【天龍】鳳華の竜神
マスター名:安原太一
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/05/20 23:34



■オープニング本文

 武天国、龍安家の治める土地――鳳華。東の魔の森からあふれ出したアヤカシの大軍は、西方の人里を目指して攻撃を開始していた。甚大なアヤカシ軍の攻撃の前に、最前線の砦が次々と陥落して行く。
 その中でも突出して被害が大きいのが、鳳華の七魔将と呼ばれる上位のアヤカシが采配を取っている戦場である。この魔将たちはかつて、約二十年前の鳳華の混沌期に災いを振りまいたアヤカシの将たちであり、恐るべき戦闘能力を有していた。
 中でも、七魔将最強のアヤカシ、「竜神」の異名を持つ魔将――在天奉閻の出現は、龍安家に衝撃を与えた。記録によれば、在天奉閻は鳳華のアヤカシ軍の頂点におり、伝説的な強さが残っていた。妖術を良く駆使し、最前線でたった一人で一軍を相手にしたこともあると言う。
 在天奉閻が出現したのは、東方の里の外れ、砦を粉砕して、百体余のアヤカシ兵士を率いて前進してくる。在天奉閻の名は瞬く間に伝播し、里は恐慌状態に陥っていた。混乱が大きくなったのには、人界に潜んでいるアヤカシの動きも絡んでいた。

 ‥‥在天奉閻は、悠然と歩みを進めていた。周囲にはアヤカシ百体余り。山のような巨人から鎧武者、剣士、術士などで、これだけの戦力で、在天奉閻は10キロ余りの最前線を踏破し、砦を粉砕して数倍の龍安軍を後退させた。
 その姿は、3メートル近い偉丈夫で、ゆったりとしたローブを幾重にもまとい、全身から微かにオーラのような光を放っている。表情は鬼に酷似しており、赤褐色の肌をしていて、角と牙を持っていて、たてがみにも似た金色の髪が揺れていた。
『大将軍――』
 配下のアヤカシ兵士が言葉を発した。人語ではない。大将軍とは在天奉閻のことである。
『人面鳥からの報告によれば、龍安軍は里で態勢を立て直し、我らを迎撃するつもりのようです』
『ひと思いに踏み潰してやりましょう! 奴らの血と肉と恐怖が、我々をより強くします!』
『‥‥‥‥』
 在天奉閻の金色の瞳に、深遠な思考の閃きが覗いた。
『大将軍よ!』
 意気盛んな部下達を前に、在天奉閻はゆっくりと手を持ち上げた。
『殺すのは簡単だ。我々は、それ以上のことを為さねばならない。忘れるな、我々は‥‥』
 その後の言葉を聞いて、アヤカシ達は歓喜の咆哮を上げた。

 ――里。
 首都の天承から、龍安家頭首の、龍安弘秀が、筆頭家老の大宗院九門とともに最前線に到着する。
「お屋形様――!」
 サムライ大将が飛んでくる。
「敵はどこまで進んでいるか」
 大宗院が問うと、
「はっ! 里の東方、約一里の地点を進んでおります! アヤカシの総数は100余りと推測されます」
「まだ間に合うな‥‥殿、我々にとっては在天奉閻は未知の存在です。今投入できる志体持ちをここへ集めて対しましょう」
 大宗院の言葉に、弘秀は厳しい顔。小さく頷く。
「もはや、魔の森の活動は止められぬか‥‥これよりは、俺がいる場所が本陣になるだろうな」
「は‥‥」
「うむ、では行くか。敵は『竜神』とまで呼ばれるアヤカシの総大将だ、心してかかろう」
 弘秀は立ち上がる。
 龍安軍の兵士たちは、整然と襟元を正すと、隊列を組んで里を出立した。


■参加者一覧
まひる(ia0282
24歳・女・泰
華御院 鬨(ia0351
22歳・男・志
玲璃(ia1114
17歳・男・吟
白蛇(ia5337
12歳・女・シ
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
天ヶ瀬 焔騎(ia8250
25歳・男・志
朱麓(ia8390
23歳・女・泰
夏 麗華(ia9430
27歳・女・泰
シュヴァリエ(ia9958
30歳・男・騎
サーシャ(ia9980
16歳・女・騎


■リプレイ本文

「誰も、死なせたくはない。否。誰も死なせるものか。だから皆も死ぬとハラを決めないでくれ。生きると。生きて勝つと。そう誓ってくれ。仕える主でもなく、指揮を担う私でもなく、誰でもない‥‥自分自身にだ。生きてくれ‥‥勝つぞ、皆で!」
 開口一番、戦場に向かう兵士たちの前で、まひる(ia0282)は高らかに叫んだ。
「おー!」
 兵士たちは、このクールビューティの演説に沸き立った。英雄とはこうして現れるのかも知れない。
「また、アヤカシの大将どすか。敵も本格的になっているということどすか」
 華御院 鬨(ia0351)は思案顔で、沸き立つ兵士を見やりながら、ようやくここまで来たかという思いであった。
「敵軍を退却させるまでお味方を持ちこたえさせられるよう、全力を尽くします」
 玲璃(ia1114)の言葉に、傍らの龍安家頭首、龍安弘秀は頷く。
「玲璃、よく来てくれたな。此度の戦、一瞬たりとも気は抜けぬ」
「はい。お屋形様」
 玲璃は、戦場に立つ弘秀の気迫を感じた。
「巫女たちは任せるぞ玲璃」
 一方、筆頭家老の大宗院九門は、冷然とした口調で、玲璃は思わず背筋に寒いものが走った。
 シノビの白蛇(ia5337)は、玲璃の後ろからひょこっと顔を出した。
「七魔将最強‥‥確かに厄介な相手‥‥けど‥‥今まで見る事すら出来なかった敵陣の底が見えてきたという事でもあるね‥‥魔将を倒せば戦局は僕達に傾く‥‥容易な事では無いだろうけど‥‥御屋形様と力を合わせて成し遂げよう‥‥」
「白蛇か。まひるやお前たちの力、俺に貸してくれ」
 弘秀は、にかっとわらって、白い歯を見せる。白蛇はおどおどと弘秀に献策する。
「戦場はシノビを伏せられる森近辺を推奨‥‥龍安兵は敵に合わせて中央、右翼、左翼へ布陣‥‥中央のサムライを増やし‥‥咆哮で敵陣の機動を集中させ‥‥その隙に左右の翼で敵側面を囲む‥‥半包囲で敵陣の機動性を削げば‥‥在天奉閻の全方位攻撃や射線攻撃に巻き込まれる敵が増えると思う‥‥回復の軸である巫女は‥‥在天奉閻の射程攻撃が届きにくい後方に配置だよ‥‥」
「咆哮で敵陣を崩すのは、やはり効果があるでしょう。中央のサムライを厚くするのは良い案です」
 大宗院が、白蛇の策を支持する。
 鈴木 透子(ia5664)もまた、戦闘を前にきりりと引き締まった表情を見せていた。
「砦を壊したという在天奉閻の光の爆弾などが気になります。前線が硬直すれば放ってくるでしょう。今の所、混戦に持ち込んで放ち難くするしか対策が思いつきませんね。一撃目を耐えて、その後の隙を突いて混戦に持ち込むしかないと思います」
 鈴木は弘秀に進言する。
「そうだな‥‥中央から敵陣を崩して、混戦に持ち込むか‥‥」
 弘秀は言って、鋭い瞳を鈴木に投げかける。
 この地も久々だな。相変わらずの激戦区だな‥‥。胸の内で一人ごちる天ヶ瀬 焔騎(ia8250)。
 この戦局を動かす力は俺には無いな。少なくとも俺一人では‥‥一人じゃないから、この戦いに勝つことが出来る、そうだろう? 死者が出ないように、死力を尽くす。俺に可能な限り。この焔が潰えぬ限り。戦い抜こう、戦闘狂らしく、な。
 朱麓(ia8390)はまひるとともに中央前線での指揮を願い出た。
「お屋形さん、あたしはまひると一緒に在天奉閻を押さえてみるつもりだよ。兵隊を少し借りて行くよ」
「朱麓か。竜神とまで言われるアヤカシだ。油断するなよ」
 弘秀の言葉に、朱麓はからからと笑った。
「あたしは死に急ぎはしないよお屋形さん」
「弘秀様――」
 夏 麗華(ia9430)が進み出てくる。
「わたしも弓術士をお借りしたく存じます。弓師たちとともに、左翼から巨人を中心に撃破を狙って行きたく思います。最後には、やはり在天奉閻に向かうことが出来ればと」
「ああ、兵士たちは適当に持って行ってくれ。しかしふむ、在天奉閻に対する際は、機を図って、多数で当たることが出来ればよいな」
「はい‥‥」
 騎士のシュヴァリエ(ia9958)の心境は――。(集まった開拓者達を見て)なんと言うか、男も女も皆美形だねぇ。俺だけ男臭いというか鉄臭いというか、少々肩身が狭いぜ。ま、それはそうと龍安の兵士は剛の者が多いと聞く。こいつは色々楽しみだ。
「よお華御院、俺は龍安の家臣ではないから直接指揮することは出来ない、一応、緊急時は俺の指示でも従って貰える様に頼んでもらえんか」
「シュヴェリエはん、うちは役者であって家臣ではないのどす‥‥が」
「そうだっけか。ま、龍安兵からすれば俺は見た目からしてよそ者だからな、そんな見ず知らずの男の言う事を素直に聞いてくれるとは思えないが。どうすっかな」
 鬨は、まひるに声を掛けた。
「まひるはん」
「はいな」
 鬨はまひるに事情を説明すると、まひるは弘秀に掛けあう。
「お屋形さん、こっちのシュヴァリエは開拓者なんだけど、一時的にでも兵を指揮することは出来ないかな」
「厳密には家臣でない奴に指揮を任せることは出来んな。兵士たちが納得しないだろう。一人の開拓者としての働きに期待しよう」
「だってさー残念」
 まひるは振り返ると、シュヴァリエは肩をすくめて「まあ仕方ない」と歩いていった。
「ふふ‥‥淑女ならば一撃必殺ですわ」
 サーシャ(ia9980)は、言って、念願のグランドソードを持ち上げた。
 弘秀は、糸目で笑うサーシャの言葉に思案顔。
「淑女ならば一撃必殺か。まさに正鵠を得ている」
 弘秀は妙に納得すると、からからと笑った。
 そうして出撃前、鈴木は兵士たちに言葉を投げかけた。
「みなさん大変だと思います。だけど後衛を信じて下さい」
 巫女たちの支援があることを伝えておく。
 龍安軍は軍議の末に、敵軍と同じく中央と両翼に陣を敷き、中央のサムライを厚く、咆哮でアヤカシの陣を崩して両翼を突破して敵を包囲すると言う策を固める。
「よし、各部隊の連携を密に、最後まで何があるか分からんぞ。在天奉閻の軍を叩く!」
 立ち上がる「龍」の軍旗。兵士たちは「えいえいおー!」と声を拳を突き出すと、配置について行った。

 アヤカシ軍陣中――。
 在天奉閻は、陣を敷いた後、龍安軍の動きを待っていた。と、そこへ、ぼうっと人影が湧いた。偵察に出ていたアヤカシである。
『大将軍、龍安軍陣中に、龍安弘秀の姿を確認しました』
『ほう‥‥若き頭首自ら戦場にな‥‥』
『龍安軍は、我らと同様に、中央を厚く、両翼から包囲せんと動いております』
『では我らも動くとするか。全軍、前進を開始せよ!』
 オオオオオオオオオオ――! アヤカシの咆哮が雷鳴のように轟いた。

「サムライ衆! 咆哮を解き放て――!」
 指揮官たちの号令とともに、150人のサムライたちが咆哮を解き放った。
 が、アヤカシ軍は意外に耐える。さして動揺する気配もなく、整然と前進してくる。
「やるね‥‥いくよ朱麓!」
 まひるは兵士たちに目を向けると、先陣切って突進した。
「油断するなよみんな!」
 朱麓も駆けだした。
 兵士たちは二人に続いて突撃する。
「うおおおおおお!」
 アヤカシ軍からも咆哮が轟く――ガオオオオオオオオ!
 両軍の先端が激突する。
 鈴木はまずは後方にあって、在天奉閻の妖術を警戒していた。長射程の光線や光の爆弾に警戒していたのだ。
 龍安軍が正面からぶつかって来たこともあって、アヤカシ軍は同じく正面に兵を割いてきた。
 両軍の術士たちから式や召喚アヤカシが飛び交い、互いの前面に叩きつけられる。
「あんた達‥‥ヤバいと思ったら即座に退きな」
 後ろの兵士にたちに真剣な顔で言うと、朱麓は巨人に突進していった。
「行くよ朱麓!」
「ほいさ!」
 まひるは巨人の剛腕をかいくぐって駆け上がると、気力を振るい起こして顔面を蹴り上げた。
「うらああああ! お姉さんの蹴りは痛いぞー!」
「流石まひさま、なかなか良い蹴りで。んじゃあたしも‥‥そらぁぁぁっ!!」
 朱麓は巨人の肩に上がると、思い切り雷鳴剣を首に叩き込んだ。雷の閃光が槍からほとばしって、巨人を薙ぎ倒した。
 そこへ群がって集中攻撃を浴びせる兵士たち。

 ――右翼。龍安軍は数では勝る、アヤカシ軍の側面に回り込んでいく。
 横踏で舞うようにアヤカシの攻撃を回避する鬨。軽やかに降り立つと、地面を蹴って加速する。アヤカシ兵士の首に切りつける。
 アヤカシ兵士は避け切れずに、直撃を食らって吹き飛ぶ。
「切れないとは、雑魚とは言え硬いどすな‥‥」
 そこへアヤカシ術士の召喚術が飛んでくる。苦心石灰で耐えると、突撃してくる鎧武者の一撃を受け止める。凄まじい衝撃で、鬨は腕が痺れる。
『ぐははは! 人間よ! 貴様の首、もらい受けるぞ!』
 アヤカシの言葉は鬨には分かるはずもない。ただ残酷な笑みが、物語っていた。
「あんさんに負けるわけにはいきません!」
 鬨は精霊を呼び覚ますと、白梅香を撃ち込んだ。浄化の一撃が鎧武者を切り裂く。
「ヘイ! そこの鎧野郎。いっちょ楽しもうじゃないか」
 シュヴァリエは鎧武者に打ち掛かって行く。ガードを使用して肉薄、鎧の隙間や繋ぎ目を狙っていく。
 ――キイイイイイン! とグランドソードが弾かれる。
「ならばもう一撃!」
『小賢しいわ!』
 鎧武者は体当たりで突進してくるが――。
「こっちもぶちかましていくぜ!」
 シュヴァリエは剣を盾に激突する。
 そうする間に、巨人対策として、兵士たちはロープを持ってやってくると相手の足に引っ掛けた。が、ロープはいとも簡単に切れた。
「ちい!」
 シュヴァリエは鎧武者の顔面を殴り飛ばして上体を浮かせると、そこへ剣を叩きんだ。一撃が貫通するも、鎧武者は咆哮して反撃してくる。

 左翼――。同じく数で勝る龍安軍はアヤカシ軍を包み込んでいくが、敵の反撃も厳しい。
「滅ぶ覚悟が出来た奴から掛かって来い。燃やし尽くしてやるよ――」
 天ヶ瀬は巨人を見上げる。
 ガオオオオオオ――! 巨人が拳を振り下ろしてくる。
 天ヶ瀬はかわして一撃撃ち込む。剛腕に業物がめり込む。
「ぬおおおおおお‥‥!」
 天ヶ瀬は刀に万力を込めた。それでも切れない。
 逆襲に転じる巨人の一撃を転がるようにかわす。
『ぐははは!』
 鎧武者が咆哮を上げて、天ヶ瀬の首に斧を振り下ろしてくる。
 弾き返すと跳ね起きて、天ヶ瀬は鎧武者に切り掛かった。
「朱雀悠焔、赤流鳳!」
 紅蓮紅葉から流し切り。ドウ! ドウ! と鎧武者を業物が貫通する。
「皆さん、行きますよ! 巨人に集中攻撃!」
 夏は弓術士たちに合図すると、自身も重突を放った。凄まじい機械弓の一撃が巨人を貫通する。
 ズドドドドドド! と巨人に突き刺さる矢。
 サーシャはアヤカシ兵士を切り伏せると、鎧武者に突進する。
「何と言うしぶとさですか‥‥これほどのアヤカシの集団が‥‥」
 サーシャは鎧武者と切り結んで流れると、巨人の足元にグランドソードを叩き込んだ。
 巨人は怒りの咆哮を上げて掴みかかってくる。
 サーシャは飛び退って、鎧武者の反撃を受け止める。
「おおおおお落ちろおおおお!」
 天ヶ瀬は巨人に紅蓮紅葉を叩き込んだ――巨人の足が遂に崩れる。
「ってえ!」
 夏は、弓術士たちとともに、巨人目がけて矢を連打した。
 
 全く五分の激戦が続く中、負傷する兵士たちも続出して、後退してくる。玲璃ら巫女たちは回復作業に追われることになる。
 玲璃は、続々とやってくる兵士たちに、パッションリュートを奏でて、精霊の唄でダメージを一挙に回復させていく。
「お、力が‥‥戻って来た!」
「巫女の術で体力が戻った! 良し! もう一度前に出るぞ!」
「みなさん、練力の続く限り、回復は致します。生きて戻って下さい」
 玲璃は、兵士たちに言葉を掛けると、彼らを送りだしていく。
「ありがとうございます玲璃様。しかし、この戦、厳しいものになりそうですね」
「在天奉閻は姿を見せましたか」
「いえ‥‥両軍ともに激戦でして。お屋形様も最前に出ておられますが」
「気を付けて下さいね。お屋形様にも、無事であればよいのですが‥‥」
 玲璃の言葉を受けて、兵士たちは再び戦場に戻って行く。

「どうだ白蛇、在天奉閻の動きは掴めそうか」
 弘秀は、自らも激戦に身を置き、アヤカシ兵士を叩き斬る。傍らに付く白蛇は味方のシノビ達を束ねて、情報収集を試みていたが、在天奉閻が動き出す気配はない。
「今のところ‥‥その気配はないみたい‥‥」
「はっはあ! しかし、全くこのアヤカシども、半端じゃないな!」
 弘秀はアヤカシ兵士を吹き飛ばすと、牙を剥いた。
「お屋形様、余り前に出過ぎないように」
 大宗院が苦言を呈する。
 ――その時である。前線に出ていた鈴木は、敵の戦列に異変が生じるのを察知した。巨人始め、アヤカシたちがすうっと道を開けたのである。
「来る‥‥?」
 鈴木は混戦の中、異形のアヤカシを視界に捕えて、結界呪符「黒」を張る。
 光線が結界呪符を直撃して、爆発する。
「今です! 飛び込んで下さい! 長くは持ちません!」
 続いて、結界呪符「白」を敵中に立てて、鈴木は混乱を誘った。
 煙の中から前進してくるアヤカシ軍と在天奉閻。
 まひるは、接近してくる在天奉閻を見た。服を脱いでおいて、敵将を煽る。
「服を吹き飛ばす程度の能力‥‥だと‥‥!? なんてハレンチなー!」
 と、在天奉閻の口から理解不可能な言葉が発せられ、まひるは動きを封じられた。
「――!」
 直後、閃光がまひるを焼き尽くした。
「あいたたー! すげー痛い!」
 朱麓はまひるが生きていることを確認すると、在天奉閻に向かう。
「龍安家の矛に貫けないものは無い‥‥無論、あんた達のその鎧もね」
「鳳華の竜神を知らぬか、人間よ、古い話だ」
 在天奉閻は同じように呪文で朱麓たちの動きを封じると、閃光弾を叩きつけた。
 爆発と閃光が前線を吹き飛ばした。
 そこで、両翼を突破した龍安軍が側面を突く。
「こない状況でもまだ、戦うんどすか。自軍が半減したら、兵法では撤退するもんどせ」
 合流した鬨は在天奉閻に言葉を投げる。
 白蛇は影縛りでその動きを封じ込めようとしていた。
 在天奉閻は呪文を唱えながら、すっと腕を一振りする。
 ほとばしる閃光を鈴木の結界が防ぐ。
「話は通じないようだな」
 天ヶ瀬とシュヴァリエ、サーシャはスキル全開で突撃した。在天奉閻の懐へ飛び込む――!
 しかし、在天奉閻の呪文が三人の動きを封じる。
「何だ‥‥これはっ! 動けない」
 夏たちは矢を在天奉閻に叩きつけた。ドカカカカ! と矢は突き刺さったが、ぽろぽろと落ちた。
「おじさんボケは通じないんだね」
 まひるの言葉に朱麓が頭を叩く。
「ボケは通じないってさ」
「在天奉閻――」
 鬨が進み出ると、在天奉閻は腕を持ち上げた。
「竜神の姿を目に焼き付けるがいい。それは忘れがたき記憶となろう」
 在天奉閻はそう言い残すと、後退して半里兵を退いた。
「竜神か‥‥」
 白蛇は、遠ざかるアヤカシ軍の殿に立って歩く在天奉閻を見つめるのだった。