【天龍】鬼将、三度来る
マスター名:安原太一
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/10/05 22:20



■オープニング本文

 天儀本島武天国、龍安家の治める土地、鳳華――。
 龍安軍の老将栗原玄海は、鳳華の七魔将、鬼将軍の侯太天鬼の軍勢と向き合っていた。ここ一月、大きな戦闘はなく、再び戦線は膠着状態に入ったかに見えた‥‥。
 ――龍安軍陣中。栗原の部隊に、援軍が訪れる。アヤカシの残党を魔の森まで後退させた直代神樹が、栗原のもとへ増援として到着したのである。
「栗原様、鬼軍の動きはどうですか」
 美しい直代家の女サムライの問いに、老将はこきこきと肩を鳴らす。
「いや、油断は出来んなあ。先の戦でもどうにか退けたとは言え、奴の首を取るには至らなかった。あの鬼将軍には、まだ底知れぬ力があるのやも知れんな」
「ふむ‥‥そう言えば、天壬王の件、聞き及びましたか?」
「うむ、聞いておるよ。あの白獅子、力を増したようじゃの。雪鈴もよくよく大変なことじゃろうて」
「栗原様、嫌な予感がします。鳳華の魔将の昇格は、何かの兆しではないでしょうか?」
「ふうむ、アヤカシの力が増しているのには、確かに、異常なことじゃ」
 そこへ、斥候に出ていたサムライが戻って来る。
「栗原様――!」
 サムライは、神樹の姿を確認して、慌ててお辞儀する。
「これは直代様。こちらへお着きでしたか」
「何かあったのですか」
 直代の問いに、サムライははっとして、栗原に向き直る。
「侯太天鬼が、鬼軍が前進してきます」
「来おったか、奴と戦うのもこれが三度目じゃな」
「それから大事ですが、侯太天鬼ですが、姿を変えています」
「何?」
 栗原と直代は顔を見合わせ、サムライから話を聞く。それによると、侯太天鬼は黄金の鬼に姿を変え、黄金の光を身に付けていると言う。
「侯太天鬼め‥‥まさか天壬王のように変化を。力を増した?」
 栗原は立ち上がると、神樹に視線を投げた。
「恐らく、力を増したあの天壬王の強さを知れば、これは容易ならざる事態じゃぞ」
「そうですね。ですが侯太天鬼‥‥我が軍に退く道はありません」
 神樹は言って、鋭い視線を東の空へ向けた。

 アヤカシ軍陣中――。山のような巨人が、黄金色に輝いている。黄金の鬼――侯太天鬼である。侯太天鬼は、黄金のオーラに包まれていた。
『ぐはははは! 血と肉と恐怖が、我が力を、更に高みへと導いた! 龍安軍ども! 殲滅してくれる!』
 耳障りなアヤカシの言葉で笑声を上げる侯太天鬼。鬼軍の先陣を切って、前進してくる。
『赤天王! 青天王! 全軍の指揮はお前たちに任せるぞ! 俺様は、今回、弱った奴を狙いに行く! あの老将の首も討ち取ってくれる!』
 ひときわ大きな赤鬼と青鬼が、歓喜の咆哮を上げる。
『皆殺し! 皆殺し!』
『殺せ! 殺せ!』
 赤天王と青天王の咆哮に、侯太天鬼は笑声を上げる。
『ぐはははは! 戦に勝てば、餌を取り放題だぞ! 見ておれ! 今日は龍安軍が壊滅する日だ!』
 侯太天鬼は咆哮すると、加速して龍安軍に迫っていくのだった。


■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086
21歳・女・魔
星鈴(ia0087
18歳・女・志
鈴梅雛(ia0116
12歳・女・巫
鴇ノ宮 風葉(ia0799
18歳・女・魔
焔 龍牙(ia0904
25歳・男・サ
滝月 玲(ia1409
19歳・男・シ
ブラッディ・D(ia6200
20歳・女・泰
井伊 沙貴恵(ia8425
24歳・女・サ
コルリス・フェネストラ(ia9657
19歳・女・弓
オラース・カノーヴァ(ib0141
29歳・男・魔


■リプレイ本文

 中央隊――。
「ふう‥‥こんな時に重体とは。ですが、泣き言を言っている暇はありませんからね。今私に出来ることを為しましょう」
 朝比奈 空(ia0086)はそう言うと、傷の跡を押さえた。
「大丈夫かいな空はん。ま、無理はせんこっちゃな」
 星鈴(ia0087)が声を掛けると、空は微かに笑みをこぼした。
「空さんは無理をなさらないで下さい。その体では‥‥今回は間が悪かったようですね」
 コルリス・フェネストラ(ia9657)の言葉に、空は小さく頷く。
「すみません‥‥足手まといにならないようにはしますから」
「確か朝比奈殿であったか」
 姿を見せたのは老将栗原。
「この戦は厳しいものとなろう。恐らく重傷者はこれからも出てくる。それでもアヤカシを止めねば。そなたも十分に注意せよ」
「心得ました栗原様。私も最後まで戦い抜きます」
「頼んだぞ」
 栗原は、そう言ってから、コルリスと星鈴に顔を向けた。
「そなたらはよくぞ駆けつけてくれた。いつものことながら、礼を言うぞ」
「栗原はん、そんなお礼は、侯太天鬼を討ち取ってからにしましょう。あの大鬼こそ、この地の元凶やさかいな」
「そうですね。私もこの地で長く戦い続けてきましたが、鳳華の七魔将を倒して、初めて勝利と呼べるものが手に入るのかもしれません」
 コルリスは言った。
「何と言いましても、要は、あの魔将たちさえ倒せば大きな抵抗は無くなるはず」
「確かにの。尤も、それこそ最大の難事じゃて。はて、この戦、勝てるか‥‥」
 栗原は思案顔で呟き、その場を立ち去った。
「あの老将も気骨ある方ですね。あのお年で最前線で指揮とは‥‥」
 空は、栗原の背中を見送った。

 右翼――。
 鈴梅雛(ia0116)は、いつものように、兵士たちから激励を受けていた。
「雛殿! 今日こそ侯太天鬼を討ち取りましょう! この戦、必ず勝ちます!」
「あなたのような小さき方までもが、我が軍に尽くしてくれるのを、我々は心強く思っております! あなたは強いが、それ以上に、我々の心の支えですからな」
「みんな、あなたには励まされました。その小さな体で、鳳華の戦を支えて下さった」
「ひいなは、ただひいなに出来ることをしただけです。そんな大きく言われても、ひいなはそんな大きくありません」
 すると、こちらに来ていた直代神樹が、言葉を掛けた。
「雛さん、あなたがこれまでに見せた働きは、兵士たちの心を掴むに十分なものですからね。彼らはあなたがいるだけでも心強く思うのですよ」
「直代様。それはひいなにとっては意外なことです」
「おや、鈴梅さんが激戦を勝ち抜いてきた間に、随分とここも慌ただしくなりしたよねえ」
 言ったのは龍安家臣の滝月 玲(ia1409)。最近になって再びこの地へ足を運んでいる。
「俺も龍安家臣で、ここじゃ結構大きな戦を経験させてもらったけど、いつの間にか鳳華の七魔将とやらが出張っていましたからね。ここのところ一気に慌ただしくなった感じですか」
「滝月さん、七魔将は本当に強くて、何度も苦杯を舐めさせられました。凄く強いアヤカシです」
「そのようですね。報告書は確認しましたが‥‥確かに並み外れている」
「滝月さん、私は新米家臣だから、右翼の指揮はあなたにお任せしようかと思うだけど、構わないかしら」
 井伊 沙貴恵(ia8425)はそう言うと、滝月は困った顔をした。
「えーっと、俺も今回は井伊さんに任せようかと思ったんですけど、どうしようかな」
「弟が御前試合ではお世話になっているから、少しでもお返しできれば良いかと思って、副官的な立場であなたを支援しようかと思ったんだけれど‥‥」
「いやいや、こっちこそ貴政さんにはお世話になりっぱなしですよ。まあ指揮を取っても良いんですけど‥‥」
 すると、直代神樹が進み出た。
「意見が分かれているようですね。私が指揮を取りましょう。今回はお二人とも自由に動ける立場の方が良さそうですからね」
「あ、それじゃ、直代さんにお任せします」
「よろしく」
「随分と派手な戦場だな。ここは何でも武天の要衝らしいが。勝ち目はあるのか実際」
 言ったのは魔術師にして冒険者、戦争屋、オラース・カノーヴァ(ib0141)。
「ここでアヤカシの攻撃が始まったのは二十年前です。その間、龍安家はアヤカシの攻撃を封じ込めてきました。アヤカシは数え切れないほどですが、大きな攻撃には、何度も跳ね返してきました。勝算はあるか? ええ、あります。龍安軍は簡単には崩れません」
「そいつは心強いな。最後まで、そうあって欲しいものだが」
 オラースの言葉に、神樹は肩をすくめる。

 左翼――。
「よし! 準備は出来たぞ! 鬼軍がやってくる前に、田畑に水は引いた。みな良く頑張ってくれたな!」
 龍安家臣の焔 龍牙(ia0904)は、兵士たちの労をねぎらった。
「焔殿、今日こそ必ずやあの鬼将軍の首、討ち取ってくれましょう」
「おお! 必ずやってやるぞ! 侯太天鬼――民の無念を晴らしてくれる!」
「今回で決着をつけてやる! 里を失った者たちのためにも! 侯太天鬼の首を持ち帰る!」
 龍牙は兵士たちを見渡し、大きく頷いた。
「みんな! この戦、勝算はある! 侯太天鬼がいかに強大でも、奴一人で戦況を変えることはできない! 鬼の動きを封じ、侯太天鬼を誘い込めば、必ず奴を叩く機会はある!」
 龍牙の言葉に、兵士たちは「おーっ!」と拳を突き出した。
 ブラッディ・D(ia6200)は陣中を見渡して、昂ぶる高揚感に包まれていた。
「敵がいっぱい、味方もいっぱい‥‥ギャハ、存分に暴れられそうだっ!!」
 ブラッディはぐるぐると腕を回して、龍牙に近づいて行く。
「龍牙! 俺にチームを組めって言うそうだけど、メンバーはどいつだ?」
「ああDさん、チームか」
 焔は泰拳士たちを呼び集める。
「こちらは開拓者のブラッディ・Dさんだ。みんな、彼女とともに遊撃の位置に付いてくれ」
「開拓者か。よろしくな」
 龍安軍の泰拳士はみな傭兵だ。Dに気さくに言葉を掛けて、握手した。
「どうやら激しい戦闘になりそうだが、ま、よろしく頼むぜ!」
 Dは言って、ぱしん! と拳を打ち合わせた。
 ――と、戦の合図を知らせる法螺貝が吹き鳴らされる。太鼓や銅鑼があちこちで鳴り響き、アヤカシの接近を知らせる。
「いよいよだな‥‥みんな行くぞ!」
 龍牙は言って、戦闘配置に着いた。

 龍安軍の配置――。
・中央:サムライ×30、弓術士×20、巫女×10、シノビ×10、一般兵×100(内サムライ10名、一般兵50人は開戦当初後方に控え予備戦力とし侯太天鬼を包囲、又は誘いに乗らなかった場合投入)
・左翼:サムライ×30、泰拳士×20、陰陽師×5、巫女×5、一般兵×100
・右翼:サムライ×40、志士×20、陰陽師×5、巫女×5、一般兵×100

「侯太天鬼が突進して来ます!」
 サムライ大将が告げると、星鈴は頷き、さっと腕を振り上げた。
「偽装撤退であの化け物を引き付けるで! みんなしっかり頼むで! 最初に猛烈な攻撃を加えて、それから逃げる。命がけになるかもしれへん、みんな自分の身は守りや!」
「みなさんやり抜きましょう。支援します」
 空は兵士たちに言葉を掛ける。
「私も及ばずながら弓隊で援護射撃を。侯太天鬼を引きずりこむことが出来れば、あの鬼を討てる機会もあります」
 コルリスは言って、弓術士を率いて戦闘に備える。
「ではやるかの。今日こそあの鬼将軍の最後にしたいものよの」
 栗原は言って、刀を抜いた。
「ほな行くで! 前衛部隊、侯太天鬼に向かって集中攻撃や!」
 龍安軍は加速して突進した。
 鬼軍は泥に足を取られて喚いていたが、侯太天鬼はそれをものともせずに前進してくる。
「来たか雑魚ども! みすみす死にに来るとは、ならば、全員俺様の刀の錆にしてくれるわ!」
 侯太天鬼は咆哮する。
「やかましい! うちん武を見いや!」
 星鈴は先陣切って打ち掛かった。
「ぬうあ!」
 侯太天鬼は暴風のような一撃で星鈴らを吹き飛ばした。
「朧――! 全員あの黄金色の鬼を撃て!」
 コルリスは次々と矢を放っていく。
「さて‥‥ここからが勝負ですね。本当にあの侯太天鬼を押しとどめることが出来るか‥‥討ち取ることが出来るか‥‥私たちは負けるわけにはいきませんが」
 空は、重体を押しているが、今は状況を見極めていた。まずは侯太天鬼を引きずり込むことだ。
「ちい‥‥! さすがに化け物や! いったん逃げるで!」
 星鈴らは撤退すると、侯太天鬼は勢いに乗って、突撃してくる。
 他の鬼たちも前進してくる。
「逃げろ逃げろ! いずれ貴様らに行き場はない! 最後には死に絶えるのだ!」
 侯太天鬼は突撃してくる。

「――アヤカシ軍、巨大な赤鬼を前に前進してきます!」
「迎撃します。全軍その赤鬼に集中攻撃しつつ、周辺の鬼を討伐します。侯太天鬼を包囲しますよ」
 直代神樹は右翼軍に命令を出す。
「あの赤鬼は他の鬼とは格が違うみたいです。気を付けて下さい」
 雛は兵士たちとともに前進する。
「よし、行くぞ」
「みなさん、十分に注意して、油断は禁物よ」
 滝月と沙貴恵も前進する。
 両軍激突する。
 巨大な赤鬼は咆哮を上げると、鬼軍を加速させ、猛攻を開始する。
「ふん、まとめて瘴気に返してやろう。勢いづくのもここまでだ」
 オラースはブリザーストームを叩き込んだ。鬼軍の戦列に穴が開く。
「突撃!」
 滝月と沙貴恵は大きな赤鬼――赤天王に向かって突進していく。
 ――オガアアアアアアア! 赤天王は凄まじい咆哮で威嚇するが、滝月と沙貴恵は問答無用で加速した。
「お前と遊んでいる時間はない」
「援護します」
 雛は流れるように神楽舞・攻を舞う。
「行くぞ赤鬼!」
 滝月はなだれ込んで来る大鬼を切り倒し、赤天王に突撃する。赤天王の一撃を弾き返して凄絶な一撃を叩き込む。
「行くわよ!」
 沙貴恵も周囲の鬼を切り倒して加速。赤天王に一撃を叩き込む。
 赤天王は怪力で立ち回り、滝月と沙貴恵を牽制するが、二人は連携してこの赤鬼に確実な打撃を与えて行く。
 オラースは立て続けにブリザーストームを叩き込み、鬼軍の戦列を薙ぎ払う。
「こんなものか、鳳華の鬼軍は。一気に叩く」
「滝月さん――」
「鈴梅さん、頼むぜ!」
 滝月は大地を蹴った。
 沙貴恵が赤天王に連打を浴びせる。
 後退する赤天王に、滝月の炎魂縛武が炸裂すると、赤天王は真っ二つになった。崩れ落ちて瘴気に還る赤天王。
「赤鬼は討ち取った! 侯太天鬼の背後を突くぞ!」
 滝月は右翼を神樹に任せ、沙貴恵と雛と数人の兵士ともに中央へ向かう。

「俺の後に続け! まずは左翼を撃破する!」
 焔は抜刀すると、突進した。
「よっしゃあ! 俺たちも行くぜ! 敵さんの側面を突くぞ!」
 Dも泰拳士たちと突撃する。
「おお!」
 泰拳士らDらは加速して、突貫する楔となって鬼軍の側面から斬り込んだ。
「うらあああああああ!」
 Dは突撃して拳を大鬼に撃ちこんだ。凄まじい一撃が大鬼の頭部を吹き飛ばした。
 続々となだれ込んでいく泰拳士たちが鬼軍を撹乱して、そこへ龍牙たちが突撃していく。
 ――グガアアアアアア! と、巨大な青鬼が蛮刀を振るって龍牙に打ち掛かって来る。弾き返して青天王と向き合う。
「貴様が右翼の大将か! 打ち砕く!」
 龍牙は青天王に撃ち掛かっていく。激しい斬撃戦。十合余り切り結んだところで、龍牙は青天王の腕を斬り飛ばした。
 グオオオオオ‥‥恐れを為して後退する青天王。と、その背後からDがズン! と拳を撃ち込んだ。凄まじい一撃が貫通する。
 青天王は崩れ落ちると、断末魔の悲鳴を残して瘴気に還った。崩壊していく鬼軍。
「よし! 敵を掃討しつつ、サムライと志士は中央へ! 侯太天鬼の側面を突く!」
 龍牙とDらも、中央隊へ向かう。

 龍安軍中央になだれ込んだ侯太天鬼は、暴風のように荒れ狂っていた。
「泣け! 喚け! 叫べ! あの世で後悔するがいい! 俺様に立ち向かったことをな! 脆いわ! 貴様らが束になろうと、俺様には勝てん!」
 星鈴は、反撃の機会を探っていた。
「みんな耐えや! まだや! うちらは負けてへん!」
 侯太天鬼は哄笑する。
「何を人間! まだ諦めぬか!」
 その時である――鬼軍の戦列が乱れ始める。
「何だ――!」
 両翼を突破してきた開拓者たちが斬り込んで来ると、侯太天鬼を包囲する。
「ぬう!?」
「よっしゃぁ、よう耐えたでみんな。こっからは反撃や、うちん続いて勇み出い!!」
 星鈴は、一歩踏み出すと、侯太天鬼を見上げる。
「侯太天鬼、あんたん顔も見飽いたわ‥‥ここらで片ぁ付けたる!」
「‥‥罠か。ぬふふふ‥‥俺様をそれで倒せるとでも?」
「侯太天鬼! 貴様の命運は今日で確実に尽きる! この状況がお前の最後を作り出した!」
 龍牙は槍に持ち替えると、一閃した。
「それはどうかな龍安軍。俺様を見くびるなよ」
「行くぞ! 鬼の魔将!」
 星鈴、龍牙、滝月、D、沙貴恵、そして栗原玄海、他龍安兵らが一斉にスキル全開で打ち掛かる。
 雛と空は神楽舞で支援し、コルリスは弓隊を率いて攻撃、オラースは残りの練力でアークブラストを解き放つ。
 怒涛の攻めが侯太天鬼を貫く。攻撃は確実にヒットして、侯太天鬼の肉体を吹き飛ばした。
 が、侯太天鬼の剛腕から繰り出される一撃は凄絶なものであった。不死身のようなタフさで攻撃を耐え凌ぐと、確実に開拓者ら一人一人の生命力を削っていく。
「ぬうううああああ! 無駄なことだ! 俺は倒せん!」
「玲!」
 龍牙は侯太天鬼の正面から突進して、滝月に声を掛ける。二人は幼馴染で阿吽の呼吸で攻撃が出来た。滝月が侯太天鬼の側面からスキル全開の一撃を見舞う。
「焔龍白突! 白梅突ッ」
 龍牙の一撃が侯太天鬼を貫く。
「ぬううん!」
 しかし振り下ろされた蛮刀が龍牙を切り裂いた。
「くそ! 何て奴だ!」
 後退する龍牙に雛と空が回復術を掛ける。
 その瞬間、山のような侯太天鬼の巨体が大地を疾駆した。何と速いことか――。
「この瞬間を待ちわびた!」
 侯太天鬼は、するすると雛に目がけて突撃し、蛮刀を繰り出した。
 誰もが動けないでいた。突然の出来事だったのだ。だが、一人、侯太天鬼を止めた者がいた。
 龍安家の老将、栗原玄海である。栗原は雛の前に立ち塞がると、侯太天鬼の一撃を受け止めた。
「栗原はん――!」
 星鈴は直後に向かったが遅れた。
 栗原は侯太天鬼の蛮刀で串刺しにされ、投げ飛ばされた。
「ふん! まあいい! 捕えた獲物は大きかった!」
 侯太天鬼は笑声を残して、開拓者たちの包囲の隙を突いて素早く逃走した。
「早く! 手当てを!」
「栗原様!」
 雛と空が回復術を掛ける。しかし、栗原の目が開くことはなかった。胸を貫かれてほぼ即死であったのだ。
 今は時間はない。龍安軍は栗原を失ったが、それでも壊走する鬼軍を撃退して、陣を立て直すのだった。