朱の中
マスター名:安原太一
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/07/08 23:42



■オープニング本文

 六月――。
 天儀は降雨に見舞われることが多くなっていた。梅雨の季節である。
 ギルド相談役の橘鉄州斎(iz0008)と、開拓者たちは、朱藩の辺境からの依頼を受けて飛空船を降り立った。
 雨が降っていた。橘は青い瞳に憂いをたたえて、編み笠を上げた。
「嫌な天気だな‥‥」
「そうですか? 雨は嫌いではありませんがね」
「この季節は、雨が降って、秋の実りをもたらす恵みとなるのですから‥‥」
「まあ、いい。行くぞ。この雨も、現地に着く頃にはやんでいるだろう‥‥」
 辺境の村までの道のりはここから徒歩で三日ほど。
 村は山賊に襲われて、民は捕えられたと言う。
 壊れかかった村の風信機を使って、子供が開拓者ギルドに村の異変を知らせて来た。その声も、途切れる寸前には悲鳴に変わった。子供がどうなったかは分からない。
 橘と開拓者たちは、村の近郊に到着すると、その様子を探り始めた。

 ‥‥村の村長宅に、その男はいた。巨漢である。隻眼のいかつい男で、見るからに凶暴そうな風貌とは裏腹に、その瞳は冷たく、静かに光っていた。男の名を「赤龍」と言った。
 赤龍の側には娘がいて、震えながら酒を注いでいた。
「俺が怖いか」
 娘がびくっと身を震わせるのに、赤龍は娘の細い首を掴んだ。
「俺を憎め。お前の父と母を殺した男だ。これ以上憎い相手はおるまい」
 娘は震えながら、涙目で赤龍を睨み返した。
「人の命など、灯篭流しの明かりのようなもの。いつどこで風に巻かれるとも限らん」
 赤龍は娘を放すと、家を出て村の様子を見て回る。
 山賊たちはこの手の賊にしてはどこか様子が違っていた。賊たちが放つ気配は、一般人が放つそれとは異なる。そう、彼らは志体を持っていたのだ。
「赤龍様――」
 美しい女がやってきて、赤龍に言葉を掛ける。女の名は「氷華」。赤龍の片腕で賊たちのナンバー2である。
「そろそろお戯れは終わりにしましょう。村人たちは皆殺しに。あの子供が確かに開拓者を呼んだのなら、奴らは確実にここへ来るでしょう」
「開拓者が怖いか」
「そうではありません。ですが、開拓者ギルドから賞金でも掛けられたら、動きづらくなります」
「お前の言うことはいちいち尤もだが‥‥この辺りが頃合いか」
「では、後始末に」
 立ち去る氷華を見送りながら、赤龍は空を見上げる。雨が降り始めていた。間もなく、その雨も血に染まるだろう。
「嫌な世の中だな。人外の魔物があちこちにはびこっていやがる。それにしても俺たちは外道だ全く」
 赤龍はそう言うと、微かに笑った。


■参加者一覧
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
鬼啼里 鎮璃(ia0871
18歳・男・志
福幸 喜寿(ia0924
20歳・女・ジ
玲璃(ia1114
17歳・男・吟
王禄丸(ia1236
34歳・男・シ
月(ia4887
15歳・女・砲
鬼灯 恵那(ia6686
15歳・女・泰
朱麓(ia8390
23歳・女・泰
ウィンストン・エリニー(ib0024
45歳・男・騎
燕 一華(ib0718
16歳・男・志


■リプレイ本文

 開拓者たちは、引き続き情報収集に努めていた。敵の配置、捕らわれていると言う村人たちの位置。そして可能ならば賊たちの内部事情など、必要な情報をとにかく集める。
「厳しいご時世だからって、こういうことするのはよくないわよね」
 蒼い髪の美女がそう言って眉をひそめた。葛切 カズラ(ia0725)だ。
「人を人とも思わぬ外道たちね、志体を悪用するなんて、許せない」
「偽士、開拓者崩れ、氏族逃れ――官憲の手の届かない闇の世界には、そう言った連中が集まっている‥‥が」
 ギルド相談役の橘鉄州斎(iz0008)は、思案顔で顎をつまんだ。
「悪党にこれだけの熟練が揃っているのも珍しいな。全員が志体持ちとはな。ただの賊とは思えんな」
「人間相手に戦うのは嫌なものですね‥‥」
 鬼啼里 鎮璃(ia0871)は吐息する。
「まあ犠牲者も出ている以上、甘いことも言ってられませんが」
「村人が殺されていくなんて、絶対許せないんさね!」
 福幸 喜寿(ia0924)は感情を露わにする。こんな理不尽なことがあっていいのかと、感情が揺さぶられる。
「恵那ちゃん、手分けして頑張ろうね!」
 友人の鬼灯 恵那(ia6686)に言葉を投げる。鬼灯は微笑みを浮かべて頷く。
「頑張りましょうね。喜寿さん。必ず、みんなを無事に救い出して、悪党たちを懲らしめてやりましょう」
「うん! みんなを助けてあげないと‥‥さね!」
「いかがですか、王禄丸(ia1236)様」
 玲璃(ia1114)は牛面の巨漢に問うた。玲璃もこの依頼に厳しいものを感じていたが、今は目の前の敵を討ち、民を救うことに集中しようとしていた。
 牛面の巨漢――シノビに転職した王禄丸は、超越聴覚で村の気配を探っていた。
「こいつら怪物だぞ」
 王禄丸は、牛面の奥からくぐもった声を出した。超越聴覚で聞き取れた範囲では、どうやら賊たちが問答無用で民を殺戮したことが明らかになる。
「何でもアヤカシの仕業に見せかけて村を襲っていたらしい。こいつらは、赤龍党と言うらしいな。ボスの名前は赤龍。報酬を受けてこの事件を引き起こしたらしい」
「報酬だと?」
 鉄州斎は、眉をひそめる。無差別に朱藩の民を切り殺すのに報酬を出す輩など、考えられるのは興志王に反感を抱く氏族か、いや、それは飛躍しすぎる。となれば、賊を雇っているのはあるいはアヤカシか‥‥。
 鉄州斎は事件の背後にいる存在に、ただならぬものを感じていた。
「まあその件は後に置くとしよう。民の位置は分かったか」
「いや、正確なところは何とも。村の中心付近にいるらしいことは間違いないようだが」
「さてな、昔を思い出すな‥‥」
 月(ia4887)は言って、自身の過去に思いをはせた。月はその昔御家騒動から逃げ出し、一時期辻斬りで生計を立てていた。賊たちの所業は、自分の過去と重なって見えた。
「今は違う、民を救うために全力を尽くそう」
「賊か‥‥」
 朱麓(ia8390)は一瞬、瞳に悲しげな色を見せる。小さく首を振り、口を開いた。
「時間が無いのだろう?」
 王禄丸は頷く。
「ああ、女が民を切り殺すように命じているぞ」
「ならば、さっさと始めようじゃないか」
「志体持ち多数居るのが明らかなれど、必ずや掻い潜って皆、助けてみようぞ(頭垂れ)」
 ウィンストン・エリニー(ib0024)は、言って頭を下げた。何としても民を救うと心に誓った。
 ん‥‥、志体の力を非道に使うのを聞くと胸がきゅーってなっちゃいますっ。笑顔を取り戻す為に頑張ります!
 燕 一華(ib0718)は小さく拳を握りしめると、鉄州斎に言葉を投げる。
「まずは村人の確認、救出からですねっ、鉄州斎兄ぃ」
「ああ。急ぐか。王禄丸――」
「鉄州斎、お前には、襲撃班で遊撃の位置に付いてもらえないか。穴を埋める感じで動いてもらえれば」
「分かった」
 それから開拓者たちは、5:5:1に、村人救出班と戦闘班、遊撃の燕に分かれて行動を開始する。
救助班:葛切 カズラ、福幸 喜寿、玲璃、月、ウィンストン・エリニー。
戦闘班:鬼啼里 鎮璃、王禄丸、鬼灯 恵那、朱麓、橘 鉄州斎。
遊撃:燕 一華。
 救出班は、戦闘班が突入するのを待って待機する。
「それでは、後で会いましょう‥‥それにしても嫌な依頼ですね」
「気をつけて行くんさね!」
「よし、行くぞ」
 
 ――見張りの盗賊たちは、村へ突入する開拓者を発見すると、すぐに逃げ出した。が、鬼灯が咆哮を解き放つと、村の中にいる盗賊も含めて、十人近くが集まってくる。
「ちっ、もう開拓者が来たのか」
 賊たちは、苛立たしげに開拓者らを見据える。
「人斬りは好まぬが、致し方無し。明日の朝日を拝む気の、無い奴以外は退いて去れ」
 王禄丸は、牛面で凄んだが、賊たちは哄笑した。
「何だ、その牛の面は、俺たちがをからかっているのか」
「大した度胸だな。死ぬ気か」
 王禄丸は冷たく言い放った。
「ふん‥‥開拓者が、その言葉そっくり返してあげますよ。私たちを倒せるなどと思わないことですね。それもたった五人で」
 鬼灯は刀を抜くと、にいっと笑った。
「盗賊たちに情けは掛けないよ? やる気なら、手遅れになる前に逃げるが吉だよ」
「不殺の槍を以て生を正す志士‥‥此処に見参!」
 朱麓は槍を振りかざした。
「赤赤赤‥‥やっぱりあんた達の眼にはその色しか映ってないのか。やれやれ、こんなとこで御対面とはまた数奇な運命だ」
 嘲笑を浮かべる。
「さしずめ開拓者崩れ、氏族から逃げてきたって感じかい? まあ、何でも良いけどさ。でもね‥‥人を斬って快楽得る位ならとっとと逝っとけ」
 そして賊を睨み据える。
「くくく‥‥俺たちは凄い仕事をしているんだよ? 君たちには到底理解できないだろうねえ」
「民を切るのが凄い仕事ですか」
 鬼啼里は、盗賊たちを哀れに思う。過酷な冥越で生き抜いてきたからこそ、この天儀の平和は鬼啼里にとって大切なものだった。
「お前たち、誰に雇われた」
 鉄州斎が抜刀して前に出る。
「そんなことを聞いてどうするつもりだ。尤も、俺たちには雇い主の名前など知らされていないがな。赤龍様しか知らん。そういうことは深入りしないのが、こういう仕事の流儀だ」
「赤龍はどこにいる」
「ふふん‥‥それを知りたかったら、俺たちの屍を越えて行けよ!」
 賊たちは襲い掛かってきた――。

「始まったみたいね」
 カズラは身を乗り出すと、村の中に視線を向けた。走っていく賊の姿が見えた。
「じゃ、私たちもそろそろ行動を開始しましょうか」
「誰も死なせはしないんさね!」
「ところで、無事に民のところへ辿り着けたとして、人質を取られる可能性があります。私たちの方でも、さらに正面から向かう人と回り込んでいく人に分かれてはどうでしょうか」
 玲璃の提案を、仲間たちは受け入れる。
「では、私とエリニー君、カズラ君で正面から。一華君と玲璃君、福幸君はその隙を突いて万が一に備えると言うことでどうかな」
 月は、頷きながら、思案顔で提案する。
「結構だ。首級は手ごわいようだが、どうにか足止めして見よう」
 エリニーは顎をつまんで、村の中を見やる。
「ボクは、人質対応に回りつつ、そこからさらに遊撃で動きますねっ! どんなに用心してもし過ぎることはありませんからっ!」
 燕は言って、敵が予想外の動きを見せる場合に備える。
「よし、それじゃ行くわよ」
 カズラが立ち上がって、開拓者たちは村の中へ踏み込んだ。

 ‥‥村の中に集められた民たちは、震えあがっていた。冷酷な志体持ちの盗賊たちは、民を奈落に付き落としていた。
 その賊たちが、突然乱れて、どこかにいなくなってしまった。
「開拓者が来たようね」
 女の盗賊が口許を吊り上げて笑った。この女、見た目は美しいが、心は闇に染まっていた。名を氷華と言う。
「さて、間に合うかしらねえ開拓者は」
 氷華は刀を抜くと、村人の一人に突きつけた。
 そこへ全力で飛び出したカズラ、エリニー、月。
「――!」
 氷華は不意を突かれてカズラの斬撃符をまともに受けた。切り裂かれる。が、立ち直りは早い。
 エリニーと月の斬撃をすばやくかわす。
「速い――!」
「はは! 開拓者か! 私と会ったからにはここで死んでもらうぞ!」
「にっ――」
 氷華の刀が跳ねた。月は切られた。
「ちい!」
 エリニーは打ち掛かるが、氷華は高い身体能力で回避する。
「白面九尾の威をここに、招来せよ! 白狐!!」
 カズラは白狐を召喚する。白毛の九尾の狐が出現し、氷華を牙で切り裂いた。
「くっ――! 畜生この陰陽師! 貴様殺してやる!」
 氷華は怒り狂って突進してくる。
 エリニー、月は立ちふさがった。
 そこで、玲璃、福幸が飛び出して、村人たちの確保に向かう。
「みんな大丈夫さね! 安心して!」
「盗賊の方、残念ですが、四体一では勝ち目はないでしょう」
 玲璃は冷静に指摘する。
 囲まれた氷華は、牙を剥いて笑う。
「ふふん‥‥凄腕の剣豪も多数相手にはまず逃げることから考えると言う。私を簡単に捕まえられると思うなよ」
 氷華は玲璃に突進すると、突き飛ばして脱出を試みる――。
 そこへ燕が飛び出して切り掛かった。
「残念ですね! 逃げられませんよ!」
「邪魔だ小僧!」
 氷華は刀を放り投げると、燕の懐に入り込んで素早く投げ飛ばした。無手の技。
「うわあああ!?」
 燕は地面に叩きつけられた。
 氷華は刀を受け取ると、一気に走って逃げる。

 その頃王禄丸たちは、賊を相手に互角の戦いを見せていた。数で勝る賊たちは、数的優位を生かして戦闘を有利に運んでいた。この賊たち、相当な熟練であった。
「ふふん‥‥予想外か? 開拓者も大したことはないな」
 二人の賊は王禄丸と距離を保つと、鋭い口調で言った。
「赤龍党か、顔は覚えたぞ。逃げられると思うな。この地上にいる限り、貴様らを追う目が常に光っていると思え」
「ちっ、うっとうしい‥‥ならば貴様らを皆殺しにして、死人に口なしよ」
 鬼啼里は凄絶な戦闘のさ中にあって、息が上がっていた。
「手ごわいですね‥‥この賊たちは」
 鬼啼里の体には無数の傷がついていた。
「あはは‥‥結構やるねえ。盗賊の癖に」
 鬼灯も、ダメージを受けて呼吸が荒くなっていた。
「五分五分か‥‥」
 朱麓もひどい怪我を負っていた。内心は平静だったが、体は傷ついていた。
 この中で、一人鉄州斎はほとんど傷を負っていなかった。彼は一人、賊を圧倒する実力を持っていた。鉄州斎は賊の正体を見極めようと、捕縛を考えていたが、難しそうだった。
 巨漢が姿を見せたのは、そんな時である。隻眼の偉丈夫が悠然と姿を見せる。赤龍である。
「随分と手こずっているようだな」
「お前は‥‥」
 王禄丸は軽く視線を投げた。
 赤龍は刀を抜くと、煙管を捨てた。
「俺の名は赤龍。赤龍党のリーダーだ」
「お前が赤龍か」
 王禄丸は、身を乗り出した。
「顔は割れた、行いは広まった。潮時だろう? 死ぬことに武士道なぞ見出さなぬなら。商売替えしちゃくれんかね」
 すると、赤龍は微かに笑った。
「この世界には、お前たちと言えども、手の届かぬ世界がある。そこは、官憲と言えども容易に乗り込むことは出来ん」
「そんな犯罪者天国が天儀のどこにあるというのだ。そんな無法地帯は天儀に存在しないぞ」
「犯罪者天国? 分からぬか。すぐ側に人界と隔絶した世界があるだろう」
「貴様‥‥まさかアヤカシのことを言っているのか」
「さて、どうかな。いずれにしても、俺たちを捕えることは天儀の国王であろうと不可能だ。それに、ここで俺たちの名が知れ渡ることもない。どうせお前たちはここで死ぬのだ」
 赤龍は、ずいっと一歩踏み出した。凄絶な剣気が伝わってくる。
「こいつ‥‥強い」
 鬼啼里は、ぞくりと寒気を感じた。
 そして、赤龍は襲い掛かってきた。盗賊たちも勢いづいて突進してくる。
 刀と刀が激突する。交差して互いに切り合い、また火花が散る。
 王禄丸は赤龍と打ち合った。赤龍の一撃が王禄丸を吹き飛ばす。重量級の王禄丸が宙に舞い上がった。地面に叩きつけられる王禄丸。
 群がってくる賊の打撃を、刀で何とか跳ね返す。
 鬼啼里は赤龍に凄絶に切り裂かれる。
「ぐっ‥‥!」
 かろうじて逃げるところへ賊の追い打ちが来る。鬼啼里は弾き返しながら後退する。
 続いて打ち合った鬼灯は、赤龍の一撃を受け止めた。が、直後に真下から蹴りを受けて弾き飛ばされた。
「あんたに――!」
 朱麓は槍を突き出したが、弾き飛ばされた。
 加速する赤龍は、朱麓を最上段から切り裂いた。赤龍の刀身が肉体を貫通する。
「何て怪物‥‥人間かこいつ」
 朱麓は飛びすさった。
 続いて赤龍は鉄州斎に打ち掛かった。神速の一撃が――!
 キイイイイイイン! と鉄州斎は弾いて赤龍を押し返した。
 驚く赤龍。
「弾いたか」
「アヤカシ絡みか、赤龍党とやら。なおのこと開拓者ギルドは逃がさんぞ。アヤカシの名を言え。誰が背後にいる」
「馬鹿め、妄想にふけっていろ」
「中級アヤカシか、上級アヤカシか」
「しつこい」
「用心深いアヤカシだな。が、それなりにいる型だ。人界に紛れ込んでいるアヤカシは決して少なくない。内部から里を、国を蝕んでいく、ギルドは常にアヤカシの行方を追っている。何れ貴様らの正体も掴んでやる」
「‥‥‥‥」
 赤龍はじり、と後退した。
 そこへ、氷華が駆けてくる。女を追ってくるのはカズラ、福幸、玲璃、月、エリニー、燕。
「村人たちは無事です!」
 燕が仲間たちに声を掛ければ、開拓者たちの顔に安堵が広がる。
「新手がいたか」
「赤龍様――」
「引く頃合いか。ちっ、予想以上にしぶとい連中だな」
「逃がすと思うのか」
 王禄丸はずいっと前に出るが――。
「村人が無事なだけ幸運だったな! だが、この次はそうはいかんぞ!」
 賊たちは一目散に散らばって逃走した。
 赤龍も氷華も逃げ足は一段早かった。かくして、賊の捕縛には至らなかったが、撃退には成功する。

 ‥‥戦闘終結後。
「大丈夫ですかー! 賊は逃げましたよ! もう安心ですからね! よくボクたちを呼んでくれましたね!」
 燕は、影が落ちる村人たちに、励ましの言葉を投げる。まさかアヤカシが絡んでいるとは言えない。
「間に合って良かったです! 元気を出して下さい! こんなことは二度と起こりませんから! 朱藩の王様にも言って、賊は捕まえてもらいますからね!」
 燕は、ひたすら笑顔で村人たちを元気づけた。
「何でお兄ちゃんは死んだの」
 そう問いかけて泣きじゃくる子供を、燕は抱きしめるのだった。
「犠牲が少なくて済んだのが、せめて救いさね」
 福幸はそんな様子を見てぽつりと呟く。
「赤龍党ねえ‥‥あんな連中がいるなんてね。アヤカシ絡みかい?」
 朱麓の言葉に玲璃は思案顔。
「アヤカシが背後にいるとは‥‥考えたくない結果でしたね」
「最悪だが調査する必要があるな。人員を手配するとしよう」
 鉄州斎は、また一つ事件を抱えることになる。