なせてしまいました。真に、申し訳ありませんでした。俺たちがいながら、みすみす侯太天鬼を逃すとは‥‥」
「それを聞けば、栗原も安堵することだろう。滝月、力を貸してくれ。栗原は逝ってしまったが、老将の魂は俺たちとともにある」
「弘秀様、この戦、必ず終わらせてみせます」
 そんな様子を見やりながら、輝夜(ia1150)はぽつりと呟いた。
「さて、前回の雪辱戦と行くかの」
 輝夜にも思うところはある。先の戦で在天奉閻にぼろぼろにされたことは、記憶に残っていた。あの竜神の顔を間近で見た輝夜は、今回はあの顔に土をつけてやろうと密かに闘志を昂ぶらせていた。
「たとえ竜(神)ですら一刀両断に出来る(かも知れない)刀、それが斬竜刀じゃ」
 輝夜が刀を持ち上げると、鷹碕 渉(ia9100)が口を開いた。
「斬竜刀「天墜」――全長234cm。神楽の都に工房を構える、朱藩出身の女性刀工「青葉朱雛」が打った斬馬刀より数段強力な野太刀。非常識なくらい長大な刀身を備え、柄だけで60cm近い長さがある。天翔ける竜を叩き落とさんとの意気を込めて「天墜」と名づけられており、刀として扱うには高い技量が求められるが、高い攻撃力を発揮する。どうやら、貴公のそれは、滝月殿のものより鍛えられているようですね」
 すらすらと言葉が出てくる。輝夜は首を傾けた。
「詳しいの鷹碕。刀剣の専門家か?」
「そんなところだ‥‥‥‥‥‥いずれにしてもこの戦、まだまだ未熟者だが‥‥‥‥‥‥死力を尽くさせてもらおう」
「弘秀様――」
 龍安家臣のコルリス・フェネストラ(ia9657)は弘秀に近づき、お辞儀する。
「このたびもよろしくお願いいたします。私からも申し上げますが、無理はなさらぬように。士気に響きます」
「たびたび耳が痛い」
「それはともかく、私に弓術士と陰陽師の指揮を任せて頂くことは可能でしょうか」
「策でもあるのか」
「お味方を遠距離から支援する際に、一斉に攻撃することが出来れば、より効果も増すかと」
「分かった任せる。まずは、青木の救出に当たってくれ」
「承知いたしました」
 弓術士のジルベール(ia9952)。ジルべリア出身の開拓者だ。戦場を見渡し一息つく。
「20年もアヤカシと戦い続けてる土地か‥‥えらいトコに来てしもたなぁ。しかし俺らの後ろに沢山の命があるんなら、腹括るしかないわな」
 それから、龍安軍に頼んで鏑矢を複数本用意してもらう。
 兵に対しても声を掛ける。
「死んでしもたら、あんたらの大事な人や場所に対して、今後何一つ出来る事はなくなる。そやから石にかじりついてでも死んだらアカンで。この土地の未来の為にな」
 それから服の下、首に下げたお守りを掴み一瞬祈る。お守りは妻が作ってくれたものだ。
「まあ、やれるところまでやるだけだぜ」
 小(ib0897)は、ジルベールの様子を見やり、声を掛けた。
「よおジルベールさん、何とか、生きて帰りたいもんだな。初めてここへ来たのに、あんな言葉を兵士たちに掛けるなんてな。おいらにはちと真似できないね。おいらは他人のことまで考える気にはなれねえな。こんな戦場で‥‥」
「小はん、俺も自分のことで精一杯やけど、龍安軍の兵士たちはともに戦う仲間や。俺たちは一人では戦えませんからね」
「そいつはごもっともだがなあ」
 言って、小は肩をすくめる。
「戦場の空気‥‥高瀬 凛、参る!」
 高瀬 凛(ib4282)は気合を入れて、雛に歩み寄った。
「鈴梅殿、某がお供致します。青木殿を救いに行かれるのでしょう」
「凛さん、よろしくお願いします。ひいなだけでは、青木様のもとへ辿りつけないかも」
「お任せを。天儀王朝に仇名すアヤカシは、雛殿に指一本触れさせません。某が命を賭して守ります」
「凛さん、でも、みんなで生きて帰りましょう。誰も失いたくはありません」
「承知。アヤカシ軍を倒すまで、某も討ち死にするつもりはありませぬ」
 そうして、龍安弘秀と開拓者たちは援軍を率いて、青木正則の救出に、在天奉閻の迎撃に向かう。

 ぼろぼろに崩れた陣の奥で、青木正則は兵士たちとともにいた。
「青木様! 援軍が来ました! お屋形様が兵を率いて、我々を助けに!」
 サムライ大将が駆けこんで来ると、青木は頷いた。
「よし、お屋形様が到着するまで、あと一息、持ち堪えるぞ。全軍にお屋形様の援軍が来たことを知らせてくれ」
「はっ!」
「青木様!」
 そこへまた別の兵士が飛び込んで来る。
「在天奉閻軍、勢い前進してきます! このままでは我が方は崩壊してしまいます!」
「お屋形様が来られた。在天奉閻を押し返す」
「で、ですが、敵の数は無尽蔵に等しい――」
「持ち堪えろ。お屋形様と合流すれば態勢を立て直すことは出来る――」
 と、上空から無数の矢が降り注いでくる。
 どかかかかかか! と兵士たちの体に矢が突き刺さる。
「ちっ」
 青木は矢を引き抜くと、前方に展開する圧倒的な敵軍を確認した。

「急ぎましょう。敵の攻撃は激しくなっているようです」
 雛は数人の巫女と高瀬とともに、青木のもとへ急いだ。前線は混沌としている。あちこちからアヤカシの咆哮が聞こえてくる。
 そうして――雛は崩壊しつつある戦線で刀を振るう青木の姿を確認する。
「青木様――」
 雛は駆け出した。
 高瀬は油断なく周囲を見渡す。
 ――ガオオオオオオオオ! 突撃してくるアヤカシ兵を高瀬は真っ二つに叩き斬った。
「青木様、青木様、ご無事ですか」
「む――?」
 青木は傷だらけの体で振り返った。近くで見ると鎧はぼろぼになっている。
「お前は鈴梅――」
「青木様、龍安弘秀様が駆けつけられました。今は無理をなさらず、いったん後退して下さい。兵士のみなさんも、まずは治療を受けて下さい。ここで無理をすれば後に障ります」
「分かった。お前たちが来たと言うことは、もう十分に態勢は整ったか。俺もいったん後退してお屋形様と合流しよう」
「お願いします」
 青木は最前線の兵たちを後退させると、雛たちとともに撤退する。

「龍安軍‥‥増援が来たか‥‥」
 在天奉閻は、後退する龍安兵を確認して、咆哮した。
『全軍突撃せよ! 立ちふさがる人間は叩き潰せ! 勝ち鬨だ!』
 在天奉閻の声は咆哮だが、おおよそそういう意味のことをアヤカシたちに向かって叩きつけた。
 ――ガオオオオオオオ! アヤカシ達の歓喜の咆哮が轟く。

「在天奉閻、先陣を切ってアヤカシ軍が総攻撃に転じてきます」
 家臣の報告に、龍安弘秀は頷く。
「青木、大丈夫か」
「ありがとうございますお屋形様‥‥」
「よし、我が軍も反転攻勢に出るぞ! 在天奉閻を迎え撃つ! アヤカシどもを通すな!」
 開拓者たちも抜刀して最前線に出る。
「行くぞ在天奉閻! ここで貴様の息の根を止める!」
 焔は鬨と滝月とともに加速した。
「地帯攻撃開始!」
 コルリスは指示を飛ばして、弓術士たちが攻撃を開始する。
「俺は奴の死角を突く」
 滝月は側面に回り込み、在天奉閻の死角から仕掛ける。
「気をつけろ。あ奴の妖術に掛かったら被害が馬鹿にならんぞ」
 輝夜は兵士たちに在天奉閻の術の脅威を伝えておく。
 ジルベールは在天奉閻の弱点になりそうな場所‥‥人間の急所に当たる場所へ攻撃を行っていた。
「踏み込むぞ! 一撃離脱で行くぜ!」
 小は突撃して在天奉閻に切り掛かった。
「そう簡単に通すほど、おいらもふぬけてねえぜ!」
 小の剣が直撃するも、在天奉閻は小揺るぎもせずに腕を一振りした。
 何もない空間から瞬時に光が湧き出し、閃光が小を捕えた。
「ど‥‥! わああああ!」
 閃光が爆発して、小は吹き飛ばされた。
「行け行け! 一撃離脱でしかけろ! 全員が奴の術の範囲に入らなければいい!」
 焔はサムライたちに指示を出し、開拓者たちも波状攻撃を敢行する。
 在天奉閻は攻撃を受け止めつつ、適度に反撃してくる。後退するそぶりを見せる。
「気をつけて下さい。こちらを引き付けるつもりかも知れません」
 雛は言って、出過ぎる兵士たちを押さえる。
「波状攻撃は一応有効そうどすが、決め手にはならんようどすな。誰かが踏み込んで隙を作らないと――うちが出ます」
 鬨はするすると在天奉閻の間合いに入り、打ち掛かっていく。
 と、在天奉閻がすっと腕を持ち上げ、禍々しい響きのする呪文を唱え始めた。
「くっ‥‥これが」
 鬨は耳を塞いだが、呪文は問答無用で聞こえてくる。
「今や!」
 ジルベールは、先即封+鏑矢の一撃を解き放つ。大気を震わせる音が在天奉閻の声を一瞬かき消す。
「今じゃ」
 輝夜は加速して切り掛かった。並みのアヤカシを一撃で打ち砕く攻撃が在天奉閻を捕える――かに見えた。
「ぬっ‥‥!」
 しかし、鏑矢の音響にも関係なく、輝夜の脳裏に在天奉閻の声が響いてくる。
 鬨と輝夜は動きを封じられて固まった。
「何だ。二人の様子がおかしい‥‥」
 焔は在天奉閻が続けて呪文を唱えていることを確認して、呪縛の術が効いていると推測した。
「鏑矢が効かへんのですか‥‥」
「ならば、射程外から攻撃するまでです。強制的に在天奉閻の呪文を解除します」
 コルリスは腕を振り下ろし、陰陽師と弓術士たちに集中砲火を命じる。
 多数の式と矢が在天奉閻に叩きつけられる。
 それらを受け止め、在天奉閻は呪文の詠唱をやめると、ゆっくりと歩き出した。腕を持ち上げ、光線で輝夜と鬨を討ち倒していく。
 と、そこへ側面から、鷹碕が突貫していく。
「在天奉閻か‥‥‥‥‥‥俺を倒してみろ」
 鷹碕はそのまま、在天奉閻にぶち当たった。太刀が在天奉閻の肉体にめり込む。
「命知らずな奴だ。わしの間合いにまだ踏み込んで来るとは」
「俺の命‥‥‥‥くれてやる代わりに、お前の首を置いて行け」
 鷹碕は万力を込めて太刀を押し切った。
 在天奉閻は鷹碕の首を鷲掴みにすると、その手から閃光がほとばしった。光が爆発して吹っ飛ぶ鷹碕。
「貴様の相手はこっちだ!」
 続いて切り込むは高瀬。開拓者たちは波状攻撃をもう一度行う。
「ぬう」
 在天奉閻は高瀬の一撃を受け止め、閃光爆弾で吹き飛ばした。
 その間に雛が鬨と輝夜に駆け寄り、閃癒を掛ける。
「大丈夫ですかお二人とも」
「やってくれますどすなあ。さすが竜神どす」
「あ奴、隙がない。まさに歩く城塞だな。歩きながらこちらの陣を叩き潰していきおるわ。と言って我らにも退く道はないがの」
 焔と滝月は連携しつつ、在天奉閻に突進する。
「貴様の進軍はここまでだ!」
「勝てる通りがないなら、自分たちで見出すのが開拓者なんだよ竜神」
 在天奉閻が再び呪文の詠唱に入ると、ジルベールはその口目がけて矢を叩き込む。
「詠唱する隙は与えん!」
 焔は突き上げるように喉へ刀を打ち上げた。
 しかし――口や喉へ攻撃が命中しても、在天奉閻の詠唱が止むことはない。
「声は物理攻撃ではないのか‥‥!」
 動きを封じられて、顔をしかめる焔。
 滝月は斬竜刀を撃ち込んだところで動きが固まった。
「我が名は輝夜、天儀のサムライじゃ。憶えて逝くがよい」
 輝夜のタイ捨剣が在天奉閻を切り裂く。手応えはある。しかし、このアヤカシの将は小揺るぎもしない。
「うちの剣の錆になるんどす」
 鬨も全力で打ち掛かった。
 開拓者たちは一撃離脱で攻撃を加えて行く。
「山のような相手でも、いつか倒れる時は来る、必ずなあ!」
 小、高瀬、鷹碕らも一撃離脱で叩き込んでいく。
「ぬう‥‥」
 在天奉閻は、開拓者たちの間断ない攻撃に足を止め、戦況を見渡す。
 龍安軍の増援が来たことで、アヤカシたちの足は止まっていた。龍安兵たちが、アヤカシ足軽を次々と撃退していき、アヤカシ戦士達もじわじわと討ち取られて行く。
 そうして、みたび開拓者たちは在天奉閻を半包囲した。この竜神と向き合う。
「二十年前よりも強くなったな龍安軍‥‥あの時は、お前たちはおびただしい死者を出したものだ」
「今回は決着を付ける。二十年前のように逃げられはしない」
 焔は言って、竜神に言葉を叩きつけた。
 そこへ龍安弘秀が姿を見せる。
「在天奉閻か‥‥」
「龍安弘秀、貴様の兵は強い。わしの記憶にある限り、龍安家の始祖よりもお前たちは強い。ならばどうするか‥‥ふふ‥‥考えはある。わしは倒せん、お前たちには」
「逃げる気か」
「鳳華を去るのは、お前たちを叩き潰してからだ」
 そうして、在天奉閻は咆哮を上げると、兵を引いて後退したのだった。