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■オープニング本文 天儀本島、武天国、龍安家の治める土地、鳳華――。 東の大樹海と呼ばれる魔の森から、一体のアヤカシが姿を見せる。ぼろぼろのローブに身を包んだ骸骨である。このアヤカシの名を「骸天羅王」と言った。骸天羅王の瞳孔には青白い炎が揺らいでいる。 「クカカ‥‥龍安軍、懐かしいのう。再びこの地に戦乱が巻き起こるわ」 骸天羅王はたった一人で、手近な砦に進んでいった。 「アヤカシ一体――接近してきます!」 砦の兵士は、大将のサムライに告げる。 「一体だと?」 サムライは望遠鏡で骸天羅王の姿を確認する。 「弓を構え! ――ってえ!」 放たれた何十発もの矢は、骸天羅王を直撃したが、アヤカシはびくともない。 「クカカ‥‥無理もない。わしの名もすでに忘れられているであろうからな」 骸天羅王は腕を一振りして、瘴気から十数羽の骸骨の鳥を生み出すと、砦に飛ばした。骸骨の鳥は、同じ言葉を繰り返して鳴いた。 「我が名を龍安弘秀に伝えよ。我が名は骸天羅王。死者を束ねるものだ‥‥我が名は‥‥」 「ええい何だあのアヤカシは! 召喚士か!」 龍安兵20人は、骸骨の鳥を撃ち落とすと、打って出て骸天羅王に立ち向かっていく。 「骸骨の術士か‥‥たった一人で乗り込んでくるとは‥‥一気に打ち取ってくれる!」 「クカカカ‥‥!」 次の瞬間、兵士たちは骸天羅王を取り巻く瘴気の渦を確認する。骸天羅王は瘴気を操るように腕を手繰り寄せると、次々と瘴気が実体化して亡者の軍団が出現する。 「な、何だ!?」 ぼろぼろの獣、死人、骸骨兵士、形容し難い怪物化した亡者、何ということか亡者と言う亡者が骸天羅王の周囲に出現する。 「ば‥‥馬鹿な!」 龍安兵は、亡者の数が瞬く間に100体を越えるのを見て、後退する。 「クカカカ‥‥! これからが死者の行軍の始まりだ!」 骸天羅王が雄たけびを上げて腕を一振りすると、亡者の大軍は咆哮を上げて行軍を開始した。 首都の天承に、骸天羅王が出現したことを知らせる報告が入る。死人の大軍は砦の防備をいとも容易く突破し、里に迫っていると。龍安弘秀は老将栗原を呼ぶと、首都の守りを任せ、自ら打って出ると告げた。 「お待ち下され。ここ最近の敵将の相次ぐ出現、嫌な予感がいたします。お屋形様には、後方にあって、今は全体を確認して頂きたく存じます」 「だが玄海、アヤカシの将たちに、兵たちが蹂躙されるのを黙って見ているわけにはいかん。俺は出るぞ」 「お待ち下さい」 室内に入ってきたのは、小柄な娘であった。若干20歳の龍安家の神官長、巫女の蒼晴雪鈴である。 「星に禍々しい兆しが出ております。栗原殿が言われる通り、お屋形様には、耐えて頂きたく存じます」 「雪鈴、だがもはや誰かが行かねば」 「私が参りましょう」 弘秀と栗原は、雪鈴を見やった。雪鈴は、曇りなき瞳で静かに二人を見返す。その決意が固いと知ると、弘秀は少し肩の力を抜いた。雪鈴は巫女だが戦の術も心得ている。 「分かった。では、俺は今少し様子を見る。前線を頼む」 雪鈴は、恭しくお辞儀して、主の前を辞した。 そうして、若き神官長が率いる一軍は、東の最前線に向かった。 |
■参加者一覧
緋桜丸(ia0026)
25歳・男・砂
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
樹邑 鴻(ia0483)
21歳・男・泰
柳生 右京(ia0970)
25歳・男・サ
橘 楓子(ia4243)
24歳・女・陰
白蛇(ia5337)
12歳・女・シ
燐瀬 葉(ia7653)
17歳・女・巫
ハイネル(ia9965)
32歳・男・騎
エルネストワ(ib0509)
29歳・女・弓 |
■リプレイ本文 龍安家の神官長である蒼晴雪鈴は、静かな瞳でアヤカシの群れを見つめていた。 「骸天羅王ですか‥‥まだ幼き頃にその名を聞いたことがあります‥‥」 雪鈴は若干二十歳で神官長となった強力な巫女である。普段は神事を取り仕切っているが、戦の心得も学んできた。 開拓者たちは龍安軍の中にあっても屈指のつわものたちである。彼らは炎羅や雷獣、ジルべリアで巨神機と戦ってきた。駆け出しと言う者はほとんどいなかった。 「お嬢さん、何でも聞いた話ですと、骸天羅王ってのは、相当に厄介な相手。一軍の大将ですし、お嬢さんには戦いは後方で指揮を執ってもらいたい」 女性にめっぽう紳士的な緋桜丸(ia0026)は、言って雪鈴に全体の指揮を頼んだ。 「ありがとう‥‥ですが、骸天羅王は龍安家の宿敵。私もそうそう後方で観戦と言うわけにもいかないでしょう」 「では、お守りします。この緋桜丸が」 「お願いしますね‥‥」 「それはそれとして、龍安兵には長期戦を覚悟してもらい、なるべく交代制を導入することを提案しますね。俺らが途中で抜けて、骸天羅王の元へ向かった際に、そのツケが来るでしょう。体力のある者、遠距離が使える者などが陣形を組んだりして」 雪鈴は頷く。 「確かに長期戦になるでしょう。私達には覚悟が必要ですね」 そこで、朝比奈 空(ia0086)が口を開いた。 「アヤカシを迎撃し、ある程度数を減らした所で別働隊が骸天羅王を奇襲、これを撃破します。理由は骸天羅王が健在な限りいずれ物量で押し切られるので、元を断たない限り恐らく勝ち目は無いと思われる為です」 「骸天羅王には、みなさんが‥‥?」 雪鈴の問いに、空は頷く。 「個人的な見解としては、数で不利な上に痛みを意に介さない屍が相手なので、正面からまともに当たるのは不利と判断します。激突する前にある程度手傷を与えてからの方が有利に事を運べると思います。サムライの方にも弓を持たせたりすれば、十分な密度での攻撃も出来そうですし あとは‥‥統制が取れていない様ですし、正面へ突撃するなど単調な動きしか出来ないのであれば、徐々に半包囲状に展開して両翼からも攻撃を加えて殲滅速度を上げて前線を押し上げるとかですね。 正直な話、骸天羅王の相手だけならまだしも、途中で亡者を召喚される可能性もありますからね‥‥。露払いを担当して頂ける兵の方が確保できないと厳しい感じがします。別働隊の対処に集中されてこちらが窮地に立つ事も有り得そうですし。 骸天羅王も召喚と自身の戦闘の両立は難しいでしょうから、自由にさせない程度に追い込みたいですね」 雪鈴は空の言葉にしなやかな指先で顎をつまんだ。 「確かにまずは数を減らしておくべきでしょうね。敵は無尽蔵に出現するアヤカシですからね。死人アヤカシは個体では戦闘力で劣ります。ある程度の殲滅は可能でしょう。骸天羅王を追い詰めるには、周りの雑魚を減らしておく必要がありますね」 「骸天羅王の召喚は無限に可能との事ですが、瘴気を媒介にしているならいずれは尽きる感じもしますね。周辺の瘴気を使い尽すほどに‥‥となると些か大変だと思いますけど」 「アヤカシの召喚術は正体不明ですね。瘴気を媒介にしているのは確かなようですけど」 龍安家お抱え芸人の華御院 鬨(ia0351)。いつものように、女形をしていて、常に女装をしているので、そこいらの女性よりも女性らしい雰囲気を醸し出している。 「死者は芸をするにしても感動してくれへんから、好かんどす」 芸人らしい感想を漏らす鬨。 「でも、働きは常々伺っております。天承で歌舞伎役者の舞が披露できると良いのですが」 雪鈴の言葉に、鬨は肩をすくめる。 「残念ではありますが、いつかその機会もあると信じとります」 樹邑 鴻(ia0483)は、槍の具合を確かめながら、大軍のアヤカシを見やる。 「敵数が300以上までは、突出してくる敵を優先して攻撃していこう。手近な龍安部隊とも協力し、突破させない様にな。特に俊敏な者や突破力がある者には要注意だ。こんな気味の悪い軍勢に蹂躙されたくは無いよなぁ。って事で、とっとと片付けよう」 雪鈴は頷く。 「やはり、まずは敵の戦力を削るべきと言う意見が多いようですね」 「ああ。アヤカシが300を切ったら骸天羅王への攻勢に出るぜ。極力手薄な箇所を狙って突破して行くぜ」 龍安家臣の柳生 右京(ia0970)は、ギルド屈指の破壊力を持つ斬馬刀の使い手だ。 「骸天羅王‥‥混乱期に現れたアヤカシか。その実力も能力も‥‥興味深くはあるな」 それから、思案顔で雪鈴に言った。 「雪鈴、まず始めに雑魚の掃討だ。現状の敵兵の数は400だと聞き及んでいるので、龍安兵と共同して300程度になるまで数を減らす。背後には村が存在する以上、雑魚とはいえ、通過される訳にはいかない‥‥龍安兵に任せても十分だと思える数まで減らした後、私達は骸天羅王の始末に向かう。 骸天羅王に接近し、戦闘に入り込む事で、攻撃出来る事は勿論だが、その造兵を抑えられる事が最大の利点になると考えている。故に、迅速に骸天羅王に接近出来るように行動したい。それが出来れば、後は逃さず討ち取るのみだ」 「みなさんが骸天羅王を直接抑えると言うなら、お任せしますよ。私も支援したいところですが‥‥」 「雪鈴、お前には指揮に集中してくれればな。実際、これまでの経験からして、骸天羅王に並みの兵が立ち向かえるとは思えんのでな」 そこまで言って、右京は鼻を鳴らした。 「ふん‥‥数だけは多い。雑魚など何匹斬った所で愉しくもないがな」 橘 楓子(ia4243)は「面倒くさいねぇ」が口癖の陰陽師。だが人の世話や戦闘自体は嫌いではない。孤独な人生を歩んできたが本人は一切気にせず。返って恐れるものも失うものも何もない、と気楽に思っている。 「あー、めんどくさいねー、‥‥それにしても、生きたまま地獄に来ちまったみたいだねぇ」 橘は、アヤカシの大軍を望遠鏡で確認すると、寒そうに首をすくめた。 「全くよくあれだけの死人を‥‥あたしは敵アヤカシを300まで減らしたら、二、三発を限度とし火炎獣発動、突入の道を作るよ。ちっとでも骸天羅王の元に早く進める手助けにでもなりゃいいけども」 開拓者たちの基本方針はアヤカシを300まで減らして突入、骸天羅王に突進である。 龍安家臣のシノビ白蛇(ia5337)。これまで鳳華の民のために戦ってきた。 「こんな村の近くまで侵攻されるなんて‥‥村で泣いてた子供達の為にも‥‥絶対ここで食い止めたい‥‥皆‥‥力を貸して‥‥」 白蛇は兵たちに呼び掛けると、みなこの小さなシノビに頭を下げる。 「アヤカシの大軍には‥‥巫女達の補佐を受けた龍安サムライ達が咆哮で敵の拡散を防ぎ‥‥盾を装備した他の前衛と共に死者達の侵攻を食い止める‥‥その隙に後衛が範囲系攻撃を放ち‥‥敵数を減らす作戦‥‥僕達開拓者も‥‥序盤はその補佐をして撃破数を増やすね‥‥」 「良く来てくれましたね白蛇さん。シノビは今回もお任せしましょう」 雪鈴の言葉に、白蛇は外套の襟に首をうずめた。 「うん‥‥シノビ達は蛇の名を冠して戦線に散ってもらい‥‥超越聴覚で周辺状況を把握して貰うよ‥‥遠方で呟かれたシノビの報告も聞き取り‥‥迅速な情報伝達、命令伝達を行うよ‥‥ 戦線が崩れそうな場所には‥‥僕や仲間が巫女と共に駆けつけ‥‥打剣で焙烙玉や円月輪を撃ち込み‥‥味方を支えるね‥‥ 敵数が300程度になり‥‥尚且つ、龍安サムライ達の咆哮で敵陣に薄い個所が発生したら‥‥開拓者達がそこから攻め込み骸天羅王に攻撃を加えるよ‥‥その間‥‥敵軍侵攻の阻止は龍安兵達に任せるね‥‥骸天羅王の注意をひき‥‥咆哮を阻止できれば‥‥迎撃するのが楽になるだろうし‥‥」 「それにしても気をつけて下さい、骸天羅王は並みのアヤカシではありません。かつて鳳華の七魔将とまで言われた上位のアヤカシです。恐るべき相手ですからね」 「七魔将って、大層な名前やなあ」 燐瀬 葉(ia7653)は、言って思案顔でアヤカシ軍を見つめる。‥‥後ろには守るべき人達が大勢いるんやから、可能な限り、進軍は止めさせて貰うつもりやね。 「開拓者仲間との連携を意識して、支援しながら、雑魚が減ったら大元を叩く方針やね。自分の身くらい、自分で守れたらえぇな。力の歪みで、どの程度対抗できるか解らへんけど練力配分を意識しつつ、多少攻撃も行うで」 ジルべリアの騎士ハイネル(ia9965)は、冷然とした表情。 「無論、護るべきは民、護るべくは民の安寧秩序、ジルベリアの民であろうとなかろうと関係無い。当然、その実現行動を阻害するモノの撲滅を試みる」 ハイネルは厳格な口調で、雪鈴に進言する。 「作戦、基本軸として第一に開拓者十人と龍安兵二百人で敵軍四百を食い止める。そして、第二に敵軍が三百程度まで減少したら雑魚は龍安兵に任せ開拓者達で骸天羅王を攻撃することとする。 行動、作戦に則り行動する。最初、敵数を減らすことを念頭に前線へ赴こう。尤も、突出は極力控える事が必要」 雪鈴は、こうした意見をサムライ大将たちとの合議に掛け、敵軍を300まで減らしたのちに骸天羅王を開拓者たちで攻撃すると言う作戦を、採択する。「賭けだ」とサムライ大将たちは思った。 弓術士のエルネストワ(ib0509)、アヤカシとの激戦区である鳳華に興味が湧いた。噂に聞く激戦区か、少し手伝ってみるのも面白いかもしれないな‥‥。 「わたくしはまだ駆け出しの域ですから、支援攻撃に徹しましょう。出来る限りのことはさせてもらいます」 エルネストワは言って、弓の具合を確かめた。 「死人の群れを100体以上撃破後に、開拓者たちが骸天羅王へ攻撃を仕掛けます! 龍安兵で開拓者をサポートしますよ! 死人の群れが増大する前に決着を付けます!」 雪鈴は号令を下すと、全軍意気盛んに前進を開始する。 ――二倍のアヤカシ軍の前進を龍安軍は正面から受け止める。開拓者たちはまさに地獄絵図のような戦場に突入する。アヤカシは死ぬと瘴気に還る。死体が残らないのは幸いである。100を越える亡者の死体と言うのはぞっとしない。 ハイネルはアヤカシに属性があるのではと色々試していたが、目立った成果は無かった。 「アヤカシ、これらに属性なしか」 龍安軍の前衛クラスは地力では死人アヤカシに勝る。押されつつもまた押し返し、陰陽と弓術士が前に立つサムライたちの間隙を縫って死人たちを討ち減らしていく。 そうして、アヤカシの数が100体余り減少したところで、一気に攻勢に転じる。 「こちら赤蛇です。白蛇様、敵の勢いが落ちています」 「了解したよ‥‥」 雪鈴はサムライ衆の咆哮で敵を分断して包囲しつつ、各個撃破しに掛かる。 橘は火炎獣を叩き込んだ。 「よし! 一気に親玉のところへ行かせてもらうぜ!」 樹邑は仲間たちの線陣を切って、分裂する死人の群れの中へ飛び込んだ。 開拓者たちは一気にアヤカシの群れの中を駆け抜ける。 「骸天羅王ってのは‥‥どこだ」 「まさか瘴気の中を移動できるのかな‥‥」 「いえ、あそこに、あれではないどすか?」 鬨が指差した先、咆哮を上げている骸骨がいる。ぼろぼろのローブを身にまとっている。 「あいつか‥‥」 右京の金瞳に凄絶な剣気が宿る。 それは紛れもなく骸天羅王で、やってくる開拓者たちを睨みつけた。青白い炎が眼孔に揺らめいている。 「慨然、災厄は取り除かねばならん。骸天羅王、人倫に仇名す害獣よ」 骸天羅王の骸骨の口が、にいっとつり上がった。 「龍安の手の者か。クカカ‥‥懐かしい」 骸天羅王は開拓者たちが自身を包囲するのを悠然と眺めていた。 「大した余裕だぜ。この干物」 緋桜丸は二刀を構えた。 「ふふん――」 次の瞬間、骸天羅王の姿が消えた。実際には、開拓者たちの反射速度を越えて飛んだのだ。 「にっ――!?」 懐に飛び込まれた緋桜丸は、次の瞬間、骸天羅王の拳の直撃を受けて吹き飛んだ。肉と骨が砕けた。 「緋桜丸さん!」 燐瀬は駆け寄って神風恩寵を掛けて回復する。 「何だ今の一撃は‥‥全然見えなかった。それに何てパワー」 爆発的な勢いで飛ぶ骸天羅王。 鬨、樹邑、右京、白蛇、ハイネルは大打撃を食らって吹き飛んだ。 「橘さん! エルネストワさん! あの骸骨の動きを止めて下さい!」 空は燐瀬とともに回復に当たりながら、叫んだ。 「やってくれる――! って、あたしが地獄に落ちるのはまだ先なのよ」 橘は言って、斬撃符を叩き込んだ。陰陽術は少なくとも百発百中。エルネストワもスキル全開で矢を叩きつけた。が、骸天羅王は意に介した風もなく、立ち上がった右京に向かって加速する。 「相応の実力か‥‥これは良い宴となりそうだ」 「クカカ‥‥死ね!」 示現+両断剣を叩き込む。が、斬馬刀は骸天羅王にブロックされる。次の瞬間、骸天羅王の拳が右京の腹を貫通した。そして、右京を蹴り飛ばす。吹っ飛んだ右京は口から血を噴き出した。さすがの右京が膝を突く。 燐瀬は神風恩寵で傷口を何とか塞いだ。 「信じられん、これほどの‥‥」 右京の体に戦慄に似た歓喜が走る。強敵と出会えたことが歓喜を呼び起こす。 「うちは戦人ではなく、芸人どす。伊達に龍安家お抱え芸人などしておりやせん」 「余計な肉がないからすばしっこいってか? 幾らなんでも、減量し過ぎだって」 鬨の白梅香と樹邑の骨法起承拳が命中するが、骸天羅王は完全にブロックすると、腕を返して二人を吹き飛ばした。 「これは‥‥紛れもなく怪物どすな」 傷口から血が溢れてくる。鬨のもとに燐瀬がやってくると、神風恩寵を掛けた。 白蛇は、この悪魔のようなアヤカシに影縛りを掛けた。 「ぬっ?」 骸天羅王は動きを封じられて、忌々しげに白蛇を見やる。 「慨然、今だ――!」 ハイネル、右京、鬨、樹邑、緋桜丸が一気に討ち掛かる。 スキル全開で滅多打ちにされる骸天羅王。だが、このアヤカシ、外見とは裏腹に想像を越える頑丈さでタフであった。 エルネストワと橘は、動きが落ちた骸天羅王に式と矢の連打を浴びせた。 それでも、骸天羅王は魔王のように立ちはだかり、白蛇の練力が遂に切れると、動きを回復して開拓者たちを次々となぎ倒していく。 「何てこと‥‥ここまで圧倒されるとは」 空は仲間たちに閃癒を掛けながら、骸天羅王を見つめた。 鳳華の七魔将と言うのは冗談ではないらしい。 「仕方ないどす、今回は撤退どす。初戦でうちらも策が足りなかったようどすな」 「逃げるのか? クカカ‥‥ならば去れ。この次は里へ攻撃を掛けてくれよう。龍安弘秀に伝えよ」 骸天羅王はそう言うと、腕を手繰り寄せて、瘴気が死人アヤカシとなって実体化していく。 龍安軍も数で勝る死人相手に疲弊し、後退を余儀なくされる。どうにか里への侵入は防いだが、骸天羅王の力を見せつけられた戦いであった。 |