【天龍】天幽の進軍
マスター名:安原太一
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/04/24 00:58



■オープニング本文

 天儀本島、武天国、龍安家の治める土地「鳳華」――。
 北西部の魔の森から出没したアヤカシの将、幽霊アヤカシ――天幽。かつて鳳華の混沌期に活動した鳳華の七魔将の一人である。甚大な幽霊の大軍を操る幽霊の将軍である。
 鳳華の大都市「凱燕」に迫る天幽率いる幽霊の軍勢は、龍安軍との交戦の末に近隣の村々に攻撃を開始する。人里が戦場となり、恐慌が村を襲う。
 村にゆらりと現れた天幽は、腕を一振りすると、手近な民を瘴気の波動で消し飛ばした。
「た、助けて‥‥!」
 子供を抱いた母親が懇願するのを、天幽は見下ろしていた。
「助けてやろう。我は天幽。鳳華の七魔将が一人。民に伝えよ、我が名を。恐怖とともに、誰もが我が名を思い出すだろう。時は満ちた。七魔将が動く時、鳳華の時は終わりを告げる」
 こうして、多くの民が意外にも天幽の手を逃れ、凱燕に逃げることが出来た。だが、凱燕では民の恐怖と不安が増大していた。無論天幽配下の下級アヤカシの牙に倒れた民はいるのだが、どちらかと言うと、アヤカシたちは民を半死半生の状態で逃がすことが多かった。そのため、逃げ延びた民や凱燕の人々の間では、アヤカシ達の恐ろしさがいつにも増して増幅されて伝えられた。
 と、災厄を振りまく天幽のもとを、鵺に乗った美しい若者が訪れる。七魔将の一人、変幻自在のアヤカシ天晋禅である。
「我ら七魔将の頭も動き出した。私も人界に入り込み、不穏と怨嗟の念を増幅させるとしよう。お前たちが活動しやすいようにな」
 天幽は天晋禅を見下ろすと、思案気に腕組みした。
「あの方が動き出したとあれば、いよいよ龍安軍と正面切って戦うことになるか」
「ふふ‥‥どうあれ、不穏と怨嗟の念を高めること、これに尽きるわけだが」
 天晋禅は含み笑いを残して飛び去った。
 ――魔の森には幽霊アヤカシの大軍が凱燕を狙って兵を蓄えていた。近郊の人里では状況が混沌としていた。天幽が前線に出没し、龍安軍は幽霊アヤカシと絶望的な戦いに臨もうとしていた。それは、鳳華の平穏の時が終わりつつあることを告げていた。


■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086
21歳・女・魔
鈴梅雛(ia0116
12歳・女・巫
井伊 貴政(ia0213
22歳・男・サ
桐(ia1102
14歳・男・巫
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
斉藤晃(ia3071
40歳・男・サ
橘 楓子(ia4243
24歳・女・陰
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
ジークリンデ(ib0258
20歳・女・魔
ブリジット(ib0407
20歳・女・騎


■リプレイ本文

 朝比奈 空(ia0086)は絶望的な状況の中にいた。
「それにしても‥‥これほどの攻勢に出てくるとは‥‥禍の兆しでしょうか」
 朝比奈は飛び交う幽霊を見やりながら、襲い掛かってくるアヤカシを業物で叩き斬って行く。
「逃げて下さい、早く」
 朝比奈は龍安兵と民の盾となり、幽霊を撃破して行く。
「それにしても、凄い数だ! 巫女殿! ご無事か!」
 駆け寄って来たのは龍安兵の指揮官。全身傷だらけで、血まみれになっている。
「あなたこそ大丈夫なのですか」
「俺は大丈夫だ。が、部下をやられた。アヤカシの数は尋常ではない。このままでは押し切られるぞ!」
「やはり‥‥天幽を退かせるしか方法はないのでしょうか‥‥」
「おい冗談か? 天幽と戦うつもりか? 奴は紛れもなく化け物だ!」
「‥‥‥‥」
 朝比奈は周囲の状況に目をやる。もはや、個々の戦力で状況を変えることは不可能に近い。幽霊が村を徘徊し、兵士たちは押されている。
「やってみるしかありません。仲間たちと合流します」
 そこへ龍に乗った井伊 貴政(ia0213)が下りてくる。
「朝比奈さん、ここでしたか」
「井伊さん、ご無事でしたか」
 二人は互いの無事を確認して安堵する。
「天幽は見つかりましたか?」
「いえ‥‥ですが、どこもひどい状況です。このままでは一気に凱燕への侵入を許すのではないでしょうか」
「それは何としても止めなければ‥‥そのためにも天幽を退かせるしかないでしょう」
「全く‥‥」
 貴政は接近してくるアヤカシの群れに斧を振るうと、次々と粉砕して行く。
「ここももはや持ちませんね」
「指揮官殿、民の避難を進めて下さい。私は前線に出ます」
「巫女殿‥‥命をお大事に。また生きて会いましょう」
 指揮官のサムライは、直立不動からお辞儀すると、兵を束ねて後退戦に移って行く。
「朝比奈さんは前に出ますか。ならば‥‥僕も何とかして天幽の発見に尽力しないといけませんね」
「天幽を見つけるまでに、味方の被害も覚悟しておかないと‥‥」
「僕たちだけで、勝てる相手ではないのは確かです。前線で会いましょう」
 貴政はそう言うと、龍に乗って、飛び立っていく。
 朝比奈はそれを見送ると、幽霊の集団の中へ突進して行く。

「こいつはひどいな‥‥」
 龍安兵は龍で上空から戦場の様子を眺めていた。
 各地で幽霊の大軍が龍安軍を押し返していく。
「天幽が見つかれば、井伊様にお知らせするのだが‥‥しかし‥‥」
 龍安兵は旋回すると、東の方へ向きを変える。

「みなさんで、避難誘導と、避難経路の確保をお願いします。退路を確保しておくのは重要です」
 鈴梅雛(ia0116)は言って、絶望的な状況の中で、民を救うことに奔走する。小さな体で懸命に走った。
 混乱する龍安兵たちをまとめ、民の誘導と退路の確保を進めて行く。
 途中、幽霊の集団にしばしば囲まれるが、志体持ちでもない龍安兵たちが懸命に雛を庇ってくれた。
「巫女殿! お早く! ここは我らが食い止めます!」
「皆さんを置いていくことは出来ません。幽霊を撃退するまでは」
「では‥‥しばらくお付き合いくださいませ‥‥!」
 武装した男たちは幽霊に切り掛かっていく。激戦の末に、雑魚幽霊を撃破する兵士たち。雑魚幽霊の戦闘力は全く普通の兵士にも小さな怪我程度だが、何しろ数が多い。
 倒しても倒しても前から幽霊が前進してくる。
「ここはもう駄目ですな‥‥何とか民を逃がすだけでも」
「ひいなも最後まで残ります。民を何とか後ろへ――」
 雛は兵士たちとともに奮戦する。

 桐(ia1102)、斉藤晃(ia3071)、橘 楓子(ia4243)らは、総大将の青木とともにいた。
「今回の勝利は倒す事でも死なない事でもありません。天幽軍を引かせる事。ただそれだけです。倒せたら大成功ですがそれは高望みでしょう」
 桐の言葉に、青木は思案顔。青木は20年前にも天幽を見たことがあった。その時青木は若年の兵卒だったが。
 天幽軍を退かせる。それは何とも至難の業に思えた。
「天幽、動くか。なんぞ悪名をとどろかせるための罠をはってるんやろうな」
 と斉藤。
 戦場になる場所の地図を見下ろした。
「今回の主戦はどこになるかね」
 激戦区の場所や兵士からの情報に的を絞る。罠の張りやすい森、山岳地帯もしくは村の辺りと考える。
「正面から戦う隊と斥候部隊で周りの状況を見極める隊が必要かね?」
「青木さん、今、戦場の様子はどうなっているのさ」
 橘が問うと、青木はようやく口を開いた。
「戦況は絶望的だ。天幽率いるアヤカシ兵は数的には甚大。正面からぶつかっては勝ち目はない」
「そうは言うが、何か策があるんかね」
 斉藤が問うと、青木は静かに言った。
「アヤカシの攻撃に対して、もはや、勝つことよりも、いかに被害を小さくするか、それが今の世の基本政策であると言うことは知っていよう。我々も同じだ。この戦い、勝てるとは思わん」
「ならば、わしらはその方針に従って動くけどね。だが、天幽を倒せればそれに越したことはない」
「何とかアヤカシの攻撃を凌ぎ切ればな」
「ふうむ‥‥そうは言っても後方支援は頼むで」
 斉藤は青木に退路の確保を頼むと、出立する。

「噂に名高い天幽に一泡吹かせたいやつ! わしについてこいや!」
 斉藤と桐はともに戦闘地域に出て行くと、交戦している兵士たちを支援しに向かった。
「村人たちには早く家から脱出してもらうようにして下さい」
 桐は兵士たちに呼び掛けて行く。
「アヤカシが来る前に、避難は早めにね。鳳華の殿様なら、自分の領民を保護するのが務めですよ」
 兵士たちは民の避難を進めて行く。
「早うせいよ! アヤカシども、なんぼでも出て来よるで!」
 斉藤は幽霊を叩き斬ると、兵士たちに怒鳴った。
「天幽はまだ先ですかね‥‥」
 桐は、周囲の様子と兵士たちの報告を聞きながら、村を見渡していた。まだここはアヤカシの数が散発的であった。
「行くでえ、天幽を探しにな! ついてこい!」
 斉藤が先頭に立ち、彼らは最前線へと向かっていく。

 巴 渓(ia1334)は遊撃戦力としてこの戦いに加わっていた。
「‥‥七魔将ねえ‥‥妖魔どもがそう言ってるのか?」
 巴は幽霊をぶっ飛ばしてから兵士に問う。相方の兵士は、幽霊を叩き斬ってから巴に向き直る。
「いや‥‥まさかそんなことはない。いつしか人々の間でそう呼ばれるようになったのだ」
「そうなのか‥‥と!」
 群がってくる幽霊をかわしつつ、拳で次々と粉砕して行く。巴達がいるのは魔の森に近いところであった。
「何にしても、これだけの幽霊が集まっているとなると‥‥こっちも手の打ちようがないか」
 そこへ、貴政が姿を見せる。
「よお貴政。敵さん大将の姿は見えたか?」
「いえ。戦場は混沌としていまして‥‥」
 貴政は幽霊を両断して、周囲を見渡す。
「この辺りは完全に制圧されていますね。すでにアヤカシの勢力下ですか」
「全く‥‥数だけは集めたな。志体持ちの龍安兵はもっと先か」
 そこへ、斥候の兵士が駆けてくる。
「井伊様――激戦区の戦い、厳しく。数で勝るアヤカシたちが次々と魔の森からあふれ出してきます」
「そうか‥‥だが最前線からこれ以上抜かせるわけにはいかないな」
「井伊様、しかしこのままでは‥‥」
「青木殿も今は耐えるしかないと言われている。何とか踏ん張りましょう」
「おい、また次に敵さんが来るぜ」
 巴は上空から次々と舞い降りてくる幽霊に身構える。
「くそっ、何て数だ‥‥! こちらの何倍も出てくるとは‥‥!」
 兵士は悪態をついた。
「行くぜ! 今は出てくる奴をぶちのめすだけだ!」
 巴は拳を打ち合わせると、幽霊たちに向かう。

 楓子は弓を構えると、術を温存して矢を打ち放っていく。
「一体! 二体! っと! 幽霊どもがくたばりな!」
 楓子は龍安兵と共同で、前線の幽霊を倒していく。
「開拓者殿に続け!」
「一斉射撃! 用意!」
「――ってえ!」
 一般人兵士たちも戦列を整えると、上空から降りてくる幽霊に矢を浴びせかける。
 するすると降りてくる幽霊は、知覚攻撃の呪声で攻撃する。
「ぐ――! 堪えろ! 撃って撃って撃ちまくれ!」
 一般人兵士には痛い攻撃であるが、呪声に耐えながら、矢を放つ。
「あー‥‥もう、面倒くさいったらありゃしないね!」
 楓子は符を取り出すと、一発斬撃符を叩き込んだ。カマイタチの式が幽霊を真っ二つに切り裂いた。
 幽霊たちは分かれると、二方向から滑るように接近してくる。
「龍安兵のみんな! 援護してやるから踏ん張りな!」
 楓子は矢を連打して、幽霊を打ち落としていくと、龍安兵を叱咤した。
 開拓者一人がいるだけで戦況は全く異なる。
「良し! 一気に間を詰めるぞ! 幽霊どもを叩き斬れ!」
「おお!」
 兵士たちは勢いを得て、切り掛かって行く。
「面倒くさいねえ全く‥‥これだけの幽霊に圧倒されちゃあね」
 楓子は矢を打ちながら、舌打ちする。

「厳しい戦いになります」
 龍安家臣の鈴木 透子(ia5664)は、兵士たちに厳しい戦いになることを告げておく。
「祓いにいきましょう」
 鈴木は20名程度の兵士を率いて、戦場に出る。
「鈴木様――すでに村々は制圧されつつありますな」
「民の避難を進めて下さい。見つけた民がいたら後方へ下がらせるように」
 鈴木たちは幽霊を撃破して行きながら、前進する。
 と、幽霊の集団10体余りが出現して、鈴木達に呪声を浴びせかける。
 おぼろげな人型をした幽霊が接近してくると、龍安兵たちは刀を抜いて接近戦を仕掛ける。
 その背後で、人の姿をした幽霊が咆哮を飛ばして、雑魚幽霊をけし掛ける。
「あれは‥‥ボスクラスですかね」
 鈴木は符を装填すると、それを放って火炎獣を召喚した。
 狼の式が出現して、火炎を吐き出すと、幽霊アヤカシを包み込む。
 炎が幽霊を焼き尽くして、一撃で沈めた。
 それから鈴木は雑魚を兵士たちに任せると、戦況を見やりつつ、後方で待機する。
「雑魚アヤカシには問題なくいけるようですが‥‥」
 それでも一般人兵士には強敵である。激戦を見届けると、鈴木は地面に手を当て、瘴気回収で練力を回復させる。練力をたっぷり回復させると、立ち上がって前線に進む。
「行きますよ。気を付けて行きましょう。前線に着くころには出来れば志体持ちの兵士たちと交代してもらいますが‥‥」

 ジークリンデ(ib0258)とブリジット(ib0407)は前線に辿り着くと、朝比奈と合流する。
「朝比奈さん――」
「お二人とも、ご無事でしたか」
「敵将の天幽が出たという話はまだ伝わっていませんね」
 そうする間にも幽霊の群れが周囲から接近してくる。
 ――グオオオオオオオオ! と呪声が開拓者たちの脳裏に響く。
 かすかな頭痛が三人を襲うが、朝比奈とブリジットが突進して幽霊たちを切り伏せていいく。
 続々と出現する幽霊の群れ。
「もの凄い数ですね‥‥ならば‥‥舞え、吹雪よ!」
 ジークリンデが杖を傾けると、ブリザーストームの吹雪がアヤカシの群れを包み込んだ。
 瞬時に消滅する幽霊数十体。
 その時である――兵士の一人が警笛を鳴らして走って行く。
「天幽だ! 天幽が出たぞ! 奴には近づくな! 戦線を下げろ! 後退するんだ!」
 ブリジットが朝比奈と顔を見合わせる。ジークリンデも青い瞳が静かに冷たい光を放つ。
「天幽が出ましたか‥‥」
 ブリジット達は走って行く。

 開拓者たちは龍安軍の精鋭たちを20名ほど伴って、天幽が出たと言う戦場に向かった。
 その巨大な幽霊は、瘴気をまとって浮遊していた。ぼろぼろのローブをまとった骸骨の幽霊がいた。
 開拓者たちは、初めて見るこの幽霊と相対する。
「‥‥? お前たちは‥‥龍安軍の者たちではないな」
 天幽は、じっと開拓者たちを見つめた。
「ふむ‥‥そうでなければ、およそ昨今噂の開拓者か」
 開拓者たちは一瞬、前進してくる天幽の巨体に圧倒された。
 朝比奈、雛、桐が後方に位置すると、楓子、ジークリンデが遊撃の位置に付き、鈴木が天幽の退路を塞いで挟み撃ちの態勢を取った。
「みなさん――」
 貴政は警戒の目を送ると、巴は頷き、斉藤は大斧をずしっと構える。ブリジットは周囲に目を向けると、雑魚幽霊が舞っていた。
「わしと戦うつもりか‥‥」
 天幽は浮遊したまま、微動だにしない。
「行きますよ――!」
 貴政の合図で突進する開拓者たち――。
 巴、斉藤、ブリジットが続いて突貫する。
 天幽の幽体を貫く開拓者たちの一撃に、天幽の体から瘴気の破片が飛ぶ。
 楓子が霊魂砲を叩き込み、ジークリンデはエルファイヤーを撃ち込んだ。
 天幽は浮遊したまま、開拓者たちと龍安兵の連続攻撃を受け止めた。幽体を貫通する攻撃と陰陽術が天幽の肉体を吹き飛ばす。
「罠遊び気をとられたんとちゃうか? 策よりは用兵の肝忘れたらいかんで!」
 斉藤の鬼切が炸裂する。斉藤の肉体から余剰の練力が放出されて光となってきらめく。
 凄絶な破壊力の斉藤の鬼切。天幽の肉体を完璧に切り裂いた。
 ――と、天幽が初めて動いた。腕を持ち上げると、瘴気の渦が巻き起こる。
「薙ぎ‥‥龍霊‥‥!」
 天幽は腕を一振りすると、瘴気の波動が龍の姿となって開拓者たちに叩きつけられた。
「な、何だ‥‥!」
 瘴気の閃光が開拓者を貫く。一撃で大ダメージを受けた開拓者たちは後退する。
「こいつはとんでもないぞ‥‥まだ怪物じみた奴がいるもんだ」
 腹を吹き飛ばされた巴は、流血する傷を押さえた。雛が神風恩寵で回復する。
 朝比奈と桐も閃癒を使って味方の傷を回復した。
 続いて天幽は、両手を合わせると、その間にもう一度瘴気の渦を作りだした。
「‥‥烈‥‥破陣‥‥!」
 またしても、瘴気の渦が爆発し、輝く弾丸が開拓者と龍安兵をなぎ倒した。
「強い‥‥何ちゅう奴や‥‥」
 血まみれの斉藤が桐の回復を受けて立ち上がる。
 天幽は骸骨の表情を変えることなく、立て続けに瘴気の波動を叩き込んだ。
 開拓者たちはそれに耐え、天幽に波状攻撃を仕掛ける。
 ブリジットは状況を見て、いつでも後退できるように兵士たちと退路を確保する。
「かああああああ!」
 ただ一撃、加速した斉藤の鬼切が天幽の左腕を切り飛ばした!
「何――?」
 初めて天幽が動揺の色を見せる。
「‥‥ここまで追い込まれたのは久しい。左腕の借りはまた返してもらうぞ。だが、あの方には遠く及ばぬ‥‥」
 天幽は瘴気の塊を地面に叩きつけると、炸裂した瘴気が最後に開拓者たちを吹き飛ばす。
 そして、天幽は立ちはだかる鈴木の火炎獣をすり抜けてそのまま撤退した。
 かくして、それから戦場から幽霊の軍勢がいったん後退して行く。魔の森の近郊に留まり、天幽の軍団は次の攻撃に備える。
「あの方ちゅうやつがラスボスかね。やっかないこっちゃで」
 斉藤の言葉に楓子が応じる。
「流石に魔将と呼ばれることだけはあるわ。憎ったらしいったらありゃしないね」
 激戦であった。