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■オープニング本文 天儀本島、武天国、サムライ氏族の龍安家が治める土地、鳳華――。 激戦が続いている。鳳華各地で動き始めたアヤカシの魔将たちが、軍勢を率いて魔の森を発ったのである。 東の大樹海――鳳華の東方を包み込む魔の森から出現した魔将、その名を黒太天と言う。二十年前の記録によれば、黒太天とは蟲を操るアヤカシの魔将である。この地から古く住む民は、黒太天のことを、鳳華の七魔将として記憶していた。 「黒太天が‥‥またあの魔将が‥‥」 老人たちはその名を口にして震えあがった。 最前線から動き始めた黒太天は、蟲の軍勢を伴って前進を開始する。その軍勢は甚大で、龍安軍の防御陣を圧倒して崩壊させた。蟲の大軍は里に届き、民に牙を剥き始める。 「黒太天ですか‥‥さて、二十年前を思い出しますな」 首都の天承から軍を率いて迎撃の任に当たるのは龍安軍の陰陽頭の明道心光悦である。 「まずは民の避難を最優先に、アヤカシに飲まれた里は放棄して後退し、新たに防御陣を敷きます。総力戦になりますよ」 明道心は志体持ちの精鋭部隊を陣の先鋒に投入すると、その後ろを大勢の一般人の兵士たちで固め、アヤカシの前進を物量で食い止める策を立てた。 ――アヤカシ軍陣中。 蟲の大軍が里の一端を包み込んでいた。人間の体長はある大きな虫たちが、ざわざわと集団を形成している。その中央に、着物を着た美女が立っていた。女の周りには、とりわけ蜘蛛が蠢いていた。この女が黒太天である。 ブウン‥‥と、黒太天のもとへ、大きな蜂が飛んでくる。蜂は口を動かして言葉を発した。人語ではない。 『黒太天様――人間たちは里を放棄して整然と陣を立て直しつつあります。志体持ちでしょう、精鋭を前線に送り込み、民の避難を手助けしています。大軍を送りこんできております』 美しい黒太天の顔に冷たい笑みが浮かぶ。 『ほう‥‥ようやくことの重大性に気付いたか。くっくっく‥‥』 『いかがなさいますか』 『出る。志体持ちは任せるぞ。わしは直接に背後の民を狙ってくれよう』 『お一人で向かうのは危険です。せめて蜘蛛を何体かお連れ下さい』 『では、陽動に十体ほど連れて行こう』 すると、黒太天は民の避難が続いている里の方へ向かって歩き出した。 程なくして、龍安軍の陣中に、蜘蛛を操る女のアヤカシが出現したと言う知らせが入って来た。総大将の明道心は、それを黒太天による直接の攻撃と断じた。民の避難を進めつつ、黒太天率いる蟲軍の前進を止める。 「やれやれ‥‥私が軍を率いることになるとは。先が思いやられますな」 明道心は、誰に問われるまでもなく一人ごちると、戦場に来ていた開拓者たちを呼んだ。 「戦場に黒太天が出現しました。みなさんには、まず黒太天の迎撃に専念してもらいたい」 開拓者たちは顔を見合わせる。明道心は必要な兵は貸すと言った。 「恐らくお前たちは我が軍の志体持ちの上を行く。ならば、最大の戦力を敵将にぶつけるのは当然であろう。補助に必要な兵は用意する。無限と言うわけにはいきませんがね」 明道心はそう言うと、冷笑を浮かべて見せた。 「では、黒太天のことを教えてくれ」 開拓者たちは、深い瞳を覗かせる目の前の陰陽頭に問うた。 ――激戦が始まる。 |
■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072)
25歳・女・陰
鈴梅雛(ia0116)
12歳・女・巫
犬神・彼方(ia0218)
25歳・女・陰
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
龍牙・流陰(ia0556)
19歳・男・サ
谷 松之助(ia7271)
10歳・男・志
贋龍(ia9407)
18歳・男・志
シュヴァリエ(ia9958)
30歳・男・騎
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
エルネストワ(ib0509)
29歳・女・弓 |
■リプレイ本文 出立前――慌ただしさを増していく龍安陣中に開拓者たちはいた。 「さてと‥‥俺たち開拓者は黒太天に集中するのでな。龍安軍には民の避難誘導を任せるぞ」 北條 黯羽(ia0072)は龍安軍のサムライに声を掛ける。 「黒太天は恐るべき相手だろう。明道心様は開拓者たちをぶつけると言われたが、心してかかってくれ。後方支援については任せておけ」 鈴梅雛(ia0116)は、龍安兵たちに声を掛けていた。 「みなさん、黒太天は何としてもひいなたちが食い止めます。力を貸して下さい。民人の避難には、ひいなたちだけではとても手がたりませんから」 兵士たちは、雛の言葉を聞いて集まってくる。 「雛様のお達しだ! 行くぞ皆の衆!」 「おお! 雛様の頼みとあっちゃ断れねえわな」 「みなさん、ありがとうございます」 雛は集まってくる兵士たちを前にぺこぺこお辞儀する。 兵士たちは「かっかっ」と笑って、胸を打った。 「みんな雛様が体を張って戦ってくれてるのは知ってまさあ! 今日は、俺たちが恩返しをする番です」 「頑張りましょうね。民のみなさんが助けを待っています」 犬神・彼方(ia0218)はギルド屈指の実力の持ち主、鳳華へ足を踏み入れたのはこれが初めてである。 「黒太天、な‥‥幾ら俺ぇが女好きでも、おっかない蜘蛛女は勘弁だぁねぇ」 「女性は化粧をするもんやけど、黒太天はどこまで女性でいられるかどすなぁ」 言ったのは美しき歌舞伎役者の女形、華御院 鬨(ia0351)。 「見た目ぇが女でも、魂は人を食らうアヤカシだぁね。親玉の本性を暴いてやるかぁね」 彼方の言葉に鬨は顎をつまんだ。 「尋常ではない強さなのは確かどす。鳳華のアヤカシの親玉と言うのは、とんでもなく打たれ強くて、しぶとい連中が多いどす」 「ふうん‥‥ま、たまに報告書には目を通してるがぁね‥‥」 龍牙・流陰(ia0556)は思案顔で、龍安陣中に目を向ける。 「黒太天ですか‥‥僕が今まで遭遇したアヤカシの中では、間違いなく最も厄介な相手ですね。‥‥もっとも、記憶にある範囲では、ですが」 「流陰。気を付けるんだよ。俺も噂でしか知らないけどね。鳳華の魔将ってのはとんでもない戦闘能力を持っているらしいからね」 北條は犬神一家の家族である龍牙に声を掛ける。 「まあ‥‥と言ってもこの戦い、どいつも危険なんだがぁね」 家長の彼方は言って肩をすくめる。 黒太天‥‥汝の思い通りにはさせぬ‥‥。谷 松之助(ia7271)は、胸の内に呟くと、兵士たちと打ち合わせを行っていた。雛がするように、民の避難には龍安軍の兵士と連携することが重要だと、みなが考えていた。 「状況が状況ゆえに、早めに行動しなければな‥‥頼みますよ龍安兵士のみなさん」 谷の言葉に、兵士たちは厳しい顔。 「任せて下さいよ谷さん。民のことは、俺たちで何とかして見せますよ」 「よろしくお願い申す」 強敵ですねぇ‥‥さて無事帰るにはどうしたものでしょうか。とりあえず頑張りますか‥‥。 「黒太天は相当な強敵のようですが、全力で当たるしかないですね。僕にどこまでのことが為せるかは分かりませんが」 「鳳華の魔将たちは、人並に知恵の回る上位のアヤカシです。どれだけ警戒してもしすぎると言うことはありません」 雛がこそっと贋龍(ia9407)に言った。 「ふむ。知恵の回るアヤカシは厄介ですよね。僕も、心して掛かるとしましょう」 「見た目が麗しいとはいえ、中身は醜悪な蜘蛛アヤカシか。特殊能力もそうだが、なかなか厄介そうだな」 シュヴァリエ(ia9958)は言ってから、谷に言葉を掛けた。 「蜘蛛アヤカシか。そう言えば懐かしいな、お前さんと初めて同行した依頼も蜘蛛アヤカシだったな」 「うむ。そう言えばそうでしたな」 「ま、今回は規模が違うがな」 「この地のアヤカシ軍は真に軍団規模ですからね。それに、恐るべき敵将も揃っています」 「そんじゃ、よろしく頼むぜ。死ぬんじゃねぇぞ」 「お互い様ですね‥‥」 美しき銀髪の魔女ジークリンデ(ib0258)は、静かな口調で感想を言った。 「七魔将の動きが活発になっていますね。彼らの長の動く日も近いと云う事なのでしょう。ただ、全軍で攻めてきていない処をみるとまだ本気ではないのかも知れません。それでも、私達にとっては忌むべき敵に変りありません。撃ち滅ぼす覚悟で参りましょう」 「よくよく考えてみると、七魔将と言うからには、魔将を束ねる長と言うのがいるのかもしれませんどすな‥‥うちらは出てくる連中を潰すだけどすがな」 鬨は思案顔で答える。 「私はまだ魔将と戦ったのは一度きりですが、それでも、とんでもない相手と言うことは分かりました。長と言うのがいるとすれば‥‥想像もつきませんが」 そろそろ魔将の撃破をしたい処だけれど、中々に難しいところかな。でも、最低限黒太天の侵攻は此処で食い止めないとね。 龍安家臣に名を連ねるエルネストワ(ib0509)は、胸の内に呟き、口に出しては軍のシノビに偵察を頼んだ。 「黒太天の動きを探ってちょうだい。わたくしたちも戦場に向かいながら警戒はするけれどね。手近なところで、敵の動きは分かっているのかしら」 「はい――」 シノビは地面に地図を書き始めた。それから石を置いて、東に広がる村々の位置を示す。 「最新の情報では、黒太天はここ、ナズナの村にて確認されています」 「ふむ。それは有り難い話だわ。どこにいるかも分からない敵を探す時間もなさそうだしね」 「我々は引き続き情報を集めます。蜘蛛に警戒して下さい」 「ありがとう」 それから開拓者たちは、龍安兵を集めると、陣を発った。 ――しゃかしゃかしゃかしゃか! と蜘蛛の群れが村に殺到して行く。 民は、荷物を荷車に積んで、避難の準備を進めていた。 「――!」 次の瞬間、加速した蜘蛛が民をばくりと飲み込んだ。 蜘蛛は機敏な動きで跳ねると、家屋に張り付き、糸を吐いて入り口を封鎖する。そこから屋根をこじ開けて、中にいる民に狙いを付けた。 アヤカシの牙が民を捕え、絶叫が鳴り響いた。 続々と蜘蛛が民を食い殺していく中、逃げる風もなく、一人の女がゆらり‥‥と、姿を見せた。黒太天である。 蜘蛛は、民を食らいながら、村人たちを的確に追い詰めて行く。 囲まれた民人たちは、恐怖に捕らわれて動けなくなった。 「くく‥‥お前たちよくやった」 黒太天は進み出ると、民に近づいていく。 巨大蜘蛛がきいきいと鳴き声を上げ、黒太天は蜘蛛を撫でると、後ろに下がらせる。 黒太天は、一人の娘に目を付けると、歩き出した。 「な、何‥‥あの人」 「蜘蛛使い‥‥アヤカシ?」 黒太天は娘の前に立つと、にいっと笑う。次の瞬間、ぐわっと黒太天の口が牙を剥いて大きく開くと、娘を丸飲みした。 「ひっ‥‥!」 「あ、アヤカシ‥‥!」 黒太天はあっという間に食べた娘を消化すると、ぺろりと舌舐めずりして残酷な笑みを浮かべた。 「鳳華の民よ、幸運にも生き延びた者は伝えるがよい。わしは黒太天。蟲の長よ。この地は再び暗黒の時代に入るのだ」 と、黒太天の背中に、エルネストワが放った矢が突き刺さった。 「ぬ――?」 開拓者たちが突進してくる。 「くく‥‥見つかったか。『掛かれ!』」 黒太天は蜘蛛を開拓者たちにぶつけると、自身は少年に憑依して姿を変える。 「‥‥何と言うこと‥‥遅れましたどすな」 鬨は突進してくる蜘蛛を切り裂きながら民の亡骸を見て険しい顔。 蜘蛛の糸をかわすと、鬨は反転して切り掛かった。 「黒太天らしき姿が見えたが‥‥消えたか」 谷も蜘蛛に突進して、二刀を叩き込んだ。 「やられたな‥‥! だがこれ以上はやらせない! ここで蜘蛛の暴挙を止める!」 贋龍もまた二刀を突き出し、蜘蛛と激突する。 「行くぞ蜘蛛どもが。望んでいたものを手に入れたと思い込んでいる時ほど、願望から遠く離れている事はない。そういう事かねぇ」 シュヴァリエは蜘蛛の牙を盾で跳ね返すと、アヤカシを押し返してバトルアックスを叩きつけた。 「咆哮をお願いいたします!」 ジークリンデは、サムライに頼むと、彼女は「承知した」と咆哮を解き放った。 蜘蛛の集団が一部、ジークリンデに向かってくる。 「凍てつく吹雪よ‥‥敵を退けよ!」 ジークリンデは突き上げてくるような破壊の衝動を感じながら、杖を蜘蛛に向けた。杖の先端から、吹雪が噴き出し、蜘蛛を包み込んだ。――ギャアアアアア! と蜘蛛が絶叫する。 エルネストワは、家屋の上を移動しながら、目を凝らしていた。 「あの女は‥‥どこに消えたの?」 弓を構えつつ、黒太天を探すが、逃げ惑う民の中に、黒太天の姿はない。 「姿を変えたかしら‥‥」 エルネストワは別の建物に飛び移ると、矢を放ちながら接近して行く。 「奴はどこに消えた!」 北條は蜘蛛の列を突破して、悲鳴を上げる民の中に目を走らせる。さっきまで女がいるのは見た。 雛は瘴策結界を張り巡らせた。逃げる民の中に踏み込む。――と、瘴気を感知する。 「みなさん、こっちです」 「見つけたかぁね?」 「瘴気の気配が、こちらに」 龍牙はエルネストワに手を挙げて合図を送ると、雛の後に続く。 「黒太天。逃がしません」 黒太天が憑依している少年を確認するのは困難であった。瘴気の気配を察知しても、外見は人間である以上、この混沌とした状況で黒太天を見分けるのは至難である。 それでも、雛は至近距離まで近づき、不自然な動きを見せる少年を特定する。 「間違いありません、あの少年から瘴気の反応があります」 「どうすっかぁね。いきなりぶん殴るかぁ? 憑依されてるなぁら心が痛むけどなぁ」 「憑依されているならどの道救いようはない。少年には気の毒だが」 「何か提案はありますか?」 「いやぁ‥‥正直、ないなぁ。やるかぁ」 犬神、北條、龍牙、鈴梅たちは、黒太天が憑依する少年を包囲して行く。 少年は近づく開拓者たちを確認すると、にいっと笑った。 「見破られたか? 人間ども。龍安軍の兵士たちか。遅かったな」 「黒太天かぁね?」 「くく‥‥この子供を助けてやってもいいぞ。お前たちが手を退くなら」 「何寝ぼけたこと言ってやがぁる」 「まだ子供は死んでいない。お前たちが切りつければ、この肉体はぼろぼろになる。それでもお前たちは私を切れるか」 「アヤカシに憑依された人間が生きていた例はありませんね。はったりです!」 龍牙は切り掛かった――! 黒太天は飛びすさると、少年の肉体を捨てて正体を現した。 「くく‥‥まあいいわ」 着物を着た女が赤い瞳を向ける。 「いずれ兵が来るとは思っていた。だが、しかし、たったこれだけとは‥‥甘く見られたな」 黒太天は立ち上がる。 そこで、蜘蛛を撃退した鬨と谷、シュヴァリエ、贋龍とジークリンデがやってくる。 「あんさんの正体は蜘蛛なんどすなあ。どこまで女でいられるか楽しみどす」 鬨の挑発にも、黒太天は動じることなく、赤い瞳がぼうっと光った。 「くくく‥‥ふふ‥‥」 黒太天は口許に手を持っていくと、きらきらと輝く霧を吐きだした。 「――!?」 霧に包み込まれる開拓者たち。 「気をつけろ。毒かも知れんぞ」 「いや、待て‥‥これは‥‥!」 開拓者たちは目をこすった。目がかすむ。 そして、黒太天が何重にも分裂して、何十人もの黒太天が見える。 「しまった‥‥! 幻術か!」 「あはははははは‥‥!」 黒太天の声が蜃気楼のように響く。 「ならば‥‥!」 北條は暗影符を解き放った。黒い霧がが黒太天を包み込む。 「そこだぁ!」 犬神、鬨は打ち掛かった。手ごたえはあったが――。 「どこを見ている。私はこっちだ」 「何――!」 開拓者たちは右に左に首を振る。 「ならば、幻影もろとも打ち砕くのみ!」 ジークリンデはブリザーストームを撃ち込んだ。黒太天のかすかな悲鳴が聞こえる。 谷、シュヴァリエ、龍牙、贋龍たちは、目の前の幻影に向かって突進すると武器を振るって切り掛かった。 「――味方は何をしているのです?」 エルネストワは、屋根の上から、不可解な動きを見せる仲間たちを見て首をかしげる。正体を現した黒太天を前に、仲間たちはまるで見当外れの方向に切り掛かっている。 「敵の術に掛かってしまったのですか?」 エルネストワは、弓を引き絞ると、黒太天に矢を叩き込んだ。 「まだ仲間がいるのか‥‥」 黒太天は、矢が飛んできた方角に目を向けると、体から矢を引き抜いた。 「まあいい‥‥こいつらを始末して、あの陰陽頭に首を送ってやろう」 続いて黒太天は、猛毒の息を吐きだした。 開拓者たちは幻術から回復しないままに、毒気に当てられて、動きを封じられる。 「これは‥‥体が痺れる‥‥!」 そこで、雛が行動に出る。 「みなさん、動かないで下さい。黒太天の術を解きます」 巫女のスキル、解術の法。雛は仲間の状態異常を一つずつ回復していく。 「助かったよ雛」 北條は黒太天を改めて確認して、符を構えると、斬撃符を撃ち込んだ。 「二度と妖術に掛かる前に、勝負を付けないと! 一斉攻撃です!」 龍牙と贋龍は突進した。 「巫女か」 黒太天は掌を返すと、蜘蛛の糸を解き放った。 「うわ!」 見る間に糸に捕らわれる二人。 「なるほど、厄介な蜘蛛女だな」 シュヴァリエと谷が引き寄せられる二人を押さえて、糸を切り裂いた。 「姿が見えていれば怖いものはありません」 ジークリンデは再びブリザーストームを撃ち込み、犬神と鬨が回り込んでスキル全開の攻撃を浴びせる。 「瘴刃烈破ぁ!」 犬神の必殺の一撃が黒太天を切り裂く。 「に――!」 黒太天は反転して、鬨には赤い眼光を向けて魅了術を掛けた。 「これは‥‥うちとしたことが、妖術どすか」 鬨は攻撃を封じられて後退する。黒太天に攻撃できない。 「術を使う隙を与えずに、みなで掛かれば!」 立ち直った贋龍と龍牙も加わって、開拓者たちは再度反撃、連続攻撃を浴びせかける。 黒太天はそれなりの立ち回りで開拓者たちの攻撃を跳ね返したが、痛打を被って罵り声を上げる。 「貴様ら‥‥龍安兵ではないっ、とすると、噂の開拓者どもか」 「今更気づいても遅いさね!」 北條も式を連打する。エルネストワも戦況を見て、矢をラッシュした。 「くくくく‥‥なるほど、よい機会であったわ。侮れんな、人間とは言え。たった十人にでわしにこれだけの打撃を‥‥」 そう言うと、黒太天は再び口からきらきらの霧を吐きだした。 「まだ――!」 今度は、開拓者たちの半数が混乱状態に陥る。同士打ちを始める開拓者たちを尻目に、黒太天は撤退した。 雛の解法の術も尽きて、開拓者たちは術の効果時間が切れるまで足止めを食う。 「黒太天か‥‥これだけ多彩な幻惑の技を使うとはな」 「真正面から攻めるのは鬼門だな」 「次に会う時は、敵も学習しているでしょうが‥‥私たちは機会を逃したのかも知れません」 回復した開拓者たちだが、逃げた黒太天を追う術はなかった。 |