【天龍】本丸を守れ
マスター名:安原太一
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/05/31 22:39



■オープニング本文

 武天国、龍安家の治める土地、鳳華――。
 魔の森からアヤカシの大軍が出没し、兵士たちの多くがそれに備えるべく出立して行った。首都の天承と言えども、兵士の数は少なくなっていた。頭首の龍安弘秀が前線に出て行ったあと、城を守るのは、正室の春香の役割であった。彼女もまたサムライであり、武術の達人である。春香は兵法家でもあり、弘秀に次ぐ龍安軍の大将であり、旗頭である。
 天承の本丸はこの地、鳳華の中で最も守りは堅い。が、その堅牢な城から、今多くの兵士が出払っている。城を預かる春香に不安が無いわけではない。天承は多くの民が暮らしている城下町だ。万が一アヤカシがどこからともなく奇襲に出現したら、果たして今の兵力で守り切れるかどうか‥‥。
 が、魔の森から出現したアヤカシの数を考えれば、里を守るために兵が必要だ。普通、人間同士の戦なら、最前線を飛び越えて本丸を狙うことは不可能だ。途中には多くの守備隊がいる。最前線を飛び越えて大軍を送り込むのは、およそ魔物の仕業だ。そして、アヤカシと言うのは、どこからともなく現れることもある。が、それでも大量のアヤカシが突如として出現することは珍しい。
「ご心配ですか」
 龍安家のシノビの頭領、赤霧は、春香を前にして赤毛をぽりぽりと掻いた。弘秀が用心のために、天承にはシノビの精鋭が配置されていた。
「アヤカシとの戦となれば、私は為すべきことを為すだけです」
 春香はそう言って、迷いを断ち切るように天守から城下に目を落とす。
「ですが、アヤカシ、入り込んでいますよ」
「え?」
 赤霧の言葉に、春香は振り返る。
「部下達から報告があります。恐らく変身能力を持った奴らが城下に忍び込んでいると」
「‥‥刺客ですか」
 春香は胸の内で燃え上がる感情を押し殺して、赤霧を促す。
「敵の会話を聞きとることは出来ました。狙いは、こちらの本丸を撹乱することでしょう」
 赤霧は狙いは「あなた」ですとは言わなかったが、春香もそれを察した。
「春香様、お屋形様が俺を残したわけが分かったでしょう?」
「この城でも、安全とは言えないのですね」
「護衛には開拓者を呼んであります」
 赤霧は真面目な口調で言った。
「それから城の警備責任者には、厳戒態勢を取るように伝えてあります」
 そこへ、開拓者たちが姿を見せる。
「敵襲が近付いている可能性はあります。雑魚アヤカシが騒ぎ立てる分には、さして脅威ではないのですが、魔将の天晋禅が侵入しているという情報も入っています。警戒が必要です」
 赤霧はそう言って、春香に開拓者の面々を紹介した。


■参加者一覧
鈴梅雛(ia0116
12歳・女・巫
井伊 貴政(ia0213
22歳・男・サ
華御院 鬨(ia0351
22歳・男・志
四条 司(ia0673
23歳・男・志
風 皇天(ia0801
20歳・男・泰
アルカ・セイル(ia0903
18歳・女・サ
白蛇(ia5337
12歳・女・シ
魁(ia6129
20歳・男・弓
コルリス・フェネストラ(ia9657
19歳・女・弓
レヴェリー・L(ib1958
15歳・女・吟


■リプレイ本文

 夜、城外に、アヤカシたちが接近していた。
「さすがに天承城ですね。守りが薄くなったとは言え、敵の本丸はそう簡単に入り込めるわけでもないですね」
「全ての出入り口は完全に封鎖されております」
「囮を使います。――炎武」
「はい」
 炎使いが前に出る。
「城外で派手に炎をばら撒いて下さい。私達はその隙に、虫にでも姿を変えて城内に入り込みます」
「お任せ下さい。派手に暴れてやりますよ」
「頼みましたよ。では、みな、炎武の攻撃を合図に、城内へ侵入します。城内へ入ったら、恐らく龍安軍の精鋭たちが待ち受けているでしょう。各自小隊を作って、龍安春香とその子供たちを探すのです。暗殺に成功したら、城に火を放って即時撤退です。龍安春香を見つけ出すまでは、退却はありませんよ」
「ははっ」
「よろしい‥‥では、攻撃に移るとしましょうか」
 アヤカシたちは、夜陰に紛れて奇襲作戦を開始する。

 ――天守閣にて、開拓者たちは春香と子供たちの護衛に付いていた。
「安心して下さい春香様。ひいなたちが、必ず守り抜いて見せます」
 小さな龍安家臣鈴梅雛(ia0116)。
「ありがとう雛」
 変装した春香は優しく笑みを浮かべると、雛にお辞儀する。
「雛! 頼りにしておるぞ!」
 こちらも変装した清久郎丸も、菊音も、雛に尊敬のまなざしを向ける。
「奥方様たちに、指一本触れさせません」
 こちらも龍安家臣の赤鬼、井伊 貴政(ia0213)。
「貴政、あなたが居てくれて心強い限りですよ」
「お主の武勇は聞いておるぞ! 鳳華の魔将たちと打ち合う猛者だと聞いておる!」
「これは‥‥恐れ多い言葉にございます。ですが、僕に出来る限りのことはさせて頂きます」
「まぁ、そないに緊張しないで、余裕を以って対応するんが、成功の元どすよ。役者が緊張してたら観客も楽しめへんのと同いどす」
 龍安家のお抱え役者の華御院 鬨(ia0351)は、言って舞いでも披露しようかと提案する。
「子供達には退屈しのぎになるでしょう。鬨、少し相手をしてやってくれますか」
「もちろんどす」
 春香から請われて、鬨は子供たちの前で舞いを披露する。
「僕にはこれと言って策があるわけでもないですが、奥方やお子さんを必ず守り抜いて見せます」
 四条 司(ia0673)はそう言って、険しい顔を見せる。
「期待していますよ。堅くなっているようですね」
 春香は四条に笑みを向けた。
「いえ‥‥そう言うわけではないのですが。すいません」
 四条はぴしゃりと頬を叩いた。
「情勢は不利‥‥生かせるのは地の利と数の差だけ‥‥か」
 風 皇天(ia0801)は呟き、室内を見渡す。警備のシノビが他に10名、開拓者10名が守りを固めている。
「細工は隆々‥‥」
 受身的な現状を不利と見る。
 赤霧に変身術の深刻さを促す。
「完全に本物と確認できるまで誰も近づけないでおいてもらいたい。例えそれが城主の弘秀氏でも」
「無論だな。側近でもない限り、武将連はみな前線に出払っているからな」
「夫人が話さねばいけない場合‥‥夫人の前に立ち、まるで自分が喋っているが如く装ってもらいたい」
 子供たちに際してもシノビ衆に掛け合うが、子供のシノビがいないので、体型に似た藁人形を作り、子供たちの布団の横に寝かせ布団をかぶせる。
 借りてきた大団扇を夫人の居場所の付近に置く。
「霧化する者が居る。怪しい霧を見れば‥‥振り回して煽ぎ返すといい」
 とシノビに伝える。
「いや、大団扇で飛ばせるとは思えんが‥‥」
 赤霧が頭をかいて、霧に変身したアヤカシの特異性に付いて話す。霧に変身しても、風任せと言うわけではないと。
 アルカ・セイル(ia0903)は、春香に近づき、一言投げかけた。
「あんたも大変だね。龍安の旗頭ともなると、こういう場面に遭遇するんだねえ‥‥」
「不運だとは思いません。多くの者たちが、私を支えてくれます。私は、龍安軍の副将としてこの城を預かる身ですが、それは私にしかできないことなのですから」
「ふうん‥‥おじさんは少し尊敬するよ」
 アルカは言って、苦笑する。
 子供は国の宝‥‥それが誰の子供であったとしても‥‥守らなくてはならないと思う‥‥絶対に‥‥殺させはしない‥‥白蛇(ia5337)は、雛と同じ年ごろの龍安家臣の少女だ。
 春香の前でぺこりと頭を下げると、いつもながらおどおどとした口調で口を開く。
「春香‥‥安心して‥‥僕もみんなも‥‥守り抜いて見せるよ‥‥」
「あなたには多くの者たちが助けられたと聞きます。お屋形様に代わって、お礼を言わせてもらいますよ」
「僕も‥‥みんなに‥‥助けられたからね‥‥」
「久しぶりだなあ白蛇。元気そうじゃねえか。会うのがこんな時ばかりで残念だがな」
 赤霧は言って、白蛇の頭をがしがしと撫で回した。
 同じく龍安家臣の魁(ia6129)は、春香や子供たちに、激励の言葉を投げかける。
「大変な時だと思うが、必ず守り抜いて見せるさ。アヤカシも本丸を攻めてくるとは大胆な戦だが、この城が容易く落ちるとは思えんからな。あんたらのことは、命に変えても守り抜く」
「あなたにも幾度か助けられていますね。初めて見た時から、随分と逞しくなりましたね」
 魁は肩をすくめて、
「時の経つのは早いものさ」
 こちらも家臣のコルリス・フェネストラ(ia9657)、春香を前に、お辞儀する。
「春香様、危急を聞きつけ、参上した次第です。このコルリス、我が身と引き換えにしても、あなた様とお子様をお守りします」
「ありがとうコルリス。ですが、仲間や部下たちと協力して、生きて帰りましょう。私も誰一人として失いたくはありませんからね」
「はい‥‥」
 レヴェリー・L(ib1958)は初めての戦闘依頼ではあるが、何とか役割を果たすつもりだった。
「私に‥‥まだ力はないけれど‥‥出来る限りのことをするつもり‥‥清久郎丸も‥‥菊音も‥‥守ってあげたい‥‥。春香のことも‥‥きっと‥‥守って見せる‥‥から」
「集まってくれた開拓者たちには心からお礼を言いますよ。このような危険な戦いに、集まってくれたことを感謝します」
「私は‥‥吟遊詩人だから‥‥少しでも‥‥子供たちを‥‥歌で安心させて上げるつもり‥‥。詩人の歌には‥‥不思議な‥‥力があるから‥‥」
「ジルべリアの詩人のことは伝え聞いています。恐ろしい魔術を操るそうですが、仲間を助ける力を持つと」
 さて、龍安軍の布陣は以下の通り――。
 城外周に戦闘要員の志体兵10人シノビ2人、消火や索敵要員の一般兵60人を配した部隊を5つ作る。4部隊は4方に配置。残る1部隊は非常時の遊兵とし天守閣からの指示で機動する。
 城内にはシノビ30人で天守閣への経路や直下の部屋を防衛。交代で常時超越聴覚を展開する。
 天守閣には春香や子供たちをシノビ10人や開拓者で警護する。瘴気感知系スキルで定期的に索敵し霧化した敵や床を抜けてくる敵を警戒する。交代で常時超越聴覚を展開する。
 と、その時である。城郭の一角に、炎が舞いあがった。赤霧はそれを確認して、超越聴覚で連絡を取る。
「来たぞ。敵襲だ。城郭に炎を使う奴が出て暴れ回っていると。ここは任せるぞ。俺は下の階へ警戒に向かう。万が一侵入された場合は‥‥頼むぞ」
 赤霧はそう言うと、下の階へ降りて行った。

 ‥‥室内に緊迫した空気が張り詰めている。白蛇らシノビ達は、超越聴覚を研ぎ澄ませて、階下の状況を探っていた。
「――そっちだ! 逃がすな!」
「そいつはアヤカシだ! 殺せ!」
「待て! そこから先は通さんぞ!」
「――雷火手裏剣!」
 ――と、コルリスの鏡弦に反応が出る。
「アヤカシ! 上から来ます!」
「何、上――天井か」
 そして、雛も瘴策結界で階下からやってくるアヤカシを探知する。
「下からアヤカシが来ます」
「奥方、清久郎丸様と菊音様と後ろへ下がって下さい」
 貴政は険しい表情で室内を見渡す。術士と違って、どこに敵がいるか分からないと言うのはもどかしい。
 そして、天井から巨漢のアヤカシがすり抜けてくるのと、階下から霧が湧きだしてくるのはほぼ同時だった。霧はみるまに実体を形成して、軽装の人型アヤカシに姿を変えた。
「くふふふ‥‥残るはここだけだ。やはり、最上階であったかよ」
「この中に龍安春香がいるはずだ」
 鬨とアルカはシノビ達と前に出る。白蛇と四条は子供たちを庇うように立ちはだかる。魁は矢を番え、皇天もじりじりと回り込んでいく。
「――! アヤカシ、背後から来ます!」
 コルリスは鋭い声を出して後ろを見た。後ろは外の見晴らし台に通じる扉だ。
 ばりばり! と扉を突き破って、また屈強な人型アヤカシが飛び込んで来る。
「やはりここか! これだけの護衛――龍安春香はどこだ!」
「奥方には指一本触れさせませんよ」
 貴政は刀と盾を構える。
「まあいい、混戦に持ち込んで、誰かがやればいい‥‥行くぞ! 水武! 土武!」
 龍武は、水使いと土の術士に言うと、飛びかかって来た。
 シノビたちと開拓者たちは迎撃に出る。
「大丈夫‥‥怖くないよ‥‥」
 レヴェリーは、小さく口笛を吹いて、子供たちの気持ちを落ち着かせると、武勇の曲で仲間たちを支援する。
 水武が腕を一振りすると、水流が巻き起こって開拓者たちの視界を覆う。また土武は床に手を突くと、衝撃波を撃ち込んで来る。そして、龍武は神速の勢いで迫る。
「ちゃんと入口から来い。まぁ元々あんた達はお断りだけどな!」
 瞬脚で加速したアルカは水武に拳を打ち込む。水武は水流を操り、跳ね返して飛んだ。
「スピードなら負けねえ!」
 アルカは飛び上がって食らいついた。その瞬間水武は霧に変身してアルカの手を逃れる。
「まだ来ます。下から新たに一体」
 雛が確実に瘴策結界で察知するが――。 
 何かが爆発したような音がして、注意がそれた隙に、いつの間にか室内に別の一体が入り込む。雷武である。
「くくく‥‥ここか」
 雷武は雷を撃ち込み、突撃してくる。
「ここから先は通しません――!」
 鬨は円月を打ち込んで龍武に対した。龍武は円月を受け止めると、しなやかな動きで鬨を乗り越えると、春香に迫る。
「行かせるか!」
 貴政が鬼の形相で龍武に両断剣を叩き込む。
「ぐお――!」
「下がって下さい」
 四条は床を潜って移動してきた土武に切り掛かった。土武は太い腕で四条の攻撃を受け止め、四条を怪力で吹き飛ばした。
 皇天は裂帛の気合とともに拳を撃ち込む。土武を直撃した拳がアヤカシにめり込む。
 四条は立ち上がって土武に炎魂縛武を叩き込む。
「ちい!」
 連打を食らって、床に潜り込む土武。
「こちらへ」
 魁は混戦から逃げるように、春香と子供たちを部屋の隅に移動させると、屏風で春香たちを隠した。
 レヴェリーは隠れる春香たちの前で、戦況を見やりつつ、武勇の曲を奏でる。
 と、そこでコルリスの鏡弦がまた新たなアヤカシの反応を探知する。雛も同時にそれを察知していた。
「もう一体、下から来ます」
「赤霧‥‥白蛇だよ‥‥敵が次々と来ているよ‥‥下はどうなっているの‥‥」
 混戦を見やりつつ、白蛇はどうにか連絡を取り合う。
「赤霧‥‥」
「白蛇か、何があった」
「敵が次々と押し寄せて来て‥‥」
「分かった。俺もどうにか戻る」
「頼むよ‥‥」
 開拓者たちとシノビ達は、春香らを守るように展開して、アヤカシと向き合う。
 龍武、水武、雷武、土武らは、不敵な笑みを浮かべる。
「その後ろか、龍安春香は」
 そうして、不意に、空中から美しい若者の姿をしたアヤカシが姿を見せる。
「天晋禅様――」
「遅い。まだ手こずっているか。龍安兵が戻ってくるぞ」
「申し訳ありません」
「一気に仕留める。我に続け」
 天晋禅は腕を持ち上げると、「嵐よ!」と唱えて腕を一振りした。
「――!」
「何だ!」
 室内が突如として嵐に包まれ、開拓者たちの視界が嵐に包まれた。
「幻術どす!」
 鬨は鋭い声を出したが、嵐の轟音にかき消された。
 幻術と分かっていても、嵐は本物のように五感を刺激してくる。
 アヤカシたちは嵐に紛れて、突撃してくる。
「アヤカシが接近してきます」
 雛とコルリスは仲間たちに告げると、貴政は仲間たちに指示を飛ばす。
「春香様らの盾となるように、隊形を取りましょう! 敵を近づけないように、守備隊形を!」
 嵐の中から殺到してくるアヤカシたちに、開拓者たちはどうにか打ち合って押しとどめる。
 アヤカシたちの術攻撃に耐えながら、開拓者とシノビ達は守備を固める。
 貴政、鬨、四条、皇天、アルカ、白蛇、魁らは、シノビと連携して四人のアヤカシを迎撃する。
 数では勝る龍安側は、防備を固めてひたすらアヤカシの侵入を阻んだ。
「ちっ、しぶといですね‥‥」
 天晋禅は踏み出してくると、鬨に一撃を撃ち込んだ。鬨は直撃を受けてよろめく。
「どきなさい人間。抵抗しても無駄なことです」
 天晋禅の瞳が妖しくぼうっと光った。
「抵抗しても無駄なこと‥‥」
 鬨は呟き、意識が朦朧となっているところで立ち直った。
「妖術どすか‥‥!」
 鬨は自分の膝に刀を突き立て、意識を立て直した。歯を食いしばって天晋禅に切り掛かる。
「ぬっ‥‥!」
 天晋禅は弾き返すと、流れるように守備隊形に入り込む。
「させん!」
 四条は槍を突き出したが、刃は天晋禅の残像を貫いた。
「何だ――?」
「分身だよ‥‥」
 白蛇が散華で手裏剣を連発して、分身ごと射抜く。
「これ以上奴を近づけるな!」
 魁は嵐の中で声を張り上げて、天晋禅を打ったが、矢は残像を貫くのみ。
「畜生! 妖術さえなければ――!」
 アルカも、幻術の中から飛び出してくるアヤカシに苦戦を強いられて罵り声を上げた。
 そこで、ただ一人、幻術を解いたのは、白蛇であった。視界を回復させた白蛇は、味方の隊形が予想以上に崩されているのを見て、危険を感じる。
 しかし、白蛇一人で対応できるものでもない。散華でどうにか天晋禅の足を止める。
 それでもやがて、一人、また一人と幻術を破って行く。
 開拓者とシノビたちは、守備隊形を立て直して、アヤカシ達を押し返す。
「ぬう‥‥これまでですか」
 天晋禅は幻術から回復した開拓者たちに後退する。
 そして、赤霧たち、龍安軍のシノビ達が駆けつけてくると、天晋禅は遂に撤退する。霧隠れで姿を消すと、部下のアヤカシ達も撤収して行く。天守閣から飛び降りて撤退する。
「アヤカシたちはどうなった‥‥?」
 白蛇の問いに、赤霧は「敵は撤退した」と告げる。
「だが油断は出来んな。またどこから攻撃が来るか分からん。今回は何とか凌いだか」
 春香と子供たちが姿を見せる。
「奥方様――御無事で何よりです」
 貴政は刀を納めると、春香たちの姿を確認してお辞儀した。
「みな御苦労でした。アヤカシは逃げ散ったと、民にも知らせましょう。それから、お屋形様や武将たちにも、天承の無事を知らせましょう。今は‥‥」
 春香はそう言って、静かに頷いた。